ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
第一回放送――(1日目午前6時)
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第一回放送――(1日目午前6時) ◆EchanS1zhg
【0】
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
【1】
終わらせる為の始まりよりもうすぐ四半日。
人類最悪と名乗ったあの狐面の男はやはりか、または意外にと言うべきか、あの場所に座したまま、ただ傍観を続けていた。
固い床に一枚の座布団を敷き、その上に胡坐をかいて物語を読み逃すまいとじぃ……とそれを見続けている。
人類最悪と名乗ったあの狐面の男はやはりか、または意外にと言うべきか、あの場所に座したまま、ただ傍観を続けていた。
固い床に一枚の座布団を敷き、その上に胡坐をかいて物語を読み逃すまいとじぃ……とそれを見続けている。
彼の目の前には”箱”があった。
あの”箱”である。今現在、世界の端という文面を右往左往している登場人物達。彼、彼女達が最初に入っていた箱がそこにあった。
円を描いてぐるりと囲うように並べられていたそれは、今は向きを同じに横に10箱、縦に6箱と積み上げられ一面の壁となっている。
彼、彼女達が覗き込んでいたガラス面を前にし、そして今はそこに世界の端の上での彼、彼女達の姿を映し出していた。
あの”箱”である。今現在、世界の端という文面を右往左往している登場人物達。彼、彼女達が最初に入っていた箱がそこにあった。
円を描いてぐるりと囲うように並べられていたそれは、今は向きを同じに横に10箱、縦に6箱と積み上げられ一面の壁となっている。
彼、彼女達が覗き込んでいたガラス面を前にし、そして今はそこに世界の端の上での彼、彼女達の姿を映し出していた。
「――ふん」
マルチモニタとなった”箱”を前に狐面の男は息を漏らす。
映像を映し出すガラス面の内、8つ程がすでに登場人物を映すことを止め、ただの真っ暗なものへと戻っていた。
それは、そこに映っていた者の物語が潰えたという意味で、そして今また彼の目の前でひとつのガラス面が色を落としてしまう。
映像を映し出すガラス面の内、8つ程がすでに登場人物を映すことを止め、ただの真っ暗なものへと戻っていた。
それは、そこに映っていた者の物語が潰えたという意味で、そして今また彼の目の前でひとつのガラス面が色を落としてしまう。
「確かに多少は煽りはしたが、しかし俺は生き残れと言ったのであって、生き急げと言ったわけではないのだがな。
蜘蛛の糸――か。ふん。
最近の若い奴らは専らライトノベルばかりで芥川龍之介なんかは読まない、か。尤も、俺もあんなものを面白いとは思わんがね」
蜘蛛の糸――か。ふん。
最近の若い奴らは専らライトノベルばかりで芥川龍之介なんかは読まない、か。尤も、俺もあんなものを面白いとは思わんがね」
狐面の男はぐるりと登場人物達の生き様を見渡し、ふむと頷く。
悲しみに暮れる者。今は安堵している者。切羽詰っている者。そうでない者。すでに死んだ者を含めて、それ相応の物語がそこにあった。
悲しみに暮れる者。今は安堵している者。切羽詰っている者。そうでない者。すでに死んだ者を含めて、それ相応の物語がそこにあった。
「しかしまぁ、ただ読ませてもらっているだけの身としては退屈することもないが故にここは奴らに感謝すべきところか。
尤も、いつかは頁を捲り終える時が来るならば、その過程がどうであろうとも同じことではあるが――」
尤も、いつかは頁を捲り終える時が来るならば、その過程がどうであろうとも同じことではあるが――」
いくつかのガラス面がぱぁ、と明かりを強くする。世界の端に初の夜明けが来たのだ。
真白い朝日は登場人物達と世界をくまなく照らし、そしてそれはモニタを通して世界の外で傍観する狐面の男の元へと届く。
狐面の男は着物の袖を捲くると細いがしっかりした腕に巻かれた時計を確認した。
後、秒針が何周かしたら午前6時。つまり、これから彼が持つ唯一の仕事である放送の、その第一回目が始まるということである。
真白い朝日は登場人物達と世界をくまなく照らし、そしてそれはモニタを通して世界の外で傍観する狐面の男の元へと届く。
狐面の男は着物の袖を捲くると細いがしっかりした腕に巻かれた時計を確認した。
後、秒針が何周かしたら午前6時。つまり、これから彼が持つ唯一の仕事である放送の、その第一回目が始まるということである。
「約束を反故にする理由もなければ面倒というわけでもない。
ただ少しばかり億劫ではあるが、どうせやらねばならんことならどちらでも同し。となれば、やはりサボる理由はないか」
ただ少しばかり億劫ではあるが、どうせやらねばならんことならどちらでも同し。となれば、やはりサボる理由はないか」
狐面の男は久しぶりに立ち上がり、その長身痩躯にモニタの光を浴びる。
見れば、モニタの中の人物達も何人かは彼の放送を待ちわびているようだった。
見れば、モニタの中の人物達も何人かは彼の放送を待ちわびているようだった。
さて、では、丁度6時を迎えるということで狐面の男は放送を開始しようとし、それに、気がついた。
「……おいおい。初っ端から面倒なことになっちまいやがったな」
アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映す窓が消える間際の蝋燭の火のようにチラチラと、明滅し始めていた――。
【2】
『――聞こえているか? 言ったとおりに放送を開始する。
今回も俺は同じことを繰り返し話したりはしないので聞き逃しをしないようよく注意しておけよ。
今回も俺は同じことを繰り返し話したりはしないので聞き逃しをしないようよく注意しておけよ。
では、お待ちかねの耳を閉じたくなるような脱落者の発表をしよう――と思っていたが、
その前に少しだけ別の話をしてやろう。後でもかまわんが、そうなると聞いてもらえるかわからんから先にすることにする。
まぁこれもお前達にとっては意味の薄くない情報だ。内容の吟味は任せるが、取り合えず聞いておくといい。
その前に少しだけ別の話をしてやろう。後でもかまわんが、そうなると聞いてもらえるかわからんから先にすることにする。
まぁこれもお前達にとっては意味の薄くない情報だ。内容の吟味は任せるが、取り合えず聞いておくといい。
さて、その内容とはお前達が少なからず感じている違和感の正体について、だ。
お前達の中には、普段なら簡単にできることができない。または十全にできない。逆にできないはずのことができる。
などと感じている者がいることだろう。
魔法や、超能力や、忍法やら、果てには殺人技術やらとまぁ……そういう少し普通じゃあない部分に関してのことだ。
お前達の中には、普段なら簡単にできることができない。または十全にできない。逆にできないはずのことができる。
などと感じている者がいることだろう。
魔法や、超能力や、忍法やら、果てには殺人技術やらとまぁ……そういう少し普通じゃあない部分に関してのことだ。
出会った他人といくらか話したり、徒党を組みそれを仲間などと称して情報を交換し合っている者達にはすでに自明のことだと思うが、
この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない。
それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ。
だが、そのこと自体については今は深く考える必要はないだろう。
問題は、別々の世界。物語――文法。故に、そこに齟齬や矛盾が生じるということ。
この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない。
それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ。
だが、そのこと自体については今は深く考える必要はないだろう。
問題は、別々の世界。物語――文法。故に、そこに齟齬や矛盾が生じるということ。
解りやすく、この世界をひとつの水槽だと例えるならば、
今はその中に淡水魚と海水魚と、更には爬虫類やら両生類やらなんかを一緒くたに放り込んでいる状態と言える。
そのまま放置すれば、それぞれは滅茶苦茶な環境に耐えられず時間を置かずして死滅していまうだろう。
なので、この世界自体が、お前達全員がそれなりに生きてゆけるようにと調整をしているというわけだ。
海のものも、川のものも一緒に生きていられるようにと、な。
今はその中に淡水魚と海水魚と、更には爬虫類やら両生類やらなんかを一緒くたに放り込んでいる状態と言える。
そのまま放置すれば、それぞれは滅茶苦茶な環境に耐えられず時間を置かずして死滅していまうだろう。
なので、この世界自体が、お前達全員がそれなりに生きてゆけるようにと調整をしているというわけだ。
海のものも、川のものも一緒に生きていられるようにと、な。
その調整の結果。
特に能力の秀でた……つまりはここにいる中で”異端”と判断されたものはそれを抑えられるということになっている。
逆のパターンもありえるが、まぁそれらについては心当たりのある者が各自そうだと認識してくれ。
特に能力の秀でた……つまりはここにいる中で”異端”と判断されたものはそれを抑えられるということになっている。
逆のパターンもありえるが、まぁそれらについては心当たりのある者が各自そうだと認識してくれ。
実際にはそう単純なものではないが、大まかに言うと理屈としてはこんなところだ。
何が言いたいかと言うと、別に何が言いたいわけでもなんでもない。
ただ、お前達が無駄なことに時間を費やさないように口を滑らせているだけだ。
口を滑らすついでにもうひとつだけ言うと――
何が言いたいかと言うと、別に何が言いたいわけでもなんでもない。
ただ、お前達が無駄なことに時間を費やさないように口を滑らせているだけだ。
口を滑らすついでにもうひとつだけ言うと――
”海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り。”
――この言葉の解釈はお前達に任せることにしよう。
さて、少し喋りすぎたな。そろそろ脱落者を発表してやろう。
以上、8名に加えて、
この2人を加えて、計10名が今回の放送までの脱落者だ。
最後の2名については、気付いてはいると思うが配った名簿には載っていなかった登場人物だ。
必要だと思うのなら各自、名簿にその名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう。
最後の2名については、気付いてはいると思うが配った名簿には載っていなかった登場人物だ。
必要だと思うのなら各自、名簿にその名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう。
このように、脱落したならば他と同じように名前を呼ぶ。
逆に言えば、脱落するまでは名前は伏せておく。
自分がいることを知られたくない……などと言う者もいる、かも知れないからな。
逆に言えば、脱落するまでは名前は伏せておく。
自分がいることを知られたくない……などと言う者もいる、かも知れないからな。
では、今回の放送は以上だ。次回は6時間後の正午丁度に行う。
気が向いたらまた何か解説してやらんでもない。
何故なら、お前達が無為な事に時間を費やしているのは見ている方としてもつまらないからだ。
気が向いたらまた何か解説してやらんでもない。
何故なら、お前達が無為な事に時間を費やしているのは見ている方としてもつまらないからだ。
では、縁があったらまた会おう――』
【3】
放送を終え、狐面の男はどことも知れぬ場所で深く息をつく。
「全く、考えてもなかったことをベラベラと喋ることとなってしまった。とんだリップサービスだ」
狐面の男はひとつのモニタを忌々しげに見やる。
「”ギリギリ”……か。それを想定していなかったとは、俺としては考えられんケアレスミスだな。
とりあえず、今回はなんとか凌いだが……。
ふん。”気が向いたらまた何か解説してやらんでもない”か。全然、凌ぎきれてねぇじゃねーか……」
とりあえず、今回はなんとか凌いだが……。
ふん。”気が向いたらまた何か解説してやらんでもない”か。全然、凌ぎきれてねぇじゃねーか……」
アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映していた窓は、今は暗く静かに、もう何も映してはいなかった――。
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