ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

第二回放送――(1日目正午)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可

第二回放送――(1日目正午) ◆EchanS1zhg



 【0】


とにかくね、生きているのだからインチキをやっているのに違いないのさ。


 【1】


『――よぉ、予定通りの放送の時間だぜ。

 聞く聞かないは勿論手前等の好き勝手だ。
 尤も、聞くに聞けない聞くどころじゃないってやつもいるだろうが、俺としても勝手に喋らせてもらうぜ。
 くどいが言うのは一回きりで繰り返しはしない。聞く気のあるやつはよぉく集中しておくことだな。

 じゃあまずはお前らがお楽しみにしている俺からの解説といこうか。
 そんなものには興味がないってやつはしばらく耳を閉じているか、別の用事でも済ませておいてくれ。
 俺としてもこれは必須って訳じゃあないんだがね。
 そうすると言った手前、その次からもうしませんとなるとさすがに格好がつかないってもんだろう。

 なんで、ネタが切れるまではそうしてやるよ。今回はお前らが気になってしょうがない”壁”についてだ。



 壁……壁か。壁ねぇ。ふん、なるほど、確かにそれはお前らにとっては正しい比喩なのかもしれないな。
 場所と場所とを隔てるもの。堅く通じないもの。そして、乗り越え”られると思う”もの。
 確かにこのちっぽけな世界の端をぐるりと取り囲む”あれ”はお前らにとっては”壁”なのだろうさ。
 その認識にケチはつけないし、この先もどう思おうがそれは手前らそれぞれの勝手だ。

 じゃあ俺からの解説だぜ。俺は喋るだけ。お前らは聞くも聞かないも、聞いてどう解釈するも勝手にすればいい。

 まず、”あれ”は”壁”じゃあない。
 問題とすべきファクターとしてはそう認識することも間違っちゃあいないが、存在としては全くの異質だ。
 最初に俺は言ったよな。この世界の端は元よりの世界から切り離された一片の存在でしかないと。
 そこを踏まえれば”あれ”がどういったものかというのは簡単に想像できるんじゃないか?

 ふん。これで終わっちゃあ解説じゃあねぇな。
 そもそも解説はお前らを楽にする為のもの。ならば、もう少しはっきりと言ってやるのが親切だろう。

 あれは――《空白(ブランク)》だ。

 もう一度言うから想像してみな。
 一枚の折り紙をひとつの物語の世界とした場合、その端っこをちょいと切り離して作られたのがここだ。
 わかるか?
 壁という解釈は根本的な所で間違っているんだよ。壁があるんじゃない。あれは”世界がない”という状態なんだ。

 物語が途切れた先。故に《空白(ブランク)》。
 見た目には真っ黒だが、何も書き込まれていないが故にあれは真っ白のブランクなのさ。
 《落丁(ロストスペース)》とでも言い換えてもいい。俺の名づけが気に入らないなら自分で考えてもいいだろう。

 まぁ、例えるなら宇宙空間みたいなもんだ。
 それぞれの物語を惑星とした大宇宙の、物語と物語の間を埋める広大な暗黒空間。
 何でできているか。何が満ちているかなんてのは俺にもわかりやしない。
 エーテルかダークマターかなんて言っても、これは説明していないに等しいただの言葉だけだしな。

 なのでまぁ、一応言っておくとあの《空白(ブランク)》を突き抜けたところでその先には何もないぜ。
 いや、どこまでもどこまでも進めるって言うんなら、いつかはどこかしらの物語に辿りつくかも知れんが、
 それは冥王星から生身で地球まで宇宙遊泳を試みるようなもんだ。
 可能性を零と断じても問題ないぐらいの低確率。目的地を海王星に変えたとしてもそれは変わらん。
 そもそもとして宇宙空間と同じく人が生存し続けられる場所じゃねぇ。

 なのでまぁ、ズルをして出て行こうってのは諦めるのが無難だと俺は忠告してやろう。

 わざわざ自殺となんら変わらない挑戦を止めてやるほどの義理はないが、
 もしかしたら億兆分の一ぐらいの可能性で生きたままどこか別の物語に辿りつくってこともないとも断言できん。
 億が一に生存できるかもしれない自殺の方法。
 そんなものを探している奇矯なやつに心当たりがあるなら、まぁ気に留めておくぐらいはいいかも知れんな。



 さてと、じゃあ一席打ったところで脱落者の発表といこう。耳を塞いでたやつもここからはよぉく聞いとけよ。



 ”朧”
 ”土御門元春
 ”櫛枝実乃梨
 ”吉井明久
 ”朝比奈みくる
 ”薬師寺天膳
 ”ガウルン

 以上7名に加え、

 ”木下秀吉
 ”土屋康太
 ”白純里緒
 ”零崎人識

 更にこの4人を加えた計11名が今回の脱落者だ。
 例により最後の4人は名簿には名前の載っていなかったものであり、気になるならばメモを取っておくといいだろう。

 では今回の放送は以上だ。次はまた6時間後の午後6時に行う。
 すでに12時間が経過しているが、眠気のあるものは素直に寝ろと老婆心ながら忠告してやろう。
 丁度飯時でもある。腹が減っているやつは何か食えばいい。人間、食って寝なければ生きてゆけんからな。
 それは最大で3日だとしても省けるもんじゃあない。とれるものはとれる時にとるべくしてとるとよい。

 では、縁があったらまた会おう――』


 【2】


「ふん。とれるものはとれる時にとるべくしてとるとよい。まったくだな」

パチンと乾いた音を立て、人類最悪と名乗った狐面の男は手にしていた割り箸を開いた。
硬い床にざぶとんひとつと、その上に座っている彼の目の前にはいつの間にかに熱々のきつねうどんが用意されている。

一見何もなさそうなこの場所で、誰がどうやっていつの間に用意したのか、それは謎である。
狐面の男は知っているのかもしれないし、彼自身が用意したのかもしれないが、しかし彼が今それを語ることはないだろう。

ともかくとして、彼はつけ続けていたお面を至極あっさり、当たり前といえばそれは当然という風に外し、丼に箸を伸ばした。
そして手早くかきこんでしまうと、座っていたざぶとんを二つ折りにしてそれを枕に横になってしまう。
しばらくして聞こえてきたのは低い寝息。見られるのは壮年の男性の男前な寝顔。

寝てしまったけれど果たしてそれでいいのだろうか?

しかし、それを聞こうにも彼は寝てしまっているのであった。なので、いいも悪いもわからない。全くもってさっぱりと。





前:第一回放送――(1日目午前6時) 西東天 次:死線の寝室――(Access point)



ウィキ募集バナー