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おそうじのじかん/ウサギとブルマと握られた拳
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おそうじのじかん/ウサギとブルマと握られた拳 ◆02i16H59NY
――それは、無惨な有様だった。
薄桃色の消火剤で一面粉っぽい廊下の中に、見るからに毒々しい、赤黒い沼がある。
それは血だ。既に乾きかけ固まってしまった、血の海だ。
窓から差し込む、残酷なまでに明るい陽の光が、そこにあるものを仔細余さずくっきりと浮かび上がらせていた。
それは血だ。既に乾きかけ固まってしまった、血の海だ。
窓から差し込む、残酷なまでに明るい陽の光が、そこにあるものを仔細余さずくっきりと浮かび上がらせていた。
大きいものでバレーボールほど、小さいものでピンポン玉大の肉片が、無秩序に血溜まりに浮かんでいる。
少し離れた所に転がっている両手首のように、綺麗に原型を留めているものもある。
切り口からどろりと臓器らしきものを零れさせた、たぶん胴体の一部なんだろうなと思える部分もある。
べっとりと血に濡れた服の切れ端を張り付かせた、それだけではどこのパーツか分からない塊もある。
少し離れた所に転がっている両手首のように、綺麗に原型を留めているものもある。
切り口からどろりと臓器らしきものを零れさせた、たぶん胴体の一部なんだろうなと思える部分もある。
べっとりと血に濡れた服の切れ端を張り付かせた、それだけではどこのパーツか分からない塊もある。
目元に生前の印象を残した、頭部の一部。
その鼻の下にあるべき口はなく、ぺたん、と直接床に接してしまっている。まるで地面に穴を掘って埋まっているかの如き光景。
しかし、傍らに溢れている脳味噌らしき物体が、その無邪気な夢想を完全否定する。
骨の断面が見せる純白が、日差しにまぶしい。
呆れたことに、人間1人を丸ごとブツ切り肉の山にしたその暴力は、骨も服もまとめて切断しているようだった。
その鼻の下にあるべき口はなく、ぺたん、と直接床に接してしまっている。まるで地面に穴を掘って埋まっているかの如き光景。
しかし、傍らに溢れている脳味噌らしき物体が、その無邪気な夢想を完全否定する。
骨の断面が見せる純白が、日差しにまぶしい。
呆れたことに、人間1人を丸ごとブツ切り肉の山にしたその暴力は、骨も服もまとめて切断しているようだった。
人が通れそうなほどの穴を見せる、割れたままの窓。
そこかしこにキラキラと、鋭利なガラスの欠片が落ちている。
光っている中にガラスと違う質感のものがあるな、と思ってよくよく見たら、それは包丁だった。
無造作に転がる、赤い消火器。
そのホースは死んだ蛇のようにのたうち、ノズルの先端には一際濃い汚れが残されている。
窓と反対側の壁際には、なんと拳銃らしきものまで落ちている。
暗闇の中では見落としそうな黒鉄色の塊は、陽光溢れる今の時間帯、むしろ気付かずには済まない存在感を放っている。
そこかしこにキラキラと、鋭利なガラスの欠片が落ちている。
光っている中にガラスと違う質感のものがあるな、と思ってよくよく見たら、それは包丁だった。
無造作に転がる、赤い消火器。
そのホースは死んだ蛇のようにのたうち、ノズルの先端には一際濃い汚れが残されている。
窓と反対側の壁際には、なんと拳銃らしきものまで落ちている。
暗闇の中では見落としそうな黒鉄色の塊は、陽光溢れる今の時間帯、むしろ気付かずには済まない存在感を放っている。
いったい、ここで何が起こったのか。
誰と誰がどのように争って、どのような結末になったのか。
分かっているのは、既に決定的に「手遅れ」であるということだけ。
上条当麻は、やり場のない想いに拳を硬く握り締めることしかできない。
誰と誰がどのように争って、どのような結末になったのか。
分かっているのは、既に決定的に「手遅れ」であるということだけ。
上条当麻は、やり場のない想いに拳を硬く握り締めることしかできない。
「くそっ……! なんだって、こんなことっ……!」
上条は憤る。
覚悟がなかったわけではない。
先の放送では既に10人の名前が読み上げられていたし、その中には知った名前も含まれていた。
だから、死臭を感じて走り出した時には、半ばこの展開を予想していた。物言わぬ死者との対面は、予見できていた。
けれど……何故。
何故、ここまで死体を切り刻まなければならないのか。
明らかにオーバーキルな損傷。上条は血や肉片を踏まないよう注意しながら、その傍らに膝をつく。
覚悟がなかったわけではない。
先の放送では既に10人の名前が読み上げられていたし、その中には知った名前も含まれていた。
だから、死臭を感じて走り出した時には、半ばこの展開を予想していた。物言わぬ死者との対面は、予見できていた。
けれど……何故。
何故、ここまで死体を切り刻まなければならないのか。
明らかにオーバーキルな損傷。上条は血や肉片を踏まないよう注意しながら、その傍らに膝をつく。
「こいつは……ワイヤーによる切断、か?」
知らずのうちに、言葉が漏れた。
この蛮行、どうやら、極細の鋼線か何かを巻きつけた上で、思いっきり強く速く『引っ張った』結果によるものらしい。
至近距離で切断面を観察して、確信した。
いや、直感した、とでも言うべきか。
あるいはそれは、記憶喪失の上条当麻の、記憶を失う前に得ていた『知識』による判断だったのかもしれない。
ともかく、上条当麻には分かってしまった。
これは、ワイヤー、あるいはピアノ線のような糸による凶行だ。
つまり、この惨状を作り出した犯人は、糸、あるいはそれに類する『武器』を使う人物だということになる。
この蛮行、どうやら、極細の鋼線か何かを巻きつけた上で、思いっきり強く速く『引っ張った』結果によるものらしい。
至近距離で切断面を観察して、確信した。
いや、直感した、とでも言うべきか。
あるいはそれは、記憶喪失の上条当麻の、記憶を失う前に得ていた『知識』による判断だったのかもしれない。
ともかく、上条当麻には分かってしまった。
これは、ワイヤー、あるいはピアノ線のような糸による凶行だ。
つまり、この惨状を作り出した犯人は、糸、あるいはそれに類する『武器』を使う人物だということになる。
……そこまで察して、ようやく上条は気付く。
いまさらながらにして、思い至る。
この学校で出会った、2人の少女の存在。
こんな悲惨な現場、女の子に見せていいものではない。
気遣いが遅れたのは、上条自身も動揺していたせいか。
それでもすぐに2人を遠ざけようと、上条は振り返って、
いまさらながらにして、思い至る。
この学校で出会った、2人の少女の存在。
こんな悲惨な現場、女の子に見せていいものではない。
気遣いが遅れたのは、上条自身も動揺していたせいか。
それでもすぐに2人を遠ざけようと、上条は振り返って、
「……あれ?」
1人いない。
人の背中に隠れるようにしていた、そういえば刺激的過ぎる格好の、半裸の『喋れない女の子』が、いなくなっていた。
どこに行ったんだろう、とキョロキョロと見回していると、
人の背中に隠れるようにしていた、そういえば刺激的過ぎる格好の、半裸の『喋れない女の子』が、いなくなっていた。
どこに行ったんだろう、とキョロキョロと見回していると、
「……あんたさぁ」
「あんた、くさい。まだ臭う。ひどく臭う。ドブくさい。だから、いますぐどっか消えて」
「ちょっ……か、川嶋さんっ!? そりゃ流石に酷い言い草じゃありませんかぁっ!?」
「ちょっ……か、川嶋さんっ!? そりゃ流石に酷い言い草じゃありませんかぁっ!?」
あまりに平坦な声で告げられた、あまりに執拗であまりに唐突な『臭い』の指摘。
そりゃあ下水道突破してきた臭いはすぐには取れない。取れないけれども。
今はそれどころじゃないだろ、てか、なんでまたソレを蒸し返すんですか――と抗議しかけて、上条は気がついた。
気付かされてしまった。
そりゃあ下水道突破してきた臭いはすぐには取れない。取れないけれども。
今はそれどころじゃないだろ、てか、なんでまたソレを蒸し返すんですか――と抗議しかけて、上条は気がついた。
気付かされてしまった。
「こいつ……この、高須くんってさぁ。
こう見えて、すごい綺麗好きでさぁ」
こう見えて、すごい綺麗好きでさぁ」
川嶋亜美は、淡々と語る。
上条の方を振り返りもせず、悲しむでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく。
ただ静かに、語る。
過去形ではなく、現在形で、語る。
上条の方を振り返りもせず、悲しむでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく。
ただ静かに、語る。
過去形ではなく、現在形で、語る。
「なんかねー、男のくせに、料理から掃除から何から、家事万能でさ。
そのせいなのかこいつ、いつも掃除用具持ち歩いてんの。鞄の中に。
で、学校でもちょっと汚れてるとこ見つけると勝手に掃除始めて。回りの人間にも、手伝わせたり。
あたしも、何度か無理やり高須棒――あ、『高須棒』って、高須くんお手製の掃除道具ね――を、握らされてさァ。
亜美ちゃん、モデルの仕事あるから手ェ荒れるようなのダメだって言ってんのに。しつこくって」
「…………」
そのせいなのかこいつ、いつも掃除用具持ち歩いてんの。鞄の中に。
で、学校でもちょっと汚れてるとこ見つけると勝手に掃除始めて。回りの人間にも、手伝わせたり。
あたしも、何度か無理やり高須棒――あ、『高須棒』って、高須くんお手製の掃除道具ね――を、握らされてさァ。
亜美ちゃん、モデルの仕事あるから手ェ荒れるようなのダメだって言ってんのに。しつこくって」
「…………」
モデルなのかよ、と突っ込みかけて、上条は口をつぐむ。
そんな軽口を叩ける空気では、もはやなかった。
かける言葉が、見つからなかった。
亜美の唇が震えている。
泣き崩れることも、叫び散らすこともできない少女の唇だけが、音もなく、しかし見て分かるほどに、震えている。
そんな軽口を叩ける空気では、もはやなかった。
かける言葉が、見つからなかった。
亜美の唇が震えている。
泣き崩れることも、叫び散らすこともできない少女の唇だけが、音もなく、しかし見て分かるほどに、震えている。
「だから――あんたみたいなのが、上条くんみたいに汚い格好の奴が、ここに居ちゃだめ。いますぐ、どっか行って。
お願いだから……1人に、して」
「…………」
「ついでにさ。あんた、シャワーでも浴びてサッパリしてきたら?
まだ見てきてないけどさ。ここ学校なんだから、体育館かどっか、きっとその辺にあるでしょ。
自分じゃ鼻がバカになってるのかもしれないけど、あんた、ほんと臭うよ。10メートル先からでも臭いで分かっちゃうよ。
悪いこと言わないからさ。その臭い、なんとかしなよ。
でないと、きっとどっかで『高須くんみたいに』なっちゃうよ。別に、あたしの知ったこっちゃないけどさ」
お願いだから……1人に、して」
「…………」
「ついでにさ。あんた、シャワーでも浴びてサッパリしてきたら?
まだ見てきてないけどさ。ここ学校なんだから、体育館かどっか、きっとその辺にあるでしょ。
自分じゃ鼻がバカになってるのかもしれないけど、あんた、ほんと臭うよ。10メートル先からでも臭いで分かっちゃうよ。
悪いこと言わないからさ。その臭い、なんとかしなよ。
でないと、きっとどっかで『高須くんみたいに』なっちゃうよ。別に、あたしの知ったこっちゃないけどさ」
それでいて、こんなことを言うのだ。
自分自身もいっぱいいっぱいだろうに、上条の身を案じるようなことまで言うのだ。
臭いのせいで殺人者に不利な形で遭遇するかもしれない、だから手を打っておいた方がいいよ、と忠告までしてくるのだ。
自分自身もいっぱいいっぱいだろうに、上条の身を案じるようなことまで言うのだ。
臭いのせいで殺人者に不利な形で遭遇するかもしれない、だから手を打っておいた方がいいよ、と忠告までしてくるのだ。
「……クソッ!」
小さく吐き捨てたのは、己の無力感に対する怒り。
死体、という圧倒的な『現実(リアル)』を前に、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右手は何の役にも立たず。
『幻想殺し』の少年は、少女と、かつて少年だったモノをその場に残して、踵を返すことしかできない。
ただその場を立ち去ることで、少女と死者の対面を穢さぬようにすることしかできない。
死体、という圧倒的な『現実(リアル)』を前に、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右手は何の役にも立たず。
『幻想殺し』の少年は、少女と、かつて少年だったモノをその場に残して、踵を返すことしかできない。
ただその場を立ち去ることで、少女と死者の対面を穢さぬようにすることしかできない。
そのまま、上条は亜美の隣を通り過ぎ、来た道を引き返し、廊下の角を曲がろうとして――
ふと思いついて、立ち尽くす亜美の背中に声をかけた。
ふと思いついて、立ち尽くす亜美の背中に声をかけた。
「なあ、川嶋」
「……何よ」
「お前……それで、何するんだ。俺がシャワー浴びてる間に、お前……何するつもりなんだ?」
「……あんたさぁ、いったい何聞いてたのよ。決まってるでしょ、そんなこと」
「……何よ」
「お前……それで、何するんだ。俺がシャワー浴びてる間に、お前……何するつもりなんだ?」
「……あんたさぁ、いったい何聞いてたのよ。決まってるでしょ、そんなこと」
上条の問いに、亜美はふわりと髪をなびかせながら振り向いて。
儚げな微笑さえ浮かべて、静かに答えた。
儚げな微笑さえ浮かべて、静かに答えた。
「このままじゃ、高須くんに怒られちゃうもん。お掃除、しなくちゃね」
◇ ◇ ◇
もちろん、そのままシャワーを浴びにいった。
「……ちくしょうっ!」
体育館に付属した男子更衣室、そこに隣接したシャワールームの中。
裸でお湯の雨に打たれながら、上条当麻は固い壁に拳を叩きつける。
異能であれば神の奇跡だろうと打ち砕く、上条当麻の『幻想殺し』。
その力は、しかし、こういう状況においては完全に無力。
傷ついた女の子1人、支えることもできない。
裸でお湯の雨に打たれながら、上条当麻は固い壁に拳を叩きつける。
異能であれば神の奇跡だろうと打ち砕く、上条当麻の『幻想殺し』。
その力は、しかし、こういう状況においては完全に無力。
傷ついた女の子1人、支えることもできない。
こんなことをしている場合ではない。上条は思う。
こんなところで呑気にシャワーなど浴びてる場合では、本当はない。
川嶋亜美も、あのまま1人にしておいていいとは思えない。
今も1人で温泉に向かっているはずの千鳥かなめのことも心配だ。
死体発見とほぼ同時に姿をくらませた、裸の『喋れない女の子』のことも気になる。
未だ会えずにいる、インデックスや御坂美琴のような知り合いのことも考えなければならない。
本当なら、自分の身だしなみなんて後回しで、寸刻惜しんで走り出さなければならないはずだった。
こんなところで呑気にシャワーなど浴びてる場合では、本当はない。
川嶋亜美も、あのまま1人にしておいていいとは思えない。
今も1人で温泉に向かっているはずの千鳥かなめのことも心配だ。
死体発見とほぼ同時に姿をくらませた、裸の『喋れない女の子』のことも気になる。
未だ会えずにいる、インデックスや御坂美琴のような知り合いのことも考えなければならない。
本当なら、自分の身だしなみなんて後回しで、寸刻惜しんで走り出さなければならないはずだった。
けれども――
上条もまた、余裕がなかった。
修羅場なら何度も潜ってきた。命がけの戦いなら幾度も乗り越えてきた。三途の川を渡りかけたのも、1度や2度ではない。
だけど、今回のこれは。
頑張って上条が走って追いかけても、その拳の届かないところで事態が進行していく。
同時並列的に、人々が死んでいく。拳1つ、身1つではどうしようもない形で、悲劇が生まれ続けている。
『こいつさえ止めれば全てが終わる』ような、分かりやすい大ボスもない。あの狐面の男だって、そういうポジションではない。
いつものトラブルとはまったく勝手の異なる状況に、さしもの上条当麻も、心が折れそうになっていた。
完全に、空回っていた。
でも、だからこそ。
上条もまた、余裕がなかった。
修羅場なら何度も潜ってきた。命がけの戦いなら幾度も乗り越えてきた。三途の川を渡りかけたのも、1度や2度ではない。
だけど、今回のこれは。
頑張って上条が走って追いかけても、その拳の届かないところで事態が進行していく。
同時並列的に、人々が死んでいく。拳1つ、身1つではどうしようもない形で、悲劇が生まれ続けている。
『こいつさえ止めれば全てが終わる』ような、分かりやすい大ボスもない。あの狐面の男だって、そういうポジションではない。
いつものトラブルとはまったく勝手の異なる状況に、さしもの上条当麻も、心が折れそうになっていた。
完全に、空回っていた。
でも、だからこそ。
「けど……だからって、このまま落ち込んでいられるか!」
温かい滝に打たれながら、彼は両手で頬をパシッ、と叩く。
もう十分落ち込んだ。もう十分休息は取れた。障害物競走のような地下からの脱出で疲れきった筋肉も、多少はほぐれた。
シャワーを浴びてサッパリして、頭の中身もスッキリした。
トレードマークのツンツン頭は水に濡れてしおれているけど、心は逆に元気を取り戻している。
上条当麻は、改めてシャワーを勧めてくれた川嶋亜美に感謝する。
きっとあのまま走り続けていたら、上条はどこかつまらないところでつまづいていただろう。
それこそ、臭いで存在を察知され、一方的な不意打ちを受けていた可能性もある。
上条当麻はシャワーを止めると、傍らに引っ掛けてあったタオルを手に取る。
もう十分落ち込んだ。もう十分休息は取れた。障害物競走のような地下からの脱出で疲れきった筋肉も、多少はほぐれた。
シャワーを浴びてサッパリして、頭の中身もスッキリした。
トレードマークのツンツン頭は水に濡れてしおれているけど、心は逆に元気を取り戻している。
上条当麻は、改めてシャワーを勧めてくれた川嶋亜美に感謝する。
きっとあのまま走り続けていたら、上条はどこかつまらないところでつまづいていただろう。
それこそ、臭いで存在を察知され、一方的な不意打ちを受けていた可能性もある。
上条当麻はシャワーを止めると、傍らに引っ掛けてあったタオルを手に取る。
「けど……川嶋には、今はしてやれることがねぇな……」
その恩人・川嶋亜美は、しかし今は上条のことを必要としてはいない。
悔しいけれども、今はむしろ距離を置くことが求められている。故人と向き合う静かな時間を、邪魔しないことを望まれている。
ならば今すぐ、温泉に向かったであろう千鳥かなめとの合流を目指すべきか。
いや、それよりも。
悔しいけれども、今はむしろ距離を置くことが求められている。故人と向き合う静かな時間を、邪魔しないことを望まれている。
ならば今すぐ、温泉に向かったであろう千鳥かなめとの合流を目指すべきか。
いや、それよりも。
共通支給品のタオルでゴシゴシと身体を拭きながら、上条は更衣スペースに放り出しておいた自分の荷物に歩み寄る。
残念ながら、今まで着ていた制服は諦めるべきだろう。
せっかく身体が綺麗になったのに、悪臭をたっぷり吸った服を着ていては川嶋亜美の忠告も無駄になってしまう。
上条はデイパックの中から短パンと運動用のシャツ、つまり、体操着のセットを引っ張り出す。
彼の支給品の1つだ。これを幸いと見るか、それとも武器でもないものを引き当てた不幸を嘆くべきかは、少し迷うところである。
流石に下着と靴は換えがないからそのままだ。
この程度ならさほど臭わないはず。いや、そうであることを祈るしかない。
一通りの身支度を整えた上条は、そして、自分が着用した体操服と共に出てきたモノを握り締めて、呟いた。
残念ながら、今まで着ていた制服は諦めるべきだろう。
せっかく身体が綺麗になったのに、悪臭をたっぷり吸った服を着ていては川嶋亜美の忠告も無駄になってしまう。
上条はデイパックの中から短パンと運動用のシャツ、つまり、体操着のセットを引っ張り出す。
彼の支給品の1つだ。これを幸いと見るか、それとも武器でもないものを引き当てた不幸を嘆くべきかは、少し迷うところである。
流石に下着と靴は換えがないからそのままだ。
この程度ならさほど臭わないはず。いや、そうであることを祈るしかない。
一通りの身支度を整えた上条は、そして、自分が着用した体操服と共に出てきたモノを握り締めて、呟いた。
「そうだな……『あっち』の方も、放っておけないな」
◇ ◇ ◇
もちろん、そのまま掃除を開始した。
なにせ学校である。掃除用具の置かれた場所など、どこでもそう大差はない。大して迷うこともなかった。
用務員室も覗いてゴミ袋とゴム手袋も確保し、掃除用ロッカーからモップや雑巾、バケツなどを確保して。
川嶋亜美は、たった1人、廊下での大掃除を開始する。
用務員室も覗いてゴミ袋とゴム手袋も確保し、掃除用ロッカーからモップや雑巾、バケツなどを確保して。
川嶋亜美は、たった1人、廊下での大掃除を開始する。
大小さまざまの肉片は、手袋をした手で拾って、それ専用と決めたゴミ袋の中へ。
棺桶か何か、もっと相応しい入れ物があればよかったのだが、ここは仕方がない。
身体のどこの部分に当たるか見当もつかないパーツも多いのだ。
心の中で無礼を詫びつつ、片っ端からビニールの袋の中に放り込んでいく。
煮こごりのようにプルプルと固まりかけた血液も、取れるだけ取って同じ袋の中へ入れる。
棺桶か何か、もっと相応しい入れ物があればよかったのだが、ここは仕方がない。
身体のどこの部分に当たるか見当もつかないパーツも多いのだ。
心の中で無礼を詫びつつ、片っ端からビニールの袋の中に放り込んでいく。
煮こごりのようにプルプルと固まりかけた血液も、取れるだけ取って同じ袋の中へ入れる。
途中で気がついて、血に濡れていない髪の毛を一房、より分けて切り取っておく。
せめてもの形見にと考えた、高須竜児の遺髪だ。
丁寧にメモ用紙で折って畳んで包み込んで、『高須竜児』と名前を書いておく。
これはそれ以上汚さないよう、丁寧に荷物に仕舞っておく。
可能であれば、これはあの若い高須家のお母さんの所に届けてあげなくちゃ。
自分のするべき仕事にも思えなかったし、自分で届けることに拘るつもりはなかったが、亜美はそんなことを少しだけ思う。
せめてもの形見にと考えた、高須竜児の遺髪だ。
丁寧にメモ用紙で折って畳んで包み込んで、『高須竜児』と名前を書いておく。
これはそれ以上汚さないよう、丁寧に荷物に仕舞っておく。
可能であれば、これはあの若い高須家のお母さんの所に届けてあげなくちゃ。
自分のするべき仕事にも思えなかったし、自分で届けることに拘るつもりはなかったが、亜美はそんなことを少しだけ思う。
拾えるだけの肉片を拾い尽くすと、ゴミ袋3個分にもなった。
容積だけ考えたら無理やり1つの袋に詰めることもできたろうが、それではあまりに重たすぎる。袋の方が持たない。
万が一にも破けて零れないよう、全て袋を二重に重ねて、それから口を縛る。
これらの『かつて人間だったモノ』は、ちゃんと葬るときが来るまで、少し脇に置いておくことにする。
容積だけ考えたら無理やり1つの袋に詰めることもできたろうが、それではあまりに重たすぎる。袋の方が持たない。
万が一にも破けて零れないよう、全て袋を二重に重ねて、それから口を縛る。
これらの『かつて人間だったモノ』は、ちゃんと葬るときが来るまで、少し脇に置いておくことにする。
肉片は拾い終わったが、まだ廊下は汚れまくっている。
流れ出た血液、よく分からない体液、それに、撒き散らされた消火器の消火剤。割れたガラスも、そこかしこに。
まずは明らかな落し物からだ。
包丁と拳銃は拾って、表面の汚れを拭い去ってから自分の荷物の中に。
使う気はないが、それでも手元にあれば便利なこともあるかもしれない。
空っぽになった消火器は、少し迷った末に、軽く拭いた後に廊下の片隅に立てておく。
どこから持ってきたものか分からないけれど、まあ、それっぽく置いておけば見苦しくもないだろう。
割れたガラスの破片は、用務員室から持ってきた古新聞紙で包んで怪我しないように。
窓枠に中途半端に残された尖った破片も、丁寧に折り砕いて取り除いておく。
建物の外、屋外に飛び散ったガラスも、わざわざ外に回って同じように。
細かい破片は、ほうきとチリトリで丁寧に掃きとる。
幸い、眩しい陽の光に照らされて、小さなカケラでもキラキラ光って見落とすことはない。
流れ出た血液、よく分からない体液、それに、撒き散らされた消火器の消火剤。割れたガラスも、そこかしこに。
まずは明らかな落し物からだ。
包丁と拳銃は拾って、表面の汚れを拭い去ってから自分の荷物の中に。
使う気はないが、それでも手元にあれば便利なこともあるかもしれない。
空っぽになった消火器は、少し迷った末に、軽く拭いた後に廊下の片隅に立てておく。
どこから持ってきたものか分からないけれど、まあ、それっぽく置いておけば見苦しくもないだろう。
割れたガラスの破片は、用務員室から持ってきた古新聞紙で包んで怪我しないように。
窓枠に中途半端に残された尖った破片も、丁寧に折り砕いて取り除いておく。
建物の外、屋外に飛び散ったガラスも、わざわざ外に回って同じように。
細かい破片は、ほうきとチリトリで丁寧に掃きとる。
幸い、眩しい陽の光に照らされて、小さなカケラでもキラキラ光って見落とすことはない。
さあ、こうなると後は、消火剤と血の海だけだ。
お手洗いから水を汲んできて、モップを濡らして水拭きをしていく。
うっすらピンクの消火剤は、濡れモップの一拭きで驚くほど綺麗に取れる。
床にこびりついた血液は、これはかなりしつこい。何度も何度も、こそぎとるようにしてやる必要がある。
すぐにモップが汚く汚れていく。そのたびにモップをすすぎ、洗い、水を汲み直すことになった。
お手洗いから水を汲んできて、モップを濡らして水拭きをしていく。
うっすらピンクの消火剤は、濡れモップの一拭きで驚くほど綺麗に取れる。
床にこびりついた血液は、これはかなりしつこい。何度も何度も、こそぎとるようにしてやる必要がある。
すぐにモップが汚く汚れていく。そのたびにモップをすすぎ、洗い、水を汲み直すことになった。
それでも小一時間ほどの奮闘で、あたりはガラリとその様相を変えていた。
壁面に飛び散った消火剤も、濡れ雑巾で全部拭き取ったし。
よくよく目を凝らせば床に僅かに血の染みが残ってしまっているけれど、そうと思って見なければ分からない程度にはなった。
既にもう、知らない人が見たらここに人間1人分のミンチ肉が積み上げられていたとは思えない光景。
最後に亜美が取り出したのは、細く長い棒の先に布が輪ゴムで留められた奇妙な道具――
『高須棒』。
何の巡り合わせか、川嶋亜美の支給品の1つとして、10本1セットで用意されていた品である。
それを持って、丁寧に、拭き残しの汚れを拭い取る。
窓の桟、床と壁の継ぎ目の角、小さな凹凸の縁。
細かな汚れも許さない執拗さで、川嶋亜美は掃除に熱中する。
彼女らしくもなく、軽口ひとつ叩かず、黙々と目の前の仕事に集中する。
壁面に飛び散った消火剤も、濡れ雑巾で全部拭き取ったし。
よくよく目を凝らせば床に僅かに血の染みが残ってしまっているけれど、そうと思って見なければ分からない程度にはなった。
既にもう、知らない人が見たらここに人間1人分のミンチ肉が積み上げられていたとは思えない光景。
最後に亜美が取り出したのは、細く長い棒の先に布が輪ゴムで留められた奇妙な道具――
『高須棒』。
何の巡り合わせか、川嶋亜美の支給品の1つとして、10本1セットで用意されていた品である。
それを持って、丁寧に、拭き残しの汚れを拭い取る。
窓の桟、床と壁の継ぎ目の角、小さな凹凸の縁。
細かな汚れも許さない執拗さで、川嶋亜美は掃除に熱中する。
彼女らしくもなく、軽口ひとつ叩かず、黙々と目の前の仕事に集中する。
そうして、しばらく作業を続けて――とうとう、やることがなくなってしまった。
1枚だけすっぱりと抜けた『窓ガラスのない窓』以外に、痕跡らしい痕跡を残していない綺麗な廊下。
時間を確認すると、これだけきっちり掃除したというのに、大して経っていない。
あの学校に転校してくる前の川嶋亜美なら、ここまで手際よく片付けることはできなかったろう。
全てはあの、異様なまでの潔癖症の、極悪顔面魔王のせいだ。
逃げられる時には要領よく逃げ回っていた彼女だったが、知らないうちにかなりのお掃除スキルを仕込まれていたらしい。
全身を包む、心地よい疲労感。
気のせいか、外から流れ込む空気さえも爽やかに感じられる。
なるほど、彼はこの達成感のトリコになっていたのか。
亜美はいまさらながらにして故人の心を知る。確かにこれは、クセになってしまうかもしれない。
時間を確認すると、これだけきっちり掃除したというのに、大して経っていない。
あの学校に転校してくる前の川嶋亜美なら、ここまで手際よく片付けることはできなかったろう。
全てはあの、異様なまでの潔癖症の、極悪顔面魔王のせいだ。
逃げられる時には要領よく逃げ回っていた彼女だったが、知らないうちにかなりのお掃除スキルを仕込まれていたらしい。
全身を包む、心地よい疲労感。
気のせいか、外から流れ込む空気さえも爽やかに感じられる。
なるほど、彼はこの達成感のトリコになっていたのか。
亜美はいまさらながらにして故人の心を知る。確かにこれは、クセになってしまうかもしれない。
「ま、可愛い可愛い亜美ちゃんには、掃除のおばさんみたいな地味ぃ~な仕事は似合わないけどさ」
見るものもない無人の廊下で、亜美は小さくおどけて見せる。
こんな人を舐めきった発言をしても、廊下の片隅に積み上げた3つのゴミ袋が反応してくれないことが少しだけ寂しい。
そして亜美は、小さく溜息1つついて、その3分割された生ゴミ同然の高須竜児を、自分のデイパックの中に詰め込み始めた。
こんな人を舐めきった発言をしても、廊下の片隅に積み上げた3つのゴミ袋が反応してくれないことが少しだけ寂しい。
そして亜美は、小さく溜息1つついて、その3分割された生ゴミ同然の高須竜児を、自分のデイパックの中に詰め込み始めた。
◇ ◇ ◇
微かな風が屋上を吹き抜けて、姫路瑞希は思わず小さなくしゃみをした。
「……くちゅんっ」
学校の屋上。
お日様がぽかぽかと暖かく、膝を抱えて座っているとついつい眠気を催してしまう。
それでも、流石に今の彼女の格好を考えると、快適とまでは言い切れないようだ。
なにしろ、素っ裸の上に男物の上着を羽織っただけの姿。
こんな姿で誰に見られるかも分からぬ街の中を彷徨っていたのだ、と思うと、思わず赤面してしまう。
手にした2つのデイパックをギュッと抱え込むが、その程度で彼女の豊かな身体が隠しきれるものでもない。
お日様がぽかぽかと暖かく、膝を抱えて座っているとついつい眠気を催してしまう。
それでも、流石に今の彼女の格好を考えると、快適とまでは言い切れないようだ。
なにしろ、素っ裸の上に男物の上着を羽織っただけの姿。
こんな姿で誰に見られるかも分からぬ街の中を彷徨っていたのだ、と思うと、思わず赤面してしまう。
手にした2つのデイパックをギュッと抱え込むが、その程度で彼女の豊かな身体が隠しきれるものでもない。
姫路瑞希は、溜息をつく。
また、逃げ出してきてしまった。
遠目に無惨な死体を見つけた時点で、川嶋亜美と上条当麻をその場に残して逃げ出してきてしまった。
もともと、亜美と遭遇したのも、あの『死の気配』に怯えて逃げてのことである。
1人になるのは嫌だったが、それ以上に死体と向き合うのが怖かった。
自らの罪と罰とを思い出させる、物言わぬ死体を直視する勇気が持てなかった。
また、逃げ出してきてしまった。
遠目に無惨な死体を見つけた時点で、川嶋亜美と上条当麻をその場に残して逃げ出してきてしまった。
もともと、亜美と遭遇したのも、あの『死の気配』に怯えて逃げてのことである。
1人になるのは嫌だったが、それ以上に死体と向き合うのが怖かった。
自らの罪と罰とを思い出させる、物言わぬ死体を直視する勇気が持てなかった。
だからといって、逃げ出すアテがあったわけではない。
むしろ学校というこの空間は、姫路瑞希にとって数少ない過去を思い出せる場所だ。
制服も、靴も、下着さえも置いてきてしまった彼女にとって、この聖域は手放し難いものがある。
だから、上に向かって逃げた。階段を駆け上って、縦方向に距離を置こうとした。気がついたら、屋上まで来てしまっていた。
どことなく文月学園の屋上を思い出させる、何のヒネリもない学校の屋上。
学校の屋上なんて、どこの学校だろうと大して違いはない。階段室を背に座り込んで、ぼんやりと空を仰ぐ。
ともすれば階下に死体が転がってるだなんて忘れそうになる、嘘みたいに澄んだ青空。
むしろ学校というこの空間は、姫路瑞希にとって数少ない過去を思い出せる場所だ。
制服も、靴も、下着さえも置いてきてしまった彼女にとって、この聖域は手放し難いものがある。
だから、上に向かって逃げた。階段を駆け上って、縦方向に距離を置こうとした。気がついたら、屋上まで来てしまっていた。
どことなく文月学園の屋上を思い出させる、何のヒネリもない学校の屋上。
学校の屋上なんて、どこの学校だろうと大して違いはない。階段室を背に座り込んで、ぼんやりと空を仰ぐ。
ともすれば階下に死体が転がってるだなんて忘れそうになる、嘘みたいに澄んだ青空。
「…………」
いや。過去との絆は、他にも残されていたっけ。
瑞希はふと気がついて、己の左耳に手を伸ばす。
……そこに、ウサギの顔をかたどった、ファンシーな髪留めがあった。
大したものではないが、ちょっとした思い入れのある一品。
お風呂に入る時には外すのが常であったのだが、呆れたことに、温泉に入る際にはうっかり外すのを忘れていたらしい。
朝倉涼子にあんな目にあわされた時にも外れなかったのは、運が良かったと言わざるを得ない。
思い出してしまった彼女は、ギュッとウサギの髪留めを握り締めた。
瑞希はふと気がついて、己の左耳に手を伸ばす。
……そこに、ウサギの顔をかたどった、ファンシーな髪留めがあった。
大したものではないが、ちょっとした思い入れのある一品。
お風呂に入る時には外すのが常であったのだが、呆れたことに、温泉に入る際にはうっかり外すのを忘れていたらしい。
朝倉涼子にあんな目にあわされた時にも外れなかったのは、運が良かったと言わざるを得ない。
思い出してしまった彼女は、ギュッとウサギの髪留めを握り締めた。
辺りは静寂に包まれている。
恐怖の記憶に震えていた彼女も、手の中の髪留めの感触に、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。
太陽の日差しを浴びて温められたコンクリの床が、裸のお尻にほんのりと温かい。
恐怖の記憶に震えていた彼女も、手の中の髪留めの感触に、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。
太陽の日差しを浴びて温められたコンクリの床が、裸のお尻にほんのりと温かい。
これからどうしよう。姫路瑞希は途方に暮れる。
相変わらず声は出せないようだが、その知性までが損なわれたわけではない。
さっきまでは自分の格好に気を払う余裕もなかったが、それだって、落ち着いてくれば考えを巡らす余地もできる。
相変わらず声は出せないようだが、その知性までが損なわれたわけではない。
さっきまでは自分の格好に気を払う余裕もなかったが、それだって、落ち着いてくれば考えを巡らす余地もできる。
あの2人はどうしたのだろう。
いまさらながらに、姫路瑞希は考える。
まだ下にいるのだろうか。だとしたら、合流した方がいいのだろうか。
ああでも、その前に着るものを探さないと。僅かとはいえ冷静さが戻ってきた今、この格好は恥ずかしすぎる。
特にあのツンツン頭の男の子にはあまり見られたくはない。吉井明久にだってまだ見せたことはないのだ。
――そんなことを考えていた、矢先だった。
いまさらながらに、姫路瑞希は考える。
まだ下にいるのだろうか。だとしたら、合流した方がいいのだろうか。
ああでも、その前に着るものを探さないと。僅かとはいえ冷静さが戻ってきた今、この格好は恥ずかしすぎる。
特にあのツンツン頭の男の子にはあまり見られたくはない。吉井明久にだってまだ見せたことはないのだ。
――そんなことを考えていた、矢先だった。
「…………ッ!」
聞こえてきたのは、足音だった。
階段を駆け上がってくる、乱暴な足音。荒い息遣い。間違いなく、この屋上に向かって階段を駆け上がってくる者がいる。
瑞希は思わず身を硬くする。
袋小路の屋上からでは、もう逃げようにも逃げ場がない。フェンスを乗り越えて飛び降りるわけにもいかないだろう。
立ち上がることもできず、反射的にギュッと身を縮めて、目をつむる。
やがて足音と息遣いは、屋上に到達して――
階段を駆け上がってくる、乱暴な足音。荒い息遣い。間違いなく、この屋上に向かって階段を駆け上がってくる者がいる。
瑞希は思わず身を硬くする。
袋小路の屋上からでは、もう逃げようにも逃げ場がない。フェンスを乗り越えて飛び降りるわけにもいかないだろう。
立ち上がることもできず、反射的にギュッと身を縮めて、目をつむる。
やがて足音と息遣いは、屋上に到達して――
「――あー、その、なんだ」
聞こえてきた声は、確かについさっき聞いたものだった。
瑞希は顔を上げる。
そこに居たのは――
瑞希は顔を上げる。
そこに居たのは――
「常々この上条さんは紳士でありたいと思っているわけですが、それ以前に健康な男子であるわけでして。
差し出がましいかもしれませんが、ちょいとコイツを着て頂けるとありがたいかなー、なんて思ったり思わなかったり……
って、こっちの言葉は分かるんだよな? 喋れないだけだよな?」
差し出がましいかもしれませんが、ちょいとコイツを着て頂けるとありがたいかなー、なんて思ったり思わなかったり……
って、こっちの言葉は分かるんだよな? 喋れないだけだよな?」
そこに居たのは、顔を真っ赤に染め、困ったように視線を逸らしつつも、なにやら服らしきものをこちらに差し出している。
服装こそさっきと違っていたが、確か、上条当麻とか名乗った、男の子だった。
服装こそさっきと違っていたが、確か、上条当麻とか名乗った、男の子だった。
◇ ◇ ◇
ガラスの破片などをゴミ捨て場にきちんと分別して置いて来たら、もう、学校に留まっている理由がなくなってしまった。
川嶋亜美は、そのままあっさりと校門から外へ出る。
さっきの2人がどこに行ったのかは、亜美も知らない。
掃除が終わった頃、一度だけ体操着姿の上条当麻がやってきて、『喋れない女の子』を見なかったか、と尋ねてきたが。
知らないわよ、と首を振ってやったら、またどこかに向かって駆け出していってしまった。
なんとも騒々しい奴だと思う。
ついでにあのタフネスは何なのだろう。亜美が見かけるたびに走っているようだが、疲れないのだろうか。
まあ、亜美にとってはどうでもいいことだった。
さっきの2人がどこに行ったのかは、亜美も知らない。
掃除が終わった頃、一度だけ体操着姿の上条当麻がやってきて、『喋れない女の子』を見なかったか、と尋ねてきたが。
知らないわよ、と首を振ってやったら、またどこかに向かって駆け出していってしまった。
なんとも騒々しい奴だと思う。
ついでにあのタフネスは何なのだろう。亜美が見かけるたびに走っているようだが、疲れないのだろうか。
まあ、亜美にとってはどうでもいいことだった。
「祐作の方は、どーしよっかなぁ……。高須くんの件が一段落してからで、いいかなぁ……?」
上条当麻の話によれば、幼馴染である北村祐作は、ここからもそう遠くない所にある温泉で留守番をしていたはずだと言う。
探しにいけばすぐにでも『会える』のかもしれないが、なんとなく、焦る気にはならなかった。
探しにいけばすぐにでも『会える』のかもしれないが、なんとなく、焦る気にはならなかった。
亜美は肩から提げたデイパックに目を留める。
どういう仕組みなのか、容量も重量も無視できるこの鞄の中には、『高須竜児だったモノ』が入っている。
3つのゴミ袋に分けて、それぞれ袋2枚重ねの厳重な体制で、とりあえず収まっている。
さてこの『高須竜児だったモノ』、どうやって『お別れ』するべきか考えて、亜美は少し困ってしまった。
どういう仕組みなのか、容量も重量も無視できるこの鞄の中には、『高須竜児だったモノ』が入っている。
3つのゴミ袋に分けて、それぞれ袋2枚重ねの厳重な体制で、とりあえず収まっている。
さてこの『高須竜児だったモノ』、どうやって『お別れ』するべきか考えて、亜美は少し困ってしまった。
このまま、あの若い高須家のお母さんの所に持ち帰ってあげることも考えた。
……流石にそれは悪趣味が過ぎる気がして却下。あと、なんか腐っちゃいそうだし。遺髪があればそれで十分でしょう。
そこらの土を掘り返して、土葬に伏すことも考えた。
……五体満足揃った遺体ならそれでも良かったのだろうが、死体がこの有様では生ゴミの不法投棄みたいな絵になってしまう。
ちゃんときっちり火葬して、お骨を拾っていくことも考えた。
……並大抵の火力では、たぶん足りないだろう。仮に火葬場なんてものが見つかっても、素人の手に負える気がしない。
……流石にそれは悪趣味が過ぎる気がして却下。あと、なんか腐っちゃいそうだし。遺髪があればそれで十分でしょう。
そこらの土を掘り返して、土葬に伏すことも考えた。
……五体満足揃った遺体ならそれでも良かったのだろうが、死体がこの有様では生ゴミの不法投棄みたいな絵になってしまう。
ちゃんときっちり火葬して、お骨を拾っていくことも考えた。
……並大抵の火力では、たぶん足りないだろう。仮に火葬場なんてものが見つかっても、素人の手に負える気がしない。
いろいろなお葬式の方式を思い浮かべて、最終的に亜美が選んだのは。
水葬、という、少し馴染みの薄い単語だった。
水葬、という、少し馴染みの薄い単語だった。
遺体を海や川に流す。自然に還す。
自然界の食物連鎖の環の中に戻して、広く果てしない海とひとつになる。
思いついてみれば、なるほど、あの高須竜児には相応しい『見送り方』のようにも思える。
正式な作法もやり方も知らないから、やっぱりゴミの不法投棄みたいな格好になってしまうのかもしれない。
が、そこは大目に見てもらおう。
自然界の食物連鎖の環の中に戻して、広く果てしない海とひとつになる。
思いついてみれば、なるほど、あの高須竜児には相応しい『見送り方』のようにも思える。
正式な作法もやり方も知らないから、やっぱりゴミの不法投棄みたいな格好になってしまうのかもしれない。
が、そこは大目に見てもらおう。
「この亜美ちゃんが、わざわざやってあげようってんだからさー。むしろ、感謝しなさいよー。まったくさぁ」
呟いてみても、返事はない。
当たり前だ。ここで返事があったりしたら、逆に怖い。
それでもここであったらな、と思ってしまうのは、亜美のわがままなのだろうか。
当たり前だ。ここで返事があったりしたら、逆に怖い。
それでもここであったらな、と思ってしまうのは、亜美のわがままなのだろうか。
さて、それで高須竜児は水葬に伏すとして。
『これ』、どこにもって行こう。ここからだと近いのは海か。川まで行くのはかえって面倒だ。
一番近い水場と言えばお堀だが、しかしそこに捨てていく気にはなれない。
なんだか流れも淀んでいそうだし、自然に還る、という感じがしない。
『これ』、どこにもって行こう。ここからだと近いのは海か。川まで行くのはかえって面倒だ。
一番近い水場と言えばお堀だが、しかしそこに捨てていく気にはなれない。
なんだか流れも淀んでいそうだし、自然に還る、という感じがしない。
亜美はぼんやりと天を仰ぐ。
嘘くさいほどに晴れ上がった、青い空。
たったひとり、見るともなく空を見ながら。
嘘くさいほどに晴れ上がった、青い空。
たったひとり、見るともなく空を見ながら。
演技抜きの涙って意外と出ないもんなんだなあ、と、亜美はどこか他人事のように思っていたりするのだった。
【E-2/学校・校門前/午前】
【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】:健康
【装備】:グロック26(10+1/10)
【所持品】:デイパック、支給品一式×2、高須棒×10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪、高須竜児の遺体(ゴミ袋3つ分)
【思考】
基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
1:遺髪以外の高須竜児の遺体を、海か川に流して『水葬』する。
2:温泉にいたはず、という北村のことが気になる。このまま温泉に寄る? 高須竜児の水葬の後にする?
【状態】:健康
【装備】:グロック26(10+1/10)
【所持品】:デイパック、支給品一式×2、高須棒×10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪、高須竜児の遺体(ゴミ袋3つ分)
【思考】
基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
1:遺髪以外の高須竜児の遺体を、海か川に流して『水葬』する。
2:温泉にいたはず、という北村のことが気になる。このまま温泉に寄る? 高須竜児の水葬の後にする?
【備考】
学校の1階廊下にあった「高須竜児の死体」及びその痕跡は、綺麗サッパリ掃除され、ほとんど残っていません。
せいぜい、割られた窓ガラスの跡が抜けているだけです。
学校の1階廊下にあった「高須竜児の死体」及びその痕跡は、綺麗サッパリ掃除され、ほとんど残っていません。
せいぜい、割られた窓ガラスの跡が抜けているだけです。
【高須棒@とらドラ!】
川嶋亜美の最後の支給品。
高須竜児オリジナルの掃除用具。
棒?に布切れ?を輪ゴムで止めただけの簡単な道具だが、細かい隙間の掃除に驚くほどの威力を発揮する(らしい)。
布は何度も洗濯して繰り返し使用する。
高須竜児はこれを常時複数持ち歩き、学校の教室の窓の桟などの掃除に利用していた。
なお、布の方を握ればちょうど耳掻きとして適切な長さと太さであるらしいのだが、この使用法はいささか危険でもある。
10本セットで支給。
川嶋亜美の最後の支給品。
高須竜児オリジナルの掃除用具。
棒?に布切れ?を輪ゴムで止めただけの簡単な道具だが、細かい隙間の掃除に驚くほどの威力を発揮する(らしい)。
布は何度も洗濯して繰り返し使用する。
高須竜児はこれを常時複数持ち歩き、学校の教室の窓の桟などの掃除に利用していた。
なお、布の方を握ればちょうど耳掻きとして適切な長さと太さであるらしいのだが、この使用法はいささか危険でもある。
10本セットで支給。
◇ ◇ ◇
上条当麻が屋上にまで上がってきたのは、風に乗って、小さな小さなくしゃみが微かに聞こえてきたからだった。
川嶋亜美は、上条の助けを要する状態にはなかった。けれど、もう1人はそうとも限らない。
どこに行ったのかは皆目見当もつかなかったが、なにしろあの格好に裸足である。
まだ校内のどこかに留まっているという推測は、見事に当たった。
多少、無駄に走り回って時間を浪費したものの、こうして彼女を発見し、こうして『服』を手渡すことができていた。
川嶋亜美は、上条の助けを要する状態にはなかった。けれど、もう1人はそうとも限らない。
どこに行ったのかは皆目見当もつかなかったが、なにしろあの格好に裸足である。
まだ校内のどこかに留まっているという推測は、見事に当たった。
多少、無駄に走り回って時間を浪費したものの、こうして彼女を発見し、こうして『服』を手渡すことができていた。
上条当麻の支給品の1つ、『御崎高校の体操服セット』。
それはどういう意図だったのか、男子用と女子用、それぞれ一揃い入って支給品1つ、という扱いであるらしかった。
男女のどちらに渡っても問題のないように、という配慮だったのだろうか? 何にせよ、この場においては有難い。
上条が男物の短パンとシャツを着て、女物の方を『喋れない女の子』に渡すことができる。
問題は……。
それはどういう意図だったのか、男子用と女子用、それぞれ一揃い入って支給品1つ、という扱いであるらしかった。
男女のどちらに渡っても問題のないように、という配慮だったのだろうか? 何にせよ、この場においては有難い。
上条が男物の短パンとシャツを着て、女物の方を『喋れない女の子』に渡すことができる。
問題は……。
(ちょっ、これ、ハンパねぇっ! 紳士を名乗った以上は紳士を貫きたい上条さんですが何これ何だこれ何だか凄くデケぇ!?
しかもまがりなりにも服をゲットしたお陰かご本人ガード緩くなってねぇか? ってか絶対本人この破壊力に気付いてねぇぞ!
それになんだよおおいっ、今どきブルマなんて穿かせる学校残ってんのかよ!? 露出度的にはこれ完全にパンツじゃん!
こんなモン旧時代の遺物かコスプレかえっちぃ雑誌でしか見たことなかったけど、ヤバいってこれ! 犯罪だって!!)
「…………??」
しかもまがりなりにも服をゲットしたお陰かご本人ガード緩くなってねぇか? ってか絶対本人この破壊力に気付いてねぇぞ!
それになんだよおおいっ、今どきブルマなんて穿かせる学校残ってんのかよ!? 露出度的にはこれ完全にパンツじゃん!
こんなモン旧時代の遺物かコスプレかえっちぃ雑誌でしか見たことなかったけど、ヤバいってこれ! 犯罪だって!!)
「…………??」
体操服をちゃんと着終えた、たぶん同年代の少女が不思議そうな表情で見上げてくるが、上条としてはそれどころではない。
いやがおうにも、見てしまう。見えてしまう。
何か思い入れでもあるのか、体操着の上から、さっきまで素肌の上に羽織っていた男物の上着を着込んだ少女。
先ほどまでは申し訳なさが勝って直視を避けてきたその胸元は、凶悪なまでのボリュームでシャツを押し上げている。
正確なサイズなど見当もつかないが、上条の知り合いの女子たちと比べてみてもトップ5には入ってきそうな恐るべきサイズ。
もちろん上条に女性用の下着の持ち合わせなどあるはずもなく、つまりは今、彼女はノーブラということで……!
いやがおうにも、見てしまう。見えてしまう。
何か思い入れでもあるのか、体操着の上から、さっきまで素肌の上に羽織っていた男物の上着を着込んだ少女。
先ほどまでは申し訳なさが勝って直視を避けてきたその胸元は、凶悪なまでのボリュームでシャツを押し上げている。
正確なサイズなど見当もつかないが、上条の知り合いの女子たちと比べてみてもトップ5には入ってきそうな恐るべきサイズ。
もちろん上条に女性用の下着の持ち合わせなどあるはずもなく、つまりは今、彼女はノーブラということで……!
慌てて視線を逸らすも、今度は女性解放運動で歴史に名を残したブルマー女史の名を冠した穿き物が視線を吸い寄せる。
女性らしく適度な脂肪の乗った、抜けるように白い太ももと、鮮やかな赤色の布地のコントラストが目に眩しい。
もちろんこれも下着はなかったはず。つまり、やむを得ずの直穿き。そう気づいてしまえば、些細な陰影もまた違う意味を……!
女性らしく適度な脂肪の乗った、抜けるように白い太ももと、鮮やかな赤色の布地のコントラストが目に眩しい。
もちろんこれも下着はなかったはず。つまり、やむを得ずの直穿き。そう気づいてしまえば、些細な陰影もまた違う意味を……!
「ええい最終手段っ! 幻想殺し(イマジンブレイカー)目潰しっ!」
「っ!?」
「っ!?」
目の前の少女が息を飲む気配が聞こえるが、この緊急事態、構っている余裕はない。
あらゆる幻想(というか、この場合は妄想)をブチ壊す右手の2本指によるセルフ目潰しで、上条当麻はかろうじて己を保つ。
もちろん手加減した上での一撃。間違っても失明するようなダメージではない。
が、その瞬間的な痛みと一時的な視覚遮断によって、彼はなんとか冷静さを取り戻すことに成功した。
あらゆる幻想(というか、この場合は妄想)をブチ壊す右手の2本指によるセルフ目潰しで、上条当麻はかろうじて己を保つ。
もちろん手加減した上での一撃。間違っても失明するようなダメージではない。
が、その瞬間的な痛みと一時的な視覚遮断によって、彼はなんとか冷静さを取り戻すことに成功した。
「……あー、この場合は仕方なくのことであってですね。上条さんは別にマゾってわけではないのですよ? ホントですよ?」
「……ぅーっ??」
「まあいいや。それはそうとして……少し、聞きづらいこと聞いてもいいか?」
「…………」
「……ぅーっ??」
「まあいいや。それはそうとして……少し、聞きづらいこと聞いてもいいか?」
「…………」
ひとりボケコントから一転、急にシリアスに転じた上条は、真剣な表情でウサギの髪留めをつけた少女の顔を覗き込む。
少しだけ、怯えたような気配。迷っているのか、あてもなく彷徨う視線。
それでも、服を貰った恩を感じたのか、上条の真摯な問いかけに根負けしたのか。こくり、と頷いた。
上条は問う。
少しだけ、怯えたような気配。迷っているのか、あてもなく彷徨う視線。
それでも、服を貰った恩を感じたのか、上条の真摯な問いかけに根負けしたのか。こくり、と頷いた。
上条は問う。
「その『声』……喋れないってのは、昔っからなのか? 元々なのか?」
(フルフル)
「じゃあ……ここに来てから、なのか? ここ、つまり、このふざけたゲームが始まってから、なのか?)
(コクリ)
「ちょっと、お前の喉、見せてもらっていいか? 軽く触ってみてもいいか?」
(…………コクリ)
(フルフル)
「じゃあ……ここに来てから、なのか? ここ、つまり、このふざけたゲームが始まってから、なのか?)
(コクリ)
「ちょっと、お前の喉、見せてもらっていいか? 軽く触ってみてもいいか?」
(…………コクリ)
端的な質問に対して、首を振るか頷くかの簡単な『はい/いいえ』の回答。
それでも名も分からぬ少女の了承を取り付けると、上条当麻はそっと彼女の喉に触れた。
それでも名も分からぬ少女の了承を取り付けると、上条当麻はそっと彼女の喉に触れた。
「どうだ? 声、出せるようにならねーか?」
「…………ぅーっ?」
「……ダメか。『能力』か何かで声帯が麻痺してるわけでも、『声が出なくなる呪い』をかけられてるわけでもないってことか。
こりゃ、かなり厄介だな……」
「…………ぅーっ?」
「……ダメか。『能力』か何かで声帯が麻痺してるわけでも、『声が出なくなる呪い』をかけられてるわけでもないってことか。
こりゃ、かなり厄介だな……」
触れた時と同様、そっと『幻想殺し』の右手を離して、上条は思案する。
異能の力が相手なら、神様の奇跡だって打ち消してしまう『幻想殺し』。
何らかの異能による失語症だったとしたら、それが魔術であれ超能力であれ、今の接触で解除できているはずだ。
だが、まるで反応がないところを見ると、他の可能性を考えるしかない。
例えば、脳内に直接ダメージを受けて、言語野に損傷を負っただとか。
あるいは、精神的に大きなショックを受けたことによる、純粋な心因性の失語症だとか。
いずれにしても、何かの拍子に言葉を取り戻す可能性こそあれど、上条にしてやれることは何もない。
異能の力が相手なら、神様の奇跡だって打ち消してしまう『幻想殺し』。
何らかの異能による失語症だったとしたら、それが魔術であれ超能力であれ、今の接触で解除できているはずだ。
だが、まるで反応がないところを見ると、他の可能性を考えるしかない。
例えば、脳内に直接ダメージを受けて、言語野に損傷を負っただとか。
あるいは、精神的に大きなショックを受けたことによる、純粋な心因性の失語症だとか。
いずれにしても、何かの拍子に言葉を取り戻す可能性こそあれど、上条にしてやれることは何もない。
上条がしてやれることは――いや、今この場でするべきことは、失語症のケアなどではない。
ダメで元々だった『幻想殺し』による治療を放棄すると、彼は自分のデイパックを漁る。
ダメで元々だった『幻想殺し』による治療を放棄すると、彼は自分のデイパックを漁る。
「……ぁぅーっ?」
「ああ、悪い悪い。えーっとだな、とりあえず名前教えてくれ。あ、無理して喋ろうとしなくていいぜ。
ほれ、名簿。自分の名前、あるか? あるなら指差してみてくれ。そんならできるだろ?」
「…………ぅーっ」
「姫路、瑞希――か。姫路、って呼ばせてもらっていいか? よし」
「ああ、悪い悪い。えーっとだな、とりあえず名前教えてくれ。あ、無理して喋ろうとしなくていいぜ。
ほれ、名簿。自分の名前、あるか? あるなら指差してみてくれ。そんならできるだろ?」
「…………ぅーっ」
「姫路、瑞希――か。姫路、って呼ばせてもらっていいか? よし」
喋れない少女、改め、姫路瑞希に渡した名簿を返して貰いながら、上条当麻は軽く頷く。
ここまでは簡単な確認。
姫路瑞希が『ただ単に喋れないだけ』で『別に知性を失ってはいないこと』の確認に過ぎない。
上条は受け取った名簿を仕舞うと、今度はこれも共通支給品であるメモ帳と筆記用具を取り出した。
首を傾げる少女に、上条は言う。
『喋れなくても十全な意思の疎通が出来る方法』――筆談のための道具を差し出しながら、救いの手を、差し伸ばす。
ここまでは簡単な確認。
姫路瑞希が『ただ単に喋れないだけ』で『別に知性を失ってはいないこと』の確認に過ぎない。
上条は受け取った名簿を仕舞うと、今度はこれも共通支給品であるメモ帳と筆記用具を取り出した。
首を傾げる少女に、上条は言う。
『喋れなくても十全な意思の疎通が出来る方法』――筆談のための道具を差し出しながら、救いの手を、差し伸ばす。
「教えてくれ、姫路。どうすれば――お前を助けられる?」
姫路瑞希の表情が、驚きの色に染まる。
簡単なことだ。
年頃の女の子が、羞恥心すら忘れてあんな格好でうろつき回っていたら、『何かがあった』ことは容易に想像がつく。
『誰か』に『何か』をされたと見て、まず間違いはない。
あるいは、『誰か』に『何か』をしてしまったのか。
どちらにせよ、『それ』は並大抵のコトではなかったのだろう。ひょっとしたら、失語症も『そのせい』なのかもしれない。
危険を危険と察知する心すら擦り切れて、何もかもを放棄して、ただ彷徨っていただけなのだろう。
簡単なことだ。
年頃の女の子が、羞恥心すら忘れてあんな格好でうろつき回っていたら、『何かがあった』ことは容易に想像がつく。
『誰か』に『何か』をされたと見て、まず間違いはない。
あるいは、『誰か』に『何か』をしてしまったのか。
どちらにせよ、『それ』は並大抵のコトではなかったのだろう。ひょっとしたら、失語症も『そのせい』なのかもしれない。
危険を危険と察知する心すら擦り切れて、何もかもを放棄して、ただ彷徨っていただけなのだろう。
そう察してしまったら――もう、上条は堪らなくなってしまった。
姫路瑞希、この追い詰められた、しかし、手の届く距離にいる少女を放っていくことは、絶対にできなかった。
だから言う。
今日1日だけでも何度も無力感に握り締めてきた拳を、いまは無力感ではなく、確固たる意思の現れとして握り締める。
姫路瑞希、この追い詰められた、しかし、手の届く距離にいる少女を放っていくことは、絶対にできなかった。
だから言う。
今日1日だけでも何度も無力感に握り締めてきた拳を、いまは無力感ではなく、確固たる意思の現れとして握り締める。
「俺はバカだから、姫路が『言って』くれないとわかんねえ。
『読心能力者(サイコメトラー)』でもない『無能力(レベル0)』、筆談でも何でも、お前から『言って』くれないとわかんねえ。
けど――」
『読心能力者(サイコメトラー)』でもない『無能力(レベル0)』、筆談でも何でも、お前から『言って』くれないとわかんねえ。
けど――」
姫路瑞希が全てを諦めて自暴自棄になっているっていうのなら――その絶望(げんそう)をこそ、ブチ壊す!
【E-2/学校・屋上/午前】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)
【装備】:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品0~1)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、
上条当麻の学校の制服(ドブ臭いにおいつき)@とある魔術の禁書目録
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:目の前の喋れない子(姫路瑞希)となんとかコミュニケーションを取る。問題を抱えてるようなら助ける。
2:温泉に向かう。かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
4:教会下の墓地をもう一度探索したい
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)
【装備】:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品0~1)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、
上条当麻の学校の制服(ドブ臭いにおいつき)@とある魔術の禁書目録
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:目の前の喋れない子(姫路瑞希)となんとかコミュニケーションを取る。問題を抱えてるようなら助ける。
2:温泉に向かう。かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
4:教会下の墓地をもう一度探索したい
【備考】
※教会下の墓地に何かあると考えています。
※教会下の墓地に何かあると考えています。
【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着、ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣 (注:下着なし)
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1~2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:……上条のことを、少しは信じてもいいんだろうか
1:温泉には行きたくない
2:朝倉涼子に恐怖。
3:明久に会いたい
[状態]:左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着、ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣 (注:下着なし)
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1~2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:……上条のことを、少しは信じてもいいんだろうか
1:温泉には行きたくない
2:朝倉涼子に恐怖。
3:明久に会いたい
【御崎高校の体操服セット@灼眼のシャナ】
上条当麻の支給品。
何故か男女それぞれ1揃い(ジャージ抜き)がセットで支給されていた。
つまり、男子用の短パン、男子用サイズのシャツ、女子用のブルマ、女子用サイズのシャツ、である。
なお、女子は何故か今どきブルマ。色は赤。
上条当麻の支給品。
何故か男女それぞれ1揃い(ジャージ抜き)がセットで支給されていた。
つまり、男子用の短パン、男子用サイズのシャツ、女子用のブルマ、女子用サイズのシャツ、である。
なお、女子は何故か今どきブルマ。色は赤。
【上条当麻の学校の制服@とある魔術の禁書目録】
上条当麻がもともと着ていた服。
制服としてはかなりシンプル。むしろシャツの下に着込んでいたオレンジ色のTシャツ(たぶん私物)が印象的。
上条当麻がもともと着ていた服。
制服としてはかなりシンプル。むしろシャツの下に着込んでいたオレンジ色のTシャツ(たぶん私物)が印象的。
【ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣】
姫路瑞希がもともと身につけていたアクセサリー。
時と場合によって他の髪留めをつけていることもあるが、これは一番多くつけている白いウサギのデザインのもの。
本人にとっても思い入れがある模様。
お風呂に入る時には外すのが常のはずだが、どうやら温泉での入浴の際、外し忘れてつけっぱなしになっていたらしい。
結果的に、彼女が身につけている、唯一の「以前からの持ち物」となっている。
姫路瑞希がもともと身につけていたアクセサリー。
時と場合によって他の髪留めをつけていることもあるが、これは一番多くつけている白いウサギのデザインのもの。
本人にとっても思い入れがある模様。
お風呂に入る時には外すのが常のはずだが、どうやら温泉での入浴の際、外し忘れてつけっぱなしになっていたらしい。
結果的に、彼女が身につけている、唯一の「以前からの持ち物」となっている。
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