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お・ん・なビースト~一匹チワワの川嶋さん~

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お・ん・なビースト~一匹チワワの川嶋さん~ ◆LxH6hCs9JU



 方位磁石というものがこんなにも心強く思えたのは、初めてかもしれない。
 小学校時代には理科の授業やらなんやらで使っていた記憶があるものの、中学に上がってからは触る機会もなくなった。
 高校生になってからはなおさら、プライベートやモデルの活動においても、わざわざ自分で方位を調べたりはしない。

 方位磁石片手に、知らない土地の知らない町で、南にあるはずの海を目指す。
 住宅が犇めき合う道を、学校指定のローファーで踏み歩く。
 車道に車はなく、路地に通行人はなく、町に人気はない。
 学校から出発したから、ちょっとした校外学習の気分だった。

 川嶋亜美
 ティーン向け雑誌の表紙を飾ることもある彼女は、同年代の女の子には名の知れたモデルである。
 容姿やプロポーション、学生服の着こなし方、姿勢に歩き方にと、どこを見ても様になる、そんな女の子への歓声はない。
 同行者がいないからといってぶつぶつ独り言を呟くこともなく、手元の方位磁石で逐一進行方向を確認しながら、南へと歩く。

 初めは、川と海の、つまりは北と南の二択だった。
 自然に還す、という意味では川に流したってどうせ海に行き着くわけだし、と二択はすぐに一択になった。
 海のある南へ行こう。そこで『水葬』を済ませよう。亜美ちゃんの『おそうじ』は、とりあえずそれで完了としよう。
 歩きながらに思う、思いながらに歩く、わざわざ声に出す必要もない、川嶋亜美の思考。
 背負ったデイパックの中身に、わざわざ喋りかけることでもなかった。

 気兼ねなくおしゃべりできる相手は欲しいと言えば欲しいが、今はいらない。そんな感じ。
 トレイズ上条当麻みたいなデリカシーに欠ける男子ではなく、木原麻耶や香椎奈々子のような女子がいい。そんな感じ。
 いつもみたく尻尾振って愛想振りまいて仲良くなって……でもそれって億劫かも、とそんな感じで。

 川嶋亜美は、一人だった。
 川嶋亜美は亜美ちゃんではなく、川嶋亜美として一人でいることを望んだ。
 というか、今ばかりは亜美ちゃんではいられなかった。

 仕方ないよね、と心の中で吐き捨てる。
 トレイズを送り出してやったのも、それを止めなかったのも、川嶋亜美本人。
 上条当麻に同行を願わなかったのも、むしろ突き放したのも、川嶋亜美本人。
 一人でいることを選んだのも、川嶋亜美本人。だって、そのほうがよかったから。

 最後のお別れは、自分一人でやらなければいけないと思ったから。
 逢坂大河櫛枝実乃梨はこの場にはいないし、北村祐作は彼と一緒にいなくなってしまった。
 ならやっぱり自分一人でやるべきだ。知り合いと呼ぶにも微妙な人たちには、面倒も迷惑もかけられない。

 なんて、ただの自己満足なんだけどね。
 人を『送る』正しい作法なんてものは、勉強不足の亜美にはわからなかった。
 それは最良や最善がわからないという意味で、確固として思い描くイメージは、あるにはある。
 水葬のために海を目指しているのも、そんな自分の中にあるイメージに従ってのことだった。
 誰だって、薄暗い学校の中でバラバラにされたままでは嫌だろう。
 きれい好きの彼なら、なおのこと。
 そう思っただけ。


 ◇ ◇ ◇


 地図を見て、まさかそこが海岸になっているとは思わなかったが、まさか断崖絶壁になっているとも思っていなかった。
 崖の縁に立ち、視線を下へと落としてみる。落ちたらまず這い上がってはこれない。そのままあの世行きコースだった。
 直下の海をなぞるように、視線をついーっと前方へと向けてみると、例の『黒い壁』が聳えていた。
 それは夜中に確認したときよりもずっと鮮明に、それでいて険しく、絶望の黒一色を纏い君臨している。

 あれ、ちょっと待って、これ、どうやって流そう。
 問題なく済むと思った水葬は、直前で大きな問題に直面する。
 イメージとしてはもっとこう、水辺に遺体をそっと浮かべて、あとは流れのままに、という感じだった。
 ところがこのような断崖絶壁ではそうはいかない。
 崖下に下りられるような道も見当たらず、水面に近づくことは非常に困難だと思えた。

 となると、これはもう直接海に落とすか投げるかしか、方法がないのではないか。
 いやいやそんな不法投棄みたいな真似はどうなんだろう。
 ゴミ扱いする気など毛頭ないが、掃除の締めがそれではあまりにも彼に失礼だ。

 川嶋亜美は考える。

 デイパックから取り出したビニール袋三つ。一つ一つが結構な重さになっているそれを、じっと見る。
 こういうとき、掃除のプロフェッショナルたる彼ならどうするだろうか。
 これがちゃんとした清掃活動なら、そもそも海ではなくゴミ捨て場に持っていくのだろうが、言っても仕方がない。
 水葬は諦めて、やっぱり土葬にするというのはどうだろう。それもよくない。自分が納得できない。

 なにかいい案はないものか、と川嶋亜美はまたデイパックの中を漁り始める。
 出てきたもの。食料。水。地図。救急箱。名簿。メモ帳。筆記用具。懐中電灯。歯ブラシ。歯磨き粉。
 風呂桶。タオル。高須棒。コイン。本。包丁。遺髪。あとは手元に方位磁石と腕時計、それと拳銃。
 なにをどう活用したとしても、問題の解決には程遠い。知恵を借りようにも一人ではそれも成り立たない。
 孤立無援の八方塞がり。業界において、一人では仕事ができないのと同じように。

 同じにしたくはなかった。
 これくらい、一人でやらなきゃと思った。


 ◇ ◇ ◇


 たっぷり三十分ほど、そこで考え込んでいたことだと思う。
 土に埋めるにしても、川にそっと浮かべるにしても、海に放り投げるにしても、結局は不法投棄のようなものなのだ。
 ゴミはゴミ捨て場に。分別はきっちりと。なまものはなまもの、プラはプラ、ペットボトルはペットボトル。リサイクル精神。
 バラバラになってしまった人間のパーツを還すべき場所など、結局はどこにもない。
 これは単なる自己満足なのだから、完全に自己を満足させるためにはある程度の妥協も必要なんじゃないかと、妥協した。

 川嶋亜美は、遺体をこのまま海に落とすことに決めた。
 海との距離が遠かろうが近かろうが、行き着く先は結局海なのだ。変に格好つけたって仕様がない。
 まさかどこからともなくカモメが飛んできて、遺体が落下し切るより先に啄まれる、なんて心配もまあないだろう。
 なら問題なんてのはただの一問。水葬を担当する川嶋亜美が、納得できるか納得できないか。
 納得することこそが、この場合は正解なのだった。

 考えてみれば、この海にしたってあと数時間後には『消滅』してしまう。
 正確には約十八時間後。正確と言いつつ約を使っているあたり国語力が足りていないが、この場は気にしない。
 消滅というのはつまり、例の狐面の男、人類最悪が説明してくれたとおりの意味での、世界消滅のこと。
 実際にその消える瞬間、消えた場所を確認したわけではないが、おそらくは目の前の『黒い壁』と同じような感じになるのだろう。
 そのとき、生きている人間はともかくとして――海を漂う遺体は、どうなってしまうのだろうか。

 これは確かめようのない難問中の難問である。挑んで解けずに不貞腐れるつもりもなかった。
 テストはスルーして、自己のスタイルでもって行為に採点をする。欲しいのはやはり、単位ではなく自己満足。
 彼が向こう側からお礼を言いに来てくれるというならそれはそれでロマンチックな話だが、一方で怖くもある。
 水葬にしても火葬にしても土葬にしても、葬送なんてものは結局、残された者が気持ちに整理をつけるためのものだと思うから。

 唐突に深呼吸。
 いや、全然唐突なんかじゃない。
 答えを決めたら覚悟も決めた、というだけの話。

 臭いが漏れないよう、しっかりと口を縛ったゴミ袋が三つ分。
 その内の一つを慎重に開け、中に視線をやる。すぐに逸らしてしまった。
 変だ。片付けている最中は、それほど気にならなかったのに。感覚が麻痺していたのだろうか。
 袋の中から放たれる異臭が、鼻を曲げる。グロテスクな絵面が、目を焼く。心が折れそうになった。
 嘔吐感もないといえば嘘になるが――それ以上に、反吐が出るほどの弱音だとも思った。
 今ここで吐き出したりしたら、すべてが台無しになってしまう。

 まだ、なにも終わっちゃいない。

 強く心で唱え、ゴミ袋の口を開けたまま、しかし中身は溢れないよう、軽く捻ったところを手で掴む。
 相変わらず結構な重さだったが、地面を引き摺って袋が破れでもしたら惨事である。
 筋肉痛覚悟でこれを膝の高さまで持ち上げ、そのまま崖っぷちまで移動。
 反動をつけて海のほうへ投げ込めば、あとはまっさかさまという位置に立った。

 そして。
 袋の口を持ったまま、腕を軽く後ろに振り、反動をつけて前へ。
 振り子の要領で、後ろへ、前へ、ゆらり、ゆらりと。
 数回やってから、川嶋亜美はその手を離した。

 ――高須竜児の遺体が詰まったゴミ袋は、ばしゃーんという音を立てて海に消えた。


 ◇ ◇ ◇


 高須竜児の遺体が詰まったゴミ袋の三つ目は、ばしゃーんという音を立てて海に消えた。
 これでゼロ。もう残っていない。かつて高須竜児と呼ばれていたモノはすべて、自然に還っていった。
 唯一の例外は、家に持ち帰るつもりだった遺髪だけ。
 強いて言えば、あとは余韻と名残が少しばかり。

 崖の縁に乗り出し、顔を出す。漫画なんかだと、このまま崩れて落ちてしまいそうなシチュエーションだった。
 視線の先、海を揺らす波は穏やかで、遺体が詰まったゴミ袋は見当たらない。沈んでしまったのだろうか。
 きっとそうに違いない。仮に思い切って飛び込んでみたとして、もうそれを手にすることはできないのだろう。
 手放してしまったから。送るというのは、つまりそういうことだから。もう、お別れもおしまい。

 うん。
 おわり。

 さーて、これからどうしようかな。
 川嶋亜美はくるりと回って海に背を向ける。後方に聳える『黒い壁』からは、今もなお威圧感がひしひしと感じられた。
 あの『黒い壁』はなんなのだろう。壁というよりは境界と呼ぶべきものだと、トレイズはそんな風に言ってもいた。
 遺髪を高須家に持ち帰るともなれば、当然その手段についても考えなければならない。
 真っ先に思いつくのが、『黒い壁』を突破するという方法――なのだが、肝心の突破の方法が思いつかなかった。
 それって本末転倒じゃない。呆れつつも、川嶋亜美はデイパックを担いで歩き始める。考えるなら歩きながらだ。

 椅子取りゲームの趣旨に従い、最後の一人を目指すという手もあるにはある。
 誰にも害されないよう逃げて隠れて、最後にはちゃっかりと席についていればいいわけだ。
 別段、難しいこととは思えない。やってやれないことはないと思う。
 ただ、そうなると自分以外の人間は。この世界に組み込まれた、椅子を与えられなかった人間は――消えてしまう。
 たとえば、逢坂大河。たとえば、櫛枝実乃梨。たとえば、トレイズや上条当麻や名前も知らないあの女の子。
 エリアの消滅に巻き込まれて消えるか、高須竜児のように誰かに殺されて消えるか、その程度の違いはあるもののやっぱり消える。
 一以外の五十九が消えてしまう運命。なんて悲惨なお話だろう。今更ながらに思った。

 海との距離はどんどん遠ざかっていき、足元も土と草の地面からアスファルトに変わりつつあった。
 家に帰るという最終的な目標を定めたはいいが、そこにたどり着くまでの道程はどうしたものか、悩みながらに歩き続ける。
 遺髪を誰かに託す、という案も考えてはみたが、川嶋亜美の知り合いにそれほどの信頼を寄せられる人間はいなかった。
 いるとすれば、それは元から高須竜児のことを知っているあの二人なのだろうが、ここでは噂すら聞かない。
 今頃、どこでなにをしているのだろうか。あの手乗りタイガーと、高須竜児が恋していた女の子は。

 最後の椅子に着席する。そして帰る。これ自体はまあ悪くない。むしろ望むところと言える。
 だが、それを目指したりはできない。それを目指すということはつまり、他人を殺すということと一緒だから。
 腐ってもそんな人間にはなりたくなかった。いや、この場合は消滅してもそんな人間にはなりたくなかった、だろうか。
 だからまあ、隠れたり逃げたりはするだろうけど、誰かを傷つけたりはしないしできないだろう。
 そう思う。そうとしか思えないはずなのに、自分のことだというのに、ひどく曖昧な感じだった。

 で、結局どうする――という話になる。


 ◇ ◇ ◇


 そういえば、祐作が温泉にいるんだったっけ。正確には『いた』と言うべきなのだろうが。
 上条当麻の話によれば、北村祐作はそこで留守番をしていたという。
 上条たちが発ってから放送が始まるまでの数時間、温泉でなにがあったかはわからない。
 夜が開けた今でも温泉を訪ねるのは危険と言えるだろうし、学校のときのような凄惨な現場に遭遇しないとも限らない。
 そもそも川嶋亜美はモデルであって、葬儀屋でも死体処理係でもないのだ。
 わざわざ知人の死体を拝みに行く、というのも気が引ける。というか、嫌だった。

 では学校に戻るというのはどうだろう。
 上条と彼女はまだ校内に残っているだろうか。上条は温泉に戻る途中のようだったが、それもあの女の子しだいだろうか。
 なんともまあ、世話好きというかおせっかいというか、他人に行動を縛られるタイプの人間なようである。
 あの、上条当麻という少年は。

 おせっかいというのなら、トレイズも負けていない。 
 好きな女の子がいると公言する一方で、別の女の子にかまけるだなんて、最低のクズ野郎だ。
 しかもその相手が天下の川嶋亜美ともなれば、はっ、鼻で笑い飛ばすことができる。
 腹ただしいから、トレイズにはぜひともリリアーヌさんと再会してもらって、幸せになってもらいたい。
 その瞬間に居合わせることはできないだろうが、もし機会に恵まれたのならば、精一杯祝福してやるとしよう。

 いろいろ考えながら歩いてたどり着いた、さてここはどこだろう。

 あたりの風景は相変わらず住宅街だったが、学校から海を目指したルートでは見られなかった風景だ。
 それほど遠ざかってしまったわけではないと思うが、おおよその隣町くらいの認識で大丈夫だろう。
 だとすれば、温泉は東か北か――目印らしい建物がなにもないので、方位と直感だけが頼りになる。

 川嶋亜美は結局、温泉に行ってみることにした。

 ひょっとしたら、そこでまた大掃除をして、遺髪を確保して、海に遺体を流す――なんて仕事を得てしまうかもしれない。
 正直、二度目となるとかなり面倒くさいが、それは行き当たってしまってから考えるとしよう。
 いつまでもうだうだ町を練り歩くばかりではいられないのだ。
 川嶋亜美は多忙な身の上なのだから。

 …………いや、全然多忙なんかじゃない。

 仕事はないし、学校にも行けないし、一人きりだから誰かに媚びへつらったり気を使ったりする必要もない。
 そりゃ、友達が死んでしまってそれなりの精神的苦痛を味わってはいるが、癒す時間は十分にあった。
 どこかに篭ってしくしくと泣いていればそれでいい。それはそれでメンタルケアになる。
 しかし川嶋亜美のスタイルは、悲しんで癒すよりも食べて癒す。それが主流ではないだろうか。
 暴飲暴食はストレスの消化としてこの上なく効果的。反面、モデルとしての質を落とすのが悩みのタネだった。

 お菓子やらお茶やらばくばく食っちゃって飲んじゃって、満腹になったところで切なげに体重計に乗って、
 ナイーブ入ったところでさらにお菓子をかじりつつ、その日の夕飯は寒天スープ27キロカロリーに抑える。
 翌日はジムに通って、しこたま汗を流した帰りにジョギング、家についてからはテレビの前でビリー。
 女の子は肥えた豚ではいられないのだ。特にクラスの人気者は。特にモデルは。特に川嶋亜美は。

 炭水化物は朝と昼だけ。夜でも基本的には最大400キロカロリーまで。たらこスパなんてもってのほか。
 勉強は学生の勤めだが、体型維持は年頃の女の子の勤め。小デブちゃんをざまあと嘲笑えるのは、努力した者の特権。
 我慢に我慢を重ねての体脂肪率10パーセント台。服は7号。サイズはS。デニムは24インチ。この数字を死守。
 自他共に認める『かわいい亜美ちゃん』は、努力家なのだった。

 だけどもう、いいのではないか。リミッターを外してしまおうか。なにからなにまで喰らい尽くしてやろうか。
 デイパックの中を漁る。出てきた食料といえば、乾パン。あの、避難訓練のときなんかに配られるやつだった。
 こんなものでは腹の足しにもならないし、ぶっちゃけ美味しくない。口に入れるならやっぱりお菓子だろう。
 近くにコンビニでもないものだろうか。小走りに探してみるものの、見えるのは民家ばかりだった。
 いまどき近所にコンビニもない住宅地とか。そんなんどこの田舎だよ。ぼやきながら走り回る。
 足はだんだんと加速していって、いつの間にか全力疾走に。腹をすかせたチワワの激走だった。

 なんで。
 なんで亜美ちゃん、走ったりしてるんだろう。
 ストレス発散のため?
 カロリー消費のため?
 歩きっぱなしで、足、疲れてるってのに……。

「――うぉ」

 不意に。
 それは不意にきた。
 食べ物のことを考えたからだろうか。
 今までためてきたものが、はじけ飛んだ。
 抑えつけていた衝動が、暴れる。
 もう、川嶋亜美では制御し切れない。
 叫びという形で外に出る。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!」


 気がつけば。
 本当に、気がつけば。
 川嶋亜美は走っていった。
 あらん限りに叫びを町中に響かせて。
 走りながら叫びながら、泣いていた。


「ざっっっっけんなぁ――――――――――――っっっ!」


 なにか。
 だれか。
 どこか。
 別に対象があったわけではない。
 対象がないからこそ、こうなった。
 我慢には二種類あって、できる我慢と、できない我慢がある。
 訪れたのは、できないほうの我慢だった。

 ――そういえば。

 以前にも、似たようなことがあった。
 我慢が得意だったはずの川嶋亜美が、我慢しきれなくなったことがあった。
 思い出すのも不快なのでそのときのことについては触れないが、あれに近い感じだった。
 いやむしろ、これには我慢をする理由がないのだから、我慢なんてできなくて当然だったのかもしれない。

 もう方角とか行き先とかどうでもいい。
 今はただ、思うがままに叫んで走りたい。
 それでどこに行き着くかは、運試しだ。

 うん、きっと大丈夫。
 なんせ亜美ちゃん、日頃の行いがいいから。



【F-2/住宅街/昼】

【川嶋亜美@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:グロック26(10+1/10)
[所持品]:デイパック、支給品一式×2、高須棒×10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
      『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪
[思考]
基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
1:今はただ、なにも考えずに走り続けたい。
2:温泉にいたはず、という北村のことが気になる。落ち着いたら温泉の様子を見に行く。

※高須竜児の遺体(ゴミ袋3つ分)は、F-2の海に水葬されました。


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