海の見える街 ◆aAwQuafMA2
六角形の金属塊をかざすと、少しずつ痛みが癒えていく。
核鉄を脚にあてたまま窓にそっと肩をあずけ、グレーテルはガラスに映る顔に囁いた。
「綺麗ね、兄様」
鏡像の顔も一緒に口を動かし、微笑んで返事をする。
(綺麗だね、姉様)
グレーテルは満足そうに笑む。
窓の向こうに広がる海を指差し、言い聞かせるように喋る。
「綺麗ね、兄様」
鏡像の顔も一緒に口を動かし、微笑んで返事をする。
(綺麗だね、姉様)
グレーテルは満足そうに笑む。
窓の向こうに広がる海を指差し、言い聞かせるように喋る。
「兄様、見て。本当に、海って広かったんだわ――ほら。遠くまで青以外なにも見えないの。
ずっとずっと海なのよ。血とそっくりの匂いをさせて、ずっとずっと、続いてる――」
ずっとずっと海なのよ。血とそっくりの匂いをさせて、ずっとずっと、続いてる――」
グレーテルの今いるビルの最上階のバーは四方がガラス張りの窓に囲まれている洒落た造りで、
東と南には陽光に炙られて白く輝きかすむ市街地、グレーテルの見つめる西側には海が水平線まで一望できる。
南東には赤いタワーも見え、きっと夜になれば夜景も楽しめるのだろう。
しかし、見慣れたネオンの明かりより、グレーテルは太陽に照らされキラキラと輝く海をもっと見ていたかった。
初めて眺める本物の海を、もっと見ていたかった。
東と南には陽光に炙られて白く輝きかすむ市街地、グレーテルの見つめる西側には海が水平線まで一望できる。
南東には赤いタワーも見え、きっと夜になれば夜景も楽しめるのだろう。
しかし、見慣れたネオンの明かりより、グレーテルは太陽に照らされキラキラと輝く海をもっと見ていたかった。
初めて眺める本物の海を、もっと見ていたかった。
TVで見るより実際に見た海は明るく、広大で、寄せてはかえし泡立つ波はきらめいていた。
なにより、匂いがあった。そこが一番大きな違いだった。
なにより、匂いがあった。そこが一番大きな違いだった。
纏わる長髪をかき上げ、血の匂いと潮の匂いを纏わせた自分の体を抱きしめる。
「お風呂に入りたいけど、匂いが落ちてしまうのはもったいないわ」
うつむいた拍子にさらさらと膝のあたりに落ちる銀髪の先を爪繰りながら、グレーテルは呟いた。
「お風呂に入りたいけど、匂いが落ちてしまうのはもったいないわ」
うつむいた拍子にさらさらと膝のあたりに落ちる銀髪の先を爪繰りながら、グレーテルは呟いた。
核鉄の治癒効果が浸透しきって足が動くようになったのを確認し、今度は核鉄を腕に布で固定してから
グレーテルは目の前のテーブルに向き直った。
グレーテルは目の前のテーブルに向き直った。
艶をのせた黒い天板の上には、トイレや掃除用具棚から持ってきた何種類かの洗剤ボトル。
片手が動かしにくいのに少し眉を顰めながらグレーテルは水色のボトルの蓋を開け、
中の液体を少し残して捨てると、次に隣の霧吹き口の付いた白いボトルの中身をマドラーを使って静かに注ぎ入れる。
全体量で三分目まで入ったところで蓋をしっかり閉め、その上から布きれを幾重にも巻いて
ガス漏れがないように頑丈に補強する。
「うまくいくかしら?」
グレーテルは、出来上がった毒ガスボトルの腹を軽く指でつつく。
実際に作るのは初めてだが、もっと面白い遊びができるに違いない。
例えば、子供をだまして密室に誘い込み、このボトルをこっそり置いて外から鍵を閉めてしまうとか。
そうしたら閉じ込められた子供は、窯に押し込まれた魔女のように苦しんでのた打ち回って
それでも助からなくて涎と泡と血を吹いて泣いて――
「――――ああ、」
甘美な想像に、グレーテルは熱いため息を吐いて頬をうっとりと染めた。
片手が動かしにくいのに少し眉を顰めながらグレーテルは水色のボトルの蓋を開け、
中の液体を少し残して捨てると、次に隣の霧吹き口の付いた白いボトルの中身をマドラーを使って静かに注ぎ入れる。
全体量で三分目まで入ったところで蓋をしっかり閉め、その上から布きれを幾重にも巻いて
ガス漏れがないように頑丈に補強する。
「うまくいくかしら?」
グレーテルは、出来上がった毒ガスボトルの腹を軽く指でつつく。
実際に作るのは初めてだが、もっと面白い遊びができるに違いない。
例えば、子供をだまして密室に誘い込み、このボトルをこっそり置いて外から鍵を閉めてしまうとか。
そうしたら閉じ込められた子供は、窯に押し込まれた魔女のように苦しんでのた打ち回って
それでも助からなくて涎と泡と血を吹いて泣いて――
「――――ああ、」
甘美な想像に、グレーテルは熱いため息を吐いて頬をうっとりと染めた。
今ある狙撃銃の残弾数はわずか1。
どこかで銃弾が補充できれば良かったのだが、ここでは望みは薄そうだとグレーテルは悟っていた。
血と硝煙、どぶと路地の腐敗した匂いのまったくない「綺麗すぎる」この街では、
銃や銃弾がどこかに隠してある気がしないのだ。
もっとも、「兄様」ならあの大きな槍さえあれば十分に遊べる。
それでも、いや、それだからこそ、「姉様」だけ遊べなくなってしまうのは不公平だとグレーテルは思うのだ。
だからこのような即席の玩具も作ってみた。
準備しておくのに越したことはない。
――――「魔法使い」には、銃は効かないかもしれないから。
(あれは何だったのかしら)
金髪の少女が撃ってきた、謎の攻撃。銃弾でも刃物でも爆発物でもない、理解できない不可思議な、強さが予測出来ない力。
目を引く光でグレーテルの注意を惹きつけ、死角から打撃を当てた、一種の手品である可能性もあるが
その仕掛けがわからなければ、それはグレーテルにとって「魔法」と変わりない。
ならば、こちらも何かの対策が必要になるであろう。
毒ガスを封入したボトルは、未知の相手と対峙した際の保険でもあった。
どこかで銃弾が補充できれば良かったのだが、ここでは望みは薄そうだとグレーテルは悟っていた。
血と硝煙、どぶと路地の腐敗した匂いのまったくない「綺麗すぎる」この街では、
銃や銃弾がどこかに隠してある気がしないのだ。
もっとも、「兄様」ならあの大きな槍さえあれば十分に遊べる。
それでも、いや、それだからこそ、「姉様」だけ遊べなくなってしまうのは不公平だとグレーテルは思うのだ。
だからこのような即席の玩具も作ってみた。
準備しておくのに越したことはない。
――――「魔法使い」には、銃は効かないかもしれないから。
(あれは何だったのかしら)
金髪の少女が撃ってきた、謎の攻撃。銃弾でも刃物でも爆発物でもない、理解できない不可思議な、強さが予測出来ない力。
目を引く光でグレーテルの注意を惹きつけ、死角から打撃を当てた、一種の手品である可能性もあるが
その仕掛けがわからなければ、それはグレーテルにとって「魔法」と変わりない。
ならば、こちらも何かの対策が必要になるであろう。
毒ガスを封入したボトルは、未知の相手と対峙した際の保険でもあった。
ボトルを三つ作り終え、グレーテルは再び窓の外に目を向けなおす。
ふと気づく。海面の色が微妙に変化してきていることに。
少し前に天頂を経、いまは地平に向けて傾きつつある太陽が、徐々にその光の色と質を変え、海はそれを忠実に映し出しているのだ。
夕方になったら、きっとこの広い海は赤い光を映して血色に染まるのだろう。
素敵、素敵。見てみたい。はやく夕方が来ればいいのに。
ふと気づく。海面の色が微妙に変化してきていることに。
少し前に天頂を経、いまは地平に向けて傾きつつある太陽が、徐々にその光の色と質を変え、海はそれを忠実に映し出しているのだ。
夕方になったら、きっとこの広い海は赤い光を映して血色に染まるのだろう。
素敵、素敵。見てみたい。はやく夕方が来ればいいのに。
着たままの服に染み付いて、今も香る血と臓物の香り。
瞼の裏にちらちらと明滅する、日に輝く海の波の光り。
瞼の裏にちらちらと明滅する、日に輝く海の波の光り。
「これから、もっと楽しくなるのかしら?
――そう考えるだけで、ただ休んでいるのがこんなに辛いなんて」
――そう考えるだけで、ただ休んでいるのがこんなに辛いなんて」
銃身に頬ずりし、グレーテルは夢見るように目を瞑る。
瞼の裏には、夢想した夕暮れの海の照り返す赤光がちかちかと光る。
掌の中にはころころと愛しい軟らかさ二つ。
瞼の裏には、夢想した夕暮れの海の照り返す赤光がちかちかと光る。
掌の中にはころころと愛しい軟らかさ二つ。
次は何をして遊ぼうかしら。
誰と遊べるのかしら?
誰と遊べるのかしら?
【B-6/タワー向かいのビル・最上階のバー/1日目/午後】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、右腕損傷&1~2時間は動かない、全身に中度のダメージ
(左足の痺れは核鉄によって治癒。その他のダメージも核鉄で回復傾向にあり)
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(核鉄状態)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶(残り1本)、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル(3個)
[思考]:次は誰と遊べるかしら
基本行動方針:兄様(ヘンゼル)を探しつつ、効率よく「遊ぶ」
第一行動方針:放送まで休む
第二行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、右腕損傷&1~2時間は動かない、全身に中度のダメージ
(左足の痺れは核鉄によって治癒。その他のダメージも核鉄で回復傾向にあり)
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(核鉄状態)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶(残り1本)、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル(3個)
[思考]:次は誰と遊べるかしら
基本行動方針:兄様(ヘンゼル)を探しつつ、効率よく「遊ぶ」
第一行動方針:放送まで休む
第二行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
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