原点 ◆3k3x1UI5IA
……その薄暗く、粉っぽい、殺風景な倉庫の中に、それらは無造作に転がっていた。
何の変哲もない、ごくごくありふれた、数本の金属バット。
少年は、しばし動きを止める。
彼らしからぬ、何かを惜しむような、懐かしむような、微妙な表情。
何の変哲もない、ごくごくありふれた、数本の金属バット。
少年は、しばし動きを止める。
彼らしからぬ、何かを惜しむような、懐かしむような、微妙な表情。
「……思い出すね、姉様。『僕たち』の、『私たち』の『始まり』を」
ガラガラと音を立てて扉を開き、少年は体育倉庫に足を踏み入れる。
あたりにはハードルやら、跳び箱やら、ボールの入った籠やらが散在しているが、それらには目もくれず。
少年――名簿の上では『ヘンゼル』として登録されている――は、そしてそっと金属バットを拾い上げる。
ずしり、とした手ごたえ。冷たい手触り。
『あの時』と変わらぬ、金属の棒。
あたりにはハードルやら、跳び箱やら、ボールの入った籠やらが散在しているが、それらには目もくれず。
少年――名簿の上では『ヘンゼル』として登録されている――は、そしてそっと金属バットを拾い上げる。
ずしり、とした手ごたえ。冷たい手触り。
『あの時』と変わらぬ、金属の棒。
『あの時』から月日が流れ、『彼ら』は多くのものを失った。
涙を忘れた。恐怖を忘れた。過去を忘れた。空の青さを忘れ、太陽の眩しさを忘れた。
自分たちの本当の名前さえも忘れてしまった。
それらを失った代わりに、世界の『真理』を知った。何が起こっても笑っていられるようになった。
自ら受け入れ、堕ちていった暗黒の闇。
その『始まり』を思い出し、少年はうっとりとした笑みを浮かべる。
幼い顔には似つかわしくない、とろけるような、淫靡な微笑み。
少年は唄うように囁く。この場所・この時間に居ない、過去の『彼女』に向かって、優しく囁く。
涙を忘れた。恐怖を忘れた。過去を忘れた。空の青さを忘れ、太陽の眩しさを忘れた。
自分たちの本当の名前さえも忘れてしまった。
それらを失った代わりに、世界の『真理』を知った。何が起こっても笑っていられるようになった。
自ら受け入れ、堕ちていった暗黒の闇。
その『始まり』を思い出し、少年はうっとりとした笑みを浮かべる。
幼い顔には似つかわしくない、とろけるような、淫靡な微笑み。
少年は唄うように囁く。この場所・この時間に居ない、過去の『彼女』に向かって、優しく囁く。
「大丈夫だよ、姉様。これは『仕組み』なんだ。
殺して殺されてまた殺す、世界はそうして円環(リング)を紡ぐんだ」
殺して殺されてまた殺す、世界はそうして円環(リング)を紡ぐんだ」
『あの時』は、両手で構えるのがやっとだった。
ふらつきながら、泣きながら、拘束されている相手に振り下ろすのが精一杯だった。
そんな、子供の手にはいささか余るような凶器を、しかし少年は片手で構えて軽く素振りする。
重さ・長さ共に丁度いい。素振りの度に脇腹は痛むが、これなら戦える。
反対側の手にももう1本拾って持ち、二刀流の剣士のように構えてみる。……いけそうだ。
普段愛用していた2本の手斧のように手に馴染む。
『あの時』から――強要された『最初の人殺し』の時から比べれば、少年は確実に強くなっている。
だって……
ふらつきながら、泣きながら、拘束されている相手に振り下ろすのが精一杯だった。
そんな、子供の手にはいささか余るような凶器を、しかし少年は片手で構えて軽く素振りする。
重さ・長さ共に丁度いい。素振りの度に脇腹は痛むが、これなら戦える。
反対側の手にももう1本拾って持ち、二刀流の剣士のように構えてみる。……いけそうだ。
普段愛用していた2本の手斧のように手に馴染む。
『あの時』から――強要された『最初の人殺し』の時から比べれば、少年は確実に強くなっている。
だって……
「だって、僕らはこんなにも人を殺してきたんだもの。いっぱいいっぱい殺してきている。
だから……!」
だから……!」
* * *
逃走を決断したヘンゼルだったが、しかし一直線に逃げるほど彼は単純ではない。間抜けでもない。
逃げるに際し一番怖いのは、背中から狙撃されることだ。
『魔法使い』は、言ってみれば射程も性能も分からぬ銃火器を持っているようなもの。不安は尽きない。
森に逃げ込んでも、例えばロケット砲のような高威力の『魔法』があれば、森ごと吹き飛ばされるかもしれない。
次に怖いのは、複数の追っ手に追いつかれること。
バルキリースカートが万全で、全てのアームを「脚」として使えればかなりの速度が出せる。
けれど、今はそれは望めない。
生身の足で走ろうにも、折れた肋骨がかなり痛む。短距離ならともかく、長距離走は正直言って辛い。
逃げるに際し一番怖いのは、背中から狙撃されることだ。
『魔法使い』は、言ってみれば射程も性能も分からぬ銃火器を持っているようなもの。不安は尽きない。
森に逃げ込んでも、例えばロケット砲のような高威力の『魔法』があれば、森ごと吹き飛ばされるかもしれない。
次に怖いのは、複数の追っ手に追いつかれること。
バルキリースカートが万全で、全てのアームを「脚」として使えればかなりの速度が出せる。
けれど、今はそれは望めない。
生身の足で走ろうにも、折れた肋骨がかなり痛む。短距離ならともかく、長距離走は正直言って辛い。
だからヘンゼルは、あえて逆を突いた。
わざわざ派手に学校を囲む塀を飛び越えて見せた後、その陰に隠れて方向転換。
塀の陰に隠れてしばらく小走りに走って、別の所から、今度はこっそり塀の内側に戻る。
こうすれば敵たちとの直線距離は縮まってしまうが、相手の死角に隠れつつ、その動きを見ることができる。
わざわざ派手に学校を囲む塀を飛び越えて見せた後、その陰に隠れて方向転換。
塀の陰に隠れてしばらく小走りに走って、別の所から、今度はこっそり塀の内側に戻る。
こうすれば敵たちとの直線距離は縮まってしまうが、相手の死角に隠れつつ、その動きを見ることができる。
しばらく追っ手の有無を確認しようと、体育館の陰に身を寄せて、ついでに武器でもないかと覗いてみて……
そして、発見した体育倉庫。発見した金属バット。
本当は思い出などに浸っているヒマはない、と分かっているのだが、ついつい昔のことを思い出してしまう。
彼が『ヘンゼル』になった頃のことを思い出してしまう。
そして同時に、最愛の存在のことも。
そして、発見した体育倉庫。発見した金属バット。
本当は思い出などに浸っているヒマはない、と分かっているのだが、ついつい昔のことを思い出してしまう。
彼が『ヘンゼル』になった頃のことを思い出してしまう。
そして同時に、最愛の存在のことも。
* * *
「姉様はどうしているのかな。『魔法使い』相手じゃ姉様も勝手が違うだろうし、うまくやってればいいんだけど」
未だ会えない双子の片割れのことが気にはなるが、でも実のところ、さほど心配してはいない。
彼女の強さは誰よりも彼がよく知っている。彼女1人でも、簡単に殺されるとは思えない。
ただ、自分がそうであったように、未知の力持つ相手を『殺しきれない』こともあるのではないか――?
彼としては、そちらの心配の方が強い。
彼女の強さは誰よりも彼がよく知っている。彼女1人でも、簡単に殺されるとは思えない。
ただ、自分がそうであったように、未知の力持つ相手を『殺しきれない』こともあるのではないか――?
彼としては、そちらの心配の方が強い。
「この世界は、殺すか殺されるかしかないんだ。だから殺そう、もっと殺そう。僕らが殺そう」
自分に言い聞かせるように、少年は囁く。
体育倉庫の薄闇の中に、泣きながら別の子供にバットを振り下ろす、自分自身の幻影を一瞬だけ垣間見て――
少年は、それでも微笑む。どこか寂しさのある笑顔で、それでも微笑む。
体育倉庫の薄闇の中に、泣きながら別の子供にバットを振り下ろす、自分自身の幻影を一瞬だけ垣間見て――
少年は、それでも微笑む。どこか寂しさのある笑顔で、それでも微笑む。
「さて……これから、どうしようかな。あの『魔法使い』のお兄さんたちとは、まだ会いたくないんだけど」
どこかで非常ベルらしき音が鳴っている。逃げてきた校舎の方だ。
また何か状況の変化があったのだろうか?
いくら自分好みの武器を手に入れたと言っても、さっきの『魔法使い』たちに正面から遭遇するのは避けたい。
核鉄の治癒効果が働き始めているとはいえ、傷はまだ痛むし、バルキリースカートも損傷したままだ。
どうやら追っ手もないようだし、最初に考えていた通り、学校から離れて休息を取るのが一番だろう。
が――このベルの音が気にならないと言ったら、嘘になる。
もしも混乱が起きているなら、それに乗じれば楽に殺せるかもしれない。沢山殺せるかもしれない。
また何か状況の変化があったのだろうか?
いくら自分好みの武器を手に入れたと言っても、さっきの『魔法使い』たちに正面から遭遇するのは避けたい。
核鉄の治癒効果が働き始めているとはいえ、傷はまだ痛むし、バルキリースカートも損傷したままだ。
どうやら追っ手もないようだし、最初に考えていた通り、学校から離れて休息を取るのが一番だろう。
が――このベルの音が気にならないと言ったら、嘘になる。
もしも混乱が起きているなら、それに乗じれば楽に殺せるかもしれない。沢山殺せるかもしれない。
薄暗い倉庫の中、少し迷った彼は、そして……。
【D-4/学校・体育館体育倉庫/1日目/真昼】
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:中度の疲労。脇腹に裂傷及び肋骨数本を骨折(無茶をすれば動ける程度)
[装備]:金属バット×2@現実、天罰の杖@ドラクエⅤ、バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金、
[道具]:支給品一式、スタングレネード×7、殺虫剤@現実、
[思考]:久しぶりに昔のことを思い出した……。
第一行動方針:学校から離れて休息する?(バルキリースカートも回復させたい)
第ニ行動方針:学校校舎の非常ベルが気になる?
第三行動方針:『魔法使い』に関する情報を集める(『魔法』関係者は警戒する)。
基本行動方針:いろんな人と遊びつつ、適当に殺す。
[備考]:バルキリースカートの使用可能なアームは2本。
メロを魔法使いだと認識しました。
殺虫剤を「魔法封じスプレー禁超類」だと思っています(半信半疑)。
逃げるかどうか、逃げるとしたら逃走方向は次の書き手さんに任せます
【ヘンゼル@BLACK LAGOON】
[状態]:中度の疲労。脇腹に裂傷及び肋骨数本を骨折(無茶をすれば動ける程度)
[装備]:金属バット×2@現実、天罰の杖@ドラクエⅤ、バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金、
[道具]:支給品一式、スタングレネード×7、殺虫剤@現実、
[思考]:久しぶりに昔のことを思い出した……。
第一行動方針:学校から離れて休息する?(バルキリースカートも回復させたい)
第ニ行動方針:学校校舎の非常ベルが気になる?
第三行動方針:『魔法使い』に関する情報を集める(『魔法』関係者は警戒する)。
基本行動方針:いろんな人と遊びつつ、適当に殺す。
[備考]:バルキリースカートの使用可能なアームは2本。
メロを魔法使いだと認識しました。
殺虫剤を「魔法封じスプレー禁超類」だと思っています(半信半疑)。
逃げるかどうか、逃げるとしたら逃走方向は次の書き手さんに任せます
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