ブラコンと面倒臭さは感染する◆.6msC4hQo6



雷帝ゼオンは黒焦げた壁を指の腹で撫でる。痕跡はザケルの術に酷似していた。
仮にガッシュの仕業なら、新しいパートナーを見つけて、試し撃ちでもさせたのだろう。
ゼオンの魔本を読める参加者がいる可能性も高まった。
デュフォー以外を相方にするのは釈然としないが、弟を守るためなら仕方ない


「二階にも誰もいませんわね」

神代璃緒がつま先立ちで降りてきた。彼女は『命のリング』を装備している。
これは歩いたり、戦いに身を置くことたりすることで、装備者の生命力を徐々に回復させる代物だ。
だから、彼女は自分の意思で怪我をおして、ゼオンと同行したのである。

「どうなさるおつもり。弟くんが戻ってくるのを待つのかしら?」
「いや、先を急ぐ。周囲に魔力が感じられぬ以上、既に遠くへ発ったのだろう」

ゼオン達は昭和風のドアノブを回し、野比家を後にした。


彼とガッシュとのニアミスは、二つの不幸が重なったためである。
ひとつはガッシュが天空の塔にワープしている時に、この家を訪れたこと。

もうひとつは璃緒に二階の探索をさせたこと。
旅の扉の魔力は巧妙に隠されており、今のゼオンでは階下から察知するのは困難だった。
確かに、璃緒も巫女の能力を持っている。精神を集中すれば見つけられたかもしれない。
だが、学習机がワープ装置という発想は、のび太の知り合いでない限り浮かばないだろう。


◆ ◆ ◆


二人は気配を殺して黙々と歩き続ける。市街地を出て、草原地帯に足を踏み入れる。
ゼオンは何とはなしに額に手を当てて呟いた。

「やはり、野比家に書き置きは残さない方が良かったか。
 あの情報を元に成り済まされたら、弟が騙されてしまう」
「さあ、自分の好きになさればよろしくて?」

ローティーンの少女が少し意地悪い声で茶々を入れてきた。

「なんだ、まだ怒っているのか。表層的な情報しか探ってないと言ったはずだぞ」
「ええ、怒ってはいませんわ、微塵も。
 初対面の相手を警戒して、記憶を覗き見るのは理解できますし、

 乙女をマントで縛って逆さ吊りにするのも、
 力の差を見せつけて、主導権を握るには必要ですもの」

彼女の笑みは刺すように冷たく、何より目が笑っていない。
雷帝と呼ばれた少年は、璃緒を仲間に引き入れたものの、未だ信頼を勝ち取れていない。
璃緒は女王様気質であり、その精神を屈服させるよりも、肉体を殺す方がまだ楽に見える。



会話が途切れる。沈黙が続き、宵闇の草原で規則正しく靴が擦れる音だけがする。

ゼオンは璃緒と昔見たミドルティーンの少女を重ね合わせていた。
それはファウード内部で狙撃してきた魔物の子、チェリッシュだ。
彼女は電撃で調教される雌犬に過ぎなかったのに、ガッシュ達を守るため、こちらに反旗を翻した。
そして、彼の怒りに怯むことなく、軽蔑の眼差しを向けながら魔界へ送還された。

ならば、璃緒の気丈な振る舞いも、安っぽいプライドからではなく、
大切な人を守るための努力なのかもしれない。


今のゼオンは彼女の勇猛さを不快に感じない。むしろ、天晴れだと評価していた。
だからこそ、璃緒の力を十全に生かせないのを惜しいと感じた。

「女、オレはお前と―」
「私はあなたに伝え―」


唐突に二人の呼びかけがシンクロする。
そのまま言葉を続けたのは、ゼオンの方だ。

「女、オレはお前と関係を深めたい」

昔のゼオンなら、パートナー以外の他者の意思など意に介さなかったろう。
王を決める戦いでも、せいぜい拷問や洗脳装置で部下を作るくらいだった。
だが、彼は知ってしまった。強い絆は1たす1を10にも100にも変える奇跡を起こすと。
ガッシュも多くの友の協力があってはじめて、ゼオンに勝つことができたのだ。

「あら、直球のプロポーズね。私とデュエルで勝てたら考えてもよろしくてよ」

璃緒は顔色ひとつ変えず即答する。ちなみに、この場にデュエルデッキは彼女のものしかない。

「生憎、オレにデュエルモンスターズの経験はない。
 だから代わりに、オレが仕える王について語るとしよう」


彼の弟、ガッシュ・ベルが目指すのはやさしい王様。
それは強いられた争いを無くし、皆が幸せに暮らせる世界を作る王。
一見すれば、馬鹿げた子供の理想論。だが、彼ならば実現する力がある。

続けて、ガッシュの半生を語り、こう締めくくる。

「アイツはオレを憎しみと復讐の枷から解き放ってくれた。

 璃緒、オレを信じられなくても構わない。所詮、修羅を歩み続けた身だ。
 だが、ガッシュの夢と、オレがそれを信じていることは認めて欲しい」


少女は彼が語り終えるまで、じっと耳を傾けていた。
そして、共感するように頷き、これまで見せたことのない微笑みを浮かばせた。

「ゼオン君は本当に、弟くんのことが大好きなのですね」
「君づけで呼ぶな。それと、あいつは成長したとはいえ、まだまだ甘くて未熟だ。オレが支えてやらねばならん」

ゼオンは誇らしげに語る。表情が僅かに緩んでいるのが当人にも分かる。
弟にそのような感情を持てるとは、かつては思いもよらなかった。


「あなたたちの夢が叶うことをお祈りしますわ。
 それにしても、弟くんの話を聞けば聞くほど、九十九遊馬のことを思い出しますわね」

璃緒の焦点は、既にゼオンにはなく、まるで別の時間軸を見つめているようだった。

「それは興味深いな。お前にとって九十九遊馬はいったい何なのだ」

ゼオンは紫電の眼光をもって問いかける。

「記憶を覗いて粗方知っているのではなくて」
「所詮は流し読みだ。心の奥底の人物評までは知りようがない」


彼女は少し躊躇った後、深く息を吐いた。


「あなたが心を開いてくださったのに、私だけ黙っているのはフェアではありませんわね。

 九十九遊馬はデュエルの素人から、凌牙に食らいつくまでに成長したデュエリストですわ。
 そして、人を信じることを、限界を突破することを諦めない、かっとビング精神の持ち主。

 かつて凌牙を憎しみの心から救ってくれた掛け替えのない仲間で、

 今は私たちバリアンが倒すべき敵です」


アストラル世界はランクアップのため、不要なカオスをバリアン世界として分離した。
だが、様々な要因により、三つの世界は互いに接近し始めた。
このまま衝突すれば、力の衰えたアストラル世界は消滅する。
だから、アストラル世界はバリアン世界を消滅させようとしている。
遊馬はアストラルの側についている。つまり、バリアン人と敵同士なのだ。


少女のレッドルビーの瞳には、一切の偽りを見出せなかった。
ゼオンは腕を組み、周囲の気配を調べてから軽く目をつぶる。

「なるほどな。オレは他人の世界の事情に口出しする気はない。
 ただ、当面の敵はポーキーだ。島にいる間は、遊馬に手を出すのは止めて貰おうか」
「それは何とも言えませんわね」
「ふざけるつもりなら、今度はマントを釣り糸代わりにお前をサメの餌にするぞ」
「脅したところで無駄ですわ。だって、決めるのはバリアン七皇のリーダー、ナッシュですもの」


神代凌牙の正体、ナッシュは全てを背負う王。一旦守ると決めたものは絶対に見捨てない。
彼らを救うためなら、幾らでも堕ちる、どんなものでも切り捨てる。
けれども、捨てたことの痛みは残り続ける。だから、本音を隠して、不器用なことばかりする。
誰かが支えてやらないと追い詰められてしまう。

「私は何千という年を生き、死ぬことも経験しましたわ。
 だから、私の命はいつ失われても惜しくない。今度もあの人に傍に寄り添いたい」


璃緒は左手の指輪を愛おしそうに見つめる。
ゼオンは思う。全ては兄のため、行動原理は単純でまっすぐなのだろう。
ただ、それは危うくもある。最悪の場合、凌牙のために足手纏いを殺すとか言い出しかねない。
彼も邪魔な悪人は始末する気でいるが、善良な弱者を虐げるつもりはない。


「遊馬がガッシュと同じというなら、奴もバリアンとの共存を願っているのではないか」
「きっとそうでしょうね。でも、互いに分かり合えたとしても、戦いを避けられない時があるのよ」

璃緒は辛そうに顔を逸らす。ゼオンはその覚悟を無碍にはできない。
まして、殺すことなど美学に反する。だからこそ、彼女に対して苛立ちが募ってきた。
運命という名の呪いに雁字搦めにされ、バッドエンドの感傷に浸っているだけではないか。

実際、バリアンの悲劇は邪神ドンサウザンドの仕込みなのだが、今の彼らに知る術はない。


「ふん、面倒臭い女だ。それとも、王が面倒臭い男だから、部下までややこしくなっているのか」
「それは凌牙への侮辱と取ってよろしいのかしら」
「もしも、兄が貴様の語る以上の器でないのなら、バリアンは遅かれ早かれ、遊馬に負けるぞ」
「私はともかく、凌牙の悪口は許さない……あんた、凍らすよ」

少女の顔はあからさまに不機嫌になり、睨みつけてきた。

「その程度の気迫でオレが動じるとでも。甘く見られたものだな」

ゼオンは意に介さず、詰め寄って睨み返す。
璃緒は雷帝の覇気に圧倒され、無意識に一歩下がり、二歩目を意思で踏み止まる。

「あんたはヨソの世界に口出さないんじゃなかったの」

「貴様らがあまりに不甲斐ないのでな、気が変わった。
 生き残るが二者択一だったのは、お前達の知る世界に限った話であろう。
 ここは多くの世界の技術が集まっている。両方の世界を救う方法も見つかるかもしれん。

 この島に来たことを好機と思え。どこまでも足掻け、きっとその先に新たな道がある」


第三者に聞かれることも辞さず、内に籠る激情を全てぶつけた。
ゼオンがここまで感情的になったのは、遊馬にガッシュを投影しているせいだろうか。
彼にとって、バリアン人がかっとビングを反故にする様子は、実にもどかしかった。



彼女はしばらく押し黙っていた。しかし、急にゼオンを見据え、まっすぐな声で、

「ゼオン君、あなたは大切な仲間を自分の手で殺しても、元の自分のままでいられるかしら」

母親が子供を断崖に向かうのを押し止めるような、ぞっとするような警告の響きがあった。
彼女はバリアンの目的を果たすため、仲間の鉄男をデュエルで消滅させている。
あなたは私達と同じところに堕ちてはいけない。でなければ、ガッシュと共に歩けなくなると。

璃緒はあくまで平静で、思い付きの買い言葉には感じられなかった。
おそらくは彼女が初めから用意していた別れの言葉。
ゼオンが先に弟自慢をしなければ、早々に告げるつもりだったのだろう。

彼は事前に、自分が手を血に染めた修羅だとは伝えてある。
実際、デュフォーの復讐劇に参加して、人間のクズな研究員を屠っている。

にも関わらず、璃緒が初めから、あの離縁状を考えてたということは、
ゼオンがブラコンで、その弟が優しい魔物だと見抜いてたわけだ。

彼はそこまでヒントを与えたかと、頭の中で首をかしげる。
覗き損ねた知り合いに、自分に似た性格の知り合いでもいるのだろうか。
なぜか唐突に、口笛を吹きながらガラスを割って現れ、決めポーズで剣を宙に投げ、
弟の名前を絶叫しつつ、ホットチョコレートとキャラメルをプレゼントする男がイメージされた。

だが、とにもかくにも、彼女の手玉に取られていたのには大差がない。


「だから、君付けで呼ぶな。興が醒める」

ゼオンは舌打ちし、前に向き直って歩き始める。
そして、ガッシュなら、どうするだろうかと考える。
あれは相手がどんな悩みを抱えていようが、ストレートに訴える純粋さを持っていた。
現王の偉大さを改めて思い知らされる。


「おい、何処へ行くつもりだ」

彼は逆方向を歩こうとする璃緒を呼び止める。

「王の目指す道が違うなら、袂を分かつのが自然ではないかしら。
 自分のことは自分で守るから、心配なさらずともよろしくてよ」

彼女は城近くの海岸で拾ったバリアンスフィアキューブをちらつかせてみせる。


「オレはお前と関係を深めたいと言ったはずだぞ。貴重な戦力を逃がすつもりはない」

ゼオンはそう言って、少女と同じ方向に歩き続ける。

「私と一緒に歩けば、弟くんが悲しむわよ」

璃緒が戸惑いの後に出した言葉は、お嬢様口調でもヤンキー口調でもなく、
ただ、それまで一番、彼女にとって自然なものに思われた。


「オレの王はそこまで小さな器ではない。あれはオレすら許した男だぞ。

 お前は大きな勘違いをしている。オレはお前と変わらない、いや、もっと酷い。
 唯一の弟を、ただの誤解から憎んで殺そうとしたのだからな。
 その誤解さえ、すぐに確認できたのに、お膳立てされるまで気付けなかった。

 肝心なのは、別の道が拓けた時に、意地になって拒まないことだ。
 そのせいでオレは、ガッシュがタフでなければ取り返しのつかなくなるところだった」

ゼオンはその時のことを思い出し、無意識に胸をなでおろす。

「それまで、私は考えを変えないけど、いいの?」

璃緒は進路を変えず、そのまま進み続ける。

「それならそれで構わん。ただ、オレもオレの道を行くから、命の保証はできんがな」

「ありがとう」

璃緒は小さな声でささやいた。

「いや、そう思うなら、もっと素直になれ。オレまで面倒臭さに感染してしまいそうだ。
 まあ、いい。何としてもお前を、ついでに凌牙をガッシュに会わせてやる。それまで絶対に死ぬなよ」

ゼオンは面倒臭そうに目を細めた後、彼女と共に歩を進めた。

璃緒がゼオンの提案をどう受け止めたのかは分からない。
ただ、彼らの心境とは無関係に、世界は冷酷な現実を刻み続ける。
九十九遊馬もアストラルも命を落とし、ここの神代凌牙は自分の正体を未だに知らない。



【D5/深夜】

【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康
[装備]:ゼオンのマント@金色のガッシュ!!
[道具]:基本支給品一式、ゼオンの本@金色のガッシュ!!、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本方針:ポーキーを倒して殺し合いを打破する
1:神代璃緒と凌牙をガッシュに合わせる
2:魔本の新たなパートナーを見つける
3:ハイサーヴァントを名乗る痴女(メルトリリス)、新月零を警戒
4:危険な参加者は始末する

※原作終了後からの参戦です。
※自身にかけられた制限を理解しています。
※遊戯王ZEXALの世界観に関する知識を得ました。
※野比家にガッシュ宛の書き置きを残しました。

【神代璃緒@遊戯王ZEXAL】
[状態]:負傷(小)、疲労(小)
[装備]:決闘盤(璃緒)@遊戯王ZEXAL、命のリング@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁
[道具]:バリアンスフィアキューブ、基本支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本方針:兄(神代凌牙)の意思を最優先
1:殺し合いからの脱出
2:とりあえずゼオンと同行
3:バリアン世界を救う方法を探す。九十九遊馬に関しては……
4:ハイサーヴァントを名乗る痴女(メルトリリス)を警戒

※原作127話以降からの参戦です。詳しい時期は次の書き手の方にお任せします。
※No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ使用済みです。
※バリアンズスフィアキューブ無しでバリアルフォーゼ出来るかは不明です。
※海岸でバリアンズスフィアキューブを1つ拾いました。

【命のリング@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
装備すると、歩いたり戦闘中に時間が経過したりするとHPが回復する指輪。
魔界の扉を開くキーアイテムでもある。



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最終更新:2014年03月16日 15:50