セカンドジョーカー◆.6msC4hQo6
◆ ◆ ◆
「ああ、鬱陶しいなあ。これが人に殺しを頼むときの態度かい」
個性的な髪型の少年は、団地街の片隅で腰を屈め、籠るような声で悪態をついている。
「ボタンが押しづらくてストレスが溜まるよ。
素直にメモ帳にすればよいのに。なんでもハイテクにするのは考え物だね」
永沢君男はスマートフォンの操作に悪戦苦闘していた。
彼の時代の携帯端末は、電卓とトランシーバー位なので仕方がない。
神経質に指を動かして、真っ先に調べたのは参加者名簿。弟、太朗の名がないか探すためだ。
常識的に考えれば、幾ら残酷であっても、赤ん坊を殺しに参加させるとは思えない。
だが、あの老人は最低の人間、悪意の塊だから、そんなことも平気でするかもしれない。
永沢にとって弟は掛け替えのない存在だった。よく彼を背負ってあやしていたし、
子守唄を弾くために、クラスメイトの城ヶ崎姫子から玩具のピアノを譲って貰ったこともある。
だから、それが杞憂と分かった時、ゆっくり息を吐いて天を仰いだ。
人生の債務を全てやり遂げたような心地がする。
「藤木君は……やっぱりいたね」
無造作にスマートフォンを片づける。藤木茂のことは会場で見かけたので先に知っていた。
その時に抱いたのは、不幸の道連れがいた安心感。火事の時には満たされなかった感情である。
殺しを強要されるのは不快だけど、それだけはこの島に良かったと評価できる点だ。
ただ、この非日常の世界で、あの卑怯者と共闘するのはごめんである。
実際、藤木は蜂の大群を目にした時に、皆を見捨てて逃げたし、親友さえ肉の盾にして自分を守ろうとした。
肝心な時に友人に裏切られ、心も体も傷つくよりは、
初めから見知らぬ参加者と利害だけの関係を結び、キルカウントを稼ぐ方がマシである。
永沢は殺し合いに乗るつもりだった。
あの老人は殺し合いをしろと言ったものの、一人しか生き残れないとは言ってない。
もしかすると、ひととおりの惨劇に満足したら、気に入った参加者を解放してくれるかもしれない。
仲間を集めて巨大な悪に立ち向かい、ハッピーエンドを手に入れる。
確かに、魅力的な生き方である。だが、現実と物語は違う。ご都合主義は存在しない。
ポーキーは絶対に反逆されない自信があるから、馬鹿げたゲームを開いたはずだ。
第一、ただの子供に大きなことができるとは思えない。
「凡人はヒーローにはなれない、人生割り切りが肝心なのさ」
などと、少年はシニカルな結論に達して、ちょっとした優越感に浸る。
歪んだ希望を糧にランドセルを探ると、机サイズのプラスチック板が飛び出してきた。
描かれているのはスマートフォンの地図と同じ、ただ、あちこちに赤いバツ印が付いている。
現在地の近くにも1つマークがされており、小さな文字で具体的な見つけ方が書かれていた。
だが、肝心の中身が載っていない。武器の隠された宝物庫か、それとも敵から逃げるための秘密の通路か。
裏側を調べるためにひっくり返してみる。こちらは真っ白で無地だった。
ただ、隅っこにセロハンテープで8つ折りにされた小さな紙切れが貼り付けてある。
破かないようにゆっくりと開く、太文字でタイピングされた1行が飛び込んできた。
『君は選ばれた。頭の良い人間は殺し合いで生き残る権利がある』
彼の中の冷静な部分は告げる。これはテレビで見た詐欺師の手法に似ている。
おそらく、参加者全員に同じものを渡しているに違いない。
けれど、『頭の良い人間』という単語がこびりついて離れない。
これが勉強のできるという意味なら、成績中クラスの彼には手が負えないだろう。
けれども、世の中を正しく見ているという意味なら、自分にもお零れのチャンスがある。
色々思案している内に、いつの間にかバツ印の示す地点に立っていた。
車一台通れる程度の路地裏。両脇に5階建ての廃ビルが長屋のように並立していた。
ご丁寧にも、鋼鉄の塀で袋小路になっている。誰かに襲われたらひとたまりもない。
だが、折角ここまで来たのだ。パネルの解説に従うことにした。
不自然に貼られた学園祭のポスターを剥がすと、目立たないスライド式の蓋が顕になる。
ゆっくりと右に動かすと、カチリと言う音と共に外れ、赤いボタンが現れた。
思わず唾を飲み込む。中身が武器ならヨダレを拭いたくなるほどに欲しい。
ここに来る前に残りの支給品も確認したものの、全てハズレだった。
何もしなければじり貧になってしまう。せめて、藤木よりは長く生きたいのに。
だが、自分の直感が止めろと訴えかけてくる。
本当に押してよいのだろうか。ただの罠かもしれない。鉄玉でも転がってきたら、避けようがない。
――YOU! やっちゃいなYO!
「あっ…」
頭に響く衝動に突き動かされ、勢いよくボタンを押してしまった。
赤い突起は凹んだまま元に戻らなかった。ただ、それだけだった。
「なんだ、何も起こらないじ――」
言葉を遮るように、雷が落ちた音がする。されど、夜空は快晴だ。
続けて、二発目のカミナリ、なぜか斜め後ろの上空でガラスが割れる音がした。
これはイナズマではない、爆弾が爆発した音だ。
「うわあぁぁぁぁっ!」
永沢は大声で喚きながら、走り出した。
ポーキーに嵌められた、このままではビルに潰される。
脇道はないので、まっすぐに戻って抜け出すしかない。
そして、更に爆発。灰色の欠片が目の前で落下する。
ギリギリのところで衝突から免れ、目の前に高さ2メートル程の瓦礫の山ができた。
背中でTシャツが汗で滲んでいくのを感じる。これが刑事ドラマとは違う、現実の死の恐怖。
風が吹き付け、コンクリートの軋む音が聞こえる。
ひと思いに殺すつもりはないのか、単に運が良いのか、ビルはなかなか倒れない。
焦れば焦るほど、身体が動かくなくなる。それでも、なんとかコンクリートの山をよじ登った。
だが、その安堵が命取り。足をもつらせて、頭から転がり落ちる。
頭上に星が飛び、意識が暗転した。
「おい、しっかりしろ。このままじゃ、押し潰されちまうぞ」
たくましく頼もしい声が、呼んでいるような気がした。
◆ ◆ ◆
ジャイアンこと、
剛田武は叫びの元へ急いでいた。少し前まで爆発音も聞こえていた。
爆弾魔が非力な少年を追い回すシーンが脳裏に過ぎる。
本来なら、ひとりで厄介ごとに首を突っ込むのは自殺行為である。
確かに、彼はこれまで、のび太達と共に何度も世界を救ってきた。
だが、魔法少女でも、魔物でも、艦娘でも、バンカーでも、ましてデュエリストでもない。
セイレーンを黙らせるほどの歌唱力を除けば、ちょっと喧嘩の強いだけの小学六年生なのだ。
大人しく、タイムパトロールの救援でも待った方が良い。
幸いなことに、ドラえもんはこの場にいない。異変を察して連絡してくれるだろう。
ただ、今の彼には余裕があった。たとえば、羽織っている賢者のローブ。
高い防御力を誇り、攻撃呪文のダメージを軽減する効果もあるそうだ。
試しに、廃屋で見つけた金属片で力いっぱい引っ掻いたら、傷一つ付かなかった。
だから、よほどの怪物相手でない限り、犠牲者を助けて逃げるくらいはできるはず。
古びた街道を右折する。30mほど先に年下の男子がうつ伏せに倒れていた。
特に怪我をしているようには見えない。ぱっと見、爆弾魔の気配もない。
問題はそれ以外の状況だ。
片方のビルが傾き、もう片方のビルに寄りかかる体勢になっている。
そちらも爆発で脆くなっており、どこまで耐えられるか分からない。
「おい、しっかりしろ。このままじゃ、押し潰されちまうぞ」
その場で呼びかけたものの、返事はない。
「足をくじいたか。いや、気絶してんのか、くそっ」
頭よりも先に身体が動き出していた。彼は勇者でも、聖人でもなくむしろエゴイスト。
だが、それと同時に情に厚い男だ。川で溺れた友人を救うため、水に飛び込んだこともある。
無論、目の前にいる人間は見ず知らずの少年でしかない。
我武者羅に助けに行くには一押し足りない。
そのピースを埋め合わせたのは義憤だった。
彼はこれまで犯罪者にロボット、魔王や宇宙人など様々な敵と戦ってきた。
それでも、ポーキーほど悪趣味で、残忍な悪者はいなかった。
あの思い出しただけで殴りたくなるような不快な顔と喋り方、
殺し合いをニヤニヤ見ていると考えるとムカついてしょうがない。
「俺の目の黒いうちは、アイツの思い通りには、ぜってーにさせねえぞ」
大人が助けにが来るまでに、自分にもできることはある。
少年は吠える、残り25メートル、20メートルと一歩一歩確実に、距離を詰めていく。
だが、ここで予想外のことが起きた。新たな爆発、しかも三連続だ。
辛うじて均衡を保っていた建造物は、潰れたパイのように崩れ始めた。
◆ ◆ ◆
塵芥に鼻腔を刺激され、永沢は意識を取り戻す。
なぜか生きていた。痛みも頭のたんこぶ以外は特にない。
ゆっくりと目を開けると、予想通りの惨状が広がっていた。
二つの廃ビルは寄り添うように折れ、残骸の山と成り果てた。
砕けて縮んだ屋上越しに、ひとつ挟んだ通りの団地が見える。
永沢は唖然としたまま、瓦礫の段差を四足でよじ登る。
先ほどまでの細道は、吹き飛んだ天井や壁がでたらめに散乱している。
もしも、気絶した場所以外にいたなら、確実に命を落としていただろう。
「助けてくれたのはキミなのかい?」
ズボンのポケットに手を突っ込み、一枚のカードを取り出す。
『No.7 ラッキーストライフ』
イラストはトランプのジョーカーのように見える。
ただ、テキヤのパチモンの雰囲気がして仕方がない。種族、天使族は何の冗談だろうか。
材質はよくわからない、とりあえず仮面ライ○ーチップスの
おまけカードよりも丈夫そうだ。
『持ち主に強運をもたらすナンバーズ。
制限により、心身ともに弱い人間が殺しに乗っている間に限る』
初めに説明を読んだ時は、その場で破り捨てたい衝動に駆られたものだ。
漫画のマジシャンじゃないのだから、カードで殺しができるはずがない。
ピストルや爆弾のように役立つものが欲しかった。
そう思いつつも、手放せなかった。非常事態では迷信に縋りたくなるものだ。
この選択が生死を分けた。永沢は強運を手に入れたのだ。
地図のパネルの解説の『頭の良い人間』とは、『殺しに乗った人間』という意味なのだろう。
人生の勝ち組になれたような愉悦を覚え、したり顔で笑ってみる。
「ふふふ、これは上手く使えば完全犯罪になるね」
例のパネルに書かれた印はまだ沢山ある。
こっそりボタンを押して他人を巻き添えにし、自分だけ幸運で助かれば良い。
見掛けはこちらも被害者なのだから、上手く取り繕えば、ばれることはないだろう。
沸き上がる高揚感。紙吹雪に祝されながら、ダルマに目を入れる光景が浮かんだ。
そろそろ移動しよう視線を動かした時、興味深いものを見つけた。
ひしゃげた黒いランドセルが下に埋もれている。それでもまだ機能しているようだ。
タンス大の瓦礫を押してみたものの、小学生の腕では動かせそうにない。
一体、誰のものなのだろう。ふと、自分が気を失う瞬間を思い出す。
力強い声で男子が叫んでいた気がする。たぶん、こちらを心配してきてくれたのだろう。
「おーい、キミはもう死んでしまったのかい」
何とはなしに呼びかけてみる。だが、リアクションは帰ってこない。
恐らく、死んでしまったか、満身創痍で動けないか、閉じ込められたかしたのだろう。
どちらにせよ、この殺しあいで勝ち残るのは絶望的、善意の無駄遣いだ。
そいつは、どうしてことをしたんだろう。殺し合いの場だぞ。
助けても、裏切られるかもしれないんだぞ。実際、ボクは「乗っている」しね。
こんな場所で犬死しても地方新聞のお悔やみ欄にさえ載らないのに。
あまりにも、あまりにも、お人よし過ぎないか。
だから、独りぼっちのランドセルにこう呟いた。
「キミは本当にバカだね」
「誰が馬鹿だって?」
慌てて首を上げる。廃材の陰から、白いローブの少年が姿を現した。
身長は永沢よりも高く、体格もしっかりしている。顔のせいでまるでゴリラ怪人だ。
彼は鼻息を荒くしながら、大股で距離を詰めてくる。今日、肝が冷えたのは何度目だろうか。
「や、やあ……、こんばんは。そんなにイライラしてどうしたんだい」
「しらばっくれんなよ。お前が俺を騙して殺そうとしたのは分かっているんだ」
「無茶苦茶なこと吹っかけないでくれよ。いったいボクが何をしたって言うんだい」
「手を上げろ。逆らうと撃つぞ」
自称ジャイアンは意地悪そうな笑みを浮かべて、銃口をこちらに向けてくる。
怒気を全く隠そうとしない。裏切られたという気持ちで、可愛さ余って憎さ百倍なのか。
「その、ウルトラ警備隊の銃みたいなオモチャは」
「違うな。こいつは熱線銃つってな、ドラえもんの秘密道具だ」
「ドラえ……、どこかで聞いたことのあるような、無いような」
なぜか、記憶に靄がかかって思い出せない。餅が大好きな狸の妖怪だった気がする。
確か、車に轢かれて亡くなった時に、飼い主にダサいと言われて地縛霊になったとかなんとか。
「この銃のビームは、ビルだって一瞬で煙に変えちまうんだ。だからさっさと手を上げろ」
得意げに語る怪人ゴリラ男。永沢はどうしても聞きたいことが、つい口から出てしまう。
「蒸発させる…じゃあ、燃えたりはしないんだね」
「おう、そうだ。俺が命拾いしたのも、こいつで壁を吹き飛ばしたお陰だ。なんで、そんなことが気になるんだ」
「いや、ちょっとね」
どうやら、火事のトラウマは回避できそうだ。
ともかく、秘密道具と言う単語が気にかかる。この響きを持つアイテムに逆らってはいけない。
遠い遠い夢のような記憶に従って、渋々、両腕を持ち上げる。
「よし、それでいい。余計なマネはすんなよ」
「ねえ、もう一度聞くけど、言っている意味が分からないよ。ボクだって爆弾の被害者なんだ」
「『上手く使えば完全犯罪になるね』つってただろ。ジャイアン様の耳は欺けないぞ」
やっぱり聞いていたか。でも、自称ジャイアンが巻き込まれたのは、策略ではなく事故だ。
獲物の人格も分からないまま、相手の良心に訴えても意味がないだろう。
殺しに乗っているのは確かだが、勘違いされるのはイラッとする。
「ところで、あそこにあるランドセルはキミのものかい」
「ああそうだ。銃を取り出す時にうっかり手放しちまってな。
生きた人間を巻きこめなくて残念だったな」
「先にランドセルを拾えばよかったのに」
それか大声で周りに呼びかければよかった。初めはボクを助けに来たんだろう。
そうすれば、ボクが失言することなんてなかった。みんなキミのせいだ。
「周りが崩れそうだったから、先に安全な場所へ移動しただけだ」
そこで偶々、例のつぶやきを聞いて様子を見ていたのだと付け加える。
「じゃあ、今、瓦礫を銃で溶かせば、回収できるよね」
「おっと、その手には乗らないぞ。そうやって、時間を稼ぐつもりだな」
銃を構えたまま、もう片方の肩を回し、拳をちらつかせる。
残念ながら、永沢の話術は淡々とした正論や詭弁に特化されている。
だから、相手を煙に巻いたりその気にはさせられても、激昂中の相手には火に油を注ぐだけである。
ただ、ジャイアンはこの段階でも敵意はあっても殺意はなかった。
前歯の一本か二本、折られてしまうかもしれないが、それでチャラにしてくれるはず。
だが、この欲深そうな男は必ず要求してくる。
「まず、お前の持ってるものを全部よこせ。言い訳なら、ギタギタにした後で聞いてやる」
そう、幸運のカード、No.7が無事では済まない。
隠しても嘘をついても、小銭をカツアゲする要領で探り当てるだろう。
お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ、と彼に似た誰かが言ってた気がする。
それがなくとも、こちらを敵と認識しているなら、武装解除するのは当たり前である。
だが、あれは生命線だ、失う訳にはいかない。
あっ、今のボクって、他の人から見たら、すごい不幸だよね。
自業自得かもしれないけど、ぜんぜんハッピーじゃないな。
なにが、ラッキーストライフだ、強運をもたらすナンバーズだ。
さっき助かったのはただの偶然で、ホントは全部嘘っぱちじゃないか。
――YOU! やっちゃいなYO!
再び、不満を掻き消す軽妙な声。
ああ、そうだった。ボクはまだ覚悟が乏しかったね。
ツキが欲しければ、殺し合いに乗ってなきゃいけなかったんだ。
ちょっと気が緩んで、状況に流されてしまっていたよ。
ならば、すべきことはひとつ。
「くそ、何しやがる、玉ねぎ坊主!」
「幸運の女神とゴリラ男じゃ、どっちを選ぶか悩むまでもないね」
永沢はジャイアンの二の腕に飛びかかった。相手は反射的に引き金を引く。
光線が大気を貫き、背後のコンクリが蒸発する。刹那、ビルが更に倒壊し、地面が揺れる。
その振動でバランスを崩す大柄の少年、利き手のグリップが僅かに緩くなる。
幸運にも、永沢は素早く熱線銃を奪い取り、四角い顎に突きつけた。
「フフフ、形勢逆転だね」
「くそっ、年下のチビのくせに生意気な」
「喧嘩の勝ち負けを決めるのは体重じゃなくて、運命力さ」
相手の額から脂汗が流れている。憎しみで心を満たして、なんとか死の恐怖を逸らしているようだ。
一方、こちらは力が漲ってきて気分がいい。今なら、どんなことをしても成功する気がする。
殺しに乗ると言うのは、手当たり次第、襲い掛かれという意味だけではないだろう。
利用するだけ利用して、役に立たなくなったら始末しても良いはずだ。
ポーキーとかいう老人は悪趣味だから、その方が喜ぶに違いない。
「そうだ、キミになら、あの役に立たない道具を使えるね」
永沢は銃を向けたまま、ランドセルから、孫悟空の緊箍児に似た輪っかを取り出した。
「キミにはこれを付けて貰うよ」
「そ、それは……風の子バンド!」
ジャイアンの顔は真っ青になる。
「あ、知ってるんだ。キミの知識には利用価値がありそうだ。良かったね、命拾いしたね」
「そ、そうだ、知ってるぞ。効き目は3時間しかないぞ。俺に使っちゃ、勿体ないだろ」
「説明書見たけど、付け直せばいいみたいだよ。それに、調教するには3時間もあれば十分だね」
「本気かよ……てめえ、人を何だと、調子に乗りやがって」
ガキ大将は全力の右ストレートを繰り出した。
しかし、拳は宙を切り、勢い余って尻もちをついてしまう。
「馬鹿だなあ、ボクに運命力で勝てるわけがないのに」
「ちくしょう……」
「剛田君だっけ、顔色がコロコロ変わって、煩わしいよ。
表情を変えてもキミの愚鈍さは直らないし、変えなくても直せるかもしれないよ」
ジャイアンは顔を背け、拳を強く握りしめ怒りを堪えていた。
507 名前: セカンドジョーカー
◆.6msC4hQo6 [sage] 投稿日: 2014/02/13(木) 00:03:36 jgc7nswY0
永沢は瓦礫を融かして潰れたランドセルを回収ついでに着ていた賢者のローブも剥ぎ取った。
その後に、瓦礫地帯から移動する。
「おい、やめてくれよ。冷静になろうな、な?」
その間、少年はひきつった声で命乞いしていた。風の子バンドをいつ使われるか気が気でないらしい。
永沢は顔色一つ変えず、淡々と返す。
「剛田君がただの臆病者だったなんて、失望したよ」
「ぐっ、てめ、キミだって、さっきまで怯えてたじゃないか」
「うん、ボクは自分の命が惜しいからね。でも、キミは危険を顧みず、ボクを助けようとしたヒーローだっただろ
だから、その落差にガッカリしているのさ。あと、その丁寧語は気持ち悪いね」
「次から次へと……」
いや、直す前に殺してしまうかもしれない。多分、その方が楽である。
だが、今はその時ではない。だから代わりに、この言葉を口にする。
「ふぅ、夜の風は『冷たい』から、とても『寒い』なあ」
「ふぎゃあああああっ!」
ジャイアンの腹から野獣の咆哮。苦痛に顔を歪ませ、路上で転げまわる。
風の子バンドは寒さを連想させる単語を漏らすと頭を激しく締め上げる機能を持っており
しかも、他人が言った言葉にも反応するという、実にマゾスティックな秘密道具である。
ボクは人の苦痛を楽しむ趣味はないんだけど、必要悪だから
仕方ないね。
いや、藤木君なら、痛がるのが綺麗な女の人なら、興奮するかもしれないな。
永沢はもう一度ナンバーズを取り出して、うっとりした様子で眺めている。
カードは目に見えない群青色の闇の光を放っていた。
◆ ◆ ◆
「くそっ、玉ねぎ坊主め、今に見てろよ」
ジャイアンはアスファルトに倒れたまま、小声で吐き捨てた。
頭を押さえ、自然数を数えながら、痛みが引くまでじっと堪える。
彼にとって、秘密道具に振り回されるのは、よくある事だった。
雷を落とされたり、殴り飛ばされたり、銃撃を食らったり、
洗脳されたり、呪いで不幸になったり、知性を奪われたり、存在を消されたり、
綺麗なジャイアンに取り換えられたり、挙句の果てには調味料をふり掛けられて食われたり、
実害だけなら、下手すると悪人と戦った時よりも酷い目に遭っている。
言ってしまえば、この苦痛さえも平穏な一コマの再現なのである。
実際、風の子バンドを使った嫌がらせさえ、ジャイアンがドラえもんにした仕打ちと大差がない。
無論、彼に拷問を行っていたのが大人だったら、また違ったのだろう。
だが、それが小学生であったことで、日常を想起させ、僅かに勇気を取り戻させる。
玉ねぎ坊主の怪しいカードも恐らく、未来の秘密道具だろう。
青狸の道具にはたいてい落とし穴がある。だから、あのメガネの小学生は調子に乗っては、自滅していた。
あの少年は、のび太よりは慎重で抜け目ないかもしれない。だが、五十歩百歩だろう。
その時に、道具を全て独り占めにし、これまでの痛みを倍にして返してやろう。
ジャイアンは虎視眈々と、下剋上の機会を狙っていた。
ただ、彼は一つの誤解をしている。
あのカードは秘密道具ではなく、バリアンの神、ドン・サウザンドの作り出した偽ナンバーズである。
それは人の心を欲望に染め上げ、犯罪の限りを尽くさせ、最後に使用者をドンの糧にしてしまう。
ゆえに、デュエリストでないものが容易に奪えるものではなく、
デュエリストでも決して、欲してはならぬ代物だということを。
【D-2 住宅街/黎明】
【永沢君男@ちびまる子ちゃん】
[状態]:健康、偽ナンバーズの影響下(強運)
[装備]:熱線銃、No.7 ラッキーストライプ(偽)、賢者のローブ
[道具]:基本支給品、パネル地図、ランダム支給品×1
[思考・行動]
基本方針:殺しに乗りつつ生き残る
1:他のマーダーと手を組むか、対主催に紛れ込んでキルスコアを狙う
2:ジャイアンを利用してから不要になったら処分する。まずはドラえもんについて聞く
※偽ナンバーズの影響を受け、少し大胆になっています。
※ジャイアンからのドラえもんや秘密道具に関する情報を得ました
※時代的に漫画ドラえもんは存在しますが、メタ知識は制限されています
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:風の子バンド
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを阻止して、ポーキーをぶん殴る
1:永沢をぎゃふんと言わせ、ナンバーズを奪い取る
2:知り合いと合流する
※三時間後にバンドは外せますが、また嵌められてしまうかもしれません
【No.7 ラッキーストライプ(偽)@遊戯王ZEXAL】
ドン・サウザンドの作った100万枚の偽ナンバーズの一枚。末尾が『フ』になっている。
制限により、殺し合いに乗った一般人が戦闘や生死に関わる時のみ、絶対的な強運を与える。
本物さえ、デュエルで弱点突かれて負けたりしているので、無敵と言う訳ではない。
副作用でちょっとだけ所持者が強気になる。アニメで使用されてないのでデュエルでは使用不可。
【パネル地図@オリジナル】
島の地図の各所にバツ印が書かれたもの。具体的なアクセス手段も説明されている。
実際に何があるかは分からないが、デストラップも多いようだ。
【賢者のローブ@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
魔法使い系の防具としては中堅レベルの防御力を持つ白いローブ。
またメラ系、ギラ系、バギ系、ヒャド系の魔法からのダメージを軽減する。
他世界の魔法でも、それが魔法であれば同じように軽減できる……のかもしれない。
【熱線銃@ドラえもん】
ビルを一瞬で溶かしてしまう高熱ビームを出す銃。ロワだと出力は制限されている模様。
【風の子バンド@ドラえもん】
寒い、冷たいなどの単語を自他問わず呟くと、頭を締め付けて激痛を引き起こす。
3時間経つまで絶対に外せない。その後、自動的に外れるが、再装着は可能。
最終更新:2014年03月12日 08:55