207 恋バナ・2 sage 2008/06/16(月) 17:35:38 ID:bUlop8M5
「俺の背中を任せる……かぁ。なんか、ちょっと映画みたい」
モニカがうっとりと言った。
「場所は士官学校の学生食堂だったから、ちっともドラマチックじゃなかったけど」
キャシーはクスッと笑った。
「尊敬する人から、女としてだけじゃなくて、仕事の能力も認められるなんて、不器用な感じだけど、十分劇的だと思うなぁ」
ミーナがテーブルの上に、人差し指でのの字を書いた。
ラムが先を促した。
「それで、それからどうなったんです?」
「それから先は…」
キャシーは指を唇にあてた。
「ナイショ」
「えーっ」
歓迎会はお開きになり、ほろ酔い加減のメンバーはそれぞれ家路をたどった。
路面電車のシートに座り、窓の外を流れる夜景を眺めながら、キャシーは再び回想に耽った。
(あの時も、こんな風に飲み会の帰りだった…)
「俺の背中を任せる……かぁ。なんか、ちょっと映画みたい」
モニカがうっとりと言った。
「場所は士官学校の学生食堂だったから、ちっともドラマチックじゃなかったけど」
キャシーはクスッと笑った。
「尊敬する人から、女としてだけじゃなくて、仕事の能力も認められるなんて、不器用な感じだけど、十分劇的だと思うなぁ」
ミーナがテーブルの上に、人差し指でのの字を書いた。
ラムが先を促した。
「それで、それからどうなったんです?」
「それから先は…」
キャシーは指を唇にあてた。
「ナイショ」
「えーっ」
歓迎会はお開きになり、ほろ酔い加減のメンバーはそれぞれ家路をたどった。
路面電車のシートに座り、窓の外を流れる夜景を眺めながら、キャシーは再び回想に耽った。
(あの時も、こんな風に飲み会の帰りだった…)
学期末の試験開けで街に繰り出した。
いつもなら、介抱する役に回るキャシーが珍しく悪酔いしてしまった。
「たまには、こんなのもいいか。役得だな」
気がつくとオズマの背中におぶさっていた。オズマの声が触れ合っているところからも響いてくる。
「あ……」
途中で意識が戻ったが、オズマの背中が温かくてそのままでいた。
「ったく無邪気なもんだぜ。お前狙ってる野郎がいっぱいいるのに、無防備に酔っぱらいやがって」
オズマは上機嫌な声で続けた。
「俺だって狙ってるんだぜ。わかってンのかよ」
口笛を吹きながら夜道を歩く。聴き覚えのあるメロディーはFIRE BOMBERのMY SOUL FOR YOU。
士官学校は全寮制で、割り当てられた宿舎に戻ろうとしている。
キャシーはオズマの肩に回している手でギュっと抱きしめた。
「ん、お目覚めか?」
オズマは肩越しに、ちらりとキャシーを見た。
また、キャシーがギュッと抱きしめる。
「聞いてたか?」
ギュウと強い力を込めて抱きしめた。
「心配するな。酔っぱらっているからって襲ったりしないから」
キャシーはオズマの背中に額を押し付けて左右に振った。
「お?」
ギュッ、ギュッ、二度抱きしめる。
「ん」
オズマは頷いた。口笛を再開する。メロディーは、やはりFIRE BOMBERのI CALL YOUR NAME。
いつもなら、介抱する役に回るキャシーが珍しく悪酔いしてしまった。
「たまには、こんなのもいいか。役得だな」
気がつくとオズマの背中におぶさっていた。オズマの声が触れ合っているところからも響いてくる。
「あ……」
途中で意識が戻ったが、オズマの背中が温かくてそのままでいた。
「ったく無邪気なもんだぜ。お前狙ってる野郎がいっぱいいるのに、無防備に酔っぱらいやがって」
オズマは上機嫌な声で続けた。
「俺だって狙ってるんだぜ。わかってンのかよ」
口笛を吹きながら夜道を歩く。聴き覚えのあるメロディーはFIRE BOMBERのMY SOUL FOR YOU。
士官学校は全寮制で、割り当てられた宿舎に戻ろうとしている。
キャシーはオズマの肩に回している手でギュっと抱きしめた。
「ん、お目覚めか?」
オズマは肩越しに、ちらりとキャシーを見た。
また、キャシーがギュッと抱きしめる。
「聞いてたか?」
ギュウと強い力を込めて抱きしめた。
「心配するな。酔っぱらっているからって襲ったりしないから」
キャシーはオズマの背中に額を押し付けて左右に振った。
「お?」
ギュッ、ギュッ、二度抱きしめる。
「ん」
オズマは頷いた。口笛を再開する。メロディーは、やはりFIRE BOMBERのI CALL YOUR NAME。
オズマが入ったのは、繁華街の片隅にあるラブホテル。
部屋に入るまでおぶさったままのキャシーは緊張の極限だった。踊るような心臓の鼓動はオズマに伝わっているはず。
「よっと」
オズマは背中のキャシーをはね上げるとクルリと体の向きを変えて、横抱きにした。
「きゃぁ!」
「なんだか、声を聞くのと、顔を見るのが久し振りなような気がする」
覗き込むオズマに、キャシーは思わず目を伏せた。
オズマはキャシーをそっとベッドに横たえると、唇を合わせた。
「ん」
最初は触れるだけの軽いキス。
「んっ」
次は、キャシーの下唇をはさんで軽く吸った。
「ん……」
舌を差し込み、大人のキス。
キャシーの世界は触れあっている唇だけになっていた。オズマの首に腕をまわして抱きしめる。頭のどこかで、慣れた動きだと思った。
「キャサリン・グラス……キャサリン……キャシー」
オズマが名前を呼ぶ。その響きは、まるで聞いたことのない異国の言葉のように思えた。応えようと、名前を呼ぶ。
「……オズマ・リー上級生」
「お前な、ベッドの中ぐらいは名前で呼べよ」
「…お、オズマ」
自分の喉を通った言葉は、やっぱり新鮮な響きを帯びていた。
「キャシー…」
お互いの名前を呼び、キスを繰り返している内に、着衣はいつの間にか取り去られていた。
オズマの指と唇が胸を愛撫する。思わず声が漏れた。
「あっ……ああ…そんな……」
自分の声がこんなセクシーに聞こえるなんて。キャシーの背筋は自然に反り返った。
オズマの唇が下へ滑り下り、自分の中心に触れようとした時は、さすがに羞恥のあまり、オズマを押しのけようとした。
「欲しい」
オズマの低い声が体の奥底を震わせた。力強い男の手がキャシーの両手首をまとめて握る。その唇が自分でさえよく見たことのない部分にキスする。
唇と舌の動きに、シーツを掴んで耐える。
一つになった瞬間は覚えていない。
気がついたら、覆い被さるオズマに必死でしがみついていた。
快感を感じる余裕はない。
一体になっている場所から疼痛を感じるが、耐えられないわけではない。
「ああああっ…オズマぁ」
部屋に入るまでおぶさったままのキャシーは緊張の極限だった。踊るような心臓の鼓動はオズマに伝わっているはず。
「よっと」
オズマは背中のキャシーをはね上げるとクルリと体の向きを変えて、横抱きにした。
「きゃぁ!」
「なんだか、声を聞くのと、顔を見るのが久し振りなような気がする」
覗き込むオズマに、キャシーは思わず目を伏せた。
オズマはキャシーをそっとベッドに横たえると、唇を合わせた。
「ん」
最初は触れるだけの軽いキス。
「んっ」
次は、キャシーの下唇をはさんで軽く吸った。
「ん……」
舌を差し込み、大人のキス。
キャシーの世界は触れあっている唇だけになっていた。オズマの首に腕をまわして抱きしめる。頭のどこかで、慣れた動きだと思った。
「キャサリン・グラス……キャサリン……キャシー」
オズマが名前を呼ぶ。その響きは、まるで聞いたことのない異国の言葉のように思えた。応えようと、名前を呼ぶ。
「……オズマ・リー上級生」
「お前な、ベッドの中ぐらいは名前で呼べよ」
「…お、オズマ」
自分の喉を通った言葉は、やっぱり新鮮な響きを帯びていた。
「キャシー…」
お互いの名前を呼び、キスを繰り返している内に、着衣はいつの間にか取り去られていた。
オズマの指と唇が胸を愛撫する。思わず声が漏れた。
「あっ……ああ…そんな……」
自分の声がこんなセクシーに聞こえるなんて。キャシーの背筋は自然に反り返った。
オズマの唇が下へ滑り下り、自分の中心に触れようとした時は、さすがに羞恥のあまり、オズマを押しのけようとした。
「欲しい」
オズマの低い声が体の奥底を震わせた。力強い男の手がキャシーの両手首をまとめて握る。その唇が自分でさえよく見たことのない部分にキスする。
唇と舌の動きに、シーツを掴んで耐える。
一つになった瞬間は覚えていない。
気がついたら、覆い被さるオズマに必死でしがみついていた。
快感を感じる余裕はない。
一体になっている場所から疼痛を感じるが、耐えられないわけではない。
「ああああっ…オズマぁ」
オズマが体を離した。
寄り添うように横たわると、キャシーの肩に手を回した。
キャシーの中ではいろいろな思いが錯綜していたが、後悔はなかった。
「…いつからだ?」
オズマの言葉は主語のない問いかけだったが、キャシーは意味を取り違えなかった。
「指揮シミュレーションで叱られた時」
「へぇ、意外」
「いつから?」
キャシーも同じ質問をした。
「新入生のオリエンテーション」
「そんな前から?」
「ああ。気づいてなかったろ?」
「え、ええ」
「相手の情報を多く集め、自分の情報を与えないのが軍人の基本だからな」
「もぅっ」
キャシーはオズマの肩をつねった。
「じゃあ、今日の飲み会も?」
「お前が悪酔いしたのは偶然だぜ。偶然の機会を逃さないのも良い軍人の条件だがな」
オズマがウィンクする。
「タクシーを呼ばずに、背負ってくれたのは口説くため?」
「へへっ」
オズマの笑顔は悪戯を見つけられた少年のようだ。
「お前、小さいときから優等生だったんだろ。周囲の期待を裏切れないタイプの。なかなか隙を見せないからなー。我ながらずいぶん、我慢強く待った」
キャシーは呆れた。オズマの軍人としての素質は恋愛でも同じだったのだ。
「それで……ん?」
オズマは身じろぎして、眉をひそめた。シーツをはぐると、敷布の上に大きな血のシミができていた。
「おいっ、キャシー、大丈夫かっ?」
「えっ、ヤダ」
破瓜の出血が多かったようだ。しかし、キャシー自身は痛みを感じないし、出血そのものは止まっているのがわかった。
「痛くないか? 血は止まっているか?」
狼狽するオズマの様子がおかしくて、クスクス笑いが漏れた。
(ちょっとだけオズマへの逆襲に成功)
二人はシャワーを浴びて汗と血を流した。
それから予備のシーツにくるまって、ソファで身を寄せ合った。
「嬉しい負けって恋愛にしかない、か」
キャシーのつぶやきにオズマは耳を傾けた。
「なんだそりゃ?」
「何かの歌詞。すごくピッタリな気分なんです」
寄り添うように横たわると、キャシーの肩に手を回した。
キャシーの中ではいろいろな思いが錯綜していたが、後悔はなかった。
「…いつからだ?」
オズマの言葉は主語のない問いかけだったが、キャシーは意味を取り違えなかった。
「指揮シミュレーションで叱られた時」
「へぇ、意外」
「いつから?」
キャシーも同じ質問をした。
「新入生のオリエンテーション」
「そんな前から?」
「ああ。気づいてなかったろ?」
「え、ええ」
「相手の情報を多く集め、自分の情報を与えないのが軍人の基本だからな」
「もぅっ」
キャシーはオズマの肩をつねった。
「じゃあ、今日の飲み会も?」
「お前が悪酔いしたのは偶然だぜ。偶然の機会を逃さないのも良い軍人の条件だがな」
オズマがウィンクする。
「タクシーを呼ばずに、背負ってくれたのは口説くため?」
「へへっ」
オズマの笑顔は悪戯を見つけられた少年のようだ。
「お前、小さいときから優等生だったんだろ。周囲の期待を裏切れないタイプの。なかなか隙を見せないからなー。我ながらずいぶん、我慢強く待った」
キャシーは呆れた。オズマの軍人としての素質は恋愛でも同じだったのだ。
「それで……ん?」
オズマは身じろぎして、眉をひそめた。シーツをはぐると、敷布の上に大きな血のシミができていた。
「おいっ、キャシー、大丈夫かっ?」
「えっ、ヤダ」
破瓜の出血が多かったようだ。しかし、キャシー自身は痛みを感じないし、出血そのものは止まっているのがわかった。
「痛くないか? 血は止まっているか?」
狼狽するオズマの様子がおかしくて、クスクス笑いが漏れた。
(ちょっとだけオズマへの逆襲に成功)
二人はシャワーを浴びて汗と血を流した。
それから予備のシーツにくるまって、ソファで身を寄せ合った。
「嬉しい負けって恋愛にしかない、か」
キャシーのつぶやきにオズマは耳を傾けた。
「なんだそりゃ?」
「何かの歌詞。すごくピッタリな気分なんです」
あれから、周囲も、自分も、ひどく変わってしまった。
(オズマの口の悪さは変わってないのね)
路面電車は夜の街を走る。
(オズマの口の悪さは変わってないのね)
路面電車は夜の街を走る。
<終>