学生街、とある廃ビル、3階。
気絶した千郷を三人で見張りながら、ティターニア、メリア、浅悧は情報交換を行っていた。
気絶した千郷を三人で見張りながら、ティターニア、メリア、浅悧は情報交換を行っていた。
「つまり、天城千郷もゲームには乗ってないのね」
「……私もよく分からないんですけど、その、戦いたい、じゃなくて、破壊したい……? そういう欲求が強いみたいで。ただ、自分から襲う気は無い感じですか」
「でもスーザンさんに激ヤバの剣振り下ろしてたわよね? あれは?」
「あ、メリアでいいです。あれも、殺しにかかった、っていうより、その——エネミーを独り占めしたかったみたいで」
「……普通に意味わかんないんですけど、エネミーってチーム組んで狩る方が効率的ですよね」
「あー、山田さんにはまだ教えてないけど、そういう風には考えない魔法少女もたまにいてね。エネミー倒せば魔力の足しになるし、強いエネミーを倒せば、場合によっては一気に大量の魔力を獲得できるじゃない? だから、単独でエネミーを狩りたがったり、本当に酷いときは、自分以外がエネミーを狩るのを邪魔する厄介なのもいるのよ」
「天城千郷もそのタイプってことですか……?」
未だ千郷は気絶から目覚めない。先ほど浅悧が調べたときは、奥歯が一本折れていた。
こんな大人しそうな中学生が可哀そうにと浅悧は思うが、ティターニア曰くビルごと消し飛ばすほどの一撃を人に向けようとしていたらしいので、自業自得とも思う。
こんな大人しそうな中学生が可哀そうにと浅悧は思うが、ティターニア曰くビルごと消し飛ばすほどの一撃を人に向けようとしていたらしいので、自業自得とも思う。
(分からないな。どうして人にそんな暴力を向けられるんだろう?)
浅悧は剣道部だ。今は休部中だが、それでもエースと呼ばれる程度には研鑽してきた。
いくら防具で固めていようと竹刀で叩かれれば痛い。自分が痛いということは、自分が叩いている相手も痛いはずだ。
竹刀で人は死なない——と、言うつもりはない。
死亡事故だって発生している。竹刀だって凶器に成り得る。
だから、分からない。
ビルごと消し飛ばすような一撃を、人に振り下ろされるようなメンタルを。
いくら防具で固めていようと竹刀で叩かれれば痛い。自分が痛いということは、自分が叩いている相手も痛いはずだ。
竹刀で人は死なない——と、言うつもりはない。
死亡事故だって発生している。竹刀だって凶器に成り得る。
だから、分からない。
ビルごと消し飛ばすような一撃を、人に振り下ろされるようなメンタルを。
(こんな、大人しそうな子が……)
偏見かもしれないが、教室の片隅で文庫本でも読んでいそうな、大人しそうな女の子だ。
とても、ティターニアやメリアの言うような危険人物には見えない。
とても、ティターニアやメリアの言うような危険人物には見えない。
(あるいは、この子も私みたいに……)
夢遊病。
今眠っている(というか気絶している)少女にとっては、変身後の自分は全くの別人なのかもしれない。
浅悧がそうであるように。
——鉄パイプを他人に振り下ろせる人物が、自分と地続きなはずがないのだから。
今眠っている(というか気絶している)少女にとっては、変身後の自分は全くの別人なのかもしれない。
浅悧がそうであるように。
——鉄パイプを他人に振り下ろせる人物が、自分と地続きなはずがないのだから。
「……とりあえず、今後の方針なんだけど。私のマンションに行かない? 冷蔵庫に魔力草が幾つか残ってるし、私の教え子が何人か向かってて合流できるかもしれない」
ゆくゆくはそこを拠点にしてゲームをひっくり返したい、とティターニアは拳を握った。
(不思議……魔法の国の王様に呪いをかけられて、殺し合いを強制されてるって、すごく絶望的な状況なはずなのに……先生と一緒だと安心できる)
本当に、すぐに合流できたのは幸運だったと、浅悧は思う。
ヒャハという声がどこかで聞こえた——ような気した。
ヒャハという声がどこかで聞こえた——ような気した。
(この人、凄い……)
と、メリア・スーザンは思った。
ティターニアと情報を交換しながら、メリアは自分を救った魔法少女が学校の先生で、魔法少女暦18年の大ベテランということが分かった。
メリアも魔法少女になって、何年も経つが、自分より経験豊富な魔法少女というのは頼りがいがある。
ティターニアと情報を交換しながら、メリアは自分を救った魔法少女が学校の先生で、魔法少女暦18年の大ベテランということが分かった。
メリアも魔法少女になって、何年も経つが、自分より経験豊富な魔法少女というのは頼りがいがある。
(……あれ? 私、いつから魔法少女だったっけ?)
ふと、疑問にかられて記憶を探ってみたが、まったく思い出せない。
(……さっきあんな危ない目に遭ったからかな。もう少し落ち着いたら思い出すかも)
自分が思っている以上に動転しているようだ。やれやれ、これでは先が思いやられる。
私、メリアは正義の行いが好きで、悪を憎む、趣味が人助けの正統派魔法少女なのだから。
ティターニアのように、私も他の人を助けないと。
だってそれが私だから。
私、メリアは正義の行いが好きで、悪を憎む、趣味が人助けの正統派魔法少女なのだから。
ティターニアのように、私も他の人を助けないと。
だってそれが私だから。
「魔力草ですか……あれ、激マズですよね」
「文句言わないの山田さん。大丈夫よ、マヨネーズかけまくれば何とか食べれるんだから」
「マヨネーズかけまくったもの美容的にも健康的にも食べたくないんですけど……まぁ、そんなこと言っている場合じゃないのはわかりますけど」
(魔力草……知らないけど、そんなに不味いんだ? でも、人助けをするためなら、それくらいは我慢しないとね)
どうせなら、私の好きな食べ物であるあれみたいに……。
私、好きな食べ物って何だったっけ……?
私、好きな食べ物って何だったっけ……?
(まぁ、そんなの考えても、今この状況で食べられないもんね。じゃあ思い出すのは後回しでいいよね)
——メリア・スーザンには好きな食べ物も、嫌いな食べ物も設定されていない。
とある魔法少女の分身は、未だ自分の正体に気づかない。
とある魔法少女の分身は、未だ自分の正体に気づかない。
「よーし、それじゃあ行きますか。二人とも私のマンション着いたら仮眠を勧めるわ。変身している間は一週間ぶっ通しで起きてても問題ないけど、何かのきっかけで変身が解除された時にその場で寝落ちすることもあるから。マジで意識飛ぶわよ」
まぁそんなに長時間もこんなゲーム続けさせないけど。
そう言って、ティターニアはフロアの出口へ向かって歩き出す。
むにゅ。
と、靴裏から柔らかい感触が伝わり、ぎゃっ! とティターニアは慌てて右足を上げた。
——いつからそこに居たのか、首輪を嵌めたタキシードの少女が寝そべっている。
そう言って、ティターニアはフロアの出口へ向かって歩き出す。
むにゅ。
と、靴裏から柔らかい感触が伝わり、ぎゃっ! とティターニアは慌てて右足を上げた。
——いつからそこに居たのか、首輪を嵌めたタキシードの少女が寝そべっている。
「え、嘘!? ごめんなさい! あの、痛くなかった? 悪気があったわけじゃないから……」
「謝る必要はないよ、ティターニア……♦」
むくりと少女は起き上がる。
そして静かにナプキンを取り出すと、上品に顔を拭う。
そして静かにナプキンを取り出すと、上品に顔を拭う。
「ふむ、参加者による顔踏みプレイ……悪くない♡ ただ、もっと強く踏んでくれて良かったのだよ? 私の顔が醜く歪むくらい強く……♡」
「……えっと、その、怒ってはいらっしゃらない?」
「まさか、悦んでいるのさ♡」
「……そうですかお怪我がないようでなによりですでは私はこれで失礼します私の醜態を冗談で流していただきありがとうございます以後こういったことのないように反省し善処していきますね」
早口で定型文を呟くとティターニアは千郷を背負い、浅悧とメリアにアイコンタクトでさっさとここから出ようと合図する。
突如現れた変態に思考を停止していた二人もようやく我に返り、三人の魔法少女はそくそくとフロアから出ようとする。
突如現れた変態に思考を停止していた二人もようやく我に返り、三人の魔法少女はそくそくとフロアから出ようとする。
「待ちたまえよ、ティターニア♦」
ティターニアは冷や汗をかきながら嫌そうに振り返った。
変態に名を把握されている。
殺し合いとはまた別種の、されど同レベルに危険な状況にティターニアは警戒を強める。
変態に名を把握されている。
殺し合いとはまた別種の、されど同レベルに危険な状況にティターニアは警戒を強める。
「あの、何か……?」
「私も魔法少女さ。名を、メンダシウム♦」
聞いたことのない名だった。
(まぁ、魔力的に魔法少女なのはわかってたけどさ)
「魔法少女ティターニア。貴女もプレイヤーでしょ?」
「魔法少女ティターニア。貴女もプレイヤーでしょ?」
「いや、違う……♧」
(あれ、非参加者にゲームのこと話すと死ぬんだっけ? あれ嘘? もしかして私ミスった?)
もしかしてペナルティ触れちゃった? と顔を青白くさせるティターニアに
「私は運営側……魔法王の配下の者だ♦」
メンダシウムは楽し気に言った。
「————」
一瞬で、ティターニアの空気が切り替わる。
どこかコミカルさを漂わせていた表情が、熟練の戦士の表情に切り替わる。
どこかコミカルさを漂わせていた表情が、熟練の戦士の表情に切り替わる。
「——何の用?」
「何、ちょっとしたテコ入れさ♦ このままだと私の望まない展開になりそうなのでね♧ せっかく殺し合いを開いたんだ、最高の展開を観たいだろ?」
それを聞いたティターニアは、抱えていた千郷を浅悧の方へ投げる。
難なくキャッチした浅悧は先生? と問いかけた。
難なくキャッチした浅悧は先生? と問いかけた。
「——山田さん、メリアと天城千郷を連れて逃げなさい。できるだけ遠くに、できるだけ早く」
「先生、私も戦います!」
「ティターニアさん、私も……!」
「——駄目よ。こいつの相手は私が『全力で』やるわ」
「っ……!」
全力。
それは、遠回しに浅悧とメリアが居ると足手纏いになるという宣言だった。
短くない時間を共に過ごした浅悧はそれを理解してしまう。そして、市内最強ティターニアの全力戦闘に自分は付いていけないことを。
それは、遠回しに浅悧とメリアが居ると足手纏いになるという宣言だった。
短くない時間を共に過ごした浅悧はそれを理解してしまう。そして、市内最強ティターニアの全力戦闘に自分は付いていけないことを。
「……先にマンションへ向かってます!」
「で、でも山田さん、ティターニアさんを一人残しては……!」
「いいの、メリアさん! 先生は最強だから、絶対負けないから……!」
メリアの手を引き、浅悧はフロアを出ていく。
振り返ることも、ティターニアに激励を送ることもない。
彼女の教え子である山田浅悧は知っているからだ。
抜けているし誤魔化すことも多いし作るテストも誤字脱字が酷い、正直人としては色々残念だけど——実力は本物だ。
ティターニアが負ける。そんなことは、天地がひっくり返ってもあり得ない。
もはや信仰に似た思いを抱えて、浅悧は少しでも距離を取ろうとする。
ティターニアが遠慮なく本気を出せるように。
手を引かれながら、メリアもまた悩んでいた。
正義の魔法少女として、あの場に留まって一緒に戦うべきだったのではないかと。
足手纏いは百も承知。けれど、それでも、メリア・スーザンの『設定』なら、あの場で逃げずに戦う方が……。
振り返ることも、ティターニアに激励を送ることもない。
彼女の教え子である山田浅悧は知っているからだ。
抜けているし誤魔化すことも多いし作るテストも誤字脱字が酷い、正直人としては色々残念だけど——実力は本物だ。
ティターニアが負ける。そんなことは、天地がひっくり返ってもあり得ない。
もはや信仰に似た思いを抱えて、浅悧は少しでも距離を取ろうとする。
ティターニアが遠慮なく本気を出せるように。
手を引かれながら、メリアもまた悩んでいた。
正義の魔法少女として、あの場に留まって一緒に戦うべきだったのではないかと。
足手纏いは百も承知。けれど、それでも、メリア・スーザンの『設定』なら、あの場で逃げずに戦う方が……。
(それに……)
現れた変態タキシード運営魔法少女。
何故か彼女には、強烈な既視感があるのだ。
初対面のくせに、自分は彼女を知っている。
何故か、知っている気がする。
メリアは未だ、残酷な真実に気づかない。
残ったティターニアは大剣を床に突き刺し、両掌を柄頭に載せる。そして、メンダシウムが二人を追うのを防ぐように、逃げて行ったフロアの出口を通せんぼするように立ち塞がる。
それを、メンダシウムは楽し気に眺める。
何故か彼女には、強烈な既視感があるのだ。
初対面のくせに、自分は彼女を知っている。
何故か、知っている気がする。
メリアは未だ、残酷な真実に気づかない。
残ったティターニアは大剣を床に突き刺し、両掌を柄頭に載せる。そして、メンダシウムが二人を追うのを防ぐように、逃げて行ったフロアの出口を通せんぼするように立ち塞がる。
それを、メンダシウムは楽し気に眺める。
「……いやにあっさり逃がさせてくれるじゃない? 私と二人きりになりたかったのかしら?」
「君とのプレイは楽しそうだからね……♦」
「へぇ、ありがとうと返しておくわ。それで、具体的にメンダシウム、貴女は何を狙っているのかしら? 最高の展開……どうせろくでもないんだろうけど、一応聞いてあげるわ」
「ふふ……どんな風に責められるか事前に知らない方が愉し——!?」
恍惚とした表情で語ろうとするメンダシウムの眼前でティターニアが拡大する。
(しまった、一瞬で距離を!?)
「マジカル・ストラッシュ!」
大剣が光り輝き——超至近距離で極太のビームが放たれる。
メンダシウムの視界が光で包まれ、圧倒的な破壊の奔流が全てを塗りつぶした。
メンダシウムの視界が光で包まれ、圧倒的な破壊の奔流が全てを塗りつぶした。