(投稿者:天竜)
私は、ただ、力を求めていた。ただ、勝利を求めていた。
打ち倒す力を、人間の滅びを。
だが、私には私にとって重要な、そして、強くなるために避けては通れないであろう疑問が出来た。
これから私が語るのは、私が、その疑問を持った理由。
そして、聖戦を紡ぐ我等の、その、誕生のきっかけである。
我が名はリード…聖戦を導く者にして、剣を以って答えを探す者…
聖戦のリード ―答えを探す者達―
第零話 探求の始まり
ある日、私は一人のメードを捕食した。
生きることを諦めた少女だった…戦場の中心に、味方からも見捨てられて置き去りにされていた。
そして、彼女は、死を望んでいたようにも思える。
少女は自ら、その際に切り込み隊長役を買って出ていた私へとその身を差し出したのだ。
その際の少女の最期の言葉は、今でも覚えている。
「私の、いえ…私たちにとっての真の敵、人間を
一人でも多く殺してくれるなら…私の体を、私の心を、あなたに捧げます」
一体、何故そのような事が出来たのか、その頃は分からなかった。
そして、彼女自身を生み出した人間を、何故敵と呼んだのかも、その時の私には分からなかった。
しかし、その後、エターナルコアを取り込んで知能が発達した私は、
数多くの人間やメードと戦い、私は、人の心にある『何か』の存在を感じ始めた。
いや、私が喰らったメードに、その存在を教えられたのかもしれない。
今思えば、彼女が見捨てられたのもまた、人間の思惑の通りだったのかもしれない。
その『何か』を、我々はその全てを以って討たねばならない、そう思った。
その『何か』こそ、Gの生まれた理由、Gが人間に対する敵意を持つ理由、そう、思えた。
その後、エターナルコアの力を使いこなせるようになった私は、戦線の人間と幾度も交戦した。
私は、何としても勝たねばならない。私の敵は、その彼方にいるのだから。
メードとも、何度も戦った。私は、まだまだ強くならねばならない。
しかし、その頃はまだ私も他のGの群れの中で戦っており、直接真正面からぶつかり合った相手はいなかった。
そんな中、私は『奴』に出会った…。
約一年半ほど前の話だ…。
その姿を形容すると言うのならば、戦場のど真ん中で咆哮を上げる、黒い雷を纏った剣を携えた、三メートル強の巨大な黒い鎧…。
紅の眼は、私と真正面から睨み合って一歩も引かず、たった一人で、我等Gの大群を相手に戦い続けていた。
まるで、あの時の少女のような状況。しかし、奴の行動は彼女のものとは反対だった。
一体、何故だ?私は、まず一つの疑問を持った。
少なくとも、これだけは間違いない、奴は、強い。
私は、そう直感し、奇襲を仕掛けた。
我々は、どうあっても負けるわけにはいかないのだ、たとえ、相手が何であろうとも。
「ぐ…この感じ…
スポーン、か…!」
私が、進化する事によって得た能力…私の剣のような顎は、二つ噛み合って本当の意味で剣とし、敵を貫く。
相手が、たとえ何であろうとも、その全てを貫く自信があった。
私の剣は、人が、そしてメードが振るう剣より、強いと。
事実、その鎧を、私は貫いた。普段はこの一撃で、殆どのメードも兵士も絶命する。
しかし、その鎧は痛みや苦しみの声すらも上げなかった。
「…まだ、動ける!」
ただそう叫ぶと、私を引き抜いて投げ飛ばしたのだ。
「ヘヘッ…生きて帰れないとは、思ってたが…
思った以上の大物…運命って奴は、思った以上に面白いじゃねェか…!」
その、紅に輝く眼は、間違いなく、笑っていた。
鎧は、私に向けて剣を構えた。
「時間稼ぎも十分…最期の相手はコイツか…ヘッ、悪くねェ。
白竜工業対G兵装開発特務課、黒雷の機士、竜式…推して参る!!」
奴の名前は、竜式と言うのか…。
私は、奴の名を聞いた。その頃の私は、話す事は出来なかったので、私の名を名乗る事は出来なかったが。
しかし、Gである私相手に名乗るとは、何と酔狂な奴だ、そうも思った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
竜式が、私に向けて突進をかけた。良いだろう、正面からぶつかるも、また良し!!
一撃が交差した。
私の前足に、痛みが走った。ブレードになっている前の右足が、無かった。
そして、奴の左腕が宙を舞っていた。
痛み分けか…正面からぶつかる、というのは思っていた以上に大変な戦いなのだ、私は、そう悟った。
私は、知らず知らずの内に、正面からぶつかる事を避けていたのかも知れない…。
「まだまだァ!!」
そして、私にとって予想外の攻撃は続く。
竜式がそのまま強引に反転し、まだ体勢を整えていない私に斬りかかったのだ。
私も、頭部の顎を剣にしてそれと切り結ぶ…成る程、切り結ぶ、とはこういう事を言うのだろうが…
その瞬間、私の顎は切り結ぶ事を考慮に入れられていない事も、知った。
「ぐうううっ…テメェもたいした馬鹿力じゃねえか…だが!」
竜式は、剣を強引に振りぬいた。
奴の力を、侮っていた。何と言う馬鹿力だ。
私は、吹っ飛ばされた。
その直後、竜式の背後から我が同胞、人間が
ワモンと呼んでいる種が襲い掛かった。
「邪魔だ、どけ!!」
竜式は迫ったワモンを踏みつけ、そのまま駆け出す。
負けるわけにはいかない。私の敵は、その先にいる。
私が知らず知らずに正面からぶつかる事から逃げていたと言うのなら…もう逃げはしない!!
私は、渾身の力を込めて竜式とぶつかった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
何と、私の顎にヒビが入った。
しかし、私の顎は竜式の胸部をぶち抜いていた。これは致命傷のはずだ…!
「もう一撃…持ってくれ…頼む!!」
何故だ、なぜ諦めない?
動く事すらもままならないはずだ。あの時の少女よりも更に絶望的な状況のはずだ。
しかし、奴の声には、諦めや恐怖は一切無い。奴を突き動かしているそれは一体何だ?
少女の諦め、人間への恨みと、奴のこの闘志、この眼の輝き…一体、何が違う?一体何が違うのだ!
分からない。分からない…!
一体、何故私はここまで焦る?それすらも分からない。
何故だ?何故だ?何故だ!?
そして、竜式は、再び剣を構えた。
動けないはずだった。しかし、奴は動いた。
「…行くぜ!!」
竜式の叫び。分からない。一体、何故奴はここまでして戦う?
しかし、いずれにせよ…私は、ここで死ぬわけにはいかない。
負けるわけには、いかない…!
ヒビ入った顎を推し、私は再び渾身の突進を繰り出した。
そして、一撃が、交差した…。
私の頭部の剣の顎の一方が砕け、竜式の剣は私にかつてなく深い傷を創っていた。
痛いな…早く瘴気のある場所で傷を癒さねば、私とて生きてはいられないかも知れない。
生きていなくては、この戦いで私が得たもの、そして生まれた疑問の答えを探す事すら出来ない。
「………」
私は、動きを止めた奴を尻目に、戦線を離脱した。
ワモンも私に追従して退く。
「…おっしゃああああああああああああああああああ!!!!!」
そして、私の彼方で、竜式の勝利の雄たけびが木霊していた…。
その後、傷を癒した私は、旅に出る事にした。
人の事、メードの事、私はもっと知らねばならない。
人の持つ『何か』も、漠然と気付いただけで実際に何なのかは、分からない。
…何故、今まで気づかなかったのだろうか?
私は、メードや人間と直接言葉でやり取りをした事は無い。
私相手に言葉をかけたのは、その少女、そして竜式だけだった事を。
私の奇襲は、敵と真正面からぶつからない事と同義だった。
…それでは強くなれるわけが無いではないか。
そして、人間の『何か』が何なのか、それを知る事とてそうだ。
敵の展開の仕方、行動から『感じ取った』だけだったのだ。
フフ…馬鹿だな、私も。
もっと知らねばならない。私が討とうとしているものは何なのか。
いや、知らねばならないのは、そもそも私が討とうとしているものが、そもそも討つべきものなのかどうか、だ。
そして、竜式のあの力、私は、完全に負けた。
私の力不足、そう、確かにそうなのかもしれない。
しかし、私は、それ以上に何か、決定的な違いがあるような気がしてならない。
何処まで強くなっても、私は奴には勝てない、そんな気がした。
…認められない。
絶対に、認められない。
負けてなるものか。
私は、奴に負けたくは無い。
そういえば…その感情の意味も分からない。
しかし、そういう感情が、今は湧き上がって来ている。
だから、知らねばならない。奴の力の源が一体なんだったのかを。
私は、強くなるためにも、もっと、そう、もっと知らねばならない。
だから、まず手始めに、ザハーラにいる、私の先輩に当たるスポーンに会いに行く事にした。
奴の名は、オリノ。
オリノ・リ・ヨーリ…。
続く
あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
自分で書いていて思うのですが、どうにも作品のノリが他の人の作品と全然違う気がします、天竜です(汗)
黒雷の記憶のリード視点の話にして、
クルセイダーの発足するきっかけです。
竜式の命がけの戦いの理由をリードは知らず、リードの心の変化を竜式は知らず。
まだ、感情についてもリードは疎いんです。
ちなみに、リードが喰ったメードの話もこの物語で語られますので、しばらくお待ちください。
では、また頑張って第二話も書きます。
またお会いしましょう!
最終更新:2009年02月15日 03:11