FRONT of MAID  supplementary biography 01

(投稿者:クラリス・アクナ)

第1話 デウス


ひときわ気持ちいい空の風だった。
緩やかに流れる大気の道をひた進み、青く晴れ渡った空を飛び続ける。
ちょっと乱暴な風の壁が顔に当たり、皮膚を小さく波打たせ、それなりに整えられた髪がバサバサと後ろへ流れていく。
目は風圧に負けそうに半分開いたままだが、その瞳に映っている光景は決して嫌なものではなかった。
ただ、身体にはおぞましいほど奇妙な機械がまとわり付いて、そこからやや視認できるほど薄い黒のオーラが何本にも渡って伸びている。
唯一、それが彼女の気に食わないものだった。

白い衣装に白い肌。やや細身の体格ながら顔のつくりはよく、瞳は空の色。なかなかの美人な井出達でありながら、黒いオーラを身にまとうかのごとく、白く塗られた機械たちからオーラが漏れていた。
風を切る音に混じってギーンという機械音が自身の骨格を伝わって耳に聞こえてくる。
唯一、それが彼女の気に食わないものだった。

生まれてからたった数年。
未だ物事の興味があまり理解できていない身だが、自分が必要とされる場所に自分自らが出向くことに一つの達成感を見出していた。
仕事をするために空を飛び、家に帰るために空を飛ぶ。
メードとして生まれて、Gと戦う兵士として生まれた彼女は一人であろうとも、広い空の波を受けて飛んでいた。
だから気に食わなかった。
Gと戦う敵対者としてGの力の一部を取り込んでいるこの身体のことを。
この黒いオーラは、そのGが持つ力そのものであるから。

「・・・・・・」

Gの力が今の自分を浸食することは無い。
逆に、Gの力を受けなければ本来歩くことも、立つことも難しい貧弱な身体である。
元々ある力が貧弱だったのが主な理由だが、実際には身体の構成体、いわば細胞が死んでいたのが大きな要因であろう。

そう、彼女は死人だった。

前世で何をしていたかなんてものは無く、気が付いてみれば兵士になっていただけ。
彼女が受けた教育も戦闘術から教養論まで様々だった。ぼんやりとある自分の常識がなすすべも無く崩され、Gとの訓練だと言いながら人間相手にも銃を向けさせられた。
そして良く分からぬままGとの実戦を繰り返し、生き残ってきた。恐らく、この星にいるすべてのメードが体験していることだろう。
よく分からぬままGと戦い、よく分からぬまま死んで行く。
死人が前線で戦い死ぬのだから誰も痛くないといった人物がいたが、誰かに殴り殺されていた。

「・・・当然か」

人間が考えることは残酷だ。危険極まりない己の保身が平気で人を兵器に出来るのだから。
死人ですら鞭打って殺して来いと言われる。

「・・・・・・」

ただ救いがあるとすれば、それは人殺しのある戦争ではなく、食物連鎖から来る弱肉強食の世界。人類の天敵であるGとの戦争。
あとは、空を飛ぶことの自由。
誰にも邪魔されない空間を持てる喜びは、これからいく場所に居る者達にもきっと理解してくれるであろう。

「あれね」

雲が増えてきた光の影に見える輸送機。
まだ点にしか見えないが、目指すべき場所にいたそれこそが、彼女の新しい仕事場となる。

「クロッセル連合軍対“G”独立遊撃空軍ルフトバッフェ・・・か」

今まで単独出撃が多かった彼女がクロッセルを代表する空軍部隊ルフトバッフェに合流する。ただでさえおっかないものを内蔵しているのに。

「・・・・・・」

一握りの期待と、重く背負う不安で顔を曇らせる彼女は、機影がはっきりと識別できる位置まで接近して、無線のスイッチを入れた。



―ルフトバッフェ所属輸送空母FCCT/lb-303ジュール・ヴァンシ

「ララスン准尉、EARTHより派遣されたメード“デウス”から電信が入りました」
「時間通りか。クセモノが多いEARTHのメードにしては真面目な性格だな」

フルトバッフェが空戦メード用に所有する輸送機のブリッジで通信士と褐色の女性が“お客様”の到着を確認していた。
合流予定時間の寸分の狂いも無く電信を入れてきたそのメードは、軍隊ではないEARTHより直接派遣された一人で、これから行われる作戦の重大なキーの一つであった。

「デウスから“着艦”許可の申請が来ております」
「ふふ、こいつは“艦”じゃないのにいつも間違えられるな」

艦ほど大きくもなく、ましてや空中空母と名乗っているが所詮は輸送機である。
空戦メードがすばやく出撃してゆったりと帰還できるように作られただけの輸送機だが、プロパガンダ的に空中空母という名が欲しかったというだけで専用の言葉が色々作られた。
離着陸に関する言葉も新しく作られたが、今回のようにあまり知れ渡っていないのが現状だ。
まぁ一度覚えると案外慣れるものだが。

「“入場”を許可すると伝えてくれ」
「了解」

通信士はデウスに入場の折を説明し、ランデブーポイントへ誘導を行った。
ちなみに、出撃時の言葉は退場でも出場でもなく、開場という。
空戦メード達が空という舞台へ飛び立つという、一つの劇場をイメージした“場”を強く意識したためこの言葉が当てられた、実にクロッセルらしい意識といえるだろう。

「誘導を開始するぞ。1番ハッチを開放、アレスティング・ハンドルをムーブ後、入場姿勢のため2番、3番エンジン停止。今回はこの空母が生まれて初めてのお客様を歓迎する。丁重にな」
「了解。1番後部メインハッチ開放。デッキ内障害物無し。アレスティング・ハンドルをムーブ。デウス入場距離範囲を確認。距離400に進入後ハンドルワイヤーを伸ばします。観測注意」

ジュール・ヴァンシの後部ハッチが重々しく開き、機内の空気がかき乱される。
誘導灯となる回転灯が目に痛いほどの光量でグルグルまわると、デウスがそれを確認して入場コースを取った。
観測手は意外と速い速度で突っ込んでくるデウスに若干焦りながら、アレスティング・ハンドルを伸ばしてこれに掴まれと誘導する。
機体の後方気流にやや振り回されるデウスだが、難なくハンドルを掴みそのまま機内へ案内される。
翼の推力を絞り、停止させるとようやく自分の足を床に立たせた。
ゆっくりと閉じていくハッチを見ながら自身の装備を畳んで行く。長身な体と、Gの力を取り込んだ身体故に装備が大きくて邪魔になるためだ。
それに、人と会う前になんとしても力の流出を止める必要がある。
彼女の機能は秘密だから。

「時間通りに合流できるとはこちらとしても楽で助かったよ」

徐に背後から声を掛けられ少しビクッとする。
幸い、力の流出は止まっているため、その人物が汚染される心配は無いが、少々無警戒な人物だとデウスは感じた。

「ようこそクロッセル連合軍対“G”独立遊撃空軍ルフトバッフェへ。私はここの空軍准尉をしているララスンだ」
「EARTH専属のメード、デウスです。こちらこそ、よろしくお願いしますララスン空軍准尉」

お互いに軽い紹介を済ませるが、ララスンはデウスの言葉に若干眉を下げた。

「はは、そう気張らないでくれ。久しぶりに他人から“空軍准尉”と呼ばれた気がするほど、私は軍人ではないのだよ」
「?」
「私のことはララスンで良いよ。君もEARTHで軍人をしているわけではないだろ」

結構奇妙なことを言う人だと、デウスはちょっと驚く。

「確かに私は明瞭な軍の下で動く軍人ではありませんが、対G連の命令があれば動く兵士であることは自覚しています。メードですので」
「なるほど、これは失礼だったな。変なことを聞いてすまなかった。許してくれ」
「いえ」

意図が読めない会話だったが、ララスンはそのままデウスに説明をした。
今回、彼女が呼ばれた理由である。

「現地説明となることをまず許してくれ。このあとしばらくすると君に出撃してもらうことになっている。到着後すぐで申し訳ないが」
「緊急のミッションでしょうか?」

現地合流後にすぐさま出撃というパターンはデウスが今まで幾度となく経験してきた事例であった。
ララスンがいう緊急のミッションもそれの類かと思われたが、少々違うようだ。

「厳密にいえば違う。これより先に控える大規模攻勢に備えた戦力を用意する必要があってね。簡単に言えば君の評価試験といったところかな」
「大規模攻勢前の評価試験ですか」
「気分を悪くしたなら謝る」

続きを聞かされて納得する。これもよくあるパターンだった。
デウスはEARTH所属のメードでもかなり情報がすくない分類に入る、いわば特殊なメードである。
大規模攻勢を前に、戦力の充実化を図るため、外部から招き入れた戦力に対して評価試験を受けさせるのは至極真っ当なことだ。
これが他国のメードなら国際問題にもなりそうな内容だが、国家という枠組みが存在しないEARTH所属メードにはよくあることだった。

「いえ、大丈夫です。もとより私の信用は戦果でしか表せませんので」
「助かる」

デウスはとくに悪く思うこともなく、評価試験の任務を受けることに承諾する。

「では内容の説明と行きたい所だが、今回の試験では直接君を見てくれるメードを紹介しておく」
「監視員ですか」
「いや、測量員というべきかな。実際に君の戦力評価をとるメードだ」

ルフトバッフェ所属のメードが直接デウスの評価をするという部分にプレッシャーとは別の、何か引っかかる部分を感じたデウスだったが、ララスンが声を上げてそのメードを呼んだとき、そんな思考は吹き飛んだ。

ドレス! こっちへ来なさい」
「はぁーい・・・」
「!」

測量員というからもっと冷たくて、ララスンみたいな女性が出てくると思っていたが、思っていたより幼く、かつ微妙にやる気のしない声を小さく発して二人の前にメードが現れた。
身長が極端に小さく、フリフリがいっぱいついたメイド服を人形のように着た女の子で、左側についている髪留めがチャリンチャリンなっている。どうやら鈴らしい。
ぶかぶかな服のせいで手が出ておらず、襟も口元までかぶっている。
とても愛らしい格好だが、その子の目はこれでもかと言わんばかりに嫌そうに見つめていた。

「我がルフトバッフェの目と耳と口を担当する“ツィカーゼ”、青の部隊所属のドレスだ。まぁちょっとクセがあるやつだが、“他の連中より”遥かに大人しくて言うことを聞いてくれるとてもとても良い子だ」
「は、はぁ・・・」

“他の連中より”の部分をやたら強調したララスンに押されそうになったデウス。
微妙に得意げな、というより“めちゃくちゃ助かってる!”といった感じのオーラがさんさんと輝いていて、そのドレスの頭をぐしゃぐしゃになるほど撫でている。
当のドレスはやっぱり嫌そうな顔してララスンの腕を払おうとしていた。

(なんだか親子みたいな感じですね・・・)

すごく幸せそうに見えていた二人の姿が急に懐かしく思えた。

「私としてこんな優秀なメードが入ってきてくれたことを心から誇りに思っているだ。なぁドレス!」
「うぜぇーです。はなせババア」

ガッ!

「つい先月1歳の誕生日を迎えてね。教育期間を終えたところなのだ。まだ色々教えるところがある未熟なバカだが、何か言ってしまったら広い心で許してやってほしい」
「は、はい・・・」

殴った手を痛そうに抱えながら必死に顔をつくって話すララスン。となりではドレスが目を回して座り込んでいる。
なんだか面白そうな場所だと思ったデウスの顔に、ちょっと笑みが出ていた。

(やはり癖はあるが、笑えるほどの人格はあるか。あとは実戦次第か・・・)

デウスの顔を見て人格を探っていたララスンは、彼女に対しては心配ないと確信した。
孤独感の強い感じはあるが、彼女は十分力になってくれると、感じていた。

「さて、自己紹介はこれまでにしてだ。今回の試験内容を伝える。よく聞いてくれ」





今回のすぺしゃるさんくす



陰ながら始めますた。
文章力がアレなので読みづらいと思いますが、よろしくお願いします。

とりあえず、デウスたんは頂いておきます。
返却はしませんのであしカラ・・・ズ・・・(瘴気汚染










最終更新:2009年02月22日 20:36
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