死線の城

(投稿者:エアロ)

-戦争で死ぬのは愛国を叫ぶ指導者でも戦術を考案する将官でもない。
前線で戦う兵士たちなのだ。
戦争は勝者の欲望をあまたの戦死者の血で書いた書物なのだ-

エディ・アロライン

1月28日

エメリンスキー旅団がゼヴァーナブルクに布陣したとの報は偵察メードによって軍司令部にもたらされた。
大陸戦争時の要衝であり幾多の兵士を欲した要塞が、追われている者の手に落ちた!
軍令会議ではかつてここを攻めたエテルネ・べーエルデー・ガリアの戦法に倣い、圧倒的兵力による方位殲滅戦が妥当との結論が出た。
しかし問題は要塞そのものであった。

ゼヴァーナブルクはクロッセル諸国に対する防衛線として建造され、西部要塞線、通称「マクシムム・ライン」の中継点の1つを形成していた。
南側をルインベルクとの国境線であるアイゼンガルド山脈の1つ、ミッターホルン峰の麓にし、後方から機甲戦力を使って攻める事はまず不可能。
正面から攻めるしかないのだ。
最も空軍であれば空からの奇襲攻撃も出来なくはないのだが、敵も恐らくその点を読み、対空兵器を多数配備しているだろう。

会議においては引き続き陸軍第1師団が主攻撃部隊とされ、同時に攻めるのは親衛隊第3戦車大隊・第7重砲大隊・第13重侍女兵団となり、
対空兵器排除を待って空軍第6戦闘飛行隊と第8戦闘爆撃隊の護衛による陸軍第13降下猟兵中隊、親衛隊からは帝都防空飛行隊が出撃する事になっている。

「以上が、会議で決まった事だ。我々第5大隊は本隊右側、要塞右側面を突く」
グレゴールが兵士達に説明している。
今回の戦いはいくら敵に地の利があるとはいえ、兵力ではこちらのほうが勝る。
兵器を補充しても扱う者がいなければ銃も剣も戦車も大砲も単なる鉄クズである。
そしてなによりもこれ以上内輪もめを続ければ帝国に対する各国の信頼が落ち、
3月の終わりごろから活動を開始するグレートウォールのGに遅れを取ることは必死だ。
「敵を速やか且つ、効果的に排除し、味方の犠牲を最小限に抑える!これは命令である、各員指示あるまではむやみな攻撃は禁ずる!」


1月30日

第一師団と親衛隊陸戦部隊はゼヴァーナブルク前面に布陣した。
2部隊とも郭翼陣形を取り、要塞を半包囲体制化に置いた。
しかし敵もさるものだった。
要塞前面の畑は完全に姿を変え、鉄条網が敷かれ地雷が埋められていた。
「これは手強いな・・・」
グレゴールは指揮型ハノマーグ装甲車から双眼鏡で要塞を見てうなる。
「工兵部隊を行かせて見るか・・・?」
「閣下、それは無茶というものです。恐らく奴等は鵜の目鷹の目でこちらを狙っています。
 工兵に死にに行けというようなものですよ」
「確かに無茶だ。だが誰かが行かねばなるまい?だがまだ攻撃は待て、本隊が降伏勧告を行っているところだ」


その本隊は旅団に対しての勧告を行っていた。
<エメリンスキー旅団兵士に告ぐ、卿らには弾劾決議が下り、本来処分を待たねばならない身である。
 しかし武器を奪い要塞に立てこもるとはどういうことか!勝算なき戦いに身を投じ、無駄に命を散らす気か!
 直ちに武器を捨て投降せよ!今ならばまだ間に合う、直ちn・・・>

その音声は続かなかった。

師団広報官は足を撃たれその場にうずくまってしまったからだ。
「ぬうう、愚弄するにも程がある!師団司令部から各指揮官へ、攻撃を開始せよ!
 ただし歩兵の前進はまだだ!砲撃を集中させよ!」
シュトックハウゼン師団長の激が飛び、同時に各指揮官へ通達が出される。

「ようし、戦車隊、前へ!(パンツァー ヴォー!)、ただし鉄条網は越えるな!」

グレゴールの指示とともに4号戦車やパンター戦車等で構成される戦車部隊が前に出る。

「閣下、各車準備OKです。」
方々からその声を聞いたグレゴールは右手を振り上げ・・・

この声とともに振り下ろした。

撃て!(フォイヤー!)


号砲と共に横一列横隊に並んだ戦車隊はいっせいに火を噴き始めた。
各戦車の75mm砲からはAPDS弾や榴弾が次々と吐き出され、壁面へ炸裂していく。
しかしさすがは難攻不落を誇る要塞、爆発はしても穴が開く気配は見られない。
「砲兵隊!フンメルやアハト・アハトで要塞に曲射砲撃を仕掛けろ! 中に弾が入れば彼らも平静ではいられまい!」
グレゴールの指示と共に、第1師団の重砲大隊は射角を調整し始めた。
そして終わると同時に砲撃を開始する。
砲撃は地を揺らし、空気を振るわせる。



-要塞内部-

「兄貴、奴ら撃って来たぞ!だから俺は反対したんだ、広報官を撃つなんて!」
「どっちみち俺たちは討伐される身だ、いまさら何を惜しむ。 ・・・まてまて・・・砲撃だ!よく音を聞いて直角方向に逃げろ!」
ブリクトロフとツェゲショフは音を聞きその方向に身を翻した瞬間、榴弾が広場に炸裂した!
たちまち爆音と噴煙が吹き上がり、そこにあった台座がひっくり返る。
「おいお前ら何ぼさっとしてる! こっちもやり返せ!これは戦争なんだぞ! 迫撃砲、用意!」
ブリクトロフが檄を飛ばすと旅団員は速やかに持ち場に付き、準備を整えた。

撃て!(アゴーイ!)

ブリクトロフのヴォストラビア語の号令が飛ぶと同時に迫撃砲や機関砲が火を噴く。
要塞からは激しい弾幕が展開され、各師団ともなかなか近づけない。

「チャンスさえあれば打って出る、そして奴らを思いっきりかく乱してやるんだ。それに、"コイツ"もあるしなぁ」
ブリクトロフは広場の奥にあるものを見上げてつぶやく。

540mm自走臼砲 ロキ(Gerät 040 Karl-Mörser Roki kal. 540 mm)

要塞攻略用に大陸戦争末期に開発された怪物兵器だったがメードの登場により無用の長物と化し、保管庫で眠りについていたのだ。
それをグライヒヴィッツがたたき起こし、マーシャの手でこの要塞まで運ばれてきたのだ。
「あの旦那と売人、いいもの用意してくれたじゃねぇか。 よし、お前ら。1発ぶっ放して奴らの度肝を抜いてやろう!」
指示が飛ぶと同時に30人の操作手がロキへと集まる。
そして砲弾が装填され、仰角を定めたロキ。
ブリクトロフは一呼吸起き号令した。

撃て!(アゴーイ!)


大陸戦争では遂に火を噴かなかった巨砲が、今火を噴いた。
それも味方だった者たちへ向けて。



最終更新:2009年03月31日 15:54
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