らうんど☆すたーず 保健室のゼノヴィアさま

(投稿者:フェイ)



ラウンドスターズ隊員として割り当てられた個室から出る。
しっかりと鍵をかけたのを確認すると、ポケットから札を取り出してそっとドアノブにかける。

『御用の方は医務室まで』

ゼノヴィアは一つ頷くと、医務室へと向う。



入り口に『受付中』の札をかけて医務室の中へと入っていく。
ロッカーから白衣を取り出し、お気に入りの服の上から羽織った。

「さぁて…今日はどんな患者さんが来ぃはるかねぇ…」





コンコン、と医務室の扉がノックされた。

「どうぞ~」
「………お、お邪魔するだよ…?」

ゆっくりと恐る恐る扉を開いて顔を覗かせたのはヒカル
ゼノヴィアは安心させるようににっこりと微笑みかけると手招きをする。
その笑顔に安心したのか、まるで小動物のようにちょこちょことヒカルが近づいてくる。

「まぁ座りい。…で、どないしたん?」
「あやー……ゼノビアさんさ絆創膏もってねだか?」
「バンソーコー?」

聞き覚えの無い単語にゼノヴィアが首をかしげると、ヒカルは握ってた手を開いてみせる。
その手の指に、一筋の切傷があり、しかも切れた場所が悪かったのかダクダクと血が流れでている。

「スワローば投ぐる練習としていたら切ってまって…」
「おんや……ああ、なるほど」

ゼノヴィアは机の引き出しをあけると中から缶を一つ取り出しあける。
中からバンドエイドを取り出し。

「バンソーコーってバンドエイドのことやね。消毒も一緒にしとこか」

さらに引き出しからガーゼと消毒液を取り出す。
ヒカルの手をそっととってガーゼを当てると、一瞬びく、と震えるが。

「心配いらんよ。ちょいと染みるかもしれんね、そこは勘弁なぁ」

まず血をふき取り、二、三度消毒液を拭きかけ、ガーゼで軽く拭ってからバンドエイドを巻く。
人差し指を終えたら中指、と手際よく巻いていき、ヒカルは傷口に染みる痛みに時折顔をしかめながらも、感心したようにそれを眺める。

「はい、おしまい。次からは気をつけなはれ?」
「ん、気ぃつけるだよ……ゼノビアさんさ、ありがとな」

ゼノヴィアはにっこり笑顔で医務室を出て行くヒカルを、優しく見送った。





コンコン、と医務室の扉がノックされた。

「どうぞ~」

言いながら扉を開けると、そこにはジャックがいた。

「入るぜ、ゼノヴィア」
「おやジャック。珍しぃこともあるもんやねぇ……まぁ、そこに座りぃ」

進めた丸椅子にどっかりと座り込む。
ゼノヴィアはカルテにジャックの名前を書き込んでから、椅子に座ったジャックへと振り返り。

「………ジャック? なしてベルト外してズボン下ろそとしとるん?」

声をかけられるとジャックは顔を挙げ、ニヒルに笑って見せた。

「ふ、お前の事を思うととある部分がガチガチに硬くなっちまってな。病気かもしれないからとりあえず触診を―――」

笑顔のまま、一切の加減無しにゼノヴィアのしなやかな脚がジャックの股間を蹴り上げた。
椅子から転げ落ち悶絶するジャックに二回、三回と連続して蹴りを見舞い、医務室の外へ蹴りだすと机へと戻る。
カルテには一言だけ書き込んだ。

『馬鹿につける薬なし』





コンコン、と医務室の扉がノックされた。

「どうぞ~」

返事が無い。

「………どうぞ~?」

しばらく待つと、外からなにやら声が聞こえ始める。
不思議に思い、席を立ってゆっくりと扉を開けて外の様子を覗き見る。

「……ゼノヴィア」
「あ、ゼノヴィアさーん」
「……アシェナに………えーと」

アシェナの腕をしっかりと掴んで医務室へ連れて行こうとしている少女を確認する。
ベリッシュのようだが、髪をロングにしているから――。

「あ、今はベリシュナイデッドですよ~」
「二人でなにしてはるん…? 今のノック、ベリシュナイデッドやね?」
「そうです~、聞いてください~。アシェナさんったらまた怪我したのに医務室はいかないって駄々こねるんです~」
「駄々をこねてるわけじゃないわ。これぐらい何時ものことよ」
「ダメですよー。塵も芥も山もあるっていう楼蘭のことわざがあるんですー」
「それは塵も積もれば山となるだったような気ぃするんやけどねぇ…」

ゼノヴィアの突っ込みも聞こえていない様子でベリシュナイデッドはアシェナの腕をぐいぐいと引っ張る。

「っ、分かった。わかったから離して頂戴。それ以上引っ張られると開かなくていい傷が開くわ」
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
「まぁ、言質はとれたということで…一名様ご案内どすなアシェナ?」

アシェナは気だるげにため息をつきながらも大人しくゼノヴィアに従う。
その様子を見守ったベリシュナイデッドは嬉しそうに手を振りながら医務室を去っていった。

「……まったくあの子は。早めに済ませてくれる?」
「他人に感づかれるような傷つけたままのトレーニングはあまり推奨できんねぇ…とりあえず、マントコートをぬいで背中をこっちに」
「………」

言われたとおりマントコートを脱いで横に置き、ゼノヴィアに背中を向けるアシェナ。
そのまま黒いドレスをするりと脱ぐと、肌が露になる。
白かったはずの肌には多くの傷跡や打ち身の痕、痣などが残っており、さらに左肩には新しく大きな切傷が血を滲ませていた。

「これはまた大きな傷が残りそうどすなぁ」
「構わないわ。むしろ消毒だけで十分」
「またそんな事いうて……ああ、せっかくやし新しい治療法を試させてもらいますぇ?」
「……勝手にすれば」

面倒くさそうなアシェナの呟きを軽く無視するような形でゼノヴィアは処置を始める。

「ちょっと冷たいのは堪忍なぁ」
「え……? ひゃっ」

いきなりかけられた水にアシェナの身体がびくり、と震える。
構うことなくゼノヴィアは傷口を洗っていくと、ラップを取り出し軟膏をつけアシェナの身体に巻いていく。

「………なにこれ」
「医学界で発表された新しい治療法どすぇ。なんでも…消毒よりきっちり傷が消えるとか」
「別にいいといってるじゃない。今更一つ二つ消えたところで変わらないわ。ベリシュナイデッドにも言い聞かせておいてもらえない?」
「自分でいうたらどうどす?」
「…」

処置を終えたアシェナは黒いドレスとマントコートを着なおすと、どこか苦虫を噛み潰すような顔で答える。

「……ああいう子は苦手なのよ」
「アシェナが嫌いじゃなくて苦手なんて…珍しいこともあるもんどすなぁ」
「あの無邪気すぎる態度がね…。……。それじゃ」

その後の言葉を拒絶するようにアシェナは廊下へでると扉を閉じた。
後姿を見送ったままゼノヴィアは小さく息を吐く。

「しょうの無い子やねぇ……ベリシュナイデッドにはもっとかまうよういっとかんとね」





「ああ、もう夕暮れやねぇ」

オレンジに染まった窓からの光を眺めながらカルテに書き込んでいた手を止める。
んー、と一つ伸びをして、部屋を片付け始める。
一通り綺麗に整理整頓、満足げに一つ頷くと白衣をロッカーへと戻して部屋の外へでる。
と。

「ゼノヴィア。今日も医務室にいたんだ」

横から声がかけられる。
振り向けばそこには脇に本をいくつかまとめてもったミザリー

「ミザリーこそ、また図書室?」
「まあね」

入り口にかけていた札を取りポケットへ仕舞いこむと、ゼノヴィアはミザリーの隣に並んで歩き始める。
自然とミザリーの歩調がゼノヴィアにあわせられる。

「今日は忙しかった?」
「ぼちぼちいうとこ…まぁ、途中おバカさんらが来たんで退屈はしはらんかったねぇ」
「?」
「ああ、そうそう。教えてもらった治療法、アシェナで試したんよ」

その言葉にミザリーの耳がぴくり、と反応する。

「…どうだった?」
「まだなんとも言えへんねぇ。まぁ結果は報告するから安心しぃ」

ぽんぽん、とミザリーの肩を叩くゼノヴィア。
うん、と頷いたミザリーは何かに気がついたように一つ、ため息をついた。

「あのアシェナが素直に見せてくれればね」
「…それはあるわなぁ…」

しばらく考え込み。

「……まぁ、いざとなればベリシュナイデッドに言えばなんとでもなるわなぁ…」
「……詳しく聞かせてもらえる?」
「アシェナに許可とってきたらなあ?」
「………」

くすくすと笑うゼノヴィア。
その横顔を見ながら、ミザリーは脳内の『敵に回すなランキング』を変動させた。









「……ミザリー? 失礼なこと考えたらあきまへんえ……?」
「う…」


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最終更新:2010年01月18日 19:36
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