あるひの

(投稿者:トーリス・ガリ)





ある日


 ケイトマーヴと一緒にお出かけしていた。コノヤロウ。
 スーパーの下着売り場を物色中だ。挿絵など描くつもりは無い。残念だったな。
 二人とも私服なので誰もメードだとは思わねぇだろうよ。ザマァミロってんだ。

「先輩……」
「何?」
「…………」

 ケイトは真っ赤だ。まるでトマトだ。
 そのまま破裂したら面白いと思うぜ。やっぱグロいからやめれ。
 マーヴに悟られないように自分の胸とマーヴの胸をチラチラと見てる。
 小さいのがそんなに嫌か。だったら自慢の鎌で開いて乳腺にこんにゃくでも詰め込めばいいぜ。

「何さ?」
「………………なんでもないです」

 マーヴは若干気になるが別にどーでもいーやっていうかどーせ胸の大きさの話だろとか思った。
 つまりあっさり悟られてるんじゃないかバカヤロウ。ケイトは相変わらずダメなヤツだな。
 マーヴは紫っぽいヤツを選んだ。とりあえず決まり。
 ケイトは聞こえないように溜息を付きつつ自分のサイズのとこでいいのがないか選んでみる。
 見てみるとカワイイのが多い。
 そしてケイトは優柔不断。
 つまりハマったってことだ。
 こっちのいいなー、でもこっちもカワイイ、あっちのもほしー、そっちも捨てがたい。
 さっさと決めないとマーヴに小突かれるぞ。ゲンコツの中指の関節のとこで。

「おーい、まだー?」
「え……? あ! あ、ごめんなさい、今行きます!」
「別にいいから。公衆の面前でバカみたいに怒ったりしないから。さっき買った本もあるし。でもできるだけさっさと選んでよ」
「はい、ごめんなさい……」

 気が付けばベンチに脚を組んで座ってファッション誌を開きながらマーヴ、なんか微妙なこと要求してるっぽい。
 とりあえずさっさと選ぼうとするもそこはケイト。マーヴの顔色が気になって選べん。
 しかしそこはケイト、だからってわざわざあっちが待ってるのに買わないで戻ってきたらなんか言われるんじゃないかとか思う。
 でもやっぱり見てると迷うし、マーヴの顔色が気になるし、選べねぇ。見事に悪循環。

「…………」
(あ……チラチラこっち見てる)

 そら見もするわさ。
 いや気遣って見ないでおく人だってたくさんいるけど見るわ。
 それもこれもお前がモタモタしてるからだケイト。このエクソダス先生め。
 顔色と下着の色とが迫ってくる。大した事してないくせにケイトは頭がグルグルしはじめた。
 すると左隣の方から突然手が伸びてきてケイトの右肩を掴んでぐいっと引き寄せ、同時に声。

「ねぇキミ、この黒とこっちのワインレッドと、どっちがいいと思う?」
「う、え!?」

 ケイトはビビった。
 知らない人に不意打ちで馴れ馴れしく「どっちがいいと思うー?」なんて聞かれたらそりゃビビるわ。
 ただでさえビビリなケイトだし。事実さっきからずっとビビリっぱなしだ。
 見ると、ガラの悪いパンクファッションに金髪のツンツンショートヘアーの生意気そうな娘。

「ええ……あぁ……っとぉ……」

 自分のも決められないのに他人のなんて決められるわけ無い。
 ケイトはその真っ赤な両目にコアエネルギーを集中させて、マーヴの方にその眼差しを向けて「助けてビーム」を放った。
 マーヴは肩をすくめて「アタシゃ知りませんがなバリア」を張って防御。
 無効、勝算が初めから無いことくらい知ってた。
 ならやるなと言いたいが、希望を捨て切れなかった。ドンマイケイト。
 諦めて自分の肩をガッチリしてる人の方に視線を戻すと、僅かとはいえ視線を逸らされてちょっとだけ不機嫌そう。
 なんかコーラ味の匂いがすると思ったらガムを膨らませてた。

「何、決めらんない?」
「え、あ、え、あの……」
「あの……って何よ? 決めらんないの?」

 怖ぇー。
 ケイトの心臓はオーバードライブだ。
 だが黒かワインレッドかと言われたらなんとなくワインレッドがいい気がしたのでワインレッドを選んでみた。
 自分のじゃなくて他人のはすぐ決まるのかよ。

「こ、こっち……かなぁ……」
「あ、そう? まー黒は別のヤツあるしなー。サンキュ、赤目ちゃん♪」

 突然聞いてきて、ビビるケイトに苛立ち、なんとなくで選んだワインレッドの下着に満足し、安直なあだ名を付けてきやがったコイツ。
 良く言えば社交的、フレンドリー。
 悪く言えば図々しい、強引。
 マーヴは本を読むのをやめてこっちみてる。
 助けるつもりなど元より無い。

「で、赤目ちゃんも探してんの?」
「え? あ、まぁ……はい」

 「どれで迷ってんの?」と聞かれ、「コレとコレとコレとコレとコレとコレ」と優柔不断っぷりを遺憾なく発揮してみせる。
 流石にパンクの人も呆れて「ええ~」とか言った。無理ないわ。
 だが一応選んでもらったわけだし、とりあえず見てみるパンクの人。
 候補は薄ピンクの模様違い二つと薄緑と薄黄色の模様違い二つと薄紫の六つ。
 赤目ちゃん、薄い色が好きらしい。

「全部買っちゃえば? いやウソだって。……じゃあねー、黄色かな」

 それを聞いてやっと決心が付いた。
 いやホントは付いてないけど黄色にすることにした。
 せっかく選んでくれたのにまだ迷ってたら失礼すぎるだろ。
 このパンクの人なんか怖そうだし。

「……じゃあ黄色にしますね。なんか迷惑かけちゃったかな……ごめんなさい」
「迷惑? なんで?」

 しかし「まぁいいや」と気にする様子も無く、そのまま試着室へ直行。ケイトの腕を掴んで。
 ケイトは流石に嫌がってる。マーヴに「大出力助けてビーム」を撃つが助けるつもりなど元より無い。

「……あー……もうちょっと読んでるか」



またある日


 おはようございます。
 V4師団です。
 今度の水曜日ですが、開いていますね?
 時間が空いたので、イェルマイト州でお楽しみパーティを開こうと思います。
 午後1時には着く予定ですので、それまでにケーキとご馳走と出し物のご用意をお願いします。

           V4師団・MBT





 意訳。やけに丸っちいギャル文字と独自の言い回しと絵文字満載の襲撃予告がおととい届いた。
 黒旗知事さん大変だよ、頭のおかしい人が街に暴れにやって来るよ。
 なので、いつもは暴れたりする立場の黒旗組が今日は町の平和を護る純正のヒーローさ!

「でもさー、アンタの能力ってなんでも切り刻む能力でしょ? 防衛向きじゃないよね明らかに」
「……はい」

 と、マーヴとケイト。
 そもそもぶっちゃけ黒旗の性格からして、市街戦はよくやるが防衛作戦はあんまりやったことが無い。
 安心しろ、きっと謙虚なナイトさんがかばってくれるさ!
 ……とでも思ったか! ナイトは予告が嘘っぱちで実は本部襲撃が目的だったら困るから本部で待機だぜ。
 レイチェルとコシチェイもいるし、なんでかアリューシャパトリシアが協力に出された。

「あー、喧嘩相手と共同戦線かー」
「ま、今日のところは仲良くしよ? ねー死神ちゃん?」
「は、ぃ……」

 パトリシアはコシチェイを見て「オーウ! バーイオハザード!」みたいなことを言ってる。
 コシチェイは大型のおっぱいが嫌いなのでそんなものは無視してケイトのすぐ後ろでハァハァしてる。
 ケイトはコシチェイがおっかなくて固まっているのでアリューシャのフレンドリーなご挨拶もなんか上の空だ。
 アリューシャはヘイロゥを指でくるくるしながら暴れるのが楽しみっぽく笑みを浮かべてマーヴに和気藹々話しかける。
 マーヴはアリューシャにオバサン呼ばわりされて青筋を立ててる。
 レイチェルは息してる。
 そしてそこへお待ちかね、頭のおかしい人がたくさん現れやがった。
 黒い全身タイツの集団が甲高い奇声を上げて、無駄にバック転とか側転とか宙返りとかして。
 これがあの戦闘員ってヤツである。

「ユー達? V4デスカ?」
「あ、はい、そうです。こんにちは」
「え? じゃー蹴散らしちゃうよ? いーの?」
「ええ、まぁ……」

 奇声を上げてた頭のおかしい人達の一人が軽く会釈をしてきた。どうせなら戦闘員キャラ貫き通せよ。
 そしてアリューシャの一言によって了承を得た海兵黒旗チームは頭のおかしい人達をやっつけ始めた。
 切り刻んだり打ち抜いたり、しかも切り刻んだりもするし切り刻んだりもした。
 ついでに切り刻んだり、おまけに切り刻んだ。
 それにあたふたしたり打ち抜いたりもした。
 更に切り刻んだり、あとハァハァしたり、最後に切り刻んだりして圧倒的な展開で戦闘員をサクサク処理していった。
 が、どこからともなく突然飛んでくるヨーヨー。
 間一髪で避けるアリューシャ。
 誰かがスケボーで突っ込んでくる。
 ケイトはなんとか避ける……ていうか逃げる。
 レイチェルは息してる。
 誰かはそのままジャンプし、空中でスケボーをしまい、両足でスタッと着地した。

「また中途半端に派手な演出じゃないか。誰だいアンタ?」

 このまま終わってしまったら面白くない。
 だから現れるのである。頭のおかしい襲撃予告を書いた本人が。

「よく避けたね。まー、これくらいじゃないと楽しくな……て、あああああぁー! パティ!? マジで!?」
「ワーーーーオ! メルビィーィ! 会イタカッタヨー!」
「なぁに? パトリシアの友達?」

 マーヴは無視された。
 メルビィと呼ばれたスケボーヨーヨー娘パトリシアを見てなんか嫌そうな顔。
 どうやら彼女とパトリシアは知り合いらしい。
 そしてその顔を知ってるのはマーヴとケイトも同様。

「あ、あの人あの時の……!?」
「ああ、アンタを着せ替え人形にしてたヤツか」

 マーヴの発言にコシチェイが過剰反応してる。着せ替えケイトちゃんハァハァ。
 まさかこんなとこで再会するなんて思わなかったわ。ボコるけどさ。
 メード六人、しかも優秀なのも混じってるその海兵黒旗チームに実質ほぼ一人状態のメルビィじゃ部が悪い。
 例えて言えばセガールを生スパゲティ一本で倒すぐらい無理。ごめん言い過ぎた。
 レイチェルは息してる。

「へー、死神ちゃんってやっぱりそういうイジラレ系なんだー?」
「……ち、ちがう…………」

 ていうか話がケイトのイジラレイベントに逸れ始めるのだった。
 恥ずかしい悲鳴が引っ切り無しに聞こえたとか、鷲掴みがどうとか、ケイトはその後しばらく真っ赤な顔でマーヴにくっ付いてプルプル震えてたとか。
 コシチェイとアリューシャは大喜び、パトリシアはなんか爆笑してる。
 レイチェルは息してる。
 黒旗と海兵隊は今日も平和だ。
 だが平和な日常会話っぽいものに突然ヨーヨーが割り込んでくる。「無視するなー」とばかりに。
 コシチェイはそれをチェーンソーで弾く。
 ……という夢を見たんだ。
 コシチェイは頭に食らってぶっ倒れた。
 でもコシチェイだしいいや。

「あ、ゾンビが死んだけどいーの?」
「ゾンビは元々死んでるからいいんじゃないの?」

 コシチェイがダメになったので海兵黒旗チームは五人。
 ていうか一般兵いないのか海兵黒旗チーム。
 だがこれで戦隊モノの構図になった。
 アリューシャレッド!
 ケイトブルー!
 パトリシアイエロー!
 マーヴブラック!
 まさかのレイチェルピンク!
 戦闘員はたくさんいるしヨーヨー怪人メルビィもいる!
 あとは合体ロボがいてメルビィが巨大化すれば完璧だが贅沢は言ってられない。

「ちょっと待ってよ! 納得できない!」
「What?」

 メルビィは怪人が嫌なようだ。
 しかしこの絶妙なシチュからしてメルビィはどう見ても怪人ポジションだ。
 何を言っても無駄だ。諦めるんだな。
 レイチェルは息してる。

「でさ、結局なんで襲撃しに来たわけ? 無駄に予告まで送りつけてきて」
「え? 知らなーい。やれって言われたから仕方なくやってるだけだもん。オヤジの考えることなんていっつもぶっ飛んでるし」

 仕方なくやってるわりには襲撃予告の字面がノリノリだった。
 パーティが大好きな性分に違いない。

「……下っ端ってこと? まぁいいわ。顔見知りでも容赦しないのはわかってるね? 少なくともアタシはそうだから」

 大半ケイトその他に任せてるくせにどの面下げて言ってるんだこの人は。
 ともあれやっとボス戦開始。
 一斉に飛び掛る雑魚ども。
 しかしレイチェルが流れるように迎撃していく。迎撃しつつ突っ込んでいく。
 さっきから息してるだけだったが動くときは動くのだ。レイチェルかっこいい。
 戦闘員に混じってヨーヨーが一発飛んでくる。
 脚。重心の方を的確に狙って。
 やることはしたたかなあたり、どうやらアホの子ではないようだ
 だがレイチェルもレイチェルで、そのまま前宙をしっかり決めて避ける。
 その間に回り込んだアリューシャが両腕のヘイロゥを飛ばすが、軽く横っ飛びすれば避けられる。
 が、メルビィはお見通しだ。
 避ければ、先にはマーヴが静かに狙っている。
 だからあえて回避運動を取らず、スケボーを盾にして防いだ。

「はっ! ドイツもコイツも甘いよね!」

 と言った瞬間。
 死んだはずのコシチェイがメルビィの脚をガッチリ掴んでる。超ホラー。
 なんか物凄い満面の笑み。
 そして甲高い、けっこうカワイイ悲鳴が上がった。

「何!? 何よ!? なんでそんな元気そうなの!?」
「だ、だって、キミって凄く可愛いし、こ、ここ、こ、ここからだとね、ほら、くっ、食い込みスパッツがじっくり見られるんだ!」

 メルビィは真っ赤になってもう完全に取り乱して戦闘どころじゃなくなった。
 そこへ……

「スキヤキ!」

 いや隙ありだろ。
 瞬間移動してきた、もとい、一瞬で間合いを詰めたパトリシアが正面からハリセンでズバーン! 月光じゃなかった。
 だがメルビィはホームランされてキリモミで飛んでいって標識に顔からビタッとぶつかって止まった。
 そして剥がれて落ちてくるところに偶然走ってきたトラックに直撃してまたぶっ飛んだ。
 そして落ちてくるところに偶然走ってきたコンクリートミキサー社に直撃してまたぶっ飛んだ。
 そして落ちてくるところに偶然走ってきたバスに直撃してまたぶっ飛んだ。
 そして落ちてくるところに偶然走ってきたキャンピングカーに直撃してまたぶっ飛んだ。
 そして落ちてくるところに偶然走ってきた牛に直撃してまたぶっ飛んだ。
 そして戦闘員のいるところに落ちてきた。
 だがメルビィはしぶとく生きていた。
 これにはみんなも拍手した。戦闘員も拍手した。
 ケイトはみんなに圧倒されてぜんぜん動けなかった。
 そしてプルプル震えながら何とか立ち膝ぐらいまで起き上がって、悪役お決まりの捨て台詞。

「ぐふ……ごほ……こ、これで勝ったなんて……思うんじゃ……あ痛ッ! 今回はあたしの……運が……悪かっただけ……げほっ!」
「いや素直に勝ったと思っちゃうけど、今回は確かにアンタ運悪かったわ。いやホント」

 メード的に多勢に無勢、部下は役立たず、コシチェイの斉気道を知らなかったこと、そして働く車と牛。
 全てが海兵黒旗チームの味方となった結果メルビィ惨敗。まぁこんな日もあるさ。
 そしてメルビィは戦闘員に担がれてどこかに逃げていく。

「食い込みちゃんが! にっ、にっ、逃げちゃう!」

 逃がさんぞ食い込みスパッツ! とばかりに起き上がったコシチェイがダッシュ!
 しようと思ったらケイトが腕を掴んできた。
 振り向くと頬を赤らめたケイトが寂しそうに何かを訴えるようにまっすぐこっちみてる。台詞を入れるなら「むぅー」みたいな感じだ。

「……あ! ごっ、ごめんなさい! わたし今何したの!?」

 どうやら咄嗟に手が出たらしい。コシチェイは勝ち組だ。苦しんで死ねばいいのに。
 隊長、追撃しますか? 慌てるな、次も敵とは限らんだろう。
 いやあのノリなら多分次も敵として出てきてくれるはずだ。
 レイチェルは息してる。

「コンプリートデスネー?」
「んー、多分そうみたいだねー」

 そしてその夜、六人でファミレスに行って帰った。
 けっこうみんななかよしだったという。
 ただしコシチェイはキモかった。



またまたある日


 ケイトがピンチの時にコシチェイが咄嗟に庇ってくれたフラグイベントがあり、そこから色々運命の歯車がギアチェンジしまくってカオスっていた。
 その後も誕生日バレンタインクリスマスハロウィンホワイトデーお着替え遭遇曲がり角激突勢い余って押し倒しなどなどでフラグは鼠算だった。
 要するにこうだ↓

攻略対象キャラ 低□□□□□□□□高
ケイト ■■■■■■■■■■
マーヴ □□□□□□□□□□
レイチェル □□□□□□□□□□
バージュ ■■■□□□□□□□
ババヤガー ■■■■■□□□□□

 最早グッドエンドは時間の問題なのである。不慮の事故でもない限りはね。
 コンチクショウ、コシチェイめ、お前なんかトイレでウンコ中に突如苦しんだ末下半身丸出しで絶命してその二秒後マーヴに発見されてしまえ。
 更に更に、コシチェイフラグの影響でだんだん笑顔を取り戻してきたケイトを受け入れる人がポツポツ現れ始め、居場所として確立しつつあった。
 という前置き。

 それはそれとして今日はオフ。
 二人はデートしている。
 老夫婦の営む小さな喫茶店があって、そこのコーヒーが絶品だとマーヴからの推薦があった。
 最初は爺さんも婆さんもコシチェイに腰を抜かしたが、話の展開の都合上極短時間で慣れてもらっている。
 流石のコシチェイもコシを抜いたらチェイである。コシチェイだけに。意味不明。
 ケイトの味覚はお子ちゃまなのでミルクも砂糖もたっぷり入れる。
 コシチェイもミルクと砂糖たっぷり。お前がやると自分の気持ちに素直になれるぜ。もとい、直球のキモさを感じる。

 そしてコシチェイはスプーンでクルクル混ぜながら、テーブルの下をなんとかして覗こうと上半身をいろんな角度に傾ける。
 その様はレーシングゲームでカーブする時コントローラの十字キーだけ動かせばいいのにいちいち身体まで動かす初心者プレイヤーのようである。
 美少女がやればさぞかし可愛いんだろうが、コシチェイがやるとギガンティックキモイ。鼻息をフンフンしながらなので尚のこと。

「センパイ……あの、な、何してるの?」
「ケッ、ケイトちゃんの、ぱぱぱぱぱぱんつを……ぜっ、絶対領域を……」

 そしてそこはしっかり赤くなるケイト。まるでトマトだとは以前話したとおり。お前がトマトか。俺はポテトだ
 ケイトルート一直線となった現在、高感度MAXのケイトは服装をコシチェイ好みにチェンジしていた。
 ピンクのワンピースに白い上着、そして白ニーソにパンプス。だが今は喫茶店でコーヒーブレイクなので上着は脱いでいる。
 そして呼び方が「コシチェイ先輩」から「センパイ」になり、敬語が取れてタメ口になっている。
 ここまで来るとケイトすら殴りたくなってくる気がするのは気のせいだろうか。

「ぱ、ぱんつ、ぱんつは何色? 何色かな?」
「やっ、やめてよこんなとこで…………」
「い、いーじゃんいーじゃん、ね? ね? 教えてよ、ね?」

 迫る、迫る、迫るコシチェイ。
 ケイトがどんどんスモールライトしていく。

「……………………………………………………………………………………白です」

 泣きそうな勢いで声を震わせる。
 いっそのこと泣いてしまえ。そうすればコシチェイはヘンタイゾンビ行為の現行犯でおまわりさんとデートさ。
 ていうか答えるなよケイト。
 そしてコシチェイは狂喜乱舞のあまりウーパーサイヤ人になっていた。
 客の迷惑だから黙ってコーヒー飲んでなさい。

 とまぁ、そんなクソ不愉快なやりとりを、遠くの席から見ているイケメンと連れがいた。
 別にリア充死ねとかゾンビウゼェとか思っているわけではない。思ってても不思議は無いが。
 寧ろ微笑みながら見守っているのである。ヘンタイゾンビにセクハラされる女の子を微笑ましく見守るっていうのは絶対におかしい。

「……まさかこんなところで会えるなんて……あの様子なら見つけたみたいね、自分の居場所」

 イケメンはオネエだった。



 ◇



「……まさかこんなところで会えるなんて……あの様子なら見つけたみたいね、自分の居場所」

 とある喫茶店で革ジャケットが眩しい糸目のイケメンと縞々ブラウスで後ろ髪くるりんはねの女の子がお茶を飲んでいる。
 イケメンはアールグレイ、くるりんはねはアプリコットのフレーバーティー、お子ちゃま二人とは違いミルクにも砂糖にも手を付けない。
 アールグレイはいいとして、フルーツ系のフレーバーティーにミルクはそもそも合わないし。
 それに本来このお店のお茶は全体的に少し薄めで、あんまりミルクを入れると残念なことになるようだ。
 つまり先のケイトとコシチェイはダメなヤツラなのである。
 そんなもん人の勝手だろうとか言われるとそれまでだが。

「あの子が先生の……」
「ええそうよ、可愛い子でしょ?」

 アルトメリアに飛んできたマイナと、元教育担当官で地元出身のハイディがその二人。
 仕事でアルトメリアに飛ばされたマイナは、チャンスとばかりにハイディと連絡を取り、ちゃっかり会っていた。
 ハイディが行きつけの喫茶店を紹介してくれたので早速二人で来てみたら、なんかいた。という流れである。
 そして話題は、遠くの席でゾンビに迫られて半泣きになりながらも満更じゃない様子の女の子。
 字面だけ見ると「?」な状況だが、実際その通りなのである。

「あの……会ってきても、いいんですのよ?」
「え?」

 ちょっと寂しそうに、言いつつぷいっとそっぽを向く。
 それを受けて、何かの雑誌を広げて嬉しそうに話す死神とグヘグヘ言いながらデレまくるゾンビの図と自分達、マイナを見比べる。
 あーなんだ、と苦笑しながらハイディ、そんなマイナの頭をなでなでしてあげる。
 してもらった途端にぴくっと反応し、肩を縮ませて真っ赤になる。
 飛行機酔いに耐えてここまで来た甲斐があったってもんだ。

「ごめんね、そうだったわね」

 マイナとハイディが会うのは教育課程以来で二年半ぶり。
 それまではハイディの方から手紙が来て、それをきっかけに始まった文通だけの関係だった。
 一度だけ会う機会は会ったが、勇気を振り絞れずというか時間が無かったというか戦慄の観光客との間でトラブルがあったというか……。
 兎にも角にも、待ち時間の二年半がどれだけ長いことか。
 腹が減っている時のカップラーメン三分は宇宙が動くほど永い、これと同じ理屈だ。
 待ちきれずに一分で食べちゃダメだぞ。
 何が言いたいのかというと、マイナは正直ケイトなんて今はお邪魔虫にしか見ていないということ。
 大好きな先生といるこの時間を大切にしたいのだ。

「……でも先生だって、あの子に会いたかったはずでしょう?」

 大切にしたいのは山々だが、ハイディの心がアッチに行っているのなら一緒にいても辛いだけ。
 それならその問題を解決してもらってからゆっくりすればいい。

「気を使わせちゃったわね……でも大丈夫。あの子が自分で決めてあそこにいるんだし、あの子から会いに来るまで待つわ」

 教育担当官としてはさっさと腕を引っ掴んで連れ戻すのがいいのだろうが、それはハイディのルールではない。



 ◇



 普通の女の子に武器とコアの力、つまり殺すために必要なものを与えたのがケイトだ。
 臆病だとか役立たずだとか散々言われてるが、そんなのはっきりいって言う方が狂ってる。
 ケイトの頭の中は至って正常、そうは思わないか?

「それでね、あんみつだけじゃ足りないーってトリアさんと二人で葛神さんのとこに行ったら、あのニンジャさんがいたんだけど……」

 見ろ、武器を持たず普通に話をしている時のケイトは臆病でも暗いわけでもなく、実に明るい、笑顔に満ちた普通の女の子だ。
 話題こそ楼蘭返り討ちギッタギタのバッキバキ事件の話のようだが。

「普段は普通の着物なんだね。わたしね、ニンジャって緑の変な模様の袋を持って、頭巾を鼻のところで結んだのだって思ってたんだ」

 恥ずかしそうに苦笑しながら饒舌に話をするケイト。
 これはコシチェイと仲良くなってから少しずつ増えてきた光景だ。



「あの人のエッセイって、結構ためになることが多いんですのよ」
「その人はノーマークだったわねぇ。じゃあ昨日話してた電気代のも?」

 こちらの二人も巨大な騎槍やガトリングガンを構える戦士ではあるが、やはり普段はこうだ。
 マイナとハイディの距離も武器を持って戦うことがなければもっと縮んでいただろうに。

「最近書き始めて、まだ有名な人じゃないみたいですわね」

 かといってゴキブリやハエやクモが人語を理解し大人しくしてくれるはずもなく、残念でした。
 この光景は「あるひの」であって、決して日常ではないのだ。





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最終更新:2010年01月17日 16:36
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