(投稿者:天竜)
雲ひとつ無い晴天。
海もまた、静まり返っている。
そんな中、一つの影が、海上をゆっくりと横断している。
それを形容するなら、輝く眼球だ。
近づくと、更に良く分かる。紅に輝く巨大な眼球。
そしてそれは、微かに脈動している。
『
ゼロヌフォヌ』と呼ばれているそれは、
人間達からは『
オーバーロード』という種別で呼称されている。
その眼球の上に、黒い甲殻に身を包んだ人型のモノがあぐらをかいて座っている。
その背中には、大量の荷物が背負われている。
Gの組織、
クルセイダーの最年長、オリノ=リ=ヨーリだ。
「しかし…私の移動に手を貸してくれている事、感謝しているよ」
オリノがゼロヌフォヌに語り掛ける。
「ヴァーヴァヴァーヴァー」
ゼロヌフォヌが、形容し難い声を上げる。
「む?『暇だったから別にいい』?
…そうか、なら良いのだ」
オリノが笑う。どうやら、先程の形容し難い声は応対だったらしい。
「時に、君は我等クルセイダーと共に来るつもりは無いのかね?」
「ヴァーヴァヴァヴァヴァー」
「…そうか…まぁ、気が向いたら声を掛けてくれると良い
…何、私は君が気に入っているのだよ」
どうやら、断られたらしい。
「次の目的地はクロッセル連合…狙い目はベーエルデーか…」
オリノが、海の向こうを見ながら呟く。
「…さて、腹ごしらえでもするか…」
オリノは、背に背負っていた荷物から、黄色いゼリー状の物体を取り出す。
「ヴァー?」
「『それは何だ』?ああ、昨日戦場で出会った『変なバンダナの男』が作っていた料理だ。確か、プリンとか言ったか…。
興味を覚えたので、二、三個おすそ分けして貰った…。」
オリノが、スプーンを取り出して、食べ始める。
「ふむ…成る程、これは…たいした物だ…興味深い…これを再現できないものか…」
オリノが、その味に感心する。
「ヴァ」
「『くれ』?ああ、分かった」
オリノが、もう一つを取り出す。
すると、オリノの足元に小さな穴が開く。
「受け取りたまえ」
その穴に、オリノがプリンを落とす。
数秒の沈黙。
「ヴァー!!!!」
咆哮と共に、ゼロヌフォヌが何度も光り輝く。
子供が見たら泡を吹いて気絶するような輝き方だ。
「…ど、どうしたのだね?」
オリノが驚いて尋ねる。
「ヴァーヴァヴァーヴァヴァヴァヴァー!!!!!」
興奮した様子でゼロヌフォヌが話す。
「ほう…感動するほど美味かったか…確かに、これは素晴らしいと私も思うな。
…製造法を聞いておけば良かったか…これは惜しい事をした」
「ヴァー…」
どうやら、ため息をついたらしい。
「今度見かけたら聞いておきたいものだな」
オリノがそう言って笑った。
「ヴァ、ヴァヴァー?」
「ん?私がベーエルデーに行く理由かね?」
オリノが数秒間沈黙し、言葉を続ける。
「何、人間にしては話が分かる輩が結構いるという事でな…。
少し、教えてやりに行こうと思っているのだよ…人間が一体、『何』を相手にしているのか、と」
先程とは打って変わった、真面目な表情でオリノは更に続ける。
「そして、私自身、私が実際の所、何を相手にしているのか…確かめておきたい。
彼の国に存在している、最強の空戦戦力の力…確かめておかねばならない」
「ヴァー…」
ゼロヌフォヌがかすかに眼を伏せる。
「…本気を出さねばなるまい…今回は相手も相当強いのでね」
そう言って、オリノは笑った。
「もっとも…今回も、相手を殺すつもりは無いがね。
これ以上人間側の、特にメードの戦力を削いでは、人間側が戦線を維持できなくなる可能性が出てくる。
それに…近々、Gに大規模な動きがある。
そうなれば、人類側が果たして持ちこたえられるかは分からない。
レギオンも恐らくそれに乗じて動くだろうし、他のプロトファスマやオーバーロードも同様だ。
その時の為に、少しでも人間側に危機感を抱かせるために、
今、目の前にある脅威の代弁者として、私は彼の国へ赴くのだよ」
オリノは静かに拳を握った。
「…まぁ、どうやら、あの国でメードの出産があったらしいのでね、そのお祝いも兼ねているがね」
オリノはそう言って笑った。
「ヴァッヴァヴァヴァー?」
「お前は一体敵なのか味方なのか?ふむ…私は私自身の答えの元で動いているだけだよ…さて…そろそろ、か…」
オリノはそう言って突然立ち上がる。
「この辺で構わない。暫くはここで待っていてくれたまえ」
オリノが、自らの背負っていた荷物をゼロヌフォヌの上に置く。
「…これ以上行くと君も戦闘に巻き込まれる恐れもあるからな」
オリノの甲殻が光を放ち始める。間違いなく、コアエネルギーの光だ。
光が、オリノを完全に覆う。
「…さぁ、宴の始まりだ!!」
その光の中から、緑色の鱗状の光の翼が放たれる。
次の瞬間、その光を突き破って、赤い甲殻が、海の向こうへと飛翔していく。
「ヴァーヴァ、ヴァヴァヴァー!」
「おっと、今はオリノの名は使わないでくれたまえ!
今の私の名は
ヴェルティード!人類に脅威を知らせる者だ!!」
オリノ、いや、ヴェルティードは、そう言って、遥か彼方へと飛翔する。
全ては人類とGの未来を、より明るいものにする為に…。
「ヴァ、ヴァヴァーヴァーヴァー!!」
『何だ、飛べるんなら自分に乗る必要無いじゃないか!!』
…何となく、ゼロヌフォヌがそう叫んだ気がした…。
そして、ベーエルデーでヴェルティードと交戦し、
全治五日の傷を負った『レッド・バロン』と呼ばれるメードの口により、
今まで、各大国の面子の為に黙殺されてきたヴェルティードの存在は明らかになり、
EARTHは、改めて、人類の脅威としてのGの存在を認識する事になる…。
そう、ヴェルティードの、オリノの思惑通りに…。
後書き
ええと、恐らくこの企画に俺が投稿した今までのキャラの中でも一番強い、ヴェルティードの顔見せの話です。
この後のベーエルデーでの戦いの話も書こうか考え中です。
尚、飛べるのにゼロヌフォヌに乗っていた理由は、
ヴェルティードの飛行能力は戦闘用であり、長距離の移動には向かないからです。
まぁ、ゼロヌフォヌにはそんな事分かりませんから、
戻ってきたヴェルティードが必死になって説明する事になると思われます(笑)
最終更新:2010年02月18日 21:36