(投稿者:A4R1)
とうとうファーストコンタクト…かぁ…。
「
センティアさんは
チェルノちゃんと話した事がありますか?」
「いえ。本日来たばかりで、まだ顔も拝見してません…。」
「そうですか…。」
ヒントも無しかぁ…うまくしゃべる事が出来るかなぁ…。
《ガタンッ!!》
「おぉっ!?」
列車が突然動き出した…。
それでも商品は微動だにしなかった。
「商品は大丈夫ですか?」
「振動を軽減する造りになっているとのことなので、相当の振動が無い限りは心配は要りません。」
「流石支店を設けるに当たっての気合入ってるわね。」
「いえいえ、とんでもないです…。」
「でも、突然動き出すなんて…チェルノという方が動かしているのでしょうか?」
「うむ。代価バッテリーの充電はまだ完了していない。彼女が動力とならなければ動くことは無いからな。」
「試験運転を始めたんでしょうか?」
「2時半…試験運転は3時からなのだが…。」
大佐の腕時計を除き見るフフさんを引き止めると、
「うぉぁっひゃーーーー!!」
と、誰かの叫び声が聞こえた。女の子の声だった。
甲高くて能天気なかんじの物だった。
でも誰の声?
私じゃないし勿論男性のセテさんじゃない。
フフさんでもセンティアさんでもないし、ましてや大佐さんにしては声が若すぎ…
ま、まぁ、ここにいる誰の声でもないのは確かね!!
「チェルノの声だな…。」
列車の先頭の方向を見据えながらつぶやいた。
「随分大きい声ねー。」
「強風と分厚い鉄板に隔たれている中でも聞こえてくるなんて…。」
「有り余っているんですね。いささか余り過ぎている気もしますが。」
「臍を曲がる前に会ってあげなさい。検問箇所が設けられているが、
権限があるから通してもらえるだろう。」
「行って来ます。」
大きく頷き、意を決して、販売車両の戸をあけた。
「さっむー!!!」
車両から一歩も踏み出せなかった!!
「早いよ!!」
「睫毛凍っちゃってるじゃない!」
うわっ、髪にも服にも霜が降りちゃってる!!
「驚いたか。体感温度は零下10~20℃らしいからな。」
「大丈夫よ。命にかかわることがあっても…大丈夫よ。」
セ、センティアさん…企んでそうな笑顔で言わないで…。
今回の
マーチドゥシアーの車両編成は15両で、
最小編成の車両に医療車両と、さっきの販売車両。残りは列車砲とか砲弾庫が試験的に連結されているみたい。
車両の壁には大小様々なパイプが張り巡らされている。
その中の黄色のパイプにはガスマスク着用を促すシールが張られてる。
所々にノズルの様な穴が開いている…あ、対G用の煙幕発生装置ってこれのこと?
…試しに噴出させてみたい…。
……けど、流石に怒られちゃうよね…。
医療車両…他の車両と違って全体の色が明るい色合いになっている。
清潔さが感じ取れるのは良いけど、凍っているところが見えにくい。
うっかり踏んで兵士さんが転んで負傷したらどうす…あ、やっぱり転んでる。
「大丈夫ですか?手すりにわき腹が…。」
「い、いや、これぐらい…。」
兵士さんが打ってしまった所を抑えながら言うと、車両のドアが勢いよく開いた。
「うぉあ!?」
「うめき声が聞こえたけどどうした?」
中から赤十字をあしらった肩当をつけた人が顔を出した。
「い、いや、なんでもない!!」
「あ、さては転んでどっかぶつけたな?入りなよ。診てやる。」
「結構!!自分で何とかできる!!」
兵士さんはそう言うと、いそいそと後部車両に向かって小走りした。
「あ。」
また転んで今度は頭を打った。
「オチたな。」
目を回しちゃって呼んでも肩を叩いても返事をしてくれない。
「早く車両の中に運び込まないとカゼじゃすまなくなっちゃう…。」
「よーし。オレに任せなさい。」
そう言うなり、車両から出てきた…!!
「ぁぁぁぁぁぁ…!!?」
ドアと兵士さんの間は大体5mぐらいあったけど、
たった一歩で兵士さんに手が届いちゃった!!
「あ、思い出した!エエさんですね!!」
250cm越えの身長と突き刺さるような声質で刺激が走った。
「覚えてたかい!!でも、まぁ、話の続きは中に入ってからだ!!」
「でもチェルノちゃんを待たせるわけにはいけないから、話は後で…。」
「あーそれならしょうがないね。んじゃまた。」
「ごめんなさい!それじゃ!!」
二人が車両の中に入ったのを見送って、車両の先頭を再び目指した。
歩き出して程なく兵士さんの悲鳴が聞こえたけど…。
7回ほど通路と車内を往復して、やっとの思いで検問箇所までたどり着いた。
「本日配属されました、クリルと申します~。」
「クリル・ノートハイクだな?タリーナ大佐より事情は聞いている。通れ。」
フフさんによると、マーチドゥシアーである箇所は最前列の三両以外であって、
最前列の三両は『ノカロロニ』と呼ばれるみたい。
本来はチェルノちゃん個人のものだったけど、なにかかにかあって
この大掛かりな列車の動力として運用されるようになった…。
その事が決定された時、チェルノちゃんはものすごく嫌がったらしいけど、
大佐さんの説得でその役割を引き受けたんだとか…。
そのノカロロニは一般の兵士さんの立ち入りは基本的に厳禁で、
無断で入った兵士さんは往々にして恐ろしい仕打ちに会ったという…。
廊下のあちこちにある修理跡の大きさと量はその凄まじさを表したものかな…!?
「チェルノさんは何所に?」
「第一車両だ。ゲリスルト主任が付き添いしているが、主任の近くに長く立たないほうがいい。
チェルノの機嫌を損ねては殴られ蹴られの日々と聞くからな。巻き込まれるぞ。」
「は、はい。気をつけます。」
検問の兵士さんの忠告を受け再び怖くなってきたけど、
気を落ち着かせてノカロロニの情報を纏めよう…。
前から三両目。ドアに「ちぇるののへや」とある。
個室みたいだね。この大きさの個室ってすごいと思うよ。
それにしても…字が汚いなぁ。
藤十郎さんほどじゃないけどね。あの字は外国語だと勘違いしちゃうほどだもん。
二両目は変電室らしいけど、発電設備はこの中に無いのかな?
勝手に入っちゃいけないだろうし、中を見ても何をすればいいのか分からなくなるだろうし…。
パス。
そして、一両目…。
この列車全体の動力の源が…ここ…。
これまでの車両よりも遥かに大きい轟音が鳴り響いてきてる。
臓器にまで沁み入るほどの重さを感じる…。
思わず歩みも重くなる…。
「待ちな。」
「ひええ!?」
突然後ろから肩を叩いたのはエエさんだった。
車両の上に寝そべって手を伸ばしてたんだ…。
「静かに!無断で此処まで来たからバレたら怒られるから…。」
「た、確かに…。」
誰から身を隠すというわけでもないけど、車両の壁に張り付いて話を続けた。
「あと、オレの名前は『エカテリーナ・エイゼンシュテイン』で登録してあるからね。覚えておいて。」
「はい…。でも、突然此処まで来て…どうしたんですか?」
「そこ見てごらん。」
エカテリーナさんが指差した先、屋根の内側には通気口が…。
「何の変哲もない通気口に見えますが…。」
「そこから車両の中の話が聞こえるのよ。耳を当ててごらん。」
試しに屋根に飛び乗って耳を当ててみた。
あちち!排気口だった!!
『チェルノ!!運行予定速度を40kmオーバーしてるじゃないか!!』
『うっさいわねー!!たしょうはやくてもかんたんにこわれるもんじゃないんでしょ!?』
『勝手に運行速度を変えられたら正しいデータが取れなくなるんだぞ!!』
『いまのそくどのデータをとればいいじゃない!!』
『そういう問題じゃない!!!』
「どう?」
「口喧嘩の真っ最中でした…。」
「ゲリスルト主任が相手してるのね~大変そうね。」
「そんな呑気な…。って、そんなことより、
なんでエカテリーナさんがこの排気口の事を知ってるんですか?」
「ノカロロニの修理工がオレの治療を受けてる時に言ってたのよ。
最新排気機構の性能が良すぎて音まで排出しちゃうから、機密保持のために改良しようとしてたんだって。
まぁ、失敗しちゃって怪我したみたいだけどね。」
「そうでしたか。」
「まあね。あのねぇ…お願いがあるんだけどいい?」
「なんですか?」
「敬語で話すのやめてもらっていい?すっごく窮屈な会話になっちゃうし、改められる覚えもないしさ。」
「うーん…そうだね、わかった!」
「いいねぇ!撫でたいわ!!」
「そ、そんなにいいの?」
嬉しそうなエエさんが後ろを振り返って、あー…ってもらした。
「メディック仲間が探しに来てるわ、戻るから後は頑張りなさいね。」
「ちゃんと戻れるの?」
「まぁやってみればわかるわ。じゃーね!」
そう言って引っ込むのを確認すると、
《ドゴォォッ!!》
「うわぁっ!?」
車両の入り口のドアが爆発音を響かせて吹っ飛んだように開かれた。
その瞬間、ドアと一緒に何かが吹き飛んできたような…?
それは雪の中に埋まって流されちゃった…。
「ほんっとにあたまのかたいやつねー!そのままあたまひやしてな!!」
そのドアが吹き飛んだ所から、赤いショートヘアの女の子が出てきた。
この雪交じりの強風の中で、袖なしのシャツにスカート!?
この環境の中でそれはまずいでしょ!!
氷点下10℃よりも低い外気が瞬く間にサウナ並みの熱気に化けてこっちに流れてきた。
身を切るような寒さの中ではありがたいことこの上ないよ。
そんな感謝をしていると、
「みてたでしょ、アンタ。」
流石、主であるだけあって、私の気配を感じ取ったみたい。
うじうじしてたら怒りだすんじゃ…。
「はい、まぁ…。」
恐る恐る壁の裏から出ると、
「うぇあぇッ!!ホントにいた!?」
澄ました女の子の立ち方が一変、近くで急に犬にほえられたおじさんのように慌てふためかれた。
「直感!?いや、ひとりごとだったんですか!?」
「お、おぉよ!!もうくるとはおもわなかったわ!!」
「えぇと…チェルノ…ちゃ…。」
「えぇ!アタイこそがチェルノ!ここのしんのボスよ!!
さんづけとかちゃんづけとかどーでもいいからしゃべりたいようにしゃべっていいわよ!!」
「しん?…あたらしい?まこと?ふるえる?どれだろう?」
「まことのこと!じしょでみたからまちがいない!!」
落ち着きを戻したみたいで饒舌になってきた。
「そんなことより!アンタのなまえはなに!?」
「クリル!クリル・ノートハイク!!」
「くりるくりるのーとはいくってーのね!!」
「『クリル』は一回だけだよ!!」
「いっかいですむなんてベンリね!」
「一回が正しいの!!」
「ゲリスルトにおしえなくちゃあ…どこいった!?」
「まさか…さっき吹き飛ばした人?」
「…おぉ!そういわれてみたらたしかに!!」
「教えられないじゃない!!」
エカテリーナ>
「エカテリーナ!どこ行ってたの!?急患ほったらかしにして!!」
屋根の上から軍医の一人の後ろに降りたけど、対して驚かないのね。
「いや、気になる子に挨拶に行っただけよ。
それに急患ったってちょっと頭撃って気絶しただけみたいだったから大丈夫だったでしょ。」
「大丈夫に決まってるじゃない!!」
「それはよかった~。」
気絶したのはオレの顔を見てなんだよね。失礼よね。
「よかった~…って…アンタぁ、よくないこと…。」
「リース、気にしなくていいのよ!」
「全くもう…ん?なにあれ?」
リースが手すりから身を乗り出して列車の進行方向を見た。
黒っぽい物が転がってきた。人の形をしてるみたいだけど。
拾い上げてみると…。
「ゲリスルト主任…。」
たくさんの痣と火傷を負っているわね。
あのバカ…とうわ言を繰り返してるんだけど…。
誰のこと?
「とりあえず手当てしてトイレに放り込んどく?」
「そうしときましょ。」
この人よくお腹を壊すらしいわね。
「列車のスピード落ちてない?」
「気のせいじゃなくて本当に落ちてるわね。」
「ま、いっか。」
ひとまず車両に運び込もうとした時、通路を誰かが駆けていった。
すっころんで顔を床にぶつけたけど、すぐに立ち上がって先頭車両の方向に向かって走ってった。
あの様子なら大丈夫みたいね。血痕を残してったけど…。
クリル>
「まぁ、はいりなさい。はいってこないとはなしがならないからね!!」
そういうと、チェルノちゃんがタービン室に入っていった。
ドアは…完全に外れちゃった。
仕方ないなぁ、一応元の位置にはめ込んでおこっと。
「おー流石に暖かいねー。」
入ってちょっと離れた位置に、巨大な機械の塊が居座っていた。
藤十郎さんの乗ってる車の二台分はありそうな大きさだ。
「これがノカロロニのきもよ!!めにやきつけなさい!!」
「なにこれ?」
「なんだろ?」
部屋の中の隅から隅まで揺れて見えるのはこれの仕業みたいだけど。
今は動きを止めてるみたい。
「とりあえず、これにちからをそそげばうごいてくれるわ!!」
「とにかく大事なものなんだね。」
「おうよ!これがアタイのちとなりにくとなってれっしゃをうごかしてるのよ!!」
「鉄分にはなりそうだけど食べちゃだめだよ!!」
手となり足となるって言いたかったんだよね?ねっ?
「しゅうりひはすべてゲリスルトがふたんするわ!!」
「
一人で払い切れる値段じゃないと思うんだけど!?」
なんて無茶な事をさせるんだろう…。
主任の体が心配になってきた…。
しばらく取り留めもない会話をしていたら、
「ちょっと!ここが動力車両!?」
「フフさん!?」
ドアが突然開かれて、フフさんが飛び込んできた。
すっごく険しい顔をしてるよ!?
「だれよアンタ!!」
「私の仲間のフフさんだよ!!」
「なにしにきたのよ!?」
「列車が動かなくなったから、動力に異常が出たんじゃないかなと思って来たのよ!!」
「故障!?」
「アタイのトモダチがそんなにはやくダメになるわけがないわ!!」
二人とも大声で張り合ってるけど、
私の興味は、いつの間にやら直っていたドアに向きつつあった。
「フフさんが診断すればいいじゃないですか。」
つっけんどんな感じの私の一言で
「フッフだかフ~フ~だかしらないけど、
アンタなにものよ!!」
チェルノちゃんがフフさんに噛み付いた。それに対して彼女がこう答えた。
「通りすがりの……修理屋さんよ!!」
「よし!!いますぐみなさい!!」
なんてあっさりと…。
「入りたいのは山々だけど、車内クッソ熱いじゃない!!」
「ぜいたくいうんじゃないわよ!!」
「通気口の排熱がおっつかないとかどういう事なのよ全く…!!」
染みついていた油汚れが溶けだしたツナギの上の方を脱いでシャツ一枚になり、
袖を腰に巻いて、髪を後ろにまとめて車内に入ってきた。
「ちょっと!ドアぐらいしめなさい!!」
「ドアを閉めたら蒸し風呂になりかねないわ!!」
「フフさん!滝のような汗じゃないですか!!」
「あぁー!!点検終わったらすぐに出るわ!!」
室内温度に唸りながら機械を眺めると、チェルノちゃんを睨みつけた。
「な、なにさ!?」
「故障じゃなかったわ、単に電源が入って無いだけじゃない…。」
大きいため息をつくフフさんを見て、機械を見て、
「え?」
私を見て、また機械を見た。
「代わりのバッテリーはまだ充電中だって。」
「まぢ?」
「動力源が無いんだったら動かなくて当然ね!あっぢぃ~!!」
チェルノちゃんが機械の中に腕を刺し込み踏ん張ると、
車内を揺るがすほどの爆音が鳴りだした。
「おぉ!なおった!!」
開きっぱなしのドアから見える景色の流れを見て
「動かしてなかっただけだって!!壊れてなかったんだって!!」
「けっこーすぐヘソまげちゃうのね!しょーがないわね!!」
…ここツッコむべきかなぁ…。
「まぁ、全体の動作に関わるような事態になって無くてよかったわ!!
ってーか、クリル!この熱さ何ともないの!?完璧な防寒服着たまんまで、ちっとも汗かいてないじゃない!!」
「ぽかぽかして気持ちいいなぁ…って。」
「いやいやいや!拷問で使えそうな温度じゃないの!?
ま、まぁ、クリルはあっつい所が好きなのは知ってるけど…。」
「何度かわかります?」
「えーと…うわ、温度計割れちゃってるじゃん…。」
温度計の液溜が割れてフフさんのツナギの下の方に赤い液がついちゃった。
知らない人が見たら怪我しちゃったんじゃないかと思う。
「さっき転んだ時に割っちゃったのね…。」
「おんどをみるものならかべにあるわよ!」
チェルノちゃんの指を刺す方向には、壁掛け時計が…。
いや!よく見たら渦巻状の管の中に水銀が入ってる温度計だ!
「さっきまで動かさずにドアを開けてたのに、90度!?」
「サウナ並みですね。」
「うあー!用も無くなったのに長時間居れるもんじゃないわ!!
クリル!後の事は任せるわ!!さっきの頭突きで、この車両に関する情報をアンタに刷りこんどいたから!!
わかんなくなったら、技術者に聞くなりさっきの冊子を見るなりして頑張るのよ!!じゃ!!」
ドアが触れないほど熱くなったみたいで、ノブをツナギの袖でつかんで回して、
少しあいた所で蹴りあけて出て行った。
「こらー!!らんぼうにあけるなー!!」
チェルノちゃんが機械に腕を突っこんだままフフさんを追いかけようとして、
機械に関節技を決められてしまった。
「ぐあぁぁぁーッ!!!」
「そっそれ以上動かないで!!」
エカテリーナ>
医療器具と薬品棚の整理をしてる間に、車体がガタリと揺れた。
「あら、動き出したわね。」
リースがそう言った後、程なくして誰かが車両に入り込んできた。
「!?」
「あ…あぁ…。」
さっき通路を駆け抜けて途中ですっ転んだ人じゃない。
車両に入ってくるなり倒れこんじゃった。
咄嗟に支えてまた顔をぶつけるのを防いだけど、
「うわ!?熱い!!」
上がシャツ一丁で、寒い外から入ってきたというのに、
鍋から上げたばかりのゆで卵を抱えてるようにあっついわよ!?
「あれ?フフ!?フフだよね!?」
「…エエ?」
「エカテリーナよ…。それはともかく、どうしたの!?」
「動力室の熱気にやられた…。氷点下からサウナなんて経験したこと無いわよ…。」
「あぁ!急に体温を下げちゃダメよ!!」
「まずはシャツを脱ごうか。」
「それしかなさそうね…。」
「人の話をー!!!」
「まぁ、たまには…あ。」
「どしたの?」
「ああぁ…大変なことを忘れてしまってたわ…。」
クリル>
どうにかこうにかチェルノちゃんをなだめて、脱臼してないのを確認して一息つくと、
「アンタいいかんじじゃない!!」
と、突然唸られてキョトンとした。
「え?」
なにをもって突然そう言われたのか見当も…。
「アタイのはなしのさいちゅうに、いちどもあつがってそとにでてないもの!
いままできたへいしはぜんいんがまんできてなかったわ!!」
確かに入る時に強烈な熱さは感じたけど、もともと熱い所が好きだし、
藤十郎さんの地元の活火山でドタバタした事があるから、
むしろキモチイイ感じだよ…。
「よーし!そとにでるわよ!!」
「やめてしんじゃう!!」
「さむいトコにがて?」
「チェルノと同じ服を着て外に出たら、10秒も持たないよ!!」
「なさけないこといってんじゃないわよ!!うごけばあつくなるからそとでうごくわよ!!」
「( ´Д`)エー」
「ヽ( `3´)ノイイカラデルワヨ!」
嫌々車両のルーフに上がると、放熱口と思しき五つの煙突のような突起が鎮座していた。
突起の一つを挟んだ位置にお互いが立つ様促された。
動力の放つ熱量のせいか、ルーフ上には雪どころか水滴一つも見当らない。
帽子は車内に置いてきて正解だった…。互いの髪が一気に列車の後ろに向かってなびいてる。
進行方向と直角の方を吹いて向かい合った。あぁあぁ、そんなに短いスカートはいちゃって…。
「これからアタイのもとではたらくなら、これからおこなうことにつきあってもらうわよ!!!」
そう叫ぶチェルノちゃんの右腕には、ドでかい鉛筆のような機械がはめられていた。
脱臼は治ったの?
「なにをするの?」
彼女がニカリと笑って言う。
「かんたんよ!アタイとた≪ボーーーーッ!!≫
汽笛にかき消えた…。
「しずかにしなさいよ!!(ノカロロニに言ってる…。)
もっぺんいうわ!アタイとたたかいなさい!!」
その一言に連動するかのように、右腕の機械が光りだした。
「戦う?一対一でなの!?」
「もちろんよ!!」
熱気を帯びた機械をお手玉のように左手でポンポンさせながら答えた。
「えんりょはしなくていいわよ!アタイはえんりょもいらないわよ!!」
「う、うん、分かった。分かったけど、一つ聞いていい?」
「ん?」
「えーと…それ何?」
「コレ!?げいりーせいぎょぼーよ!!」
名前の響きだけじゃ、とんと見当がつかない。
「どういうものなの?」
「くわしいことはわかんない。」
「え?」
「くちでいうよりたいけんしたほうがはやいわよ!!
アタイのこころのあつさを、そのまんまたかいおんどにしてくれるぼうよ!!」
そのせいぎょぼうと呼ばれた機械の高熱で出来上がる揺らぎ、いわゆる陽炎が、
見る見るうちに大きくなっていく…。
「こんなかんじで!!」
「!!」
突然その棒を向けられて、まさかと思い煙突の陰に飛び込んだ瞬間、
後ろを赤い光の弾が飛んで行き、雪原のど真ん中に命中した。
それを見届け、チェルノちゃんの方を見るために振り返ろうとした瞬間、
間欠泉の吹き上げと見間違えそうな轟音が命中した所から鳴り響き、
雪と土が空高く打ち上げられた。
「へ、へへへ…どうよ、このぱわー!!」
「食らったらひとたまりもないじゃない!!」
「まだちっこうほうよ!!でかいやつはもっとすごいわよ!!
でもむちゃくちゃしんどいからつかわないわよ!!」
一度下した棒を再び掲げると、今度は電気を纏わせた。
「いまつかうのはこれよ!」
そう言うと、今度は電撃を二発放ってきた。
弾丸の一つは煙突に着弾し弾けて、もう一発が私の頬を掠めていった。
電撃が頬を掠める事は疑問に思ったけど、
でも、間違いなく頬を掠めた物は電撃そのものの熱さだった。
その熱さも雨、じゃなくて雪風で払われていった。
「どーよ!けっとうっぽいでしょ!!」
弾む声を聞きながら腰のベルトから拳銃を抜いて、非殺傷弾丸をこめた。
尋常ではない破壊力を秘めた兵器を披露しているけど、彼女から一切殺気が感じられない。
むしろ、宝物を自慢げに見せ付けているような感じのような…。
「さいきょうのアタイにみあうだけのたたかいっぷりができるんでしょうね!!」
「この列車に寄せて貰ったからには期待には応えるつもりだよ!!」
「うれしいこといってくれるじゃないの!!」
お互いが向かい合い武器を取ったにもかかわらず、
チェルノちゃんは微笑を含ませてしっかりとした笑顔を見せた。
「さー、アタイのあっついおもい、うけとれるかな? なんつってな!」
その想いが早速、雲の隙間を縫って入ってきた日の光として降り注いできた。
そんな気がした。
最終更新:2011年01月05日 21:15