No.13 stick to stand by one's guns

(投稿者:エルス)



  施設の外見はまるでトーチカか何かを隠しているんじゃないかと思えるようなコンクリートの塊で、だだっ広い草原にポツンと建っている。
  実態は地上にあるこのコンクリの塊はただの見世物で、本当に重要な施設は地下にある。空調設備も水道も完備していることから、最近できたばかりとは思えない。
  恐らく、EARTHが発足された時代に建造がはじまったと見るのが妥当だろう。もしくは、元々なにかの施設だったものを買収したかだ。現実的なのは後者だろうと、俺は推測している。
  何故ならば、この施設のある場所が問題だからだ。
  パーシーとの狙撃訓練の後、二時間ほどの『簡単な狙撃講座』と題した『難解な狙撃技術叩き込み教室』を受けた後、アルファの連中と飯を食べ、
  ハンドシグナルを教わりながら少しだけ考えた。
  自分の現在位置、ここがどこで、どういう土地なのかを。昔から土地を見る目は良い方だったから、これほど分かりやすい地形ならパッと分かるものだ。
  といっても、いまだに推測の域を出ないが、ここはルミス連邦のどこかであるようだ。永世中立を謳っておきながら、裏で利益を得ようとするのは当然だ。
  特に武力中立を掲げるルミスにとって、優秀な武器製造業者とも言えるEARTHを引きこむのは、リスク以上のメリットがある。
  なにせ、外れくじを引きさえしなければ、自国の防衛力を増強できるからだ。
  そういう経緯もあって、この施設に集められたEARTHの技術者たちは総じて武器設計者、もしくは元軍人のアドバイザーがほとんどだった。

 「みんな女子の為に奇異な銃を作るというのが嫌だった。軍隊よりのものばかり作っていたんだが、早々に追いだされた」

  『教授』は笑いながら言うと、水の入ったコップを啜った。
  古いタイプの黒いスーツに、綺麗に結ばれているとは言い難いネクタイと白い髭、剥げた頭は綺麗な丸型で、小さめの丸眼鏡をかけている。
  このどこかの大学で教鞭をとってそうな老紳士が、俺が今いるEARTHの施設を管理・監督する最高責任者である、ジョナサン・E・ウィリアムズ。
  通称、教授だ。実際には教授になったことはなく、教師でもないらしい。
  アルトメリア連邦出身の銃器設計家であるこの老紳士は、どうやらその手の業界ではかなり有名な人物であるらしく、あの人間拡声器の集まりのようなアルファでさえ、
  教授の前では急に大人しくなるのだ。もっとも、マッキンリーを除くと頭につくが。

 「皆は普通の銃を作って儲けたかっただけだ。皆に悪意はないし、私も、素晴らしい銃が生まれれば戦死する人の数が減るという自分の考えが間違っているとは、
  これっぽっちも思っていない。時代が狂って、なにもかもが無茶苦茶になっただけだ。別に君らメードの存在を邪険にしている訳ではない。君らメードの回りに集る、
  自称紳士達や優秀な軍人達のことを言っているんだ。彼らの所為で、なにもかもが無茶苦茶になってしまった。我々のような人間にとっては、厳しい時代だよ」
 「エターナル・コアと、メードの出現。帝国のメードを始めとする専用武装の出現と、それによる通常兵器の無価値論は、今も言われてることですね。
  そんなの、人間が妄想した末に広がった、ただの夢物語でしかないっていうのに」
 「帝国はまだ戦車とメード、どちらが強いのか分からない状態にある。メードとは対G兵器であるが、万能ではない。人間と同じように、道具がなければその性能の一部分しか
  発揮できない、未熟な兵器だ。我々が古来より道具に頼り、火に頼って来たように、メードもまた道具を頼り、天から授かった才能を生かし、それらを熟知しなければ、
  堕落した人間のようになんの面白みもないメードになるか、戦場で死んでしまう。だからこそ、通常兵器のように扱いやすく、堅牢な銃器が求められているのだ。
  メードたちがそう言った武器を使うようになれば、各対G戦線の戦死者の数もきっと減る。そう、きっとだ」
 「それがあなたの持論で? ミスター?」
 「いかにも。他には、釣りはいかに待つかが重要である、かな。君、釣りは好きかね? 私は昔、ライフルと釣り用具の店を開いた事があるんだよ。
  んむ、あれは確か、看板のスペルを少し間違ってたんだがね」
 「メードに生まれて三年。釣りができるような暇を経験したことがなくて。なにせ、波乱万丈な反抗期を満喫してたもんですから」

  俺が自嘲気味にそう言うと、教授は気難しそうな顔を歪め、それはそれはと、俺を人生の素晴らしさを知らない哀れな少年を見るような目で見た。
  なんだか嫌な予感がしたが話の途中でこちらから一方的に逃げ出すような形で話を切るのは、教授の評価を悪くする可能性もあったので、黙って聞くしかない。

 「ならこのゴタゴタが終わった後、釣りをしてみると良い。そう、できれば二人で。楽しいぞ、私も昔は弟と釣りを楽しんだんだ」
 「はぁ……そうですか……」

  その時、適当に相槌を打ってればこの話も終わるだろうと思っていた俺は、その後、一時間半にも及ぶ教授の『釣りとはなにか』という講義を強制受講する羽目になった。
  俺の嫌な予感と言うのも、あながち当たるものだと思いながら、真剣な顔でその話を聞き流した俺は、段々と身体が重くなっていくのを感じた。




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シリル

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最終更新:2011年04月15日 12:55
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