No.17 You will do well to learn from this lesson

(投稿者:エルス)



 「こうも短期間に何度も意識を失う人……じゃなくてメードって、多分君以外にいないと思うんだ」
 「……るせぇ、黙ってろ」

  また、ベッドの上にいた。どこかに傷を負ってベッドの上に寝転ぶのが半ば習慣染みてきた事が、少し怖かった。
  ちなみに診断結果は人なら重傷、メードなら寝てれば治るという誤診を疑いたくなるようなものだったが、まあ寝ること以外にすることがない現状、それを信じるしかなかった。
  意識がない間のことを整理すると、レベルテ国内から脱出したV4師団はまた行方を眩ませ、アルファはその捜索に当てられることになったらしく、マッキンリーの言った事は塵と消えた。
  結局、自分で決めたことは自分で成し遂げなければならないんだ……。

 「人々が自分に調和してくれるように望むのは非常に愚かだ……だったかな」
 「?」
 「エントリヒの文豪の言葉さ。もっとも、エテルネ初代皇帝の言葉の方がぴったりだろうけどな……」
 「お前がいつか出会う災いは、お前がおろそかにしたある時間の報いだ……かな?」
 「そう、それだ。胸が痛む言葉だ。本当に」
 「はぁ……それで、君はこれからどうするのかな? もう、することもないと思うけど?」

  言外に「もうお前はここですべきことはないから、さっさと出て行け」という意味が込められているような気もしたが、俺は笑みを浮かべながら答えた。

 「そうだな、ここですべきことはもうない。お前に変装技術でも教えてもらおうかと思ったけど……ま、大丈夫だろう」
 「うんうん。白昼堂々と女装してエルフィファーレの隣にいたんだから大丈夫大丈夫。私が保証するから!」
 「………人の心の傷を抉って楽しいか、畜生……」
 「いえいえ、それほどでもありません。でもまあ、あの時の君は弄り甲斐がありそうで可愛かったけどね」
 「可愛い言うな、この野郎」
 「私は野郎じゃなくて女の子だけど?」
 「……っ」

  思わず舌打ちして名無しを睨むが、こいつもエルフィファーレと同じように悪戯っこのような悪魔的な笑みを浮かべた。
  背筋になにか冷たいものを感じたが、男としてここで引き下がってはいけないような気がする……。
  かと言って、ここで引き下がらなければなにか凄く面倒な事になりそうだし……というか、どっちに進んでも、俺は良い目をみないぞ、これは。

 「ところで、素朴な疑問があるんだけど、良いかな?」
 「な、なんだよ……」
 「君さ。私と始めてあった時より、性格丸くなってない?」
 「……かもな。多分、無意識に思ったんだろうよ。俺のやってる事が、第七課とそう変わりないことだって。誰かがやったことを真似るの、苦手じゃないけど、嫌だからさ」
 「へぇ~……怪物と戦う者は、その際自分が怪物にならぬように気をつけるがいい。長い間、深淵をのぞきこんでいると、深淵もまた、君をのぞきこむ……ってやつかな」
 「そんな感じだろうよ」

  俺を全力で弄るに掛かってくるのかと思っていたが、案外真面目な質問だったので、内心ほっと胸を撫で下ろす。
  だが、名無しはまだこちらをじぃっと見続けているので、まだ油断は出来ない。

 「んー……」
 「今度はなんだ?」
 「髪型、変えた方いいんじゃない? ボサボサだと背伸びしたいお子様にしか見えないよ」
 「勝手にしろよ。ブラシでも何でも使ってさ」
 「あらら、そういうこと言うんだ。それじゃ早速……」
 「って、いや、おい。どこに隠し持ってた、その櫛」
 「私も女ですから。身だしなみには気を使うんだよっと」

  そう言いつつ、名無しは妙に手慣れた動きで俺の髪を解かし始めた。
  傷がまだ癒えていないので、俺は寝転がったままだったが、首は動かせたので、後ろ髪を解く時は少しだけ協力してやった。

 「意外と綺麗な髪してるんだね」
 「……それは、お世辞か?」
 「本当にそうなんだって。まあ、ちょっと解かしにくいけど」
 「むぅ……」

  不思議と嫌な感じはしなかった。ただ淡々としていて、気づいたらボサボサの髪がストレートになっていたってだけだ。
  名無しに手鏡を貸してもらって髪型が変わった自分を見てみたが、確かにこっちのほうが落ち着いた感じがある。ただ、少し女々しい感じがするが……。

 「メイド服、持ってくる?」
 「持ってくるな馬鹿。大体、俺は怪我人だぞ。寝るからさっさとこっから出てけ」
 「髪型変えてやったのに、その言い方は無いでしょ。ちょっとは感謝してよね」

  そう言いながらも素直に出ていくあたり、一応こっちのことを心配しているみたいだ。
  誰もいなくなった病室でただ一人、俺は溜息を吐いた。俺のピースは揃った。だが、相手のピースが揃っていないのだ。
  相手が何を考えて行動に出たのか……それが分からないというのは、致命的だ。もちろん、エルフィファーレを殺そうとした事実はある。
  だが、それだけじゃただの仮設にすぎない。第五課も関わっているのだから、もしかしたらってこともある。

 「………」

  そこまで考えて、俺はふと重要な、とても重要な事を思い出した。
  どうして名無しがいる時に思い出せなかったのか不思議なほど重要なことだ。
  どれほど重要かというと、三回繰り返したくなるくらいに、重要な事なのだ。
  それはと言うと、

 「……アイツとエルの様子、聞いてねぇよ……」


  ……本当、俺は馬鹿だ。
  結局その後、そのことが気になって気になって眠れなかった。
  大事な事なのでもう一度言うが……本当に、俺は、馬鹿だ……。




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シリル
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最終更新:2011年04月23日 01:20
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