(投稿者:フェイ)
*
「ええ、確かに。先日の
グレートウォール戦線におけるGの襲来をくい止めた件の褒美ということで休暇はいただきましたわ」
かつ、かつと帝都の歩道をヒールがたたく音が響く。
腕を組み、その美貌を少しばかり不機嫌そうにしかめたまま、綺麗にロールを捲かれた長い黒髪を揺らし歩く。
「それは正当な評価ですわ。断る理由もありませんし、有難く休暇を満喫させていただくことにはしましょう」
すれ違う人々が振り返るほどの美貌を惜しげもなくさらし歩く。
かつっ、と最後にひときわ大きい音を立てて足が止まった。
「ですが…」
赤い瞳が見開かれ、前を我関せずといった雰囲気で歩く彼女をにらみつける。
楽しそうに歩く度、金のツインテールが嬉しそうに揺れる。
立ち止まったことに気がついたらしく、くるりと笑顔のまま振り向いて、一言。
「どうかしました、メディ? 早く行かないとランチタイムには間に合わなくなりますよ?」
「……。今、何故私と貴女、二人で休暇を過ごす破目になったのか考えていたところですわ、スィルト」
「早めに戦場での借りを返しておきましょうかと思いまして。この間、ちょうど美味しいお店を紹介されましたし」
「はぁ…全く、せっかくの休暇ですのに」
「……何か予定があったのなら、言ってくだされば他の日をあけましたけど…」
「べ、別にそういうわけではありませんわ。…気にしないでくださいな」
どうにかランチ前に入り込めたレストランのテーブルに座り、注文をした所でようやく落ち着いた二人は話し始める。
上流階級に所属する人間が入るレストラン故か、ランチの喧騒はなく落ち着いた雰囲気の店の中。
運ばれてきた水で喉を軽く潤し、ふぅ、と軽く息を吐く。
「まぁ、だとしてもできればもう少し早めに連絡いただきたかったものですわ」
「そこは申し訳なく思ってます。色々と忙しかった所為で、休暇を頂けると知った日が遅かったもので」
「なら、それで納得しておきますわ」
「助かります。…ちなみに、こっちでの主流は『シュペッツレ』というパスタですが、普通の『スパゲッティーニ』のパスタもありますのでご安心を」
「別に心配なんかしていませんわよ。少しそちらの麺にも興味はありましたが、ちゃんとパスタ麺のものを注文させていただいたもの」
「やっぱりナポリタンで?」
「…何か問題でも?」
「いえいえ」
普段とは違う表情を見せるメディシスが面白く、スィルトネートは軽く笑ってしまう。
それを見たせいか、まるで拗ねた様に不機嫌な顔になるメディシスを見て、さらに笑いがこみ上げる。
「言いたい事があるならはっきり言って下さいな。黙ってニヤニヤされてたのでは苛立ちもしますわ」
「すみませんメディ。やっぱり、メディがナポリタン好きというのは結構意外なもので」
「別に良いじゃありませんの。ケチャップソースの甘みが好きで何が不都合がありまして? 子供っぽい味覚だとでも!?」
「そこまで言ってはいませんよ」
「じゃあその笑いを収めていただけるかしら?」
「し、失礼しまして…」
しばらく口元を隠し、どうにかこみ上げてくる笑いを押さえ込む。
ああもう可愛いですねとか思ってることは絶対にメディシスに知られてはならないと思いつつ。
「でも、何故ナポリタンがそこまで?」
「………何故、ですって?」
なんとなく、まずい、と思った。
メディシスの目がギラリと輝く―――これはなんとなく、まずい気がする。
「そもそも我が都市、フロレンツではパスタ料理に関しては非常に長い歴史を持っていますわ。その歴史の中、様々なパスタが生まれ、そして消えていきました。ええ、当然私も数多くのパスタを味わいましたわ。チーズのみをかけて食べるもの、オイルソース、トマトソース、ミートソース、クリームソース、バジルソース。また昔の風習に合わせ揚げたものや焼いたものも頂きましたわ。パスタの種類も基本のスパゲッティを元としてヴェルミチェッリ、カペッリーニ、リングイネ、プカティーニピッツォッケリ。ショートパスタもペンネ、リガトーニ、コンキリエ…数々のモノを味わってきました。そしてその果て、私が出会ったのが…ナポリタン…ですわ」
「は、はぁ……」
「ナポリタンは良いものですわ。ある一定の味付けと具材のスタイルを持ちながらも自由度を失わず。トマトソースからアレンジされたケチャップソース。従来のものになかった、甘みをベースにした味付け。確かにパスタ本来の塩気とアルデンテの歯ごたえは捨てがたいものがありますが、あれだけ多種多様な具材を使いながらもその味が喧嘩せずに互いを引き立てあうのは素晴らしいものですわ。さらに…」
「あ、あの…メディ? その…周りの目が…」
「もう、なんですのスィルト、これからが……え?」
あまりにも早口で楽しそうに力説していたせいか、回りの注目を集めている。
そして、ようやく気づかれたことに安堵したように店員が手に持った皿をテーブルへ置いた。
「お待たせいたしました、ご注文のナポリタンになります」
「……はい」
恥ずかしさゆえか、少し縮こまりうつむきながら、ナポリタンを受け取る。
店員が去ったのを確認して、咳払いを一つ、気を取り直しフォークとスプーンを手に取る。
上品に、フォークとスプーンを上手く使ってナポリタンを食べながら、メディシスの頬は紅い。
「………全く…」
「ふふ…私はメディの新しい一面が見れて、これだけでも休暇をとった甲斐がありました」
「意地が悪いですわ、スィルト」
対するスィルトネートは、非常に上機嫌に自分の前にあるパスタを食べる。
ようやく静けさを取り戻し始めた店内に、食事の音が響く。
「それにしても…」
「はい?」
「本当にあれだけそろうのは久しぶりでしたわね」
この休暇をもらう理由となり、またスィルトネートがメディシスに奢る事となった戦闘を思い起こす。
ジークフリートをはじめ、皇室親衛隊に所属する多くのMAIDが一同に会した戦闘。
「私達の代だと…
シルヴィが来ていませんでしたか?」
「そうですわね。私にスィルト、
レーニ…。
キルシュも確かザハーラにパートナーがいるから、来ていませんでしたわ」
「ああ…あの子にもしばらく会ってませんね」
ザハーラ戦線にいる同世代のメード、キルシュ。
確かザハーラ製MAIDであるTL-maのパートナーであり、内気な少女を思い出す。
「少しは明るくなってるといいのですけど」
「そうそう簡単に人は変わりませんわよ」
「…確かに」
前髪ですっかり眼を隠してしまい何時もうつむいていた姿を思い出し、苦笑する。
そういえば、何かあの子で引っかかることがあった気が―――。
「あ」
「どうしまして、スィルト?」
「……………」
思わず、『同じような』メディシスを凝視する。
「……な、なんですの? じーっと見て……」
次第に頬が赤くなり始めるメディシスに、ぽつりと零す。
「………メディは胸、大きいのですよね」
「なっ!?」
慌てて胸元を手で覆い隠すメディシス。
その様子にちょっと惜しそうな顔をしながら、スィルトネートは仕方なさそうに凝視を止めて。
「ほら、キルシュもああ見えて結構大きいほうだったと思い出しまして」
「…そ、そうですわね?」
「
プロミナなんて身長と比較したら…いえ、比較しなくてもかなり。
シュヴェルテなんて論外に」
「ま、まぁ確かに…」
「………キルシュは、ザハーラではそれなりに人気のようで、狼亜人のMALEとかとも仲が良いようですね」
段々とスィルトネートの口調から覇気が抜けていく。
その様子を見ながら、『持つ者』たるメディシスは何もいえなくなってしまう。
「…………やはり、男の方は胸が大きいほうがよいのでしょうか?」
「…知りませんわよ。そんな深刻に聞かれても…」
「…………」
「だ、だから胸をあまりじろじろ見ないでくださいます?」
「メディ。ちょっと…」
「はい?」
何を思ったのか、じっとメディシスの瞳を見つめ、相手が身を引くのにも構わず身を乗り出すスィルトネート。
その手がテーブルを越え、真っ直ぐメディシスの方へと伸びて。
ふにゅっ。
「………な……」
「………柔らかい」
触れるだけに飽き足らず、手を広げてそれを包み込むようにして。
ふに、ふに。
メディシスの顔が一気に赤く染まっていく。
「ななななな…………」
「…………少しだけ、男の方の気持ちがわかる気がしますね」
少し遠慮がちに、しかししっかりと服越しに感触を楽しむように動くスィルトネートの手。
思わずメディシスは一瞬眼をつぶって、声が漏れる。
「んっ……。……!!!//////」
そして、羞恥の紅から憤怒の赤へ。
「~~~~~~っ、スィ・ル・ト・ネ・ェ・トッッ!!!!!!!」
メディシスにしては珍しいことに、その一撃はパーではなくグーだった。
思わず夢中になってしまったことに猛省…その後ひたすら謝り倒してなんとか許してもらえた。
しかし、今回のでよくわかったことがある。
あれは―――なんというか、一種の兵器、というか凶器。
男の方が夢中になるのはわかるし、女性である私からしても柔らかくて心地が良い。
あれがもし、天性のものだとか、生まれつき大きさや柔らかさが決められているものだとしたら―。
正直ずるい、神をも恨めそうな気分。
……ギーレン閣下も大きいほうがお好きだとしたら……。
少し考えなければならない。
大きくする方法を。
関連
最終更新:2008年12月14日 02:17