らうんど☆すたーず カルナックの憂鬱

(投稿者:フェイ)





……………。
入ってるか? 蓄音機のスイッチは…入ってるな。
あー、あー、テスト、テスト…一度切って再生しないと入っているかどうか分からんか。そりゃそうだ。




よし…あ、しまった。まとめたレポートを……確か、この辺りに。
あったあった。それと、酒。これがないと…っと、ここも入ってるんだった。失言失言。
いやー、全く…国防長官さんもさー、なんでこんな面倒くさいの思いつくんだろうかね……たぶん、数回で飽きるだろうけど。
では、改めてっと。

ラウンドスターズ第一回音声報告。担当、カルナック、てことで…





「カルナックさぁ~んっ!!!」

レインの若干泣きの入った呼び声が聞こえた。
軽くため息を一つ吐き、飲みかけのビール瓶をテーブルの上へと戻す。
心の中で数える、8,7,6,5,4,3,2,1…。

「カルナックさんっ!」
「よっこらせっと…」

猪娘とあだ名されるほどの加速力できたためか、ドアをガガガガッと引き倒しそうになりながらレインがとまる。
開いたドアから覗くレインの顔を見ながら、カルナックはややじじむさく立ち上がる。

「レイン、鼻汁でてるぞ」
「うぅ……」
「で、今度は誰? ジャックが無断外出したか? ミザリーが図書館から出てこないのか?」
アシェナさんとジェシカさんが食堂で!!」

よりにもよってか―――頭を抱える。
誰にでも噛み付くジェシカと、その噛み付きに対しなんの躊躇もなく毒を返すアシェナは、よく諍いを起こす。
今まで幾度もぶつかっている二人だけに対処法はわかるが、その後の雰囲気はやはり耐え難い。
共に前衛を任せる相手が仲違いされていては戦術にも戦略にも影響が出てしまう。
なにより――折角の部隊、ラウンドスターズなのだ、仲良くしなければ勿体無い。

「もう、こう、その、一触即発で、爆発寸前絶体絶命臨界突破ってー!」
「わかったわかった。今行く。……って他の連中は?」
ゼノヴィアさんは、こないだのジャックさんの脛と尾てい骨の怪我を…ベリッシュさんは出張中、ミザリーさんは図書館から出てこないし、他の皆さんはスクランブル待機中ですー!!」
「あちゃあ…あいよ、今いく!」







急いだカルナックとレインが食堂の前までたどり着いたとき、すでにその前には人だかりが出来ている。
その中の割合として、諍いが起きて食堂が追い出されたのが半分、興味を持って覗きにきたものが半分だろう。
人だかりを掻き分けて食堂の中へ入ると、がらんとした食堂の中心、熱気が――。
いや、片側の人影から怒りからくる熱気、そしてもう片方からは絶対零度の冷気が立ち上ってきていた。

「――もう一度いってみなさいよこの薄汚れた灰かぶり…!!」
「何度でもいってあげるわ狂犬。臆病な駄犬の癖に人に向かってキャンキャン煩くて適わないわ。あんまり煩いと殺すわよ」
「っの、上等じゃない!! やってみなさいよ!」
「そう。――――ならやってあげるわ」

「えーい!! お前らおっぱじめようとすんじゃない!!!」

大きな音を立て机を叩き、注目を集める。
途端、炎と氷の二対の視線がカルナックとその後ろにいるレインへと突き刺さる。
身を竦めるレインに苦笑いをしつつ顔を引き締め、二人を睨みつける。

「今度は何だ! くだらない理由でやりあってんだったら承知せんぞ」

怒鳴るカルナックを鬱陶しそうにみるアシェナは肩を竦めて。

「私に言わないで。くだらない理由で噛み付いてくるのはそっちの狂犬なんだから」
「っざけんじゃないわよ! 毎回あんたが人を馬鹿にした態度をとるからじゃない!!」
「あーもう!! しゃーらーっぷ!!」

ヒートアップしていく二人に対し、バンバンバンと三回机を叩いて自重を促す。
軽くため息を一つつき、顔を上げる。

「とりあえず聞け。隊長命令な?」
「私達に戦場での命令権はあっても直接的な上下関係はないはずよ」
「屁理屈いうな。じゃあいい。とりあえず聞け。黙って聞け。いいな」
「……」

軽くイラッとした様子ではあるが、口を噤むアシェナ。
ジェシカの方も少しずつ落ち着きし始めてるのを見て、カルナックは頷く。

「よし、外の連中!! 最初に切欠を作ったのはどっちだ!!」

なんというオーディエンス。
声をかけられた食堂の外ではざわざわとした気配の中、アシェナだ、いやジェシカだという声が飛び交う。
中々意見がまとまらない様子を見て疑問に思ったカルナック。

「……どういうこった?」
「あー、えっとですね…」

ひょい、と手を上げるレイン。
カルナックが促すように頷くと、こほん、と咳払いを一つ。





「ふぅ……ったく! あんの色欲長官、人の足元…じゃない!! 脚ばっかみて…!! って開いてる席ないしもう…!」
「あ、ジェシカさーん! こっちー!」
「………………」
「げ、……ま、この際仕方ない、かな………レイン、アシェナ、相席、いい?」
「私は喜んで!」
「騒がしくしないなら勝手にしたら」
「…………んの……まぁいいわ」
「ふん」
「……じゃあ失礼するわ……あれ?」
「…………?」
「どうしました?」
「………アシェナ、あんたの、その飲み物……」
「…………!」
「なんか甘くて良いにおいするわね……まさかっ、あんた態々取り寄せ注文なんて…!」
「してないわ」
「でもそんなのメニューにないでしょ!!」
「してないっていってるでしょ。煩くするなら離れて」
「…なんか隠してんでしょ…! 一人だけそんな優遇許されると思ってんの?!」
「あ、あの、ジェシカさん落ち着いて…ってアシェナさん?」
「……………」
「…な、なによ!」
「――――煩くするなって言ったわ。…殺すわよ」
「あ、あわわわわわわ」
「っ……んのっ!! 図に乗ってんじゃないわよ! 最弱の灰かぶりが!!」
「―――そう。本当に死にたいようね狂犬」
「あ、あの、お、おふたりとも、おちついて、おちつい……。………カルナックさあああんっ!!!」




「と、いうわけでして」
「OK、わかったありがとうレイン」

再び頭を抱えつつ、二人の横にあったテーブルの上を見る。
そこに残されたトレーの上、時間の経過で冷め切っているカップの中身を確認。

「ったく。アシェナ…好きなのは分かるが、これを食堂には持ち込むな。厄介の種になる」
「……………」

流石にその点には責任を感じていたのか、アシェナは反論をせず押し黙る。

「で、だ。ジェシカ。こりゃ特注じゃない。アシェナが―――」
「カルナック…!」
「言わなきゃこの場は収まらんだろうに。アシェナが自分で作った分だ。無論、自腹をきって自分で作った。これでいいな?」
「………………中身は何よ」
「そりゃ私とアシェナの秘密だ。絶対にバラすなといわれてるんでね。とりあえずあったかくて甘い飲み物だ」

押し黙る二人を眺めてその両肩を叩く。

「お前らちったぁ相手の話を聞け。そして自分の考えを説明しろ。な? それさえすりゃあこんな面倒は避けられるわけだ」

うんうん、と頷くレインに、若干威力の下がった棘の視線が飛ぶ。
その視線をぐい、と顔を押さえつけて互いに向け合わせる。

「つまり両方が悪い! んじゃ二人同時にごめんなさいだ。幼稚園児でもできるんだ、まさかできないとかいうなよ?」

そこから押し黙る二人、説教を始めるカルナック。
結局食堂が平常の静けさを取り戻すまでに、また時間がかかるのであった。







ってことがあってよぉ。


あらあらまぁ。それは大変やったなぁ…。


全くだ。
っていうか、他の誰もいないときとか、本当に悪いタイミングで問題起こすよなぁあいつら。
ジャックがいなかっただけいいってことか?
あいつがいたらまたあの場で混ぜっ返してぐッちゃぐちゃになってただろうしなぁ。


ほんにねぇ。まぁカルナック、飲みぃ。


おー、サンキューなゼノヴィア。
…………。
っかぁあ! 人と飲む酒は、一人で瓶一気とはまた別の楽しさがあるよなぁ!


そうどすかぁ? なら、酌する甲斐もあるってもんやねぇ。
……時にカルナック?


あ?


なんかこれ、付けっぱなしどすえ?


あ、やべ、録音中だったの忘れて普通に喋っちまった。
ゼノヴィアとの会話も大分はいってんなこれ。


音声報告…というか、今の報告するん?


………それもそだな。んじゃ今回の分は未提出ってことで。


ほんじゃ、落としますえ~。


おう、頼む。
さって、飲みなおしだ。





―――――――――――ブツンッ



関連項目











最終更新:2010年01月18日 19:23
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。