(投稿者:エアロ)
「ああん?てめぇどこの誰に向かって物言っていやがる?
幌の紋が見えてなかったのかぁ?」
堀の深い顔をした大男が運転手に詰め寄っている。
旅団第2連隊長のツェゲシェフ少佐だ。
しかし、その立ち振る舞いはとても伝統あるエントリヒ帝国軍の左官ではない。
当然である、
エメリンスキー旅団なのだから。
むしろみかじめ料を店からせびる町のチンピラだ。
「そ、そういわれても、そちらが突っ込んできたから私はブレーキをかけて、
そしたらそちらが店の前の電柱にぶつかられたのでしょう?」
詰め寄られている運転手は震えながらも反論している。
「そうだそうだ、わしだってちゃんと見てたぞ、お前さんのトラックが明らかに停止義務路線側だったじゃないか。
それにわしの店のひさしだって壊れたんだぞ!弁償してもらうからな、おう兄ちゃん、もっといってやれ」
と、ひさしを壊された商店主もまくし立てる。
「あんだとぅ!お前ら天下の俺ら旅団に向かって口答えかぁ?いい度胸だな!たっぷりかわいがってやらぁ!」
ツェゲシェフがそういうや否や、屈強な兵士たちが二人を取り囲む。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ諸君・・」
そういって入ってきたのはヴォルケンだ。
後からグレゴールも続く。
「何だテメェは。俺をエメリンスキー旅団、第2連隊長のツェゲシェフ少佐と知っての物言いか?」
ツェゲシェフはひけらかしつついうが、グレゴールもヴォルケンもすました顔を崩さない。
「なめた目つきをしてやがるな、おいケメコフ、カメネフ。締めてやれ」
そういうと屈強な二人の兵士がグレゴールとヴォルケンの前に立った。
二人とも身長190は超える大男だ。
誰の目にもグレゴールとヴォルケンの不利は明らかな様に見えた。
そして大男二人は襲い掛かったが・・・
「ぐう・・・」「むう・・・」
一瞬後には二人とも崩れた。
ヴォルケンは股間に強烈な蹴り、
グレゴールはみぞおちにボディーブローをかましていたからだ。
「くそっ、なんて奴らだ。 固まっていけ!」
ツェゲシェフが指示を飛ばすと2,3人の兵士が二人を取り囲む。
そしてころあいを見るや一斉に飛び掛ったが・・・
「ほらほらどうした、さっきの威勢の良さはどうした?」
ヴォルケンは飛び掛られた瞬間相手の横を抜け、回し蹴りを相手の背中にかましていたのだ。
グレゴールは身をかがめてそこから飛び上がるようにアッパーを食らわせていた。
そう、この二人、仕官学校時代は軍隊式格闘技のクラスでは上位だった。
そして将官となった今なお鍛錬を欠かしていないのだ。
逆にエメリンスキーの連中は酒におぼれ、馬鹿食いを繰り返した結果、
もともと持っていた格闘センスすら鈍らせてしまったのだ。
「さぁて、ヴォストラビアの紳士、お仲間はあんな惨状だが、どうするかね?」
見ればそこにいた15人のうちもう7人が伸びていた。
ツェゲシェフの周りには彼含め6人しかのこっていない。
「ち、ちくしょう・・・! お前ら一体何者なんだよ・・・!」
そう問われると、二人はこう答えた。
「帝国陸軍第1師団 第5陸戦大隊長 グレゴール・フォン・シュタイエルマルク」
「っ・・・!」
エメリンスキーのならず者共は押し黙ってしまった。
当然である、前線の部隊の大隊長と、帝国軍一の軍技学校の校長。
黙るなというほうが無理である。
とそのとき、親衛隊公安部と憲兵隊の黒塗りのミリティーアヴァーゲンが止まり、さらに赤色燈つきのボクサートラックが停車した。
「やばい、公安部と憲兵隊だ、散れ!」
ツェゲシェフが指示を飛ばし、立っている6人は路地へと駆けていった。
「士官暴行の容疑者を確保せよ!奴らは路地へ逃げた、草の根やゴミ箱を分けても探せ!」
黒塗りのミリティーアヴァーゲンから降りたライオス・シュミット少佐が指示を飛ばすや、
公安局員と憲兵たちは雲の子を散らすように路地へと駆けていく。
「よぉシュミット、早かったな。」
ヴォルケンが手を振り呼びかける。
「中将、ずいぶん派手にやらかしましたね、謹慎は免れませんよ」
シュミットがいつもの慇懃無礼な口調で答える。
「ベルゼリアが心配するだろうな。さて、後は卿に任せるよ。
グレゴール、せっかくの夕食が台無しだな、後日また改めて飲むとしよう」
そういうとヴォルケンはミリティーアヴァーゲンに乗りマイスターシャーレへと向かった。
「ああ、そうしよう。しかし時間を過ぎてしまった、それに始末書を書かされるかもな」
照れくさそうにグレゴールはクルトに電話すべく電話ボックスへと向かった。
最終更新:2009年02月20日 11:32