SILVERMOON

終点と起点~C side

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mayusilvermoon

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終点と起点~C side





「この戦いが終わったら…」

時々そんな事を考えてしまう。

真の紋章がこの手に残る限り共に人生を歩むことはできなくて…






「終わりましたな…。」

窓から外を見ながらサロメがぽつりと呟く。
戦いは終わり、明日にもこのビュッデヒュッケ城を発とうという夜であった。

「そうだな…。」

身支度を整えるべく皆は各々にあてがわれた部屋に戻っており、
執務室代わりに使っていたこの部屋には
ブラス城から持ち込まれた大量の書類とその整理に追われるサロメと私とが残っていた。

そして、ようやく片付け終わり、サロメの淹れたお茶で休憩していたところであった。

いつもなら何かしら会話を交わすものなのだがこの夜はそうではなかった。


明日からはまたいつもどおりの”ゼクセンの騎士”としての日常に戻っていくのだろう。
そう感じながらも、この戦いで得たものも失ったものも大きく、
そのことを考えると何かすっきりしないものがあるのも事実で、自然言葉数が少なくなっていた。


ほんとうにこのままでいいのか?


そう自問する。

そして


「サ、サロメ…
「クリス様…


同時に声を掛け合い、そして同時に黙り込んでしまう。



「サロメから言って」

「い、いえ、クリス様からどうぞ」

さらにはお互いに譲り合う始末である。

「ふふっ。」

そんな自分達が妙におかしく感じられて、わたしは思わず笑みをこぼしてしまう。

「参りましたな…」

少し恥ずかしそうにサロメもつられて笑う。

「ではわたしから言うよ。」

肩の力が抜けた今だったら、ちゃんと言えそうだから…
わたしははソファに座りなおし佇まいを正し、まっすぐに向かいに座るサロメを見据える。


「……お前は、ゼクセンに…わたしの許にずっといてくれるか?」


「もちろんです。クリス様がそうお望みであれば…。
私が忠誠を誓うのはあなただけです」

サロメはあまりにもすんなりと答えてくれる。
けれど、わたしにはそれが本当に心からの言葉なのか確信が持てないでいた。

「忠誠を誓ったからと…そんな言葉に縛られなくてもいい…。」

「え?」

わたしの言葉にサロメは問い直す。

「おまえのしたいようにすればいい。」

「クリス様、おっしゃる意味が…」

「父もわかってくれる。いつまでも…私に縛られなくても…いい…から。」

最後のほうは声がつまり、サロメの顔が見られなかった
このような…事、サロメを困らせるような事、
自分で言っておきながら、なぜ言ってしまったのか…わからなくなってくる。

けれど、ちゃんと確かめておきたい

ちゃんと聞いておきたい




「クリス様…」

しばらくの沈黙の後、サロメはわたしの傍らに立ち、後ろからそっと肩に手を置いた。
そしてまだ顔を上げられないでいるわたしに語りかける。

「私はいつでも自分のしたいようにしておりますよ。」

「サロメ…」

その言葉にわたしは思わず振り返りサロメを見上げた。

驚きと、安堵とが交錯する。

サロメはわたしから目をそらすことなく尚も言葉を続けていく、

「あなたがワイアット様のご令嬢であることや、
真の紋章を宿しておられること…

そんなことは関係なく、

クリス様…あなただから私はこうしてお側にいたい…と考えるのです。」

言葉が心に染み渡っていく

「そうか…」

サロメの言葉にわたしはゆっくりと頷いた。
そして、肩に置かれたサロメの手にそっと自分の手を重ね合わせ静かに目を閉じる



そうか…

わたしはその言葉がほしかったんだ
だからあんなことを…

わたしは…



わたしはようやく明確に自分の感情に説明がつけることができた



「クリス様こそ…これからもゼクセンに、騎士団長としていてくださいますか?」

確認をするようにサロメがたずねてくる。

「ああ。そのつもりだ。」

もう、迷いはなかった。

「…重荷にはなっていませんか?」

「もう、大丈夫だ。民の望む騎士となろう」

「クリス様…」

「わたしは騎士であることに誇りを持っている。それ以外に考えられない…」

我ながら不器用だと思う。そして父のようにはなれないとも…


「ただ…な」

右手をみつめる。
そこには父から受け継いだ真の紋章が鈍い光を放っていた。

「これは…わたしには重過ぎるよ…」





「クリス様…」

上から聞こえていた声が急に耳元で聞こえ、振り向こうとしたその刹那、
肩に置かれていた手は前に回された。

いつものサロメからは想像がつかない行為に多少は驚きつつも
わたしは抵抗することなくその抱擁を心地よく受けとめた。











わたしは

かつての炎の英雄がそうしたように真の紋章を封印するだろう。

大切な人と同じときを過ごすために


サロメは

”クリス様がそう決めたのなら…”

きっとそんな事を言って、わたしの側にいてくれる。

今ならそう確信できる。


そして



これからいつも通りの日常にもどっていくだろう…

けれど


これがわたしたちの、新しいはじまり
















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