SILVERMOON

ここだよな

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ここだよな



「ここだよな…」

クリスは昨日ルイスから渡された手紙を見直す。





―招待状―
クリス・ライトフェロー様。

ここ数日の暖かさで、ゼクセンもすっかり春です。
明日は皆でお花見をしませんか?
花を見ると、日ごろの疲れも吹き飛ぶと思います。

一同、心よりお待ち申し上げております。

時間と場所は……





「これによるとこのあたりなんだけど……」

クリスはきょろきょろとあたりを見渡す。

クリスが歩いているのは、ブラス城のほど近くを流れる川沿いである。
その川の両岸は、毎年この時期になると満開の桜で埋め尽くされるのだった。



「クリスさま~。こっちですよ~~!!」

少し手前の、ひときわ大きな桜の木の下でルイスが一生懸命手を振っている。





「すまないな。少し遅れてしまったか?」

クリスが到着してみるとすでに全員が揃っていた。

「いえ。定刻どおりですよ。」

サロメが時計を確認する。

「我らが騎士団長殿と花を愛でられるとあって皆つい早く来てしまったのですよ」

パーシヴァルが付け加える。

「全くだ」

レオが大きく頷く。

「私もそうです」

ロランも続いて同意する。

「さあ、クリスさまこちらへお座りください!この一帯で一番景色のよい場所です!!!」

「ああ。ありがとうボルス。」

クリスに席を案内し、それからちゃっかりその隣に座るボルスであった。


『かんぱ~い!!』


乾杯の声と共に、楽しい!?宴の幕があけた。





「ふぅ~~~」

しばらくすると、ルイスが酔ってしまったようで、真っ赤になっている。

「大丈夫か?ルイス」

クリスが心配そうにルイスに近寄り、顔を覗き込む。

「はい~~なんだかくらくらしますけど大丈夫です~~」

言葉どおりルイスは上半身をふらふらさせている。

「これでは酔いが余計回る。横になるほうがいい。」

「はい~~」

もはや限界だったのかぱたりと倒れこむルイス。そしてその頭はクリスの腿の上にあって…

「な、なっ!!!!ルイスっ!!!」

ボルスが声を上げ立ち上がる。手はすでに剣の柄におかれている。
それをクリスが制する。

「まあ、いいじゃないか。」

「ですがっ!!!」

「しばらくすれば酔いも醒めるだろうから。」

「………わかりました。」

すっかり意識のないものの、見事クリスの膝枕をゲットできた幸せ者のルイスであった。

しかし、まあ…

当然面白くないのはボルスである。


「こうなったら俺も!」

ボルスは次々と酒をあおりだす。

「よせよせ、お前が酔ったところでクリスさまが膝枕をしてくれると思ってるのか?」

横でマイペースに酒を飲みながら冷静にツッコミをいれるパーシヴァルである。

「ハハハ!!全くだ!」

皆が可笑しそうにに笑う。
それぞれにいいあんばいで酔いがまわってきているようだった。



「みな楽しそうだな」

そんな様子を見てクリスは微笑む。


「クリスさま。ルイスのこともありますのでわたしは水を汲んできましょう」

サロメがクリスに声をかける。

「そうか、頼んだよ。さすがにこの状態では呑んで騒いで、といかないからな」

「そうですな。ですが、くれぐれもほどほどになさって下さいよ。」

「わかってるよ。もう、心配性だな」

あいもかわらずのサロメのもの言いにクリスが苦笑いする。
クリスといるとどうしても心配性になってしまうサロメなのである。





水を汲み終わって、サロメが川べりから戻ると、木陰でルイスが一人、風にあたっている姿が目に入った。

「さあルイス大丈夫か?」

サロメはルイスに水を差し出す。
ルイスはそれを一息に飲み干す。

「……ぷはぁ…ありがとうございます。」

「ところでどうしてこんなところに一人で?」

皆が敷物を引いて、騒いでいる場所はここからもう少し先にある。

「あちらは大騒ぎで…すいませんボクここでもう少し休んでいます」

まだ酔いがまわっている様子で、ルイスはそう言った後、木の幹に寄りかかる。

「大騒ぎって……!??」

なんとなく…いやな予感がするサロメである。

おまけにこの種の予感は未だ外れたことがない。

「……もう少し水を汲んできましょう、か……」

軽い頭痛を覚えながら、サロメは再び水を汲みに行くのだった。





「………この瓶は」

敷物の周りには様々な酒瓶が転がっている。

「おおサロメ殿!貴公も呑まれよ!」

サロメを見つけて皆が酒をすすめだす。皆、すっかりできあがっているようである。

「そうですな。いただきましょうか。」

サロメも花見を楽しむべく敷物に腰を下ろした。

「ん…これは……」

サロメの足元には一升瓶が転がっている。目の錯覚かと思い、それを手にとって、間近で見てみる。

それは、やっぱり日本酒で……

「………頭痛がしてきた。…」

思わず額に手を当てる。サロメの予感は見事的中したようである。


「…クリスさまに日本酒を呑ませたのですか?」

サロメが皆に問いかける。

「ええ…それがどうかしましたか?」

パーシヴァルがそれに答える。

「…クリスさまは日本酒を呑むと………」

真剣な面持ちでサロメが話し出す。
サロメの言葉を、皆が固唾を呑んで待ち構える。


「……猫になってしまわれます。」


「「「「猫~!!???」」」」

皆がいっせいにクリスのほうを向く。
クリスはトロンとした目つきでちびちびと杯を傾けている。
その様は多少頬が紅潮しているのといつもより幼げに見えるだけで…

「いまのところ普通のようですが?」

「あ、ああ…そうですな。」

まだそんなに呑んでなかったらしく、サロメはほっと胸ををなでおろすのだった。





「クリスさまの猫……」

ぽつりとボルスがつぶやく。

そして…

「ささっ!!クリスさま!どんどん呑んじゃってください!!」

ボルスはクリスの隣に座り、次から次へと日本酒を杯に注ぎだした。

「あ!ボルスなにを!!」

あわててサロメはそれを制止しようとするのだが、酔ったボルスに怖いものはない。

「俺だってクリスさまの猫を見たい!!!!」

拳を力強く握り締め、力説するボルスである。

「そうだな…サロメ卿のみご存知というのは……」

そういってパーシヴァルも輪の中に加わり、クリスに酒をすすめだす始末。

「パ、パーシヴァルまでなにを…」

そして皆が次々にクリスに日本酒を勧めだす。
酔っ払った騎士たちをもはや止めることはできず、ただただオロオロとするばかりのサロメであった。


「はぁ~……私も、もう酔ってしまいたいものですな…」

人知れず酒をあおる苦労人サロメである。





酒をあおるサロメをじ~っと見ている者がいる。
それは、言うならば、ネコが獲物を見つけたときの目か、あるいは遊び相手を見つけたかのような目といったところか。

「サロメ~~~!!」

叫び声と共に突然、サロメのひざめがけて飛びついたのは酔っ払ったクリスである。

「わわっ…クリスさま!!??」

サロメは驚き、上半身をのけぞらせる。
そして思わず手にした杯をぽろりと落としてしまう

「うにゃ…」

そんなサロメにはお構いなしで、クリスはサロメの腿に頬を摺り寄せる。
それは、ここが一番落ち着くとばかりのくつろぎようである。

「「…サロメ殿?」」

”ピキピキッ”と皆の額にタコマークが浮かぶ。

「はっ!!!!ご、誤解ですっ!!!クリスさまは酔っておいでで、人の区別などついていらっしゃらなくて…」

ブンブンと首を振り、手を振り、必死に弁解するサロメ。
しかし当のクリスは我関せずといった様子でサロメにじゃれ付いている。

「おとうさま~」

「ほ、ほらっ!!童心にかえってワイアット様のことを思い出しておられるだけでしてな…」

「ほう…いつもこのようになられるのか」

「ええ。…じゃなくていいえ!!…い。いえ。その…」

つい本当のことを言いそうになりあわてて取り繕うのだが、うまくいくはずもなく…

じりじりとサロメに詰め寄る騎士達

「ク、クリスさま…」

サロメはクリスに助け舟を求める。


『どうか、正気に戻ってください~~~~』


「うにゃ……」

サロメの願いが通じたのか、クリスはじーっと騎士達を見る。
その視線は鋭く、皆は一瞬怯んでしまう。

そして、開口一番


「ここはわ・た・しの場所だ!!」


「!!!!!!」


クリスの爆弾発言に皆は言葉をなくしてしまう。


そんな様子を見て、クリスは満足げに頷き再びサロメの腿に頬を寄せ…

「すーすーすー」

ついには寝息まで立ててしまった。

そんなクリスを可愛いと思いながらも、これからのことを思うとこの状況を楽しむわけにも行かず…


天に向かって祈るばかりのサロメであった。



終わり








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