SILVERMOON
醒めない夢
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醒めない夢
「クリスさまどうぞ。」
サロメがクリスにティーカップを差し出す。
カップの中にはいつもの紅茶とは違うハーブティー。
カップの中にはいつもの紅茶とは違うハーブティー。
「これは?」
「心地よい眠りを誘う…といわれる特殊なハーブを取り寄せてまいりました。」
「へえ…」
カップのなかのハーブティーからは甘やかな香りが立ち込め、クリスの鼻腔をくすぐる。
「良い香りだな…これならゆっくりと眠れそうだな」
「はい。それにこのハーブにはもう一つ神秘的ないわれがありましてな……」
「クリスさま。ちょ、ちょっとお待ちください。」
門兵に馬をあずけ、ずんずんと歩いていくクリスをサロメは呼び止める。
ここはビネ・デル・ゼクセの街である。
ここはビネ・デル・ゼクセの街である。
「なんだ今更緊張しているのか?」
クリスは振り返り、サロメと向かい合う。
今日の二人の装いは鎧を着けておらず、”仕事”ではないことが伺えた。
今日の二人の装いは鎧を着けておらず、”仕事”ではないことが伺えた。
「い、いえ…その…」
否定はするものの明らかに堅くなっているサロメである。
そんなサロメの様がおかしくてついクリスは笑ってしまう。
そんなサロメの様がおかしくてついクリスは笑ってしまう。
「フフ。知らない相手ではないんだし、普段どおりでいいじゃないか」
「そ、それはそうなんですが…」
「さあ!急ごう」
「ええ…」
ようやく覚悟を決めたのか、サロメは頷き、クリスと共に歩を進めた。
しばらく歩くといよいよ目的の建物が目に入ってきた。
この街でも有数の屋敷であるライトフェロー邸である。
この街でも有数の屋敷であるライトフェロー邸である。
「ここに戻るのも久しぶりだ。」
クリスは感慨深げに館を見上げる。
「クリス様お帰りなさいませ。サロメ様もようこそいらっしゃいました」
執事が二人を出迎える。
「ひとまずここで待っていてくれ」
応接間にサロメを通し、クリスは部屋を出て行った。
「父上。クリスです。只今戻りました。」
「おおクリスか。よく戻った。」
「父上、今日は会わせたい人がいるんです。」
「うむ。」
今日戻ることも、サロメをつれてくることも連絡済なのだが、こういうことは”形式”ということが大切らしく、このような会話が父娘の間に交わされた。
「待たせたな。サロメ。」
クリスが戻ってくる。
「い、いえっ…。」
サロメがソファから慌てて腰を上げる。
「あ、そのままでいいよ。もう父が来るはずだから。」
そう言ってサロメの隣にクリスは腰を下ろす。
それにあわせてサロメも座りなおした。
それにあわせてサロメも座りなおした。
―カチャ
扉が開かれ館の主がやってくる。
ワイアット・ライトフェロー
ワイアット・ライトフェロー
クリスの父であり、そしてサロメの直属の上司でもある。
いつもは気さくな彼も今日ばかりは固い表情をしている。
立ち上がる二人を一瞥し、ワイアットは二人の向かいに腰掛ける。
そして二人に腰掛けるよう手で合図する。
立ち上がる二人を一瞥し、ワイアットは二人の向かいに腰掛ける。
そして二人に腰掛けるよう手で合図する。
「………」
沈黙が部屋を支配する。
クリスがサロメを肘で”早く言え”とばかりにこつく。
クリスがサロメを肘で”早く言え”とばかりにこつく。
サロメは小さく頷き、深く息を吸う。
そして何度も心の中で繰り返した”お決まりのセリフ”をもう一度思い起こした。
そして何度も心の中で繰り返した”お決まりのセリフ”をもう一度思い起こした。
…よしっ。
サロメはいよいよ決心を固め、顔を上げワイアットを見据えた。
ワイアットの厳しい眼差しに一瞬怯みそうになる。
しかし、隣のクリスの視線もさっきからざくざく突き刺さっていて、
ここで言わなかったら何をされるか…と思うと、怯んでなどいられない状態である。
ワイアットの厳しい眼差しに一瞬怯みそうになる。
しかし、隣のクリスの視線もさっきからざくざく突き刺さっていて、
ここで言わなかったら何をされるか…と思うと、怯んでなどいられない状態である。
…よ、よしっ。
サロメはぐっと膝の上の拳に力を込める。
「お義父さんっ!娘さんをわたしに下さいっ!!」
以外にもすらすらと言えたではないか。
サロメはようやく極度の緊張から解放されそうである。
サロメはようやく極度の緊張から解放されそうである。
しかし…
「………」
ワイアットは難しい表情で、腕組みをしたまま何も言わない。
「…ワイアットさま?」
おそるおそるワイアットにお伺いを立てる。
「…だめだ。」
「え?」
厳しく、きっぱりと言い放たれてサロメは凍りつく。
「クリスはライトフェロー家の大切な一人娘。嫁に出すわけにはいかん。」
「そ、そんな、父上!?」
クリスも慌ててワイアットに詰め寄る。
「だめなものは、だ・め・だ!」
「ワ、ワイアット様…」
「父上…」
見事な頑固親父っぷりに二人は困り果ててしまう。
「ただし!」
「「た、ただしっ!?」」
ワイアットの言葉に二人は聞き逃すまいと身を乗り出す。
「お前がライトフェローの姓を名乗るというのなら話は別だ。」
にやりとワイアットが不敵な笑みを浮かべる。
「は!?」
いきなりのことでサロメは目を丸くする。
「クリスの嫁になってやってくれ」
ワイアットがサロメの手を強く握る。
「は!?…はぁ~~!?」
サロメは素っ頓狂な声を上げる。
よ、嫁…ですか…ワイアット様…
「そうだな!父上が納得してくださるなら私もそのほうが…v」
「いや、俺もいい息子が出来て鼻が高いぞ。」
「は!?」
妙にノリノリの父娘にはさまれ、サロメは眩暈に襲われる。
「かわいがってやるからな、我が息子よ」
「よかったなサロメっ」
ワイアットにはぐりぐりと頭を撫で付けられ、クリスには抱きついた勢いあまって押し倒され…
ついには、訳がわからなくなり…
プツン
…と意識を手放した
がばっ!!
サロメは飛び起きた。
「はぁ…はぁ……夢…か」
額には汗がびっしょりである。
夢であって、心底ほっとするサロメであった。
夢であって、心底ほっとするサロメであった。
窓を見やるとカーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
―チュンチュン…
一方のクリスは、鳥のさえずりにゆっくりと目を開ける。
しばらくそのまま呆けている。
そして
そして
「夢……か。」
心なしか残念そうに、そう一言呟いた。
「と、まあそんな夢を見たんだが…」
「そ、そうですか」
クリスのする夢の話に、サロメはぎこちない相槌を打つ。
「おまえは…どうだったんだ?」
「え、ええ…まあ、その……同じ夢でしたな」
複雑な心境で、頷くしかないサロメだった。
「すごいな、あのハーブは!」
「そうですな…」
クリスはハーブティの効力に感嘆の声を上げ、そしてサロメは…やっぱり頷くしかなかった。
もう一つのいわれ
それは
一緒に飲んだ人たちはその夜同じ夢を見る
そんないわれだったのだ。
「なあ…サロメ…」
ぽつりとクリスが話しかける
「父は…祝福してくれるだろうか?」
その言葉からは少しばかりの不安が垣間見える。
「……クリスさまは今、幸せですか?」
一呼吸置いた後、優しく問いかける。
「今更何を聞くんだ……幸せだよ。」
最後のほうは、ほんのりと頬を赤らめ、それでもはっきりとそう告げる。
「でしたらご安心ください。娘の幸せを願わない父親はおりませんよ。」
「そうだな…。」
いつものように、不安を払拭してくれるサロメの言葉がクリスの心にじんわりと染み渡っていく。
そして同時に幸福感も一層広がっていく。
そして同時に幸福感も一層広がっていく。
「それに…今日からサロメがもっともっと幸せにしてくれるんだろう?」
ふわり…とクリスが微笑を浮かべる。
「ええ。もちろんですよ。クリスさまの幸せのために私はおりますから」
「あの夢は…父が見せてくれたのかも知れないな。フフッ…」
「そうかも…しれませんな…」
楽しそうに笑うクリスにつられて、サロメは苦笑いをうかべた。
―カーン、コーン
鐘の音が静寂を破り時を告げる。
サロメは背筋を伸ばし襟を整える。
「では…そろそろ行きましょうか。わたしの…花嫁様。」
「はい。」
新郎から差し伸べられた手にそっと自分の手を置く新婦。
そして二人手を取り合ってチャペルへと歩き出した。
終わり