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乙女の憧れ 基礎編

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乙女の憧れ 基礎編

サロクリ祭り2nd:ノルマ”誓い”で投稿






長い会議がようやく終わりを告げ、評議会のメンバー達がぞろぞろと部屋を後にする。

思いがけず議論が長引き、深夜になってしまったため一刻も早く帰ろうとの思惑だろう。



そんな彼らをちらりと一瞥したのち、クリスは隣席のサロメに声をかけた。



「ようやく終わったな。」



「はい。…クリス様。私は今の議事を記してから出ますゆえ…。」



クリスの声にサロメは顔を上げたが、すぐさま視線を書面へと戻す。

時間が時間だけに、早く終わらせようと考えてのことだった。



「待っているよ。…それくらいすぐだろう?」



「は、…しかし…。」



「こんな夜更けに女性に一人歩きをさせるつもりか?」



「いえいえ、そのようなことは。…ではしばしお待ちいただけますかな。」



とがめるような口調のクリスに対し、あわててサロメは答えた。



「ああ。」



サロメの答えにクリスは満足げに頷く。



女性と言えど、ゼクセンの騎士団長を勤めるクリスである。

評議会から目と鼻の先である自分の屋敷に戻るのに何の心配も無いのだが…、

このように言われるとサロメの性格上断れないことを熟知した上での物言いであった。

ここはクリスの作戦勝ちと言ったところか。



サロメはさらさらと書類に文字をしたためていく。

クリスは再び深く腰掛け、サロメの仕事振りを眺めていた。















「随分と遅くなってしまったな。」



二人が会議室を出たとき、すでにホールには人の気配がすっかり失せていた。

カツン、カツン…と、階段をおりる二人の足音だけがやけに響き渡る。



「まったく…話だけは長いですからな…困ったものですよ。」



やれやれと肩をすくめて見せるサロメ。

そしてクリスもつられて苦笑をこぼした。







「…悪い。遅くなってしまったが…」



クリスがちらりと視線を移す。視線の先は教会だ。

評議会に来たときと帰るときはいつもここで女神に祈りをささげるのがクリスの慣習であった。



「ええ。参りましょうか…。」



サロメもまたクリスの慣習を十分承知していたのでそれに従った。















ギィ―



教会の扉が軋みながら開け放たれた。



鍵は開いていたものの中は真っ暗である。

二人は暗がりの中、奥へと進む。そしてサロメは急ぎ蜀台に火をともした。



ほんのりとしたうす灯りが礼拝堂を神秘的に照らす。

昼間の荘厳さとはまた違う雰囲気が辺りを包んでいる。



「………」



クリスはそっと目を閉じ、胸に手を当て女神へと祈りをささげる。

そしてサロメもそれに倣う。







「なあ、サロメ…」



祈りをささげた後、ふとクリスがつぶやいた。



「どうしました?」



「こういう所で、誓いの言葉がもらえたら…ステキだろうな……」



いつもとは違う教会の空気。

それに当てられたせいなのだろうか、クリスの目はうっとりとしていて、すっかり”乙女”と言うにふさわしいものとなっていた。



「…誓いましょうか?」



「…うん。」



サロメにあっさりと答えられ、クリスはあっさりと答えた。







「…って、え……えええーっ!!?」



答えてから少しの間をおいて、クリスは仰天する。







そ、そんな急に…!?

まだ心の準備って物が…!!



で、でもサロメだったら…。







いろんな考えがクリスの頭の中をグルグル回りだす。

心臓はばくばくいいだすし、気のせいか顔も熱くなってきたようだ。



しかし、当のサロメはそんなクリスの様子に全く気づいていないようで、



「では、御手を…」



さらりとそう言って、恭しくクリスの手をとりクリスの前へ膝をついた。







え……







サロメのとった行動にクリスの心中が一気に沈静化する。





これって…





…いつものアレ……か??





















「…ちっがーうー!!」



「は?」



突如頭上に落とされたクリスの怒声。

ぽかんとした表情でサロメはクリスを見上げた。

サロメを見下ろすクリスの表情は険しくて、どうやら自分の行動がお気に召さなかったことがサロメからも見て取れた。



「な、何か…違っておりましたかな…。」



クリスの前に跪いていたサロメは慌てて立ち上がり、おろおろとなりつつもクリスの様子を伺った。

そのさまを見ているかぎりでは、ゼクセン騎士団をまとめ上げる軍師であり、副団長という肩書きもすっかり形無しである。



「…そ、そっちじゃなくって…だな…。」



言いながらクリスの顔がどんどん紅潮していくのがわかる。

その様子にさすがのサロメもピンときたらしい。サロメの顔も紅潮していく。



「あ!…そ、その…失礼致しましたっ。」



そして、自分のしでかした間違いに真っ赤になりながら平謝りするサロメであった。







「………。」



そんなサロメを見ながらクリスは怒るわけでもなく、ただ複雑な表情を浮かべている。







「なあ、サロメ…。」



不意にクリスが口を開いた。



「…やっぱり、おかしいかな…?」



「え…」



「私がそんな事に憧れるのは…おかしいだろうか?」



「クリス様………。」



クリスが自嘲気味に微笑む。

それは心なしか悲しげで、その表情にサロメは一瞬目を奪われ言葉を無くす。

しかし、その後すぐさまかぶりを振った。



「おかしいなどと、…そのようなことはありませんぞ。」



「サロメ…」



「…クリス様も、いずれは教会で誓いの言葉を交わされるでしょうから…。」



女だてらに騎士団長をつとめているとはいえ、紛うことなくゼクセンを代表する名門の一人娘である。

縁談が次から次へと持ち込まれているのは事実であり、それでなくともクリスは人を惹きつけ魅了してやまないのだ。

いずれはそんな日が来ることは間違いないだろう。

きっとクリスにふさわしい相手が現れるはず。



そして…、立場に縛られ何もいえない自分のような者は”ふさわしい”という形容には遠く及ばない。



そうサロメは思っていた。



「そ、そう…かな…。」



「ええ…そうですよ…。」



淡々と交わされる会話。

だが、それとはうらはらに二人の思いはそれぞれに複雑なようである。

サロメがそのように思っている一方で、クリスもサロメの言葉を受け、なんとも晴れない気持ちで一杯だった。





”おかしくない”とそう言うのなら、

サロメは…サロメは、言ってくれる?誓いの言葉…。





それを望むのはおこがましいことなのかもしれない。

二人の立場上、サロメから言えるわけがないのも十分に承知している。





それでも、嘘でもいいから言葉が欲しい。





夜の教会はクリスをそんな気持ちにさせるのには十分だった。







そして…クリスは一計を案じるのだった。



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