SILVERMOON
一生の不覚
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「おかえりなさいませ。レオナード様。」
執務室に戻ってきたレオナードに守護聖補佐が声をかける。
「ああ。」
いつもより覇気の無い返答に彼は表情を曇らせる。
―ああ、やはりエトワール殿のことで…
一年という任務を終え、今日でエトワールと呼ばれる少女が故郷の別宇宙に帰ることは以前から聞かされていた。
聖地にいる日は毎日のようにこの執務室を訪れていた少女とこの部屋の主であるレオナードとの関係は傍目から見ても仲むつまじいものであったし、彼女が来る日と来ない日の彼のご機嫌の落差は自分が一番知っていた。
聖地にいる日は毎日のようにこの執務室を訪れていた少女とこの部屋の主であるレオナードとの関係は傍目から見ても仲むつまじいものであったし、彼女が来る日と来ない日の彼のご機嫌の落差は自分が一番知っていた。
「あのっ、レオナード様……。」
なんとか元気付けようと彼はおそるおそる声をかけた。
「あァ?なんだ?」
心ここにあらずといった風にレオナードが答える。
「あ、いえ……、エトワール殿のことは……本当に、その……。」
声をかけたもののどう励ましていいものかと思うとなかなか言葉が続かず口ごもる。
「あー、エンジュなら”聖天使”としてここに残ることになったから。」
気だるげにレオナードが伝える。
「え!そうなんですか?」
「ああ。明日が正式な任命式だと。」
「なるほど、それで陛下のところへ。」
「そーいうわけだからよ、今日の執務はもう終わりだ。適当に上がってくれや。」
そういい残しレオナードはつかつかと彼の前を通り過ぎる。
「あ、……は、はい……。」
返答も待たず私室へ向かうレオナードに彼は当惑し、一瞬言葉を無くしたのちあわてて返事をする。
「……あー、不覚だ。」
―ん?今、何か……??
一瞬、レオナードの声が聞こえたような気がしたが、バタンと扉の閉まる音が響き、かき消されてしまう。
―空耳だったのかな。
閉ざされた扉を眺めながら彼は首を傾げた。
「やっぱりおかしい、ですよね……うーん。」
執務室の整頓をしながら、先ほどからのレオナードの様子になにやら腑に落ちないものを感じ、彼はまたまた首をひねっていた。
レオナードと仲のよかったエトワールが、1年の期限を終えた後正式に聖地に残ることになった。
当然ながら彼女はもといた宇宙に残された家族との関わりを絶たれることは守護聖たちと同様であろう。
その決意は簡単なものではないと思われるが、想い人とこれからも一緒に過ごせるということはやはり喜ばしいことなのではないのだろうか。
それなのに、なぜ彼の表情はあんなにも覇気のないものだったのだろうか。
レオナードと仲のよかったエトワールが、1年の期限を終えた後正式に聖地に残ることになった。
当然ながら彼女はもといた宇宙に残された家族との関わりを絶たれることは守護聖たちと同様であろう。
その決意は簡単なものではないと思われるが、想い人とこれからも一緒に過ごせるということはやはり喜ばしいことなのではないのだろうか。
それなのに、なぜ彼の表情はあんなにも覇気のないものだったのだろうか。
「はっ!」
はたと思い立ったのは人一倍任務にまじめに取り組んでいたエトワールの性格。
もう会えなくなるかもしれない、となれば想いを告げに行くのはありえないことではないだろう。
そして、彼女はレオナードの申し入れを拒み恋より仕事を選んだと、そういうことなのだろうか?
もう会えなくなるかもしれない、となれば想いを告げに行くのはありえないことではないだろう。
そして、彼女はレオナードの申し入れを拒み恋より仕事を選んだと、そういうことなのだろうか?
「……いや、待てよ。」
今度はレオナードの性格を考える。
1年も満たない付き合いとはいえ、ほぼ毎日のように彼と顔をつき合わせているわけである。
他の人であればそういうことも考えられるが、あの”レオナード様”が、だ。果たして振られて落ち込むようなタマだろうか?
少なくとも人前では持ち前の自信満々の態度で受け流すはずだ。
1年も満たない付き合いとはいえ、ほぼ毎日のように彼と顔をつき合わせているわけである。
他の人であればそういうことも考えられるが、あの”レオナード様”が、だ。果たして振られて落ち込むようなタマだろうか?
少なくとも人前では持ち前の自信満々の態度で受け流すはずだ。
「う~ん……。」
ああでもない、こうでもないと思考がループしていき、結局これといった結論にはたどり着けないのだった。
執務室の片付けを終え、退室しようとしたとき、
コンコン
と、控えめなノックの音がした。
このノックの仕方はよく知った相手だった。
このノックの仕方はよく知った相手だった。
「どうぞ。」
扉を開け来客者を迎え入れる。
「こんにちは。レオナード様はいらっしゃいますか?」
そういってぺこりと会釈するのは当のエンジュだった。
「いらっしゃいますよ。少々お待ちくださいね。」
「はい。」
「ああ、エンジュ様。」
レオナードを呼びに行く前にふと先刻の彼との会話を思い出す。
―”聖天使としてここに残ることになったから”
「はい。なんでしょう?」
「先ほど、レオナード様にうかがいましたよ。」
「えっ……??」
なぜだろうか、彼がそういったとたんエンジュは硬直し、見る間に耳まで赤くしている。
「聖天使に任命されるとか。本当におめでとうございます。」
「あっ、ああっ……そ、そうなんです。これからもよろしくお願いしますね。」
「?」
そっちのほうね、とぽそりとつぶやくエンジュ。
そんな彼女の反応に少しばかり疑問を感じたが、まずは自分のつとめである。
そんな彼女の反応に少しばかり疑問を感じたが、まずは自分のつとめである。
「では、レオナード様をお呼びしますね。」
「はい、お願いします。」
コンコン
軽くノックをした後、中にいるであろう主に声をかける
「レオナード様。」
「開いてるぜ。」
「失礼します。」
中に入るとレオナードが腕組みをしてソファに腰掛けていた。
「なんだ?」
するどい目つきでこちらを一瞥する様は守護聖どころではない別の迫力満点である。
しかしながらそんなところでひるんでいては光の守護聖補佐はつとまらないので見なかったことにして話を進める。
しかしながらそんなところでひるんでいては光の守護聖補佐はつとまらないので見なかったことにして話を進める。
「エンジュ様がいらっしゃっていますが私室にお通ししてよろしいでしょうか?」
「エンジュが?」
「はい。」
「……ああ、そうだな通してくれ。」
いつになく間をおいて答え、少し気まずそうな表情を浮かべるレオナード。
やはり今日の彼の変調は彼女の事が何らかの原因になっているようだ。
とはいえ、一介の部下である自分が立ち入ることでもなく…
それに、先ほどのエンジュの様子からも自分がえらく無粋なことをしているような気もする。
やはり今日の彼の変調は彼女の事が何らかの原因になっているようだ。
とはいえ、一介の部下である自分が立ち入ることでもなく…
それに、先ほどのエンジュの様子からも自分がえらく無粋なことをしているような気もする。
「それでは私は退室いたしますね。」
「ああ、お疲れさん。」
―まあ、あとは当人同士でうまくやっていただく、ということで。
彼はエンジュを私室へと案内し、いそいそと執務室を出て行くのであった。
「失礼します~。」
「よ~ォ、どうした?今日はもう執務は無し、だよなァ?」
「あ、はい。そうなんですけど、なんだか落ち着かなくって。」
そういってはにかむエンジュ。
「そうだ、コーヒーいれますね!」
簡易キッチンへとぱたぱたと向かう様子は勝手知ったる、といったところか。
しかしながら、いつもの会話のはずがどことなくぎこちないものに感じるのはやはり昼間の中庭の一件の後だからであろうか。
しかしながら、いつもの会話のはずがどことなくぎこちないものに感じるのはやはり昼間の中庭の一件の後だからであろうか。
「あ~あ、ざまぁねぇよなあ……」
エンジュを見送りながら、レオナードはそうこぼすのだった。
しばらくの後、芳しいコーヒーの香りが部屋に漂い始めた。
「お待たせしました。」
トレイにコーヒーをのせ、エンジュがキッチンから出てくる。
ちょいちょいとテーブルにコーヒーカップを並べているエンジュをレオナードが手招きする。
どうやら自分の隣に座れということらしい。
いつからか私室に呼ばれるようになり、最初のうちは向かい合って座っていたのが、最近はこうしてレオナードに呼ばれて隣り合って座りコーヒーを飲むようになっている。
何度もそうやっているにもかかわらず、エンジュはいまだ慣れないらしく恥ずかしそうに頬を染めてちょこんとレオナードの隣に座る。
そんなお子様な反応も可愛いばかりなのだが、少し物足りない気がするのもまた事実で……
ちょいちょいとテーブルにコーヒーカップを並べているエンジュをレオナードが手招きする。
どうやら自分の隣に座れということらしい。
いつからか私室に呼ばれるようになり、最初のうちは向かい合って座っていたのが、最近はこうしてレオナードに呼ばれて隣り合って座りコーヒーを飲むようになっている。
何度もそうやっているにもかかわらず、エンジュはいまだ慣れないらしく恥ずかしそうに頬を染めてちょこんとレオナードの隣に座る。
そんなお子様な反応も可愛いばかりなのだが、少し物足りない気がするのもまた事実で……
「エンジュ、もうちょいこっちこいよ。」
「あ、はい…」
レオナードの催促に、エンジュは思い切ってぴたっと密着するように座り、彼に寄りそった。
特にこれといった会話もないままコーヒーカップが空になる。
「ごちそーさん。」
コトリとレオナードがコーヒーカップをテーブルのソーサーの上に置く。
それに倣うようにエンジュもカップを置く。
それに倣うようにエンジュもカップを置く。
「なあ、エンジュ。」
「はい。なんですか?」
「今日はかっこ悪ィとこ見せちまったな。」
「え…?」
「自分でも、あんなとこ見せちまうなんて思いも寄らなかったんでどう言っていいかわからないんだがよ……」
照れくさそうに言葉を捜しているレオナードの様子にエンジュは目を丸くする。
「あの…わたし、すごくうれしかったです。」
「へ?」
「レオナード様が本当に私のことを必要だと、想ってくださっているんだとそう思ったら私胸がいっぱいになって…。その、おかしいんですけど、抱きしめてあげたいって…」
「エンジュ……。」
エンジュの言葉に、さっきまでの晴れない思いがすっと消えていく。
―お前にだけはこういう自分を見せるってのもアリってわけか?
「そうか。抱きしめてあげたい……か。まったく、可愛いことを言ってくれるなァ。」
そういってレオナードはエンジュの頭に手をのせよしよしと子供をほめるように髪を撫でる。
「本当はこの腕の中に抱きしめて閉じ込めてしまいたいところだが、エンジュちゃんのお望みのままに抱きしめてもらうとしますか。」
「ええっ!?」
驚くエンジュにレオナードはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「も、もうっ……。言うんじゃなかった。」
エンジュは恥ずかしさに思わずうつむいてしまう。
「エンジュちゃーん?」
「う、ううっ……。」
「あんまり待たすと襲っちまうゼ?」
耳元でそんなことをささやかれ、エンジュはそっとレオナードを伺い見る。
そこには先ほどのようなからかうような表情ではなく熱のこもった眼差しがあった。
そこには先ほどのようなからかうような表情ではなく熱のこもった眼差しがあった。
きゅっと胸の辺りが痛くなる。
さっきの中庭でも感じた甘いような苦いような疼き。
「レオナード様……。」
エンジュはすっと立ち上がりレオナードの正面へと回る。
いつもと違い見下ろす形でレオナードと向き合った。
いつもと違い見下ろす形でレオナードと向き合った。
「エンジュ……。」
どこかすがるようにエンジュを見上げるレオナードにますます胸の疼きが広がる。
「レオナード様っ……」
その痛みを消すように、エンジュはレオナードの頭を自分の胸元へとかき抱いた。
「ずっと、ずっと……大好きです。」
「ああ、エンジュ……。」
ずっと、ずっと一緒に
そして翌日。
すっかりいつものレオナードになっており、彼の補佐はまたまた首を傾げつつも
やはり当人同士が話し合うのが一番だなと自分を納得させていたのだった。
やはり当人同士が話し合うのが一番だなと自分を納得させていたのだった。
(おわり)
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