さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を ◆yX/9K6uV4E



――――さあ、愚かしくも、哀しくも、美しいくも、愛おしい劇が、始まるよ





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







――――誰もが、みんな、輝ける訳じゃない。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「知ってますか? 身の丈に合わないものを背負された時、どう思うかを」


それは殺しあいが始まって初めて会った少女の呼びかけ。
直接話したことは無いけれど、わたしはその少女のことを知っていた。
あの有名グループの一人だもの……知らない訳が無い。
フラワーズの一人――矢口美羽ちゃん。
今を時めくアイドルグループの一人だ。

「どうしよう、どうすればいい?って自分を見失うような感じになっちゃう」

そんな彼女の独白めいた言葉。
わたしは困惑しながら、受け取る。
何故、それをわたしに言うのか解からない。
行きずりのわたしなんかにと思って、その時ふと考え付いたのがあった。
誰かに、言いたいのかなって思う。

「とっても歌が上手な夕美ちゃん。ダンスが凄い友紀ちゃん」

その二人も勿論、知っている。
夕美ちゃんの歌声は、透き通る綺麗なもので。
友紀ちゃんのダンスは、見る人を元気にさせるものだった。

どれも、魅力的で、どれも輝いていたといえる。

「そして、自然と人を惹きつける藍子ちゃん。わたしと同じ普通の子に見えるのに」

高森藍子
…………わたしの友人です。
ドジなわたしを助けてくれる優しい人。
一緒に、歩幅をあわしてくれる人。

何処にでも居そうな子なのに、あの子はリーダーとして輝いている。
凄いなって思います。


「その中で、わたしは輝いてるのかなって、思った時……そうじゃないと思ってしまう」

そんな輝いてる三人がいて、そこに居た少女。
今を時めくフラワーズの中で、居た彼女。
きっと、悩んで、苦しんで。


「フラワーズは今も輝いてるのに、ねえ、わたしは輝いていますか?」


それに、わたしはどう返事すればいいか、解からなかった。
答えなんて、ないのかも知れない。
だって、それは彼女が出さなきゃ意味が無い。


「ずっとどうすればいいか解からなかった。自分で自分の方向性を探して」


そして、わたしたちは


「この殺し合いに巻き込まれて、しまいました」



悩んでいる中、殺し合いに、巻き込まれてしまったのです。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








――――なんで、あの人に恋したんだろう









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「知ってますか? 恋って、勝手に心が想っちゃうんです」

私の問いかけが終わって、巫女服の少女が語りかけてきた。
藍子ちゃんから、聞いていた少女……道明寺歌鈴って子。
知ってたから、私は話しかけたんですけれど。

「好きになっちゃいけない……そう思ったのに。わたしは、好きになってしまった」

彼女が、語る独白。
それは、恋の話で。
でもそれは、甘くて優しいのではない。

「こんなドジなわたしにいつも優しくて、優しくて」

愛おしく語るのに。
何処か辛そうで。

「そんな人にわたしは恋して……でも、それは…………」


決意するように、彼女は言う。
誰にもいえなかった、告白で。



「大切な、親友の、想い人でした」



彼女は、苦しそうに言った。
ずっと悩んでいた事。

「こんな駄目なわたしをずっと傍で励ましあってた、親友なのに……あの子が好きな人だってわかってたのに!」


でも、でもと言葉を重ねる姿は、言い訳を重ねるんじゃなくて。
それは、まるで謝罪を重ねる姿だった。


「駄目なのに、駄目なのに、駄目なのに! 好きに、なってしまった!」


ほぼ、絶叫でした。
後悔。
親友への友情。
そして、それでも止まない想い。
涙が流れていたかは……解かりませんでした。


でも、自然と、私と彼女が重なって見えたんです。


「抜け駆けをして……わたしはっ……わたしはっ……」


それは、『負い目』というものだろうと、自然と理解する事が出来ました。
方向性の違いとはいえ、きっとそう。
だから、わたしは―――


「そんな状況で……わたしは、ここにつれてこられてしまいました」






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「手を組みませんか?」
「……え?」


それは、美羽から、さしのばされた、手。

「私は、殺し合いに、乗ります」
「……っ」

解かりやすい、とても解かりやすい宣言。
シンプル且つこの殺し合いの目的に沿った宣言。

「けれど、それはフラワーズの為」

けれど、美羽が殺し合いに乗るのは、決してプロデューサーの為ではない。
大切な、大切な仲間の為。

「輝いてる三人の為に……あの三人の内、一人でも生き残ればいい」

それは、負い目を感じてるからこそ、願い。
自分が輝いてると思えない美羽だからこその、願い。


「あの三人が、生きて輝いて『アイドル』をやればいい……そう思ったんですよ」


そう、自分は運が良かっただけだ。
たまたま、光り輝く花達の中に混じれたから、注目された。
本来は見向きもされない、小さな花でしかない。
何にも個性も無い、花でしかなくて。
そんな花が出来る事は、他の花を輝かせる事だけなのだから。


「貴方は……どうですか?」

そして、バトンは歌鈴へ。
同じ負い目を持った彼女への想い。


「わたしは…………………………わたしは…………」

歌鈴は喉がからからに鳴って。
それでも、それでも言葉を紡ぎ出す。


「殺し合いに、乗ります」


歌鈴が、つむぎだした結論。
それは、きっと決まっていた事だった。
だって、歌鈴はプロデューサーを愛しているのだから。


「プロデューサーと…………親友…………美穂ちゃんの為に」


そして、紡ぎ出すのは、親友の名前。
大切な、大切な人。

「わたし、ドジだから……生き残れないかもしれない。だから、美穂ちゃんにも……プロデューサーと……」

ただの歌鈴の傲慢かもしれない。
けれど、それが歌鈴の美穂に対する贖罪だった。
だって、親友にも生きて欲しいから。
だって、親友にも幸せになって欲しいから。


「わたしは、大切なプロデューサーと親友の為に」
「わたしは、大切な仲間の為に」



そして、


「「手を取り合いましょう」」


二つの手は結ばれた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




そうして彼女達は、話し合った。
そして、二人で決めた事があった。


殺し合いに乗って居る事を隠して、殺し合いに乗ってないチームに潜り込むと。

大勢に隠れて、そして少しずつ人数を減らしていく。
もし疑われたりしたら、互いに庇いあう。
脱出できそうならば、そのまま其方側につくと。

非力な二人が生き残る為に選ぶ手段で。
少しずつ減らして、チームを喰う。

それが、二人が決めた手段だった。



「ねえ、美羽さん」
「なんでしょうか?」


さあさ、劇が始まるよ


「わたし達はきっともう――」



スポットライトがなくても、開幕する劇が



「大切な人を思う資格なんて、無くなってるんでしょうね」



とても、愚かで、とても、哀しくて、とても、美しくて、とても愛おしい劇が




「でも、それでもやらないといけない」


演じるのは、、二人の少女。



「「それが、わたしの」」


大切な、想いを胸に抱いて。


「輝き方だから」
「贖罪だから」



二人は、演じるのです。






【C-3/一日目 深夜】

【矢口美羽】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、フラワーズのメンバー誰か一人でも生還させる

【道明寺歌鈴】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:対主催チームに潜伏しながら、人数を減らしていく
1:そして、出来るなら美穂を生還させる。

小日向美穂と同じPです。


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最終更新:2012年12月12日 18:56