wholeheartedly ◆yX/9K6uV4E
――――花は花であるが故に美しく、気高く、そして、そうであるが故に、散っていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どんな場所にだって日は昇る。
日が昇ると、人々は動き始める。
自分達が生きるために。
それは、参加者全ての死を望む
相葉夕美でさえも変わらない。
「……うん、禁止エリアは関係ないかな」
千川ちひろが告げた二つのエリアを、夕美は地図に書き込む。
禁止になった一つは全然違う所、もう一つは恐らく火災があった所だ。
其処に禁止エリアにした意図は夕美としては解からないけれど、一つ確証を得る事が出来た。
(やっぱりちひろさんは……嫌がらせ目的でこんな所に配置したんじゃない)
千川ちひろは、恐らく意図があって夕美を此処の島に配置したのだと。
殺し合いをしろ……といっている割に、こんな移動もままならない島に配置した。
だから、夕美は暫く此処に居ると決めて、そういう準備もしている。
その殺し合いをしないという行為はちひろ側も把握しているはず。
一箇所に篭るな、とも言っていた。
ならば、極端な話、今回の放送でこの島といわないまでも、近くを禁止エリアにしてくる可能性だってあった。
殺し合いをしろという警告として。
けれど、それをしてこなかった。
安易に判断するのは危険だけれど、何かしらの意図があるのだと……何となくだが、夕美は理解したのだ。
でなければ、最初に言っていた事と矛盾する。
一箇所に篭るなという発言をしてるのに、こんな篭るのに適した場所に配置する。
相葉夕美を此処に配置した理由……というものがあるのだろう。
そう考えるのが自然だった。
「ま……興味ないけどねっ」
自然だけど、興味は無かった。
だから、夕美は花のような笑みを浮かべて、今後の予定を書いたメモを見る。
時間は有限なのだ、日が昇ってるうちにやる事は沢山ある。
それに意図があって配置されたからといって、此処からいつ追い出されるか解からない。
だから、準備は出来るだけ早くやらなければならない。
「よーーっし! 出発!」
そう言って、夕美はあばら家から飛び出す。
まずは、食料と海を実際見ることにする。
果たしてボートで移動できるのかを確認しなければ。
それ次第で、夕美が取る行動が変わってくる。
死者も割と出てるのも、夕美の行動に関わってくる。
「十五人……多いのかな?」
先程呼ばれたのは、十五人。
多いのか少ないのか、夕美には判断はし辛いが四分の一は少ない数字ではないと思う。
思いのほか……早く殺し合いが進んでいるのかもしれない。
呼ばれた人物のなかには知り合いも居た。
哀しいという気持ちも夕美にはあったが、それだけだった。
フラワーズの面々が呼ばれなくて、安心したような、がっかりしたような不思議な気持ちだった。
どんな生き方をしたんだろうか、死んだ人達は。
やっぱりプロデューサーを護りたいが故だろうか。
命がかかってるのだから、当然かなと夕美は思う。
大切なプロデューサーなんだろうし、と。
(でも)
だけど、夕美のプロデューサーは。
「絶対………………私達のプロデューサーは“助からない”よ」
絶対、助からない。
絶対、命を落としてしまう。
それは、相葉夕美が殺し合いを放棄したから、じゃない。
むしろ、その前に助からないと理解し、絶望してしまったから。
だから、破滅を望んだのかもしれない。
だって、夕美も、大好きだったから。
大切なプロデューサーを。
「助かる訳ないですっ!……………………ねぇ、藍子ちゃん」
それは此処に居ない大切な仲間であり、親友への問いかけ。
そして、藍子こそが、夕美達のプロデューサーが、助からない『理由』だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よっしー仕事終わった! 美羽ちゃん、キャッツの応援しよう!」
「ええっ……ちょっと、友紀さん……ってまたお酒取り出して……」
それは、昔あった日常。
フラワーズが軌道に乗り始めた、一番楽しい時期。
アイドルとして、輝き始めた時だった。
「おーい、明日も仕事入ってるんだから、騒ぎすぎるんじゃないぞ」
「解かってる、解かってるって!」
「本当に解かってるのか……ったく」
呆れるように、私達のプロデューサーが頭を抑えている。
それを私と藍子ちゃんが楽しそうに見つめていた。
楽しい、日常でした。
「明日は……重要なんだけどなぁ」
「まあまあ、きっと解かってますよ」
「そうかぁ……?」
「そうですよ」
明日は、重要な番組の収録だった。
有名な音楽番組に出て、其処で一曲歌う。
これが成功すれば、私達は更に輝きを増す事が出来る。
その為には、絶対に失敗できない。
けれど、藍子ちゃんは何処か楽しそうだった。
「そうよ、何とかなるって♪」
「夕美まで……まあいいか……頑張るのはお前達だし」
「……うっ、プレッシャーかけないでくれるかなぁ」
そう、意地悪っぽく言われると、ちょっと緊張する。
ぷくーと口を膨らませ文句を言うと、プロデューサーは悪い悪いと言って
「頑張るのも……俺もだからな……お前達を絶対トップにしてみせる」
「そんな気張らなくても……」
「いいや、それはプロデューサーとしてやるべき事だし……何より」
言葉をそこで区切って、プロデューサーは無邪気に笑う。
こういうところは本当子供みたいなのに、
「お前達の笑顔は、俺が一番大好きだからな。その素晴らしさをもっとみんなに伝えるんだ」
こう、どうして、ドキッとさせる言葉を言うんだろうね。
あーやばい、やばい、やばい。
頬が赤く染まっていくのが解かる。
頭が沸騰するような感じがする。
やだ、本当に、もう。
この人は、いつも、こうで。
こう、とても、とても、かっこよくて。
私は彼に言葉を、紡ごうとして。
恥ずかしくて、何も、言葉が出なくて。
それでも、搾り出そうとして、それでも、出なくて。
「……えへへ。有難うございます。私も頑張ります」
そんな、頭が回らない時に、穏やかな声が響く。
隣にいる藍子ちゃんだった。
まるで、日向のように微笑んで。
「皆が微笑んでくれたらいい……そして」
手と手を合わせて。
頬を真っ赤に染めて。
指先と指先をつつき合わせて。
「こんなこと言っちゃアイドル失格かもしれませんけど…私、誰よりも貴方の笑顔を見るのが、す、好きなんですよ」
素直に、一途な気持ちを言葉に出来ている。
告白めいた言葉だけど、それはきっと、
「……お、おう? 何が何だが解からんがそれはよかった。ファンの笑顔を見るのはいいだろう!」
「はいっ……だから、私は『アイドル』として頑張ります!」
哀しいぐらいに、理解されてない。
この人は凄い純粋な馬鹿だから。
私たちを心の底から愛している、『アイドル』として。
誰よりも、私達のファンだから。
全く……私と藍子ちゃんの気持ちも気付かないで。
……本当に、馬鹿。
………………私の、馬鹿。
こんなときぐらい、ちゃんと伝えなきゃ、駄目じゃない。
いつも、花言葉とかでしか……伝えらない。
いいな、藍子ちゃんが羨ましい。
素直に言葉に伝えられて。
「うん……頑張ろう。ファンが優しい気持ちになれたら、幸せ。笑顔なら、もっと嬉しい」
藍子ちゃんの呟きが響く。
彼女は、いつも一途だ。
アイドルとしてビックリするぐらいだ。
普通の少女なのに、アイドルとして、生きていてた。
誰よりも、アイドルのというものに真摯で。
その為なら、自分の気持ちすら、昇華させるほどで。
「だって、それが、私は、大好きだからっ……アイドルなんだっ!」
その姿は、理想のアイドルそのものだった。
輝いて見えて。
けど、同時に思った。
私は、彼女のようには、なれない。
だって、今も、胸に抱えてる、思いの種を。
開花させたくて、たまらない。
それが、出来る訳、ないけど。
出来る訳がないから、羨ましくて。
そして、悔しいな……と思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、藍子ちゃん、バレリーナツリーの花が咲いてるよっ」
ふと、夕美はふと近くの木をを見るとバレリーナツリーの花が可愛げに咲いていた。
微笑んで、それを愛おしげに触る。
「バレリーナツリーの花言葉って知っているかなっ?…………『一途な思い』って言うんだよ」
まるで、藍子ちゃんのようだねと夕美は言葉にする。
きっと、そう、彼女は変わらない。
変わる事が、出来ない。
ずっと、一途だ。
「藍子ちゃんは『アイドル』やってるよね。一途に」
高森藍子は、理想のアイドルだ。
相葉夕美にとって、彼女ほど理想のアイドルは居ない。
だから、この島でも、アイドルを絶対に、絶対に、やめない。
夕美は絶対そうだと言い切れる。
「殺し合いに反対して……だから」
つまり、それは、アイドルで居続ける事。
殺し合いに、反対し続ける、という事。
「絶対………………私達のプロデューサーは“助からない”」
高森藍子が最後まで、アイドルで居続けるから、プロデューサーは絶対に、助からない。
大好きな人が、大切な親友であるが故に、助かる訳が無いのだから。
花は花であるが故に、咲き誇り続ける。
そして、それ故に、散っていく。
そういう事だった。
「あはっ……仕方ないよね」
仕方ない。
仕方ない事だからと、夕美は言って。
「よっし、まずは海はいこう! ついでにお腹すいたなっ♪」
抱えた未練と共に、破滅を望み続けていた。
ただ、『一途』に。
そして、柔らかな風と共に、バレリーナツリーの花が、揺れていた。
【G-8(大きい方の島)/一日目 朝】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、双眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
0:お腹すいたんだよ♪
1:しばらくは今いるあたりを中心に、長期戦を想定した生活環境を整えることに専念
2:日が昇ったらゴムボートのテストをしておく。その後、近隣の島々も探検する?
3:もし万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する
4:藍子ちゃんは一途だから…………
※自分が配置された意図が隠されていると考えています。(ただし興味無し)
最終更新:2013年02月04日 15:55