だって、私はお姉ちゃんだから ◆44Kea75srM
長めのネイルが掌の皮膚を突き破るほど強く、アタシは拳を握り込んだ。左右の手でグッと。痛みを堪えるように。
違う。堪えていたのは痛みは痛みでも心の痛み。身体はそりゃ、多少の傷や疲れはあるけれども、健康そのものだ。
だけど心は摩耗して、疲弊して、嗚咽を漏らしたいほどに苦しんでいた。アタシはただ、その痛みに耐えた。
限界はすぐに訪れた。心が悲鳴をあげる。我慢は辛い。吐き出したい。吐き出したいよ。耐えてもいいことなんてない。
それでもアタシは必死に耐えようと、拳を地面に打ちつけた。ガッ、ガッ、ガッと。何度も何度も打ちつけた。
皮が剥け、傷が走り、血が滲む。すぐに両手がボロボロになった。日頃の手入れが馬鹿らしくなるくらいの有様だった。
たぶん、美優さんが止めてくれなかったら、アタシはもっと続けていたと思う。それこそ、両手が粉々になるまで。
「そんな……嘘だよ。いつもの冗談でしょ? お姉ちゃんをからかおうって……そういうのじゃ、ないの?」
美優さんに後ろから羽交い絞めにされながら、じたばたと暴れる。周囲は住宅地、住人がいたら奇異の眼差しを向けられただろう。
よかった。ここがアタシの知ってる街じゃなくて。ううん。別にいいよ。誰が見てたって構わない。
アタシはただ叫びたかった。悔しさと悲しさをなにかにぶつけたくて、暴力の権化になろうとしていた。
「どうして……どうして莉嘉が死ななきゃならないのっ!?」
アタシはちひろさんの放送を聞いた。殺し合いが始まってから六時間、その間に死んだアイドルの名前を読み上げる放送を。
その中にアタシ、
城ヶ崎美嘉の妹である
城ヶ崎莉嘉の名前があったのだ。ちひろさんはいつもの調子で、莉嘉の名を呼んだ。
なにそれ。なんでそこで『城ヶ崎莉嘉』って言うの? だって、それじゃまるで、城ヶ崎莉嘉って名前の子が死んだみたいじゃん。
違う。『みたい』じゃなくて、本当に死んだんだ。城ヶ崎莉嘉って名前のアイドルは死んだ。アタシの妹は、死んじゃった……。
「うぅ……ぁあああああああああああああああああああああああああ…………」
放送が終わって数分、アタシと美優さんは放心状態に陥り――そしてまた数分、アタシはその場に崩れ落ちた。
ピンキーハート全開のカリスマギャルで通しているアタシが、往来の真ん中で外聞もなくわんわん泣き喚いた。
美優さんはそんなアタシを見てどうしていいかわからないようだった。泣き崩れるアタシから距離を取り、おろおろする。
「美嘉ちゃん…………」
わかるよ美優さん。アタシが美優さんの立場だったら、同じようにおろおろしてたと思う。でもごめん。止められないんだ。
叫び声が止められない。悲しみの涙が止められない。失意が止められない。どこまでもどこまでも、どん底まで落ちていく。
いまのアタシはアイドルじゃない。おもちゃを買ってもらえなくておもちゃ屋さんで駄々をこねる子供だ。
泣いたり、床を転げまわったりしても、なにも変わらないってわかってるのに……っ! どうしよう、アタシ、子供だ!
「嘘だって、嘘だって言ってよぉ…………莉嘉ぁ――――っ!」
近くに誰か、凶暴な人がいるかもしれない。ただでさえ、数時間前には愛梨ちゃんに襲われたばかりだっていうのに。
でも、いいよ。いまなら誰に襲われたっていい。そんなことより、いまは泣きたいんだ。泣けるなら、襲われるくらいっ。
「えぁぁああうああああああああああ……っぐぁああっ……ぅああわあああああああああっ、ああ~……」
アタシは……アタシは! この六時間、いままでなにをやってたの!? なんでもっと必死にならなかったんだ、城ヶ崎美嘉!
殺し合いが始まってすぐに、もっと積極的に走り回って妹を捜せば……っ、そうすれば、莉嘉は死ななくて済んだかもしれないのに!
誰なの。いったい誰が莉嘉を殺したの!? 今度はアタシが殺してやるから、いますぐ出てきなさいよ! 許さない。絶対に許さない!
違うよぉ……それ以上に許せないのは、アタシだ。アタシ、お姉ちゃんなのに。妹は、お姉ちゃんのアタシが守らなきゃいけないのに。
それなのに、アタシは莉嘉を亡くして……それなのに、お姉ちゃんのアタシはのうのうと生きて! なんでよっ!
「アタシなんて……アタシなんてっ! 莉嘉じゃなくて、アタシが死ねばよかったんだッ!」
また拳を握りこんで、地面に叩きつけた。皮が破けて、赤黒い肉が露出する。骨が見えるまで殴ってやろうと思った。
痛い。痛いよ。だけどこんな痛みっ。妹は、莉嘉は文字通り死ぬほど痛い思いをしたんだ。これくらいっ、莉嘉に比べればっ!
「――美嘉ちゃん!」
振り上げた拳が、不意に動かなくなった。
後ろを見ると、美優さんがアタシを羽交い絞めにしていた。
背後から抱きつくような姿勢で、アタシの凶行を止めようとしている。
「大丈夫、大丈夫だから……!」
美優さんは耳元でそんなことを言ってきた。大丈夫? 大丈夫って? なにが大丈夫なのかわからないよ、美優さん。
少なくとも、莉嘉のことじゃないでしょ? だって莉嘉は死んじゃったんだから。死んじゃったのに、大丈夫なわけないじゃん。
じゃあなにが大丈夫なのよ。この人はどんな根拠があって『大丈夫』なんて言葉を口にしているの? 莉嘉が死んだのに!
「お願いだから、自棄にならないで。美嘉ちゃんが傷ついたら、きっと莉嘉ちゃんも悲しむから……っ」
どこかの人が死ぬ小説から引用したような、綺麗な言葉――だけど、その一言で、アタシの頭は爆発しそうになった。
羽交い絞めにされながらなおも暴れ、結果として美優さんの顔面に裏拳が当たった。そしてそのまま払いのける。
「大丈夫……? 大丈夫なわけないでしょ。そんな綺麗事、軽々しく口にしないでよっ!」
アタシの怒声に、美優さんは怯えたような表情を見せた。鏡はないけど、たぶんそれくらい、アタシは怖い顔をしていたんだと思う。
違うの。美優さんを怖がらせるつもりなんてないの。美優さんに怒ってるわけじゃない。怒ってる場合じゃないのもわかる。
だけどね。やっぱり止められないんだ。自分の感情が抑えられない。暴走っていうのかな。どうにもならないの。
「慰めたりなんてしないで! アタシが泣きやめば、莉嘉は戻ってくるの!? そんなわけ……そんなわけぇ……」
ああもう、駄目だ。声にまで涙が滲んできた。くそっ、くそっ、格好悪いなぁ……こんなんじゃ莉嘉に笑われちゃう。
むしろ笑ってほしいよ。お姉ちゃんカッコワルーって、いっそ懲らしめたいほどバカにされたい。
わかってる。死んじゃったら、もう笑うこともできないんだよね。もう、莉嘉の笑った顔を見ることも、笑い声を聞くことも、できないんだ。
「なんでっ! なんで莉嘉がっ! あの子はこんなところで死んでいい子じゃない。だって、あの子はあんなにいい子で……っ!」
髪を止めていたリボンをほどき、乱暴に頭を掻き毟った。愛梨ちゃんとの銃撃戦で乱れていた髪はさらにぐしゃぐしゃ。みっともないよね。
物に当たるってこういうことを言うのだろう。アタシは肩に下げていたデイパックを掴み、ガンガンと地面に叩きつけた。
中に拳銃とか銃弾入りのケースとか入ってるからそんな音がするのかな。危ないかも。いいよもう。どうなったっていい。
でも美優さんは心配なんだろうね。懲りずにまたアタシを止めようとした。アタシはそんな美優さんに酷いことをした。
デイパックを投げつけたのだ。それも顔面に向かって。美優さんはそれをまともに食らった。顔は赤くなり、鼻から血が垂れる。
「あっ……」
それを見て、アタシはようやく落ち着きを取り戻した。熱く滾っていた感情が、さーっと冷めていく。美優さんの痛そうな姿を見たからだ。
……なにやってんのよ、アタシ。もう、泣きたいよ。とっくに泣いてるけどさ。そういう意味じゃなくて、とにかく泣きたい。
頭の中こんがらがっちゃって、ぐちゃぐちゃで、上手く言葉にできない。どうすればいいの。どうすればいいのか、誰か教えてよ……っ!
「美嘉ちゃん」
美優さんは。
美優さんは、優しくアタシを抱きしめてくれた。
「ごめん。ごめんなさい。私、年上なのに。私、美嘉ちゃんよりもお姉ちゃんなのに。それなのに、なにもできなくて……」
羽交い絞めじゃない。抱擁、という言葉がぴったりな優しい抱き方。美優さん、母性強いな。こんなの、余計に子供みたいじゃん。
みたいじゃなくて、子供か。アタシ。お姉ちゃんなんて粋がったって、アタシはまだ17歳。どうしようもなく、子供なんだ。
「私、本当に……っ。ひぐっ……」
それに、さ。
なんで美優さんまで泣いてるのよ。
「うぇぐ、えぐっ、りが、莉嘉ちゃん……っ。莉嘉ぢゃん…………っ」
美優さん関係ないじゃん。莉嘉はアタシの妹で、アタシは莉嘉のお姉ちゃんで、莉嘉はそりゃ、美優さんに懐いてたかもしれないけど。
そんなの全部、関係ないよ。人間関係とかそういうのじゃない。もっと根本的に大切なこと。決して無視できない、嬉しいこと。
美優さんはいま、莉嘉のために泣いてくれてるんだ。アタシの妹が死んじゃったことに悲しんでくれてるんだ。
アタシと一緒だ。美優さん、アタシと一緒なんだよ。わかりなよ美嘉。アンタがわからなくてどうすんのよ。
アンタ、莉嘉のお姉ちゃんなんでしょ。だったら……だったらさ。子供みたいな泣きわめくより先に、やることがあるでしょ。
「美優さん……アタシ、アタシは――――あっ、うあっ、ああ…………あぁ~…………」
でもやっぱり、駄目だった。物に当たりたい衝動は収まったけど、泣きたい衝動はまだまだ元気で、アタシは抗うことができなかった。
そのまま、アタシと美優さんは泣いた。道の真ん中でわんわん泣いた。どっちの声が大きいか、張り合うくらいお互い自重しなかった。
映画なんかだと、家族が死んで悲しんでるシーンってさらりと飛ばされたりするけどさ。アタシ当事者だし、現実はそうもいかないよね。
ごめん。
ごめんね、莉嘉。
守ってあげられなくてごめん。
だめなお姉ちゃんでごめん。
もう、なにもしてあげられないけど。
許してなんて言うつもりもないけど。
聞いてくれなくてもいいけど。
だけど言わせて。
ごめんね。
本当に、ごめんなさい――
◇ ◇ ◇
悲しさは癒えないけれど、このまま外で泣いているのは危ないから。近くの家を拝借して、私と美嘉ちゃんはそこで休むことにした。
美嘉ちゃんは誰もいないリビングのソファに寝転がり、しばらくしてから眠りについた。その目元は涙でぐしょぐしょだった。
私も泣き疲れちゃったけど、いまは眠ることはできない。だって、私はお姉ちゃんだから。美嘉ちゃんよりも、年上だから。
「美嘉ちゃん……ありがとう」
感謝の気持ちは、愛梨ちゃんに襲われたとき、自棄になっていた私を立たせてくれた美嘉ちゃんに向けて。
美嘉ちゃんがいてくれなかったら、いまの私はない。だからせめて、美嘉ちゃんに恩返しがしたいと思った。
彼女の妹の莉嘉ちゃんは死んでしまった。それは私にはどうにもできない。でも、悲しんでばかりはいられないもの。
「莉嘉ちゃん……雪美ちゃん……」
放送で呼ばれた十五人の死亡者。その中で私が交友を持っていたのは、城ヶ崎莉嘉ちゃんと
佐城雪美ちゃんの二人だった。
雪美ちゃんは小さな女の子だ。年長者の私は若い彼女と事務所で一緒に留守番を任されることもあって、そこから仲良くなった。
あとから、同じプロデューサーさんが私たちのプロデュースを担当することが決まって。そしたらさらに仲良くなった。
仕事やレッスンがない日は、莉嘉ちゃんも交えて一緒に遊んだりしてたのに……それなのに、幼い二人が死んでしまうだなんて。
思い出を噛み締めると、また涙が零れ落ちそうになる。駄目。駄目よ私。私はお姉ちゃんなんだから。泣いてちゃ駄目。
そう、お姉ちゃん。年上の私は、美嘉ちゃんのお姉ちゃんになろうと思う。それがここでの私の役目だと、私がいま、そう決めた。
「『生きて』――生きるわ。絶対に生き抜いてみせる。だから美嘉ちゃんも一緒に生きましょう」
眠りにつく美嘉ちゃんの頭を、優しく撫でる。髪を下ろしメイクの剥がれた彼女は、カリスマギャルなんかじゃない。
ただの女の子。私よりも歳の低い、私が守らなくちゃいけない――本当に、ただの女の子なんだ。
私は、美嘉ちゃんに『生きて』って言われてすごく嬉しかったから。もう死のうだなんて思わない。
生きるなら、美嘉ちゃんの隣で。美嘉ちゃんが私と同じ道を歩みそうになったら、今度は私が『生きて』って。
「プロデューサーさん。私、この子と一緒に生きたいです。あなたにはご迷惑をかけてしまうかもしれません。でも……どうか、許してください」
囚われ、命の危機に貧しているプロデューサーさん。私に彼を救い出す力はない。
運営に逆らい、殺し合いを拒む私への制裁として、それでプロデューサーさんが殺されてしまうかもしれない。
けれどやっぱり、私にはできない。私には愛梨ちゃんのような道を選択することはできない。でも。
身勝手な女の身勝手な妄想かもしれないけれど、プロデューサーさんなら『それでいいんだよ』と言ってくれるだろうから。
「私たちは、少し疲れすぎたのよ。いまはせめて、ゆっくり休もう……美嘉ちゃん」
奥の寝室へ行き、押入れから毛布を持ってきて、美嘉ちゃんの身体にかけてあげる。
私は、まだ眠ることはできない。彼女のためにも、やらなきゃいけないことがあるから。
リビングの窓に鍵がかかっていること、閉め切ったカーテンに外から見えるような隙間がないことを、よく確認する。
音を立てないようゆっくりと玄関のドアを開き、私は身一つで外に出た。
朝の陽光が涙で腫れた目に突き刺さる。眩しい。朝が来たんだ。アイドルとしてのお仕事が始まる朝じゃない。殺し合いの朝が。
「……よしっ。今日もがんばろう」
私は、生きると決めた。美嘉ちゃんのために……なんて言ったら叱られちゃうから、誰よりもまずは、自分のために。
生きると決めたからには、しっかりしなくちゃいけない。なにをしっかりするのかといえば、ライフラインとなる荷物の管理だ。
さっき、美嘉ちゃんが泣き崩れたとき彼女が投げつけてきた荷物。実はあれを道端に放置したままだったのだ。
あのときはとりあえず落ち着ける場所に行こうと必死だったから、荷物を拾っている余裕なんてなかった。
美嘉ちゃんのバッグには銃と発煙手榴弾が入っている。あれはこれからを生き抜くためには絶対に必要なものだ。
それに……美嘉ちゃんのつけていたリボンも。アイドルがトレードマークを失ってしまうのはNGよね。
「うふふっ」
自然と笑みが零れてしまう。だって莉嘉ちゃんにいつも自慢されていたもの。お姉ちゃんがどれだけ可愛いかってこと。
実際に話してみた美嘉ちゃんは可愛いだけじゃなくて、格好良くて……本当に、アイドルとして劣等感を覚えてしまうくらい輝いていた。
そんな美嘉ちゃんが手を差し伸べてくれたからこそ、私は立ち上がることができたのよね。うん。
さあ。見慣れない街で物を探すのは大変だけれど、移動はそんなにしていないし、バッグが落ちている場所も近くだったと思う。
風に飛ばされたりしてなければいいけれど。それにしても気持ちのいい朝だ。状況が状況じゃなければ、まったりお散歩したいな。
ぬっ。
私は、ビクッとした。ぽかぽかした気分で道を歩いていたら、道の曲がり角から急に人が飛び出してきたのだ。
ちらりと目に映ったその顔には、見覚えがある。
三村かな子ちゃんだ。莉嘉ちゃんや雪美ちゃんと一緒に、スイーツの話で盛り上がったことがある。
でもなんだろう。目の前のかな子ちゃんは、私の知っているかな子ちゃんとは違う気がした。
普段は可愛いのに、いまは顔が怖い。それに、その手には海賊の持つ刀のようなものが握られていて、刀身には染みのようなものが――
えっ。
ずぶりという音が聞こえた。曲がり角から飛び出してきたかな子ちゃんはそのまま私に肉薄して、私を刺してきた。
ナイフなんてちっぽけなものじゃない。大きく無骨な、本物の刀で。お腹の少し上、胸の、心臓のあたりを、ずぶりと。
あっ……喉の奥から血が昇ってくる。じんわりとした暖かさがおなかを、そして脳の中を駆け巡っていく。
そっかぁ。
私……死んじゃうんだ。
悟った次の瞬間、身体はばたりと倒れた。
本当の即死っていうものは、走馬灯を見る暇もないのね。
「ごめんなさい。あなたのアイドル、いただきます」
死に逝く私には、かな子ちゃんの言葉の意味はわからなかった。
◇ ◇ ◇
「ごめんなさい。あなたのアイドル、いただきました」
三船さん――
三船美優さんから奪った“アイドル”は、どこか安らかな表情をしているように思えました。
おかしいです。私が目の前に現れたときは、驚いた顔を浮かべたのに。それに、刺したときは痛そうな顔も。
なんで、どこで表情が変わったんだろう……ひょっとして、死にたかったの? 死ねたから、最期にこんな表情をしたの?
私は少し不気味に思い、三船さんから奪った“アイドル”をくちゃくちゃに丸めて排水口の溝に捨てました。
「これで二人……ううん。十六人」
六時の放送を思い出します。夜の間に私が殺せたアイドルは一人。それでも、全体では十五人ものアイドルが死んでいました。
私の他にも意欲的に殺して回っている人がいる。それはひょっとしたら、私や大槻さんみたいに目をかけられた人かもしれない。
案外、その人数は多いのかもしれません。でもだからって、私がアイドルを殺さない理由にはならない。
三船さんを見つけたのは偶然でした。本当に偶然、街を散策していたら暢気に歩いている三船をさんを発見したんです。
第一印象で、この人は殺し合いをしていないアイドルだって直感しました。そしてそれは正解だったようです。
だって三船さんはなにも武器を持っていません。殺し合いをする意思を持っている人が武器も持たずに街を徘徊するだなんて幻想です。
たぶん……三船さんは気が狂っていたんだと思います。気が狂っていたからこそ、怯えもせずにあんな顔で最期を迎えたんです。
こんな状況下ですから、一人くらいそういう人がいたっておかしくありません。いえ、きっともう何人かいるはずです。
私だって、トレーニングを受けていなかったらどうなっていたことか……仮定の話をするのはやめよう。現実を生きなきゃ。
「あれ。でも三船さん……武器どころか、なにも持っていない……?」
三船さんは手ぶらでした。本来なら肩に下げているべきデイパックも見当たりません。紛失したのでしょうか?
もしくは……この近くに拠点としている場所があり、荷物は一旦そこに置いてあるのかもしれません。
住宅地ですし、さっきまで夜でしたから。この島に放り込まれてからの六時間、ずっとそうして隠れていたのかもしれません。
そして夜が明けて、朝の日差しがあまりにも気持ちよかったから、状況を忘れたお散歩……ありえなくはないです。
だとしたら、彼女の支給品も手付かずかも。おそらくはあたりの民家に――時間を割く価値は、あるかもしれません。
「探してみよう」
放送前に病院で医療品を調達することはできましたが、武器は大いに越したことはありません。
手持ちの銃器には弾薬という制限がありますし、ストロベリー・ボムも使いづらいところがあります。
三船さんみたいに、無抵抗な人の隙をつけるのであれば、カットラスの一本でも充分なのですが。
背中のデイパックから感じるずしりとした重み。三船さんじゃありませんが、私もそろそろ拠点を用意したいです。
訓練を積んだとはいえ、荷物が重たいと動きが鈍くなりますから。あとで、どこか倉庫代わりになりそうな場所を探さないと。
できればふかふかのベッドがあるといいな……なんて。ううん。休むのはもっと先。体力が尽きてから。
「おなかも空いたなあ……」
ぽつりと、本音が零れてしまいました。
あと一人くらい殺したら、朝ごはんにしましょう。
できればおいしいお菓子がいいなっ、なんて。
【G-3 住宅地/一日目 朝】
【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)、医療品セット
M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、カットラス、ストロベリー・ボムx11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:三船美優が拠点にしていた可能性があるため、周辺の民家を漁り彼女の荷物と支給品を探し出す。
2:後々のため、武器などを保管でき自身も身を休めることのできる拠点を用意したい。
【医療品セット@現地調達】
三村かな子が病院内で調達した医療用品のセット。詳細は不明。
【G-3 民家/一日目 朝】
【城ヶ崎美嘉】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:肩と両手に軽傷】
【思考・行動】
基本方針:殺されたくはないが、殺したくない。
1:莉嘉……。
※リボンがなく髪を下ろしている状態です。
※三船美優の所持品(基本支給品一式、不明支給品(0~1)は城ヶ崎美嘉がいる民家のリビングに放置されています。
※城ヶ崎美嘉の所持品(基本支給品一式、コルトSAA"ピースメーカー"(0/6)、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)、.45LC弾×30)と
彼女のリボンはG-3住宅地の往来に放置されています。
【三船美優 死亡】
最終更新:2013年12月26日 21:01