相葉夕美の無人島0円(無課金)生活 ◆RVPB6Jwg7w



どうにも寝付けないし、ぼんやりしていても涙が溢れそうになるので。
相葉夕美は、日が昇るまでの時間を頭脳労働に当てることにした。

小さな窓からは、白み始めた空が見える。
いつの間にか時間は駆け足で過ぎ去り、朝の息吹が近づいてきている。

とはいえ、書き物仕事をするにはまだ暗い。
電池の残量が貴重であるのを承知の上で、懐中電灯をつけて手元を照らす。


   @  @  @


小屋の畳に寝転がったまま紙と筆記用具を取り出し、伏せるような姿勢で、彼女はしばし考える。


  たぶんこの時点で、全ての参加者の中、彼女が最も長い長期戦を想定していた。


何しろ彼女の望みを叶えるには、どんな形であれ24時間以上の「停滞」が必須なのだ。
他のアイドルたちがどう動くか分からないから、具体的な数字を予想することも難しいけれど。
少なくとも、1日も経たないうちに「停滞」に陥ると考えるのは虫が良すぎるだろう。
中には「停滞」の気配が見えたあたりで焦って動き、ブチ壊してしまう参加者だっているはずだ。

もうこれ以上どうやっても参加者が減らない、という「停滞」した状況に至るまでの時間、プラス、24時間。

どう考えても、長い。
どう考えても、気合や精神論だけで乗り切れるような長さではない。
その間に彼女自身が自滅してしまったら、まさに本末転倒。


  みんなで確実に「終わる」ためには、逆説的に――
  相葉夕美「だけ」は、意地でも途中で「終わる」わけにはいかないのだ。


「できれば、この島で数日は時間を稼ぎたい……けど、ちょっと大変です」

他の参加者と遭遇せずに済む、という点ではメリットの多いスタート地点ではあったけれど。
それだけの時間を1人ただ過ごすには、いささか難易度の高い場所でもある。

電気もない。
水道もない。
ガスもない。
ないない尽くしで、いっそ潔いほどだ。
こうして雨露を凌げる小屋が見つかっただけでも、十分過ぎる状況なのだ。
しかし、何もないと嘆いてみても、天から降ってくる訳もなく。
必要なものは、彼女自身が揃えていくしかない。


   @  @  @


「と、なると……まずはこのあたりからかなっ?」


1)食事
2)水


相葉夕美は白紙に2つの項目を書き入れる。
これから始まるのは、長期戦必至の孤独な戦い。
闇雲に過ごせば、体力の方が先に尽きる。
臨機応変に対応できる余地は残しつつも、計画性を持って行動しなければ。
そう考え、まず最初に書き記したのは生きるための基本。
衣食住の「食」の要素。

「まずは食事……支給されたのは、できるだけとっておきたいよね」

日持ちがしてかさばらない保存食は、万が一に備えて温存しておきたい。残しておきたい。
状況によっては多少つまむのも致し方ないが、真っ先にコレを食べ尽くしてしまうのは愚の骨頂だろう。
しかし、そうなると。

「でもそうなるとー、なんか本格的にサバイバルッ! って感じになるねっ」

手持ちの食料を温存するなら、どこかから持ってくるしかない。
これが街中であれば、手近な民家や商店から調達できただろう。
泥棒という行為に躊躇いもするが、そこさえ乗り越えれば取り放題だったろう。
だが、ここはどうやら無人島。そんな便利なものはない。
となると、自然の中にある物をゲットするしかない。

「さっき一回りした時は、暗かったしねー。食べられる野草とか、自然薯とか、ちゃんと探せばあるかも。
 あの池にあるのが睡蓮じゃなく蓮(ハス)なら、レンコンも期待できたのになー」

まず思いついたのは、植物採集。
ガーデニングが趣味の彼女だが、彼女の植物の知識はそれだけに留まらない。
植物園にはしょっちゅう通っているし、お花屋さんを覗くのも好きだし、植物図鑑は擦り切れるほど読み込んでいる。
たぶん今回の参加者の中で、植物全般について最も通じているのは彼女ではないだろうか?
その知識は、きっとこのサバイバル生活でも重宝することだろう。

「……キノコだけは、生半可な知識で手を出すと危険だけどねっ」

次に食料採集の場として考えられるのは、海だろう。
言うまでもなく、小島は海に囲まれている。
となれば、貝や魚などの海の幸も、それなりに期待できるということだ。

「グルメの番組だって聞いて地方ロケ行ったのに、現場に着いたら海女さんの素潜り体験させられたこともあったよね。
 けっこう寒くてー、大変でー。あの時のウニと伊勢海老はホント絶品だったけどっ」

FLOWERS。
まだまだ売り出し中で、仕事を選り好みせず、何にでも体当たりで挑む、個性豊かな4人組の女の子。
TV局側としても、かなり使いやすい存在だったらしい。
一番のメインは歌と踊りだが、それ以外でも旅やグルメ、体験型バラエティなど、様々な番組に出演させてもらっていた。
普通に生活していたら縁が無かったであろう体験を、いくつもさせて貰っている。
そういった経験や思い出も、きっと、役に立つ。

「まあ、『“アイドルのいる牧場”を訪ねる二泊三日乳搾り体験の旅』とかは、ちょーっと使う機会ないかなー?
 いちおう近くに牧場もあるけどさっ」

彼女は1人呟きながら、先ほどのメモに矢印を書き入れた。


1)食事 → 食べられる野草探し 近くの海で海女さんみたいに?


   @  @  @


「つぎは、お水かー。
 『水』ってだけならさっきの睡蓮の池にたっぷりあるけど……確か、生水って危険だったよね?」

軽く首を傾げる。
決してアウトドア派とは言えない彼女でも、そこらの池の水をそのまま飲んだらヤバいことくらいは知っている。
せめてこれが、新鮮な湧き水であれば違うのだろうが。

「そういや、あの池の水ってどこから来てるんだろ……探せば泉もあるのかなっ?」

どこか別に水源があって、その水が綺麗な湧き水なら、問題は一気に解決する。
さっきの調査では、そこまで注意して見ていない。見落としていた可能性は十分にある。
どうせ植物採集の用事もあるのだ、明るくなったら再度きっちり探検してみよう。

ただ、そこまで都合良く行くとも限らない。
なにしろ小さな島である。
湧き水なんてどこにも無いかもしれない。
あの池の水も、くぼみに雨水が溜まっただけなのかもしれない。
そしてあの睡蓮の池以外、どこにも真水なんて無いのかもしれない。

となれば、あの水をどうすれば飲めるようになるのかも、考えておいた方がいい。

「えーっと確か、煮沸消毒、だったっけ? 煮立てちゃえばとりあえず安全だったよねっ??
 ホントは蒸留水にしちゃうのが一番なんだろうけど」

生水がダメなら、沸かせばいい。沸騰すれば細菌も寄生虫もひとまず大丈夫。
ハンパな知識でも、ここまでは容易に思いつく。
そして容易に、次の問題が見えてくる。

「で、そうなると、どうやってお湯を沸かすか……だよね~」

まず必要になるのが、火。
続いて必要になるのが、水を火にかけるための鍋・やかんの類。

「ライターもマッチもないんだよね。火打石もないし……もしあっても使ったことないけどっ!
 やっぱあれかな、原始人みたいに木の棒を使って手の平摺り合わせるようにして摩擦で頑張って……うわー大変っ!
 燃やす燃料や、かまどみたいな場所も考えないといけないしっ」

少し考えただけで、頭を抱えてしまう。
ここはちょっと保留としておくべきだろうか。
焚き火の1つでもあれば、暖も取れるし、魚や貝を焼いて調理することもできるし、色々と有難いのだが。
文明社会の便利さを、改めて思い知らされる。

「お鍋やヤカンは、もう自力じゃどうしようもないしね。空き缶とかでもいいんだろうけど。
 どっか探して見つけてくるしかないし……そのついでに、火種も何とかなるといいなっ」

何にせよ、再度の探検は必須ということか。
彼女はペンを握ると、手元のメモに書き足していく。


2)水 → 湧き水探し?
    → お湯を沸かす? → 火を起こす、鍋・やかんを探す
3)火の確保 ← ちょっと保留!
4)使える道具探し → もう一度探検!


   @  @  @


「あとは、そーだなー。ちょっと危険だけど、隣の島も調べに行くべきかな?」

物資が全然足りない、という現実に直面し、彼女は考える。
この島を明るくなってから探検し直すのもいいが、残念ながらあまり成果は期待はできない。
暗い中とはいえ、一通りは回ってみた後なのだ。
多少の見落としはあるにせよ、必要とするものが次から次へと見つかってくれるとは考えにくい。

しかし地図に目をやれば、この辺りには他にも小島がある。
同じG-8エリアの中だけでも、すぐ傍に小さな島が。
隣のG-7エリアにも大小1つずつの島。
このあたりならば、いま居る島が安全なのと同じように、ある程度の安全が期待できる。
もちろん、そちらの島でも絶賛サバイバル生活中の誰かがいて、渡ってみたらコンニチワ、という可能性もあるけれど……。

「どっちにしたって、もしG-8が『進入禁止』って言われたら動かなきゃいけないしね」

タイムアップ狙いの彼女には都合の良い場所ではあるが、それだけにココをピンポイントで指定されると途端に困る。
そしてそうなった場合の次の拠点候補地は、どう考えてもG-7にある大きい方の島だ。
現在地よりやや大きめの島、しかし道路も何も繋がっていない独立した場所。
わざわざ訪れる価値に乏しく、訪れるための手段にも乏しい場所。
他の参加者がいると考えづらい場所。
ならば、余裕のあるうちに下見くらいはしておきたい。

いや、むしろ冒頭にされた説明を思い出せば、むしろ早めに動いておかないとマズいのかもしれない。
ちひろは禁止エリアの説明の際、「一箇所に篭られるとつまらないので」進入禁止にする場所を設ける、と言った。
それはつまり、運営サイドが必要と認めたら、意図的な場所の指定もありうるということ。
そして、一箇所に篭っての篭城戦を、快く思ってはいないということだ。
下手すれば、真っ先に狙い撃ちされかねない。

どの程度でその判定を下すのかは分からない。
睡眠や休息の必要も考えれば、半日やそこらで短気を起こすはずもないだろうが――
孤島に1人きり、という無茶な初期条件を考えれば、多少は甘い判断も期待できるだろうが――
それでも、例えば3日も連続して留まれば、締め出されてしまってもおかしくない。

だが逆に言えば、動いてさえいれば恣意的な指定は避けられるのかもしれない。
G-7とG-8の島の間を往復しているだけで、なんとかなってしまうのかもしれない。
どうやら運営サイドも、ある程度は独自の『ルール』に縛られている様子。
そうそう上手くハマってくれる保障も無いが、やれることがあるならやっておくべきだ。

「そうなると、ゴムボートのチェックもしておきたいよね。明るいうちにっ」

支給品のゴムボートは萎んだまま、荷物の中に畳んで仕舞われている。
つまり咄嗟に使えと言われても間に合わない状況だ。
これの準備と性能確認は、早めにしておいた方がいい。
例えば追い詰められてぶつけ本番で夜中の船出、とか、ちょっと勘弁して欲しい展開だ。
漕ぎ方なども、しっかり練習しておいた方がいいかもしれない。

そう考えると、優先順位としては思いついたのとは逆の順番になるか。
メモの上に、項目が増えて行く。


5)ゴムボートの準備 昼間のうちに!
6)隣の島の探検?  下見、いろいろ探す!


「よーしっ、こんなとこかな? また思いついたら追加してくってことでっ!」


   @  @  @


かくして、当面の方針が決まる。
順番は適当で、細部も曖昧で、いくらでも融通が利く計画ではあるけれど。
それでも、全くの行き当たりばったりで歩き回るより、遥かにマシなはずだ。


1)食事 → 食べられる野草探し 近くの海で海女さんみたいに?
2)水 → 湧き水探し?
    → お湯を沸かす? → 火を起こす、鍋・やかんを探す
3)火の確保 ← ちょっと保留!
4)使える道具探し → もう一度探検!
5)ゴムボートの準備 昼間のうちに!
6)隣の島の探検?  下見、いろいろ探す!


もう少し状況が切迫すれば、皆のいる本島の方に渡ることも考えなければならない。
道具や食料がどうしても足りないようなら、近くの牧場あたりまで探しに出掛けることになるかもしれない。
それでも、とりあえず。
まずはできるだけ、この島と周辺の島々だけで、頑張ってみよう。

そう、心に決める。


   @  @  @


出来上がった手元の方針リストをぼんやりと眺めながら、相葉夕美は、ふと、思い出す。
なんでもないことのように、思い出す。

今頃きっと、あっちの大きな島では、みんな殺したり殺されたり、殺されたくないと逃げ回ったりして、頑張ってるんだろう。

あるいは、こんな馬鹿げたイベント引っくり返すんだ、と息巻いてみたり。
はたまた、そんなのは無駄だ諦めろ、と叫んでみたり。
アイドルが人殺しなんてしていいのかー?とか、ファンのためにも死ねないんだー!とか、不毛な水掛け論を繰り広げてみたり。
捕らわれのプロデューサーのことを想い、1人涙を零してみたり。
現実逃避したり、
怯えて震えたり、
悲観して自殺したり。


  とにかく自分とは、
  まったく違うことに頭を捻って、
  まったく違うことに神経を使って、
  まったく違うことに心を磨り減らして、
  まったく違うことに身体を張っているんだろう。


  冷静になってみると――なんだか自分だけ、「別のゲーム」をやってるみたいだ。


そう思ったら、思わず小さく、吹き出していた。
無意識のうちに、微笑みを浮かべていた。

そう、静かに強く破滅を望みつつも。
破滅のための準備を入念に練りつつも。
そこにあったのは紛れも無く、いつもの相葉夕美の――


「やばっ……なんだか、ちょっと楽しくなってきちゃったっ♪」


――既に散って失われたはずの、「花のような」と賞賛された、いつもの満開の笑顔だった。




【G-8(大きい方の島)/一日目 早朝】
【相葉夕美】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、ゴムボート、双眼鏡】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、24時間ルールで全員と一緒に死ぬ
1:しばらくは今いるあたりを中心に、長期戦を想定した生活環境を整えることに専念
2:日が昇ったらゴムボートのテストをしておく。その後、近隣の島々も探検する?
3:もし万が一最後の一人になって"日常"を手に入れても、"拒否"する


※FLOWERS(姫川友紀高森藍子、相葉夕美、矢口美羽)の4人は、TVの旅番組を通じて及川雫と面識があるようです


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最終更新:2013年02月04日 17:36