自転車 ◆yX/9K6uV4E
―――いつだってこの自転車で 好きな所へ連れて行くよ どこまででも だってキミが好きだ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お待たせ」
「ううん、たいして待ってないよ、大丈夫」
「けど……」
「レンジでチンじゃん。奈緒」
「ま、まあそうだけど」
湯気が沸き立つ皿を二つ抱えながら、
神谷奈緒は
北条加蓮が待つテーブルに向かう。
少し早めの昼食をとるために、二人が入ったお店は小さな洋食店だった。
洋食店とはいっても、何処かのフランチャイズだったのだろうか。
奈緒が冷蔵庫と冷凍庫を確認すると、冷凍の洋食に溢れていた。
あまり材料も揃っておらず、料理を作るのには向かないようで。
冷凍ものを食べるのはなんだかなと奈緒は思い、加蓮に場所を変えようと提案した。
けれど、加蓮はここでいいよと強くねだりそのまま押し切られて、現在に至る。
「なあ、これでよかったのか?」
「『これ』が良かったのよ」
椅子に座った奈緒が、もう一度確認をとったけど、加蓮は柔らかく笑ったままで。
そして、美味しそうに温泉卵のドリアを口にする。
ただの冷凍ものなのに、本当美味しそうに。
折角だから栄養あるものを食べて欲しかったのに。
何か釈然としないものを感じながら、奈緒は自分のカルボナーラをフォークにまいた。
これも、冷凍ものだ。味は何処にもであるカルボナーラ。
美味しいことには変わりないが、やっぱり手作りにはかないやしない。
「美味しいね」
「……ああ」
ドリアが加蓮の好物だって事ぐらい奈緒は覚えている。
よく食べていたし、色んな種類のドリアを頼んでいた。
いつだったかは忘れたけれど、食べきれないのに、一度に二つ頼んだ時だってあった。
その癖、食べきれず、結局プロデューサーが残りを食べたのだけど。
「本当……おいし」
なんで、加蓮はこんなにも、一口一口噛締めるように食べるのだろう。
忘れないように、一つ一つ心に刻むように。
ただの冷凍のドリアなのに。
まるで、最期の――――
「……あっ」
そして、奈緒は理解してしまう。
理解してしまった。
簡単で、とても哀しい事。
本当に、最期のドリアなのだ。
もう二度と、食べる事は出来ない。
だって、自分達は殺して、殺して。
そして、凛に願いを託して、果てるだけ。
加蓮はそう思っている、そう考えている。
もう二度と、帰る事は出来ない。
あの時に帰る事は――もう二度と。
「……どうしたの? 奈緒?」
「な、なんでもないよ」
ああ、くそ、泣きたくなってしまう。
何もかも投げ捨てて、自分達は此処に居る。
どんなに願っても、どんなに祈っても。
ただ、好きなことをしたいだけの少女には戻れない。
加蓮はドリアを食べるのが好きだった。
加蓮はカラオケで歌い明かすのが好きだった。
加蓮はプロデューサーの半歩後ろで歩くのが好きだった。
加蓮は、三人で居る事が好きだった。
けど、けれど。
そんな、好きなものすら、かなぐり捨てて、置き去っていて。
此処で、終わることを、選んだ。
「……なあ、加蓮」
「なあに?」
「こうやってさ、よくファミレスで二人で食べたよな」
「あったあった」
「凛がいつも待ち合わせに遅くてさ、こう二人でだべってて」
「うんうん」
だから、奈緒は何時ものように話を振った。
何もかも最期なのかもしれない。
こうやって、話すことも。
涙が溢れそうになるけど、頑張って抑えた。
「そんでさ、いつも加蓮が待ちきれなくなってデザート追加するんだよ」
「う、五月蝿いよ」
「そうやって、太るよといってるのに食べて、やっぱ太るんだ」
「いうなー、奈緒だって同じだったくせに」
――食べる事は、想い出を作る事だった。
好きなものを食べて、好きな人達と過ごして。
その中でかけがえのない想い出を作っていく。
だから、ドリアの中に、奈緒と加蓮は沢山の想い出を持っている。
そうして、人は人と絆を作っていく。
今だって、そう。
それが、最期の想い出だったとしても。
「あはは、折角だしアイスもあったから食べよう?」
「そうする?」
「美味しいしなっ」
「うんっ」
食べる事は生きることだった。
医食同源という言葉もあるけど、その通りで。
食べる事は生きることに繋がるのに。
なんで、私達は死ぬ為に食べてるんだろう。
最期だと思って、食べるんだろう。
何もかもの事が最期に感じられて。
私達は必死に笑いながら、その下で。
沢山、泣いているようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、ご飯を食べて。
放送まで、休憩するかという奈緒の意見を跳ね除けて。
私達は北に向けて出発していた。
「ぬぉぉ……なんでいきなり坂道なんだよ」
「……降りようか? 奈緒?」
「いいっ!」
そこら辺にあった自転車に乗りながら。
無茶をしている私に対して奈緒の譲歩がこれだった。
奈緒が運転するから後ろに乗れって。
大変だからいいといったのに、聞かないから本当参った。
「じゃあ、頑張れっ、奈緒!」
「任せろっ!」
こういう時の奈緒は話を聞かないから、任せるしかない。
だから、私は奈緒を応援して、頑張ってこいでもらうのを期待しよう。
じりじりとした太陽の光をうけながら、奈緒は汗を額一杯に浮かべて、漕いで。
私はその後ろで、奈緒の背を見つめていた。
何か、こういうのいいなと思う。
例え、最期でも、素敵な青春な想い出だった。
――そういえば、前もこういう事があった気がする。
最も奈緒じゃなくて、プロデューサーだった。
仕事が終わった後、私は捻挫をして。
歩くのもできなくて、プロデューサーが背負ってくれて。
怪我している私より彼の方が真っ青で。
そのくらい彼は必死で。
私は真っ赤になりながら、その背に縋った。
嬉しかった、何か幸せに感じた。
こんなにも、私に一生懸命になってくれる人がいてくれて。
本当に嬉しかった。最高の想い出だった。
私は感謝と思いを告げようとして。
結局出来なくて、私はぎゅっと抱きしめた記憶がある。
プロデューサー怒るかな?
怒るよね、当然だよね。
御免、御免ね。
でも、私は……
ねえ、プロデューサー。
私はね――――
「よし、上り終わった!」
「えっ……きゃっ!」
「しっかり捕まってなよ、加蓮!」
その言葉と共に、自転車は急加速する。
上りがあれば、下りがある。
当然のように、自転車は、ぐんぐんと加速して。
ちょっと怖くて
「きゃー!? きゃー!?」
「ははっ、凄いだろ!」
「もー! 奈緒の馬鹿!」
上げた悲鳴に、奈緒は心の底から笑っていた。
私も、心の底から笑っている。
そのまま、自転車は加速して、進んでいく。
その時、私は道から外れたところに三人組を見つけた。
彼女達は私達に気づいていないようだ。
襲うことも出来たけれど……
「……楽しいね、奈緒」
「……そうだなっ」
私は見逃した。
今はこのまま、自転車に揺られていたい。
最期の最高の想い出になりそうだったから。
やがて、三人組は見えなくなって。
私は奈緒のお腹を抱きしめながら、自転車は行く。
「ねえ、奈緒」
「何だ?」
「……ううん、なんでもない」
「そう」
今の感謝と思いを彼女に伝えようとして。
やっぱり伝えられないから、ぎゅっと抱きしめて。
私と奈緒を乗せた自転車は、何処までも、行った。
【F-1 北部/一日目 昼(放送直前)】
【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)】
【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(
渋谷凛以外のアイドルを殺していく)
1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。
2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。
3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。
4:事務所の2大アイドルである
十時愛梨と
高森藍子がどうしているのか気になる。
5:三人組は見逃す
【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6】
【状態:疲労(少)】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく)
1:北西の街まで移動して、そこで“かわいい(重要)”服を探す。見つからなければライブステージまで足を伸ばす。
2:かわいい服に着替えたら、デジカメで二人の『アイドル』としての姿を形にして残す。
3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。
※すれ違った三人組は泉達です。泉達は奈緒達に気付いていません。
最終更新:2013年05月13日 07:30