第二回放送 ◆yX/9K6uV4E
――――可哀想にねぇ……辛かったでしょう。
『あの時』から、ずっとかけられ続けた言葉。
私から、大事な人と大事な場所と大事な思い出を奪ったあの時から、かけられた言葉でした。
忘れもしないあの光景が、ずっと脳裏を過ぎってるんです。
潰され、飲まれて、何もかも無くなって。
私は独り、知らないところに移って。
励まし、慰みの言葉を沢山聞いて。
それこそ、腐るほど聞いて。
でも全然心は動くなくて。
私はただただ泣いて。
私は独りで。
えーん、えーん。
そうやって、独りで部屋の隅で泣き続けて。
涙もかれて、それでも泣き続けて。
救いはあるわけが無いと思って。
そうやって、閉じ篭って。
独りで居続けて。
そんな時。
―――――希望失って悲しみにくれるなか、空から注ぐ光 暖かく差しのべる
何よりも、輝く絶対的な『希望』を見つけたんです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「っ……!」
ダンと思いっきり、机を叩く音が、モニタールームに響く。
オペレーターはビクッとし、その音の方向を向いた。
音を出したのは、
千川ちひろだった。
感情をむき出して、怒りの表情を出すのは珍しい。
それに何処か青ざめているようにも見える。
「ど、どうしました?」
「……別に。此処で死んでしまうとは思っていもいなかったので」
「あ、ああ……彼女ですか……
水本ゆかりちゃん」
「……ええ」
そう、たった今、紅蓮の炎に焼かれたヒロイン。
水本ゆかりの事だった。
かなり有力なヒロインで装備も充実し、尚且つ戦果もあった。
それが不意に殺されるとは、オペレーターとしても意外だったが。
「……それでも、危惧するほどでは……他にもヒロインは沢山」
「……そういう問題じゃないんですよ。何の為に、彼女にあえて『強力な装備』を持たせたか、解かります?」
「い、いえ」
「でしょうね……ったく、あの子の装備を拾ったせいで……ほんと」
「は、はあ……」
そう、他にも強力な殺し合いに乗ってるヒロインは多い。
特に南部の街は敵であるかな子もいるのだ。
なのに、彼女は別の問題があるという。
オペレーターには理解できないが、由々しき問題なのだろう。
「………………ちょっと休憩します。貴方達は監視を続けて」
「は、はい」
そう言って、千川ちひろは部屋をあとにする。
よっぽど気に喰わなかったのだろうか。
いや、違う。何かに逃げるように、去っていた。
そういえば、
第一回放送の前もあった筈だとオペレーターは思う。
あれは確かドラッグストアが燃えて……
「――火が何かを生み出すって? 冗談じゃない。火は何もかも奪い取り、侵略するしかない、忌々しきものなんです」
そう、彼女は、千川ちひろが呟いて、去っていたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちょっと驚きです。。
予想外だとしか言うしかないですね。
此処で『駒』が一つ欠けるとは思わなかった。
重要な駒だと言うのに。
全く役に立たない女のせいで、大事な駒が一つとられた。
私は静かに、盤面を眺める。
――――『絶望』
これは、大丈夫だ。
十時愛梨にしろ、あの島は絶望の在り処なのだから。
幾らでも補充出来るし、十時愛梨が充分な駒として動いてくれている。
――――『敵』
これも大丈夫だろう。
揺れているとはいえ、淡々と役割をこなしている。
それでいい、それこそがポーンである敵の役目だ。
――――『愛』
ぼろぼろと散っていた時は流石にビックリしたが、まあ大丈夫だろう。
五十嵐響子の狂気が思う存分役に立っている。
それに
和久井留美がいるし問題ない。
彼女は『夢』でもあるのだから。
そして、今取り除かれた、大事な大事な駒。
――――『希望』
そう、『希望』に相対するのは、またもう一つの『希望』が必要なのだ。
哀しみと絶望と愛に囚われない最高の希望を持つヒロインが。
私は水本ゆかりが、それを兼ねそろえていると思った。
約束を大切にし、そして自分を磨き、邁進していく彼女が、相応しい。
そう思って、装備を強くしたのに、こんなにも早く死んでしまうとは。
これが誰が死ぬか解からない殺し合いなのだ。
ゆかりを殺した輝子と幸子。
彼女達も希望になり得る存在になるのか。
けど、その後の反応を見る限り、まだ、足りない。
注目は多少するが、まだだ。
これだからこそ、殺し合わせる意味がある。
結末が想定通りがないのも、想定済みだ。
だから、解かっている、解かっています。
それでも、此処で、死んでしまうのは、正直に言って――
ちょっと、困る。
希望と希望が殺しあわなければならない。
絶対的な、希望になるには、どうしても、それが必要だ。
「そのためには……」
大丈夫、種はもう既にまいてある。
タイミングを見て、自ら、行動すればいいんです。
幸いその権利は与えられている。
これはチェスではなく将棋なんです。
駒が、無いと言うなら。
――――アイドルから、奪い取ればいい。
「……さて、そろそろ放送ですね」
私は自室を出ようとして。
脳裏に浮かぶのは
紅蓮の炎に飲まれた人。
伸ばした手にも、炎が纏っていて。
そして、その人は――――
「つっ!?」
私は、直ぐに戻り、慌てて自分の机から薬箱を取り出す。
ただの安定剤で、飲めば、落ち着く。
フラッシュバックしたものから耐えるにはこれが一番いい。
こう何度も、見る羽目になるとは思わなかった。
ストロベリーボムは、私が意図した武器じゃないんです。
強力な武器をよろしくとは言ったが、まさかあんなものになるとは。
本当に忌々しいです。
「……大丈夫、大丈夫です」
薬を飲んで、息を大きく吸って。
そして再び歩き出す。
何もかも奪った炎。
何もかも奪った水。
何もかも奪った倒壊。
それを、忘れない。
そして、それを色んな人が乗り越える為に、必要なのは――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こんにちは、お昼の時間ですね!
皆さんもお昼ご飯でしょうか?
そんな感じで、二回目の放送を始めたいと思いますー!
皆、頑張っていますね!
自分が信じた心のままで、生きていますね。
素晴らしいと思います!
それが例え人殺しでも、私は歓迎します!
だって、貴方達はアイドルなんだから。
だって、貴方達はヒロインなんだから。
自分が信じる“希望”を持って、強く生きなさい。
たとえそれが絶望の中での希望だとしても。
たとえそれが希望の中での絶望だとしても。
貴方達は、そのまま輝き続けなさい。
……では死者の発表に入りますね!
今回死んでしまった皆さんは……
の八名です!
ちょっとペースは落ちたものの、いい感じだと思います!
この調子で頑張ってくださいね!
ヒロインの皆さん、流石です。
プロデューサーの為に、もっともっと頑張ってくださいね!
そして、次は禁止エリアです。
14時にF-1
16時にD-2
ちゃんと覚えてくださいね。
うっかり死んでしまったお馬鹿な人が今回居るので……
そうならないよう、頑張ってください!
さて、これで放送終わりです。
アイドルの皆さん、ヒロインの皆さん。
精一杯頑張ってくださいね。
貴方達の希望はこんなものではない筈。
プロデューサーの為に。
貴方達の為に。
ファンの為に。
ひいては、希望の為に。
精一杯、輝きなさい。
それでは、六時間後、また生きていたら、あいましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、と。
放送を終えて、私はモニターを見る。
先程考えていた事の為に、種に水をまく準備をしましょう。
いえ……もう、花は開いてるのかしら?
だって、あの子達は希望の花束なんですから。
けど、モニターに移るのは、絶望の花、希望の花。
まずは、絶望の花を見る。
彼女は、キキョウ?
彼女は、コスモス?
両方とも、彼女に与えられた花だ。
それはどれも、愛を謳った花。
彼女に相応しい花。
今はその相応しさゆえに絶望に染まっているみたいだけど……
ねえ
――――貴方の絶望は、希望たりえるものになるんですよ?
そして、本命の希望の花。
彼女は、向日葵?
彼女は、櫻?
彼女は、その二つに例えられる。
向日葵は、正義の象徴で、光輝の花とも例えられるますね。
櫻は、高潔な花とも言われます。
そんな、正義と純粋な気持ちを持つ花に例えられる貴方は
ねえ、貴方なら。
『希望』として、動いてくれるでしょうね。
貴方は大人だから。
大人の責任を持って。
私の側で。
凛とした、目が移っている。
ほら、こんな希望に溢れている。
―――燦燦と輝く、希望の花。
貴方がそちら側に移る事を―――
【残り37人】
最終更新:2013年08月14日 21:22