ちっぽけでさ、でも、とっても、おっきいんだよ ◆yX/9K6uV4E
――――ちっぽけで、でも、とっても優しくて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う~そんな強く引っ張らないでよう」
「うっさい、急がないと駄目なの! 解かる!?」
「あう~れいなちゃんいじわるです~」
日が昇り、すっかり明るくなった林道をひたすら、麗奈と小春を急いで歩いていた。
麗奈が小春を叩き起こしてから、地図を確認してある事に気付いたからだ。
気付いた時、麗奈はさーっと血の気が引いたのを忘れる事ができない。
「下手したら、閉じ込められるかもしれないのよ」
「……?」
「はぁ……」
小春は全く気付かない様子で、首を傾げている。
その様子に麗奈は呆れながらも、わざわざ説明するのも面倒なので、そのままにした。
10時に禁止エリアに指定されるのが、C-7だ。
それはいい。けど、次の放送の後に、B-7が指定されたら、自分達はどうなる。
灯台に閉じこめられてしまう。
そして、灯台が禁止エリアに指定されたら、
(――ボンッだ。そんなのアホじゃないの)
首輪が爆破されて、呆気なく死ぬ。
そんなのは絶対駄目だ。
直ぐに指定されるとは思わないが、念には念を置かねば。
だから、未だ眠たそうな小春を引っ張りながら、麗奈は急いで出発したのだ。
小春を置いていくとは、意識の外だった。
「一先ず、スーパーか……ダイナーか」
新たな拠点作りではないが、一息つける場所に行きたい。
灯台から、慌てて出てるせいで、少し息が切れている。
麗奈自身はそうでもないが、小春の方が割と深刻そうだった。
ともすれば、また休む場所が必要かもしれない。
「施設は目立つし……街中でもいいかも……」
「あーーーー!?!?」
「っ!? 何よ!」
「無い……どうしよう、忘れてきました……」
突然、大声を上げた小春に麗奈は振り返ると、泣きそうになってる彼女がいて。
一体どうしたと眉を顰めて、小春の言葉を待って。
「プロデューサーから貰ったリボン……灯台に忘れてきちゃいました」
「……って、それだけの事で騒がないでよっ! バッカじゃないの!」
たいした事でもない理由に、麗奈は声を荒げて、そして呆れる。
そんな事で、騒いで泣きそうになっているなんて。
大方、寝るときに外して慌てて出てきたから、忘れたんだろう。
命かかってる場所にいるのに、小春はどうしてこうも緊張感が無いんだと、麗奈は苛立って。
「取りに行ってる時間はないわよ!」
「で、でも~あれは……プロデューサーが小春に初めて買ってくれたリボンで……あぅ、うぅぅぅ」
小春は、そう言って、ぼろぼろと大粒の涙を流し始める。
泣いたって、どうにもならないのに。
泣きたいのは、こっちなのに。
「ああ、もう!」
麗奈はぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き毟って。
はーっと大きな溜め息をついて。
「いいわよ! 解かったわよ! 今から取りに言ってくるから此処を絶対に動くな!」
「本当……ですか?」
「慈悲深いレイナサマに感謝する事ね!…………ったく」
麗奈は小春のリボンを取りにいくにした。
泣かれたら堪らない。
今から走れば、直ぐ取りにいけるだろう。
幸い灯台から其処まで離れてる訳じゃない。
待たせることも、無い筈だ。
だから、取りにいく。
此処で駄々っ子され続けてたら、時間を食うだけだ。
そう、麗奈は理由つけて、
「絶対まってなさいよ!」
急いで駆け出していったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ゼェ……ゼェ……ゲホッ」
灯台に全速力で、駆け込んで。
水玉模様のリボンを見つけて、引っ掴んで。
そして、灯台を出て、真っ青な青空を見た瞬間。
安心して、やっと大きな息を吐いた。
ついでに咳き込んだ。
「なんで、このレイナサマが……ゲホッ……やんなきゃ……」
なんで、こんなことしてるんだ。
こんなことしなくてもいいのに。
無視すればいいのに。
そうだ、このまま、見捨てればいいのに。
「ゲホッ……ゴホッ」
なんで、それが出来ないんだ。
甘いのか。甘すぎるのか。
小春が、自分が。
「……ふんっ」
甘くない、自分は甘くない。
小春が甘いだけだ。
そのせいで、こんな目にあってるのだ。
そうだ、そうに決まってる。
今もぼんやりと待って………………
――――本当に?
今、小春は、独りで、居る。
たった独りで。
直ぐ帰るといったけど。
確実に、独りで。
「…………はっ……はっ……ゼェ……はっ!」
気付いていたら、駆け出していた。
甘いのは何より自分だった。
緊張感をなくしすぎていた。
取りに行くなら、小春と一緒じゃないと駄目だった。
「……はっ……ゼェ……はっ」
息を切らして、全速力で。
よく解からないくらいに、全速力で。
何でこうなったのかよく解からない。
何もかもから逃げてるのかもしれない。
「はっ…………はっ!」
でも、少なくとも。
今度は、ちゃんと向き合おう。
小春と、自分自身に。
小春の甘さ、小春のアイドルとして矜持。
自分の甘さ、自分のレイナサマとしての矜持。
どれも、見て、感じて、想って。
それでも、結論を出さなかった、出せなかった。
きっと逃げていたのかもしれない。
互いに甘さがあって、譲れないものがあって。
でも、それを認めるのが怖くて。
だから、目を背けていた。
その結果が、此処までの迷走っぷりなんだろう。
今度は、ちゃんと、ちゃんと、見よう。
だから、
「小春……ッ!」
無事で、居て。
思いっきり、リボンを握り締めながら。
アタシは駆け出している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっぱり、れいなちゃんは優しいです~」
やっぱり、れいなちゃんは優しい。
諦めようとした。
こんな状況でリボンに拘るなんて、駄目だ。
解かってた、解かっていた。
でも、何だか哀しくて、涙が出ていた。
涙が止まらなかった。
だから、私は悪い子だと思いました。
そしたら、麗奈ちゃんが駆け出していた。
とても、優しい人でした。
「でも~」
でも、その優しさに、甘えちゃいけないんだと思います。
れいなちゃんは、優しくて、とても甘い。
だから、私はれいなちゃんに甘えてる。
けれど、それだけじゃ駄目だ。
こんなにも、れいなちゃんは頑張ってる。
だったら、私も頑張らないといけないと駄目なんです。
甘さに甘えるだけでなく。
優しさに甘えるだけじゃなくて。
「れいなちゃん、わたしも頑張ります~」
れいなちゃんに、応えないと。
向き合って、
「ちゃんと、おはなししましょう~」
そして、れいなちゃんが戻ってきて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほら、リボンッ!」
「れいなちゃん、ありがとうです~」
「……よかった」
だから、小春はにっこり笑って。
麗奈は、泣きそうになるのをこらえて、そっぽを向いて。
小春のてのひらに、大きなリボンをのせた。
そのてのひらは、ちっぽけで。
でも、とっても
おっきいものだった。
【B-7/一日目 昼】
【
小関麗奈】
【装備:コルトパイソン(6/6)、コルトパイソン(6/6)、ガンベルト】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:疲労(大)】
【思考・行動】
基本方針:生き残る。プロデューサーにも死んでほしくない。
1:……疲れた。
2:小春と向き合ってみる。
【
古賀小春】
【装備:ヒョウくん、ヘッドライト付き作業用ヘルメット】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:れいなちゃんと一緒にいく。
0:ありがとうです~
最終更新:2013年05月28日 14:34