継/繕 ◆yX/9K6uV4



――――金接ぎという技術がある。










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





ほんの少し前。
ほんの少し前は沢山の人に囲まれていた。
きっとどんな絶望だって乗り越えられるって信じてた。
けれど、今、目の前に広がっている光景は何なのだろう。

小さな子が身体を一面、紅に染めてもう、二度と目を覚まさない。
身体に矢が刺さったままの、動かない子供もいる。
そして、さっきまでしゃべっていた人が、もうしゃべる事はない。

さっきまで一緒に、生きていたのに。

そして、病院にはつれてこれなかった仲間達の、遺体が残っているのだろう。
無念に死んでいった仲間達の遺体が。

残されたのはたった二人。
諸星きらり藤原肇が、病院から逃れた民家で、ただ哀しみに沈んでいた。
二度と立ち上がれないと思い込んでしまうほどに、座り込んで泣いていて。

まるで、絶望という鎖に縛られてるようで。


肇も、きらりも言葉を交わすことも無く、ただ沈んでいた。
いや、交わすとさらに哀しみに落ち込みそうで、できなくて。
だから、顔を覆い座り込んで泣くことが、また自分を護ることにつながっていた。


紗枝が亡くなってから、どれだけの時間がたったのだろうか。
藤原肇が、瞳を伏せて、心の中に逃げ込んでいた時。


それは、あまりに自然に流れ込んできた。



懐かしい、まだ輝く前だった、時。




『アイドル』藤原肇が始まった記憶を。



ゆっくりと追憶していた。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あ、もしもし、お母さん?」

電話から、聞こえてくる母の声に、私はほっと安心した。
余りにも多い人。
余りにも狭い街。
故郷の岡山と余りに違う風景が広がる、東京。
そんな場所に、私――藤原肇は生まれて初めて、一人で遠くまでやって来ていた。
ただ単に旅行って訳じゃない。
ちゃんとした目的があって、此処に。
もっともその目的も、ほぼ終わったに等しいのだけれど。

「結果は……うーん、多分駄目だったと思う」

私が東京に来ていた目的は一つで、オーディションに受ける為。
アイドルになるためにオーディションに。
それも、先ほど面談による審査が終わり後は、午後の発表を待つばかりだ。
けれど手ごたえ以前に、無理だな、駄目だなと私は感じている。
なんで書類選考ですら、私は通ったのだろうと思うぐらいに。

私は一緒にオーディションを受けた人達を見て、正直萎縮してしまった。
皆驚くぐらい綺麗で。
経歴を聞くと、モデル出身やミスコンをとった人ばかり。
どうやら、このオーデションは有名なファッションデザイナー出身の担当アイドルを決めるものみたいで。
皆、そういう人たちが知っていて受けに着たみたい。
何もわからず飛び込んだのは私ぐらいで。

「うん。明日、東京見学してから帰るから。大丈夫、ホテルも一人で泊まれるよ」

萎縮しながら、オーディションを受けて。
色々聞かれたと思うけど、あんまり覚えてない。
ただ、自分のやりたいことを正直に言っただけで。


『でも私はもっと色々な経験をしたいんです。だから憧れの世界に挑戦することにしました。なので、私頑張ります……協力お願いします……!』

必死だと思う。
実際同じオーディション受けた人には、冷ややかな目で見られていたと思う。
けど、


『色んなモノを、イメージしたいから! そして、表現したいから!』


そう言って、私の面談は終わった。
でも、多分無理だと思う。
それぐらいレベルが違いすぎた。
けれど、思いを伝えられて、充分な気持ちもある。
一種の晴れやかさすら、感じて。


「うん、ちゃんとお土産を買ってくるから、心配しないで。じゃあ、また」

連絡を終えて、一つ伸びをする。
心は明日どこに行こうかなと思いにあふれて。
不思議と後悔はなかったと思う。
だから、前を向いていた。





まさか、自分にとって嬉しくて、けど想定していない未来が来るとは知らずに。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「うーむ、やはり。3番の子で決まりでしょう。すべてにおいて申し分ない」

藤原肇が受けたオーディション。
その選考をプロダクションのプロデューサー達が会議室で行っている。
最も、その選考も簡単に終わりそうなのだが。
大体書類の段階で、目星はついていた。
特に、今一人のプロデューサーが上げた最有力で。

「あの大学のミスコンで、選ばれて、背も高い。ルックスも充分ですしね」

明らかに芸能界入りを狙っているような子で、実際誰よりも堂が入っていた。
このオーディションに自信を持ってやってきている。
そういいたいように。

このオーディションは、ある新人プロデューサーの担当するアイドルを決める為で。
その新人プロデューサーというのが異色で、もう既にプロデュースをするというので話題になっているほどだ。
ファッションデザイナーの世界で名を上げ、今も一線に立ち続けている言ってしまえばカリスマと呼ばれてる人物。
その人がアイドルをプロデュースするということになって、一部で注目を浴びている。


「ふーん……」

最もその新人プロデューサーは、興味無さそうに書類を眺めているだけだった。
実際、プロデュースなんてするつもりなどなかったから。
ここの社長からアイドルのファッションデザインをしないかと誘いを受けて、それに乗った。
そしたら何故かそのまま流れでプロデュースまでする羽目になって、断り続けたが結局丸め込まれてしまった。
整った端正な顔たちしていたその男は、憮然とした表情を浮かべながら、セットした髪をいじっている。
三番といわれた番号の書類を興味無さそうに見て。
その書類をすぐに、机に投げて、違う書類を取る。
それは七番の子――――名前の欄には、藤原肇と書かれていた。

「それじゃあ、3番の子を採用でほかの人は異存ないかな?」

プロデューサーの中で纏め役の人が声をかけて、三番の子の採用を決めようとする。
皆、黙ってうなずく中。

「んー。あのー、いいかな」
「どうぞ。君の担当を決めるオーディションなのだから」
「じゃあ、3番の子じゃないと駄目か?」

その、新人プロデューサーが手を上げて、声を上げる。
それは決まりかけた結論を否定するように。

「なんでだい?」
「いや、他にしたい子が出来たから」
「ふむ、君の意志が最も大事だし……というより、君が誰でもいいという態度だったから、我々も集まって決めるのを手伝ってるのだがな」
「あーすいませんね」

まとめ役の人が、憮然とした声を上げる。
元々、新人一人と二人ぐらいいれば済む話なのだ。
それが、担当するアイドルを決める気がない、誰でもいいと思ってる節があった彼のために、いろんな人がこのオーディションに集まったのだ。
急に担当したい子が出たというのは、いいことではあるのだが。
最も新人プロデューサーは、言葉だけの謝りだけをして、続きを促す。

「それで、どの子かい。対抗馬というと、9番、5番かな」
「ああ、いいですね。でも3番がいいと思うけど」
「いや、その子じゃなくて……」

対抗馬と揚げられたのはモデル出身の子やモデル向けのルックスをしていた子だった。
どれもファッションデザイナー出身の彼と愛称がよさそうな子で。
けれど、そのどれにも首を縦に振ることはなくて。

「肇、藤原肇って子だけど」
「肇……えーと……?」
「番号で言うと、七番、この子」
「えっ、この子かい……?」

その男が言ったのは、七番――藤原肇。
その名前を指名した時、同席していたプロデューサーから驚きと、失笑の声が出てきた。
対抗馬でも何でもない、普通なら選ばれる筈のない子。

一見可愛らしいが、一方で地味さは否めない子。
可愛らしいから書類は通ったが、そこまでの子。
酷い言い方をするなら、数合わせ、水増し、引き立ての子でしかなかった。
だから、誰も見向きもしないし、選ぶことはしない。

「うーん、止めておいた方がいいと思うよ」
「そうだね、とても芽が出ると思えない。 その子を振り回すだけだ」
「それより確実に伸びる3番の子のほうが……」

案の定、否定の声が出始め、彼を諌めている。
初めてのプロデュースで冒険することもない。
何よりも確実性を。
そういって本命を薦めていく。


「――そんなに、3番の子がいいなら、あんたらが選んでプロデュースすればいい」


けれど、彼はそれを一笑にふして、絶対に乗らない。
彼から見た三番は、そんないい花じゃない。
まるで、自分が選ばれて当然みたいな子だった。
自分に絶対の自信をもって、それに見合う服を着るのは当然だと。

違う、そういう子は選びたくない。
その男はそう思ったから。


「最も……あの子そんなにいいようには見えないけどね。見る目ないんじゃない?」

まるで挑発するように言葉を紡ぐ。
周りから怒りの声すら聞こえるが、彼は気にしない。
もう、周りなんて気にしない。
昔から、そうだった。

自分が綺麗だな、素敵だなと思ったものにしか、目がいかなくなる。


『色んなモノを、イメージしたいから! そして、表現したいから!』


他人には、地味な目立たない少女かもしれない。
でも、男にはそれが、何よりもシンデレラに見えたから。
彼女のなかに輝く、『ソレ』を見つけたから。
だから、もう決めたことだ。



「オレは、藤原肇をプロデュースする。誰にも邪魔はさせないぜ。元々オレの担当決めるオーディションなんだから」



そうして、彼女は、シンデレラとして見初められて、その始まりだった。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「合格者は七番です。その方は、私についてきて、手続きを済ましてください」


そう、私は言われて、緑の事務服を着た人に、ついてきて、手続きをした。
後は担当してくれる人と会うらしい。
夢見心地のまま、なすがままで。
両親への報告もまだのまま、実感すら、無く。


どうやら、私はアイドルになるらしい。


解らない。
どうして、私がなるのだろう。
どうして、私がなるのだろう。

そう思いながら、会場をなんとなく、歩いていた。
プロデューサーと会うまでの時間潰しということで。
よくわからないまま、歩いて。


「納得できません!」


その時、聞こえた声があった。
それは、同じオーディションに出た人。
私から見ても、この人が受かるんだろうなと思った人。
その人が、問い詰めるように、男に言っていた。


「どうして、あの子が選ばれて、私が落ちるんです!? 理由を聞かせてください!」


それは私も聞きたくて。
物陰に隠れながら。
そっと聞こうとする。

問い詰められてる男は……なんか、優男?
あきれた様に、侮蔑するように。


「オレは、今、なんか、プロデューサーやることになった。なるとは思わなかったけど……だから、オレは……」


頭をかきながら、その女の人を見つめて。


「あの子だから、着させたいと思ったんだ。オレが作った服を。着させる人を選べるんだから……お前は、選ぶ気がしなかった」
「なっ!? あんな子のどこがいいんですか!」

はあ、と男の人が言って。


「なら、言ってやるよ。 オレは、あの子を、藤原肇を選んだのは――――」




その言葉は、私にとって、かけがえのない言葉になって。




だから、私は、アイドルとして、がんばっていける。




そう思える、言葉でした












     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








ずぶずぶとまるで沼に沈むように、落ちていく心。
沈んだら二度と戻ってこれない深い闇に。
降り積もる深い哀しみの中で、一つだけ残っていた輝きの欠片。
とてもとても懐かしい、でも、忘れてはいけない大切な想い出。
何かも壊れて、粉々になって、それでも、心の中に仕舞い込んでいたモノ。
始まりの記憶に、自然と追憶をしていて。
その事を思い出した瞬間に、私ははっとする。
泣き続けた先に見えたちっぽけな光。
まるで、それでは救いのように見えて。
私は、思わず顔を上げる。

「ああ……」

私にも、無くしたくないモノはあったのだ。
ソレは『はじめ』の姿。
私がなりたかった姿。
アイドルになりたくて、願って。
そして、私を見出してくれた人。

誰も彼もいなくなって、独りだと思っていた。
でも、思い出してみれば、きっと独りではないのだろう。
いつでも頼れる人は、今も私を信じているのかもしれない。
あの人が見出してくれた、藤原肇というアイドルを。

けれど、私はもう、あの頃の私ではきっと、戻れない。
『はじめ』の姿には、きっともう。
だって、余りにも、もう私そのものは様変わりしてしまった。

仁奈ちゃんが死なせて、私は一度壊れて、もうどうにもならないくらいに壊れて。
そして、孤独を選んで、どうにもならないくらいの孤独を。
もしかしたらきっとそれは違ったのかもしれないけれど。
心すら、失おうとしていた、あの時からきっと。
どうにもならないくらいに、『はじめ』の姿は、見えなくなっていった。

そうだ、誰かにアイドルで居てほしい。
その為には、自分の姿なんてどうでもよかった。
孤独になろうと、みんなの願いがかなえばきっと。
きっと……そう、願って。

藤原肇は、一度壊れて。

そして、またその粉々になった欠片から、もう一度土を練り直して、器を作ろうとしたんだと思う。
孤独になれなかったから。
傍に居続けようとしてくれた人がいたから。
哀しみの中でも、輝きを失わないように、あった星が。

だから、私は壊れても、作り直そうって、大きな大きな、器を。

そして、一見出来上がったのは、絶望に耐えようとした、言ってしまえば冷たい器だった。
何ものにも、壊されないように。
何ものにも、傷つけられないように。
必要以上に冷たくなって、熱くならないように。
誰かに守ろうとして、頑丈に強く、強くと。

それは、私であって、一方で私でなかった気がする。

自分の役割というのものはなんだと考え。
そして、辿りついてしまった一つの思い。

仁奈ちゃんを殺したと思い込んだ私はもう一つの私の在るべき姿だと。
絶望に耐え切れない、『はじめ』の姿から剥離した私が。
それが正しいモノだと解らない。
希望と絶望の地土がない交ぜなった器。

それは、余りにも自分の心を見せることを拒み、
星の器に憧れ続けて、
冷徹なまでに、冷たいままで。
自分すら、遠くから見て。
他人の器にあこがれていた。


そんな、先ほどまでの、藤原肇の姿。



けれど、その器は、余りにもあっけなく、壊された。

圧倒的な暴力に、殺意という現実に。
仲間をみんな失って。
今はもう、ただ感情を心を抑えることが、出来ない。


凛さんがいった。


ちゃんとしっかり、泣いておいた方がいい。

それは、正しくて。
私は正しく、泣けていなかった。
きっと、今の今まで。


私を優しいと言った紗枝さん。
今はそれがどういう意味だったのすら、解らない。

小さいけど、立派に生きていた麗奈ちゃん、小春ちゃん。
もう、二度と鳴くこともない二人。

二人で支えあい、いきていこうとした涼さん、小梅ちゃん。
その願いすら、あっけなく崩れて。

皆を引っ張っていこうとした拓海さん。
きっともう……まだ、色々聞きたかった。


余りに一度に失って、感情の波が今更どっと押し寄せるようで。
その波は、私が作ろうとした器をまた粉々壊して、どうしようもないくらいに欠片になって。
きっと、もう元に戻らないだろう。
だって、私が、あの時、どうしていたのか、どういう思いで居たのがわからない。

まるで、哀しみという波にすべて、すべて押し流されたように。
客観的にそうだと見ても、それが主観に置き換えられない。

そう、またしても、藤原肇の器は壊されて。



じゃあ、今の私は何なのだろう?

答えは、出なかった。
きっと、まっさらな自分。
でも、それは自分でない自分がきっと居る。
ただ、解っているのは、


『はじめ』の姿ではない。


ああ。

あの時、私が憧れ、私がなりたかった、姿、器。
あの時、プロデューサーが見出し、育てようとした姿、器。

それを、少しずつ思い出して、そして、もう、戻れない。
この島で、壊されて、そして二度作り直して、また壊されて。
今は、感情に翻弄するまま、それでも『はじめ』の光を見て、私はそれに手を伸ばそうとしている。
もう二度と届かない、というのに。

プロデューサーは、こんな私を見て。
どう思うのだろうか?
怖くて、考えたくはない。
少なくとも、あの時見出した私ではないのだから。

美波さんを失い、周子さんを失い、私は独りだと思っていた。
けれど、それは違ったんです。
いつまでも、見てくれてる人が居た事を忘れていた。
いや、考えたくなかった。

あの人が望んだ『はじめ』の姿は、もうないから。


アイドル、藤原肇の、『はじめ』の姿。


きっと、もう……。


虚空に、私は手を伸ばす。



そういえば、あの時、彼が言った言葉があったような。


予想外に、あの人に選ばれて嬉しかった。
でも、私にもなんで?という気持ちがあって。
そういう時、ちょうど立ち聞きしてしまったのだ。

本命の人が、彼に抗議をして、理由を聞いていたところを。


あの時、あの人は、なんて、言ったのだっけ。


それは、きっと、とても、私の心に、響く言葉で。


だから、私は『はじめ』の姿になれた。



そう、その言葉は――――――





「肇ちゃん」




思い出そうとして、不意に声をかけられる。
後ろを振り向くと、憔悴しているきらりさん。
いつもの姿とはかけ離れて、大きいはずのきらりさんが小さく見えて。



「きらり、杏ちゃんにあいたい。あいに、いこ?」


そう、小さくつぶやいて。
私は、なんだかそのきらりさんが怖くなって、頷く。


「え、ええ」
「うん」
「……あては、あるのですか?」

彼女は泣いていたはずなのに、笑う。
その笑顔は、何処か空っぽで。
怖くなって、先を聞く。
聞いてはいけなかったのに。


「『キャンプ場』」
「え?」
「其処に、『杏ちゃん』がいるよ、いるんだよ」


まさか。
まさか、まさか。



「あの時『別れた』時から、ずっと、首を長くして、待ってるんだにぃ」



きらりさんの瞳は暗く。



今、私は、私よりも、誰よりも、この人が、傷ついたことを知って。




そして、何処か壊れたことを、知ってしまった。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






笑っていようと思った。
めそめそなんてしていたくないから。
笑顔で、いれば、はぴはぴになれるって。
哀しくない、哀しくないって。
めそめそしてたら、皆、はぴはぴにならないって。


だって、きらりは皆をはぴはぴにするアイドルなんだから。


自分の哀しみもはぴぱぴに。
哀しい人もはぴはぴに変えるんだ。




それが、アイドル、きらりだもの。



皆、はぴはぴに。



そう、み………………ん………………な?



あれ、あれ?
あれあれ?


きらりがはぴはぴにしたい人達は、Pちゃん、杏ちゃん、肇ちゃん、みんな。


ううん……

拓海ちゃん、
紗枝ちゃん、
麗奈ちゃん、
小春ちゃん、
涼ちゃん、
小梅ちゃん、
日菜子ちゃん、
泰葉ちゃん、
仁奈ちゃん、


みんな、だった。




あれ、なのに、みんな、みんな、もう、いない。


きらりの、傍にいない。


哀しい思いをした人達は、一人一人、皆、



いなくなった。



みんな、いなくなる。



はぴはぴにしたいのに、
はぴはぴになりたいのに、


いやだ、いやだ、



――――お願い、きらりを『独り』にしないで!


独りはいやだよ。
きらりは、みんなとはぴはぴになりたいんだよ。


みんなとはぴはぴにならないと意味が無いんだよ。


自分ひとりがはぴはぴに、なっても、おすそ分けできる人がいなきゃ、いやだよ。


きらりは、『アイドル』きらりは、そうだから。



ねぇ、こわい。
こわいこわいよ。


独りはいや。



哀しいよ。
苦しいよ。
辛いよ。


なんで、なんで、ひとり、になって、いくの?


きらりが悪い子だから?
きらりが大きい子だから?
きらりが特別だから?
きらりが馬鹿だから?



だから、独りになっていくの?



いや、独りは、いや。



皆とはぴはぴになりたい、なりたいよ。



なのに、どんどん、皆いなくなっていく。



あぁ。
あぁ、あぁ。




Pちゃん……ごめん、なさい……。



のりこえ、られ、な、い。





もう、だめ、だよ。








最初は瞳から、ぽた、ぽた。


雫は、筋に。


やがて、とまらなく、なって。




きらりは、ないて、しまいました。




なかないで、はぴはぴにするはずだったのに。






こんなきらりには、誰も、傍にいてくれない。
Pちゃんも、きっと、怒る。


そんなの、見たくない。


肇ちゃんだって、きっと、いなくなってしまう。



きらりの、せいで。



みんな、みんな、いなくなってしまう。
いやだ、そんなの、いやだ。


独りは嫌だよ、怖いよ。



いや。




――



――――――




――――――――………………あいたい。




独りに、本当になってしまう前に。



杏ちゃん。


杏ちゃん。



杏ちゃん、どこ?


杏ちゃん、きらりの傍にいてよ。
きらりをはぴはぴにしてよ。

きらりだけが特別じゃないんだって、いってよ。


杏ちゃんときらりがいれば、はぴはぴなんだって。


特別のように、みえて、そうじゃないって。



ねえ、杏ちゃん。



お願い、もう、いやなの、こんなのいやなの。



どこにいる?




……キャンプ場だ。



だって、あそこに、あそこで、『あった』



哀しみなんて、いや。
はぴはぴで、居たい。



だから、杏ちゃん、独りにしないで。




きらり、もう、だめ。



だから、きらり、あいに、いくね。



うん。



きっと、それがいい。



きっと、もう、それしかないんだよ。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「だから、いこ?」


私は絶句し、きらりさんを見て。
いつの間にか泣き止んでいて。
でも、その瞳はどこまでも泣いていて。


きらりさんに、引っ張られるまま、私は釣られて歩き出す。
かのじょは、もう何も見えてないのだろうか。
此処で亡くなってしまった人たちのことも。
忘れて、壊れてしまったのだろうか。

キャンプ場にいるのは、杏さんではない。
杏さんの、人形だ。
きらりさん自身の手で、作った、人形。
それを本物だと思って……彼女は…………

「きらりさん……!」
「…………?」
「……いえ、ごめんなさい。解りました、行きましょう」
「うん」


とめようとして。
私はこれ以上、言葉をつむぐことができなくなった。
そして、一緒に歩き出してしまう。

これが絶対間違いだって事もわかる。

でも、今、きらりさんをとめれば、もう完全壊れてしまう。


彼女の心が、どうにもならないくらいに、ばらばらになってしまうことを。


誰が、とめることが、できるのでしょうか。


徹底的に間違いだとしても。
彼女のことを。
私は否定できなかった。
彼女に救われた人間として。


そして、私は、今、彼女を、失いたくなかった。


だから、私は、彼女の手に導かれて、歩き出す。




きらりさんに導かれながら、プロデューサーさんにあの時、言った言葉を思い出そうとして。
私は、また、『はじめ』の姿を思い出す。
あの時、望まれた姿、望んだ姿。


私はそれ思い、私自身を嘲笑う。
戻れる姿ではないのだ。
こんな、私ではきっと。
誰も、癒せず、誰も救えず。
回帰しようとしても、きっと。


私はどこにいって、どこに戻るのだろう。


私に、帰る場所なんて、あるのだろうか。


小さく輝いた時すら、見えなくて。



私は手を伸ばして。



でも、きっとそれは、どこに、届く、手なのだろう?



あのころと違う私が伸ばした、手は、どこに、届くのだろうか?









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










――――金継ぎという技術がある。






それは、割れた陶器を、割れた破片を接着して、金で接いで、復元するという技術だ。
金で繋がれた器から、見える景色は、まったく壊れてない器よりも、勝らぬとも劣らない美しさがある。


また、割れた破片が失われた場合。



――――異なる破片を、新たにあてはめて、継ぐという。




それも、また、とても、美しい景色が、見えるのだ。



【b-4 商店/二日目 早朝】

【藤原肇】
【装備:】
【所持品:基本支給品一式×1、アルバム、折り畳み傘
     拓海の特攻服(血塗れ、ぶかぶか)、基本支給品一式×2
     USM84スタングレネード2個、ミント味のガムxたくさん、鎮痛剤、吸収シーツ×5枚、車のキー
     不明支給品(小梅)x0-1、不明支給品(涼)x0-1 】
【状態:疲労、無力感】
【思考・行動】
 基本方針:???????
 0:きらりさんについていく。
 1:『はじめ』の私は……

【諸星きらり】
【装備:かわうぃー傘】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×1、キシロカインゼリー30ml×10本】
【状態:?】
【思考・行動】
 基本方針:■■■■■■■■■■■■■■■■
 0:■■■■■■■■■■■■■■■■


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最終更新:2016年07月26日 21:57