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朋也「軽音部? うんたん?」 4/24 土
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meteor089
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朋也「軽音部? うんたん?」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:09:27.88:1qYNd8dxO
4/24 土
試合当日。ついにこの日がやってきた。
向こうの話によれば、試合は放課後になってからすぐ行われるとのことだった。
昼食を摂ってからでは、バスケ部の練習に差し支えがあるらしい。
だが、試合時間自体は10分と短く、多少腹が減っていても問題なさそうだった。
向こうの話によれば、試合は放課後になってからすぐ行われるとのことだった。
昼食を摂ってからでは、バスケ部の練習に差し支えがあるらしい。
だが、試合時間自体は10分と短く、多少腹が減っていても問題なさそうだった。
春原「でも、ちょっと計算外だったよね」
春原「まさか、うちのバスケ部の、ほぼ全体を揃えてくるなんてさ」
朋也「ああ、そうだな」
つまり、その中には当然レギュラー陣も入っているわけで。
そいつらが出てくるなら、俺たちが勝てる可能性は限りなく低いだろう。
本当に、さわ子さんという保険があってよかった。つくづくそう思う。
そいつらが出てくるなら、俺たちが勝てる可能性は限りなく低いだろう。
本当に、さわ子さんという保険があってよかった。つくづくそう思う。
春原「ま、僕たちが勝つことに変わりはないけどさ」
朋也「そうなりゃいいけどな」
春原「へっ、なるさ」
―――――――――――――――――――――
放課後。
メンバー全員で体育館に集まる。憂ちゃんも、少し遅れて駆けつけてくれた。
ふと、入り口から覗けた館内は、閑散として見えた。
広さに対して、居る人間の数が少ないからだ。
集まったのは、俺たちと、バスケ部、それと、ファンクラブの連中のみだった。
メンバー全員で体育館に集まる。憂ちゃんも、少し遅れて駆けつけてくれた。
ふと、入り口から覗けた館内は、閑散として見えた。
広さに対して、居る人間の数が少ないからだ。
集まったのは、俺たちと、バスケ部、それと、ファンクラブの連中のみだった。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:10:35.76:cUBlBpOS0
他に体育館を使うクラブの姿はない。
この時間は本来、大多数の生徒にとって、昼休憩になっているはずだからだろう。
この時間は本来、大多数の生徒にとって、昼休憩になっているはずだからだろう。
男子生徒「ああ、来た?」
体育館に足を踏み入れると、すぐにファンクラブの男がやってきた。
この試合の段取りを組んだ奴だ。
薄々思っていたが、やっぱり、こいつが現代表なんだろう。
この試合の段取りを組んだ奴だ。
薄々思っていたが、やっぱり、こいつが現代表なんだろう。
春原「おう、来てやったぜ」
男子生徒「絶対あの約束は守れよ」
春原「わかってるっての。おまえらこそ、破んなよ」
男子生徒「そんなことしないよ。そこは安心してくれ」
自信たっぷりに言って、また仲間の輪に戻っていった。
律「マジで頼んだぞ、おまえら。あんなのに調子乗らせたくないからな」
春原「任せとけって」
キョン「やれるだけの全力は尽くすよ」
俺も口を開こうとした時、向こうから、ボールの跳ねる音がした。
見れば、相手のバスケ部がアップを始めていた。
定位置からシュートをする者、ドリブルをして、動きを確かめる者…様々だった。
…懐かしい風景。
俺もかつてはその中の一人だったのだ。
見れば、相手のバスケ部がアップを始めていた。
定位置からシュートをする者、ドリブルをして、動きを確かめる者…様々だった。
…懐かしい風景。
俺もかつてはその中の一人だったのだ。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:11:50.09:1qYNd8dxO
けど、今は…
俺は自分の体を見下ろす。
制服のままの格好。
こんな姿で、かつて情熱を燃やしていたバスケをやるなんて、皮肉だ。滑稽すぎる。
俺は自分の体を見下ろす。
制服のままの格好。
こんな姿で、かつて情熱を燃やしていたバスケをやるなんて、皮肉だ。滑稽すぎる。
唯「…なんか、緊張してきた」
朋也「おまえがかよ。でも、今となっては、遊びの延長だぞ」
律「む、遊びとはなんだ、遊びとはっ! 真剣にやれっ!」
春原「そうだぞ。おまえ、奴らにバカ呼ばわりされたままで悔しくないのかよっ」
朋也「それはおまえだけだろ」
春原「僕がバカにされたら、おまえがバカにされたも同然なんだよっ」
春原「一人はみんなのために、みんなは一人のためにだっ」
こいつの背負う業が重過ぎて、輪に入れられた俺が一方的に損していた。
唯「でも、バスケ部の人たちと試合するんだから、それはやっぱりすごいことなんだよね」
唯「ほら、みんなすごく上手だし」
聞かれていたら、怒られそうなことを言う。
唯「こうやって毎日練習してるんだよね」
梓「私たちも、あれくらい真面目にやりたいです…」
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:12:12.28:cUBlBpOS0
澪「わかるぞ、その気持ち」
唯「まぁまぁ、今はそれは置いといて…」
手でどけるようなジェスチャーを入れる。
唯「そんな人たちと、集まったばっかりの私たちが戦うんだよ」
唯「今まで違う道を歩いてきた、私たちがね」
唯「もし勝てたとしたら…」
唯「この短い時間の中で、バスケ部の人たちよりも固い絆で結ばれたってことだよね」
唯「だとしたら、すごいことだよ」
唯「いつもは、まったりしてる私たち軽音部…時々、そのことで怒られちゃうこともあるよね」
唯「それと…不器用に、皆から離れていっちゃった、岡崎くんと春原くん」
唯「そのふたりと、今は仲良しだけど、出会う前は接点がまったくなかった、キョンくん」
唯「こんなにも、ばらばらで…みんなが一緒に、ひとつの目標に向かってるわけでもなくて…」
唯「もしかしたら、話すことさえなかったかもしれない私たちだけど…」
唯「それでも、力を合わせれば、頑張ってる人たちとだって、同じことが出来るってことだよね」
唯「普段は、ちょっと真剣さが足りない私たちでも、ね」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:13:25.37:1qYNd8dxO
朋也「ああ…そうだな」
平沢の言いたいことはよくわかる。
俺も、春原もそんなふうに生きてきたから。
キョンの奴だって、きっと似たような感情を持ったことがあるはずだ。
所属している部のことを聞くたび、俺たちに近かったことがわかっていったから。
けど…現実はそんなに甘くない。
気持ちだけでは超えられない壁も、確かにあるのだ。
俺も、春原もそんなふうに生きてきたから。
キョンの奴だって、きっと似たような感情を持ったことがあるはずだ。
所属している部のことを聞くたび、俺たちに近かったことがわかっていったから。
けど…現実はそんなに甘くない。
気持ちだけでは超えられない壁も、確かにあるのだ。
バスケ部員「話は聞いてるけど…おまえらが相手?」
ひとりのバスケ部員がやってくる。
春原「ああ、そうだよ」
バスケ部員「俺たち、もう始めたいんだけど」
春原「準備運動するから、ちょっと待っててくれよ」
バスケ部員「早くしろよ。さっさと終わらせて、飯にしたいんだからな」
機嫌悪く言い放ち、戻っていく。
春原「ちっ、感じ悪ぃな…」
朋也「昼飯前に駆り出されてんだ、気が立ってるんだろ」
屈伸しながら言う。
春原「だからってさぁ…言い方ってもんがあるだろ」
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:13:45.81:cUBlBpOS0
キョン「試合でその鬱憤を晴らすってのはどうだ?」
腕を伸ばしながら、ついでのように助言する。
春原「ま…そうだね」
春原も、手首、足首とひねりを加えてほぐしていた。
三人とも、好きなように柔軟をしている。
決まった順序なんかない。全員で同じ動きを強要することもない。
そんな無秩序さが、実に俺たちらしかった。
ひいては、軽音部の連中を含めた、このチーム全体の有りようを表しているようだった。
三人とも、好きなように柔軟をしている。
決まった順序なんかない。全員で同じ動きを強要することもない。
そんな無秩序さが、実に俺たちらしかった。
ひいては、軽音部の連中を含めた、このチーム全体の有りようを表しているようだった。
朋也「いくか」
キョン「おう」
春原「うしっ」
気合十分でコートに踏み入っていく。
向こうは、すでに三人揃っていた。
軽く体を動かしたりしている。
向こうは、すでに三人揃っていた。
軽く体を動かしたりしている。
バスケ部員「ハーフコートじゃなくて、全面使うからな」
審判を務めるらしい部員が、ボールを持ったままそう伝えてきた。
朋也「ああ、わかった」
バスケ部員「ジャンプボールだ。そっちは誰がやるんだ」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:15:07.85:1qYNd8dxO
朋也「キョン、頼む」
キョン「俺か?」
朋也「ああ。俺は無理だし、春原は背が低い。おまえが適任だ」
キョン「そうか。わかった」
センターサークルの中に両者陣取る。
そして、ボールが高く放られた。
そして、ボールが高く放られた。
キョン「岡崎っ」
最高到達点に達したところで、キョンがボールを叩き落とした。
俺の前に落ちてくる。
すぐさま拾い、そのままドリブルで切り込んでいく。
俺のマークはスピードで振り切ることができた。
だが、相手も一人ディフェンスに戻っていて、ゴール前で膠着する。
春原の姿を探す。反対サイドから走りこんでいるのが見えた。
それも、フリーで。
俺は一度ドリブルで突破するような素振りを見せ、パスを出した。
春原が受け取る。
俺の前に落ちてくる。
すぐさま拾い、そのままドリブルで切り込んでいく。
俺のマークはスピードで振り切ることができた。
だが、相手も一人ディフェンスに戻っていて、ゴール前で膠着する。
春原の姿を探す。反対サイドから走りこんでいるのが見えた。
それも、フリーで。
俺は一度ドリブルで突破するような素振りを見せ、パスを出した。
春原が受け取る。
春原「庶民シューっ!」
二、三歩ほどドリブルで距離をつめ、レイアップを決めていた。
キョン「ナイッシュ」
律「いいぞぉーっ、春原ぁ!」
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:15:36.36:cUBlBpOS0
唯「すごぉい、春原くんっ」
憂「春原さん、かっこいいですっ」
紬「ナイスシュートっ」
澪「先取点だよっ」
春原「へへ…」
にやついた表情を浮かべる春原。
その横から、ボールを持った敵がドリブルで抜き去っていった。
その横から、ボールを持った敵がドリブルで抜き去っていった。
春原「あ、やべ…」
朋也「余所見すんなっ、この馬鹿っ」
律「死ねーっ、春原ーっ!」
唯「最悪だよぉ、もう」
春原「おまえら、てのひら返すの早すぎだろっ!」
紬「…はぁ…マジで、はぁ…」
春原「ムギちゃんまでっすかっ!? つーか、キャラまで変わってるしっ」
朋也「春原、いいから戻れっ」
春原「わかってるよっ」
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:17:17.00:1qYNd8dxO
3対2の状況も、春原が戻ったことで、やっとイーブンに戻った。
敵全員に俺たちのマークがつく。
敵全員に俺たちのマークがつく。
キョン「っと…」
キョンがパスカット。
すぐに走り出す俺と春原。
カウンターの速攻だ。
すぐに走り出す俺と春原。
カウンターの速攻だ。
キョン「いくぞっ」
キョンは一度春原の方を向いてフェイントを入れ、俺にロングパスを出した。
相手のコート、ツーポイントエリアで拾う。
俺がいるのは左サイド。
ここからレイアップに持っていきたいが、マークがしつこい。
春原もマンツーマンでつかれていた。
仮に今、俺についたこのディフェンスを突破できても、すぐにヘルプがくるだろう。
それくらいゴールに近い位置での攻防だった。
だがこれは、チャンスでもある。ヘルプが来たら、春原がフリーになるのだ。
そこで上手くパスを回せればいいが…
ここまで走ってきた疲労もあって、体がいうことを聞いてくれるかどうか自信が持てない。
相手のコート、ツーポイントエリアで拾う。
俺がいるのは左サイド。
ここからレイアップに持っていきたいが、マークがしつこい。
春原もマンツーマンでつかれていた。
仮に今、俺についたこのディフェンスを突破できても、すぐにヘルプがくるだろう。
それくらいゴールに近い位置での攻防だった。
だがこれは、チャンスでもある。ヘルプが来たら、春原がフリーになるのだ。
そこで上手くパスを回せればいいが…
ここまで走ってきた疲労もあって、体がいうことを聞いてくれるかどうか自信が持てない。
朋也(キョンは…)
敵に背を向けて確認すると、自陣から上がってきているのが見えた。
ドリブルでキープしたまま、3対3の状況になるのを待つ。
これで、少し息も整えることができるだろう。
ドリブルでキープしたまま、3対3の状況になるのを待つ。
これで、少し息も整えることができるだろう。
朋也(よし…)
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:17:58.36:cUBlBpOS0
その時が来て、まず一人、俺のマークをドリブルで抜き去った。
案の定、すぐにヘルプが来る。
俺は近くにいた春原にパスを出した。
が、今度はキョンについていたマークが春原をチェックしに来た。
必然的に、キョンはフリーになる。
案の定、すぐにヘルプが来る。
俺は近くにいた春原にパスを出した。
が、今度はキョンについていたマークが春原をチェックしに来た。
必然的に、キョンはフリーになる。
春原「おし、キョン、いけっ」
春原がワンバンさせてパスを回す。
キョンはそれをしっかりと胸で受け取った。
スリーポイントラインの、外側で。
その位置から、ゴールに向けてボールを放つ。
綺麗な放物線を描き、ゴールに吸い込まれていった。
得点表がめくられる。
3点だ。
キョンはそれをしっかりと胸で受け取った。
スリーポイントラインの、外側で。
その位置から、ゴールに向けてボールを放つ。
綺麗な放物線を描き、ゴールに吸い込まれていった。
得点表がめくられる。
3点だ。
春原「うっしゃっ、ナイッシュゥ、キョンっ」
朋也「ナイッシュ。押してるぞ、俺たち」
キョン「おう」
ハイタッチを交わす三人。
律「うおー、すげーっ!」
唯「あんな遠い所からだからかな、3点も入ってたよっ」
憂「お姉ちゃん、スリーポイントっていうのがあるんだよ」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:19:47.43:1qYNd8dxO
唯「え? そうなの? すごいシステムだねっ」
外野からは、のんきなやり取りが聞えてきていた。
バスケ部員「………」
対照的に、コート内はそう穏やかじゃなかった。
今のプレイで、部員たちの目の色が変わっていた。
おそらく、今まではキョンの動きを見て、素人に近いと踏んでいたんだろう。
だから、スリーポイントなんか、端から警戒していなかったのだ。
実際、キョンは、ドリブルやパスはそこまで上手くない。
だが、シュートには素質が感じられた。練習も、シュートを重点的にやっていた。
その成果が、今のスリーポイントだ。
プレッシャーのかかっていないドフリーからのシュートとはいえ、上出来だった。
しかし、これからはシュートもあると、相手も警戒してくるだろう。
まぁ、それを逆手に取ることも、もちろんできるのだが。
今のプレイで、部員たちの目の色が変わっていた。
おそらく、今まではキョンの動きを見て、素人に近いと踏んでいたんだろう。
だから、スリーポイントなんか、端から警戒していなかったのだ。
実際、キョンは、ドリブルやパスはそこまで上手くない。
だが、シュートには素質が感じられた。練習も、シュートを重点的にやっていた。
その成果が、今のスリーポイントだ。
プレッシャーのかかっていないドフリーからのシュートとはいえ、上出来だった。
しかし、これからはシュートもあると、相手も警戒してくるだろう。
まぁ、それを逆手に取ることも、もちろんできるのだが。
朋也(奇襲はもうやれないか…)
朋也(ま、なんとかなるか…)
朋也(こいつら、レギュラーってわけでもなさそうだしな…)
俺の予想はおそらく当たっているはずだ。
ここまでの試合運びが、楽にいきすぎている。
それは、あの二人も肌で感じていることだろう。
出し惜しみしているのか知らないが、このままいけば十分勝機はある。
ここまでの試合運びが、楽にいきすぎている。
それは、あの二人も肌で感じていることだろう。
出し惜しみしているのか知らないが、このままいけば十分勝機はある。
朋也(よし…いくか)
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:20:47.46:cUBlBpOS0
その後も、パス回しからの連携や、春原の個人技、キョンのシュートなどで得点を重ねていった。
俺も、左からのレイアップのみだったが、なんとか得点に貢献できていた。
こっちもそれなりに失点していたが、まだまだ優勢だ。
俺も、左からのレイアップのみだったが、なんとか得点に貢献できていた。
こっちもそれなりに失点していたが、まだまだ優勢だ。
バスケ部員「メンバーチェンジ!」
ボールがコート外に出たとき、タイムを入れて、そう宣言された。
選手が総入れ替えになる。身長が軒並み上がっていた。
ガタイも、ずいぶんとよくなっている。
選手が総入れ替えになる。身長が軒並み上がっていた。
ガタイも、ずいぶんとよくなっている。
春原「おいおい、あいつらってさ、やっぱ…」
キョン「だろうな…」
朋也「ああ…レギュラー陣だ」
春原「ちっ、ここにきてか」
キョン「後半分だ。やれないことはないさ」
春原「へっ、そうだね…」
しかし、そう楽観的にもみていられない。
あっちはスタミナが満タンな上に、技量も体格も上だ。
対して、こっちは消耗が激しく、素人が二人に、肩が壊れている男が一人。
ここまではなんとかやってこれたが、この後どこまでやれるか…。
あっちはスタミナが満タンな上に、技量も体格も上だ。
対して、こっちは消耗が激しく、素人が二人に、肩が壊れている男が一人。
ここまではなんとかやってこれたが、この後どこまでやれるか…。
朋也(とにかく、今はこっちボールだ)
朋也(攻めていくか…)
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:22:03.53:1qYNd8dxO
思いとは裏腹に、ボールをコートに戻すことさえそう簡単にさせてもらえない。
俊敏な動きでぴったりとつかれていた。
俺は苦し紛れにボールを投げ放ったが、すぐにカットされてしまった。
そのままの勢いで、一気に押し込まれ、得点を許してしまっていた。
俊敏な動きでぴったりとつかれていた。
俺は苦し紛れにボールを投げ放ったが、すぐにカットされてしまった。
そのままの勢いで、一気に押し込まれ、得点を許してしまっていた。
朋也「わりぃ…」
キョン「いや、しょうがないさ。ああも、くっつかれちゃな…」
春原「まだ2点返されたただけじゃん。余裕だって」
朋也「すまん…」
キョン「謝らなくていい。いくぞ」
ぱんっと肩を叩かれる。
春原「おまえが謝るとか、らしくねぇっての」
朋也「ああ…そうだな」
再び気を奮い立たせる。
俺も、春原も、キョンも、必死になって食らいついていった。
俺も、春原も、キョンも、必死になって食らいついていった。
朋也(くそ、俺に左からのレイアップしかないことがわかってやがる…)
相手には、俺たちの攻撃パターンも、ほぼ読まれていた。
それでも、レギュラー陣相手に、同等以上の戦いを演じて見せた。
だが、それも、終盤に差し掛かってから、かげりが見え始める。
それでも、レギュラー陣相手に、同等以上の戦いを演じて見せた。
だが、それも、終盤に差し掛かってから、かげりが見え始める。
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:22:24.35:cUBlBpOS0
春原「あ…ぐっ…はぁ…はぁ…」
キョン「はぁー…はぁ、っく…はぁ…」
二人の体力が底をつき始めていた。
それは、俺にしても同じことだったが…。
それは、俺にしても同じことだったが…。
朋也「大丈夫か?」
春原「ああ、余裕すぎて、なんか眠いよ」
朋也「それ、死にかけてるからな」
朋也「キョンは?」
キョン「ああ…まだ、いけるぞ」
朋也「そうか…」
とてもそうは見えない。
肩で息をしていた。
強がりだということが、すぐにわかる。
肩で息をしていた。
強がりだということが、すぐにわかる。
朋也「残り30秒で、こっちボールだ。もう、このワンプレイで終わるぞ」
得点差は一点のみ。
俺たちが負けていた。
俺たちが負けていた。
春原「泣いても笑っても、最後ってわけね…」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:23:44.26:1qYNd8dxO
キョン「どうする? もう、パターンだいぶ読まれてるぞ…」
バスケ部員「おまえら、早く始めろよっ!」
怒声が届く。
朋也「ああ、すぐ始める」
そう冷静に返した。
朋也「いいか、ふたりとも」
俺は二人を抱き寄せて、最後の指示を出す。
キョン「了解」
春原「うまくいくといいけどねぇ」
コートに散る。
最初のパスでカットされればそれでゲームオーバー。
相手もそれがわかっているから、今まで以上に必死のディフェンスだ。
ぐるぐるとめまぐるしく変わる陣形…。
俺はボールを投げ入れた。
キョンの手に渡る。
不意に取られないよう、囲まれる前に俺に戻した。
ドリブルで中央に割って入る。
相手は意表を突かれた形になった。
俺は今まで左サイドからしかゴール下に入ることはなかったからだ。
一、二…
レイアップ! …の振りだけしてみせる。
最初のパスでカットされればそれでゲームオーバー。
相手もそれがわかっているから、今まで以上に必死のディフェンスだ。
ぐるぐるとめまぐるしく変わる陣形…。
俺はボールを投げ入れた。
キョンの手に渡る。
不意に取られないよう、囲まれる前に俺に戻した。
ドリブルで中央に割って入る。
相手は意表を突かれた形になった。
俺は今まで左サイドからしかゴール下に入ることはなかったからだ。
一、二…
レイアップ! …の振りだけしてみせる。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:24:14.59:cUBlBpOS0
思惑通り、目の前に影がよぎった。
俺は胸の前でボールを左手に移した。
そして、背後にいるのが春原だと信じてボールを浮かせる。
俺は胸の前でボールを左手に移した。
そして、背後にいるのが春原だと信じてボールを浮かせる。
春原「よし、きたぁぁっ!」
春原の声。
振り返ると、ボールを両手に掴んだ春原が着地したところだった。
それに、春原についていたディフェンスが覆い被さる。
フェイントで振った後、ボールを床に打ちつけた。
高くバウンドしたボール。
助走と共に拾っていたのはキョン。
自分についたディフェンスを振り切って、そして…
ゴールとは反対方向にボールを投げていた。
ゴール正面のフリースローポイント。
そこで俺はボールを受け取っていた。
すべてのディフェンスを振り切って。
コートに立つ全員が俺を振り返っていた。
相手の、唖然とした顔が滑稽だった。
振り返ると、ボールを両手に掴んだ春原が着地したところだった。
それに、春原についていたディフェンスが覆い被さる。
フェイントで振った後、ボールを床に打ちつけた。
高くバウンドしたボール。
助走と共に拾っていたのはキョン。
自分についたディフェンスを振り切って、そして…
ゴールとは反対方向にボールを投げていた。
ゴール正面のフリースローポイント。
そこで俺はボールを受け取っていた。
すべてのディフェンスを振り切って。
コートに立つ全員が俺を振り返っていた。
相手の、唖然とした顔が滑稽だった。
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:24:46.08:cUBlBpOS0
唯「岡崎くん、シュートだよっ」
平沢の声だけが、一際大きく聞えた気がした。
ああ…了解。
俺は上がらない肩もお構いなしに打った。
バスケ経験者とはほど遠い、不恰好な姿勢で。
それがすべてを象徴していた。
不恰好に暮らしてきた俺たち。
そんな奴らでも、辿り着くことができる。
道は違っても… 同じ高みに。
ぱすっ、と音がして、ネットが揺れていた。
一瞬の静けさ…
直後、割れんばかりの大歓声が起きた。
一瞬の静けさ…
直後、割れんばかりの大歓声が起きた。
春原「よくやった、岡崎!」
キョン「岡崎ぃ、すごいじゃないかっ!」
律「やるじゃん、岡崎っ」
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:26:08.11:1qYNd8dxO
唯「岡崎くん、MVP賞受賞だよっ!」
憂「岡崎さんっ」
澪「岡崎くん…すごいよっ、ほんとに…」
紬「やったね、逆転よっ」
梓「まぁ…認めます。おめでとうございます」
みんなが駆け寄ってくる。
澪「みんな…すごいよ」
澪「唯が言ってた通り…力を合わせれば、こんなこともできるんだって…」
澪「わだし…ぐす…感動だよ…」
朋也「泣くな。これくらいのことで」
春原「そうそう。当然のこと」
キョン「ははっ、だな」
しばし、みんなで喜びを分かち合う。
俺たちとやりあっていたバスケ部員たちは、仲間に非難され始めていた。
そいつらも、手でバツを作ったり、首を横に振ったりして、抵抗を示しているようだった。
だが、そんな中にも、俺たちに拍手を送ってくれる奴らもいた。
本気で戦っていたことを、本物たちに認められたようで、それが少しうれしかった。
俺たちとやりあっていたバスケ部員たちは、仲間に非難され始めていた。
そいつらも、手でバツを作ったり、首を横に振ったりして、抵抗を示しているようだった。
だが、そんな中にも、俺たちに拍手を送ってくれる奴らもいた。
本気で戦っていたことを、本物たちに認められたようで、それが少しうれしかった。
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:26:26.97:cUBlBpOS0
朋也「じゃあ、本題に移るか」
朋也「おい、つっ立ってないで、こっちこい」
ファンクラブの男を呼びつける。
しぶりながらもやってきた。
しぶりながらもやってきた。
朋也「これで、文句ねぇだろ」
男子生徒「…文句っていうかさ…澪ちゃんは別に迷惑してなかったからいいだろ」
澪「え…」
男子生徒「そうだったじゃん。そんな嫌でもなかったんでしょ?」
春原「てめぇな、このごに及んで、なに言って…」
朋也「春原…」
手で制す。
春原「あん? なんだよ」
朋也「いいから、ちょっと黙ってろ」
春原「なんなんだよ…」
朋也「秋山、おまえはどうなんだ」
途中で止められ、怒りのやり場を失った春原をよそに、秋山にそう訊いた。
40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:27:36.85:1qYNd8dxO
澪「そ、それは…」
朋也「嫌だったんだろ。はっきり言ってやれ」
澪「………」
男子生徒「おまえが言わそうとしてるだけだろどうみても。馬鹿か」
朋也「正直に言え。なにを言ったって、俺たちがついてるから」
俺は男の暴言に言い返すことはしなかった。
じっと、秋山の答えを待った。
じっと、秋山の答えを待った。
澪「……です…」
男子生徒「え?」
澪「嫌です。もう、私に…」
澪「私に…」
澪「………」
澪「軽音部のみんなに、近づかないで」
最後には顔を上げ、しっかりと相手の目を見据え、はっきりと言った。
男子生徒「………」
男子生徒「ビッチすぎだろ…」
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:27:59.81:cUBlBpOS0
捨て台詞を吐き、残していた仲間と共に体育館から出ていく。
春原「ったく、拒否られたからって、最後に変なこと言っていきやがってよ」
朋也「あんな奴の言うことなんて、気にするな」
澪「う、うん…」
春原「今度見かけたら、ぶっ飛ばしといてやるよ」
澪「そ、それはダメだよ」
春原「遠慮すんなって」
澪「気持ちだけ、受け取っておくよ。ありがとう」
春原「…ま、いいけどね」
キョン「おまえは喧嘩したかっただけだろ」
春原「ちがわい」
律「いやぁ、でも、驚いたわ。あの澪が、あんなはっきり断り入れるなんてな」
律「幼馴染のあたしでも、今までみたことなかったのにさ」
澪「岡崎くんが、背を押してくれたから…」
俺を一瞬だけ見て、顔を伏せる。
俺も、あんな恥ずかしいセリフを吐いてしまった手前、なにか気恥ずかしかった。
俺も、あんな恥ずかしいセリフを吐いてしまった手前、なにか気恥ずかしかった。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:29:13.30:1qYNd8dxO
勝って気分がよくなっていたとはいえ…猛省。
春原「おお? なに、いい雰囲気?」
律「初々しいねぇ、おふたりさん」
澪「え? ちちち、ちが…」
律「こぉのフラグ立て夫がぁ。略して立て夫がぁ」
俺を肘でつついてくる。
朋也「なにが立て夫だ…っ、あでででっ」
何者かに太ももをつねられる。
梓「………」
何食わぬ顔で中野が横に立っていた。
朋也「って、やっぱおまえかっ! なにすんだ、こらっ」
梓「すみません、ぎょう虫がいたもので、つい」
そんなのケツにしかいない。
律「あ~、立て夫が澪に優しくするもんだから…」
唯「ほらぁ、唯が元気なくしちゃってるじゃん」
44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:29:34.10:cUBlBpOS0
唯「そ、そんなことないよぉ…ないよ…」
紬「ふふ、唯ちゃん可愛い」
憂「お姉ちゃん頑張ってっ」
唯「え、ええ? なんのことか、わかんないっ」
律「はは、まぁいいや。とにかく、祝勝会だっ」
律「部室行くぞぉ」
がし、っと秋山の肩に手を回した。
澪「あ、こら律、歩きにくいっ」
律「細かいことは気にすんなっ」
―――――――――――――――――――――
キョン「じゃ、俺はここで」
体育館から直接旧校舎の一階までやってくると、そう言った。
朋也「おまえ、こないのか」
キョン「ああ、バスケ終わるまでって、言ってあるからな」
春原「いいじゃん、ちょっとくらい」
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:31:41.77:1qYNd8dxO
キョン「そのちょっとが許されてたら、苦労してないんだけどな」
朋也「なんか、大変そうだな、おまえも」
あの日、文芸部室から出てきた時のこいつの顔を思い出す。
眉間にしわを寄せ、難しそうな顔をしていた。
いろいと複雑な環境なんだろう、きっと。
眉間にしわを寄せ、難しそうな顔をしていた。
いろいと複雑な環境なんだろう、きっと。
キョン「ああ、まぁな。でも…」
言いかけて、やめる。
キョン「…いや、なんでもない」
キョン「それじゃ」
唯「キョンくん、いつでも軽音部に遊びに来てね」
キョン「ありがたいけど…多分、顔を出すことはないと思う」
キョン「俺の居場所は、なんだかんだいって、あそこだからな」
親指で文芸部室をさす。
唯「そっか…そうなんだね」
キョン「ああ」
朋也「悪かったな、なにも見返りがなくて」
46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:31:58.48:cUBlBpOS0
キョン「あったさ。久しぶりにおまえらとつるんで馬鹿やれたっていうな」
春原「うれしいこと言ってくれるじゃん」
朋也「ちょっと臭いけどな」
キョン「はは、最後までキツいな、岡崎は」
キョン「まぁ、それが、らしくていいよ。それじゃな。また機会があれば」
朋也「ああ、またな」
春原「じゃあね」
唯「ありがとう、キョンくん」
律「おつかれさん」
紬「ありがとう。おつかれさま」
澪「ありがとう、一緒に頑張ってくれて」
梓「ありがとうございました」
憂「おつかれさまでした」
俺たちの言葉を聞き終えると、部室に入っていった。
ドア越しに、また女と言い争うような声が聞えてくる。
だが、その声色に怒気は含まれていなかった。
どころか、生き生きとしているような印象さえ受けた。
ドア越しに、また女と言い争うような声が聞えてくる。
だが、その声色に怒気は含まれていなかった。
どころか、生き生きとしているような印象さえ受けた。
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:33:23.83:1qYNd8dxO
俺も詳しくは知らないが、それだけでわかった。
あそこが、あいつの収まるべき場所なんだろう、と。
あそこが、あいつの収まるべき場所なんだろう、と。
―――――――――――――――――――――
律「かんぱ~い」
唯「いぇい、かんぱ~い」
中央にティーカップを寄せ集め、チンッ、と軽く触れ合わせた。
律「しっかし、本業のバスケ部相手に…」
唯「えいっ」
パンッ!
律「っいっつ…って、なぁにすんだよ、唯っ」
唯「このクラッカー、試合中に使おうと思ってたんだけど、使い時がわからなくて…」
まだ持っていたのか…。
唯「それで、今使ってみました」
律「今もタイミングずれてるってのっ! 私のトークが始まろうとしてただろがっ」
律「しかも、こんな近くで放ちやがって…」
唯「えへへ、ごめんね。みんなの分もあるよ?」
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:35:24.02:1qYNd8dxO
律「反省の色がみえねぇ~…」
唯「やろうよ、みんなでさ、おめでと~って」
律「はいはい…」
全員に配り終える。
唯「それじゃ、改めて…」
唯「おめでとぉ~」
パンッ パンッ パンッ
次々に祝砲が上がる。
パンッ!
朋也「うぉっ…」
俺の横からクラッカーの紙ふぶきが飛んでくる。
腕を上げてガードしたのは、モロに食らってからだった。
腕を上げてガードしたのは、モロに食らってからだった。
梓「ちっ、火力が足りなかったか…」
一人だけ武器として扱っている奴がいた。
憂「梓ちゃん、人に向けて打ったらだめだよ」
梓「だって…自然と発射口が岡崎先輩を向くんだもん」
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:35:46.79:cUBlBpOS0
憂「自動照準なんて機能、ついてないよ…」
春原「ははっ、なんか知らないけど、おまえ、ナメられてるよね」
朋也「目潰しっ!」
パンッ!
春原「ぎゃぁああああああ目がぁああ目がぁああああっ!!」
両目を押さえながらもんどり打つ。
春原「なにすんだよっ! つーか…なにすんだよっ!」
朋也「二回言うな」
春原「ちくしょう、僕が失明でもしたらどう…ヒック…ぅう…すんだよ」
しゃっくりが出始めていた。
春原「ヒック…あー、くそ、止まんね…ヒック…」
朋也「ヒックヒックうるせぇな。心臓の動き止めろよ」
春原「無茶言うなっ! ヒック…」
律「普段はこんな奴らなのになぁ。試合の時とは、ほんと別人だよ」
紬「ふふ、そうね。でも、やる時はやる、って感じでかっこいいと思うな」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:37:03.41:1qYNd8dxO
春原「え? ほんとに? ヒック…」
春原がしゃっくりを交えながら目を輝かせて反応する。
春原「ムギちゃん、僕のこと、そんなにかっこいいと思う? ヒック…」
紬「うん、ちょっと耳障りかな、その心臓の痙攣」
春原「暗に勘違いするなって言ってますか、それ!?」
律「わははは!」
春原「うぅ…ショックでしゃっくり止まっちゃったよ…」
紬「じゃあ、あと一押し足りなかったかな…」
春原「息の根も止めるつもりだったんすかっ!?」
律「はは、おまえ、ムギに相手されてねぇんだって。諦めろよ」
春原「んなことねぇってのっ」
律「変なとこで根性あるなぁ、こいつは…」
がちゃり
さわ子「おいすー」
唯「あ、さわちゃんだ」
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:37:37.83:cUBlBpOS0
さわ子「あれ? なに、この散乱してる紙ふぶきは」
さわ子「パーティーの中盤戦みたいになってるじゃない」
歩を進めながら言って、空いている席に腰を下ろした。
すかさず琴吹がティーカップをそばに置く。
すかさず琴吹がティーカップをそばに置く。
さわ子「ありがと、ムギちゃん」
紬「いえいえ」
再びもとの席におさまる琴吹。
唯「試合が終わったから、おつかれさま会してたんだよ」
さわ子「あら、もう試合してきたのね」
唯「うん。でね、相手はバスケ部の人たちだったんだけど、それでも勝てたんだよっ」
さわ子「へぇ、やるじゃない」
春原「まぁね。楽勝だったよ」
澪「ほんとに、すごかったんですよ」
澪「途中、逆転されても、みんな、諦めないで頑張って…」
澪「背だって、相手の方がずっと高くて、有利だったのに…」
澪「それでも、最後には勝つことができたんです」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:38:46.78:1qYNd8dxO
澪「私、すごく感動しました…」
さわ子「ふぅん、このふたりにそんな男気があったとはねぇ…」
春原「僕はもともと男気の塊みたいなもんでしょ」
朋也「取れたら、嬉しいんだか、嬉しくなんだかで葛藤する、あの塊のことか」
春原「それ、ミミクソの塊だろっ! 僕、どんな奴だよっ!?」
律「わははは!」
さわ子「そういえば、キョンくんは、いないのね」
さわ子「あの子も試合に出たんでしょ? 誘ってあげなかったの?」
律「いや、自分の部活があるからって、来なかったんだよ」
さわ子「ああ、なるほどね。あのクラブに入ってたんだっけ、あの子は」
あの、を強調して言った。
この人は、あいつの部活のことを知っているんだろうか。
そんな口ぶりだった。
この人は、あいつの部活のことを知っているんだろうか。
そんな口ぶりだった。
さわ子「でも、岡崎。あんた、肩…大丈夫だったの?」
朋也「ああ…まぁ、なんとかな」
律「え? なに、肩?」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:39:09.86:cUBlBpOS0
さわ子「あら…てっきり、聞いてるのかと思ってたんだけど…」
俺を見て、ばつが悪そうに表情を硬くする。
俺が話す前に、自分が半ば打ち明けてしまったことを、悪く思っているんだろうか。
今更こいつらに知られたところで、もうしこりが残るようなことでもないのに。
俺が話す前に、自分が半ば打ち明けてしまったことを、悪く思っているんだろうか。
今更こいつらに知られたところで、もうしこりが残るようなことでもないのに。
朋也「俺、肩壊しててさ。右腕が、肩より上に上がらないんだよ」
だから、俺の口からそう告げていた。
さわ子「岡崎…」
朋也「いいよ、平沢にはもう話してるしな」
さわ子「…そう」
事情を知っている者以外は、みな驚きの表情を浮かべていた。
律「そうだったのか…だから、練習中もシュート打ってなかったんだな…」
朋也「ああ、まぁな」
律「じゃあ…逆転決めた、あんたの最後のシュートも、肩庇いながら…」
朋也「ああ。それでかなり無様な格好になっちまったけどな」
澪「そんなことないよっ、すごく格好良かったっ」
朋也「そっか…サンキュな」
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:40:21.17:1qYNd8dxO
澪「ううん、本当に、そう思ったから…慰めなんかじゃないから」
朋也「ああ…ありがとな」
澪「うん…」
さわ子「…あらあら? 岡崎にも、ようやく春が訪れたのかしら?」
朋也「あん?」
さわ子「あんた、あの、恋する乙女の眼差しに気づかないの?」
澪「せ、せせ先生、なに言ってるんですかっ…」
さわ子「でも、澪ちゃんが、あの岡崎になんて、意外だわ」
さわ子「ああっ、でもそういう意外性もまた、若さの特権よねぇ…」
しみじみという。
この人もまだそんなに歳食ってもいないだろうに。多分。
この人もまだそんなに歳食ってもいないだろうに。多分。
澪「ち、ちが…」
律「うわぁ、澪、顔真っ赤だなぁ」
澪「な、う、うるさいっ」
律「で、実際どうなんだよ」
澪「な、なにが…」
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:40:49.36:cUBlBpOS0
律「いや、だから、岡崎だよ。アリかナシか」
澪「そ、それは…」
律「ありゃ、即答しないな? ってことは…」
澪「深読みするなっ」
ぽかっ
律「あでっ」
律「殴って誤魔化すなよなぁ…」
澪「おまえがへんなこと言うからだっ」
律「ああはいはい、すいませんでしたねぇ…」
律「って、しまった、また唯の元気がなくなってるし」
唯「わ、私は元気だよ…いつも通りだよ…」
澪「ゆ、唯、違うんだ、私は別に…」
唯「な、なんで謝るのぉ、澪ちゃん。いいじゃん、岡崎くんと澪ちゃんのカップル」
唯「どっちも、美形ですっごく似合ってるよっ」
澪「ゆ、唯までそんな…」
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:42:02.23:1qYNd8dxO
律「はは、唯、強がんなって、このこのぉ」
首に腕を回し、ぐりぐりと平沢の頭に拳を当てた。
唯「本心だよぉ…もうやめてぇ~りっちゃんっ」
いじられ続ける平沢。
しかし…
女というのは、浮いた話に持っていくのが好きな生き物なんだろうか。
なにかあると、すぐに冷やかされている気がする…。
しかし…
女というのは、浮いた話に持っていくのが好きな生き物なんだろうか。
なにかあると、すぐに冷やかされている気がする…。
朋也(…ん?)
俺の横の席、中野が何か両の手でくるくる回していた。
そして、おもむろに俺の頬に触れてくる。
そして、おもむろに俺の頬に触れてくる。
朋也「…っだぁっつっ」
その指先から、バチッ、とした痛みが走った。
朋也「なにしやがった、こらっ」
梓「静電気ですよ」
朋也「はぁ? 静電気?」
梓「この、『電気バチバチくん』を手の中でこねると、静電気がたまるんです」
鉄製の棒のようなものに触れながら説明してくれた。
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:42:49.30:cUBlBpOS0
朋也(あぶねぇ…なんてもん持ってんだ…)
朋也「つーか、今俺が攻撃された理由がわからん」
梓「流れが気に食わなかっただけです」
梓「モテ男みたいに扱われて、調子に乗られたら嫌ですから」
朋也「思ってねぇよ、んなこと…」
憂「あの、岡崎さん」
朋也「うん? なんだ、憂ちゃん」
憂「何か、困ったことがあったら、いつでも言ってきてくださいね」
憂「私、力になりたいです」
それは、俺の肩のことを気にかけていってくれてるんだろう。
朋也「ああ、大丈夫。こんな肩でも、そこそこ不自由しないからさ」
憂「そうですか…?」
朋也「ああ」
梓「憂、この人なら、頭が吹き飛んでても不自由しないから、ほっといてもいいよ」
俺のアイデンティティが粉々にされていた。
63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:43:28.87:b4ZW6ocJ0
梓と朋也のやり取りが面白いwwwwwww
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:43:56.99:1qYNd8dxO
憂「梓ちゃん、ほんと厳しいよね、岡崎さんに…」
梓「憂が甘すぎるんだよ」
朋也(っとにこいつは…生意気な野郎だ)
勝利の宴は、日が暮れるまで続いていた。
―――――――――――――――――――――
春原「うげぇえっぷ…ふぅ」
律「きったねぇな馬鹿野郎、勝手にすっきりしてんじゃねぇよ」
春原「生理現象なんだから、しょうがないじゃん」
律「あんたが炭酸飲み過ぎなだけだろ」
春原「いや、おまえのデコみたら、誘発されたんだけど」
律「ぬぁんだとぉ、この白髪染め野郎っ!」
春原「脱色だってのっ! 白髪なんか一本もねぇよっ!」
律「嘘つけっ、白髪染め液のパッケージにおまえっぽいのいたもんっ」
春原「別人だろっ! 似て非なるものだよっ!」
春原「育毛剤のパッケージにおまえ本人がいるならわかるけどさっ」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:44:33.75:cUBlBpOS0
律「い、育毛剤だと!? こぉの野郎…」
春原「ふん…やんのかい? お嬢ちゃん…」
律「きえぇえええええっ!」
春原「ほおぁあああああっ!」
何かの動物のような鳴き声と型を取って威嚇しあう。
毎回のことなので、もう誰も止めようとしなくなっていた。
毎回のことなので、もう誰も止めようとしなくなっていた。
澪「岡崎くん、今日はありがとね」
ふたりが生む喧騒の外、秋山が俺に礼の言葉をくれた。
朋也「いや、別に。結果的に勝てたし、俺もわりと気分よかったからな」
澪「あ、そのこともなんだけど、もうひとつ…」
朋也「ん?」
澪「えっと…あの時、私に、正直になれって、後押ししてくれたこと」
朋也「ああ…」
澪「岡崎くんのおかげで、私、自分の気持ちがそのまま言えたんだ」
澪「今まで、怖がって、仲のいい友達にしか本音を言えなかった私が、だよ」
朋也「そっか。じゃあ、すっきりしただろ」
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:45:41.63:1qYNd8dxO
澪「うん、ちょっとね」
言って、苦笑する。
朋也「これからは本音だけで喋れよ」
朋也「例えば、ブルドックを可愛いって言う人がいたとするだろ?」
朋也「そしたら、正面から前蹴り食らったような顔面だ、って言ってやるんだ」
澪「あはは、それは、難しいかなぁ」
朋也「簡単だって」
澪「それは、岡崎くんだからだよ」
澪「岡崎くん、お世辞言いそうにないもんね」
朋也「ああ、臭いものは臭いって言うし、春原には馬鹿って言うぞ」
春原「聞えてるよっ!」
澪「あははっ」
―――――――――――――――――――――
各々が自分の帰路につき、俺と平沢姉妹だけが残った。
三人で今朝も歩いてきた道をいく。
三人で今朝も歩いてきた道をいく。
唯「岡崎くん、澪ちゃんと仲良くなったよね」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:46:04.73:cUBlBpOS0
朋也「そうか?」
唯「うん。だって、いっぱい喋ってたし…」
朋也「そんなでもないけど」
唯「でも、あの恥ずかしがり屋の澪ちゃんが、平気で話してるし…」
唯「それに、楽しそうに笑ってたし…」
朋也「単に慣れただけなんじゃないのか」
唯「そうなのかなぁ…」
朋也「そうだろ」
唯「う~ん…」
憂「岡崎さんって話しやすいですもんね」
憂「きっと、澪さんもそう思ったんじゃないかなぁ」
朋也「そんなこと言ってくれるのは憂ちゃんぐらいだよ」
言って、頭をなでる。
憂ちゃんも、笑顔で返してくれた。
憂ちゃんも、笑顔で返してくれた。
唯「でもさぁ、岡崎くんもなんか楽しげだったよね」
唯「やっぱり、澪ちゃんみたいな美人さんとお喋りするのは楽しい?」
70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:47:23.27:1qYNd8dxO
朋也「まぁ…そうだな」
容姿がよければ、大抵の男はそうだろうと思う。
唯「そうだよね…あはは…」
朋也「でも、俺の好みとしては、美人系よりかは、可愛らしい方がいいけどな」
唯「じゃあ…ムギちゃんとか?」
朋也「琴吹は、そうかもしれないけど、ちょっと大人っぽいしな」
朋也「だから、俺の中じゃ、きりっとしたイメージがあるんだよな」
唯「じゃあ、あずにゃんとか」
朋也「あいつはガキっぽすぎるっていうか…」
それ以前の問題な気がする。
朋也「まぁ、軽音部の中で言うなら…おまえが、一番近いよ」
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 22:47:44.78:cUBlBpOS0
唯「え…あう…わた、私…?」
朋也「ああ…まぁ、な…」
唯「それは…ご期待に添えられて、よかったです…」
朋也「いや…別になにも要求してないけどな…」
唯「そ、そうだったね…あははっ」
憂「岡崎さん、お姉ちゃんを末永くよろしくお願いしますね」
朋也「って、それ、どういう意味だ」
憂「さぁ? うふふ」
唯「う、憂っ、今日の晩御飯なに?」
憂「ん? 今日はねぇ、若鶏のグリルと…」
晩飯の話題で盛り上がる平沢姉妹。
俺はずっと横でそれを聞いていた。
いつしか俺は、こんな日々がずっと続いてくれればいいと…
そう、願うようになっていた。
俺はずっと横でそれを聞いていた。
いつしか俺は、こんな日々がずっと続いてくれればいいと…
そう、願うようになっていた。
―――――――――――――――――――――