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朋也「軽音部? うんたん?」 4/27 火
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meteor089
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朋也「軽音部? うんたん?」
139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:35:34.39:1qYNd8dxO
4/27 火
憂「あ、お姉ちゃん、寝癖ついてるよ」
唯「え、どこ?」
憂「襟足近くがハネちゃってるぅ…ちょっと待ってね」
立ち止まり、鞄からクシを取り出した。
撫でつける様に、やさしく平沢の髪をといていく。
撫でつける様に、やさしく平沢の髪をといていく。
憂「これでよし」
唯「ありがとぉ、憂」
憂「うん」
憂「………」
俺をじっと見てくる憂ちゃん。
朋也「ん? なんだ?」
憂「岡崎さんは、髪さらさらですね」
朋也「そうかな」
憂「はい。なにかお手入れとかしてるんですか?」
朋也「いや、したことないよ」
140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:35:55.90:cUBlBpOS0
憂「ナチュラルでそれですか…うらやましいです」
憂「キューティクルも生き生きしてて、ツヤもあるし…」
憂「あの、触ってみてもいいですか?」
朋也「ああ、いいけど」
身をかがめ、憂ちゃんに合わせる。
憂「じゃあ、失礼して…」
手ですくうようにして、側頭部に触れてきた。
憂「うわぁ、女の子みたいです…いいなぁ」
唯「岡崎くん、私も触っていい?」
朋也「ああ、いいけど」
俯いたまま答える。
唯「ほんとだ、さらさらだぁ」
憂「だよねぇ…」
ふたりして好き放題触っていた。
朋也「そろそろいいか」
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:37:12.54:1qYNd8dxO
憂「あ、はい。ありがとうございました」
朋也「ん…」
体勢を戻す。
唯「シャンプーはなに使ってるの?」
朋也「スーパーで買った適当なやつ」
唯「そうなの? ほんとに全然気を遣ってないんだね…」
唯「でもさ、卑怯だよっ、そんなの。私はケアしても寝癖つくのにさ」
朋也「そういわれてもな…」
唯「髪が綺麗な分、どこかにしわ寄せがきてなきゃだめだよっ」
唯「例えば、脇がめちゃくちゃ臭いとか」
朋也「そんな奴と登校したくないだろ…」
唯「でも、それくらいじゃないと納得できないよっ」
唯「だから、岡崎くんは脇が臭いことに決定ね」
朋也「決めつけるな…」
―――――――――――――――――――――
142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:37:50.35:cUBlBpOS0
………。
―――――――――――――――――――――
昼。
春原「おい、平沢。そこの醤油取ってくれよ」
唯「いいよぉ」
唯「はい、どうぞ」
春原「お、サンキュ」
受け取って、納豆にそそいでいく。
全体に絡めると、それを混ぜて、ご飯の上に乗せた。
全体に絡めると、それを混ぜて、ご飯の上に乗せた。
春原「やっぱ、ご飯には納豆が至高だよね」
ひとりごちて、口に運ぶ。
春原「お゛え゛ぇえええっ!」
朋也「うわ、きったねぇな、至高のゲロ吐くなよっ」
律「そうだぞっ、もらいゲロでもしたらどうすんだっ」
春原「ちがうよっ! これ、醤油じゃなくてソースだったんだよっ!」
春原「平沢、てめぇ、僕をハメやがったなっ!」
144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:39:04.54:1qYNd8dxO
唯「あわわ、ごめん。でも、ラベルが貼ってなくてわかんなかったんだよ…」
唯「だから、とっさに濁ってる方を選んじゃった」
春原「その時点で確信犯だろっ!」
朋也「まぁ、受け取った時気づかなかったおまえも悪いよ」
朋也「だから、前向きに考えて、事態を好転させろよ」
朋也「このケチャップで中和させたりしてさ」
春原「最悪のトッピングですねっ!」
律「わははは!」
―――――――――――――――――――――
………。
―――――――――――――――――――――
放課後。
今日は最初からさわ子さんも交えた状態で活動が始まった。
今日は最初からさわ子さんも交えた状態で活動が始まった。
春原「おまえら、昔いたアーティストで、芳野祐介って知ってる?」
春原「あの人さ、今この町にいるんだぜ」
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:40:27.11:cUBlBpOS0
澪「えぇ!?」
梓「えぇ!?」
さわ子「えぇ!?」
梓「えぇ!?」
さわ子「えぇ!?」
さわ子「春原、それ、ほんとなの…?」
春原「ほんとだよ。この前、名刺もらったし」
春原「え~っと…」
上着のポケットをまさぐる。
春原「これだよ」
一枚の名刺を取り出す。
長い間ポケットの中に入れられていたのだろう…しわくちゃになっていた。
最悪の保存状態だ。
にもかかわず、声を荒げて反応していた三人の注目を集め続けていた。
長い間ポケットの中に入れられていたのだろう…しわくちゃになっていた。
最悪の保存状態だ。
にもかかわず、声を荒げて反応していた三人の注目を集め続けていた。
梓「本物ですか…?」
春原「間違いねぇよ。顔も一致してたし」
春原「な、岡崎」
朋也「いや、俺は顔のことはよく知らねぇけど」
澪「岡崎くんも、みたの?」
朋也「ああ。その時、俺もこいつと一緒に居合わせてたんだよ」
147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:41:55.53:1qYNd8dxO
さわ子「ちょっとそれみせて」
春原「いいけど」
名刺を受け渡す。
さわ子「…電設会社、ね…」
さわ子さんは名刺を眺め、そう小さくこぼしていた。
その表情は、なぜか複雑そうだった。
その表情は、なぜか複雑そうだった。
梓「びっくりです…同じ町に住んでたなんて」
澪「うん。全然知らなかった…でも、なんか感動」
律「そういえば、おまえ、かなり芳野祐介好きだったもんな」
澪「今でも好きだっ」
律「さいですか」
梓「澪先輩も、芳野祐介好きだったんですね…意外です」
梓「あの人、ハードなロックを歌ってますからね」
梓「澪先輩が書くような感じの詩とも、ずいぶんとかけ離れてますし」
澪「って、梓も好きなのか?」
梓「はいっ、すごく好きですっ。いいですよね、芳野祐介の音楽は」
148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:42:22.97:cUBlBpOS0
澪「うんうん、だよなぁ!」
澪「歌詞は激しいのに、聞いてると涙が出そうになるくらい胸を打ってきたりするしな!」
梓「ですよね! それに、ギターのテクもすごいですし!」
ファン魂に火がついたのか、話題が尽きることはなかった。
アルバムがどうだの、お気に入りの曲はなんだのと語り合っていた。
アルバムがどうだの、お気に入りの曲はなんだのと語り合っていた。
律「話についていけねぇよ…」
唯「私もだよ…」
紬「私も芳野祐介さんの事はちょっと知ってるけど、あそこまでコアじゃないなぁ」
律「にしても…さわちゃんもファンなの? ずっと名刺見てるけど」
さわ子「え? ああ、ファンっていうか、まぁ、ね…」
さわ子「あ、これ、ありがと、春原」
言って、春原に返す。
律「なに? なんかワケアリ?」
さわ子「いや、まぁ…なんでもないわよ」
梓「ところで、春原先輩は、どこで見かけたんですか?」
春原「商店街を抜けたあたりだったよ」
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:43:45.01:1qYNd8dxO
梓「あの辺かぁ…あんまり行かないからなぁ…」
澪「私も…」
春原「もしかして、会いたいの? おまえら」
梓「それは、できたらそうしたいですけど…でも…」
澪「うん…遠くから見るくらいでいいかな」
春原「なんでだよ。せっかくなんだから話しかければいいじゃん」
梓「だって…芳野祐介って…その…引退理由が少し特殊ですし…」
梓「まずいじゃないですか。ファンなんです、なんて言ったりしたら…」
春原「ああ、そのことね…」
春原「ま、そんなことなら、僕と岡崎がいれば問題なく近づけるんだけどね」
春原「もう、知らない仲じゃないし」
といっても、そこまで親しいわけでもないが。
澪「そ、そうなの? すごいね…」
春原「ふふん、まぁね」
褒められて気を良くしたのか、したり顔になっていた。
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:44:13.18:cUBlBpOS0
春原「なんだったら、今から探しに出る?」
春原「運よく見つけられたら、話しかけられるぜ?」
梓「い、行きたいです!」
澪「私も!」
律「おまえら、きのうちゃんと練習しろとか言ってなかったか?」
澪「い、今は緊急事態なんだから、しょうがないだろっ」
梓「そうですよっ」
律「めちゃ力強いな、おまえら…」
さわ子「…私も行くわ」
律「うえぇっ? さわちゃんもかよっ!? でも、いいの? 仕事ほっぽりだして」
さわ子「大丈夫。バレなければいいのよ」
さわ子「こんなこともあろうかと、用意しておいた衣装があるの」
立ち上がり、物置へ向かった。
そして、俺たちのよく見慣れた服を手に戻ってくる。
そして、俺たちのよく見慣れた服を手に戻ってくる。
さわ子「これよ」
唯「あっ、光坂の制服だぁ」
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:45:49.52:1qYNd8dxO
さわ子「そうよ。これを着て、生徒に変装するの」
律「いや、変装っていうより、コスプレに近いんじゃ…」
さわ子「歳的な意味で言ってるなら、死ぬことになるわよ?」
律「とっても似合うと思いますっ」
さわ子「よろしい」
―――――――――――――――――――――
外へ出てきた俺たちは、早速芳野祐介を探し始めた。
といっても、闇雲に動き回っているわけじゃない。
琴吹の携帯…それも、なにか特殊な業務に使われているものらしいのだが…
それを使って、周辺の工事情報を集めてから、手分けして現場に当たっていた。
といっても、闇雲に動き回っているわけじゃない。
琴吹の携帯…それも、なにか特殊な業務に使われているものらしいのだが…
それを使って、周辺の工事情報を集めてから、手分けして現場に当たっていた。
―――――――――――――――――――――
紬「あの中にいる?」
春原「いや、いないよ」
紬「そう…」
これで、回ってきたのも3件目。
まだ他の連中からも、目撃の連絡が来ない。
まだ他の連中からも、目撃の連絡が来ない。
春原「今日は仕事ないのかもね」
155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:46:28.59:cUBlBpOS0
春原「もう、このままフケちまって、どっか遊びにいかない?」
春原「僕とムギちゃんふたりでさ」
俺たちは、琴吹と組んでスリーマンセルで動いていた。
携帯という連絡手段を持ちあわせていないので、誰かしらと組む必要があったのだ。
携帯という連絡手段を持ちあわせていないので、誰かしらと組む必要があったのだ。
春原「岡崎も、気ぃ利かせて帰るって言ってるしさっ」
朋也「そんなわけねぇよ、俺はいつだっておまえの死角に存在するんだからな」
春原「マジかよっ!? つーか、なにが目的だよっ!?」
朋也「おまえ、気づいたらティッシュ箱が自分から遠のいてることないか?」
朋也「そういうことだよ」
春原「あれ、おまえかよっ! めちゃくちゃうざい現象なんですけどっ!」
紬「くすくす」
―――――――――――――――――――――
一度全員で駅前に集まる。
律「全然いなかったんだけど」
唯「私たちがみてきた方面も全滅だったよ」
紬「こっちも、だめだったわ」
160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土) 23:59:38.74:cUBlBpOS0
澪「この地区の外で仕事してるのかな…」
朋也「いや…」
一台の軽トラが停めてある。
その向こう側に、人の動く気配。
その向こう側に、人の動く気配。
朋也「いた」
さわ子「どこ?」
朋也「あそこだよ。いこう」
俺たちは軽トラに近づいていった。
朋也「ちっす」
荷台に荷物を乗せ終えた作業員に声をかける。
春原「どもっ」
芳野「…ん?」
芳野「ああ…いつかの」
どうやら覚えていてくれたようだ。
芳野「どうした。今日はまた大道芸をしにきたのか」
春原「はい、そんな感じっすっ」
161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:01:31.43:jpDSDOMkO
春原「それで、今日は、その仲間も連れてきてるんすよっ」
芳野「後ろのお嬢ちゃんたちか」
さわ子「お嬢ちゃんとはご挨拶ね」
さわ子さんが前に出る。
さわ子「久しぶりね、芳野祐介。私のこと、忘れたとは言わさないわよ」
春原「…へ?」
その場にいた全員が目を丸くする。
芳野「あー…すまん。どこかで会ったことあるか?」
さわ子「私よ、私っ!」
メガネを外し、頭を激しく振りながらエアギターを始める。
俺にはなにがなんだかさっぱりわからなかった。
俺にはなにがなんだかさっぱりわからなかった。
芳野「まさか…あんた、キャサリンか。デスデビルの」
さわ子「はぁ…はぁ…ようやく思い出したようね…」
芳野「しかし…その制服…」
さわ子「あ、こ、これは…」
芳野「あんた…留年してたのか」
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:02:11.86:+UZ/pLeq0
ずるぅっ!
さわ子「そ、そんなわけないでしょっ! 今は教師をやってるのっ!」
さわ子「それで、この子たちは、私の教え子よっ」
芳野「そうか…でも、なんで教師のあんたが制服なんだ」
さわ子「それについては言及しないで。深い事情があるのよ…」
芳野「そうなのか…まぁ、いいが」
春原「……どうなってんの」
それは俺も知りたい。
芳野「それで…俺になにか用があるのか」
さわ子「あるのは、私じゃなくて、この子たちのほうよ」
芳野「あん?」
さわ子「みんな、あんたが芳野祐介ってこと、知ってるの」
さわ子「かつてアーティストとして活動していた、ね」
俺たちがひた隠そうとしていたことを、さらりと言ってのけていた。
芳野祐介はどんな反応をするのだろうか…
芳野祐介はどんな反応をするのだろうか…
芳野「…そうか」
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:03:57.64:jpDSDOMkO
芳野「………」
芳野「悪いが、俺はもう、昔の俺じゃない」
芳野「だから、あんたらの用向きには応えられない」
やはり、壁を作っていた。かつての自分に対して。
澪「ごめんなさい…」
秋山が、泣きそうな顔で、ぽつりと小さくつぶやいた。
澪「私、芳野さんの引退理由、知ってました」
澪「当時の事を思い出したくない気持ちも、大体想像できてました」
澪「それでも、この町にいるってことを聞いて、どうしても会いたくて…」
澪「こんな、押しかけるようなマネをして…」
澪「本当に、すみませんでした…」
梓「わ、私も同じです。自分のことばっかり考えちゃって…」
梓「でも、会えたらどうしても伝えたかったんです」
梓「ずっとファンだったこと…あ、今でも好きですけど…」
梓「うん…あと…芳野さんの歌に、何度も励まされたことを」
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:06:14.78:+UZ/pLeq0
澪「私も…そうです。落ち込んだ時、辛い時、悲しい時…」
澪「それだけじゃなくて、上手くいった時なんかも、聴いてました」
澪「歌詞にあるような、まっすぐな綺麗さにも、すごく感動しました」
澪「芳野さんの歌を聴くと、救われたような気持ちになるんです」
澪「だから、その…ありがとうございましたっ」
梓「あ、ありがとうございましたっ」
芳野「………」
投げかけられる言葉。ただじっと受け止める。
芳野「…いい生徒を持ったな」
ふたりに答えるでもなく、さわ子さんにそう言った。
その表情には、幾分の柔らかさがあるようだった。
その表情には、幾分の柔らかさがあるようだった。
さわ子「まぁね。みんな、私の自慢の生徒よ」
律「春原も?」
さわ子「ええ…多分」
春原「そこは断定してくれよっ!」
芳野「おまえらも、最初から知ってたのか」
166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:08:07.62:jpDSDOMkO
朋也「ああ。悪かったよ、変な芝居につき合わせちまって」
芳野「いや…それなりに楽しかったからな」
ふ、と一度微笑む。
芳野「今の俺に、礼の言葉なんか受け取れはしない」
芳野「だが…」
芳野「その気持ちだけは、しっかりと噛み締めておく」
クサい言い方だったけど、この人が口にすると様になった。
芳野「名前は?」
澪「秋山澪です!」
梓「中野梓です!」
芳野「そうか」
芳野「澪、梓。君たちがいつまでも前を向いて歩いていけるよう…」
芳野「どんな逆境でも耐え抜いて、真っ直ぐ歩いていけるよう…」
芳野「この俺も祈ってる」
芳野「………」
167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:08:48.70:+UZ/pLeq0
芳野「じゃあ、またな」
それだけ呟いて、去っていく。
車に乗り込み、エンジンをかける。
すぐにその音は遠ざかっていった。
車に乗り込み、エンジンをかける。
すぐにその音は遠ざかっていった。
春原「…どういうこと? 僕、なんか混乱してきたんですけど…」
さわ子「一度、部室に戻りましょう。そこで話してあげる」
―――――――――――――――――――――
さわ子「あんたらには話してなかったけど…」
さわ子「私、昔この学校の軽音部で、バンドやってたのよね」
春原「え? さわちゃんってここのOBなの?」
さわ子「そうよ」
春原「へぇ、じゃ、先輩じゃん」
さわ子「ええ、だから、今まで以上に慕いなさいよ」
春原「オッケー、わかったよ、さわちゃん」
さわ子「その、さわちゃん、っていうのが、慕ってるように見えないんだけどね…」
唯「ちなにみこれが当時のさわちゃんだよ」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:09:43.05:+UZ/pLeq0
一枚の写真。
そこには、仰々しいメイクと衣装で不敵に笑うさわ子さんと、その仲間たちが写っていた。
そこには、仰々しいメイクと衣装で不敵に笑うさわ子さんと、その仲間たちが写っていた。
さわ子「あ、こら、唯ちゃんっ、まだそんなもの…」
律「んで、これが音源な」
小さめのラジカセを手に持ち、再生ボタンを押した。
凶悪な音楽と、叫ぶような歌声が聞えてくる。
凶悪な音楽と、叫ぶような歌声が聞えてくる。
さわ子「こら、やめなさいっ」
平沢からは写真を奪い、部長からはラジカセを取り上げた。
春原「…さわちゃんって、けっこうヤバい人だったんだね」
さわ子「これは格好だけよ。中身は普通だったわよ」
そうだろうか。
この人の現在の性格を鑑みるに、当時もやっぱりスレていたんじゃなかろうか。
この人の現在の性格を鑑みるに、当時もやっぱりスレていたんじゃなかろうか。
さわ子「あんたらふたりのほうがよっぽどヤンチャよ」
さわ子「すぐ喧嘩してくるんだからね。去年は大変だったわよ」
思い返してみれば、確かにそうだった。
よそで喧嘩してくるたび、学年主任に呼び出され、その都度この人がかばってくれていたのだが…
その時のはぐらかし方が妙に手馴れていたような…そんな気もする。
まるで、そんな立場に立たされたことがあるかのようにだ。
なら、やっぱり、この人も昔は無茶していたんだ。
よそで喧嘩してくるたび、学年主任に呼び出され、その都度この人がかばってくれていたのだが…
その時のはぐらかし方が妙に手馴れていたような…そんな気もする。
まるで、そんな立場に立たされたことがあるかのようにだ。
なら、やっぱり、この人も昔は無茶していたんだ。
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:12:15.12:jpDSDOMkO
俺たちに目をかけてくれるのも、そんな時代の自分と重ねてみているからなのかもしれない。
さわ子「ま、それはいいとして…芳野祐介だったわね」
梓「そうですよっ。どうやって知り合ったんですか?」
さわ子「対バンよ、対バン。この町のハコでずいぶん演ったわ」
梓「って、もしかして、芳野さんも、この町の出身なんですか?」
さわ子「そうよ。高校生の時に知り合ったんだけどね…私は光坂で、あっちは北高だったの」
梓「へぇ…」
澪「そうだったんですか…知りませんでした」
澪「公式プロフィールには、そういうこと書いてなかったですから」
律「よかったじゃん、マニア知識がひとつ増えてさ」
澪「うん…嬉しい…」
さわ子「まぁ、第一印象は最悪だったんだけどね」
さわ子「いきなり乱入してきて、マイク奪って、乗っ取ってくるし」
春原「…マジ?」
さわ子「大マジよ」
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:13:16.91:+UZ/pLeq0
俺もにわかには信じられない。
あのクールな印象からはかけ離れすぎていた。
あのクールな印象からはかけ離れすぎていた。
さわ子「あの頃のあいつは、そりゃもう、ヤバイぐらい暴れまわってたんだから」
さわ子「そのせいで、いろんなバンドから恨み買って、敵作って…」
さわ子「それでも、ずっと歌い続けてたわ」
さわ子「そんな姿が、若い私には、かっこよく映ったんでしょうね」
さわ子「次第に興味を持つようになっていったの」
さわ子「そして、あるライブの後、思い切って話しかけてみたの」
さわ子「粗野で荒々しい奴かと思ってたんだけど、話してみると、意外とシャイな上に無口でね」
さわ子「それに加えて、無愛想で…そうね、ちょうど岡崎みたいな感じだったわ」
春原「こいつ、悪人顔だもんね」
朋也「黙れ」
さわ子さんは続ける。
さわ子「でも、言葉数は少なかったけど、音楽に対する情熱はすごく持ってるってことがわかったの」
さわ子「そこからよ、よく話すようになったのは」
そこまで言って、紅茶を飲み、一呼吸入れた。
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:13:53.44:+UZ/pLeq0
さわ子「…多分恋してたんでしょうね」
さわ子「気づいたら、あいつのことばかり考えるようになってたの」
さわ子「そして、3年生になって、進路も大方決めなきゃいけない時期がきて…」
さわ子「あいつにどうするか訊いてみたの」
さわ子「そしたら、卒業後は、上京して、プロのミュージシャンになるなんて言うのよ」
さわ子「それを聞いて、私も血がたぎったわ」
さわ子「じゃあ、自分もミュージシャンになって、こいつと同じ道を歩くぞ、って…」
さわ子「そう、思ったんだけど…」
さわ子「………」
さわ子「その後に続けて、『プロになれたら、好きな人と一緒になる』って、そう言ったの」
さわ子「聞けば、新任の女教師に惚れてるってことらしかったわ」
さわ子「失恋よ、失恋」
さわ子「そこで、私の恋は終わって、進む道も、てんで別方向に分かれちゃって…」
さわ子「それっきりになっちゃったのよ」
この人にそんな過去があったなんて知らなかった。
付き合いは長いつもりだったが、まだ踏み込めていなかった領域だ。
付き合いは長いつもりだったが、まだ踏み込めていなかった領域だ。
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:15:37.82:jpDSDOMkO
でも…今回、こんな話をしてくれるほどに、俺たちは想われている。
こそばゆいやら、うれしいやら…。
こそばゆいやら、うれしいやら…。
さわ子「ま、こんなとこかしら」
梓「先生…すごすぎます…尊敬ですっ」
澪「かっこいいです、先生っ」
紬「ドラマチックですね」
さわ子「そう? おほほほ、もっと褒めなさい」
律「ま、でも、要は、失恋しちゃったよ~って話だよな」
ビシッ ビシッ ビシッ
律「うぎゃっ痛っ、さわちゃ、痛いっ」
ビシッ ビシッ ビシッ
部長の額に容赦なくデコピンが次々に繰り出されていた。
唯「りっちゃんは一言多いよね」
律「唯にまともな突っ込みされるあたしって一体…」
額を押さえながら言う。攻撃はもう止んでいた。
さわ子「そうそう、これは余談なんだけどね…」
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:16:45.99:+UZ/pLeq0
ゆっくりと口を開く。
さわ子「あいつが好きだった先生っていうのが、この学校で教師をされてたのよ」
澪「え? だ、誰ですか?」
さわ子「あなたたちは知らないと思うわ。3年前に退職されてるからね」
さわ子「伊吹公子さんっていうんだけど…」
唯「え? 伊吹さん?」
唯「もしかして、ショートヘアで、おっとりした感じの人?」
さわ子「え、ええ…今はどうかしらないけど、髪はショートだったわ」
唯「じゃあ…やっぱり、あの伊吹さんだ。先生してたって言ってたし」
梓「ゆ、唯先輩、知り合いなんですか?」
唯「うん。私がよくいくパン屋さんの常連さんだから、会えばお喋りしてるよ」
さわ子「へぇ…世間は狭いものねぇ…」
澪「で、どんな人なんだ?」
唯「えっとね、綺麗で、優しくて、それで…」
話し始める平沢。
そこへ熱心に耳を傾ける秋山と中野。
そこへ熱心に耳を傾ける秋山と中野。
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 00:18:24.24:jpDSDOMkO
人の繋がりとは、不思議なものだ。
どこでどう交差するかわからない。
今回のように、意外な交流があったりする。
小さい町だったから、とくにそれが顕著なのかもしれない。
…ふと、思う。
俺も、そんな人と人の繋がりの中に入っていっているのではないか。
あんなにも人付き合いが嫌だった、この俺がだ。
なんでだろう。なにが始まりだったろう。
思い起こせば、それは、やっぱり…平沢からだったように思う。
どこでどう交差するかわからない。
今回のように、意外な交流があったりする。
小さい町だったから、とくにそれが顕著なのかもしれない。
…ふと、思う。
俺も、そんな人と人の繋がりの中に入っていっているのではないか。
あんなにも人付き合いが嫌だった、この俺がだ。
なんでだろう。なにが始まりだったろう。
思い起こせば、それは、やっぱり…平沢からだったように思う。
唯「でね、そのパンが爆発して、周りにチョコが飛び散ったんだよ」
澪「…話が脱線していってないか」
唯「あ、ごめん。えへへ」
無邪気に笑う平沢。
できることなら、その笑顔を、ずっとそばで見ていたいと…
そう思う。
できることなら、その笑顔を、ずっとそばで見ていたいと…
そう思う。
朋也(…俺、こいつのこと、好きなのかな…)
よくわからなかった。
でも…一人の人間としては、間違いなく好きだった。
でも…一人の人間としては、間違いなく好きだった。
―――――――――――――――――――――