自分用SSまとめ
朋也「軽音部? うんたん?」 5/5 水 祝日
最終更新:
meteor089
-
view
朋也「軽音部? うんたん?」
452:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:31:16.47:jpDSDOMkO
5/5 水 祝日
春原「ああ、くそっ、つーか、なんでもう最終日になってんだよっ」
大人しく漫画を読んでいたと思ったら、なんの前触れもなく突如声を上げた。
朋也「そりゃ、時間が過ぎたからだろ」
春原「それなんだけどさ、僕、きのうの記憶がまったくないんだよね」
春原「っていうか、最後になにか汚いものが顔面に迫ってきたのはうっすら覚えてるんだけど…」
春原「そこから先がなにも思い出せないんだ」
精神が完全に崩壊しないよう、防衛本能が働いたのか、記憶障害を起こしていた。
春原「おまえ、なにか知らない?」
朋也「知らん」
知らないほうがいいだろう。
春原「くそぅ、どうも煮え切らなくて、気持ち悪いんだよなぁ…」
―――――――――――――――――――――
春原「なぁ、岡崎。なんか楽しげなイベントとかないの?」
春原「もう今日で終わっちまうんだぜ? ゴールデンな週間もさ」
453:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:31:40.57:+UZ/pLeq0
朋也「じゃあ、ラグビー部の部屋のドアに落書きしてまわるか」
朋也「あいつら、遠征かなんかで出払ってるだろ、今」
春原「お、いいねぇ、おもしろそうじゃん。日ごろの鬱憤もはらせるし」
春原「なんか派手に書けるものあったかな、へへっ」
意気揚々と立ち上がる。
朋也「春原参上! って、スラム街のように赤いスプレーで書いてやろうな」
春原「って、なんで特定される情報まで書くんだよっ!」
朋也「いいだろ、別に。今寮に残ってんのなんて、おまえぐらいのもんだし、どっちみちすぐバレるって」
春原「じゃ、ダメじゃん。他になんかないの」
朋也「おまえの洗濯物と、ラグビー部の奴の洗濯物入れ替えるってのはどうだ?」
朋也「もしかしたら、下着を交換することで、立場が逆転するかもしれないぜ?」
春原「どういう理屈だよっ! つか、確実にボコボコにされるだろ、僕っ」
朋也「それを見越してのことなんだけど」
春原「おまえが楽しむだけのイベント考えるなっ!」
春原「ったく…おまえに訊いたのが間違いだったよ」
454:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:34:21.00:jpDSDOMkO
ぼやき、布団にダイブした。
春原「あーあ、暇だなぁ…」
がちゃり
声「よーぅ、居るかぁ、春原ー」
朋也(ん?)
ドアの方に顔を向ける。
朋也(あれ…)
春原「うわぁっ、ななんでおまえが…」
律「お、岡崎もいるみたいだな。丁度よかった」
部長だった。
澪「律、ノックぐらいしないか」
唯「ひぃ…ふぅ…歩くの早いよぉ、りっちゃん…」
梓「大丈夫ですか、唯先輩」
唯「うん、なんとか…」
その後ろからぞろぞろと他の部員も出てくる。
455:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:34:43.26:+UZ/pLeq0
律「おい、おまえら、今からボーリング行くぞ」
春原「あん? ボーリングぅ?」
律「おう。早く準備しろい」
春原「なんかよくわかんないけど、急すぎるだろ、おまえ」
澪「ほら、やっぱりアポなしでいきなり来たから迷惑してるじゃないか」
唯「そうだよぉ、私だって熱海から帰ってきたばっかりで疲れてたのにぃ」
律「なぁんで保養地に行って疲れて帰って来るんだよっ」
梓「私だって今日はのんびりしたかったです」
律「夏でもないのに軽井沢なんて避暑地にいく中野家が悪い」
梓「どう悪いのかさっぱりわかりません」
梓「むしろ、TDLで三日間も遊んでた律先輩のご家族の方がおかしいです」
律「なんだとぉ? お土産あったのにぃ…おまえにはあげないからなっ」
澪「お土産? おまえにしては珍しいな」
律「ん? 欲しいかい? 興味あるかい?」
律「インドア派で、この三日間どこにも出かけず部屋に篭ってる内に髪が伸び放題になっちゃった澪ちゃんよぉ」
457:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:36:00.20:jpDSDOMkO
澪「引き篭もりみたく言うなっ! しかもそんな長い形容句をスムーズにっ!」
律「そういきりなさんなって…ほら、やるよ」
ごそごそとポケットから何かを取り出した。
律「フリーパスの残りカス」
澪「って、それがお土産なのか…」
律「そだよん」
澪「普通に要らない」
律「あ、そ」
ぽい、と投げ捨てた。
春原「って、僕の部屋に捨てるなっ!」
朋也「お前の部屋も、ゴミ箱も、そう大差ないんだから、許してやれよ」
春原「大違いだよっ! それじゃ、住んでる僕がゴミみたいだろっ!」
朋也「はははははっ」
春原「笑うなぁっ!」
律「アホなコントやってないで、早く準備しろって」
458:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:36:31.72:+UZ/pLeq0
春原「待てよ。ムギちゃんはどうしたんだよ。そこが一番重要なのによ」
律「ムギはまだイタリーにいるんだよ。帰ってくるのは今日の夜らしいからな。諦めろ」
春原「うへ~、海外かよ、さすがムギちゃん…」
春原「でも、ムギちゃんがいないんじゃ、行く気にならないなぁ…僕も、そんな暇じゃないしね」
律「嘘つけ。んなだらしなく寝巻きでゴロゴロしてる奴に、予定なんかあるわけないだろ」
律「もしあったとしても、こんな美少女が誘ってるんだぜ? 当然こっちを優先するよな」
春原「美少女かどうかはともかく、そこまで言うんなら行ってやってもいいけどね」
律「ふん、内心めちゃくちゃうれしいくせに。ひねくれ者め」
春原「言ってろって」
ベッドから身を起こす。
美佐枝「あら…こりゃまた、珍しい光景だねぇ。春原の部屋に女の子が集まってるなんて」
春原「あ、美佐枝さん」
廊下側、部長たちの後ろから美佐枝さんが顔を覗かせる。
律「あ、こんにちは」
澪「こんにちは」
459:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:38:15.90:jpDSDOMkO
唯「こんにちは~」
梓「こんにちは」
美佐枝「はい、こんにちは」
春原「その子たち、そこのカチューシャ以外みんな僕の彼女なんだよ。すごくない?」
律「変な嘘つくな、アホっ! しかも、あたし以外ってどういうことだよっ」
春原「そのまんまの意味さ」
律「てめぇ…」
梓「あの、その節はお世話になりました」
美佐枝「ん? あー、確か…中野さん、だったっけ」
梓「はい、そうです」
美佐枝「あの時、岡崎とデートしてた子よねぇ?」
朋也(ぐあ…)
梓「なっ…」
唯「えぇ!?」
澪「えぇ!?」
澪「えぇ!?」
律「え、マジで?」
461:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:38:35.44:+UZ/pLeq0
春原「へぇ、気づかなかったよ。おまえら、そんな仲だったんだ」
朋也「違うっての」
梓「相楽さん、違いますよっ! ほら、猫の件で一緒に居ただけじゃないですかっ!」
美佐枝「あーら、そうだったわねぇ。この歳になると物忘れが激しくていけないわぁ」
…絶対にわざとだ。
梓「なに言ってるんですか、十分お若いじゃないですかっ」
美佐枝「あら、ありがと。あ、そだ。今あの子、部屋にいるんだけど、みてく?」
梓「あ、はい、是非っ。律先輩、私ちょっと行ってきますんで」
律「ん、ああ…」
梓「それじゃ、失礼します」
言って、美佐枝さんについていった。
律「…で、今の人は?」
春原「美佐枝さんっていって、ここの寮母やってる人だよ。要するにおっぱいって感じかな」
律「変なまとめ方するなよ、変態め…まぁ、確かに胸は大きかったけどさ…」
澪「あの…岡崎くん、梓とデートしてたって、本当…?」
462:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:39:57.29:jpDSDOMkO
春原「お、そうだそうだ。おまえ、あの二年と仲悪かったのに、どんなテク使ったんだよ」
朋也「デートじゃねぇって。中野も否定してただろ。たまたま会って、それで、猫の飼い主探しを手伝ってたんだよ」
唯「あ、もしかして、あれかな? あずにゃんからメールきたことあったんだよね。飼ってくれませんかって」
律「それ、あたしにもきたわ」
澪「そういえば、私にも…」
唯「飼い主みつかったって言ってたけど、あの人のことだったんだね」
朋也「まぁ、そういうことだ」
春原「でも、美佐枝さんがデートと見間違えたってことはさ…さてはおまえ、チューしようとしてたなっ」
朋也「んなわけあるか、馬鹿。つーか、さっさと着替えろよ。行くんだろ、ボーリング」
春原「ん、そうだね。よいしょっと…」
おもむろにズボンを脱ぎ捨てる。
澪「ひゃっ…」
ばっ、と顔を背ける秋山。
律「って、馬鹿、まだあたしらがいるのに着替え始めんなよっ! しかも下からっ!」
部長は手で顔を覆い隠していた。
463:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:40:25.70:+UZ/pLeq0
唯「かわいい柄だね、そのパンツ」
春原「だろ?」
が、平沢だけは平然と直視していた。
…やはりこいつは少し人とズレているんだろうか。
…やはりこいつは少し人とズレているんだろうか。
―――――――――――――――――――――
律「今日は絶対この前の借りを返してやるからな」
春原「はっ、できるかな…この町内会の鬼と呼ばれた僕に」
律「なんだそのだせぇ異名は」
春原「ださくねぇよっ! 地元で一番のボウラーだったからついた名誉ある称号だっ!」
律「地元? 小せぇなぁ…ま、おまえに世界の広さってもんを教えてやるよ」
律「この、16ポンドボールの生まれ変わりと呼ばれるあたしがな」
春原「ははっ、なるほど。でかい球体と、広いデコのことをかけて言われてるんだね。悪口じゃん」
律「違うわっ! ピンを倒しまくるからだっつーのっ!」
律「それくらいわかれ、このガーターの生まれ変わりがっ!」
春原「あんだと、こらっ」
騒がしいふたりを先頭に、一向はボウリング場を目指す。
464:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:41:49.69:jpDSDOMkO
朋也「ところでさ、平沢」
唯「うん? なに?」
朋也「今日は、憂ちゃんは一緒じゃないんだな」
唯「憂はお母さんと買い物にいってるからね~」
唯「お父さんたち、明日また仕事に戻っちゃうから、一緒にいられるのは今日までなんだ」
唯「それで、朝からずっとべったりなんだよ、憂は」
朋也「ふぅん…でも、おまえはよかったのか? 親と一緒にいなくて」
唯「行ってきなさいって、言われちゃったからね。友達は大事にしなさい~って」
朋也「そっか」
唯「うん。あと、和ちゃんも誘ったんだけど、今月は模試と中間があるから、勉強したいって断られちゃったんだ」
朋也「へぇ…真面目だな。さすが生徒会長」
唯「だよねぇ」
梓「…あ~あ、また岡崎先輩の最悪なクセが出てきましたね」
梓「こんなに女の子の比率が高いのに、まだ憂を欲しがるなんて…最低です」
澪「こ、こら梓…」
465:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:42:19.58:+UZ/pLeq0
朋也「いや、ただいないのが気になっただけだからな…」
梓「どうせ、また憂にお兄ちゃんって呼ばせたかったんでしょっ!」
朋也(聞いちゃいねぇ…)
梓「…それなら、私だって、言ってくれれば…呼んであげるのに…」
朋也「あん?」
小さすぎて、そのセリフを聞き取ることができなかった。
梓「なんでもないですっ! 馬鹿っ!」
澪「梓、なんでそういつもつっかかっていくんだ」
梓「だって…」
澪「だってじゃありません。せっかく一緒に遊ぶんだから、仲良くしなさい」
梓「…はい」
あまり納得していないような面持ちだったが、それでも不承不承こくりと頷いていた。
朋也「すげぇな、秋山。後輩の躾け、上手いじゃん」
澪「そんなことないよ。ただ注意しただけだし」
梓「って、なにが躾けですかっ! 動物みたいに言わないでくださいっ!」
466:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:43:47.07:jpDSDOMkO
朋也「ああ、でも、猫だよ、猫。猫みたいな感じだよ」
梓「ね、猫ですか…まぁ、それなら…」
唯「私も、あずにゃんを躾けてみたい! ほら、あずにゃん、お手っ」
梓「な…ば、馬鹿にしないでくださぁいっ!」
ぽかぽかと殴られる平沢。
唯「うわぁん、ごめんよ、あずにゃん」
梓「このっこのっ」
平和な奴らだった。
―――――――――――――――――――――
カウンターで手続きを済ませ、シューズやボールなどの準備を終えて、ボックスにつく。
春原「よぅし、先発は僕からだ」
春原がアプローチに立つ。
春原「うおりゃああああっ」
思い切り助走をつけて…
春原「いっけ…っうぉわっ」
467:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:44:18.18:+UZ/pLeq0
投げようとしたところで、指が抜けず、球といっしょに体が放り出される。
どすん!
春原「ってぇ…」
ぎりぎりファールラインを超えず、こちら側に倒れていたので、油まみれにならずに済んでいた。
球はゴロゴロと転がっていき、ガーターに嵌り、一本もピンを倒すことはなかった。
球はゴロゴロと転がっていき、ガーターに嵌り、一本もピンを倒すことはなかった。
律「わはは、力みすぎだっつーの。つーか、ボールは自分に合ったの選べよなぁ」
春原「最近やってなかったからな…ブランクのせいだよ。次は華麗に決めてやるさ」
言って、ボールを選び直しに出た。
何個か手に持って確認すると、その中の一つを持ってくる。
何個か手に持って確認すると、その中の一つを持ってくる。
春原「これでいいぜ…スペア取ってやるよ」
構える。
春原「らぁああっ!」
フォームを意識しすぎて、最終的にはJOJO立ちのようになって放っていた。
ごろごろごろ…がたん
再びガーター。得点は0。
律「だっせー、こいつっ! わはははっ」
469:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:50:09.63:GUuTH9K4O
ポケモンの孵化作業をしながらここをみてるのは俺だけじゃないはず
471:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:51:52.91:+UZ/pLeq0
春原「ちっ…オイルのコンディションが悪すぎるんだよ」
待機席に戻ってくると、乱暴に腰を下ろした。
澪「ドンマイ、春原くん」
唯「投げ方だけはストライクだったよ」
春原「おまえのはフォローになってねぇっての」
画面に表示された春原のスコアに0とつけられた。
次に、部長の枠が点滅していた。
次に、部長の枠が点滅していた。
律「ほんじゃ、次はあたしだな」
―――――――――――――――――――――
律「ふぅ…」
ボールを手前に持ち、集中している。
踏ん切りがついたのか、助走をつけた。
踏ん切りがついたのか、助走をつけた。
律「ほっ」
綺麗なフォームで投げ放つ。
ボールは勢いのある直線的な動きで、ど真ん中からピンを蹴散らしていった。
ボールは勢いのある直線的な動きで、ど真ん中からピンを蹴散らしていった。
律「あ、くそ…」
その結果、端と端に一本ずつ残してしまっていた。
473:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:53:27.82:jpDSDOMkO
春原「はは、こりゃどっちか諦めなきゃね。スペアは無理だよ」
律「ふん、どうかな…」
ボールが返却される。
それを手に取ると、再びアプローチに戻った。
それを手に取ると、再びアプローチに戻った。
律「む…」
助走をつける。
律「てりゃっ」
右端のピンに真っ直ぐ向かっていくボール。
ガーターすれすれで進んでいくと…
ガーターすれすれで進んでいくと…
パコンッ パコンッ
春原「なっ…!?」
豪快に左端まで飛ばし、ピン同士がぶつかり合って倒れていた。
律「どうよ? 私のピンアクション。すごくない?」
唯「りっちゃんすごぉ~い!」
澪「昔から得意だよな、それ」
律「まぁねん」
474:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:54:16.65:+UZ/pLeq0
梓「いつもはおおざっぱなのに…変に器用なんですね。それをドラムにも生かしてくれればいいのに」
律「なんか言ったかぁ? あ~ずさぁ?」
梓「いえ、なんでもありません」
春原「まぁ、ビギナーズラックってやつだね、ははっ」
律「ビギナーでもねぇし。ジツリキよ、ジツリキ。運などとは絶対に言わせない。絶対にな」
澪「なにファイティングポーズとってるんだ、律」
律「いや、なんでも。それよか、次は澪だろ? いってかましてこいよ」
澪「ん、私か…」
―――――――――――――――――――――
澪「………」
静かにレーンの先を見つめる。
そして、軽く助走をつけた。
そして、軽く助走をつけた。
澪「ほっ…」
ボールがリリースされる。
回転がかかっているのか、えぐるようにして、若干横からピンに突っ込んでいった。
回転がかかっているのか、えぐるようにして、若干横からピンに突っ込んでいった。
パコーンっ
477:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:56:05.32:+UZ/pLeq0
見事すべて倒し、ストライクを取っていた。
球威こそなかったが、入っていく角度がどんぴしゃだったのだろう。
球威こそなかったが、入っていく角度がどんぴしゃだったのだろう。
唯「うわぁ澪ちゃんすごいねっ! さっきのりっちゃんが霞んで見えるよっ」
律「な…おま…」
澪「あはは…」
照れたように、ぽりぽりと頬をかいていた。
唯「りっちゃん、褒めた分の労力を返してよっ」
律「なんだよ、あたしも十分すごかったってのっ」
梓「澪先輩、上手ですね」
澪「たまたまだって」
朋也「たまたまで回転なんかかけられないだろ」
春原「だね。やるじゃん、秋山」
澪「あ、あはは…ありがとう」
澪「あ、そ、そうだ、次は岡崎くんだよ」
朋也「俺か…」
あんな快挙の後では、ハードルが上がったような気がして、なんとなくやり辛い…。
478:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:57:41.53:jpDSDOMkO
―――――――――――――――――――――
結局、俺は普通に投げ、そこそこ倒し、なんのトラブルもなく普通に順番を終えた。
―――――――――――――――――――――
梓「なんか、すごく地味でしたね」
待機席に帰ってくると、開口一番そう口にする中野。
律「だよなぁ。なんかイベント起こしてくれなきゃ、つまんねぇよ」
朋也「俺にそんな期待するな…」
春原「間違って隣のレーンに投げちゃったぁ、とかすればウケたのにな。残念だったな、岡崎」
それはおまえの役目だ。しかもシャレになっていない。
唯「確かに、全然おもしろくなかったけど…気にしちゃだめだよ? それが岡崎くんの持ち味なんだから」
澪「うん、気を落とさないでね、岡崎くん」
慰めの皮を被った追い討ちをされていた。
朋也「俺のことはいいんだよ…次、中野だろ? いけよ」
梓「じゃあ、私も岡崎先輩に倣って、頑張って盛り上げてきますね」
にこやかに皮肉を言い残していった。
479:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 04:58:28.16:+UZ/pLeq0
朋也(くそ…)
―――――――――――――――――――――
梓「………」
ボールを持ち、真剣な眼差しで正面を見据える。
その小さい体と、それに合わせた小さいボールだったが、妙な迫力があった。
その小さい体と、それに合わせた小さいボールだったが、妙な迫力があった。
梓「……っ」
助走をつける。
梓「えいっ」
投げ放つ。
途中まではレーンに乗っていたが、次第にガーターに寄っていき、すとん、と落ちた。
途中まではレーンに乗っていたが、次第にガーターに寄っていき、すとん、と落ちた。
朋也(なんだ、ガーター…)
朋也(ん?)
突如、ガーターから復帰し、ピンを弾き出すボール。
倒した本数もそれなりにあった。
倒した本数もそれなりにあった。
律「おお、すげぇ…今の狙ってやったのか?」
梓「はい、これは私の持ちネタの一つなんです。まぁ、あくまでネタですから、実利に乏しいんですけど」
唯「おもしろい技もってるねっ、あずにゃん」
481:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:02:40.42:jpDSDOMkO
春原「なかなかやるじゃん、二年もさ」
澪「あんなの見たことないな…すごいんだな、梓は」
梓「ありがとうございます」
優越感たっぷりに俺を見下ろしてきた。
朋也「………」
正直、敗北を認めてしまっている自分がいた。
―――――――――――――――――――――
その後、中野は順調に残りのピンを倒し、スペアを取っていた。
まぁ、あんな離れ業をこなすだけの技量があるのだから、普通にやればわけないだろう。
まぁ、あんな離れ業をこなすだけの技量があるのだから、普通にやればわけないだろう。
唯「最後は私だね」
梓「頑張ってください、唯先輩」
唯「やるよぉ、私はっ。ふんすっ」
意気込み、ボールを持ってアプローチに上がった。
朋也(大丈夫かな…)
その足取りがふらふらとおぼつかないことに少し不安を覚えた。
唯「よぉし…」
482:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:03:06.20:+UZ/pLeq0
構えることもなく、ぱたぱたと小走りで助走をつける。
唯「うわっ…」
朋也(あ…)
なにも無いはずなのに、足をつっかえさせて転けていた。
ボールが床に落ち、ゴン、と鈍い音がする。
ボールが床に落ち、ゴン、と鈍い音がする。
朋也「大丈夫か、平沢っ」
すぐに駆け寄っていく。
ボールが落ちた拍子に、どこかにぶつけていないだろうか…それが心配だった。
ボールが落ちた拍子に、どこかにぶつけていないだろうか…それが心配だった。
唯「うん、平気だよ…」
朋也「そうか…」
強がりで言っている様子はない。ただ転んだだけで済んだようだ。
大きな怪我もなく、ほっとする。
大きな怪我もなく、ほっとする。
律「唯、大丈夫か!?」
唯「だいじょうぶいっ」
やや遅れて部長たちもやってきた。
梓「はい、岡崎先輩、唯先輩から離れましょうねっ」
朋也「あ、おい…」
483:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:04:15.98:jpDSDOMkO
ぐいぐい服を引かれる。
朋也「って、なについでに手についた油拭いてんだよっ」
梓「あ、無意識にやってました。すみません」
どんな深層心理だ。
澪「どこか痛むところないか?」
唯「全然大丈夫だよっ。気にしないで、ノーダメージだから」
澪「そっか…なら、よかったよ。不幸中の幸いだな」
律「まったく、おまえは…いつも心配かけさせやがって」
唯「えへへ、ごめんね」
春原「とろいなぁ、おまえ」
唯「そんなことないよっ! めちゃ機敏だよっ!」
春原「んじゃ、こけんなよ」
唯「こけてないよっ。受身取ってるからねっ」
澪「それは、こけてから取る動作なんじゃないのか…」
律「はは、まぁこんな冗談が言えるくらいだから、本当に大丈夫なんだろうな」
484:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:04:35.04:+UZ/pLeq0
―――――――――――――――――――――
平沢の無事が確認できたので、皆席に戻っていた。
春原「つーかさ、岡崎。おまえ、すげぇ速かったな。一番に走ってったし」
律「あー、あたしもそれ思ったわ。やっぱ、愛しの唯ちゃんが心配だったのぉ?」
朋也「なにが愛しのだ。単に俺の足が速かっただけだろ」
春原「僕より速いっていうのかよっ!!」
朋也「いちいち変なところに食いついてくるな」
律「でも、めちゃ顔面蒼白になってたじゃん。転んだだけであそこまでなるかぁ、普通?」
朋也「嘘つけ。俺は血色はいいほうだ。つーか、おまえらだって駆けつけてただろ」
律「そうだけどさ、なんか、あんたは心配の度合いが違ったっていうか…」
春原「彼女を心配する彼氏みたいだったよね」
律「うんうん、それだわ、まさに」
朋也「こんな時だけ徒党を組むな。思い出せ、おまえらは仲が悪かったはずだ」
律「お、話題を逸らしに来ましたなぁ」
春原「こりゃ、なんか隠そうとしてる本心があるね」
485:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:05:48.40:jpDSDOMkO
朋也「ねぇっての…」
律「うひひ、これは今後が楽しみですなぁ」
春原「なんか進展したら、すぐ報告してくれよな」
朋也「なにも起こらねぇよ…」
悪巧みする悪人のような顔つきで邪推し、盛り上がり始める春原と部長。
朋也(ったく…)
つんつん
袖を引っ張られる。
朋也「ん…?」
梓「…本当のところはどうなんですか」
朋也「あん? なにがだよ」
梓「だから、唯先輩のことです」
朋也「おまえまで、んなこと訊いてくるのかよ」
梓「だって…すごく大事にしてるし…」
憤慨してくるのかと思ったが…意外にも、しゅんとなってしおれていた。
よほど平沢を取られたくないんだろう。
よほど平沢を取られたくないんだろう。
486:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:06:11.45:+UZ/pLeq0
澪「私も、知りたいな。岡崎くんが唯をどう思ってるか」
朋也「って、おまえもかよ…」
そんなに興味を引くことなんだろうか…。
梓「澪先輩…」
澪「………」
朋也「俺は、別に…」
朋也「………」
好きじゃない…とは、言えなかった。
俺は…
俺は…
唯「みんなひどいよ~、私投げ終わったのに、なにも声かけてくれないのぉ?」
のんきな声と共に平沢が戻ってきた。
全員の目が向く。
全員の目が向く。
律「おう、悪い悪い。で、どうだったんだ、結果はさ」
唯「えへへ、それがね…」
ぱっ、と画面がちらつくと、平沢のスコアに得点が表示された。
…1点。
…1点。
律「おま…一本だけ倒したのか…」
487:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:07:42.09:jpDSDOMkO
唯「うん。やっぱり、難しいね、ボーリングは」
律「いや、逆にすごいぞ、一本だけなんて…」
春原「ははっ、こりゃ、平沢のドベで決まりかもね」
朋也「今はおまえが最下位だろ」
春原「はっ、そんなの、すぐにひっくり返してやるさ」
一巡し、また春原に順番が回ってくる。
春原「おし、やってやるぜっ」
律「気合だけは一人前なんだよなぁ、空回りするけど」
春原「うっせー、ボケ」
唯「あはは、頑張って~春原くんっ」
ゲームが再開される。
俺はそのタイミングに救われた心地がしていた。
そう…平沢のことが好きじゃないなんて、心にもない事、口に出さずに済んだからだ。
つまり俺は…やっぱり、好きなんだ。平沢のことが。
俺はそのタイミングに救われた心地がしていた。
そう…平沢のことが好きじゃないなんて、心にもない事、口に出さずに済んだからだ。
つまり俺は…やっぱり、好きなんだ。平沢のことが。
朋也(いつからだったんだろうな…)
俺自身、正確にはわからなかった。
けど…もう、ずっと前からだった気がする。
それが今、ようやくはっきりした。
けど…もう、ずっと前からだった気がする。
それが今、ようやくはっきりした。
488:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:08:02.59:+UZ/pLeq0
こんなキッカケでしか気づけないなんて…自分のことながら、滑稽だった。
朋也(はぁ…)
俺は平沢の横顔をじっと見つめた。
朋也(変な奴だよな…可愛いけど)
唯「ん?」
目が合う。
唯「…えへへ」
朋也「…えへへ」
唯「ぷふっ、岡崎くんが、えへへって…」
朋也「悪いか」
唯「いや、かわいいなって…あははっ」
朋也「そっかよ…っ、痛っつ…」
ふとももに鋭い痛みが走る。
梓「なに目の前でいちゃついてくれてるんですかっ」
中野につねられていた。
489:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:09:12.34:jpDSDOMkO
朋也「別にんなこと…秋山、こいつを止めてくれ」
澪「…梓、ちょっと力が足りないんじゃないか?」
朋也「え?」
梓「そうですね」
ぎゅうっ
朋也「あでででっ! って、なんでだよっ」
同時にそっぽを向く秋山と中野。
朋也(なんなんだよ…)
秋山まで悪乗りするなんて…わけがわからなかった。
―――――――――――――――――――――
唯「うぅ…手がベタベタするよぉ…」
梓「唯先輩、手洗ってこなかったんですか」
唯「うん、自然乾燥がいいって、テレビで高田純次さんが言ってたから」
梓「それは信じちゃだめですよ…発言の後、スタジオに笑いが起こってませんでしたか?」
唯「ん? そういえば…」
490:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:09:35.94:+UZ/pLeq0
梓「だったら、それはただのネタですから」
唯「そっかぁ…くそぉ、あの野郎ぉ…」
梓「大御所芸能人を、一般人があの野郎呼ばわりしたら駄目ですよ…」
梓「とりあえず、ティッシュあげますから、これで拭き取ってください。ちょうどそこにゴミ箱もありますから」
唯「ありがとう、あずにゃん」
俺たちは4ゲームこなし、ボウリング場を後にしていた。
総合順位は、1位秋山、2位中野、3位部長、4位春原、5位俺、6位平沢だった。
1位と2位のふたりは、下位とは大差をつけての高得点争いをしていた。
接戦の末、勝負を制して王者に輝いたのは秋山だった。
続く3位と4位、部長と春原は、妨害工作が入り混じる、抜きつ抜かれつの泥仕合を演じていた。
そして今回一枚上手だったのは部長の方だった。
続く5位と6位、俺と平沢は、ただただ平凡に順番を回していったのだった。
総合順位は、1位秋山、2位中野、3位部長、4位春原、5位俺、6位平沢だった。
1位と2位のふたりは、下位とは大差をつけての高得点争いをしていた。
接戦の末、勝負を制して王者に輝いたのは秋山だった。
続く3位と4位、部長と春原は、妨害工作が入り混じる、抜きつ抜かれつの泥仕合を演じていた。
そして今回一枚上手だったのは部長の方だった。
続く5位と6位、俺と平沢は、ただただ平凡に順番を回していったのだった。
律「おい、負け原、頭が高いぞ。もっとひれ伏して、地面に近い位置をキープしろよ」
春原「ざけんなっ、ゲーセン勝負じゃ、僕に軍配が上がってたんだから、これでやっと対等になれたんだろっ」
律「そんな昔のこと覚えとらんわぁっ! 男なら、いつだって今日を生きてみろよっ」
春原「くそぉ…一理あるな…」
あるのか。
律「んじゃさ、すっきり勝てたことだし…次はカラオケ行ってみよか」
491:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:10:58.81:jpDSDOMkO
唯「あ、いいね、カラオケっ」
梓「って、まだ遊ぶんですか?」
律「当然。あたしたちのゴールデンウィークは始まったばっかりだぜ」
梓「今日で終わりですけどね…」
澪「…カラオケは、やめにしないか?」
律「なんでだよ?」
澪「だって…恥ずかしいし…」
律「なにいってんだよ、今更。もう散々ライブで人前に立って歌ってるじゃん」
澪「唯がメインボーカルだろ…私は隣で相槌打ってたり、ちょっとハモったりするだけじゃないか」
律「んなわけないだろ…1曲まるまる歌ってたこともあったぐらいだしな」
唯「私が喉やられちゃってた時と、風邪引いちゃってた時だよね」
律「そうそう」
澪「でも…カラオケは採点機能とかあって、厳しい評価下されるわけだし…」
律「ええい、まどこっろしいわっ! 来週にはライブやるんだから、今から特訓しとくぞっ」
律「いくぞ、ゴーゴーっ!」
492:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:11:17.91:+UZ/pLeq0
唯「おーっ」
先頭に立って歩き出す部長と平沢。
流されるように、俺たちもその後に続いていく。
流されるように、俺たちもその後に続いていく。
春原「ふん、僕の美声で、幼かったあの日の匂いを思い出すがいいさ」
律「なんだそりゃ。おまえの歌唱力で想起される情景なんか、台所の三角コーナーぐらいだろ」
春原「あんだと、こらっ」
またも騒ぎ出す。疲れを知らない奴らだった。
澪「はぁ…」
秋山はあくまで気が乗らないようで、ため息をついていた。
―――――――――――――――――――――
春原「てめぇ、勝手に予約消すんじゃねぇよっ」
律「あんたが連続して入れるからだろっ! しかも同じ曲ばっかりっ!」
春原「ボンバヘッ! はどれだけ続いても盛り上がるんだよっ!」
春原「つーか、どさくさにまぎれて、割り込みいれてくるんじゃねぇよっ」
律「あ、消すなっ! 馬鹿っ」
個室に入ると、このふたりはすぐにリモコンを手にして、互いの予約を打ち消し合っていた。
493:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:12:26.44:jpDSDOMkO
春原「はぁはぁ…くそ…」
律「はぁ…しつけぇ、こいつ…」
たららん らんらん らんらんらんらん♪
室内になんとも締まらない音楽が鳴り響く。
春原「あん?」
律「あ…」
唯「えへへ」
平沢が端末に手動で直接入力していた。
マイクも手にしている。
マイクも手にしている。
唯『だんごっ だんごっ…』
歌いだす平沢。
律「うわ、やられた…意外と策士だな、唯」
春原「おまえが邪魔しなきゃ、今頃僕がボンバヘッ! でスタートダッシュできてたのによ」
律「一曲だけなら文句はなかったってのっ」
唯『みんな、みんな、合~わ~せ~てぇ百人、家族~…』
律「しっかし、一発目から、だんご大家族かよ…」
494:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:12:49.52:+UZ/pLeq0
梓「唯先輩らしいです」
澪「唯、好きだもんな、だんご大家族」
春原「ふぅん、変な趣味してんなぁ」
唯『みんなも一緒に歌おうよっ! 赤ちゃんだんごは、いつも、幸せの中で…』
律「ははっ…へいへい」
部長も歌いだす。
続き、秋山も、中野も一緒に歌出だした。
そして、俺と、春原さえも控えめにだが、口ずさんでいた。
とても高校生がカラオケでやるようなこととは思えない。まるで、お遊戯会の合唱のようだった。
続き、秋山も、中野も一緒に歌出だした。
そして、俺と、春原さえも控えめにだが、口ずさんでいた。
とても高校生がカラオケでやるようなこととは思えない。まるで、お遊戯会の合唱のようだった。
唯『…ふぅ』
曲が終わる。
唯「いやぁ、やっぱり、だんご大家族だよね」
律「まぁ、たまには悪くないな、だんごも」
唯「いつだっていいものだよ、だんご大家族は」
律「はいはい」
和やかな空気。
しかし…
しかし…
495:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:14:08.82:jpDSDOMkO
春原『ボンバヘッ!』
ぶち壊すような春原のシャウト。
同時、流れ出す歌謡ヒップホップ。
同時、流れ出す歌謡ヒップホップ。
律「げっ、いつの間に…」
春原『ボンッボンッボンバヘッ! ボンボンボンバヘッ!』
律「ボンバヘッしか言ってねぇし…あ、そだ。採点オンにしなきゃな」
画面に採点が入ったことを知らせるテロップが流れた。
春原の声に気合が篭る。
春原の声に気合が篭る。
澪「ええ!? 採点はなしにしてくれっ」
律「ああ、おまえの時だけ切るから、安心しろ」
澪「ほんとだぞ? 不意打ちとか、するなよ?」
律「わかってるって」
―――――――――――――――――――――
春原『おしっ、どうだ!』
曲が終わり、採点が始まる。
デフォルメされた動物キャラたちが、なにやらひそひそと会議をしている。
デフォルメされた動物キャラたちが、なにやらひそひそと会議をしている。
だらららら だん!
496:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:14:41.01:+UZ/pLeq0
10点 10点 5点 6点 11点 合計…42点!
悲壮感漂うBGMを背景に、キャラクターたちが狂ったように得点フリップを叩き壊していた。
春原『え゛ぇ゛!? マジかよっ!?』
律「わはは、ショボっ」
春原「最初から入ってなかったから、その分引かれてんだよ、絶対っ」
律「んなわけあるかいっ。もしそうだったとしても、超序盤だったし、変わんねぇって」
春原「くそぅ…こんなはずじゃ…」
律「次はあたしだな」
画面が変わり、次の曲のタイトルが大きく表示される。
『Oh!Heaven』とあった。
『Oh!Heaven』とあった。
律『んっん…あーあー…』
喉の調子を整える部長。
ややあって、背景映像と前奏が流れ始める。
なんとなく聞いたことがあるメロディ。
ややあって、背景映像と前奏が流れ始める。
なんとなく聞いたことがあるメロディ。
朋也(なんだったっけな…)
頭を抱えて記憶を辿る。
確か、昔あったドラマで使われていたような…。
確か、昔あったドラマで使われていたような…。
497:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:16:05.95:jpDSDOMkO
律『ダメなぼくと知ってても~いつもそばにいたんだねぇ~』
やっぱりそうだ。実際に歌を聴いて確信した。次いで、ドラマの内容も思い出す。
天使から与えられる試練をクリアできなければ即死亡…そんな設定の物語だった。
部長もまた、ずいぶんと懐かしい選曲をしたものだ。
天使から与えられる試練をクリアできなければ即死亡…そんな設定の物語だった。
部長もまた、ずいぶんと懐かしい選曲をしたものだ。
春原「む…」
春原にも心当たりがあったんだろうか。
画面を凝視していた。
画面を凝視していた。
春原「おおっ…」
律『うっ…』
澪「はうっ…」
朋也(ああ…そういうことか)
画面の中で男女がもつれ合ってベッドに入っていた。
春原が熱心に見入っていたのは、この展開を予見してのことだったのだ。
というか、なぜこういうアダルトなイメージ映像が用意されているんだろうか。
完全に曲調とミスマッチしていた。
春原が熱心に見入っていたのは、この展開を予見してのことだったのだ。
というか、なぜこういうアダルトなイメージ映像が用意されているんだろうか。
完全に曲調とミスマッチしていた。
律『っ…長い夜も越えてみようよぉ~…』
部長の声が裏返る。ボリュームもどんどん尻すぼみしていった。
春原「ははっ、長い夜だって。意味深だねぇ」
498:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:16:28.68:+UZ/pLeq0
律『う…うっせぇ…』
その後も映像がループし続け、失速した勢いを取り戻すことはなかった。
律『うう…くっそぉ…』
採点が始まる。
だらららら だん!
18点 15点 16点 12点 14点 合計…75点!
春原「うわっ、中途半端だな。褒められもしないし、けなし辛いしさぁ」
律「アクシデントさえなけりゃもっと高かったってのっ」
難癖をつけて体裁を保とうとするその姿が、なんとなく春原と被って見えた。
律「くしょー…」
画面が入れ替わる。
次の曲…『Last regrets』。聞いたことがない曲名だった。
次の曲…『Last regrets』。聞いたことがない曲名だった。
澪「り、律、早くオフにしてくれっ」
律「あー、はいはい」
採点が切られる。
そして、流れ出す前奏。かなり澄んだ音だった。
そして、流れ出す前奏。かなり澄んだ音だった。
499:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:17:38.86:jpDSDOMkO
澪『ありがとう 言わないよ ずっとしまっておく…』
透明感のあるメロディ。歌詞も綺麗だった。
秋山の透き通った声も相まって、一層まっさらに思えた。
ずっと静かに聴いていたい。そんな歌だった。
秋山の透き通った声も相まって、一層まっさらに思えた。
ずっと静かに聴いていたい。そんな歌だった。
春原「ヒューッ!」
空気を読めない男が一人。
にこやかにマラカスを振っていた。
こいつに情緒や風情を理解しろという方が無理な話なのかもしれない。
にこやかにマラカスを振っていた。
こいつに情緒や風情を理解しろという方が無理な話なのかもしれない。
―――――――――――――――――――――
澪「…はぁ」
歌い終える。
唯「やっぱり澪ちゃん上手いね」
梓「音程が完璧です」
澪「いや、普通だって…」
律「今回のライブは澪がメイン張ってみるか?」
澪「や、やだよ…」
言って、腰を下ろす。
500:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:17:57.20:+UZ/pLeq0
朋也「採点つけとけばよかったのにな。かなり高得点だったんじゃないか」
澪「そ、そんなことないって、絶対…」
朋也「俺はそれくらい良かったと思うけど」
澪「そ、それは、ありがとう…」
もじもじとして、顔を伏せてしまう。
ぐしっ
足に重み。
朋也「って、なに踏んでんだよ」
梓「あ、すみません。特に理由はないです」
もはや言いわけを考えることさえ放棄していた。
律「あん? なんだ、この『はっぴぃにゅうにゃあ』って。梓か?」
梓「あ、はい。私です」
澪「梓、マイク」
梓「どうも」
マイクを受け取る。
そして、音響機器からコミカルな音楽が流れ始めた。背景映像は…アニメ?
そして、音響機器からコミカルな音楽が流れ始めた。背景映像は…アニメ?
501:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:21:11.13:Uk4GWlZ40
んでんでんでwww
502:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:23:12.74:jpDSDOMkO
梓『んでっ! んでっ! んでっ!』
…俗に言う電波ソングという奴なんだろうか。
妙なインパクトを持っていた。
妙なインパクトを持っていた。
がちゃり
ドアが開き、店員がドリンクを持ってきた。
梓『好きって言ったらジエンドにゃん』
それでも、まったくひるむことなく歌い続ける中野。
逆に、店員の方が仕事を終えると、恥ずかしそうにそそくさと退室していった。
タフすぎる精神力だ…。
逆に、店員の方が仕事を終えると、恥ずかしそうにそそくさと退室していった。
タフすぎる精神力だ…。
―――――――――――――――――――――
梓「…ふぅ」
マイクを置く。
律「いやぁ…梓って、こんな曲も歌うんだな…はは…」
梓「変ですか?」
律「い、いや、別に…」
唯「可愛かったよ、あずにゃん」
澪「店員さん来ても続けられるなんて…すごいな、梓」
503:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:23:36.37:+UZ/pLeq0
梓「ありがとうございます」
梓「………」
俺をじっと見てくる。
朋也「? なんだよ」
梓「なにか感想はないんですか」
朋也「ああ? 俺か?」
梓「はい。一応、参考までに」
朋也「…まぁ、図太いよな、神経がさ」
梓「なんですかそれ! もっと歌唱力とかの方に言及してくださいよっ!」
朋也「いや、俺以外の感想も技術面には触れてなかっただろ」
梓「じゃあ、ヘタだったって言うんですかっ」
朋也「そうは言ってねぇけど…」
唯「あずにゃんは可愛ければそれでいいんだよ。深く考えちゃだめだってぇ」
朋也「ああ、そうだそうだ。オールオッケーだ」
梓「…なんか投げやり気味で気に食わないです…」
504:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:24:49.70:jpDSDOMkO
律「つっかさ、岡崎、あんた曲入れないの?」
朋也「ああ、俺は別にいいよ」
唯「ええ~、歌ってよ、岡崎くんも」
朋也「さっきだんご大家族一緒に歌ったからもう満足だよ」
唯「あれは私のでしょ~」
梓「きっと、ヘタクソだから、恥かかないように逃げてるんですよ」
朋也「ああ、まぁ、そんなところだ」
律「澪だって恥ずかしいの我慢して歌ったのに…根性ねぇなぁ。春原よりヘタレかもな、ははっ」
春原「僕を引き合いに出すなっ!」
春原より…ヘタレ? 俺が?
………。
………。
朋也「…リモコン貸してくれ」
律「お、やる気になったか? やっぱ、春原よりヘタレは嫌か」
朋也「当たり前だ」
春原「すげぇ気分悪いんですけどっ!」
俺はアーティスト名で検索した。芳野祐介、と。
505:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:25:17.06:+UZ/pLeq0
一件だけヒットする。あの芳野祐介であることを願ってタッチパネルを押す。
すると、いくつか曲名が表示された。
すると、いくつか曲名が表示された。
朋也(よし…)
その中にお目当ての曲を見つける。
それは、俺が春原の部屋で何度も聴き、そらで歌えるようにまでなっていた曲だった。
決定ボタンを押し、端末に送信する。
それは、俺が春原の部屋で何度も聴き、そらで歌えるようにまでなっていた曲だった。
決定ボタンを押し、端末に送信する。
澪「あ…この曲…芳野さんのだ」
梓「ほんとだ…でも、上手く歌えますかね、岡崎先輩に…」
音楽が鳴り始める。
俺は久しぶりに、怒声ではなく、歌うことを意識した大声を出した。
ところどころ詰まってしまう場面もあったが、それも気にならないくらいに胸がすっとしていた。
芳野祐介の歌は、技術云々じゃなく、ストレートに歌えるから、こんなにも気持ちがいいんだろう。
俺は久しぶりに、怒声ではなく、歌うことを意識した大声を出した。
ところどころ詰まってしまう場面もあったが、それも気にならないくらいに胸がすっとしていた。
芳野祐介の歌は、技術云々じゃなく、ストレートに歌えるから、こんなにも気持ちがいいんだろう。
―――――――――――――――――――――
朋也「…こほん」
マイクの電源を切り、腰を下ろす。
俺は途中から立ち上がり、ガラにもなく熱唱してしまっていた。
俺は途中から立ち上がり、ガラにもなく熱唱してしまっていた。
律「ふぅん、なかなかいいじゃん」
唯「岡崎くんが熱血になってたね。なんか、新鮮だったよ」
朋也「そっかよ…」
506:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:26:32.76:jpDSDOMkO
澪「でも、いいなぁ、男の子は。芳野さんの曲が思いっきり歌えて」
梓「ですよね。それに、ちょっとダサ目の男の人でも、芳野さん効果でかっこよくみえますし」
遠まわしに俺がダサ男だと言っているんだろう、こいつは。
春原「くぅ、岡崎。おまえ、合コン慣れしてるな。こんなタイミングで持ち歌使いやがって」
朋也「一回もしたことねぇよ。つーか、別にベストなタイミングでもないだろ」
春原「ふん、とぼけやがって…まぁいいさ、ここからは僕劇場の始まりだからね」
春原「いくぜっ、ボンバヘッ!~リミックス~だっ」
律「って、また同じ曲かい…」
―――――――――――――――――――――
全員の持ちネタが尽きたところで、カラオケボックスを出た。
外はもう完全に陽も落ち切って、暗くなっていた。
外はもう完全に陽も落ち切って、暗くなっていた。
春原「ん…あー喉痛ぇ…」
律「んんっ…あ゛ー…あたしもだ…」
終盤になると、このふたりが交互に歌うだけになっていたのだ。
喉にかかる負担が大きいのも無理はない。
喉にかかる負担が大きいのも無理はない。
梓「さすがにもうここでお開きですよね」
507:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:27:25.13:+UZ/pLeq0
律「だな。腹も減ったし…帰って飯にしたいしな」
律「はい、解散解散~」
ぱんぱん、と二度手を叩く。
唯「じゃあね」
律「おう、そんじゃな」
澪「また明日」
梓「それでは」
春原「じゃな」
部長、秋山、中野の三人組は、残る俺たちとは別方向の帰路についた。
こちらに背を向けて、話しながら歩いていく。
こちらに背を向けて、話しながら歩いていく。
春原「僕、この辺で晩飯食ってくけど、おまえどうする?」
朋也「俺は適当にコンビニでなんか買ってく」
春原「あっそ。まぁ、なんでもいいけど、僕の部屋、荒らしたりするなよ」
そう言い残し、人込みの中に消えていった。
平沢とふたりだけになる。
平沢とふたりだけになる。
唯「今からまた春原くんの部屋にいくんだ?」
508:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:28:44.85:jpDSDOMkO
朋也「ああ、まぁな」
唯「仲いいよね、ほんとに」
朋也「別に…惰性だよ。それよか、もう暗いしさ…送っていこうか」
それはただの口実で、単にまだ一緒にいたかっただけなのだが。
唯「いいの?」
朋也「ああ」
唯「でも…私、結構重いし…分割発送されたりしないよね?」
朋也「意味がわからん。変なボケはいいから、いくぞ」
唯「うんっ、えへへ」
―――――――――――――――――――――
唯「この辺は、暗いよね。外灯ないし」
朋也「そうだな」
いつも待ち合わせている場所の付近までやってくる。
この後、ひとつ角を曲がれば、それだけで俺の自宅が見える。
この後、ひとつ角を曲がれば、それだけで俺の自宅が見える。
唯「はぐれないように、手つなごっか? なんて…」
朋也「つないでいいのか?」
509:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:29:12.77:+UZ/pLeq0
唯「え? あ…えあ?」
朋也「なんだよ…嫌なら、言うなよ」
唯「い、いや…そういうわけじゃ…まさか、いい返事がくるとは…」
唯「えっと…あの…つないでいこう…か?」
朋也「ああ」
そっと手を伸ばす。向こうからも同じように来て、中間地点で触れ合う。
そして、その手を握った。小さな手から温もりが伝わってくる。
そして、その手を握った。小さな手から温もりが伝わってくる。
唯「手、おっきいね、岡崎くん」
朋也「普通だよ」
唯「そうかな? おっきいと思うけど。なんか、安心できるサイズだよ」
朋也「そっかよ」
唯「うん」
それは…むしろ俺の方だった。
こんなにも心が落ち着いていられるんだから。
サイズ云々の話ではなかったが。
こんなにも心が落ち着いていられるんだから。
サイズ云々の話ではなかったが。
唯「なんか…いいね。朝もこんな感じで行っちゃう?」
朋也「おまえがよければ、いいけど」
510:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:30:27.61:jpDSDOMkO
唯「ほんとに? っていうか、岡崎くん、今日はすごく素直ないい子だよね」
唯「なんかあったの?」
朋也「まぁな」
それが言えればどれだけ楽だろうか。
唯「なに? 教えてよぉ」
朋也「また今度な」
唯「ぶぅ、けちぃ…今教えてくれたっていいじゃん…」
月明かりを頼りに、手をつないで歩く俺たち。
もう、うちの目の前までやって来ていた。
そして、通り過ぎようとした、その時…
もう、うちの目の前までやって来ていた。
そして、通り過ぎようとした、その時…
がらっ
玄関の戸が開く。
そこから出てきたのは、当然、親父だ。
そこから出てきたのは、当然、親父だ。
唯「あ…」
平沢が立ち止まる。
手をつないでいたため、俺もその場に留まることになった。
手をつないでいたため、俺もその場に留まることになった。
親父「ああ…お帰り、朋也くん」
511:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:31:11.01:+UZ/pLeq0
朋也「…ああ」
唯「あの…お久しぶりですっ」
親父「君は…いつかの」
唯「あ、平沢唯です」
親父「ああ、そうだったね。すまないね、すぐに思い出せなくて」
唯「いえ、全然…」
親父「おや…」
つないでいたその手に目がいく。
親父「これは、これは…朋也くんも、ついに…」
吐き気がした。この人にそんなこと、勘ぐられたくもない。
親父「平沢さんは、朋也くんの、そういう人だったんだね」
唯「え? あ…これは、その…」
俺は手に力をこめて、強く握った。
唯「え? 岡崎くん…」
今離してしまえば…俺は耐えられそうになかったから。
この、責め苦のような時間に。
この、責め苦のような時間に。
513:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:32:34.82:jpDSDOMkO
親父「私が言うのもなんだが…朋也くんをお願いするよ」
親父「彼は、真面目で誠実な人柄をしているからね」
親父「きっと、いい友人のような付き合いができると思うから」
親父「私も、そうだからね」
なんて優しい顔で…
なんて、辛いことを言うのだろう、この人は…。
………。
そう…
俺は、それを確かめたくなかったのだ。
親父と俺が、家族ではない、他人同士でいること…。
それは俺と親父だけのゲームなのか…。
ふたりきりの時だけに行われるゲームなのか…。
でも、もし…
第三者も交えて…
そんなゲームが行われたなら…
それはもうゲームなんかじゃない。
現実だ。
なんて、辛いことを言うのだろう、この人は…。
………。
そう…
俺は、それを確かめたくなかったのだ。
親父と俺が、家族ではない、他人同士でいること…。
それは俺と親父だけのゲームなのか…。
ふたりきりの時だけに行われるゲームなのか…。
でも、もし…
第三者も交えて…
そんなゲームが行われたなら…
それはもうゲームなんかじゃない。
現実だ。
親父「それじゃ…もう暗いから、気をつけて帰るんだよ」
唯「あ…はい…」
親父は郵便受けから新聞を取り出すと、それを手に家の中へと戻っていった。
唯「………」
514:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:33:03.63:+UZ/pLeq0
平沢もじっとその様子を見ていた。
朋也「なぁ、平沢…」
朋也「おまえは、喧嘩してても、わかり合えてるならいいって言ってたよな…」
唯「うん…」
朋也「喧嘩すらできないんだよ、俺とあの人は…」
朋也「見ただろ、あの他人のような物言いをさ…」
朋也「あの人の中ではさ…俺は息子じゃないんだ」
朋也「もうずっと前から…」
朋也「自分の中で放棄したままでさ…」
朋也「もう、何年も経ってるんだ…」
唯「………」
朋也「それをさ、時間が解決してくれるのか…?」
朋也「なぁ、平沢…」
朋也「なんとか言ってくれよ…」
唯「………」
515:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:34:18.27:jpDSDOMkO
唯「ごめんなさい…」
唯「事情も知らないで…軽率だったよね…」
違う…
謝って欲しくなんてないんだ、俺は…。
支えて欲しいんだ。
今、崩れそうな俺を支えて欲しいんだ。
謝って欲しくなんてないんだ、俺は…。
支えて欲しいんだ。
今、崩れそうな俺を支えて欲しいんだ。
唯「岡崎くん…」
俺の腰に手を回してくる。
正面から優しく抱きしめてくれていた。
正面から優しく抱きしめてくれていた。
唯「こんなことしか、私にはしてあげられないよ…」
朋也「…十分だよ」
俺も平沢を抱きしめた。
朋也「なぁ、平沢…俺、おまえのことが好きだよ」
朋也「それも、ひとりの女の子としてだ。言ってる意味、わかるか?」
こんな時に言うのも卑怯な気がしたが…もう抑えることができなかった。
そばにいて欲しかった。
誰かに後ろ指をさされることになっても…それでも、俺はこいつと一緒に居たい。
そばにいて欲しかった。
誰かに後ろ指をさされることになっても…それでも、俺はこいつと一緒に居たい。
唯「…うん、わかるよ」
516:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:34:38.41:+UZ/pLeq0
朋也「じゃあさ、言うよ……俺の彼女になってくれないか」
唯「…いいの? 本当に私で…」
朋也「おまえじゃなきゃ、嫌だ」
唯「…うれしいよ…すごく…」
唯「私…私もね…岡崎くんのこと、ずっと好きだった気がする…」
唯「岡崎くんがね、澪ちゃんとか、あずにゃんとか、憂とかと仲良くしてたでしょ?」
唯「それって、すごくいいことなのに…私、あんまり見てたくなかったんだ」
唯「これって、嫉妬だよね…最低だよね、私…」
朋也「そんなことない。俺は、嬉しいよ。それだけおまえに想われてたってことがさ」
唯「………」
517:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/26(日) 05:35:53.60:jpDSDOMkO
朋也「おまえが、俺のことを好きでいてくれたなら…俺も、それに応えたい」
朋也「ずっと好きでいてくれるように、頑張り続けるよ」
唯「そんな…私だって、頑張るよ。頑張りたいよ」
朋也「そっか。じゃあ、平沢…頷いてくれ、俺の問いかけに」
いつかまったく同じセリフを言ったことがある。
みんなで王様ゲームをやっていた時だ。
あんな遊びでやったことが、実現する日がくるなんて…誰が予想できたろうか。
みんなで王様ゲームをやっていた時だ。
あんな遊びでやったことが、実現する日がくるなんて…誰が予想できたろうか。
唯「………」
朋也「俺の彼女になってくれ」
ここまでも、まったく同じ流れ。
平沢もわかっているだろうか。
なら、最後には…
平沢もわかっているだろうか。
なら、最後には…
「よろしくお願いします…」
俺の胸の中で、そう小さな声が聞えてきた。
―――――――――――――――――――――