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何を考えているのなんて

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何を考えているのなんて

仲間なんていらないと思っていた。
自分だけでこの芸能界を生きていけばいいって。
誰かに頼るなんてしたくない。

大人の人は自分たちの事だけしか考えていない。
同じ事務所の人はみんなライバルだ。
蹴落とさないと生き残る事なんてできない。
そう言う風に思わされて、自分も思ってしまっていたから。

それはアイドルだって同じだと思っていた。
アイドルをしないかと言われたあの日だってそうだ。
同じプロダクションにいる人皆が敵だって。
誰一人味方はいない中でどれだけ自分を売り出せばいいかを見つけ出すのが必要だと。

ずっと自分はこのままでいいと思っていた。
変わる必要はないから。
少なくとも、この芸能界から去るまでは。


「あの……桃子ちゃん」


その意識が変わったのは、いつだったか覚えていない。
だけど、うっすらと覚えている。
あの子が――――中谷育が私に挨拶の時以外で初めて話しかけてきた時だった。
最初の挨拶の時に冷たい態度を取ったから避けられると思っていたのだが、予想が外れた。

「なに……桃子、もうちょっとで仕事だから忙しいんだけど」

実際の話、もう少しで仕事と言うのは本当だった。
お兄ちゃんがまだ来ていないから仕事に迎えていないのである。
他の人の仕事というのもあるけれど、桃子を待たせるのはいい度胸していると思う。
……まぁ、50人のアイドルを兼任でプロデューサーやってたらそうなるのも仕方ないかもだけど。
桃子だって流石にそれがどれだけ難しいかくらいは知っている。
律子さんや小鳥さんが手伝っているとはいえそれでも3人だ。

本当、ここの管理形態はどうなっているのか。
ブラック企業と言われても仕方ないレベルだよね。
アイドルに対してじゃなくて管理職に対してのブラック度合いが強いだけで桃子たちに対しては甘いけど。

「えっと……その……」
「何もないなら行くよ、そろそろお兄ちゃんが来るはずだし」

何かあるにしても、自分の事の方が優先すべきである。
桃子はアイドル……つまるところプロであり、育もプロである。
見習いであろうともなんだろうとも、同じプロダクションであろうとも『敵』なのだ。
それがプロってものだと、少なくとも桃子は信じているから。
他の皆が和気藹々としているのを見ると、本当平和なプロダクションだと思う。

「ま、待って桃子ちゃん!」
「……だから何? 桃子は忙しいって言ってるよね、貴方もレッスンしたらいいんじゃない?
 だってプロなんだから、それくらいはした方がいいよ」
「も、桃子ちゃんに……その……」

「演技の練習を、見てもらいたいの!」

「……はい?」

一体何を言っているのかわからなかった。
何故そんな事をわざわざ桃子に聞くのか。
演技のレッスンを担当している人にでも聞けばいいのに。
そこでわざわざ桃子から聞く理由がわからない。

「なんで桃子に聞くのかわからないんだけど、他の人やトレーナーさんじゃダメなの?」

他人の得意な場所だけを見て奪っていこうとでも考えているのだろうか。
確かにそれならトレーナーさんだけに教わるだけではどんぐりの背比べにしかならない。
ある意味他の人に比べたら、この子はプロ意識があるのだろう。

なんて、思っていたら。


「その……桃子ちゃんの演技が、凄かったなって思ったから……」


えへへ、と笑いながらそんな事を言った。
少なくとも自分には……それが彼女の『演技』になんて見えなかった。
とても暖かい声が、嘘とは思えなかった。
心の底から、『周防桃子』に憧れてくれている。


こんな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。
演技が上手くなって言って、褒められた時以来だろうか。

「……もう、仕方ないな……そこまで遅くならないはずだし、帰ってくるまで待ってて。
 そしたら桃子が直々に教えてあげるから」

その時初めて、『周防桃子』という殻が一つ、壊せた気がした。



     ◆            ◆

放送まで時間は十数分と言った所だった。
真美さんと合流してから一番近い施設で放送を迎えるためにとキャンプ場についた時の話である。
キャンプ場のコテージに入った瞬間感じたのは、惨状というのか……それに近い感覚であった。


「……なにこれ」


曲がったパイプ椅子が地面に不自然に転がっている。
他は一切異常な場所はないと言うのに。
まるで一か所だけ殺人現場が製造されたような気味の悪さである。

「これは……何かの暗号が隠されたりしているのでしょうか? ……ワクワクする、ぞ」
「ワクワクしないよ~! どう見たって殺人現場って奴だよみずきん!!」

殺人現場なら血が飛び散っていそうではある、とは思ったが言わないでおく。
だが、この状態は間違いなく普通とは言えない。
最初からこうだったという可能性は否めないが、それにしては悪趣味にもほどがある。
もしこれが最初から出なければ、ここで誰かが争ったのだろう。

「……近くに誰かいるのかな」

だが近くに誰かがいるとして、少なくとも1人は戦う気がある人である事はこの現場から確認できる。
殺し合いに乗っていなければこんなへこんだ椅子が地面に転がっていることはありえない。
誰かが勘違いで殴りかかってしまいその後ここをこのまま椅子を放置した、という可能性もあるにはある。
殴った人がパニックになって逃げて、殴られた人は追いかけて行った為放置、といった具合に。

しかしそれ以外の場合は確実に誰かが争いを起こしている。
というより、まず誰かが進んで争いを起こしたと考えていい。
万が一誰も殺し合いに乗っていないならばそれは好ましいが、とてつもなく日和っている思考だ。

そう、これは『敵』がどこかにいるという事にもなる。
ふと視線が自分のポケットの方に向く。
いつか、これを使う時が来るのかと思うと少し気分が悪くなる。
それもある意味仕方ないとは思うが、それでも誰かを傷つけるのは誰が相手でも気分が悪い。
知らない襲い掛かってきた変な人ならまだしも、この場においては相手は自分の仲間しかいない。

「あーもー、怖くなってきて真美の喉がからっからだよー……それにお腹すいてきたしー」
「そういえば……もうすぐお昼でしたね……私も少しお腹が空いた……ぞ」
「とりあえず放送ももうすぐだし、ここで少し休憩でもいいんじゃないのかな」

だが、今この場でそんな事は言わない。
誰が『敵』で誰が『味方』かわからない。
そんな中で思っていることを簡単に言ってはいけない。

そう思うと、あの時を思い出す。
子役時代――――誰も味方がいないと思っていたあの時。
少しでも心を許せば蹴落とされる世界である。

「よーし! 真美準備してくるよー!」
「私も手伝います……頑張る、ぞ」

……まぁ、今のこの場面を見てそうには思えなくはなってきたが。
本当に殺し合いの場に来てしまったのかと思うほど平和である。
ピクニック気分でお昼ご飯の準備をする、というのがね。
二人とも私より年上だというのに、子供っぽい気がする。

「……本当」

この殺し合いが嘘でした、だったらどれだけ良かったか。
なんて、そんな事を思ってしまう。

と、その瞬間だった。

ぴーんぽーんぱーんぽーん。

なんて、そんな腑抜けたような音が流れる。
それが何を意味をするか、すぐに理解した。
間もなく、この殺し合いが開始してから……6時間経過となる。



     ◆            ◆



『――――――――ただ今より、第一回定時放送を開始します』

流れてきたのは間違いなく、プロデューサーの声でした。
その声に少し安心感のようなものを覚え、同時に悲しみのようなものが胸に残りました。
自分の事なのに、自分の気持ちがわからなくて。
少し、微妙な気分でした。

『それでは、まずは開始からここまでの死者の発表を行います』

時間が止まってほしい……そう思ったのは初めてかもしれません。
一緒にやってきた仲間が、死んだという事を告げられるのだから。
上手く表情に出せないとは言っても、悲しいものは悲しい。

名前が、一定間隔で呼ばれる。
天海さん、菊地さん、横山さん、矢吹さん。
みんな明るく、真っ直ぐにアイドルを楽しんでいた人たちだ。

「…………」

誰一人喋らない。
仕方がないとはいえ、空気が重い。
そのまま、無機質に名前が呼ばれ続ける。

百瀬莉緒

その名前に少し動揺してしまいました。
最初のライブの時に、水瀬さんとエミリーさんと共にステージに上がった人でした。
一番年齢が上で、場を盛り上げてくれた……すごく素敵な人で。
私にとって色々なきっかけを作ってくれた人……。
そんな百瀬さんが、もうこの世にはいない。

悲しくないわけが、ありません。
特に思い入れが深い人であるとなれば、尚更です。

その後もどんどんと、無機質的に名前が呼ばれます。
野々原さん、二階堂さん、ジュリアさん、宮尾さん……。
誰もが、誰かに殺された……。
そう思うと、怖いと言う気分と共に悲しみが生まれてきます。

ここは殺し合いという場だという事実を目の前に叩きつけられるようでした。
まだ名前が呼ばれるのか、そう思いながら流れてくる声が耳に入ってくる。


『中谷育』


その瞬間……ひとつ、何かが壊れるような音がした気が……したんです。



     ◆            ◆



「……」

放送終了後も、誰もが無言だった。
私だって同じだ。
この6時間ですでに12人が死んでしまっている。
それだけで十分辛いと言うのにだ。

「……あの、周防さん……その」

一番最初に声をかけてきたのは瑞希さんだった。
大方自分の事を心配しているのだろう。
中谷育が死んだ、その事をきっと彼女は気にかけているのだろう。

「大丈夫だよ……覚悟はしていた事だし」

だが、そんなこと予想はしていた。
あの子は狙われればすぐに死ぬくらいに弱い。
私が言えたことではないが、誰かに守られてなければいけない子なのだ。

死んだとしても仕方がない。
守ってあげれなかったという点では悔しいが、仕方がない。
これも運命だと諦める。
それしか、今出来る事はない。

「……ちょっとトイレ行ってくるね、先にご飯食べてていいよ」

席を立ち外に出る。
トイレが受付にないと言うのも不便だが、キャンプ場ならば仕方がないのか。
そんな事を思いながら、トイレの前に立った。


……いや、別にトイレに行きたかったわけではないのだが何故ここにまで来てしまったのか。
ただあの雰囲気が嫌だったから。
育が死んだから、同情の目で見られるような気分になるのが嫌だったから。
だからこそあそこから出て逃げてきたのだが。
別にトイレに来る必要はないのだ。
適当にそこら辺を歩いて気分を少し軽くするとかでもよかった。

「……はぁ」

一体なぜここまで桃子を気にするというのか。
瑞希さんだって、莉緒さんの時に少し反応したのは見えた。
真美さんだって、名前が呼ばれるたびに色々考えてるような顔をしてたのに。
自分自身の事で精いっぱいなはずなのに、なんで私の事を気にするのか。

「……ほんとさ……バカだよね……みんな」

私は他人の事を気にして足元を掬われた人を何人を知っている。
だから仕方ないと割り切ったり、自分の事だけにだけ目を向けていた。
なのに、2人とも私の事を気にしていた。

「……本当に、さ……」

本当に甘い、甘すぎる。
自分たちだって不安だって言うのに、人の心配をして。
他人の心配をしていたら蹴落とされるかもしれないのに。

「あれ……?」

視界がふっと、ぼやける。
焦って手で目をこする。
その時、手の甲に液体のようなものの感触があった。
もしかして今自分は――――。

「……違う」

そんな事あるわけがない。
私が、泣いていたなんて。
そんな事があるはずがない。
そんな事、あっていいわけがない。
弱みを見せたくない、普段通りの『周防桃子』でいないといけない。
だから、泣くなんてありえない。
急いでトイレの横に置いてある水場で顔を洗う。
顔にあたる水が、とても冷たかった。

顔を洗い終わり、水を止める。
ぽたぽたと水場に水が零れ落ちる。

そこでタオルがないことに気付いた。
だが荷物は何一つ持ってきていない。
近くを探しても何一つ拭くようなものもない。

「……あの」

と、そこで後ろから声が聞こえてきた。
何かと思い、とっさに振り返る。

「って、瑞希さん……なにしてるの」
「いえ……その、えっと……なんとなくついていこうと思ったんです」
「答えになってないんだけど……で、何か用なの?」
「顔を洗っていて何か拭くものを探していたようですので……タオルをどうぞ……フカフカだぞ」

そもそもとしてずっと背後にいたという点に色々つっこまなくてはいけない気はするのだが。
瑞希さんにそれを言ってもどうせ無駄だろうという思いの方が強くなってくる。
本当に何を考えているのかわからない人だ。

まぁ、それでもこれでタオルを受け取らない理由にはならない。
むしろここで断ってそのままにする理由がない。
少し礼を言ってからタオルを受け取る。

「……ありがと、それじゃあ戻ろうか」

タオルを瑞希さんに渡して、戻ろうとする。
……その瞬間だった。
左手を掴まれた。

「何? 急いで戻ってご飯食べた方が良いよ」
「……その、周防さん……1つお聞きしていいでしょうか」
「だから何? 真美さん待ってるよ」

振り払おうとすると、更に力強く握られる。
だが、瑞希さんは一向に喋らない。

「……瑞希さん、話があるならご飯を食べながら聞くからさ……行こう?」

流石に真美さんをこれ以上待たせるわけにはいかない。
瑞希さんの手を振り払って真美さんが待っているコテージに歩き出す。



     ◆            ◆



「ごちそーさまだよー!」
「ごちそうさま……」
「ご馳走様でした」

食事を終わらせて、ここを出発する準備をする事にしました。
このままここにいても何も始まらない……そう思ったのですが。

「…………むむ」

つい声に出してしまうほど、今の状況が悩ましいのです。
放送終了後から……何かがおかしい。
いいえ、おかしい……その原因はわかっています。
周防さん……彼女が、間違いなくおかしくなっている。

気のせいならばそれでいいんです。
でも、私には……どうも引っかかります。
周防さんが……何かを隠しているような気がするのです。

確証はありません……でもおかしいんです。
放送が終わってから、周防さんから……恐怖心のようなものが感じれなくなりました。
心が読み取れるわけではないので正確になくなったのかなんて、わかりません……当然です。

でも、放送の前……少しは震えていた体に、震えがなくなっていました。
それも……中谷さんが死んだと聞いてからです。

「……どうしたの、瑞希さん」
「いえ……何でもありません、大丈夫です」

でも、これは簡単に触れていい問題ではない気がします。
周防さん自身何かあったのは間違いないでしょう。
けれど、自分が簡単に触れていい事かなんて……わかりません。
だから今は信じて彼女を見ておいてあげるしかありません。

「ももーんにみずきん! おまたー! 真美準備完了だよー!」
「準備完了だよじゃなくてもっと早く準備しておいてよ……」

とりあえず、今は保留しておきましょう。

目の前に迫っている事をやらないといけませんから。
あの放送について考える事も色々あります。
周防さんの様子についてもどうにかしないといけません。

でも今は……誰か他の人を探すことが最初です。
もう12人も死んでしまっているんです。
早くしなければ、もっと死んでしまうかもしれない。

焦っている……んでしょうね。
でも、少しでも早く皆を探さないと最悪の事態になるかもしれません。
私たち以外殺し合いに乗ってしまった人しかいなくなったら、最悪以外の何物でもありません。

「それでは、出発しましょう……れっつごー」

不安と焦燥を抱えながら、出発です。

【一日目/日中/E-5キャンプ場】

真壁瑞希
[状態]健康
[装備]金鎚
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:皆で帰るぞ……えいえいおう
1:周防さんと一緒に他の人を探す
2:とりあえず、北からは離れる。でも本当は止めたい
3:周防さんがおかしい……気のせいなら、いいのですが

【周防桃子】
[状態]健康?
[装備] プラスドライバー
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:死にたくない
1:瑞希さん達と一緒に行く
2:『敵』と出会ったなら、躊躇はしない

双海真美
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:死にたくない。でも人は殺さない
1:二人と一緒に行動する
2:亜美ー!どこー!?
3:静香お姉ちゃんとミキミキには気をつける。できれば会いたくない








――――彼女はまた、殻にこもる。

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 周防桃子 
 双海真美 


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