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IT'S "YOU" IT'S "YOU"

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IT'S "YOU" IT'S "YOU"

「ああああっ、やあぁぁっ……!」

道ならざる道を、少女は走る。

絶望の表情を浮かべ、体中は鈍痛に悲鳴を上げ、彼女自身も錯乱し、あたりも気にせず騒ぎ散らす。

傍から見れば、それはとても痛々しい。けれど、それを見る誰かはここにはいない。

彼女――ロコは一人、何かから逃げるように。ずっと、ずっと。

走り続けていた。




けれど、それもずっとは続かない。

「……っうわぁっ!?」


崖の下、当然整地などされていない中、むき出しの木の根に足を引っ掛けて、転ぶ。
受け身を取る余裕すらなくて、彼女の小さな体は地面に音を立てて滑った。
その痛みに彼女は顔をゆがめ、擦った体の部分からはじんわりと血がにじむ。


「……っ、えぐっ、ひぐっ……うわぁぁ……!」

うつ伏せになって、彼女は顔を伏せて子供のように泣きじゃくる。
体中痛いし、頭も痛いし、もうわけがわからない。ロコは今、何もかもがぼろぼろだった。
死ぬことへの恐怖、仲間だったものへの恐怖、自分が誰かを殺してしまった恐怖。
それらを思い出してしまったがばかりに、さっきまで目を背けていたものが、一斉に彼女に襲い掛かってくる。
15歳の少女が背負うには、あまりにも重たい、罪の数々。

動きを止めて、涙を堪えようと、目をつむって。
その瞼の裏に映るのは、かつて仲間だった少女、伊吹翼の、ついさっき見た変わり果てた姿。
あまりにも痛々しく、素人目から見ても助かる見込みはなく。
それでも彼女は死にたくない、助けてくれと。すがるようにロコを見ていた。
どうしようもなかったから、そこから目を背けるように逃げた。
ずっと逃げ続けて、それでも脳裏に焼き付いたその姿は消えやしない。

そして、それを引き起こしたのは他でもないロコ自身。
彼女はもう、既に2人も"殺した"。その言葉が強調されて、頭の中に響き渡る。
自分のせいじゃない、なんて。そうやって自分に言い訳をしようと思ってみても、自分の心は騙せない。

そうして心の中で負の感情が渦を巻いて、どうにもならなくなって。


ぴーんぽーんぱーんぽーん。

「……っ!?」

彼女の耳に、機械音が届いた。
それが何か分からなかったロコは、びくりと顔を上げて、何事かとあたりを見渡す。
何だったのか、というのはすぐに分かった。



『ただ今より、第一回定時放送を開始します』


「…ぷろでゅー、さー…?」

どこからか聞こえた声は、とても馴染みのあるものだった。
ロコがアイドルとなってから、幾度となく聞いた、男の人の声。

『この放送では、放送間で死亡した者の名前を挙げ、そして、進入禁止となるエリアの発表を行います』

でも、違う。
声は同じ、だけど、その言葉は淡々とした他人行儀なもので、全然違う。
ロコの知っている、あの人の言葉じゃない。
あの、優しい声じゃない。


「ぷろでゅーさぁ……っ!」

それでも、その声を聴いたロコjは、ボロボロと涙をこぼし始めていた。


『ここで上げた情報は、放送終了後に携帯端末に送信されます』
「やだ、もうやですっ! 助けて、助けてプロデューサー……!」

別人のように話し続ける、彼の言葉を否定するように、ロコは何かが壊れたかのように弱音を吐きだしていく。
彼からすべてが始まってしまった、本来なら、憎むべきなのかもしれない。
けれど、ロコは尊敬していた、一種の愛情さえあった相手を一転し憎める程、器用なんかじゃない。
ただ、このどうしようもない状況から、救い出してほしい。それだけ。

『それでは、まずは開始からここまでの死者の発表を行います』

もう、自分で何かする事もできやしない。
立ち上がる事さえ、辛い。
誰か、手を差し伸べて。大丈夫だよ、と。言ってほしい。
ここにはロコ以外に、49人もいるんだから。きっと、1人ぐらいはいる筈だ。

「助けて、ぇ………」

疲弊した頭をフル回転させて、助けてくれそうな人を探し出す。
本当なら、沢山……それこそ、全員の筈なのに。
それなのに、全然確信が持てない。むしろ、この心は決めつけてしまう。
皆、殺し合いに乗っているんだって。

「……チヅル、っ!」

けれど、ロコは1人の名前を叫んでまた顔をあげた。
そう、彼女だ。不器用で大人げないけど、優しかった大人だった、仲間。
千鶴なら、こんな状況でも、きっと助けてくれる。
もしも今ここにいたなら、ここで泥だらけ、傷だらけになったロコの事を、心配して駆け寄ってくれる。





そう、思った矢先。無常にも、名前は読み上げられた。

「……ぇ、あれ」

ぴたりと、動きが止まった。
名前が読まれたとは、どういう事か。それを知らない、わけがない。
じわじわと、理解してしまう。


あんな、いっつも人の名前を間違えてからかう憎まれ口が。
あんな、たまに心配して気遣ってくれる姿が。
あんな、一緒にステージに立つ時の力強い表情が。


もう、ない?


「あ、ぁ……」

声が、震える。
ぼやけて見えた、彼女が自分に手を差し伸べてくれる幻想。
でも、それは最早叶う事はない。
希望はすぐに、あっさりと折られた。

みんな、殺し合いに乗ってる。
助けてくれる人は、死んでしまう。
縋る先もない、今の彼女にはあまりにも非情な現実。
もう、何もかもがいやになった。

「やだ……もう………ゃ……」

こわい。
誰にも会いたくない。
けれど、助けてほしい。
そんな矛盾だらけの、わがままな願い。
叶うわけがない、気持ち。

「…ぐずっ、えぐ…ひっ、うぅ……!」

気付けば、もう放送は終わっていた。
あたりはまた、静寂に包まれていて。それがより、自身の孤独を引き立たせる。
また、涙があふれ出していた。嗚咽をもらしていた。体が、震えていた。

痛い、辛い、悲しい、苦しい、気持ち悪い。
だんだんと、なにもかもがひどくなってく。
ロコは、自分を見失いつつあった。

何をするのが、正しいのか。何をすれば、これは終わってくれるのか。
どうしれば、この心は、体は。救われるのか。
分からない。わからない、わかんない………。



『この殺し合いは最後の1人になるまで終わらない』

『それだけが―――

 ――元の場所に帰れる、唯一の手段だ』


「………!」

その言葉は、誰がどこで言ったものだったか。
…そうだ。プロデューサーだ。他でもない、彼自身が言っていた。
答えは、もう"そこ"にあったんだ。

ただ、彼女がそこに踏み出せなかったのは、自制心があったから。
けれど、弱り切った彼女にはもう、そんなのを気にする余裕すらない。
さっきは、目の前に敵がいたから、勢いに任せて行ったけれど。
今は、ロコ以外に誰もいない。冷静に、淡々と。誰にも邪魔されずに考えられる。




――――――もし、殺して、殺して。
最後の1人に、なれたなら。

あんな事務的な声じゃない、本当の"あなた"の声が聞けるかな。


また、どこかで笑ってくれるかな。

また、どこかで怒ってくれるかな。


「ちゃんとできたら……………また、褒めてくれますか……?」



その瞬間、ロコの中で何かがぷちりと切れた。

「…………っ」


さっきまでの錯乱が嘘のように、ロコは静かに、立ち上がる。
腕で目をこすり、前を見据える彼女の目に……もう、迷いはない。


相手が襲ってくるから、自衛の為に戦う……そうじゃ、ない。
そんな大義名分は、もう、必要ない。

ただ一つ、心に抱いた理由。
自分自身の、為。
もう一度、大切な人に会うために。


貴方のために。


「みんな……ロコがやっちゃえば、いいんですよね?」


そう呟いたロコは、ここではないどこかへ、消えて行った。




【一日目/日中/E-4(少なくとも道の上ではない)】

伴田路子
[状態]右腕に傷、全身に擦り傷と打撲、過度なストレスによる精神的疲労
[装備] なし
[所持品]支給品一式、MkⅡ手榴弾(残4個)ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:最後の一人になって、生き残る。プロデューサーに褒めてもらう
1:とりあえず、どこかに移動する

(放送中にひどく錯乱していた為、放送をまともに聞けていない可能性があります)

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