三つのお願い
願いを三つ叶えてくれる不思議なコイン。
それを拾うは一人の少女。
それを拾うは一人の少女。
一つ、少女は暖気を願った。
二つ、少女は絶交を願った。
三つ、少女は友情を願った。
二つ、少女は絶交を願った。
三つ、少女は友情を願った。
◇ ◇ ◇
ここはとある島に設置されているゲームセンター。
店内では音楽ゲームやビデオゲームなど、多種多様なアーケードマシンが煌びやかに輝いている。
そんな賑やかな空間の中、一台のマシンの前で佇む少女が一人。
店内では音楽ゲームやビデオゲームなど、多種多様なアーケードマシンが煌びやかに輝いている。
そんな賑やかな空間の中、一台のマシンの前で佇む少女が一人。
橙色のショートヘアーに飴玉を連想させる髪留めが特徴的なアイドル、矢吹可奈だ。
彼女はUFOキャッチャーの中で積み上げられているぬいぐるみたちを眺めていた。
ヤキニクマンにぴにゃこら太、ピタゴラスさんといった大衆に人気のキャラクターを模したぬいぐるみが無数に散乱している。
そんな中、可奈の目を惹きつけて離さないのは、何の変哲もない真っ黒な猫のぬいぐるみだ。
否応が無しに思い出してしまう。ぬいぐるみを愛し、猫のように気難しい気性の持ち主である友人のことを。
彼女はUFOキャッチャーの中で積み上げられているぬいぐるみたちを眺めていた。
ヤキニクマンにぴにゃこら太、ピタゴラスさんといった大衆に人気のキャラクターを模したぬいぐるみが無数に散乱している。
そんな中、可奈の目を惹きつけて離さないのは、何の変哲もない真っ黒な猫のぬいぐるみだ。
否応が無しに思い出してしまう。ぬいぐるみを愛し、猫のように気難しい気性の持ち主である友人のことを。
「志保ちゃん、どこにいるのかな……」
「私を呼んだかしら?」
「えっ?」
「えっ?」
可奈が最も待ち望んでいた声が聞こえた。
たった今想起していた、彼女のかけがえのない親友、北沢志保の声が。
思いがけない幸運に喜びの色を隠そうともせず、可奈は振り返る。
親友と再び巡りあえた喜びを分かち合う為に……。
たった今想起していた、彼女のかけがえのない親友、北沢志保の声が。
思いがけない幸運に喜びの色を隠そうともせず、可奈は振り返る。
親友と再び巡りあえた喜びを分かち合う為に……。
可奈の目に映ったのは愛しい友の顔ではなく、漆黒に輝く銃口だった。
◆ ◆ ◆
数刻前、私は次にどこを目指すべきか思案していた。
周辺の施設ならゲームセンターかショッピングセンターが近い。
人が集まるのは間違いなくショッピングセンターの方だろう。
他の参加者が物資を求めて立ち寄ることは容易に想像できる。そこを一網打尽にすることができれば理想的だ。
だがあまりにも多くの人間が集まってしまった場合、それは獲物ではなく脅威となる。
数は力だ。個々の能力は低くとも、徒党を組んで抵抗されれば無傷では済まないだろう。
周辺の施設ならゲームセンターかショッピングセンターが近い。
人が集まるのは間違いなくショッピングセンターの方だろう。
他の参加者が物資を求めて立ち寄ることは容易に想像できる。そこを一網打尽にすることができれば理想的だ。
だがあまりにも多くの人間が集まってしまった場合、それは獲物ではなく脅威となる。
数は力だ。個々の能力は低くとも、徒党を組んで抵抗されれば無傷では済まないだろう。
そこであえてゲームセンターに向かうことにした。
ゲームセンターに立て篭もるような物好きは恐らく、戦意を失い、事が過ぎるまで隠れていようと画策する脆弱な存在だろう。
複数の人間がいるとしてもせいぜい二、三人。その程度の人数であれば、訓練を受けた私なら撃破は容易い。
まずは確実に人数を減らす――
ゲームセンターに立て篭もるような物好きは恐らく、戦意を失い、事が過ぎるまで隠れていようと画策する脆弱な存在だろう。
複数の人間がいるとしてもせいぜい二、三人。その程度の人数であれば、訓練を受けた私なら撃破は容易い。
まずは確実に人数を減らす――
だがその思惑が裏目に出るとは……。
ある意味最も会いたくない人物と出会ってしまった。
ある意味最も会いたくない人物と出会ってしまった。
仲間を一人殺めた時点でどんな受難も受け入れる覚悟はできていた。
だが今回ばかりは相手が悪い。自分の不運を恨めしく思う。
だが今回ばかりは相手が悪い。自分の不運を恨めしく思う。
「志保ちゃん……どういうこと……?」
「見ての通りよ」
「見ての通りよ」
殺意を向けてはいるが、実際のところ可奈が逃げるようなら深追いする気はなかった。
臆病な彼女のことだ、銃を突きつけてやれば泣いて逃げ出すだろう。
修羅に堕ちたとはいえ、まだ可奈を何の躊躇もなく手にかけられるほど非情にはなりきれていない。
出来ることならこのままいなくなって欲しい。もう二度と私の醜い姿を見られないように……。
臆病な彼女のことだ、銃を突きつけてやれば泣いて逃げ出すだろう。
修羅に堕ちたとはいえ、まだ可奈を何の躊躇もなく手にかけられるほど非情にはなりきれていない。
出来ることならこのままいなくなって欲しい。もう二度と私の醜い姿を見られないように……。
「あはは、そっか、そうなんだ……」
なのに可奈は――
「いいよ、志保ちゃん。私のこと、撃って……」
◆ ◆ ◆
もう限界だった。
大好きなプロデューサーに見捨てられ、無二の親友にも銃を向けられ、可奈の心はズタズタに引き裂かれていた。
大好きなプロデューサーに見捨てられ、無二の親友にも銃を向けられ、可奈の心はズタズタに引き裂かれていた。
どんなに失敗しても怒らずに励ましてくれて、何かにつけて面倒を見てくれたプロデューサー。
共に何度も仕事をし、ぶつかり合い、そして絆を深めていった最高のパートナー、北沢志保。
だが可奈の知る二人はもういない。
何の因果か二人は人の命を弄ぶ悪鬼と化し、遠い存在となってしまった。
孤独の中でも気丈に振舞い、困難に立ち向かえるほど可奈は強い少女ではない。
彼女を支配した感情は『諦念』だった。
共に何度も仕事をし、ぶつかり合い、そして絆を深めていった最高のパートナー、北沢志保。
だが可奈の知る二人はもういない。
何の因果か二人は人の命を弄ぶ悪鬼と化し、遠い存在となってしまった。
孤独の中でも気丈に振舞い、困難に立ち向かえるほど可奈は強い少女ではない。
彼女を支配した感情は『諦念』だった。
「意外ね。あなたなら何かしら抵抗するものだと思っていたのだけれど」
「いつもならそうしてたかもしれないけど……なんか、疲れちゃった」
「いつもならそうしてたかもしれないけど……なんか、疲れちゃった」
志保の手によってこの苦しみから解放して貰えるならそれでもいい。可奈はそう思っていた。
「あ、でもね、二つ、いや、三つだけお願いがあるんだ」
全てを諦めた彼女だが、どうしても聞き届けてもらいたい頼みがあった。その旨を志保に伝える。
正真正銘、一生のお願い……。
正真正銘、一生のお願い……。
「いいわ、聞いてあげる」
「ありがと、志保ちゃん。じゃあ、まず一つ目。……死ぬときはあんまり痛くしないで欲しいの」
「それは痛みを感じる間もなく殺して欲しい、ってことかしら?」
「そうなるかなぁ。だって痛いのは怖いもん……」
「ありがと、志保ちゃん。じゃあ、まず一つ目。……死ぬときはあんまり痛くしないで欲しいの」
「それは痛みを感じる間もなく殺して欲しい、ってことかしら?」
「そうなるかなぁ。だって痛いのは怖いもん……」
志保は狐につままれたような顔をしている。
どんな大層なことを言い出すのかと思いきや、あまりにもちっぽけな願いだったので拍子抜けしてしまったのだ。
今際の際でも可奈らしいな、と内心微笑ましくも思っていた。
どんな大層なことを言い出すのかと思いきや、あまりにもちっぽけな願いだったので拍子抜けしてしまったのだ。
今際の際でも可奈らしいな、と内心微笑ましくも思っていた。
「わかった、出来るだけ楽に逝かせてあげるわ。保障はできないけど」
「そっか、なら安心だね」
「そっか、なら安心だね」
「それじゃあ、二つ目。私の最後の歌、聞いてくれないかな」
歌。それは矢吹可奈を構成する要素の中で最も多くの部分を占めているもの。
彼女がアイドルを目指すようになったのも、歌の素晴らしさを教えてくれたアイドルに少しでも近づく為。
お世辞にも上手いとは言えないが、歌を愛する気持ちなら誰にも負けていないだろう。
彼女がアイドルを目指すようになったのも、歌の素晴らしさを教えてくれたアイドルに少しでも近づく為。
お世辞にも上手いとは言えないが、歌を愛する気持ちなら誰にも負けていないだろう。
「聞かせてちょうだい」
志保も純粋に聞き届けたかった。可奈がこの世に遺す最期の歌を。
「えへ、なんか緊張しちゃうな……。それでは、矢吹可奈、歌います。聞いてください」
――――Thank you for 届け ありったけのステージ
彼女が選んだ曲は『Thank you!』だった。
765プロの劇場を代表するメインテーマ。
かつてプロデューサーへのプレゼントとして披露したこともある、可奈にとって思い入れのある歌だ。
765プロの劇場を代表するメインテーマ。
かつてプロデューサーへのプレゼントとして披露したこともある、可奈にとって思い入れのある歌だ。
楽しかった日々はもう帰って来ない。
ならば歌おう。素敵な時間と仲間に巡りあわせてくれたことに感謝を込めて。
ならば歌おう。素敵な時間と仲間に巡りあわせてくれたことに感謝を込めて。
――――涙ふいて 笑顔咲かそう 輝く時間をありがとう
「ど、どうだった……?」
恐る恐る訊ねる。
「まあ、悪くなかったんじゃないかしら」
「い、一応褒めてくれてるのかな……」
「い、一応褒めてくれてるのかな……」
――最後くらい素直に絶賛してくれてもいいのに。本当に志保ちゃんらしいな……。
可奈は微笑む。
可奈は微笑む。
「何も泣くことないじゃない。大袈裟ね」
「え?私、泣いてなんて……あれ?」
「え?私、泣いてなんて……あれ?」
不意に可奈の頬を雫が伝う。志保と楽しく談笑していたはずなのに。
彼女は自分が何故泣いているのかさえわからなかった。
歌を褒められたことが嬉しかったのか。
大好きな二人の手によって殺されようとしていることが怖いのか。
もう二度と歌を歌えないことが悲しいのか。
彼女は自分が何故泣いているのかさえわからなかった。
歌を褒められたことが嬉しかったのか。
大好きな二人の手によって殺されようとしていることが怖いのか。
もう二度と歌を歌えないことが悲しいのか。
「うぅ……ふえぇ……」
「もう、泣かないの。まだ三つ目の願いがあるんでしょ?」
「もう、泣かないの。まだ三つ目の願いがあるんでしょ?」
そう、まだ願いは残っている。
最後の願いだけはなんとしても伝えなくてはならない。
生きた証を遺す為に。志保に想いを託す為に。
だが、この願いと引き換えに可奈は死ぬ。
別れの時は刻一刻と近づいていた。
最後の願いだけはなんとしても伝えなくてはならない。
生きた証を遺す為に。志保に想いを託す為に。
だが、この願いと引き換えに可奈は死ぬ。
別れの時は刻一刻と近づいていた。
「ぐす……うん、そうだったね。じゃあ、言うよ」
泣き腫らしてぐしゃぐしゃになった顔で、それでも精一杯の笑顔で、彼女は言葉を紡ぐ。
一番大切な願い事。これが志保への最後の我が侭……。
一番大切な願い事。これが志保への最後の我が侭……。
「私の最後の願い――」
「――私が死んでも、ずっと私とお友達でいてください」
「ええ、約束するわ」
そう言って、志保は優しく微笑みかける。その安らかな表情を見て、可奈は心から安堵した。
こんな殺し合いの場でも、志保の笑顔は穏やかな日々の中で見せたそれとなんら変わりなかったから。
こんな殺し合いの場でも、志保の笑顔は穏やかな日々の中で見せたそれとなんら変わりなかったから。
――ああ、やっぱりいつもの志保ちゃんだ。
神様、最後まで志保ちゃんと友達でいさせてくれてありがとう――――
神様、最後まで志保ちゃんと友達でいさせてくれてありがとう――――
――飴玉が一つ弾けた。
【矢吹可奈 死亡】
◆ ◆ ◆
全てが許せなかった。
仲間を殺して回れなどというふざけた命令を下したプロデューサーが許せない。
何もかも諦め、殺して欲しいと懇願した可奈が許せない。
そして、そんな可奈を撃ち殺した自分が許せない。
仲間を殺して回れなどというふざけた命令を下したプロデューサーが許せない。
何もかも諦め、殺して欲しいと懇願した可奈が許せない。
そして、そんな可奈を撃ち殺した自分が許せない。
自責の念を振り払い、市街地を駆ける。
私は逃げた。直視できなかった。
血塗れ程度では塗りつぶすことの出来ない、可奈の眩し過ぎる笑顔を。
私は逃げた。直視できなかった。
血塗れ程度では塗りつぶすことの出来ない、可奈の眩し過ぎる笑顔を。
可奈は不自然なほどに穏やかな表情で眠っていた。
眉間を撃ち抜かれ、彼女の望み通り痛みを感じず即死したせいもあるだろう。
しかしそれ以上に、何かに満足したかのように晴れ晴れとした笑顔だった。
それは私が捨て去ったアイドルの輝き。人としての輝き……。
眉間を撃ち抜かれ、彼女の望み通り痛みを感じず即死したせいもあるだろう。
しかしそれ以上に、何かに満足したかのように晴れ晴れとした笑顔だった。
それは私が捨て去ったアイドルの輝き。人としての輝き……。
可奈はあまりにも弱く、甘く、そして優しすぎる。
ここで死なずとも、恐らく最後まで生き残ることはできなかっただろう。
どこかで恐怖に怯え、惨たらしく殺されるくらいなら、この手で引導を渡してやるのがせめてもの情け。
私がやるしかなかった――そう言い聞かせ、今にも狂ってしまいそうな自分をすんでのところで引き留める。
ここで死なずとも、恐らく最後まで生き残ることはできなかっただろう。
どこかで恐怖に怯え、惨たらしく殺されるくらいなら、この手で引導を渡してやるのがせめてもの情け。
私がやるしかなかった――そう言い聞かせ、今にも狂ってしまいそうな自分をすんでのところで引き留める。
もしかしたら、もう既に狂ってしまっているのかもしれない。
だが、ここで歩みを止めるわけにはいかないのだ。あの人の為にも……。
だが、ここで歩みを止めるわけにはいかないのだ。あの人の為にも……。
――ずっと私とお友達でいてください。
可奈の遺言が何度も繰り返される。
あの子を不安にさせたくないが為に肯定してしまったが、自分に友人を名乗る資格がないことは私自身が一番理解していた。
生意気を言っても愛想を尽かさず接してくれた先輩を殺し、いつも慕ってくれるあの子にすら殺意を向けた自分に。
けれど、それを可奈が望むなら。可奈が許してくれるのなら……。
あの子を不安にさせたくないが為に肯定してしまったが、自分に友人を名乗る資格がないことは私自身が一番理解していた。
生意気を言っても愛想を尽かさず接してくれた先輩を殺し、いつも慕ってくれるあの子にすら殺意を向けた自分に。
けれど、それを可奈が望むなら。可奈が許してくれるのなら……。
これは『呪い』だ。
親友の命を奪ったことを永久に忘れない為に刻む呪いの刻印。
彼女の『願い』を『呪い』へと変え、どこまでも背負い続けよう。
親友の命を奪ったことを永久に忘れない為に刻む呪いの刻印。
彼女の『願い』を『呪い』へと変え、どこまでも背負い続けよう。
「改めて約束する。私は永遠にあなたの友達よ、可奈……」
【一日目/朝/G-2】
【北沢志保】
[状態]ストレスによる軽度の体調不良、焦燥
[装備]ベレッタM92(13/15)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1、9x19mmパラベラム弾入りマガジン(2)
[思考・行動]
基本:"ジョーカー"として動く
1:とにかく、人を殺して行く
2:嘘をついてなくちゃ――――
3:可奈の『呪い』を背負い続ける
[状態]ストレスによる軽度の体調不良、焦燥
[装備]ベレッタM92(13/15)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1、9x19mmパラベラム弾入りマガジン(2)
[思考・行動]
基本:"ジョーカー"として動く
1:とにかく、人を殺して行く
2:嘘をついてなくちゃ――――
3:可奈の『呪い』を背負い続ける
※ジョーカーとして訓練を受けているため拳銃などの扱いを把握し、ある程度の経験を持っています。
※可奈の支給品一式はG-2(ゲームセンター店内)に放置されています。
※可奈の支給品一式はG-2(ゲームセンター店内)に放置されています。
| Wonder world | 時系列順に読む | 貴方の想いに救いを |
|---|---|---|
| Wonder world | 投下順に読む | 貴方の想いに救いを |
| GAME START! | 矢吹可奈 | 死亡 |
| LiarGirl | 北沢志保 | 冷徹少女は偶像劇の夢を見るか |