第九章
第九章「序幕」
アリン | そういえば… 守護者の異変は全部、魔人の仕業だったのかな? |
シフォン | 全部ではないわね…もうひとり、 人間がこの件と関わってるみたいよ |
アリン | 人間?人間の剣士か? |
シフォン | え?会ったことあるの? |
アリン | いや、会ったことはないけど、 よくよく思い出してみると、 人間の剣士の話を色々なところで耳にした気がする… |
シフォン | ワタシの思うところでは、 その人間の剣士がすべてに関わってる… 残りの守護者を見つければ、何か手掛かりがあるかも |
アリン | そうだな、早速行ってみるか! シフォン、何してるんだ? |
シフォン | 普通に移動してたら時間かかるでしょ? 送ってあげるわよ |
シフォンが呪文を詠唱すると、 目の前に転移門が開いたーー | |
シフォン | この転移門は砂漠の地と繋がってるから、 先に行っててちょうだい、後で探しに行くから |
アリン | あれ?一緒に行かないのか? |
シフォン | ワタシはちょっと、確認しておくことがあるの ワタシがいない間、無茶しないでよね? |
アリン | 心配するなって!じゃ、後でな! |
クレブ | シフォン様、チョコ、お気を付けて! |
チョコ | キュ〜 |
シフォン達と一時別れ、 アリン一行は転移門をくぐったーー |
9-1死の砂漠入口「矢面」
砂漠の地は、ギラギラと太陽の光がさしており、 眩しさにまだ慣れていないアリン達は目を覆うーー | |
アリン | 目…目が… 眩しいどころか…痛いよもう… |
暫く経って、目が慣れてから周りを見てみると… その場にいるのが アリン達だけではない事に気付くーー | |
アリン | おお?クレブ… 周りにいる人達は何者だろうか? |
クレブ | そうですな…はっきりとはわかりませんが、 見た感じ、兵士のようですな |
アリン | 兵士…か… なんで砂漠に兵士がいるんだろう? |
よく見るとそこは… 聖光教団の騎士団の野営地だった… 兵士たちは突然現れたヴァンパイアを見て、 目を白黒させているーー | |
モーラ | ヴ、ヴァ、ヴァンパイアだあああ!!! 緊急事態発生!!ヴァンパイアの襲撃だ!! |
アリン | シフォンめ、こんなところに送り付けてくれるとは… |
9-2ゴーレム出没地「聖光の使徒」
アリン | あの…ホント、襲撃とかじゃないんで… 落ちけつ…落ち着いて話し合おうじゃないか… |
ディノ | 何を言う!汚らわしきヴァンパイアめ! 聖光の使徒は、貴様らが存在することすら許さない! |
アリン | むぅ…話の通じない狂信者め… こうなったら、取る手段は二通り… |
クレブ | マスター、どんな手段があるのですかな? |
アリン | 一つは新聞社にリークして教団の闇を暴く、 もう一つは、とにかく逃げる! |
クレブ | なるほど…砂漠には新聞社はなさそうですな… |
アリン | それならやる事はひとつ!とにかく逃げるぞ! |
9-3サボテン群生地「死の砂漠」
アリン達は砂漠を必死に走る… 教団の兵士が追いかけてくるが、 徐々に引き離していったーー | |
アリン | ハアッ…ハアッ…オッケー ここまで来れば…しばらくは… |
クレブ | こんなに走ったら… クレブは…死んでしまいますゾ… |
アリン | まず痩せろクレブ それに止まったら本当に死ぬかもよ? あ…ダメだ、もう何か来た… |
ロッド | 邪悪なるヴァンパイアめ! 動くな!動けば、我が奥義を喰らわせるぞ! |
追って来る部隊に先んじて、 一人の聖騎士が出てきて怒鳴ったーー | |
アリン | ハ…ハハ…奥義だって? どんな奥義なんだ? |
ロッド | 何人たりとも俺の奥義からは逃げられないのだ! |
アリン | 答えになってないぞ! 奥義を破られるのが怖いのか? |
ロッド | そんなわけあるか! 無駄な情報を与えるほど馬鹿じゃないだけだ! お前等こそ、名を名乗る勇気はあるのか? |
アリン | だ…誰が教えるか! 人に聞く前にまず自分で調べろ! |
ロッド | ふん、ヴァンパイアと豚のコンビなど、 お前らくらいだろう… ちょっと調べればすぐにわかるぞ! |
クレブ | クレブは豚じゃありませんゾ! |
アリン | あ、待てクレブ! |
ロッド | お前はクレブというのか! 奥義を喰らえ!…突撃! |
聖騎士は一瞬にしてクレブに詰め寄り、 クレブを捕えたーー | |
ロッド | どうだ!だから言っただろう! 何人たりとも俺の奥義からは逃げられないのだ! |
アリン | なんだその瞬間移動みたいのは! なんかズルいぞ! |
アリン | ヤバい…これは逃げきれないぞ… クレブ!お前のせいだぞ! |
アリン達は聖騎士ロッドに捕まり、 騎士団に包囲されたーー | |
クレブ | マスター…クレブは豚ではありませんゾ… |
アリン | お前…この期に及んで… 意外と気にしてたんだな… |
ロッド | 魔物よ! 大人しく降伏して、聖光の裁きを受けよ! |
アリン | クッ…みんなで寄ってたかって… いじめか!そんなんじゃ評判が落ちるぞ! |
ロッド | 案ずるな!今回の噂を広める時は、 俺が一人で対応したことにするさ! |
アリン | 臆面もなくセコいこと言いやがって! |
9-5亡者の交差点「虎視眈々」
聖光の使徒との戦いは… 健闘もむなしく、徐々に劣勢に立たされていく… アリンは…何とかして脱出できないか、 必死に方法を考えるーー | |
アリン | おい!見ろ!あっちに超でかい蠍がいるぞ! |
ロッド | そんな嘘で注意を逸して逃げる気か!? 寝言を言うな! |
アリン | ホントだぞ!黒くて大きなハサミだ… 沢山の人を殺して来たのだろう… |
ロッド | …………嘘つけ! みんな、コイツの話を信じるなよ! |
アリン | おや!?蠍の体にキラキラした物が挟まってる… 宝石か? 倒したら大金持ちになれるな… |
ロッド | なに!宝石だと… いや、そんなわけあるか! |
アリン | あらら〜、蠍がどっか行っちゃうよ 宝石もったいない… 後ろを見てみなよ、オレは逃げないから |
ロッド | お…お前…聖光にかけて、 嘘じゃないと誓うか? |
アリン | 誓うます誓うます ほら、早くしないと行っちゃうよ? |
聖騎士ロッドが後ろを向いた瞬間… アリン達はダッシュで逃げようとする… しかし、硬い何かにぶつかって行く手を阻まれたーー | |
ジェンダ | ロッド、貴方はまだまだね… こんな簡単に騙されて |
ロッド | あ!申し訳ありません…ジェンダ様… |
アリン | イタタタタ… 何だこのめっちゃ固い… |
ジェンダ | 私の胸当てだ |
アリン | こんな固い鎧…どこで手に入れたの… まるで壁みたいだ… |
ジェンダ | 誰が壁だ! このヴァンパイア、長生きしたくないようだな |
ロッド | ジェンダ様に無礼なことを! このセクハラ吸血鬼に聖光の裁きを! |
アリン | え…オレそんな大したこと言った? |
クレブ | マスター…女性に失礼なことを言いましたゾ |
アリン | えーと…何かよくわからないけど… 申し訳なかった、そんな意味じゃないんだ |
ジェンダ | 嘘をつけ!なら言ってみなさい! さっき私の胸…胸当てにぶつかって、 どんなふうに感じたって? |
アリン | 固くて痛かった、それだけだけど…? |
ジェンダ | 許さん!殺す! |
アリン | 何て答えるのが正解だったのだ…? |
ロッド | ちっ、愚か者め! ジェンダ様の胸…胸当ては世界最好の胸当てだぞ! 我らの信仰は世界一般とは一線を画しているのだ! |
アリン | 何の信仰だよ…わけわからん |
無風だった砂漠に突然、強風が吹き荒れる… 遠くから巨大な砂嵐が迫って来るーー | |
アリン | おい!戦ってる場合じゃなくなったぞ! 砂嵐が来た! |
ジェンダ | そんな嘘を信じると思うか! この嘘つきヴァンパイアめ! |
アリン | いや、マジで砂嵐が来てるって! 早く逃げないと皆死んじゃうぞ! |
ジェンダ | また後ろを向いた隙に逃げるつもりだろう!? 寝言は寝て言いなさい! |
アリン | 君らは大勢いるんだから、 一人くらい見てもいいんじゃないか? |
ジェンダ | ……それはそうだ! ロッド確認して!私が見張っている |
ロッド | 承知しましたジェンダ様! ……アアッ!巨大な蠍が…! |
アリン | いや巨大な蠍じゃなくて砂嵐ね! お前らがオレを騙す気か |
ロッド | 目…目が… ジェンダ様!本当に砂嵐が来ました! |
ジェンダ | 何ですって!?この砂漠には何もない… 一体どこに隠れればいいというの? |
ロッド | ど、どうしましょう… |
ジェンダ | ヴァンパイア、命拾いしたわね… 総員撤収!散開して避難場所を探せ! |
ジェンダの命令で部隊は散開し、包囲網が解けるーー | |
クレブ | マスター…我々は… どうしますかな? |
アリン | 考える必要あるか? さっさと逃げろーっ!! |
9-6亡者の間道「砂嵐襲来」
レイラ | ヴァンパイアよ! 聖光の使徒から逃れることなど、できはしないよ! |
アリン | なに!? さっき総員撤収命令が出たのに、 なぜ君だけ別行動を取っているんだ? まさか計算されつくされた罠だったのか!? |
レイラ | 実は迷子になって、偶然お前らと遭遇したのだ |
アリン | …君達のバカ正直さだけは、認めざるを得ないな… |
レイラ | 何言ってるのよ! 砂漠で迷子になるなんて、 別に恥ずかしい事でもなんでもないんだからね! |
アリン | とにかく!オレ達を追って来るな! 避難場所は自分で探しなさい! |
9-7亡者の道「新たな問題」
アリン達は避難できる洞窟を発見し、 間一髪で砂嵐に飲み込まれるのを避けられたーー | |
クレブ | フウ…危ないところでしたな… |
アリン | ああ、砂漠ってのは恐ろしいところだな… |
クレブ | おや?…マスター、 神殿のような建物が見えますゾ? |
洞窟の中に建てられた、古びた神殿が目に入るーー | |
アリン | ほう… 一休みするのにいいかもな、行ってみよう |
神殿に足を踏み入れた途端、 ゴーレムが次々と現れて襲い掛かって来るーー | |
クレブ | マスター! ゴーレムを操っている者がどこかにいるはずです この神殿には他にも敵がいると思われますゾ! |
アリン | そうか…気を引き締めて行こう |
神殿の奥に進むと、女性が待ち構えていた… 魔法陣を自在に操っており、 高位の秘術士である模様ーー | |
レベッカ | 貴様…邪神を召喚する悪の秘密結社だな! そうはさせないぞ! |
アリン | 勝手に適当な設定を作るな! 邪神召喚なんて恐ろしいこと、するわけないでしょ! |
クレブ | いや…むしろヴァンパイアがやりそうなことですな… |
レベッカ | ほら!君のペットもそういってるでしょう! |
アリン | クレブ! お前はどっちの味方なんだ!? |
秘術士に勝利した後、 アリンは秘術士の前に出て問いかけるーー | |
アリン | で…君らは何者なんだ? もしかして、ずっとここで暮らしてるの? |
レベッカ | …ここは古の…正義の神の神殿よ… 地の守護者「砂嵐の蠍王アシラ」様の住処でもある 君らはここを狙って来たんじゃないの!? |
アリン | え、ちょっと待って! 砂嵐の…蠍王? …そ、そういうことか! |
クレブ | マスター、どういうことです? |
アリン | さっき聖光の使徒と戦ってる時、 聖騎士が巨大な蠍がいると言ってたろ? あれって、地の守護者だったんじゃないか? |
レベッカ | そんなわけないでしょう! 守護者様は神殿におられるはず… 離れられてしまっては… 神殿にある神の冠が危うくなる… |
アリン | 神の冠とは?何なんだ? |
ノブ | 神の意志を人に降臨させる神器さ 何も知らずにここへ来たようだが、 もしや本当に邪神を召喚しに来たのか? |
アリン | さっきも言ったろ、ここに来たのは偶然だけど、 オレ達は守護者を守るために来たんだ… |
レベッカ | 守るためって何よ!? 守護者様に問題など何も起きてないはずよ? |
ノブ | レベッカ… 神殿の試練を受けている人間の剣士が、 まだ戻って来てないが……… もしや何かあったのでは? |
アリン | 剣士だと!? |
レベッカ | ええ、ランデルという名の剣士よ 悪人には見えなかったけど… |
アリン | 剣士がここにいる… ヤバい!危険だ! |
アリン達は大急ぎで神殿の奥へ向かったーー |
9-8亡者の転生「失落の神殿」
ノブ | シャデリ!俺だ! 一体…何があった…? |
シャデリ | 魔人様の命令… 侵入者は排除せよ… |
ノブ | 魔人?…どういうことだ? |
レベッカ | ヴァンパイア!シャデリは私達の仲間よ! 今は我を失っているみたいだけど… |
アリン | そうか、でも先に進まないと… おとなしくしてもらうだけだから、心配するな |
魔人に操られた男と戦っていると、 神殿の奥から魔法の衝撃音が伝わってきたーー | |
ノブ | まずい! 誰かが神の冠の防衛結界を破壊しようとしてる! ク…守護者様は本当にここにいないのか… |
レベッカ | 予言の通りになってしまうの…? 邪神の復活は…止められないの? |
アリン | あきらめるな! 防衛結界を破壊しようとしてるってことは、 まだ奪われてないってことだろ!? |
アリンは現在の状況を踏まえて作戦を練り、 行動に移るーー | |
アリン | 配下達よ!アイツは放っておいて奥へ進め! |
シャデリ | それは許されない…通しはしない…! |
アリン | お前は…俺の意志に従え! |
アリンは意識を集中し、 強力な精神力で者で理を支配下に置こうとする… しかし、反発する意志の力が押し返してくるーー | |
フレイ | ハハッ…君がレオニアが言っていた、 特殊能力を持ったヴァンパイアかい? |
アリンは反発する意志の強大さを感じ取り、 ひどく重圧を感じて汗が止まらなくなるーー | |
フレイ | この程度なのかい? がっかりだね |
アリン | クッ…お前等みたいな… クソ魔人どもに…やられるかよ! |
フレイ | ハハッ…君の心…悲鳴をあげてないか? 魂を喰らう時が…楽しみだよ |
アリン | やれるもんならやってみろ! みんな!攻撃開始! |
フレイ | 先に配下を向かわせてたのか… チッ…シャデリ、戻れ |
魔人はシャデリを戻らせ、 アリンが受けていた重圧も消えていく… アリンはふぅっとため息をつくーー | |
アリン | さっきのは…ヤバいな 今のままでは…勝てるかどうか… |
弱音を吐きながらも、 アリンは神殿の奥へ進んで行ったーー |
9-9サドラク郊外「守るべき者」
神殿の奥にある石室の外で、 アリンの配下と魔人に操られた者が交戦している… 石室の中から聞こえる大きな音は、 神の冠がそこにあることを示しているーー | |
アリン | みんな頑張れ!負けるな! |
マルビス | 通しはしない 命令…死守する |
立ちはだかる敵は非常に強く、 アリン達は長く苦戦を強いられているーー | |
クレブ | マスター…どうしましょう… 時間がないですゾ… |
アリン | ああ…何とか… 隙をつくことができれば… |
ノブ | ヴァンパイア! 助太刀するぞ!先に行け! |
ノブとレベッカが参戦し、形勢が変わるーー | |
アリン | 仲間同士で戦うことになるが…大丈夫か? |
レベッカ | 操られてしまってるんだから、 目覚めさせてあげないといけないでしょう!? |
ノブ | 早く行け! これ以上、奴らの好きにさせるものか! |
アリン | よし、わかった!ここは頼むぞ 魔人達をぶっ飛ばしてくる! |
アリンは配下を連れて石室に入るーー |
9-10サドラク城入口「最後の抵抗」
石室に入った途端、強烈な光が目を刺し、 アリン達は目を覆った… くれぶだけが状況を察知する | |
クレブ | マスター!大変です! 神の冠がすでに奪われてしまってますゾ! |
アリン | チクショウ!オレと戦え! |
アシンドラ | もちろん戦ってやるさ、大人しく待ってな |
フレイ | アシンドラ、神の冠を持って先に行くよ… この坊やは…君にやろう |
アシンドラ | フレイ…さっさと行きな 言われなくても、じっくりと料理してやるさ |
フレイ | ハハッ…ではお好きにどうぞ |
魔人のひとりは神の冠を持って、 転移門から消え去ってしまったーー | |
アリン | クッ…オレにもっと力があれば… |
アシンドラ | 後悔など不要さ お前はここで死ぬのだから |
アシンドラ | 悔いようのない絶望的な力の差を、見せてやるよ ハハハハハッ!!!! |
アリン達は強大な重力に押しつぶされ、 身動きが取れなくなってしまったーー | |
アリン | ハッ…どうってことない… オレには…もっと重い… 背負ってるものがあるんだ… |
アシンドラ | 面白いことをいう坊やだね 憐れなヴァンパイアよ、 虫けらのように足掻くがいいさ! |
アリン達は力尽きる寸前の状態だった… 倒れないよう、必死に歯を食いしばるーー | |
アシンドラ | おやおや、黙っちゃってどうしたのさ…? さっきまでの威勢はどこへいったんだい? |
アリン | お前と話すことなんか無いだけだ… |
アシンドラ | つまんないねえ… そんなんじゃすぐに飽きてしまうよ |
アシンドラ | レオニアの言ってたヴァンパイアの妹の方だったら、 もう少しは楽しませてくれるのかねぇ? |
アリン | クッ…何だと… |
アリンは無力感に蝕まれていくのに必死に耐え、 歯を食いしばっているーー | |
アシンドラ | あ〜、もう飽きた! もういいさ、死んでくれて結構! |
突然、背後から無数の火炎が飛来してくる… アシンドラは瞬時に魔法防壁を展開して防衛するーー | |
シフォン | ワタシを呼んだ? |
シフォンが現れ、アシンドラと対峙するーー | |
アシンドラ | おやおや、ヴァンパイアがふたり揃ったね またヴァンパイアが我ら魔人の邪魔をするのか… まったく…… |
シフォン | また? ヴァンパイアと何か因縁でもあるの? |
アシンドラ | ハッ……これからすぐ死ぬんだから、 知ってもしょうがないさ |
シフォン | 言わないなら… 力ずくで喋らせるわよ? |
アシンドラ | 面白い…実に面白い そこで寝ている坊やのように、 失望させないでおくれよ? |
上空で強大な魔法のぶつかり合いがはじまった… しかし、アリンは何も感じていないように、 じっと地面を見つめているーー | |
クレブ | マ、マスター… どうされました? |
アリン | クレブ… オレはホント…ダメだな… |
クレブ | 何を言うのです?らしくありませんゾ… |
アリン | オレが強くなってるなんて、気のせいだったんだ… 本当にピンチの時はいつも妹に助けられて… |
クレブ | マスター……… |
アリン | オレの力って何なんだ!? 魔人に手も足も出ないで… オレは…選ばれし者なんかじゃなかったんだよ! |
クレブ | マスター!そんなこと言わずに… |
アリン | シフォンが前に言ったとおり… オレがダメだから両親に捨てられたのかな… オレみたいな真祖なんて、ありえないだろう… |
クレブ | マスター、それは違いますゾ… 実はご両親は… |
一つの人影が急速に空中から転落し、 土煙で地面が覆われる… 戦いの勝敗が決した模様ーー |
第九章「終幕」
シフォン | フン…この魔人、なかなかやるわね けど残念ながらワタシには及ばなかったわね |
シフォンがゆっくりと降りてくる… 激しい戦闘で少し傷を負っているようだが、 勝ち誇った様子で表情は明るいーー | |
シフォン | 遅くなったわね! まだ生きてるみたいだし、 これでおあいこね! |
アリン | どうでもいいよ |
シフォン | …………なに怒ってるのよ? |
アリン | 別に |
シフォン | 人の目を見て話しなさいよ!失礼でしょ! |
シフォンがアリンの肩に手をかけると、 アリンが乱暴にその手を払ったーー | |
アリン | オレに触るな! そんなにすごいんなら、 一族も、何もかもお前が継げばいい! 全部お前にやるよ! |
シフォン | アリン…まさか… |
シフォンは探るようにアリンの目の奥を覗き込むーー | |
シフォン | これは…精神封鎖!? 術が…かけられてる… |
アシンドラ | ハハッ… フレイの…悪戯が… 意外と…役に立ったようだね… |
アシンドラが壁にもたれかかりながら、 クスクスと笑って言うーー | |
シフォン | おい! この術を解け!…さもないと… |
アシンドラ | 解けないさ…ハハッ… 私がかけた術ではないからね… |
シフォン | ………… 術をかけた奴は…今どこにいる? |
アシンドラ | 答えたら…私を…解放するか…? |
シフォンはアシンドラを睨みつけるが、 しばらく考えた後、ゆっくりと頷いたーー | |
アシンドラ | 交渉成立だね…ソイツの魂は精神封鎖の力の影響で… 術者の方へ自然と引き寄せられていくさ… 途中では何が起こるかはわからないよ? 試練に耐えないとね…ハハッ |
そう言ってアシンドラは転移門を開いて去った… 一方アリンは無言のまま外へ出て行ったーー | |
クレブ | シフォン様… マスターを手助けしていただけませんか? |
シフォン | 言われなくても助けるわよ… ただアイツ…ワタシに頼ってこないなんて… 何か嫌な気分… |
アリンを追っていくシフォンの背中を眺めながら、 クレブは思うーー | |
クレブ | 苦難を乗り越えていくことで、 シフォン様も成長されているようですな… ご両親のご希望通りになっているようで、 何よりですゾ… |