第十八章
18-1山の入口「火の壁」
[部分編集]
アリンは狂ったように地に拳を叩き続けた ジェブロが黒い霧になったことも気付かず、 強烈な痛みに気絶することさえ許されず、 炎の苦しみを痛みで打ち消すようにーー | |
アリン | う…うぅ… 痛い…痛いよ… |
アリンの顔は涙と鼻水にまみれ、 深淵の冥火は腕を伝って燃え広がり、 苦しみに思考力さえ奪われていたーー | |
アリン | もし… この痛みが… 終わるなら…! |
やがてアリンは限界を迎え 頭の真横まで右手を上げると、 燃え盛る指を自分の頭に向けて そのまま差し込もうとするーー | |
クレブ | アリンッ!! やめろぉーッ!! |
クレブの声はアリンの耳に届いたが、 もはや考える力は残っていなかった アリンの意識が暗闇に沈んでいくーー |
クレブ | ……アリン! |
クレブは叫びながら目覚めると、 自分の傷など気にせず周囲を見渡した 横で眠っているアリンを見つけると、 その傍らに見覚えのある人物がいたーー | |
クレブ | お前は確か… ナナロ! |
ナナロ | 正解でつよ ナナロのことを覚えているから シコウリョクは大丈夫でつね |
クレブに振り向いたナナロは、 幼い見た目に似合わない 深刻な表情をしているーー |
クレブ | アリンに何かしたのか!? |
ナナロ | 落ちついてくだたい… アリンは心配ありまてん 深淵の冥火は消えてないけど、 広がらないようにはできまつ |
クレブはアリンの手を見た 確かに火は残っているが、 勢いは弱く広がる様子もない そして自分も手当されたことに気付くーー | |
クレブ | 俺達は… どうやってここに来た? |
ナナロ | ナナロの味方になってくだたい 約束ちてくれないと 教えられまてん |
クレブ | 味方になれと? なんの話をしてやがる? |
ナナロ | 良く考えてみてくだたい 龍血女帝と悪魔王を相手にできるのは 深淵でも数人ちかいまてん 中でも特に禁制呪文が得意なのは… |
クレブ | …ありえん! あの女が俺を助けるわけがない 深淵の中でもあいつは一番 俺を憎んでいるはずだ |
ナナロ | 昔は昔、今は今でつ 彼女はアナタとかつての関係を 取り戻ちたいと考えていまつ |
クレブ | ……たとえそうだとしても、 そう簡単に信じることはできん |
ナナロ | 問題ありまてん 彼女もアナタは拒むと考えていまつ |
クレブ | ……………… |
ナナロ | 考えたことはありまてんか? アナタ以外に唯一、次元通路を開ける彼女が なぜナヴィア世界に侵攻ちないのか? |
クレブ | あのずる賢い女の考えはわからん あいつにとって自分以外のやつらは すべて手駒に過ぎん… もう二度と騙されんぞ |
ナナロ | 何を言うのも勝手でつが、 アナタは彼女に二つの借りがありまつ その時が来れば返してもらいまつ |
クレブ | フン…借りた分は返すが、 それ以外は無いぞ |
ナナロ | どうでつかね? 戦争はかなり激しい段階でつが、 アナタのためとなれば… 目の前の戦いをやめる者もいると思いまつ |
クレブ | ……ケッ ご苦労なこった |
ナナロ | アナタがどう考えようと勝手でつが、 周りはアナタタチを放ってはおきまてん この者の力はもう一つの次元において、 多くの勢力が欲しがると思いまつ |
ナナロはまだ目覚めていない アリンをちらっと見ると、 振り返って出て行ったーー | |
ナナロ | …彼女が救った命を 簡単に失わないでくだたいね では、お大事に… |
クレブ | 余計なお世話だ |
ナナロが去った後、 クレブはしばらく考えを巡らせていた 確信はないがある計画を思いつくと、 アリンを救うためにやるしかなかったーー |
18-3休息地「獣の門」
[部分編集]
意識のないアリンを抱えて、 クレブは先を急いだ 襲われるのは時間の問題だと よく分かっていたーー | |
クレブ | 深淵の冥火は 深淵にしか存在しない… それならナヴィア世界に戻れば アリンは助かるはずだ… |
クレブ | 足りない魔力は奪い取って、 また扉を開けばいいと思っていたが… アリンの生死は一刻を争うぜ 戦いはなるべく避けるしかねえな |
眼前に広がる荒涼とした風景は クレブを懐かしい気持ちにさせた 慣れ親しんだこの土地で、最期を 迎えるのも悪くないとクレブは思うーー | |
クレブ | アリンがいなかったら… このまま戦場で暴れまわって、 死ぬまで戦い続けるのも悪かねえな |
クレブ | フン…もう来やがった |
以前の襲撃の時と同じく 空が黒い雲で覆われると、 邪悪なオーラが立ち込める クレブは不安げにアリンに話しかけたーー | |
クレブ | この前と同じレベルの相手だったら、 たぶん生きては帰れねえ アリン、お前の両親との約束… 悪いが果たせないかもな |
幾つもの影が地上に降りると、 その中に圧倒的な邪気を感じ、 クレブは絶望的な笑みを浮かべたーー | |
クレブ | クハハ! ここが俺の死に場所か… だが、ただではやられねえ! |
クレブはアリンを降ろすと、 地上に降りたばかりの影に、 勢い良く殴りかかったーー |
しかし、クレブの拳は見えない壁に 打ち付けたように止められてしまう 衝撃がかき消えると 艶っぽい女の声が聞こえて来るーー | |
トリーニャ | おやおやアグレフ殿 あなたの拳ってこんなに弱かったかしら? それともお歳のせい…? |
クレブ | やはりてめえかクソ女 人をなめきった性格は 昔と変わらねーな |
クレブは拳を止めたバリアを 蹴りながら高く飛ぶと、 空中で体を翻し体勢を整えるーー | |
クレブ | 敵討ちのつもりか!? だがお前にはもっと大きな 代償を払って貰うぜ! かかって来やがれ! |
クレブはもはや刺し違えるつもりで 威風堂々と戦場に入っていったーー |
18-5星の祭壇「魔人の会合」
[部分編集]
クレブは懸命に戦い続けた しかし体の傷が増える一方で、 敵の数は次から次に増えていく その時アリンが目を覚ますーー | |
アリン | …こ、ここは…!? 痛ッ…! 手が…!痛い…! …ぐ…ぐああああーっ!! |
深淵の冥火を呪印で抑えたとはいえ、 炭のように焼け焦げたアリンの手は 想像を絶する痛みを伴っていた その痛みにアリンは半狂乱になるーー | |
アリン | こんな…! これなら…! 死んだ方が…マシだ…! |
次の瞬間、手の痛みが急に和らいだ アリンが驚いて顔を上げると、 数人の人物に手を掴まれていた そしてそれは意外な者たちだったーー | |
アリン | お前たちは…!? |
バシモス | ふん… 我々が何故貴様を助けることになるのか 全く理解できんな |
バシモスが憎々し気に言うと 周囲に宥められるーー | |
レオニア | あの方の言い付けだ… 俺達に選択の余地は無い |
フレイ | とっとと終わらせよう もたもたしてると 前線が持たないかもよ |
アシンドラ | このアホ吸血鬼! こんな所であんな馬鹿と一緒にいたら こうなるのも当然だろうが |
アリンは信じられない様子で 自分の元に駆け付けた 魔人たちを見ているーー | |
アリン | アシンドラ…お前たち… なんで…? どうしてここに…? |
ガラフ | 此処は我らの故郷だぞ 余所者めが… そもそも我らに貴様を助ける義理はない あのお方のご命令でなければーー |
レオニア | ガラフ、余計なことは言うな やるべき事だけをやれ |
ガラフ | は、はい…! |
アリン | お前たちいったい… うわなにをするやめr… |
魔人たちは黒い霧状のオーラを アリンの体内に注ぎ込んだ 手の苦痛が消えていくのと同時に、 意識が遠のき、暗闇に沈んでいくーー |