この世のどんなことよりもやさしい力 ◆b8v2QbKrCM
『ドラァッ!』
「……クソッ!」
繰り出された"クレイジー・ダイヤモンド"の拳を、
レヴィは後方に跳んで回避した。
"サバイバー"によってレヴィの身体能力は強化され、常人の域を大きく越えている。
そのことを知ってか知らずか、レヴィは肉体の能力をフルに動員して戦場を立ち回っていた。
だがその条件はこの場にいる全ての者に当てはまるのだ。
いつの間にか背後に回っていたクレアがレヴィの両脚を払い、左腕を掴んで引き倒す。
ただでさえ破壊された左腕に更なる負荷が掛かる。
本来ならば激痛で意識すら危ういであろう状況だが、麻痺した痛覚ではそれほど大きな影響はない。
レヴィは完全に押さえつけられる前に身を捩り、折れた腕をありえない方向に歪ませて、クレアから胴体を逃れさせた。
同時にクレアの頭を狙って引き金を引く。
だが放たれた銃弾は瞬時に発現した"スタープラチナ"によって掴み取られてしまう。
皮肉にも、レヴィが最も殺したいと思う相手に対して、レヴィの攻撃は全く通用しなかった。
モンスターボールを使用できれば違う展開もあったのかもしれない。
しかし前回の使用から二時間が経過していないため、レヴィが動員できる得物はスプリングフィールドXDただ一挺である。
9mmパラベラム弾の破壊力の源泉は超音速の初速と貫通力。
しかし超音速程度では超スピードと精密動作を誇る"スタープラチナ"と"クレイジー・ダイヤモンド"のガードは抜けられない。
また人を『殺害する』という目的に最効率化された兵器であるが故に、"シェルブリット"の装甲を『破壊する』ほどの威力も備えていない。
よって、レヴィはこの場において一番不利な状況にあるといえた。
仮に、拳銃を遥かに上回る速度と連射のアサルトライフルや、腕一本では凌げない範囲のショットガンでもあれば話は違っただろう。
「抹殺のッ! ラストブリットォ!!」
レヴィと組み合って地に伏すクレアに
カズマが飛び掛る。
最後の羽を推進力に変え、真上から拳を振り下ろす。
レヴィの腕を放して回避しようとするクレアを、レヴィが脚を絡めて引き止めた。
乱戦とは強ければ勝てるものではない。
最後まで倒されなかった者が勝者となるのだ。
「チッ……」
『オラァ!』
うつ伏せのままのクレアの背から"スタープラチナ"が出現し、カズマを迎え討たんとする。
レヴィは肩を地面に擦りながら上体を捻り、クレアと"スタープラチナ"の頭部に向けて立て続けに弾を放った。
銃弾そのものは、一つはクレアの左腕に当たって止まり、もう一つは"スタープラチナ"の拳に弾かれる。
それで充分だった。
片腕を銃弾の対処に割り振らされた"スタープラチナ"は、片方の拳だけで"ラストブリット"と激突せざるを得なくなる。
カズマが繰り出す最後の必殺の一撃を右腕だけで止められるはずがない。
拮抗したのは一瞬だけ。
"スタープラチナ"の腕はあえなく弾かれて、"シェルブリット"が"スタープラチナ"の胸板に直撃する。
クレアの口から鮮血が溢れた。
拳同士の衝突によって多少威力が削がれていたとはいえ、かなりのダメージであることに変わりはない。
しかし数拍の間を置いて、"スタープラチナ"の左腕が勢いよく跳ね上がった。
槍のようにカズマの腹部へ叩き込まれる左拳。
「ガッ……!」
レヴィとクレアは転がるように距離を取り、その間にカズマが落下した。
そこへ容赦なく"クレイジー・ダイヤモンド"のラッシュが放たれる。
『ドララララッ!』
カズマは右腕で地面を殴り、反動で辛うじて身を反らす。
ラッシュに晒された舗装面は粉々に砕け、その下の地面まで掘り起こされていく。
乱戦に休息などない。
身を起こすカズマにスプリングフィールドが向けられ、その銃口を"シェルブリット"が握り押さえる。
「どけ! てめぇは後で殺す!」
「喧嘩売っといてそれはねぇんじゃねぇか、えぇ!?」
睨み合うカズマとレヴィを一瞥してから、仗助はクレアに顔を向けた。
空気を割って迫る鉄塊。
それが何であるのか理解する前に、仗助は地面に身を伏せた。
「うおっ……!」
仗助の頭上を細長い鉄の塊が掠める。
それは広場の周辺に設置された街灯であった。
根元付近で圧し折られた街灯を、"スタープラチナ"が長柄物のように振り抜いたのだ。
仗助はタイミングよく振り向いたために回避できたが、クレアから注意を逸らしていたレヴィとカズマはそうはいかない。
街灯の先端付近が二人を容赦なく薙ぎ払う。
意識の外からの攻撃を食らい、二人は受身も取れずに吹き飛ばされた。
十メートルは飛ばされた上で植え込みにぶつかり、そこでレヴィが止まる。
カズマはそこから更に撥ね、何度かバウンドしてから路上に四肢を投げ打った。
「……これで残ったのは俺とオメーか」
仗助は身を起こしながらクレアと"スタープラチナ"を睨んだ。
あれほどアツくなっていた思考が急激に冷えていくのが分かる。
相手の身体に浮かんでいた明るい部分と暗い部分も見えなくなっている。
今の攻撃で本体が倒されて、連鎖的にスタンドも機能を停止したのだろう。
男と女のどちらのスタンドだったのかは、仗助にとってはもうどうでもいいことだ。
残された問題は、目の前に立つ車掌服の男――クレア。
クレアは武器に使った街灯を足元に投げ捨てて、素手で仗助と対峙している。
空条承太郎のスタンドであるはずの"スタープラチナ"を使い、更に本人の身のこなしも尋常ではない。
その上、どう考えても穏便に話を聞いてくれそうにないときている。
しかしスタンドからのダメージ伝達によって、右拳と腹部にかなりのダメージを追っているようだ。
加えて"スタープラチナ・ザ・ワールド"までは使いこなせていないらしい。
そこは仗助にとって有利な点だった。
「念のため聞いとくが、俺は途中から乱闘に加わったんで一番消耗してねぇ。
それでも俺とやりあうつもりか?」
「当然だ」
短い言葉で男は答えた。
その眼差しに妥協の余地は見られない。
先に仕掛けたのはクレアであった。
放たれた"スタープラチナ"の豪拳を、仗助それと同等の一撃で以って弾き返す。
"スタープラチナ"と"クレイジー・ダイヤモンド"の能力はほぼ互角。
精密さでは"スタープラチナ"が勝るものの、単純なパワーは"クレイジー・ダイヤモンド"が上を行く。
二体の人型スタンドの打ち合いは、スタンドの扱いに慣れている仗助が優勢であるように思われた。
だが、一方的に有利な土俵での戦いにクレアが甘んじているはずもない。
スタンド同士の殴り合いの傍ら、クレアの拳が仗助の頬を打った。
「……ッ!」
「人型の性能は同等らしいが、俺はお前には倒されない」
胸、腹部、脚と次々に殴りつける。
傷を負った右拳を使わず、左拳と右肘を駆使した連続攻撃。
スタンドの能力は対等でも、本体の格闘能力の差は歴然であった。
回避も防御もあったものではない。
仗助はクレアの攻撃をまともに食らい続け、数歩退いて地面に膝を突いた。
「終わりだ」
止めを刺すべく迫る"スタープラチナ"を"クレイジー・ダイヤモンド"が防ぎ止める。
だが、それと同時にクレアが駆け出していた。
隙だらけの仗助に拳を振りかぶる。
「スタンドはよぉ……殴るだけが能じゃないんだぜ?」
そう言うなり、仗助は屈んだ状態から更に姿勢を低くした。
その直後、クレアの胴体に凄まじい衝撃が走った。
「……ぐっ!」
"クレイジー・ダイヤモンド"は"スタープラチナ"が抑えている。
仗助が何かしたような様子はない。
クレアの胴体を打ち据えていたのは、ひとりでに動き出した街灯だった。
"スタープラチナ"が接近する直前、"クレイジー・ダイヤモンド"はクレアが武器に使っていた街灯を一発殴っていたのだ。
"クレイジー・ダイヤモンド"の力は直す力。
その力を受けた街灯は凄まじい速度とパワーで元の位置に戻ろうとし、その軌道上にいたクレアを強かに打ち据える。
「グレートだぜ」
全くもって想定通り。
宙に飛ばされたクレアを追って仗助は駆け出した。
飛距離は数十メートル。
方角は南方。
空中で体勢を整えて着地したクレアに追撃を仕掛ける。
カズマやレヴィとの戦闘のダメージもあってか、クレアの動きは確実に鈍くなっていた。
倒すならばこの機に乗じない理由はない。
仗助は防戦に移ったクレアに対して容赦のないラッシュを繰り出し続けた。
一方のクレアは"クレイジー・ダイアモンド"のラッシュを凌ぎながら、少しずつ南門付近へと後退している。
「……調子にのるな」
南門の目前で、クレアはラッシュの合間を縫って下から突き上げるように拳を放った。
"スタープラチナ"によるものではなく、クレア自身の肉体による攻撃。
仗助は大きく身を逸らしてアッパーを回避し、更に後方へと飛び退いた。
同時にクレアも後退を止め、体勢を整える。
結果、両者は南ゲートの門前で仕切り直す形となっていた。
「最後にもう一度だけ確認しておくぜ。どうしても退く気はねぇんだな」
「俺はすぐにでも戻らなければならない。悪いが命は諦めろ」
問答の内容は今までと何ら変わらない。
クレアは仗助をも殺して勝ち残るつもりであり、仗助にはそれを受け入れるつもりはない。
「……クレイジー・ダイヤモンド!」
仗助の号令一下、"クレイジー・ダイヤモンド"が豪腕を振るう。
狙いはクレア……ではなく、足元の地面であった。
人間離れした拳が舗装材を砕く。
そして、飛び散った破片が宙に留まり、一挙にクレアへと襲い掛かる。
「防げ!」
『オラオラオラァ!』
原因を考えるより早く、クレアは"スタープラチナ"に防御を命じた。
殴られ、砕かれる舗装材の破片には、どれも赤い血痕が染み付いていた。
ここに移動するまでのラッシュ合戦で"スタープラチナ"から伝達したダメージは、少しずつ、しかし確実にクレアを傷つけた。
そこから流れ落ちた血液は地面の舗装材に染み付き、広場から南門前までの道を斑点のように示していた。
"クレイジー・ダイヤモンド"が『直した』のはその血痕。
血痕はそれの染み付いた瓦礫ごと、血液の持ち主たるクレアへと戻っていったのだ。
全ての瓦礫を弾いたクレアの眼前には、既に"クレイジー・ダイヤモンド"が壮健な肉体を現していた。
それに呼応するように"スタープラチナ"も両腕を唸らせる。
南門近辺の外壁を背に、二体のスタンドがその力の限りを発揮する。
『ドラララララララララララララララ!』
『オラオラオラオラオラオラオラオラ!』
繰り出される拳は尽くが残像を残し、まるで数十の腕が飛び交っているかのよう。
際限なく放たれる打撃は、しかし共に相殺し合い、互いの本体には届かない。
一見すれば互角の殴り合いに思えるが、実際にはそうではないようだ。
スタンドのスペック差に加え、能力を活用した奇襲で先手を取られたことにより、クレアと"スタープラチナ"は確実に追い詰められつつある。
ここまで壮絶なラッシュともなると、もはや生身の人間が横槍を入れられる濃度ではなかった。
それは身体能力の問題などという単純な話ではない。
ミキサーに手を突っ込んで耐えられる人間がいないように、生物としての構造物質の問題なのだ。
クレアはじりじりと後退し、ついに外壁すれすれにまで追い込まれていた。
『ドラララララララララララララララララララララララララララララ!!』
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!』
本体の負ったダメージも響いているのだろう。
嵐のようなラッシュの趨勢は、次第に"クレイジー・ダイヤモンド"へと傾いてきていた。
それでもクレアは自らが死ぬとは思ってはいない。
しかし『迅速に勝ち残る』という誓いが揺らぎつつあるのは事実であった。
残り人数を省みれば、今はまだ序盤であるに違いない。
そんなところで苦戦しているのでは、迅速に事を成すなどできるはずがない。
『ドラララララララララララララララララララララララララララララララララ!』
ついに拮抗が破れる。
両腕を同時に弾かれた"スタープラチナ"の頬に"クレイジー・ダイヤモンド"の拳がめり込んだ。
スタンドから伝達されたダメージによってクレアの頭部も揺るがされる。
勝ち残らなければならないのに。
助けにいかなければならない人達が待っているというのに。
『ドラァ!!』
瞬間的に無防備となったクレアの身体に会心の一撃が迫り来る。
如何なクレアの身体能力を以っても、この攻撃には間に合わない。
防ぐこともあたわず、かわすこともあたわず。
乱戦の終わりを告げる一撃は驚くほど速やかに吸い込まれ――
――錯覚かと思った。
一瞬――ほんの一瞬だけ――
――世界が静止した。
気がつけば、"スタープラチナ"の拳が、"クレイジー・ダイヤモンド"の腹を抉り抜いていた。
「ヤロ……ウ、そこま……」
仗助の口と腹部から大量の血液が溢れ出る。
しかし放たれた攻撃は完全には停止せず、クレアもまた凄まじい力で外壁に叩きつけられる。
「終わったな……」
クレアは壁にもたれたまま呟いた。
あの一瞬に何が起こったのかは分からないが、結果としてクレアは致命傷を受けず、仗助は血まみれで地に伏している。
これを勝利と言わずに何と言うのか。
確かに、際どい戦いではあった。
ここに呼び寄せられて数時間で経た如何なる戦闘よりも、この男との戦いは伯仲していた。
人型のダメージが跳ね返ってきた影響であろうか、視界の右側が暗い。
全身に負った傷も決して浅くはないだろう。
だが、もはや勝負は決した。
考えるべきはこれからのことについてだ。
クレアは今後の指針に思考を傾けつつ、痛む身体を起こそうとした。
「……な、に?」
身体が動かない。
右半身が壁に張り付いてしまったかのように硬直し、クレアの随意に働かないのだ。
それどころか首も右に傾いたまま曲がらず、視界も大きく制限されていた。
まともに機能する左目をゆっくりと下に向ける。
――信じがたいことに。
クレアの右半身は本当に壁と溶け合ってしまっていた。
右脚、右腕、右肩、右頬、右目……全てが例外なく。
理由などクレアには分かるまい。
"クレイジー・ダイヤモンド"が放った最期の一撃は、その『直す』力によって、クレアの肉体を遊園地の外壁と融合させていたのだ。
『直す』とは決して本来の形状に戻ることを意味しない。
仗助が怒りに我を忘れれば、あるいはそうなることを望めば、見当違いの形状で『直って』しまう。
事実、これまでに仗助は複数人のスタンド使いを無機物と融合させ、再起不能に追い込んできている。
クレアもまた、不完全ながらその力によって『直されて』しまっていたのだ。
「砕け!」
『オラオラオラオラオラ!!』
"スタープラチナ"が強力かつ精確な手刀の連打でクレアの周囲の外壁を破壊していく。
破壊作業は一分と掛からず終了し、クレアは発掘された化石のように外壁から解放された。
しかし、コンクリートと癒着した右半身の自由を取り戻すことはできなかった。
右目の視力は完全に失われ、遠近感までもがぼやけている。
どうにか歩き出そうとしたクレアだったが、右脚が一切動かず、嘘のように転倒してしまう。
起き上がるために腕を突こうとするも、右腕はぴくりとも反応しない。
左腕と左脚、そして"スタープラチナ"の助けによってどうにか身を起こすも、脇腹が固まっているせいで姿勢を変えることも辛い。
もはやどこからどう見ても、クレアは戦闘者として再起不能であった。
しかしクレアは歩みを止めようとしない。
戦いからも逃げはしないだろう。
自分は死なないのだという確信と共に。
必ず帰るという誓いと共に。
◇ ◇ ◇
「ぐ……ぁ……」
全身に走る痛みを堪え、カズマは立ち上がった。
どれくらいの間、気を失っていたのだろう。
辺りに人の気配は全くない。
それどころか戦闘の音すらしなかった。
「あんの野郎、無茶苦茶しやがって……!」
カズマは生身に戻った右腕で地面を殴った。
車掌服の男はどこにもいない。
口の悪い女も、変な髪形のガキもだ。
やり場を失った憤りは留まるところを知らず、カズマの思考をも焼き焦がしていく。
もし次に連中と遭ったら容赦などしない。
いや、出会ったことのない誰かであっても手加減など有り得ない。
「……覚悟しやがれ!」
聞く者のいない叫びを残し、カズマは歩き出した。
そもそも最初から誰に向けた言葉でもなかったであろう。
確かなのはひとつだけ。
決着をつける機会を永遠に奪われ、肉体的にも深く傷ついた獣は、これからも無差別に牙を剥くのだろう。
戦いを招く火種は、今も彼の中にあるのだから。
◇ ◇ ◇
瞼を開くと、景色が変わっていた。
仗助はいやに痛む腹に触れようとして、腕が動かないことを知った。
腕どころか全身のどこにも力が入らない。
現状はよく分からないが、どうやら何かにもたれかかって、地面に座り込んでいるようだ。
「大丈夫ですの? 気をしっかり持って下さいまし!」
誰かが肩を揺さぶっている。
少しずつ、視界から靄が晴れてきた。
小さな少女だ。
アルルゥと同じくらいに――
「あんた……助けてくれたのか……?」
おかしなことを言っているなと、仗助は自分でも思った。
どてっ腹に大穴がブチ開いているのだ。
放っておこうとそうであるまいと、いずれ死ぬ。
それは自分自身がよく理解している。
こうして一時的にせよ意識が戻っただけでも僥倖だ。
身体の端から、少しずつ空っぽになっていく。
「わたくし達は、ただ逃げていただけですわ。
大事な仲間の仇が目の前にいたというのに……」
少女は仗助から目を逸らした。
もう一人、今の仗助からはぼやけてよく見えない場所にいる男も、視線を足元に落としているようだ。
二人の視線の先には、壊れた人形の部品らしきモノ。
ああ、あれが『大事な仲間』なんだなと、おぼろげながらに理解する。
「わたくしは
翠星石の想いを、翠星石の姉妹に伝えると決めていましたの。
けれどその意地のせいで貴方は……」
少女の言葉は、どれだけ仗助に届いていたのだろう。
仗助は動かない四肢の代わりに"クレイジー・ダイヤモンド"の片腕を発現させ、小さく手招きをした。
開いた口からは言葉ではなく血の泡が溢れる。
「喋っては駄目ですわ!」
少女と、慌てて駆け寄ってきた男、そして人形の残骸――
それらに"クレイジー・ダイヤモンド"の拳が振るわれる。
注ぎ込まれていく最期の力。
残骸がふわりと宙に浮き、少女のデイパックに吸い込まれていく。
少女は信じられないといった表情でデイパックを開き、ソレを取り出した。
「姉妹に……家族に会いに行くんならよぉ……ちっとはキレー……に……」
ソレに軽く触れてから、跡形もなく消滅する"クレイジー・ダイヤモンド"の腕。
少女の腕に抱かれているのは、瑕一つない美しい人形であった。
失われた命は"クレイジー・ダイヤモンド"でも戻せない。
けれど、その身体を元のカタチに戻すことならできる。
ごふ、と血液が喉を逆流する。
今のが正真正銘の打ち止めだ。
もうスタンドを使う力も残されていない。
心臓は動いているだろうか。
呼吸は続いているだろうか。
答えはどちらも、ノーだった。
だけど、ひとつだけ、やらないといけないことがのこされている。
「……っ!」
少女は仗助の血まみれの口に耳を添える。
かたることばはこえにならない。
「あるるぅ、あるるぅさんですね!?」
しかし少女は片言も聞きのがさまいと耳を澄ます。
あとふたこと、せめてひとこと。
「……分かりましたわ。必ず……! わたくし達が必ず!」
少女は頷き、仗助の目をまっすぐに見据えた。
たとえその目が何も映していないとしても。
◇ ◇ ◇
空が、青い。
雲が、白い。
風が、冷たい。
今のレヴィにとっては、それらの全てが苛立ちの元でしかなかった。
何が穏便だ。
何が情報だ。
妙な腕したクソ野郎に出会ったと思ったら急にイライラして、結局あのザマだ。
しかもあれだけ撃ちまくって一人も殺せず、それどころかヤラれて植え込みの中で仰向けに倒れてるなんて無様この上ない。
「クソッタレが……」
徹底的に潰された左腕が、脳ミソに激痛を絶え間なく叩き込んでくる。
これはもう応急処置のレベルでは済まないだろう。
「これはヤベぇよな……病院……医者、居るかぁ?」
これだけ広大な遊園地に、参加者以外の誰もいないのだ。
病院に行ったところで、きっと医薬品や機材が置いてあるばかりで、スタッフは一人も居ないに違いない。
大掛かりな手術など期待は出来まい。
「まぁ、鎮痛剤くらいは見つかるだろ」
レヴィはそう考え、植え込みから身を起こした。
眼前の広場は荒れ果てていたが、戦闘自体は終わってしまっているようだ。
植え込みに深くはまり込んでいて気付かれなかったのか、それどころではなかったのか、気絶している間に襲われることはなかったらしい。
もしもわざと無視されていたのだとしたら、それは紛れもない屈辱だ。
……情報を集めるという方針は、まだ変えない。
だがあの乱戦に加わっていた奴は例外だ。
出会い次第ブッ殺す。
頭に弾丸をブチ込むまで許さない。
「見てやがれ、クソッタレ」
まずは病院。
それと武器弾薬だ。
手持ちの予備弾数では心許ない。
できればもっと火力のある武装が欲しい。
決意も新たに、レヴィは新たな目的地を目指した。
◇ ◇ ◇
狭くて暗い箱に光が差した。
木箱の蓋がごとりと動き、少しずつ光が広がっていく。
アルルゥは逆光に目を細めて、光の中の誰かを見つめた。
「……だぁれ?」
仗助ではない。
人影は背が低く、木箱の端から顔だけを覗かせている。
「アルルゥさんですわね」
人影が身を乗り出す。
木箱によじ登って身を乗り出し、すっと手を伸ばす。
アルルゥは首を傾げた。
人影――金色の髪をした少女は、アルルゥの知らない子だった。
「わたくしは……わたくし達は……」
少女はそこで言葉を切って、少しだけ哀しそうな顔をした。
けれどそれは一瞬のこと。
すぐに優しそうな微笑みを取り戻して、アルルゥの前で手を広げた。
「わたくし達は仗助さんの……お友達ですわ」
【ドラえもん@どらえもん 死亡】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】
【G-3北部/1日目 朝(後半)】
【カズマ@スクライド】
【状態】:疲労(大) 全身に負傷 砂鉄まみれ 右腕に痛みと痺れ 右目の瞼が上がらない 右頬に小さな裂傷(アルターで応急処置済み)
腹部と頬に打撃ダメージ、脇腹と左肩に銃創
【装備】:桐生水守のペンダント(チェーンのみ)、スタンドDISC『サバイバー』@ジョジョの奇妙な冒険
【道具】:基本支給品一式(食料を二食分、水を1/3消費)、ランダム支給品0~2
【思考・状況】
1:とにかくあの野郎をぶん殴る。(誰かはよく分かっていない)
2:優勝狙い。
3:次に新庄、伊波と出会ったら……
4:メカポッポが言っていた、
レッド、佐山、小鳥遊に興味。
※ループには気付いていません
※メカポッポとの交流がどんな影響を及ぼしたのかは不明です。
※参戦次期原作20話直後。
※DISCが頭に入っていることは知っていますが、詳細については一切把握していません。
※レヴィには気付かず移動を開始したようです。
※何処へ行くかは次の方にお任せします。
【G-3南部/1日目 朝(後半)】
【
クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:疲労(中) 拳に血の跡 脚にいくらかの痛み、左肩にわずかに切り傷、背中に銃創、腹部・胸部・右頬にダメージ(中)、右拳の骨にヒビ
右半身がコンクリートと癒着(右目失明、右腕並びに右脚の機能喪失等)
[装備]:スタンドDISC『スター・プラチナ』@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~1
[思考・状況]
1:優勝し、ギラーミンから元の世界へ戻る方法を聞き出す。
2:優勝のために他の参加者を殺す。迅速に、あらゆる可能性を考慮して。
3:レヴィ、ウルフウッド、梨花、沙都子、クリス、カズマと再び出会った時には彼女らを殺す。
4:フィーロを殺した相手が分かったら、必ず殺す。
【備考】
※何処へ向かうかは後続の方にお任せします。
※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
※フィーロがいたことを知りましたが、名簿はまだ見ていません。
※ほんの一瞬だけ時間停止が可能となりましたが、本人はまだ気付いていません。
※梨花が瞬間移動の能力を持っていると思っています。
※右半身の数箇所がコンクリートと一体化しました。余分なコンクリートはスタープラチナが破壊しましたが、機能は戻っていません。
【G-3中央 広場内植え込み/1日目 朝(後半)】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]疲労(大)、全身に負傷(中)、左小指欠損(応急処置済み)、顔面と左脇腹に痛み、左腕複数箇所骨折等
[装備]スプリングフィールドXD 5/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾10/30 @現実、
カビゴンのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、ゴローニャのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]支給品一式(一食消費、水1/5消費)、応急処置用の簡易道具@現実
[思考・状況]
基本行動方針:悪党らしく、やりたいようにやる。
1:医薬品、武器弾薬を調達する
2:他の参加者と接触してなるべく穏便に情報を集める。他に
バラライカの情報を集める
3:クレア、仗助、カズマは出会い次第殺す
4:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません)
5:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力尽く。
※クレア、仗助、カズマが何処へ行ったかは知りません。
※カズマが移動して暫くしてから気がついたようです。
※参戦時期は原作五巻終了後です。
※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。ポケモンと混同してる節があります。
※ポケモンの能力と制限を理解しました。
【G-3南端 南門付近 サーカステント用具室内/1日目 朝(後半)】
【
北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、疲労(小)、L3
[装備]:象剣ファンクフリード@ONE PIECE、レッドのニョロ@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:支給品一式×2<沙都子、翠星石>、グラン・メテオ@ポケットモンスターSPECIAL、
翠星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン、翠星石の亡骸首輪つき
[思考・状況]
1:真紅、もしくは
蒼星石にローザミスティカを届ける。
水銀燈には渡さない。
2:アルルゥを家族に会わせる。
3:部活メンバーに会いたい。
※参戦時期は具体的には不定。ただし、詩音を『ねーねー』と呼ぶほどに和解しています。『皆殺し編』の救出以降ではありません。
※名簿は確認したようです。
※雛見沢症候群の進度は具体的には不明。L5まで進行した場合、極度の疑心暗鬼と曲解傾向、事実を間違って認識し続ける、などの症状が現れます。
説得による鎮静は難しいですが不可能ではありません。治療薬があれば鎮静は可能ですが、この場にあるかどうかは不明です。
※真紅、蒼星石、水銀燈に関しては名前しか知りません。
※クリストファーの名前をクリスタルだと思っています。
※アルルゥの名を仗助から聞きましたが、アルルゥの家族の詳細についてはまだ把握していません。
【
クリストファー・シャルドレード@BACCANO!】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:F2000Rトイソルジャー@とある魔術の禁書目録(弾数40%)、5.56mm予備弾倉×4
[道具]:支給品一式、クリストファーのマドレーヌ×8@バッカーノ!シリーズ
包丁@あずまんが大王、不明支給品(0~1)
[思考・状況]
1:沙都子をアルルゥを守る?
2:クレアには会いたくない。
※ローゼンメイデンについて簡単に説明を受けました。他のドールの存在を聞きました。
※名簿を確認しました。
※参戦時期は、『1934完結編』終了時です。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式×2<アルルゥ、仗助>、ニースの小型爆弾×4@BACCANO!、
不明支給品(0~2) <アルルゥ>、不明支給品(0~1)<仗助>
[思考・状況]
1:誰……?
2:
ハクオロ達に会いたい
3:仗助を待つ
※ココが殺し合いの場であることをイマイチ理解していません
【翠星石の亡骸首輪つき】
クレアに破壊された翠星石の亡骸。首輪付き。
仗助のクレイジー・ダイヤモンドによって損傷は復元されたが、蘇生はしていない。
【DISC『サバイバー』】
第6部に登場したスタンドと、その能力を封じたDISC。
本体が怒ることによって周囲の生物を無差別に凶暴かつ好戦的にして争わせる。
射程は通常で十数メートル、電気が伝わりやすい環境であれば数百メートル。
効果の度合いは個人によってばらつきがある。
凶暴化に伴って、潜在能力を引き出したり、相手の肉体の優れた部位やダメージを負った箇所が分かるようになる。
対象を選択できない能力のため敵味方関係なく戦うようになってしまう。
DIO曰く「最も弱いが、手に余るスタンド」
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最終更新:2012年12月02日 19:19