路傍の石◆ua0kuOGETk



「どないしよ~」

ゾロを見送ったあと、大阪は30分ほどかけてズブ濡れの体を焚火で乾かしていた。
この異常な状況下にようやく体が慣れたのか、空腹を覚えたので少し食事を取り水を飲む。
聖剣グラムはサイズに比して軽いとはいえ、小柄な大阪には大きすぎたのでバックに戻し、代わりにゾロに貰った剣を腰に差した。

身支度を整えたあと、大阪は再び市街地への橋まで戻っていた。
この橋を渡り市街地に入れば、駅を始めとする各種施設を利用出来る。
都市で生まれ育った大阪にとってはホームグラウンドとも言える環境だが、先ほどのゾロのように施設を利用するために集まる人間も多いだろう。

逆にこの道を西に向い、マップの端がどうなっているのかを確認するという選択肢もある。

「このまま街に行ったほうがええんかなー……。
 地図の端っこまで行ってみたほうがええんかなー……」

ゾロと出会う前の思考を再び繰り返す。
いつもなら思い切りのいい暴走娘・ともや、見識や判断力に優れた天才少女・ちよちゃんが大阪に助言をくれただろう。
だが、今ここに大阪の友人は一人もいなかった。
大阪はまるで横断歩道を渡る時のように道路の左右を何度もゆっくりと確認し続ける――

『なにやってんだよ大阪ー! もたもたしてないでさっさと行くぞー!! 
 こんななんにもないところにいってもしょうがないじゃーん』

『いいえ、大阪さん。ここは慎重を期するべきです。
 まずはこのマップの先がどうなってるのか確認して、市街地に向かうのはそれからでも遅くありません! 』

大阪の脳内で、かわいらしくデフォルメされた友人の姿を借りた会議が果てることなく続く。
堂々めぐりを繰り返す大阪の頭脳はいつものごとく横道に逸れはじめる。

(こっちに連れてこられたのはわたしと榊ちゃんだけみたいやけど……ちよちゃん、ともちゃん、元気にしとるかなー
 それによみちゃん、神楽ちゃん…わたしたちのこと心配してるやろか…)

扇風機のように首振りを繰り返す大阪の視線の先、さっき出てきたばかりの遊園地が目にはいる。
さまざまな遊具の中でも特に巨大な観覧車、ジェットコースターといった物はこの距離からでも目立って見えた。

(遊園地かー。みんなで行った時は面白かったなー、あのときはよみちゃんが来られんで……
 そーや、ここから帰ったらまたみんなで遊園地に行こう。今度はよみちゃんも一緒や……)

友人たちの事を思い出し、大阪は微笑みを浮かべる。
先ほどのゾロに向けた作り笑顔と違う、大阪本来のゆるい笑顔。
ここに連れてこられてまだ12時間も経っていないというのに、ずいぶん久しぶりに本当に笑った気がした。

「はぁー、がんばって帰らなあかんのや……しっかりせな……」

気を取り直した大阪がようやく我に帰る。
いつもの日常であれば、仲間たちが呆れながらも生暖かく見守っていた彼女の悪癖。
だが、このバトルロワイアルにおいて、そのような悪癖はとてつもないピンチを自ら招くものとなった……


   ◇ ◇ ◇


「ヒッ!! 」

思わず悲鳴をあげそうになった口を慌てて押える。
いつのまにか前方50Mほど先を、猫背の男がこちらに向かってきていたのだ。
石ころ帽子をかぶっていなければ発見されていたかもしれない。

(さっきの凄い右腕の人やっ! どないしよーー!
 あの人も市街地にいくつもりなんやろか……)

この橋は川に遮られた南の土地と市街地とを結ぶ交通の要衝なのだ。
あの遊園地にいた人間がこちらに来る可能性は高い。自分もそうだったではないか。
そのような場所で考えに耽っていた自分のうかつさに大阪は今更ながら思い当たる。

動転しながらも慌ててグロックを取りだす大阪の脳裏を、ここに来てから目撃したアクション映画のような数々の光景が横切る。


パァン

大阪の撃ち出した銃弾を、男がロボットのような右腕であっさり弾く!

「うおおおおおおおおっ!! 」

雄たけびを上げながら突っ込んでくる男に殴り飛ばされて無残な死体となる自分……



「二刀流やー」

手に入れた二本の刀を振り回しながら突っ込むがあっさりとかわされ、カウンターを叩きこまれて無残な死体となる自分……



(駄目や……あんなのにわたしが敵うわけない……)

持ち前の豊かな想像力が自分の悲惨な未来図をいくつも描き出す。

(やりすごすんや……大丈夫、これさえあれば……)

幾度も自分に力を与えてくれたひみつ道具、石ころ帽子を手で押さえる。

(石ころや、石ころになりきるんや)

銃や剣なんていらない。
得意と言えるものが何もない大阪が唯一誰にも負けないもの……想像の世界に入り、何時間も微動だにせずに岩のようにその場でじっとしている事。
そんな何の役にも立たなかった特技が石ころ帽子というひみつ道具を手にした今、彼女の最大の武器となる。

猫背の男が近付いてくる。

――40m

――30m

――気付かれない。

やはり市街地へと行くつもりなのか、その片目だけの視線は橋へと向けられている。
だいぶ疲れているのか、足を引きずるようにして歩くそのスピードは遅い。
念のため、片手に握られたままのグロックの照準は合わせておく。
右腕以外のほとんど全身が濁って見えたが、お腹のあたりが特に酷くみえた。
きっと弱っている部分なのだろう。

(ここを狙えばわたしでもこいつを倒せるかもしれへん)

銃を握るグリップに力が籠る。
自分でもわけのわからない苛立ちを、目前の男に対して抑えきれない。
元来穏やかな性格の彼女には有りうべからざることだった。

――20m

橋の目前だと言うのに、男の歩みが止まる。
周囲の気配を探るかのように、片目が閉じられた。

――気付かれたんッ!? 撃たなっ!!

パァン!!

水没してからろくに整備もしていないグロックが、それでも火を噴き、
銃の内部に残っていた水滴がスライドの反動で飛び散る。

「わぷっ」

だから彼女には見えなかったのだ。
男が、シェルブリットのカズマが獣のように四つん這いの体勢を取り、9mmパラベラム弾をかわす瞬間を。


ガァン! ガァン! ガァン!

周囲の物質が音を立ててアルター化し、カズマのアルター『シェルブリット』が顕現する。
両目をカッと見開くと同時に現れた背中の風車のような羽が回転し、ヘリコプターのように宙に浮き上がった。

「い、いややーーーーーーー!! 」

現われた異形の姿に恐慌を来した大阪がグロックを乱れ撃ちするが、所詮付け焼刃の彼女の銃の腕では
不規則に宙を漂うようなカズマの三次元の動きに対応出来ない。

「うおおおおおおおおおおおっ!!! 」

空を駆ける獣と化したカズマが急降下し、光り輝く右腕が大阪の腹にめり込んだ……


   ◇ ◇ ◇


「チッ……」

アルターの真の力を解放するまでもなく、殴りつけただけで足元の女は既に瀕死。
どうやら新庄、伊波と同様、この女もほとんど何の力も持たない人間だったようだ。
女が撃つ前に感じた明確な殺意。
そんな殺意を向けられて、力の有無で手加減などあり得ない。
そんな甘さではロストグラウンドは生き抜けない。

勝者が全てを得るという、ギラーミンの掲げたこの戦いの条件。
弱肉強食。カズマも良く知るロストグラウンドの……この世の条理だ。
だがそんな世界でカズマは弱い者から奪う事を良しとせず、常に強者を相手にして己の力のみで生き抜いてきた。
それが知恵も権力も持たないカズマが持つ、ただ一つの誇り。
その自分が、いや、この会場にいる全ての人間がギラーミンの敷いたレールに乗って、自分の意思ではない戦いを強いられている……

「遠くからこっちを見て、ほくそ笑んでやがるのか……あの本土側のアルター使い、無常矜侍みてえによ……」

後悔などしていない、する暇もない。
だが、なんでもない足もとの小石に躓いてしまったような胸くその悪さに、血が上りきっていた頭が冷える。

「すまねぇな、かなみ。もうちょっと待っててくれや」

自分とつるんでる者には全て災厄が訪れる。
そんなつまらない考えで全てを放り投げたこともあった。
だが、しょうがない。やりたいようにやる。欲しいものは奪い取る。関わった人間には腹くくってもらう。
そうやって生きてきたのがシェルブリットのカズマなのだ。

『もう、しょうがないなぁカズ君は……』

かなみの優しい声が聞こえた気がする。

「待ってろギラーミン。
 てめーの面に必ず一発入れてやるぜ。俺の自慢の拳をな……」

そのために途中までレールに乗るしかないとしても、最後までは思い通りにさせない。

道端に落ちていた春日歩のデイバックを拾い上げると、カズマは市街地へと向かった。
別に目的地があるわけではない。
獣は自分の臭覚のみを頼りに動くだけだ。

【F-2橋付近/1日目 午前】
【カズマ@スクライド】
【状態】:COOL 疲労(大) 全身に負傷 砂鉄まみれ 右腕に痛みと痺れ 右目の瞼が上がらない 右頬に小さな裂傷(アルターで応急処置済み)
     腹部と頬に打撃ダメージ、脇腹と左肩に銃創
【装備】:桐生水守のペンダント(チェーンのみ)、スタンドDISC『サバイバー』@ジョジョの奇妙な冒険
【道具】:基本支給品一式×4(食料を3食分、水を1/3消費したペットボトル×2、)、不明支給品(0~5)、聖剣グラム@終わりのクロニクル
    モンスターボール(ピカ)@ポケットモンスターSPECIAL、君島邦彦の拳銃@スクライド
【思考・状況】
1:ロストグラウンドに戻り、かなみを助ける。そのために優勝する
2:ギラーミンを殴り飛ばす
3:ムカつく連中をぶん殴る。(ゼロ:誰かはよく分かっていない、仗助:死亡を知らない、クレア、レヴィ
4:次に新庄、伊波と出会ったら……
5:メカポッポが言っていた、レッド、佐山、小鳥遊に興味。
※ループには気付いていません
※メカポッポとの交流がどんな影響を及ぼしたのかは不明です。
※参戦次期原作20話直後。
※DISCが頭に入っていることは知っていますが、詳細については一切把握していません。


   ◇ ◇ ◇


「ゲポッ、ゲホッ」

内臓が傷ついたのか、咳とともに血が吐き出される。

(あー、物凄いパンチやった……昔、ともちゃんに貰ったパンチなんて比較にならんで……内臓飛び出るか思ったわ……)

男は既に立ち去り、辺りは再び静寂に包まれる。
遠くに見える遊園地の景色。
とても殺し合いの舞台とは思えなかった。

しばらく冷たい地面に横たわっていると、痛みを感じなくなり、意識が遠のいてくる。

(ああ、良かった……痛みが引いていくわ……ちょっと休もか……)

荷物が奪われたのは困ったが、幸い武器までは取られなかった。
ちょっとだけ眠ろう。みんなとまた遊園地で遊ぶ夢が見られるかもしれない。




遊園地のゲートの前でみんなが待っていた。
ちよちゃん、ともちゃん、よみちゃん、神楽ちゃん、榊ちゃん、ゆかり先生や黒沢先生、かおりんもいた。
みんな笑顔だ。これから遊園地で楽しく遊ぶのだから当然だ。

ともちゃん、よみちゃん、神楽ちゃんが待ちきれないようにゲートに雪崩れ込む。
ちよちゃんも慌ててみんなを追いかける。

「ちよちゃーん、走ったらあかん……」

お姉さんのように、ちよちゃんに注意するが自分も小走りだ。
榊ちゃんはちよちゃんのお父さんと手をつないで歩いていた。

(榊ちゃんも無事やったんや……良かったなぁ……
 あれ、無事って何やったっけ……)

何か怖い夢でも見ていた気がするが思い出せない。
だが、思いだすのに足を止めるわけにはいかない。足の遅い大阪はみんなを必死で追い掛ける。

「まってー」

遊園地の喧噪で自分の声が届かないのか、みんなは足を止めてくれないが焦ることはない。
みんな一緒なのだ。



自分が吐いた血が返り血のように大阪の体を汚していたが、その顔はまるで寝顔のように安らかだった……

【春日歩@あずまんが大王 死亡】



※F-2橋付近にグロック17@BLACK LAGOON(残弾10/17、予備弾薬39)、石ころ帽子@ドラえもんトウカの刀@うたわれるもの
を装備したままの春日歩の遺体が放置してあります
常人のそれを超えた五感を持つ者なら気付くかもしれません
※不明支給品(0~5)は
大阪(グロック17、石ころ帽子、?)
ジョルノ(ウェイバー、?、?)
カズマ(水守のペンダント、?、?)です




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最終更新:2012年12月03日 01:17