喜怒哀嫌◆YhwgnUsKHs




 信じられなかった。


 信じる事なんてできなかった。



『彼は死んだんだ』



 見知らぬ男の言葉なんて信じられなかった。信じたくなかった。
 死んだという言葉の意味は知っている。
 だから嘘だと思いたかった。
 例え6時間程度の時間しか共に過ごしていなくても。例え彼のことなんてほとんど知らなくても。
 そんなことは関係ない。楽しかった。彼といた時間は楽しかった。
だから。ただ、ただ。


 もう、彼に会えないなんて信じたくなかった。



 気がつけば、彼女は走り出していた。
 ただ我武者羅に走っていた。どこに行こうという宛てもなく。
 慌てる少女も、首を傾げる男も無視して走った。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ。
 彼が死んだなんて、嘘だ。


 信じたくなくて走った。
 信じられなくて走った。
 悪い想像なんか考えたくない。
 だから、あんな嘘をつく人から逃げ出したい。


 はずだった。それなのに。

「え?」


 走って辿り着いた先に、もっと信じたくないものがあった。

 倒れているなんだか青い金属の塊。その、向こうに。



 彼女の知る者が血の中に沈んでいた。




カルラ……?」



 *****


 胸糞悪い。
 むかつく。
 イラつく。
 何かぶっ飛ばしたい。
 むしろ何かぶっ放したい。
 ていうか何か撃ちぬいてスカッとしたい。

 それがレヴェッカ、通称レヴィの頭の中を現在占める感情の大部分だった。
 その原因は今まさに彼女の目の前にあった。


 病院へ向かうべく足を進めていた彼女が辿り着いた先、そこはさっき乱戦が起こったまさにその場所。
そこにあったもの。それはさっきの戦闘の最中では気に留める暇も余裕もなかった対象物だ。
 機械を撒き散らした青い体のよくわからない物体(ポケモン、なのかもしれないがレヴィは深く考えない事にした。)。
 たしか説明の時にギラーミンと知り合いそうに話していた奴だ。それがここで粉々になっている。

 ここからレヴィが考えたのは、あまり良くない答えだ。
(チッ。あのクソ野郎の情報源2つが消えちまったってことか)
 説明の時、ギラーミンが顔見知りのように相手をしていたのはこの青いのとメガネの少年、のび太と呼ばれた少年のみ。
 そしてのび太は第1回の放送で既に名前を呼ばれている。
(この殺し合いの原因のガキがさっさとリタイヤだぁ? ざけてんのか。酒の摘みのジョークにもなりやしねえ)
 放送後に既に苛立っていたことが青物体を見た瞬間再燃してしまっていた。そして、その奥。

 女が倒れていた。やけに軽装な服の女だ。服はレヴィが知るようなものでなく、どこか異国の、民族的な衣装に見えた。
 その女には獣の耳が生えていた。レヴィは少し目を細めたが、それほど動揺はしなかった。
 なにしろ仮面のマッチョマンに光る手甲の男、驚異的な身体能力を持つ赤髪の男、変な人形を出す少年、目の前の青狸と、
ロアナプラで見かけたこともないような(赤髪男はまだ人間としてセーフラインとしてもだ)連中ばかりでもう感覚が麻痺してきていた。
 それにどうせ死んでいるのだ、そんな身体的特徴はどうでもいい。
 女の背中にはいくつも穴が開いていて、そこから血が滲んでいるのが見えた。何発も銃で撃たれたというのはすぐにわかった。
 彼女にとって銃創など朝飯くらい見慣れているものだ。朝飯と違うのは彼女自身が作る事が多い、という点か。
 その箇所がことごとく急所を外している点からしても、撃ったのはおそらく素人。
 少なくとも、彼女の知るメイドや姉御の仕業ではないだろう(彼女らがこの殺し合いに乗る気かどうかはこの際さておき)。


 だが、その全てはレヴィにとってどうでもよかった。
 彼女がその視線を向けるのは、倒れている女の手前にいた。


「カルラ? おきて? おきて?」

 見覚えのある少女だった。
 女と似た意匠を思わせる服、女と同じ獣の耳、女にはない尻尾、それらを身につけた小さな少女、それが女の横で膝まづいて女を揺すっていた。

 東方仗助
 少し前にここで、その更に前に森で対峙したリーゼントの青年。
 その青年とのファーストコンタクト時、彼がずっと抱いて離さなかった少女がいた。
 レヴィにとって標的は仗助だけだったので少女などどうでもよかったが、憎き仗助を思い出すと彼が抱く
その少女もまた同時に思い出すことになるので自然と覚えていた。
 だから断言できる。目の前の少女はその少女と同じ人物で間違いはない。

 けれど、それもまたレヴィにとっては至極どうでもいい。
 さっき交戦した仗助がこの少女の近くにいない事もどうでもいい。
 ただ、彼女が苛立つのは。


「ねえ、起きて? 起きて?」


 ただ、彼女を腹立たせるのは。


「いつまでもねてると、おこる。みんな、おこる。ね? おきて?」




 原因を考える事すら腹ただしい、だから




「いい加減うざってぇんだよクソガキ!!」


 ただそれを、ぶつけた。

 ****


 気付けば、アルルゥは宙を舞っていた。それも僅か、彼女はアスファルトに叩きつけられ、地面を転がった。

「え……?」

 彼女は鈍い痛みを感じながら何がなんだかわからなかった。突然自分に襲い掛かった衝撃が理解できなかった。

 レヴィが彼女のわき腹を思い切り蹴り上げた衝撃を。

「っ!?」

 倒れたままだったアルルゥの、アスファルトに頬がついた頭に何かが乗った。冷たい何かが。
 アルルゥはそれがレヴィの靴だと気付かない。

「おいガキ。1つ聞いてやる」
「い、いたい…」

 靴をぐりぐり動かされ、アルルゥは苦痛に顔をゆがめた。けれど、レヴィはそんなことを気にも留めなかった。


「なぁに、簡単な質問だ。1+1とか犬は哺乳類かってくらい簡単な話だ」
「いたいぃ…」

 アルルゥの声に悲痛な物が混じってもレヴィは足をどけない。
 彼女はもう片方の脚をアルルゥの目の前に出し、その爪先を軽く振った。
 何度もされるそれに、アルルゥはそれがその先を見ろという指示だと悟った。
 痛くて仕方ないが、そう仕草を理解すると目を動かしてしまうのは心理と言う物だ。
 その先にいるのは、血まみれのカルラだった。
 アルルゥにとっては紛うことなき知り合い。
 それを見るように指示したレヴィは、不機嫌そうな顔と声で言った。


「『アレ』は、なんだ?」


(あ、れ?)

 アルルゥはしばらくその言葉が理解できなかった。
 『アレ』という意味は知っている。よく遠くの物を指差して『あれ』と言ったり、何かを思い出そうとして
『アレ』と言うのをエルルゥたちとの生活で何度も耳にしていた。
 だけど、アルルゥにはレヴィが言っている事が分からなかった。
 彼女の爪先が指し示す先には、倒れているカルラしかいない。
 起きてくれない、そう起きてくれないだけに決まっているカルラしかいないのだ。
 アレ、と言われるような物が見当たらない。
 答えないアルルゥに更にレヴィは聞く。


「もう一度だ。『アレ』は、なんだ?」
「……あれ、って、どれ?」


 アルルゥがぽつりと呟くと、レヴィは嫌そうに顔を歪ませた。
 そして、アルルゥを踏んでいない足を思い切り振り上げ


「これのことに決まってんだろうが!!」


 ゲシッ、という鈍い音と共にカルラの頭が思い切り蹴り飛ばされた。
 頭はアスファルトに激突するとガッ、という音を伴ってバウンドし、そしてまた
アスファルトの上にがこん、という頭蓋骨の音を響かせて落ちた。
 それによって血が飛び、レヴィの足が汚れたが彼女は気にしていないようだった。
 だが、アルルゥは違う。


「カ、カルラ! カルラァ!!」


 大切な仲間が暴力を振るわれた事でアルルゥは全力で立ち足を跳ね除けようと思った。
 だが、レヴィの足の方がそれより速く持ち上がり


「っ!! がっ…あ…」


 思い切りアルルゥの背中を踏みつけた。
 肺を圧迫されて呼吸が一瞬困難になったアルルゥは、アスファルトに這いつくばったまま動く事ができなくなった。
 苦しそうにするアルルゥに、レヴィはその不機嫌そうな顔を近づけた。

「カルラだぁ? そいつがてめえの知ってる奴の名前だってのはわかったよ。でもなぁ、『コレ』は違うだろ? コレはカルラじゃねぇ」
「!? う、うそ! カルラ! カルラ!」
「ちげぇっつってんだろ。いいかクソガキ。コレがいつまでカルラだったのかはしらねぇ。放送が終わった後ってこと以外はな。
 誰にやられたのかもしらねぇ。あのツンツン頭かもしれねぇし、あのクレアって赤髪野郎かもしれねぇし、あのヒガシカタかもしんねぇ。
 でもな、そんなことはどうでもいいんだ。いいか、教えてやる」

 そういうと、レヴィはもう一度カルラの頭を蹴り上げた。
 それは同じようにバウンドし、またアスファルトに叩きつけられる。
 さっきと違うのは、なにか軽い音が響き、カルラの顔の輪郭がわずかに変わってしまったように見えることだけだ。
 おそらく骨が折れたのだろう。
 それを見せ付けて、レヴィは言い切った。


「コレはもう、物だ。たんぱく質とか肉とか骨とかの固まりだ。だからこいつはカルラなんて奴じゃねえんだよ。
 てめえの知ってるカルラってのは、こんなにされても寝てるようなマゾ女なのかぁ?あ?
 だからな、わかるだろ?カルラなんて奴はもういなくて、コレはただの肉の詰まったずた袋なんだよ!!」


 そこまで言い切るとレヴィは足をアルルゥからどけ、その首根っこを思い切り掴むとカルラの死体に押し付けた。
 レヴィの言葉をゆっくりと理解し始めていたアルルゥにとって、それは更なる苦痛だった。

 冷たい。
 カルラ……だったものは、あまりに冷たかった。
 固まってきた血の感触は気持ち悪かったし、なにか異臭のようなものもしてきていた。
 わずか2時間程度放置されただけでも今は日が高い時間帯だ。それだけ匂ってくるのも早いのだろう。


 認めたくなかった。
 彼女とて、知っている。
 『死』を知っている。
 でも、それがこんな突然に起こったなんて信じたくなかった。
 少し前までは平和だった。見知らぬここに来る前、至って平和な日々があったはずだ。
 もっともっと、みんなと一緒にいられると思っていた。それが、突然終わってしまった。

 血まみれのカルラを観て、希望を持っていた。
 きっと何かの間違いだ。
 きっと次の瞬間には、平然と起きてくれるに違いない。
 だから起きて、と呼びかけた。
 けれど、その幻想をレヴィは力ずくで打ち砕いてしまった。
 それはあるお人よしの≪幻想殺し≫とは違い、誰かを助ける為ではなく、
ただ自分の怒りを晴らしたいがための≪幻想破壊≫だった。


 カルラはもういない。
 これはもう、カルラではない。
 ただの肉の塊だ。


「いや……いやぁ……」

 アルルゥは泣いた。
 もうカルラはいないと突きつけられて。
 少女はついにここが地獄だと知る。
 涙は、カルラの歪んだ顔に落ちて血に混じっていく。


 *****

(ちっ、何やってるんだかな)

 レヴィはもうアルルゥから手を離していた。
 アルルゥはカルラの遺体の前で泣いている。レヴィが蹴り飛ばす前と同じだ。
 違うところは、アルルゥはもうカルラを起こそうとしないこと。もう起きないのだと知ってしまった。
 ただ、それだけのところ。
 それを教えたレヴィは内心更に苛立っていた。

(くそ、こんなガキ相手に何やってるんだあたしは。見てるだけでイラついたってもよ)

 現実を見ない奴。ガキ。どちらもレヴィは大嫌いだ。
 死体相手に泣き叫んだり祈りを捧げる奴など馬鹿にしか見えない。そんな奴はその間に撃たれる、それが彼女の世界だ。
 見てるだけでもイラつく。だからそのイライラの元を消した。ただそれだけのことだ。
 もっとも、いつもの彼女なら銃で解決するところだが。


(こいつにはヒガシカタがどこに行ったか聞かなきゃなんねえからな。
 それ以外の情報も、期待はしてねぇが手に入れておきてぇし)

「おいガキ、そろそろ泣き止め。さっきの連中に今てめえの鳴き声アナウンスでここにご案内されちゃ困るんだ」

 レヴィがそう言うと、アルルゥはキッと勢いよく振り返った。
 その目に涙は溜まっている。けれど、それははっきりとした敵意を含んでいた。敵意の視線がレヴィに向けられている。

「ハッ。ソレを蹴られて怒ったか? 別にカルラって奴は痛くも痒くもねぇよ。
 死んじまった奴は何にも感じねぇ。それくらいてめえも知ってんだろ」
「……でも、あやまって」
「はっ、なんでモノに謝んなきゃいけねぇんだ」
「カルラにあやまって」
「だから、そいつは」

 レヴィは更に言葉を続けようとしたができなかった。
 なぜなら

「あやまって!! カルラはもう起きない。でも、あやまって。カルラにあやまって!!」

 カルラの死を受け入れて、それでも彼女は言う。
 謝れ、と。カルラ自身に謝れと。

 その言葉に、レヴィは



「本当……どこまでもイラつくガキだなてめえは!!」



 気がつけば、銃を振り上げていた。
 撃つ気はない。軽く頭をぶったたいて、胸倉を掴んで情報を引きずり出してやる。
 どこまでも夢を見る。どこまでも幻想を見る。
 レヴィはゴーストも魂も信じていない。死ねばそれだけだ。
 だから、目の前のガキはイラついてしょうがない。とことん自分と考えが違うコイツがイラついてしょうがない。まるでどっかの誰かのようで。
 だからぶん殴る。細かい事は考えない。なんで自分がここまでイラつくのかは考えない。
 そして彼女が拳銃を振り下ろした瞬間。



 連続した銃声が響いた。



「ッ!?」

 レヴィは振り下ろすのをやめ、その場からすぐに飛びのいた。
 少し離れた地面が軽い音共に抉られる。

(連続ってこたぁ…サブマシンガン、突撃銃、ってとこか)

 銃声から相手の銃種をマシンガンの系統だと特定し、銃声のした方に拳銃を向ける。
 見ると、それは遊園地の中でも木々の茂ったスペース、その茂みの中だった。
 がさがさ、と音がしている。逃げようとでもしているのだろうか。だがあまりに遅い。

(上等だ、誰に喧嘩売ったかわからせてやらぁ!)

 アルルゥへの怒りの矛先を自分を狙い打ったマシンガンの持ち主に変え、レヴィは拳銃の引き金を絞ろうとした。
 まずは牽制して相手の動きを止める、それが狙いだ。


 ただし、背後から接近してくる人影にレヴィが気付かなかったならの話だが。


(ちっ! いつもなら対応できるが…!)

 レヴィは両方を確認できるよう体勢を変えた。
 いつもならば二丁のソードカトラスで両方とも迎撃するところだが、今ある銃は一丁。
 しかも左腕は使えない。よって相手にできるのはどちらかだけ。
 接近してくる相手は、男だ。剣のような物を構えてまっすぐにレヴィへと駆けてくる。
 あの手甲の男でも、赤髪のクレアでも、ヒガシカタでもない、初めて見る相手だった。

(なるほど。マシンガンとこいつが挟み撃ちにするって手か。いい手だ、が!)

 レヴィは離れると見せかけ、一気に男の懐に飛び込んだ。
 動きを止めると思っていた男は不意をつかれたのか、剣を構える事ができていない。
 対してレヴィは既に至近距離で男の額に銃を向けている。
 接近戦で銃は不利、というのがよくある話だが……それをレヴィは打ち砕く。

 マシンガンの援護はない。当然だ、これだけ近づいていれば確実に男も掃射に巻き込まれる。
 プロならまだしも、相手は恐らく素人だ。さっきの銃撃がてんで見当外れだったのがその証拠だ。
 ともかく、これで相手は目の前の男に絞れる。

「喧嘩売ったのはそっちだ。文句は口が残ってたら言え」

 レヴィは遠慮なくその引き金を引いた。
 銃声が響き、男目掛けて銃弾が飛ぶ。
 これで相手はジエンドだ。レヴィはそう確信していた。


 男が瞬時に体を捻らせて弾をかわし、同時に剣をレヴィに振り上げてくるまでは。

「ッ!!」

 レヴィは咄嗟に身をくぐめ、剣をやりすごす。だが、ただではやられない。すぐに男の足に向かって足払いをしかける。
 が、男もそれを読んだのか、素早く足をひき、そしてこちらに剣を向けた。

「…………」
「…………」

 だが、それと同時にレヴィの銃が男を捉えた。
 銃口がまっすぐに男の眉間に狙いを定めた。
 対して男は剣をこっちに向けただけ。二人の距離では剣が向いているだけでは何の意味もない。レヴィが銃を撃てば今度こそ終わる距離だ。

 だが、レヴィは苦々しい顔をして引き金を引かない。
 自分の武器の方がしとめる距離は明らかに長いのに。

「てめぇ……やけにレトロなのを使ってると思えば……そういうことか」
「うん。本当便利だよね、こういうのってさ。いつも思ってたけど。だってこういうこともできて一瞬でも相手を油断させられるんだし」


 男が向ける剣、それはよく見ると何かおかしかった。
 刀身の根元、そこにあるのは普通の柄ではない。湾曲し、金具とグリップ、指があたる部分に引き金がついている。
 そして、今レヴィに狙いを定めている銃口、それが刀身に沿うようにくっついている、銃と剣が一体になったような武器だった。

 互いの銃が互いに向いている状態。
 互いに迂闊に動けない。本来なら膠着状態だ。
 だが、それは互いが1人のみだったらの話。男に仲間がいる以上、レヴィはもう詰んでしまっている。
(あの銃……フリントロック式のマスケットなら命中精度は悪いし、弾が出るまでタイムラグはあるが……
こいつの素早さを考えると、それでもきついか)
 レヴィは歯噛みし、せめて目の前の男に銃弾を叩き込もうと思った。どうせマシンガンに狙い打たれるのだ。それならば。


 だが、男の言葉はそんなレヴィの予想を覆す物だった。


「ま、とりあえずさ。少し大人しくしててもらえないかい? こっちも無闇に殺す気はないからさ」


 *****


「ちっ……とことんムカつくガキ……いや、もう1人増えてガキ共だな、くそが」
「これくらい我慢してもいいんじゃない?もっと広い心を持たなくちゃ。
 うわ、物凄い目つき悪くなった」

 男、クリストファーは今尚レヴィに銃と剣が一つになった武器、暗器銃をこちらに向けてニコニコ笑っている。
 一方、レヴィは銃を向けておらず対照的に顔は怒りと不機嫌まっしぐらである。
 だが、2人は相対しているわけではなかった。2人ともさっきとは違う場所におり、2人とも周りを警戒しながらもその場にただ立っているだけだ。
 ここは遊園地南門すぐの森の中。そして、彼らの視線の先には2人の少女と一匹の象がいた。

「アルルゥさん、大丈夫ですの?わたくしとファンクフリードがやりますわよ?」
「ううん。カルラ…ジョウスケ…さいごまで、みる」
「わかりましたわ」

 少女2人が目の前にある穴に、手で土を掻きいれ、象の方は2人を手伝うようにその鼻を器用に使って2人以上の土を穴の中にかき入れていた。

 2人がしていること、それは埋葬だ。
 穴の中には、運んできたカルラと青狸、ドラえもんの残骸と東方仗助の遺体が入れられている。
 穴はカチューシャの少女、沙都子がファンクフリードという象か剣かわからない生き物で空けていた。
 その中にクリスが遺体を入れ、今に至る。レヴィは全く手伝わなかった。

 仗助の遺体を見て、アルルゥはカルラのように起こそうとはしなかった。もう、そんな幻想は抱かなかった。ただ、泣いた。ただただ、泣いた。
 それを沙都子は励まし、クリスはよくわからないが平然と見ていて、レヴィはさらにイライラを募らせていた。
 また泣くアルルゥにもだが、勝手に死んだ仗助に対してもだ。
 やったのはクレアか、それとも手甲の男か。いずれにしても、自分がぶっ殺したかった男はもう死んだ。
 さすがに死体に弾を無駄に撃つ趣味はない。というわけでこの怒りは勝手に溜め込まれることになった。


 さて。なぜレヴィがここまで大人しくしているのか。少し時間を遡ろう。

 クリスによりホールドアップされたレヴィの前に現れたのは、小さな少女である北条沙都子だった。
 沙都子はその体に不釣合いなマシンガンを両手で持ち、アルルゥのところへ駆け寄っていた。
 さすがにガキがマシンガンを撃てたということにレヴィは驚いたが、クリスの話によればあのマシンガンはカスタム化されていて反動が驚くほどないらしい。
 まあ、その時のレヴィにはそんなことは関係なく、ただガキが増えた事にうんざりし、そしてガキの援護を気にしていた自分に腹が立った。

 レヴィにとって幸運だったのは沙都子とクリスは積極的に相手を殺す方針ではなかったことか。
 沙都子の話によると、自分達はクリスの不用意な発言で逃げ出してしまったアルルゥを追ってここに来たが、
そこでついさっき戦闘を行っていたうちの1人がアルルゥを襲っているのを目撃、止める為にさっきの戦闘になった、ということらしい。
 結果、信用度0と判断されたレヴィはクリスによって動きを
牽制(クリスが作業をしている間は沙都子がマシンガンで)されたままということになったのだが、
そこでレヴィはある事を持ちかけた。

 情報交換。元々やろうとしていたことだが、ここに至るまでイマイチそういう機会に恵まれなかった。
 だが、目の前の相手は今のところ自分を殺すつもりがない。彼女はそう判断してそう持ちかけた。
 相手がガキだとわかった以上、本気になれば不意をついて人質に取る、という手もあったが、
ひとまずは大人しく情報を優先する事にした。そこまで無理ができないほど、左腕の痛みは大きかった。

 乱戦の参加者ということで信用できないと言う沙都子に、『じゃあヒガシカタはどうなんだ』とレヴィは言い返した。
 そして乱戦の件は、あの場に行った途端突然頭に血が上り正常な判断ができなくなった上の正当防衛だと説明した。ほとんどは本当のことだ。
 沙都子は怪しんでいたが、仗助もまた乱戦にいる時と、死ぬ間際にあったときの様子の違いからなんらかの精神操作みたいなのが
あったかもしれないとクリスがレヴィを弁護すると、彼女も情報を求めていたのと、レヴィが怪我を負っているところも考えて了承する事にした。
 だが、その前に沙都子は埋葬をしたいと申し出た。目の前にいるカルラ、説明のときにみた青狸、そして南門で死んでいるというヒガシカタ。
 レヴィは心底嫌だったが、交換条件で『ある事』を呑ませるとそっちをさせることにとりあえず同意した。

 その条件とは。

「にしても大きいねぇ」
「元の首がでけぇからな」

 そう会話しながらレヴィが手に持っている、○。
 それは青狸、ドラえもんの首輪だった。
 レヴィが沙都子たちに呑ませた条件。それが死体の首輪を切り取る事だった。
 沙都子はやはり反対したものの、クリスが『自分達の枷になっている首輪、それを持っておけば何かに使えるかもしれない。
それに、もしレヴィが真紅たちのことを知っていても、ここでへそを曲げたら話してくれないかも』と言うと、再びしぶしぶ承諾した。
 どうも沙都子はレヴィがあまり好きではないらしい。
 もっとも、レヴィは『シンク』などは知らないのだが、そんなことは顔に出さない。ここで自分のカードをわざわざ失うほど馬鹿ではない。
 結局、沙都子はアルルゥの心情を考慮して、仗助とカルラの首を切り取ることは了承せず、ドラえもんの首輪だけを切り取る事にした。
クリスの暗器銃でも機械を切り取るのは結構な手作業だった。
 ひとまず首輪はレヴィが持ってはいるが、認識としては今のところ3人(4人、と言いたいがこの会話にアルルゥはついて来れていないようだった)の
共通所有ということになっている。レヴィとしてはなんとかこれを分捕りたいところだ。なにしろ爆弾だ。武器にもなるだろうし、交渉材料にも使える。
 なんとしても手にしたい。


「にしてもさ、ここから病院にいこうなんて無茶だよね」
「チッ。るせぇなペドバンパイア、嫌な事思い出させるんじゃねえ」
「僕のいたところは吸血鬼は吸血鬼でもラミアなんだけど。だって沙都子ちゃんに指摘されちゃったんだからしょうがないじゃない。
 あと、僕は親友翠星石が守った沙都子ちゃんを一応守ってあげようかな、っていうのと、
とりあえずヒガシカタって人には骨も治してもらったしお礼にアルルゥちゃんも一応守ろうかなってだけだよ?」
「わかったってのペド野郎」

 レヴィは情報交換後病院に行くつもりだ、とここに来る途中はなしたところ、沙都子に普通に言われてしまった。
 『遊園地に医療施設くらいあるんではございませんの?』と。
 確かにこの遊園地はかなり広い。小規模ならまだしも、これほど大きいところで医療施設がないとは考えにくい。
医務室くらいはあるはずだ。鎮痛剤も、病院ほど確実性は高くはないがある可能性はある。
 レヴィがそこに思い当たらなかったのは、遊園地に行く機会などちっともないからか、あるいは右腕の痛みでその可能性に思い至れなかったか。
 本人的にはどちらも不満だろうが。

 埋葬を終えた後は4人で、案内図で1番近い医療施設を捜してそこで情報交換をすることにした。
 わざわざ沙都子たちが付き合うのは単に施設の中の方が安全だと思うだけであり、レヴィの治療を手伝う気はあまりない。
 なにせ、レヴィがアルルゥに暴力を振るっていたのは事実なのだから。
 余談だが、レヴィはここまで全くアルルゥにもカルラにも謝っておらず、アルルゥはずーっとレヴィを睨み続けている。

(チッ。とことんイラつくガキだ。隣のガキも、この変態野郎もこのレヴェッカ様を舐めやがって……鎮痛剤打ち込んではいグッバイじゃすまさねぇ。
 殺すかはともかく、てめぇらの支給品必ず何かふんだくってやる。今のうちにせいぜい楽しんどけ)

「すっかりアルルゥちゃんに嫌われちゃって」
「人見知りされて今まで手も触れさせてもらってない奴に言われてもまったくこたえねえな」
「なんでだろうなー。まさか、僕の自然への愛が足りないから!?」
「自分の顔鏡で見てろ」

 無駄にショックを受けているクリスを無視し、レヴィはまだ土をかけている沙都子とアルルゥを見た。
 いや、見たのはアルルゥだけ。
 獣耳、尻尾……。

「……たしかギラーミンの野郎、異なる世界だとか宇宙がなんたらとか言ってやがったな。ってことはアレか?あいつは宇宙人か?」
「宇宙人って足が八本じゃないの?」
「リトルグレイって手もあるぜ。
 異なる世界、だったら……はっ、動物と人のハーフ? ってことはそこらへんで動物と人が淫らなパーティやってる世界かよ。
 ははっ、最高だ」
「異世界ねぇ…でもさ、君は地球の人でしょ?僕だってそうだし」

 ここに来るまで、まだ警戒心が解けず沙都子にしがみついてばかりのアルルゥを除いて、互いの世界についてだけ情報を交換した。
 沙都子は日本の雛見沢、クリスはアメリカのシカゴ、そしてレヴィはロアナプラ、それぞれ呼ばれる直前の場所が見事にバラバラだが、地球であることは確かだ。
 ただ、シカゴ以外については他の2人はそれぞれの地名に思い至らなかったようだが。

「だから手当たり次第だってことだろ? 地球からも連れてきてりゃ、宇宙人も連れてきてる。
 ったく、宇宙人なんざこんなところで見るなんて思ってなかったぞ。地球人は宇宙飛行士が月に国旗立てたり
空に隕石予定物作っているのがやっとじゃなかったのかよおい」
「……え?」

 レヴィの長々とした愚痴に、まだ銃を向けているクリスが聞き返した。
 愚痴に聞き返すとかすんじゃねえよ、とレヴィは思いつつもクリスの反応を待った。
 そして


「人間っていつの間に宇宙行ったの?」
「ハァ!?」


 レヴィがとんでもない素っ頓狂な声をあげ、アルルゥと沙都子とファンクフリードがびくっと体を震わせた。




【G-3南端 南門前/1日目 午前】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、疲労(小)、L3
[装備]:象剣ファンクフリード@ONE PIECE、レッドのニョロ@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:支給品一式×2<沙都子、翠星石>、グラン・メテオ@ポケットモンスターSPECIAL、
     翠星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン、翠星石の亡骸首輪つき、
     F2000Rトイソルジャー@とある魔術の禁書目録(弾数30%)、5.56mm予備弾倉×4
[思考・状況]
1:うるさい方ですわね
2:真紅、もしくは蒼星石にローザミスティカを届ける。水銀燈には渡さない。
3:アルルゥを家族に会わせる。
4:部活メンバーに会いたい。
5:埋葬を終えたら医療施設に向かいレヴィやアルルゥから情報を聞き出す。

※参戦時期は具体的には不定。ただし、詩音を『ねーねー』と呼ぶほどに和解しています。『皆殺し編』の救出以降ではありません。
※名簿は確認したようです。
※雛見沢症候群の進度は具体的には不明。L5まで進行した場合、極度の疑心暗鬼と曲解傾向、事実を間違って認識し続ける、などの症状が現れます。
 説得による鎮静は難しいですが不可能ではありません。治療薬があれば鎮静は可能ですが、この場にあるかどうかは不明です。
※真紅、蒼星石、水銀燈に関しては名前しか知りません。
※アルルゥの名を仗助から聞きましたが、アルルゥの家族の詳細についてはまだ把握していません。
※レヴィに対して良い印象を持っていません。

クリストファー・シャルドレード@BACCANO!】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:アウレオルスの暗器銃(装弾100%)@とある魔術の禁書目録、マスケット銃用の弾丸50発
[道具]:支給品一式×2<クリストファー、カルラ>、クリストファーのマドレーヌ×8@バッカーノ!シリーズ
     包丁@あずまんが大王、不明支給品(0~1)<クリストファー>、不明支給品(0~1)<カルラ>
[思考・状況]
1:そんなに驚く事?
2:沙都子とアルルゥを守る(一応)
3:埋葬後、遊園地の医療施設に向かいレヴィとアルルゥから情報を聞き出す。
4:クレアには会いたくない。
※ローゼンメイデンについて簡単に説明を受けました。他のドールの存在を聞きました。
※名簿を確認しました。
※参戦時期は、『1934完結編』終了時です。
※ドラえもんの近くにあったカルラのデイパックを所有しています。中身は未確認。



【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]健康、頭とわき腹に軽い痛み、いくらか擦り傷 カルラと仗助の死に深い悲しみ
[装備]なし
[道具]支給品一式×2<アルルゥ、仗助>、ニースの小型爆弾×4@BACCANO!、
    不明支給品(0~1) <アルルゥ>、不明支給品(0~1)<仗助>
[思考・状況]
1:あの人、きらい。
2:ハクオロ達に会いたい
3:仗助とカルラを埋める。
4:沙都子は信用。クリスは怖い。レヴィは謝るまで許さない。
※ここが危険な場所である事はなんとなく理解しましたがまだ正確な事態は掴めていません。

【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]疲労(大)、全身に負傷(中)、左小指欠損(応急処置済み)、顔面と左脇腹に痛み、左腕複数箇所骨折等  イライラ
[装備]スプリングフィールドXD 4/9@現実、スプリングフィールドXDの予備弾10/30 @現実、
    カビゴンのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、ゴローニャのモンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL 、
    大きめの首輪<ドラえもん>
[道具]支給品一式(一食消費、水1/5消費)、応急処置用の簡易道具@現実
[思考・状況]
基本行動方針:悪党らしく、やりたいようにやる。
1:何言ってんだこいつ
2:医薬品、武器弾薬を調達する
3:他の参加者と接触してなるべく穏便に情報を集める。他にバラライカの情報を集める
4:沙都子たちと医療施設に向かい、鎮痛剤や医薬品を探して情報交換をする。
終わったら最低でも3人から支給品を奪う。
5:クレア、カズマは出会い次第殺す
6:爆発?を起こしたゼロを許さない。(レヴィは誰がやったかは知りません)
7:他の参加者に武器を、特にソードカトラスがあったら譲ってくれるように頼む。断られたら力尽く。
8:アルルゥにとことん嫌悪感。
※クレア、カズマが何処へ行ったかは知りません。
※参戦時期は原作五巻終了後です。
※スタンドの存在を知りましたが、具体的には理解していません。ポケモンと混同してる節があります。
※ポケモンの能力と制限を理解しました。

※G-3南門前に、カルラ、仗助、ドラえもんの残骸(首輪なし)が埋葬されています。

アウレオルスの暗器銃@とある魔術の禁書目録
アルルゥに支給。
錬金術師アウレオルス=イザードが使用していた、レイピアの鍔にフリントロック式の銃が埋め込まれた武装。
原作では魔弾の発射や刃の回転射出を黄金練成(アルスマグナ)により言葉で実行していたが、
支給されたものはレプリカのようなもので、弾は実弾を装填しなければならない(弾の威力は普通のフリントロックと変わらない)。
また、刃の射出機能もない。




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この世のどんなことよりもやさしい力 アルルゥ 銃弾と交渉と
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最終更新:2012年12月03日 01:21