意志×拳 ◆T4kibqjt.s
中指の腹に小さなトゲが刺さっていた。
不意に走った痛みの正体はこれだったかと、レナは引っ込めた手を庇うようにやんわりと包む込む。
気付かぬうちに木のささくれに触れていたらしい。切り揃えられた爪の先で器用に痛みの元を取り除くと、一拍遅れてぷくりとした血の球が生まれた。
手持ちのハンカチでさっと拭う。お気に入りの花柄を汚すのは嫌だったが、我慢するしかない。
嫌なのはむしろ、ちょっとした痛みにみっともないくらい大きく身構えてしまったことの方だ。
声を上げるようなことこそしなかったものの、ほんの些細な刺激にすわ敵襲かと過剰反応してしまった。事実を知ってみれば滑稽でしかない。
細かな傷など、森を歩けば自然に付くものと知っていたはずだろうに。
闇雲な警戒心に振り回された結果、疑心暗鬼に陥っていたというのか。失敗の許されない、この状況で。
焦ってはいない。かすかな欺瞞が何を言ってこようと、せめてそう思いたい。
血が止まらなかったので同じように何度か拭った。
「ああ……悲しい……もう何度目かも分からない悲しい話をしよう……」
「お、おいまた始めたぞこいつ……」
約束の時間は迫っていた。まだ急ぐ必要はないが余裕を持って合流するならそろそろ移動を始めたい。
こちらから別行動を提案しておいて待ちぼうけを食らわせるのは常識で考えても失礼だろう。
基本には忠実であるべきだ。たとえそれが、ただの待ち合わせでない場合でも。
「俺は、俺たちは仲間となるべき人材を求めてこうして歩き回っていたんじゃないのか。
ああ、そのはずだ。だからこそわざわざ暗い、足場も悪い森の中をさまようなんて真似をしているんだからな。
まるで変質者だがその実そこにはこんな場所に隠れでもしないと平穏を得られない弱者を保護しようという崇高な目的がある。
俺は何でもかんでも壊すことしか考えられないイカれ野郎だが、だからこそ素晴らしいものには素直に称賛を送りたいと思う。何せ俺の命の恩人の発案だ。
さらにそれがギラーミンの企みを壊すことに繋がるとなれば、乗らない理由はどこにもないだろう。
ラッドの兄貴が人を殺し俺は奴の野望を壊す。改めて口に出してみたが完璧。やはり完璧だ。どこにも綻びなんて見当たらない。
それでもこの完璧さを再確認する意味で敢えて別の言い方を考えるとしたら……パーフェクト、だ」
「何も変わってねぇじゃねぇか!?」
「……見たか、この理想的なリアクションを。いや、たとえ見えなくても、聞くことしかできなかったとしても構わない。
それだけでも今のが正に俺の期待した反応だと言うことは十分に伝わるはずだ。
いささかベタすぎるところはあるがそれについては俺も偉そうなことは言えない。互いの反省点として記憶に留めておこう。
シャフトの野郎ではこうはいかん。……やっべぇ、まじ嬉しい。もしかして俺ってば最高のパートナーに巡りあったんじゃないだろうか。
見た目が全然人間っぽくないとかラッドの兄貴を差し置いて最高とはどういうことだとかはこの際横に置いておこう。
俺が言いたいのはつまり俺たちはチームとしても最高だと言うことだ。
大分回り道をしたような気もするが俺の主張はこの一言に集約しれていると言ってもいいだろう。
素晴らしい……本当に素晴らしい。運命というものが本当にあるなら俺はそれを決めた奴に一生頭を下げ続けなくてはならない。
常に下しか見えない生活は余り想像したくはないが、それくらいのことをしないと俺の感謝の気持ちは表現できない。
なのに!なのにだ!そんな最高の俺たちが弱者を保護ようと歩き回っているというのに、誰とも出会わないとはどういうことだ!?」
考えがなかった訳じゃない。勝算がなかった訳でもない。
これまで得た情報。会場の広さ。決意を示すために多少ハードルを上げたとは言っても、三人は可能な数字だと思った。
結果は、期限を前にして勧誘どころか接触すらもゼロだけれど。
約束を違えたとか。
イスカンダルに認められたいとか。
そういうのではないけど。
一つの失敗は。そのまま部活メンバーの危険に繋がるから。
ぎゅっと、強く手を握った。
「何故だ!?俺たちのやっていることは曲がりなりにも正義に近いことのはずだ!それにさえ神は背を向けるというのか!?
……いや、すまん。『正義』などと言う言葉を軽はずみに使ったことは謝ろう。俺みたいにぶっ壊れた野郎が口にしたことも含めてだ。
仮に今のセリフを聞いたやつは嬉々としてこういうだろう。『お前の正義が別の人にとってもそうだとは限らない』と。
ああ分かっている。人間誰しもそういうのをカッコいいと思っちまう時期があるもんだ。俺にだってあった。
それに別に間違ったことを言ってる訳じゃない。むしろ正しい。何でも疑ってみようというその態度は大いに誉められるべきだと思う!
それでも!それでもだ!
俺は今の自分の発言のせいで議論が『正義とは何か』などという高尚な方向に流れてしまい、結果本当に俺が言いたかったとが無視されるんじゃないかという恐怖で一杯だ!!
それを防ぐためなら俺はちょっと背伸びしたい年頃の連中に馬鹿にされることくらい、喜んで耐えようじゃないか!
奴らがなんと言おうと俺たちのしていることは決して貶されるようなことではないはずだ!普段貶されるようなことばかりしている俺がそう思うんだから間違いない!
だが現実は非常だ!良いことだからと言って上手くいくとは限らない……分かっちゃいる……。
分かっちゃいるが一つ言わせろ……悲しい……この現実が悲しい…………ああ悲しいなぁ!
せっかく!せっかく!!俺の命の恩人が考えた作戦だというのにッ!俺はッ!クソッ!何の役にも立っていないッ!
それどころかッ!壊してッ!壊してッ!壊すことばかり考えている俺はッ!この最高のチームの………………
……足手まといなんじゃないのかああああああああああああああああ!!!?」
「ぎゃああああああああ!?」
絶叫とともにグラハムが降り下ろしたレンチにチョッパーが目を飛び出させて悲鳴を挙げた。
湿った泥と草の地面は小型レンチで殴り付けられただけとは思えないほど陥没し、気のせいかしゅうしゅうと煙を立ち上らせているようにも見える。
原因不明と表現しても差し支えない突発的なグラハムの暴力は、位置的にチョッパーの頭上に落とされていてもおかしくはなかった。
地面の代わりにチョッパーの頭がへこむような羽目にならなかったのは多分偶然だ。グラハムの意思はあまり関係ないと思う。
レンチを降り下ろした姿勢のまましばらく固まっていたグラハムは、やがて小さくぽつりと呟いた。
「…………少しだけすっとした」
「俺は死ぬかと思ったぞ!?」
「だが俺は自分が楽になるために命の恩人を怯えさせてしまった……何て罪深い男なのだろう俺は……ああ悲しい……また悲しくなってきた……」
「お前もしかしてずっとそれ続けんのか!?」
幸せはもろい。
頑張って頑張って、その上にさらに頑張りを重ねないと手に入らないほど貴重なのに、やっと手にしたそれはあっけないくらい簡単に壊れてしまう。
油断してはいけない。今ある幸せは次の瞬間には崩れるんじゃないかと、常に思っているくらいでちょうどいい。
楽しい時を過ごせる幸運を忘れずに。
もしそれが取り上げられそうになったときは全力で阻止する。戦って戦って、戦いぬく。
たとえ自分が汚れ役になっても構わない。幸せは勝ち取るものだから。
「二人ともそろそろ移動しようか。時間もなくなってきちゃったかな……かな」
「ああ……そうだな……誰にも会えなかったことは悲しいが……俺は逆にこれを良い機会と考えあのおっさんにこう言ってやろと思う……。
『お前なんかの手下になりたがる奴は誰もいなかったぞざまぁ見ろ』と…………」
「そうだな!頑張ったって言えばきっと分かって……ってケンカ売る気満々だこいつーー!?」
出会ってからこちら、ちっとも変わらない騒がしさに思わず苦笑してしまう。
雛見沢とは似ても似つかない、それでいて部活メンバーのように明るい仲間。
では、その仲間を心の奥底でほんの一部でも裏切っている自分は何なのか。
「レナ、顔色があんまり良くないぞ……もしかして疲れてるのか?」
レナの浮かべた笑みは一瞬浮かんできた礼奈の顔を覆い隠せるくらいには純粋なものだったはずだ。
それでもやはり本業の医者の目は誤魔化せないらしい。
「何だと……それは良くない……もしおっさんに何を言われるか気にしているなら心配するな……。
実は俺はさっきから奴の全身の関節をどうやってバラバラにするか……そればかり考えていた……」
グラハムも、彼なりの表現ではあるが心配してくれているのだろう。
終始だるそうに伏せられていた顔を向け、鬱蒼と伸ばされた髪の隙間からレナを見る。濁りがちだった視線に気遣いの色が見えた。
「あはは……敵わないなぁチョッパーくんには。でも大丈夫だよ。
グラハムさんもあんまり危ないことは言わないで欲しいかな、かな」
胸の前で両手を振って困ったように笑う。
医者としての性分からか尚も渋るチョッパーとまた何かぶつぶつと呟きはじめたグラハムを半ば追い立てるようにして歩き出した。
集合場所は劇場。
約束した仲間は見つけられなかったけど、最善の選択だったかも分からないけど、行動だけは全力を尽くしたと信じて。
移動時間の短縮と僅かでも誰かに会える可能性が上がることを願って通り道は一番大きな通りを選んだ。
その選択が、レナを一人の男と巡り合わせる。
◇
ひびのような縦線が走る腕を引きずるように歩く。一人が占拠するには広すぎる大通りの中心で、誰に憚るでもなくゆっくりと。
歩みの遅さは全身を蝕むアルター化の後遺症に苛まれているからでも、絶望に足を絡めとられたからでもない。
その証拠に男、
カズマの目は純粋な光に満ちている。
純粋な、飢えと獰猛な本能と攻撃的な意思に満ち、ギラギラと棘ののように鋭い光に溢れている。
行くあてはない。それにも関わらず迷いはない。
考えはあるが、恐らくそれを聞いたものは一様にこう言う。そんなものは考えてるうちに入らない、と。
構わないと吐き捨てた。誰とも知れぬ輩に馬鹿だクズだと後ろ指をさされることにはとっくに慣れきっている。
彼らの言うことを否定する気もない。実際頭を使うのは苦手だ。
だが、だからどうした。
考えることさえ人任せにして、カズマはただ己が唯一誇りとする拳を振るって歩く。
ただの馬鹿でしかないカズマは、ロストグラウンドの粗暴な日常に戻る方法を他に知らない。
太く短く。そう月並みに表現することさえ憚られるカズマの生き方は、多くの者にとって理解の範疇を越るものだった。
荒くればかりのロストグラウンドにあってさえカズマほど尖りのある生き方をするものはそう多くない。
異端なのだ。カズマという男は。どこに行っても。
それでも、ロストグラウンドの生活では親しくしていた者がいなかった訳ではない。
兄貴と慕った男がいた。肩を組んだ相棒がいた。同じ屋根で暮らした少女がいた。
暴れることしか脳のない男の手綱を握ろうとする者たちがいたからこそ、曲がりなりにもカズマは日々の生活を送ることができていた。
今となっては、そのどれもが遠いものになってしまったが。
獣を繋ぐ鎖となる人物はもういない。
がむしゃらに猛る心を静めようとする仲間も、いたいけな少女に容赦なく振るわれる拳を押さえつけてくれる友もいない。
名を刻んだ者たちもことごとく逝ってしまった。
一匹だけになった獣は、ただひたすらに牙をむき続ける。
出会うはずのなかった技術によって加熱された本能が焼き切れるそのときまで。
持ち手をなくした手綱が、再び握られるときはいつのことか。
そして、カズマは一人の少女と巡り合った。
「私は
竜宮レナ。あなたに戦う意志がないなら、話を聞いてくれると嬉しいな」
仲間より一歩前に出て、少女は手を差しのべる。
土壇場で掴んだ千載一遇のチャンスを決して逃すまいと。仲間を救うための選択を決して誤るまいと。
「関係ねぇな」
男はその手を払い除ける。
誰もが等しく敵でしかない。拳は手を握るためではなく、潰すためにある。
これまでと同じく。これからも変わらず。
交わるはずのない運命を引き寄せるのは意志の力か。立ちはだかる壁を打ち貫くのは拳の力か。
二人、己の太さを競い合う。
【E-3道路/1日目 昼】
【カズマ@スクライド】
【状態】:COOL 疲労(大) 全身に負傷 砂鉄まみれ 右腕に痛みと痺れ 右目の瞼が上がらない 右頬に小さな裂傷(アルターで応急処置済み)
腹部と頬に打撃ダメージ、脇腹と左肩に銃創
【装備】:桐生水守のペンダント(チェーンのみ)、スタンドDISC『サバイバー』@ジョジョの奇妙な冒険
【道具】:基本支給品一式×4(食料を3食分、水を1/3消費したペットボトル×2、)、不明支給品(0~5)、聖剣グラム@終わりのクロニクル
モンスターボール(ピカ)@ポケットモンスターSPECIAL、君島邦彦の拳銃@スクライド
【思考・状況】
1:ロストグラウンドに戻り、かなみを助ける。そのために優勝する
2:ギラーミンを殴り飛ばす
3:ムカつく連中をぶん殴る。(ゼロ:誰かはよく分かっていない、仗助:死亡を知らない、クレア、
レヴィ)
4:次に新庄、伊波と出会ったら……
5:メカポッポが言っていた、
レッド、佐山、小鳥遊に興味。
※ループには気付いていません
※参戦次期原作20話直後。
【チーム名:○同盟】
1:主催者の打倒。
2:二チームに分かれ、それぞれで『ノルマ』(仲間集め、殺し合いに乗った者の討伐を、計三人以上行う)を達成する。
3:出会い、信用した相手に印のこと(腕に○の印を描き、その上に包帯等を巻く)を教える。
4:次の放送時に劇場へ集合。
5:サングラスにスーツの男(無常)、クロコダイル、
サカキ、アーチャー、
ミュウツーを警戒。クレアという女性を信用(グラハム以外)
6:ラッドについては微妙(グラハムの兄貴分という情報はあります)。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康 私服 右腕に○印 僅かに罪悪感
[装備]: 包帯 二重牙@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式(一食分、水1/10消費)、ドライヤー
[思考・状況]
0:ノルマに従いカズマを勧誘、あるいは討伐する。
1:とりあえずはグラハム・チョッパーと行動し、『ノルマ』を達成する。
2:部活メンバーと合流したい(ただし、積極的に探すかは保留)
3:劇場へ向かう。
4:何とかして首輪を外したい
5:イスカンダルの勧誘は保留。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
【
トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
[状態]:健康 腕に○印 悲しみ
[装備]:なし 包帯
[道具]:支給品一式(一食分、水1/10消費) タケコプター@
ドラえもん、 タオル、救急箱
[思考・状況]
1:グラハム・レナと行動し、『ノルマ』を達成する 。
2:仲間と会いたい
3:グラハムの様子を見る。
4:劇場へ向かう。
5:ギラーミンを倒し、脱出する。
6:イスカンダルの臣下になるかはとりあえず拒否。
※レナからはあまり情報を受けていません。圭一たちについての情報は知りません。
※参戦時期はCP9編以降。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
【
グラハム・スペクター@BACCANO!】
[状態]:健康 ちょっと凹み 青いツナギ姿 腕に○印
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero 包帯 小型レンチ
[道具]:支給品一式、(一食分、水1/10消費。うち磁石は破損)、スペアポケット@ドラえもん、かぁいい服
海楼石の網@ONEPIECE
[思考・状況]
1:レナ・チョッパーを助ける。
2:
ウソップを殺した者を壊す。
3:イスカンダルに敵意。
4:殺し合い自体壊す
5:ラッドの兄貴と合流、兄貴がギラーミンを決定的に壊す!
6:イスカンダルの勧誘は断固拒否。
※レッドたちがクレアを信用していることを知りません。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
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最終更新:2012年12月04日 03:04