静かに訪れる色なき世界◆SqzC8ZECfY
輝く陽光が市街地の家屋とビルディングを照らしている。
アスファルトで黒く塗り固められた路上には人の姿は無く、そのものたちが駆るべき車や自転車の走る姿もない。
音は無く、太陽に熱せられた道路から発せられる僅かな陽炎の揺らめきだけがあった。
そんな静寂に包まれた街を横切るひとつの河川があり、だがそこにかけられた橋は先ほどの戦闘で行使された強大な力によって折れ砕けていた。
その川に沿った土手から下りた先の河川敷に
ハクオロと
レッドがいる。
芝生が敷き詰められた平らな場所だった。
そこに男がうつ伏せで寝かされている。
男の背中は真っ赤に染まっていた。
それは男が羽織っていたコートに染みた血液の色だ。
鋭い金属の破片が深く食い込んでいて、そこからにじむ血の量は見るからに尋常ではなかった。
顔に血の気は無く、一刻も早く適切な処置をしなければ手遅れになるであろうことは想像に難くない。
レッドは先ほどの少女に受けた電撃の痺れがまだ取れていない。
無理に動こうとする彼をハクオロが押しとどめ、まずは重傷の男をどうにかすべく治療のすべを探していた。
男が倒れていた場所には様々なものが散らばっていた。
一つ一つを見てみると、それらには食料やコンパスなど、ハクオロや魅音に配られていたのと同じ支給品が混ざっている。
そこから察するにこれは男の支給品か、それとも手ぶらでここから逃げ出した少女のそれであろうとハクオロは結論付ける。
「な……あ、何やってんだよ……はやく……治療しなきゃ……」
レッドの声だ。
まだ痺れが抜けない身体では口を利くのもつらかろうに、重傷の男の身を案じている。
ハクオロはそれに冷静な声で応えた。
「じっとしていろ。正直……彼は重傷だ。私やお前の手持ちでは、治療の役に立つものがない。
だが……この橋のあたりにはあの傷の男と、この負傷した……衛宮とあの少女は呼んでいたな。衛宮と少女の荷物が近くにあるはずだ。
そのなかに何か治療に使えるものがあれば、傷を何とかできるかもしれん」
「そ、そっか……それを探してるんだ……じゃあ、俺も――」
「探すのを手伝ってくれるのはありがたいが、ふらついた足取りでは足手まといだぞ」
「……くそっ」
悔しそうな顔でレッドは立ち上がろうとした己の体を再び芝生の上に戻す。
そんな少年の優しさを快いと感じる。
だがハクオロはその優しさが絶望へと変わるような、そんな一つの事実をレッドにさとられぬように心の内へと封じていた。
――この男……とっくに死んでいてもおかしくない。
それが先ほど衛宮の傷を診断したハクオロの結論だった。
傷は深く臓腑を抉り、今は突き刺さった破片が栓の役割をしているが、その内部では溢れんばかりの内出血が出口を求めて腹腔内に充満している。
事実、いったんは刺さった破片を衛宮から抜こうとしたハクオロだが、僅かに引き抜いただけで血の飛沫が傷口から噴出したほどだ。
むしろこれで何故生きているのかと疑問に思うレベルだった。
何らかの特殊な能力が肉体に宿っているのか。
カルラや
トウカの身体能力、またはウルトリィたちのような特別な力を考えれば、この男にもそのような力があるのだろうか。
「……」
ハクオロは押し黙ったまま、周囲に散らばった品々を拾っていく。
骨折のため片腕が使えないので、デイパックのストラップを肘に引っ掛けて無事なほうの手で回収する。
拾ったそれは透き通った小さな容器で何かの液体が入っている。
それはレッドから、ライターというものだと教えられた。
その使用法を何故かハクオロは知っている。火をつけるためのものだ。
二つの筒をつなげたようなもの。穴があったので覗いてみると遠くのものがはっきり見えた。双眼鏡というらしい。
次に拾ったのは数枚の紙の束をまとめたものだった。
何かのまじないの符にみえるが、何に使うかは分からない。とりあえず拾っておく。
治療に役立ちそうなものはない。
こうしている間にも刻一刻と衛宮の命は失われていく。
だがハクオロには何故かさほど焦りの感情が生まれてこなかった。
失われかけた命を助けるのは当然だ。かつてハクオロ自身も
エルルゥたちにそうやって救われたのだから。
だが一つの引っ掛かりがあった。それがどうしても気になる。
――あの男と少女は何故あそこにいたのか?
少女を諌めにかかった時は、歩み寄るためもあってライダーを撃ったことは問わなかった。
だがそれにもかかわらず向こうはあの傷の男を殺し、そしてこちらをも殺そうとした。
事情はどうあれ攻撃的な意志を持っていたことは明白だ。
ただでさえ橋の上という目立つ場所で二人の偉丈夫が刃をぶつけ合っていたのだ。
いや、それ以前からも魅音やハクオロが戦闘を行っていた。
危険なことは遠目からでも分かる。双眼鏡のような遠くを見通す道具を持っていたなら尚のこと。
ならば何故?
争いを止めるためにわざわざ乱入したのか?
いや、少女はライダーを敵だ、といった。
つまり……ライダーが傷の男と争っている機を狙って、漁夫の利を掻っ攫おうとしたと考えるのが自然だ。
少女の雷を操る力は強大だ。ライダーや傷の男相手でも勝機はあると見るのが道理だろう。
ならばあの二人は殺し合いに積極的に関与していたということではないのか?
レッドはあの少女が泣いていると言った。
が、だからといって被害者的な立場といっていいとは限らない。
むしろ傷の男なども含めて、ここに集められた者達は全員がギラーミンの被害者なのだ。
そして死の恐怖を押し殺して相手を殺すのが戦場の常だ。
そういったことを楽しむような輩もいるにはいるが、それは少数派。
ハクオロ自身も楽しめるようなタチではない。むしろ忌避してさえいる。
それでも相手を殺さなければ生き残れない。だからそうするのだ。
彼らもそうだったのだろうか。
ライダーを敵だといった、その衛宮たちの立場に立って考える。
ならばライダーが実は彼らに討たれる理由をもった悪逆非道の輩であったと?
だがそれは考えづらい。むしろハクオロは自分を庇ったレッドを撃った彼女のこともあり、ライダーを信じるべきだと考える。
見も知らぬハクオロたちの窮地に飛び込み、助太刀してくれたことも大きかった。
そうでなければ今頃ハクオロの命はなかっただろうから。
――ならばレッドには悪いが衛宮を助けぬほうがいいのかもしれない。
どうせ放っておけば死ぬだけだ。
万が一、ここで彼を治療できる奇跡のような薬が見つかったとしよう。
だがそれで蘇生させたとして、また誰かを襲うことになっては元も子もない。
いや、こいつらはもしかしたら放送前にも誰かを襲っていて――エルルゥたちの誰かを殺したかもしれないのだ!!
そんな暗い考えがよぎった時だった。
ハクオロの眼前に一枚の紙片が落ちていた。
拾う。
橋の崩壊による水しぶきでやや湿り気を帯びた紙を慎重に広げて文面を探った。
――治癒符。
そこにはそう書かれていた。
重傷の者でも治療できる札。
そんな品物にハクオロは心当たりがあった。
「……ハクオロのおじさん?」
「いや……なんでもない。どうやら何か書いてあったようだが濡れていて読めない」
立ち尽くして拾い上げた紙片を見つめるハクオロにレッドの問いが投げかけられる。
それに対してハクオロはその紙を握りつぶしながら答え――
嘘を、ついた。
◇ ◇ ◇
それは
御坂美琴のものだった。
彼女は治癒符の存在をもちろん知っていた。
だが切継が負傷した直後にそのことに思い当たるには、あまりに平常心というものに欠けていた。
そしてレッドたちと遭遇し、疑心暗鬼に陥り、最後にはハクオロの一言が決定的な引き金をひいた。
誰が悪いというわけでもない。
運が悪かったという他はない。
だが――ー。
何故。
よりにもよって何故ここでこんなものを見つけてしまったのか。
知らなければ。
知りさえしなければ、『選ばなければならない』などということにはならなかったはずなのに。
殺すか助けるかという選択肢に向き合う必要など無かったというのに。
◇ ◇ ◇
「うぉーい、小僧! それに仮面の男! 生きておったかぁー!」
崩れ落ちた橋の向こう側。
河川の南側に残った橋の残骸から声が聞こえた。
「ライダーのおじさん……! 生きてたんだ……!」
レッドの声に喜びの嗚咽が混じっているのをハクオロは聞いた。
どこから調達したのか四本足の動物にまたがり、一人の偉丈夫が手を振って大声をあげている。
「今、そっちにゆくぞぉー! 待っておれ!」
そういってどこかウォプタルにも似た動物にまたがったまま身を翻すと、ハクオロたちからは姿が見えなくなった。
だがそれから数秒。
崩れた橋の先から矢のように飛び出したのはライダーだ。
「この河を飛び越えるつもりか!? 無茶な!!」
ハクオロは思わず叫ぶ。
だが彼は知らない。
ライダーがまたがる駿馬こそがブケファラス。
馬でありながら伝説となった英霊にも等しい存在だ。
その力はハクオロの知るウォプタルなどとは比べ物にならない。
ライダーを乗せたまま、英馬は強靭な後ろ肢のひとけりで高々と宙を舞っていた。
それを一組の人馬は易々とやってのける。
何事も無かったようにハクオロたちのいる北岸へと辿り着き、豪壮な気を纏った駿馬が蹄を鳴らしてこちらへと近づいてきた。
「よう、小僧。それに確か最初にギラーミンに突っかかっていた奴だな。余は征服王イスカンダル。ここではライダーという名になっておるがな」
言いながら馬から下りて、どすどすと地を踏み荒らすような足音ともに歩み寄ってくる。
イスカンダルと名乗ったその男はまるで熊のような巨躯だった。
ずぶぬれの黒い外套を脱ぎ去り、肩にかけるようにしている。
「いやあ参った。向こう岸の下流に流されたもんで、我が愛馬を召喚して急いで戻ってきたが……どうした?
こちらが名乗ったからにはそちらも名乗るのが礼というものではないのか? ん?」
「あ、ああ……私はトゥスクルの皇、ハクオロというものだ」
「ほう、貴様も一国の王か。だがトゥスクルとは聞いたことが無いな。歴史上にある名ならば余が知らぬ者はいないはずだが」
「おじさん! ちょっと見てよ、大変なんだ!」
ハクオロたちの会話を遮ってレッドが叫ぶ。
指差すのは血まみれのまま横たわる衛宮の身体だ。
イスカンダルがレッドに促されるまま二人の足元に横たわるその姿を認めると、途端に表情が王者と呼ぶべき威厳を纏ったそれに変わる。
その視線は男の右手に注がれていた。
そこには妙なしるしがあった。
「令呪……この男はマスターか」
「何……?」
その言葉を聞きとがめ、ハクオロはイスカンダルに問いかける。
衛宮はライダーを敵といっていたという。あの雷を操る少女の言だ。
そしてイスカンダルのこの反応をみるに、なにやら因縁があることは間違いないだろう。
「イスカンダル……この男は貴方の敵なのか」
「うむ? なんだ、貴様ら令呪を知らんのか?」
イスカンダルの問いにレッドもハクオロも首を横に振る。
「うーむ……だいぶ前から疑問だったが、余が受肉していることといい、これはもしや聖杯戦争ではないのか?」
「なに、どういうことだ?」
「聖杯戦争のことは知っておるか? ……やはり知らんか。簡単に言えば、最後まで戦い抜き勝利した者が何でも望みを叶えられるという戦いだ。
余はここに来る前にその戦争に参加していたのだが……この殺し合いも概要はよく似ているが、細部に違いがありすぎるからのう」
イスカンダルはこめかみに拳をやってぐりぐりと押し当てながら難しい顔で思考している。
それがこの男のクセなのかもしれない。
その時ふと、ハクオロはイスカンダルの言に対してある疑問が湧き上がった。
それを問いという形にして口に出す。
「何でも望みを叶えるなど……可能なのか」
「全ての不可能を可能にするのが聖杯だ。その証拠に二千三百年前の世で滅んだ余の肉体も、これこの通り蘇っておる」
その言葉はあまりにも堂々としており、嘘とは思えぬ確信の響きを持っていた。
それでもにわかに信じられるものではない。
…………しかし。
……もし、
そうならば、実現可能なことであるならば、
エルルゥたちを……生き返らせることもできるのか……?
「――そんなことよりも大変なんだよ! 早くこの人を手当してやらなきゃ!」
ハクオロの思考はレッドの大声によって目の前の現実へと引き戻された。
もう痺れはほとんど取れているようだ。
ハクオロは次にイスカンダルのほうを見る。
彼は困ったような顔をしてレッドに向かって話しかけた。
「まあ、そうするにやぶさかではないのだが……どうすればいい? 余のブケファラスで治療できるところまで運ぶのか?」
「……待ってくれ」
ハクオロがここで口を開いた。
その声には重々しい響きがある。
誰もが言葉を遮ることができない力が宿った声だ。
皇としての力を示すその声にレッドは押し黙り、イスカンダルは、ほう、と感心の表情を見せる。
「イスカンダル、あなたは先ほど戦っている最中に、あの傷の男の以外から攻撃を受けなかったか?」
「うむ? ああそういえば乱入者がおったな。なにやら電雷のような攻撃を喰らったが、誰だったかは見ておらん。
あの後すぐに河に飛び込んだからな」
雷。
その攻撃ができる者にこれ以上ないほど心当たりがあった。
しかも警告もなしに攻撃を加えるということは、やはりそういうことなのだろう。
助ける気持ちがあるなら事前に避けろとでも言うのが自然だ。
やはり甘かった。その甘さでレッドが危うく死に掛けたのだ。
「我々は貴方が戻ってくる前に、ここで一人の少女と出会った。そしてその娘はあのコートの男を衛宮と呼んでいた。
彼女は貴方を敵だといい、そしてレッドが貴方の知り合いとわかると我々に向かって電撃による攻撃を放ち、そして危うく私を庇ったレッドが死ぬところだったのだ」
「待ってよ、ハクオロのおじさん! じゃあ……この人が敵だって、だから助けないっていうのかよ!」
「察しがいいなレッド。そして彼らはあちらから進んでイスカンダル殿に攻撃を仕掛けたのだ。つまり自分から殺し合いに乗っている。
あの少女を……魅音を殺したあの傷の男と同じだ。それでも助けるのか? イスカンダル殿……貴方はどうだ?」
イスカンダルは、ふむうと大きく頷くといきなり豪快な一喝を叩き付けた。
ハクオロの問いを些細なことと嘲笑うように。
そんなことを聞かれようとも答えは決まっていると言わんばかりに。
「――勝利して滅ぼさず、征服して辱めぬ! これこそが真の征服である!」
皇としての威厳をまとったハクオロすらも一瞬気圧される迫力だった。
歯を剥く獣の笑みをもって宣言する。
「ゆえにその問いに対する答えは決まっておる。殺し合いを望むというなら叶えたい望みがあるのであろう。
ならば我が配下となって共にこの戦を勝ち抜けばよい! 受肉を果たした今、その望みを譲ることに何の躊躇いがあろうか!」
ま、とりあえずさっさと助けようではないか、と征服王を名乗った男は屈託無く笑った。
釣られてレッドも瞳を輝かせて笑う。
賛同者を得られ安心したというわけだ。
ハクオロは大きく溜息をついた。
「そうか――私の命を助けてくれた貴方がそういうのならば何も言うまい。イスカンダル殿、あの橋のあたりに傷の男の荷物があるかもしれない。
探してもらうことは出来るだろうか?」
崩れ落ちた橋の北側付近を指差す。
ここまでで見つかった荷物は三つ。
衛宮の近くに転がっていたデイパックが一つ。
そして少女のものであろう散らばった荷物が一つ。
イスカンダルが所持していたものが一つ。これで彼の荷物が橋の瓦礫に埋まったり、川に沈んだりしていないことが判明した。
ならば傷の男の荷物が残っているはずだ。
治療に使えるものがあれば何とかなるかもしれない。
以上のことをハクオロはイスカンダルに説明する。
「うーむ……実はな。余の荷物ではないのだ、これが。おそらく戦闘のどさくさで誰かのものと入れ替わったのであろう」
「とすると……」
「うむ、見つかっていないのは余のデイパックということだな」
三人は崩れ落ちた橋の残骸を見る。
イスカンダルに聞くと治療に使えそうなものは無いという。
つまり、手詰まりだ。
◇ ◇ ◇
彼らに出来ることは何も無かった。
ここで拾った薬や包帯などの医療品で何とかできるレベルの負傷ではない。
もはや外科手術が必須の状況であり、怪我をしてからかなりのあいだ放置していたのだから輸血も必要だろう。
そのための技術がレッドたちにはない。
ましてやハクオロのほうは片手を骨折しており、自身の治療が必要なほどだ。
「……なあ、本当に何とかならないのかよ!?」
レッドが悔しさのこもった声を上げてハクオロを見た。
落ち着け、とハクオロは返し、そして言葉を続ける。
「お前の持っていたX-Wiといったか? それで飛んで運ぶことが出来たとしても、イスカンダル殿の騎馬でも、病院まで運ぶのは無理だろう。
迂闊に動かすだけでも危険だし、何よりこの男の体力が持つとは思えん。それに……治療しようにも医術の心得を持った人間がいなければどうにもならん」
「まあ、みたところ魔術師のようだし、簡単には死なんだろうがなあ。それでもほっとくだけでどうにかなる怪我でもないのは確かだ」
本人が気を失ってるからなあ、とライダーは付け加える。
衛宮自身の意識があれば自分の治療魔術でどうにかできるはずなのだそうだ。
だが現実問題として彼は意識不明であり、無理矢理起こすというわけにもいかない。
レッドは自分の支給品であるX-Wiを見る。
肩に背負うためのストラップが取り付けられた白い板状の物体が二枚ついていた。
説明書きによれば、これを背負って発動させることにより、光の翼を羽ばたかせて高速で飛翔することが出来るらしい。
便利な移動手段になりそうではあるが、今必要なのはそんなものではなかった。
目の前にあるこの怪我を治すことのできる何かだ。
最初に動けるようになってから、レッドは男の背中から破片を抜こうとしたがハクオロに止められた。
血の出血具合からして、体の中の大事な血の管を損傷したのだろうと。
この破片を抜けば栓の役目を果たしていたものが無くなり、血が一気に吹き出るだろうと言う。
そうすればもはや男の命はもつまい。
だが破片を抜かないままでは包帯を巻くことすらできないのだ。
状況は絶望的といっていいものだった。
「それでも、それでも諦めるなんてできるか! また死んじまうんだぞ……イエローみたいになんかさせるかっ!」
レッドはおもむろにX-Wiを担いで南へと駆け出した。
そこには広大な河川が横たわりレッドの行く手を遮っている。
「何をする気だレッド!」
「劇場に行けばチョッパーがいるはずだ! だから……こいつで飛んで行ってチョッパーを連れてくる!」
走るレッドの背中に位置する白い機殻が光の翼を展開する。
その時、空間に金属を打つような響きがあった。
これは声なのか。
レッドには分からない。
だがその瞬間、強烈に背中を推す力が生まれた。
「うわぁあああああああああああ!?」
猛烈な勢いで斜め上の空に押し出される。
体勢が崩れそうになるところをすんでのところで踏ん張った。
「レッド!」
「大丈夫……っ!!」
空中戦は初めてではない。
空を飛ぶポケモンに捕まって戦ったこともある。
レッドはその感覚を思い出し、体の余計な力を抜く。
自然体。
そして背中の翼に語りかけるように意思を込める。
「飛べ!!」
再びその背に強烈な推進力が宿った。
地上の景色が遠く離れていく。
ハクオロとイスカンダルの姿も小さくなっていく。
「んじゃ、いってくる! すぐ戻るから待ってて!!」
眼下の二人に手を振ってから、レッドは再び前を向いた。
行くは南の町並みに存在するはずの劇場。
チョッパーを連れて戻ってくることを考えれば、どんなにスピードをだしても急ぎすぎということはない。
「頼むぞ……X-Wi! 加速しろぉぉおおおお!」
今そこに消える寸前の命がある。
それを救える可能性があるのなら止まることなど考えられなかった。
目の前で死んでいったイエローだけではない。
そのショックから立ち直らせてくれたフィーロという青年もすでに命を落としたという。
レッドたちが辿り着く直前に傷の男の凶刃にかかったポニーテールの少女は、もう二度と目を開けることはない。
ここで何とかしなければ取り返しなどつかないのだ。
だからレッドは動くことをやめない。
もうあんなことを繰り返したくないから。
雄叫びにも似たレッドの声に応えるように光の翼は輝きを増した。
猛烈な勢いで、まさに風を切るような速度で――――レッドは南を目指して空を征く。
【B-4 南端/一日目 昼】
【レッド@ポケットモンスターSPECIAL】
【状態】:南に向かって高速移動中、疲労小、左肩に傷(両方とも簡易治療済み)、腕に○印
【装備】:X-Wi@終わりのクロニクル、蓮の杖@とある魔術の禁書目録、絶縁グローブ(軽く焦げ)@ポケットモンスターSPECIAL
【所持品】:基本支給品一式、二重牙@トライガン・マキシマム
【思考・行動】
1:劇場に向かい、チョッパーを連れてB-4の橋の袂へ戻る
2:衛宮の治療後、美琴を追う。
3:女の子(魅音)を救えなかったことを後悔。
4:ライダーと慎重に仲間を捜し、『ノルマ』を達成する。
5:ある程度はライダーを信用していますが…。
6:赤い髪の『クレア』に会ったら、フィーロの名前を出す。
7:絶対に無常からフシギダネと取り戻す。
【備考】
※参戦時期はポケモンリーグ優勝後、シバの挑戦を受ける前です(原作三巻)
※野生のポケモンが出てこないことに疑問を持ってます。
※フシギダネが何故進化前か気になっています
※『クレア』をフィーロの彼女だと勘違いしています。
※後回しにしていますが図書館にあったパソコンに興味
◇ ◇ ◇
「おっほォ、すげえなオイ! 余も今度機会があったら是非使わせてもらおうか!」
レッドが小さくなっていった南の空を眺め、イスカンダルは顔に似合わぬ無邪気な声を上げた。
確かに凄まじい性能だ。
誰でも空を飛べる道具などハクオロのいた世では考えられない。
だがだからこそ確信する。
今この手に隠し持つ治癒符というものが本当に傷を治す力があると。
己の常識の外にこの殺し合いは成り立っているのだと改めてハクオロは実感した。
「イスカンダル殿。彼が戻るまでこうしていても仕方ない。貴方の荷物を探しましょう」
「ん? おお、申し出はありがたいが、見ればハクオロよ、貴様は手傷を負っている様子。
まあ自分の荷物くらいは自分でどうにかするゆえ、そこでその男の様子でも見ておいてくれ」
「それは貴方も――」
「なあに気にするな。こんな傷はそのうち血も止まる」
そういってイスカンダルは巨大な十手を取り出した。
元はハクオロが持っていたものだ。
だが、腕を折った者が持っていたところで役には立たないだろう。
ゆえにそれについては黙っていることにした。
「よし、ブケファラスよ、ご苦労であった。下がってよいぞ」
ブケファラスと呼ばれた駿馬はイスカンダルの声に応えるように嘶くと、すぅっと姿を消した。
ハクオロが目を見開いて驚く。
それを受けて浅黒い肌の偉丈夫は得意げに口の端を歪ませた。
「あれぞ我が愛馬ブケファラスよ。なにやらいつもよりちょいと召喚に魔力を使うんで引っ込ませてもらったがな。怪我のせいかのう」
「召喚……? 自由に呼び寄せることができるのか」
「おう、そうだ。ところでこれから貴様はどうする気だ? 当面の目的がないなら余やレッドと共に来ぬか?」
「ああ……そうだ、
アルルゥという少女を知らないだろうか。あとはカルラという妙齢の女だ。共に尻尾や獣の耳が生えているのだが……」
そうだ。
魅音は死んでしまったが、まだ守るべき者は残っている。
ここで休んでいるわけにはいかないのだ。
「ほう、獣人か? だがそのような女は見とらんなぁ」
「そうか、では
前原圭一、竜宮レナ、
北条沙都子、古手梨花、
園崎詩音という名前は……」
「レナだと?」
その名前に征服王はぎょろりと目を向けて反応した。
知り合いだろうか。
ハクオロはそれについて問うてみる。
「我らの仲間として別行動しておるよ。新たな仲間を探すためにな」
「何だって!?」
魅音は言っていた。
仲間は何よりも大事なものだと。
そんな彼女の仲間も同じ考えを抱いていた。
皆の力を合わせてここから抜け出すという奇跡を成し遂げると。
彼女は、
園崎魅音は間違ってはいない。
そう――。
「ハクオロよ。その名前、何処で聞いた?」
「あの少女だ。彼女の名前は……園崎魅音」
「……そうか」
ハクオロは魅音の遺体が横たわる樹の方角を見ながらその名を告げた。
それを聞いてイスカンダルも察したのか、重々しく頷いた。
「ならばハクオロよ。我らと共に来い。おぬしの探し人もレナたちが見つけてきておるやも知れぬ。
そして余の配下となるがいい。共にギラーミンへと挑もうではないか」
「配下……いやそれは……私も一国の皇として……」
「ならば返事はすぐでなくとも構わん。考える時間は与えよう。
もし嫌というのならば余はいつでもその挑戦を受けるゆえ、遠慮なくかかってくるがいい――王は一人で充分ゆえ、な」
「いや、そういうことではなく……」
なにやら無理やりイスカンダルのペースに乗せられている気がしないでもない。
結局ハクオロの返事も聞かぬまま言いたいことを言い終わると、征服王と名乗る巨漢は豪快に笑いながら己の荷物を探しに瓦礫へと向かっていった。
「……」
残されたるはハクオロと衛宮のみ。
レッドもイスカンダルも好人物であることは疑いようも無い。
だが、この男はどうなのだろうか。
あのレッドが危険を犯してまで助けようとする価値のある人間なのか。
「私は……何を考えている」
この男は殺し合いに積極的に加わっている可能性が高い。
もしこの男を蘇生させたとして、魅音の仲間たちやハクオロの家族を害する可能性がないと言い切れるのか?
もしアルルゥやカルラを殺したら?
いや、それ以前にエルルゥ、
ベナウィのどちらかを殺していたとしたら?
この男を蘇生させたとして、その後で出会ったアルルゥやカルラが重傷を負っていたとしたら?
治癒符を余計に使ってしまっていて彼女たちを助けられなかったとしたら?
自分はそのとき後悔せずにいられるのか?
「……仲間は、何よりも、大事だ……」
園崎魅音の言葉だ。
ハクオロもそれを正しいと思う。
ならばこれはその仲間を守ることになるのではないのか?
この男に突き刺さっている破片を、ほんの少し押し込むだけでいい。
レッドは怒るだろう。イスカンダルは……分からない。
だが、そうしたところでハクオロの仕業とはわからないだろう。
元から瀕死の身体。
ほんの僅かに破片が深く食い込んだところで気付く者はいない。
今、イスカンダルは橋の瓦礫に向かい、こちらに背を向けている。
「うおーい、ハクオロよ! 荷物がどこら辺にあったか、心当たりはないか!?」
突如として大声を向けられた。
一瞬、ハクオロの鼓動が高鳴る。
落ち着け。
そう念じて固い唾を飲む。
「確か、橋の上にそれらしいものが置いてあったかと!!」
叫びかえす。
その声に震えは無い。
だが、なぜわざわざ彼の目をここから遠ざけるようなことを?
「おう、すまんなぁ!!」
イスカンダルが土手を駆け上がっていき、そして姿が見えなくなる。
視線を戻す。
血まみれの衛宮。
ピクリとも動く様子は無い。
「……私は」
無意識のうちに心は決まっていたということなのだろうか。
突き刺さった破片の頭に袖をあてがう。
力を込めた。
ずぐり、と。
一瞬だけ衛宮の体が痙攣した。
はらわたを切り裂いた感触だ。
「もし地獄(ディネボクシリ)というものが本当にあるとするなら……私はそこに堕ちるのだろうな」
そういってから、ふと何を今さらと自嘲した。
もはや数百数千数万に至るほどの屍を、数え切れぬ戦の中で造り出してきたのではないか。
戦乱を呼ぶ獣と、この自分をそう呼んだのは誰だったか。
地獄行きはとっくの昔に決まっていたことだ。
そう――、
それでも仲間を――自分を家族と呼んでくれた人々を守りたかった。
だからハクオロは皇となったのだ。
歩き出す。
イスカンダルの方角へと。
間もなく衛宮は死ぬだろう。
レッドはその死を悲しむだろう。
だが彼ならばきっと大丈夫だ。
それを乗り越えて前へと進む強さを持っている。
この身は手負い。
そしてレッドやイスカンダルも傷を負っている。
機を見てこの治癒符を使ってやればよい。
説明書きがなかったので今まで使用法に気付かなかったとでも言えばよい。
風で飛ばされた説明が書かれた紙片を今さっき、そこで見つけたと。
「荷物は見つかったか!?」
大声でイスカンダルを呼ぶ。
彼は数秒後、土手の上から顔を出し、
「おお、見つかったぞ! わざわざ来てくれてすまんが、ゆえに貴様はゆっくり休むがいい」
「それは良かった。ではレッドを待とう」
ハクオロの言葉の上に波はない。
凪のように、一切の揺ぎ無く。
◇ ◇ ◇
殺し続けた。
ナイフで、銃弾で、毒で、爆弾で。
貫いた、切り裂いた、燃やした、沈めた、押し潰した。
一度としてその意味を疑わず、その価値を慎重に推し量り、天秤の傾いた方を救うべく。
もう一方を空にするべく、殺した。
殺して殺して殺し尽くした。
そう、それは正しい。
多くを救うべく犠牲を認める。
増えた不幸の数よりも、守られた幸福の数が勝るなら、世界はほんの少しだけ救済に近づくはずではないか。
たとえ足元におびただしい数の屍が積み重なっていたとしても。
それで救われた命があるなら、守られた数こそが貴いはずだ。
100を救う代わりに50を殺す。
1000を救う代わりに500を殺す。
10000を救う代わりに5000を殺す。
切嗣がやってきたことはそういうことだ。
かつて彼は憧れた。
だがそれを口に出すには少年特有の気恥ずかしさが先に立った。
もしそれを口に出すことが出来ていたなら、切嗣の運命は変わっていただろうか。
眩しい日差しの中で、憧れの彼女に訊かれた。
その微笑を、その優しさを、決して失いたくないと思った。
こんなにも世界は美しいのだから、今この瞬間が永遠であって欲しいと。
そう思うから、そう思うなら、誓いの言葉を口に出来たはずだ。
初めにあった気持ちを、いつまでも、決して忘れずにいられたはずだ。
始まりの自分を忘れ、いつしか磨り減っていくことしかできなかったような、そんなことにはならなかったはずだ。
数多の嘆きを知って、数限りない絶望の果てに、何も残さず終わるようなことには――、
――――きっと、ならなかったはずだ。
【衛宮切嗣@Fate/Zero 死亡】
【B-4 橋の袂(北岸)/一日目 昼】
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品一式×4、
コンテンダー・カスタム@Fate/Zero 、防災用ヘルメット、コンテンダーの弾薬箱(スプリングフィールド弾27/30) 、ロープ×2、消火器、防火服、
カッターナイフ、黒色火薬入りの袋、大型レンチ@BACCANO!、
ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL、双眼鏡、医薬品多数、ライター、
起源弾@Fate/Zero(残り28発)、クチバの伝説の進化の石(炎、雷、氷)@ポケットモンスターSPECIAL、
空気ピストル@
ドラえもん メリルのハイスタンダード・デリンジャー(2/2)@トライガン・マキシマム 、排撃貝@ONE PIECE、
デリンジャーの残弾20 鉄パイプ爆弾×4、治癒符5枚@終わりのクロニクル
【状態】:右足と右肩に銃創(包帯処置、止血処置済み。ただし消毒なし)、左手首骨折
【思考・行動】
1:ギラーミンを倒す。
2:レッドを待つ
3:仲間(魅音の仲間含む)を探し、殺し合いを止める。全てを護り抜きたい。だが…。
4:できれば美琴を助けたい。
5:ミュウツーに対して怒りの念。
6:アルルゥを失ったら……失った家族を取り戻す為に……?
【備考】
※クロコダイルの名前は知りません。
※クロコダイルの能力を少し理解しました。
※B-4の橋が美琴の超電磁砲によって完全に崩落しました。渡る事はまず不可能です。
※B-4木陰に園崎魅音の死体が腕を組まされて横たわっています
※B-4橋崩落現場付近に、クロコダイルの首と胴に別れた死体があります。
※レッドの包帯は治療のために消費しました。
【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(小)、疲労(中)、全身に傷(小~中)および火傷(小)、出血中 腕に○印
[装備]:張維新の衣装とサングラス@BLACK LAGOON、包帯、スモーカー大佐の十手@ONE PIECE
[道具]:基本支給品一式×2、きせかえカメラ@ドラえもん きせかえカメラ用服装イラスト集
イリアス英語版、各作品世界の地図、拳銃の予備弾30発、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
[思考・状況]
1:バトルロワイアルで自らの軍勢で優勝。
2:レッドを待つ。
3:レッドを従え『ノルマ』を達成し、レナ達に自らの力を示す。
4:四次元ポケットとバイクを回収しに図書館へ戻りたい。
5:首輪を外すための手段を模索する。
6:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
7:次の放送までに劇場へ向かう。
8:
アーチャー(ギルガメッシュ)、クロコダイルを警戒する。
【備考】
※ヤマハV-MAXセイバー仕様@Fate/Zeroは図書館入り口に停めてあります。
※四次元ポケット@ドラえもんは図書館の中に放置されています。
※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
※臣下を引きつれ優勝しギラーミンと戦い勝利しようと考えています。
本当にライダーと臣下達のみ残った場合ギラーミンがそれを認めるかは不明です。
※レッド・レナ・チョッパー・グラハムの力を見極め改めて臣下にしようとしています。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※自分は既に受肉させられているのではと考えています。
※ブケファラス召喚には制限でいつもより魔力を消費します
【治癒符@終わりのクロニクル】
御坂に支給。
身体強化系の概念が封じられた符で、札型の賢石ともいうべき物。7th-Gの肉体改造技術や1st-Gの文字に寄る能力付加で造られている。
作中では他にも防護符、加速符、強化符など、様々な種類がある。
負傷した部位に張ることで治癒の効果を得ることが可能で、丸一日でかなりの重傷も回復する。
五枚ずつのセットになっている。
【X-Wi@終わりのクロニクル】
レッドに支給。X-Wi(エクシヴィ)と読む。
風見・千里が装備している、賢石式概念兵器のバックパック。
起動すると、光の翼を生じさせて高速飛翔が可能。使用者への負荷を無視すれば超音速まで到達する。
また、概念条文 ・――光とは力である を発動させている効果でマグライトの光などがビーム砲になったりする
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最終更新:2012年12月04日 01:51