忍び寄る悪意 ◆Wott.eaRjU
既に太陽が空へ昇った頃合いに、足音が響いている。
二人分……いや、三人分だろうか。
音には程度差があり、その集団内での体格差を匂わせる。
続けてシュ、と空気を切るような音が聞こえたかと思うと、新たに見えるものがあった。
空へ、蒼い空へ向けて小さな塊が一つ。
やがて重力に引かれて、元あった場所へと吸い込まれるように落ち戻っていく。
それは機械類の整備に使用する、特に変哲のない小振りの金属レンチ。
碌な間も取らずにレンチが再び宙に舞う。
目で追う事もなく慣れた手つきで、さながら芸を嗜むものが行うジャグリングのように。
真っ青な作業着を着た青年が、言うなればレンチと戯れていた。
「虚しい……ああ、虚しい!」
青年の名は
グラハム・スペクター。
この殺し合いに呼ばれる前は、とあるマフィアの用心棒のようなものをやっていた。
何度もレンチを放りながらブツブツと呟く様はちょっとアレだ。
少なくとも初対面の相手に良い印象を与えるものではない。
出来れば関わり合いになりたくないなぁ……そんな感想を抱いても不思議ではない。
「なぁ、レナ。グラハムのやつ、また始めちゃったみたいだぞ……」
「大丈夫だよ、チョッパーくん。きっとすぐに静かになってくれるよ」
そう。グラハムの前を歩く二人も同じ意見であった。
ピンク色の帽子を被り、少し濃いピンク色の半ズボンをはいた異形。
彼はトナカイと人を掛け合わせたような、なんとも愛嬌溢れる風貌の主、
トニートニー・チョッパー。
チョッパーの少し前を歩くのは、青と白を基調とした制服を着ている少女、
竜宮レナ。
レナが少し歩幅を狭め、互いに顔を見合わせた二人の間で共感が走る。
そして共に零したものは――ちなみにほぼ同じタイミング――小さな溜息を一つ。
何故なら、既に数時間前とは言わず数十分前に二人は見ていたのだから。
今と同じような、どうにもとけこめない空気。
二人の同行者であるグラハムが醸し出す独特な光景がそこにあった。
誰も期待はしていないのだが、残念にも。
「俺は命の恩人Aと命の恩人Bと共に歩いた。
木々の間を縫って、誰か人が居ないかを懸命に捜した……だが、結果はどうだ。
人一人見つけられないどころか、虫の一匹すらも俺は見つけられなかった!
そうだ。別に数分だけ捜して見つけらなかったのならまだ我慢できる、そのぐらいなら元々無理だったのかもしれない。
しかし、俺は悔しい。俺は貴重な時間を……一時間程の時間を無駄に費やしてしまった俺自身に悔しさを覚えてしまう!
やはり少ない苦労で最高の結果を得るなど、そんな要領がいいコトは俺には到底無理だったのか。
ああ、残念だがきっと無理だったんだ……出来たらいいな、などと少し憧れてしまったが所詮俺の妄想に過ぎなかった!
解体なら自信はあるが、どうにも器用なコトは難しい。
待てよ。そもそも俺に器用なコトが出来ればあの時に、初めての恋を覚えたあの時にも色々とやりようが……」
「はい、ストーップ。グラハムさん、取り敢えずクールになろう。話が変なところへいきそうだから!
先ずは深呼吸、深呼吸ー。吸ってー吐いてー、また吸ってー吐いて―……うん、良い吸い込みっぷり。
そろそろ落ち付いてきたね。じゃあ、もう少し歩こう」
時折叫び、そしてまた時折沈んだ声で言葉を並びたてたのはグラハム。
寧ろ只、出鱈目に吐き捨てたような感が否めない。
しかし、聞き手を惑わせるような口振りであるが、立ち止まっていたレナは一向に動じない。
華やかな笑顔と愛想良い声のダブルセットでグラハムを一方的に黙らせる。
グラハムの方も思う事があったのだろう。
自分の話に不可解なことを感じたか、それとも初恋を覚えた時に自分がどうすればよかったかを少し考えようと思ったのか。
恐らく後者の方だろうが、レナは敢えて無視することにした。
取り敢えず少なくとも今だけは黙り始めたグラハムを確認し、レナは再び歩き出す為に前を振り向く。
その途中、レナはチョッパーの心底感心したような顔を見ることになった。
「すっげぇなーレナは! グラハムをあそこまで扱えるなんて」
「あはは、さすがに慣れちゃったからね。全然大したことじゃないよ」
まるでグラハムが道具のようなやり取りだが、まあそれは置いておこう。
チョッパーの言葉にレナは笑顔で応え、やや謙遜した口ぶりで返事をする。
事実、レナはグラハムに対して慣れていた。
初対面の時は勿論、此処には居ないイスカンダルや
レッドと共に結んだ○同盟結成の時よりも強く。
先程のグラハムの言葉の通り、森の探索を行っている間でレナは大体理解できた。
グラハムは――変人とストレートに言ってはなんだか可哀想なので――変わった人だという事に。
何度も何度も狙った様に、ことある毎に自分の世界へ入り浸るグラハムを見れば、レナがそう思うのも無理はない。
それでも、性格はちょっとアレだが、いきなり暴れ出すような性格ではないのは確かだ。
ならばこちらも出来るだけ広い心で接しよう、とレナは考えた。
正確な年齢を聞いたわけはないが、傍から見ればグラハムの方が年上に見えるだろう。
実際、グラハムの方がレナより年齢は高い。
道のりが果たして平穏なものであったかは、まあ今回の話には関係ないので保留にしておこう。
そんなこんなで生まれたものは、年下の者が年上の者を少しだけ投げやりな態度で宥める関係。
思わず『あれ? 逆じゃないの?」と突っ込んでしまいそうだが、不思議とレナもグラハムも言及はない。
互いの年齢差を自ずと知っているだろうに、共にノーコメントだ。
グラハムは先程の自分の話の続きの真相究明に思考を回しているために、きっとその事に考えが及んでいないに違いない。
ああ、実にグラハムらしい行為だ。
それともレナが自分と同年代である、と思っているのかもしれないが流石にそれはないだろう。
では、レナの方はというと――生憎、レナはグラハムの事よりも気になる事があったため、特に口には出さなかった。
(うん、大したことなんかじゃないよ。
それにこういうのは魅ぃちゃんの役目だから……)
脳裏に見慣れた人影が浮かぶ。
類まれなリーダーシップの持ち主であり友達の一人、
園崎魅音。
今は少し流され気味にレナが○同盟の纏め役を担っているが、もし魅音が居ればと思ってしまう。
別にリーダーという責任を押し付けるつもりは毛頭ないが、やはり適材適所というものがあるだろう。
この殺し合いに呼ばれる前にレナ達が友人同士で作った集まり、『部活』を束ねる少女こそが魅音。
他者を引っ張る事に関しては、自分よりも魅音の方が優れている事は、レナにとって言うまでもない。
不意に思ってしまう。
今、魅音はどうしているのだろうか、と。
魅音が別行動を取ったライダーとレッドに運良く出会ってくれたら言うことはない。
もしくは安全な場所に居てくれるだけでも良い。
兎に角、いつも通りに元気な姿で居てくれればそれで良い。
だからレナは望んだ。
騙すと言ってしまえば聞こえは悪いが、グラハムとチョッパーを言い包める形で。
どこかに隠れているような、力を持たない参加者を保護する。
響きの良い名目を盾に、密かに個人の希望を優先させる自分を少し負い目に感じながら。
焦燥感に塗れた感情を表情には出さない様に、極めて冷静に。
レナは――名前を知っている五人を捜していた。
(圭一くん、魅ぃちゃん、梨花ちゃん、沙都子ちゃん、詩ぃちゃん……どこに居るの……?)
会いたいよ、皆に会いたい……)
忘れられない思い出の数々にはいつも彼らが居た。
前原圭一、園崎魅音、古手梨花、
北条沙都子、園崎詩音――部活メンバーの面々。
一人も死んで欲しくない。
掛け替えのない仲間達を、こんな場所で失ってたまるものか。
自然と両腕に力がこもり、拳を固く握りしめている。
そうだ。そんな未来は認めたくない、認めたい筈がない。
皆を再び無事に会うために自分は○同盟の一員として、自分の出来ることをやっている。
だけど、ふいに思ってしまう。
前回の放送で呼ばれなかった彼らの名前が、もし一つでも次の放送で呼ばれてしまったらと思うと。
果たして自分は冷静にみんなの死を受け止められるだろうか。
(私は、私は…………!)
わからない、わかろうとすることが怖かった。
以前、大好きだった母親が浮気の果てに家を出ていった事はある。
悲しかった。
少し遅れて母親への大きな怒りを感じたが、何よりも悲しかった。
しかし、知人が死んでしまったという不幸は未だに経験した事はない。
出来るものならば経験したくはない……当たり前だ。
そのために自分は周囲に目を配っている。
今にも部活メンバーの誰かが片手を上げて、自分の方に走り寄ってくれればどんなにいいか。
そこまで考え、レナはふと顔を上げた。
垂れ下がった自分の腕をチョッパーが引っ張っていたため、レナは現実へ意識を引き戻す。
「……あれ? あの建物って……」
「うん、アレが劇場じゃないか? 俺達早足で歩いてきたからなー」
前方には一際大きな建物が一つ。
次の放送までにと、取り決めておいた待ち合わせ場所が視界に入る。
途中で森と森の境目を横切り、ホテルを見つけ、左へ曲がった事は覚えている。
地図で確認し、後はこの道を真っ直ぐにいけば着くだろう――と。
近づいてみると標識があった。やはり此処で間違いないらしい。
別に劇場らしき建築物が見えた事には何も不自然さはない。
只、予想よりもかなり早く着いてしまった事にレナは内心驚いた。
「え? そうだったかな?」
「いや、だいぶ速かったぞ。着いていくので精一杯だったしなぁ」
「ご、ごめんね、チョッパー君」
しかも自分がチョッパー達を急かすような形になっていたらしい。
お詫びの言葉と共にチョッパーに向かって頭を下げるレナ。
気にしなくも良いと、と少し乱暴な口調だが、そう答えてくれたチョッパーの優しさが有り難い。
同時に何故、自分はそこまで足早に此処を目指してしまったのかを考えてしまう。
次にレナは暫しの間、静かに思考を走らせる。
直ぐには出ないと思われた答えだが、案外にも早く出てしまった。
そう。考えてみれば簡単な事でしかなかった。
(……なにやってるんだろう、わたしは。
しっかりしなきゃ……冷静に、冷静にしないと……)
一刻も早く皆と出会いたい。
強すぎる感情が行動にも染みだし、レナに大きな焦りを齎したのか。
じっくり捜そうとはせずに、出来るだけ多くの場所を見て回ろうとしたのだろう。
意識したわけでもないがそうとしか考えられない。
誰も居ない場所で時間を潰している間に、誰か一人でも欠けてしまっていたら。
嫌でも脳裏にこびりついてしまう負のビジョン。
望むわけもないIFの残像を振り払うように此処まで来てしまった。
だけども、まだ待ち合わせの時間には一時間程の猶予がある。
此処でずっと待っているのも、それはそれで時間が持っ勿体無い。
ではもう少しだけ辺りを散策するように、チョッパーとグラハムに提案してみようか。
悪くはない。考えを行動に移すためにも、レナは口を開こうとする――
その時、レナは立ち止まる事を余儀なくされた。
「待て」
がっしりと左肩を掴まれている。
僅かな痛みと共にその感触を確かめ、レナは急いで振り向く。
見れば自分の直ぐ傍にグラハムが居た。
いつの間に此処まで近づけたのだろう。
疑問を感じずに入られないが、口を開く事も出来ない。
更にそれはチョッパーの方も同じであったようだ。
斜め下へ垂らされたグラハムの右手により進行を妨害されている。
レナと同じように一歩も動くことなく、一言も発する事無く、只、不思議そうに見つめているだけだ。
そう。当のグラハム本人の考えを読み取ろうと、必死に。
「グ、グラハムさん……?」
そしてレナにはグラハムの真意が計り知れない。
そもそも今、自分の目の前に居る人物が、果たして自分の知っているグラハムなのかすらも疑問に思ってしまう。
こんな眺めているだけで背筋が凍ってしまいそうな瞳には見覚えがない。
その瞳は一体何を映し出しているのだろうか。
深く知ってしまえば後には引き返させないような危うさが、レナにとっては酷く異質なものに見えた。
心地良くは――ない。事情を知らない身でもあるために、只、不自然な不気味さが感じられる。
辛うじて口を開けた事は開けたが、生憎弱々しいものしか出てこない。
グラハムの返事を待つ時間がいやに長く感じるのは気のせいだろうか。
落ち着かない。グラハムの次の行動がまったく読めない分落ちつけるわけがない。
嫌な汗をかきながらレナは自分はどうするべきか考える。
が、幸運にも居心地の悪い沈黙は長くは続かなかった。
「……気のせいか」
緊張が解ける。
レナとチョッパーに向けていた手を戻しながらグラハムが呟く。
二人にとっては一体全体なんの事かわからない。
されど、グラハムは用は済んだと言わんばかりに身体から力を抜いている。
今にも獲物に喰いかかっていきそうな、肉食獣を匂わせる雰囲気は既に消え去っていた。
「ど、どうしたのかな? いきなり……」
「ん? ああ、すまない、命の恩人A。どうにも見られているような気がしたんだが……まあ、俺の気のせいだった。
どうにも調子が可笑しいな、こんなコトではラッドの兄貴やシャフトに笑われちまう。
俺に熱い視線を送ってくれる人間など居ないだろうに、自分に酔いしれているのか俺は……。
ああ、情けない。情けないぞ俺……命の恩人達を守るという役目があるというのに、なぜ俺は一人で墓穴を掘っている!
こんなことでいいのか!? いや、良いわけがない! 俺のことは俺が良く知っている!だから俺が良くないと言えばそれは当然良いわけがない!
さて、そこで俺は考えてみるしかない。こんな俺をどうしたら変えられるか……少しばかり俺には荷が重いかもしれないが、考えるしかない!」
「あー……うん、兎に角、気のせいだったんだね……」
「よ、よくわかんねーよ!」
程良くテンションの向きが変わり始めたグラハム。
対する二人は既に呆れたような顔を浮かべながら対応する。
だが、言動は聞き逃せないものであり、二人は周囲を見渡してみる。
特に人影は見当たらず、何かがやってくる気配もない。
よって現状は何も問題は見当たらない――故にレナは話を切り出す。
先程まで思っていた事を。
「あのね、グラハムさん、チョッパー君。待ち合わせの時間もまだある事だし、もう少し――」
もう少しの周囲の探索の提案を紡ぐレナ。
特に断る理由も持っていないグラハムとチョッパー。
そんな二人が頷くのは極々自然な話であった。
◇ ◇ ◇
レナ、グラハム、チョッパーの三人が再び森の方へ入っていく。
周囲には人影はない。
グラハムから始まった三人の共通認識に違いはない。
但し、それはあくまでもグラハム達の目が行き届く範囲内での事にしか過ぎなかった。
「……行ったか」
真紅の外套を羽織った女性、
バラライカが呟く。
右顔面が焼けただれた彼女には片腕がなかった。
数十分前に行った戦闘による大きな損失。
応急処置をした事はしたが、行動になんらかの支障が出る事は否めない。
故にバラライカは一先ずは回避を選んだ。
探知機で彼らの存在を知り、劇場から離れた建物内に潜む。
悔しさは込み上げてこない。
状況が状況だ。今の自分の身体考えれば三人を相手にするのは骨が折れる事だろう。
彼らの内、最年長と思わしき男が以前出会ったむなクソ悪い男とどうにもだぶったのは気のせいか。
小さなかぶりを振った。その事は今は良い、また出会うときにはっきりする事だ。
どうにかやり過ごした事を確認し、バラライカはゆっくりと歩き出す。
目的は病院。更なる医療用品の調達は必要な事だろう。
だからバラライカは――口を開く。
「では――話の続きといこうか」
誰も居ないと思われた空間。
暗がりの室内にのそりと動く影が浮かぶ。
音もなく忍び寄る蛇を連想させるように。
そう。相も変わらず意図が掴めない。
一時的に自分と共に此処へ立てこもり、取引を持ちかけた男に声を掛ける。
「はい、承知いたしました」
彼の名は――無常矜持。
◇ ◇ ◇
「つまり、私と手を組みたい……そう言いたいのか?」
「ええ、そうですねぇ。ですが死が二人を別つまで……とは言いません。
あくまでも一時的なもので結構です、期間は……まあ、後ほど適宜決めていきましょうか。
私も必要以上にアルターを使いたくはない、貴方もお身体の治療をするには見張りぐらいは欲しいでしょうし。
ああ、でも貴方からのご希望があれば私も最後まで誠心誠意仕えしましょう、ハイ」
「ふん、反吐が出る口の利き方だな。
大方そんな気はあるまい、豚の餌にすらもならないジョークだ」
「あっはっは、これは手厳しい。
いやぁ、私としたことが貴方のような綺麗なご婦人と話すだけで緊張していたみたいですねぇ」
「よくもまあペラペラと回る口だ。さぞかし良いコメディアンとやらになれるだろうな、貴様は」
男女二人の声が交わされる。
一方は言いようのない凄味さがあり、思わず聴く者に畏怖の念を押しつけるような声だ。
また違う一方は特に動じる様子もなく、それでいて気味の悪い声色といえる。
紡ぎ合った内容は一つの取引、この場での一時休戦を意味するものだ。
バラライカと無常の目的はこの殺し合いでの優勝。
思いたった動機には違いはあるが、求める先は基本的に差異はない。
生憎バラライカにとってみれば万全な状態ではない。
無常の方もアルターやその他の支給品があれども、一人で立ち回るには限界がある。
そこで無常は切り出した。
自分が手に入れた情報、○同盟なるグループが劇場へ集う様子を観察するために。
劇場周辺を張っていた最中、自分の情報を信じたのかわからないが、偶然にも見つけた彼女に対して。
自分と手を組みませんか――、と極めてシンプルな言葉でバラライカに声を掛けた。
見るからに負傷した様子が無常を交渉に駆り立てたと言えるだろう。
(やはり喰えない女ですねぇ。
ですが、手駒はいつでも切り捨てられるものでないと。
その方が余計に手を煩わせる必要もありませんしねぇ……)
片腕を失ったハンデは大きいだろう。
自身のアルターを使えば、バラライカが不要になった際にも『処分』するのは容易い筈だ。
しかし、だからといって弱すぎるのも考えものであり、あの
カズマのような頭の弱い人間も好ましくはない。
さて、今目の前に居るバラライカはどうだろうか。
程良い強さ――クリア、きっとこの女は足が?げようとこの場での優勝を狙うだろう。
先程の会話からは気の強さが見て取れ、寧ろあり過ぎだろうと思ってしまう程だ。
この状況を生き抜くための、頭の回転――これも難なくクリア。
ビルを倒壊させてまでの戦術は知恵遅れの者には到底無理だ。
あまりにも頭が回り過ぎると逆に裏切りの心配も出てくるが、最低限の警戒を保っていればいい。
襲ってくるのならば斃せばいい。
自分の誘いを反故にした事への後悔を身体に思い知らせながら、確実に。
所詮アルターを持たない者がアルター使いに叶う筈もない。
そうでなければ、アルター使いとして妬みと恐怖から起きた、自分が受けたあの迫害はどうなる。
悔しさと怒りに塗り潰され、只、自分以外の全てのものの上に立つ決意をさせた過去の記憶。
わざわざ更なる力を求めて、本土へ『精製』を受けた自分が只人に倒されるなど――有り得ない。
「生憎、転職は考えてませんので。
さぁさぁ、それではそろそろ移動しましょう。
病院にめぼしいものでもあれば良いんですけどねぇ。
そうであれば、貴方もゆっくりと身体を休ませる事も出来ますでしょうし」
だからいつも以上ににやけ笑いでバラライカに接する事が出来る。
正直、バラライカの言動は時折カチンと来る事もあるがまあいい。
五体満足、アルターに加えて一丁の拳銃と有り難く『頂いた』モンスターボールという充実した手札。
酔いしれるような自分の優位さが甘美な余裕を齎してくれる。
案外、感情は行動に現れるものだ。
普段以上に大袈裟な動作で腕を開き、バラライカを誘う。
主人の到着をお迎えする召使のように、恭しく。
しかしそこに碌な誠意はない。
あくまでも形を真似ただけにしか過ぎない、一種の戯れだ。
正直、バラライカにとって歓迎出来たものではないだろう。
事実、バラライカは特に表情を変えることなく無常の奇行をじっと眺めている。
されどもバラライカは、この一時的な協定を潰すような真似をしようとは思っていない。
そう。無常と手を組むという事は、取り敢えずはこの場での彼との戦闘は免れる事だ。
身体が万全な状態であればまた結果は変わったかもしれないが、今は片腕欠損という事実があった。
隠しようのないウィークポイント、つくづく先程の戦闘での失態が悔やむ。
負傷した身で戦場を歩き回るなど、寿命を縮めてくれといっているようなものだ。
無常の話が全て本当なら劇場に人が集まってくるが、今は放置するしかない。
たとえ得体の知れない、後々獅子身中の虫に成り得る存在と行動を共にしようとも、先ずは治療が先決だろう。
故にバラライカは受け入れる。
舐め切った挙動に口を挟んでやる必要もない。
只――素直に黙ってやる義理もないが。
「ああ、そうだな。
ゆっくりと捜し、休ませて貰おう。
貴様が言うアルターとやらの正体を掴み、どうやってそれを――潰してやるかを見定めながらな」
「ハイ?」
無常が振り返る。
自然と両者の視線が合い、無常は不思議に思った。
この自信は一体――バラライカが浮かべる表情、そしてその言葉からそう思わずにはいられなかった。
「私はいつでも貴様を観察している。
貴様がひどく口にするアルターという言葉が意味する事を知ってやる。
大事なアルターの秘密が漏れないよう、精々用心することだな」
「……失礼ですが、そのようなコトは口に出さない方が宜しいのでは?
幾ら人を信じやすい性格である私としても、貴方に対して不要な警戒を持ってしまいますが……」
「ハッ、可笑しなコトを言ってくれる。
なぁ、無常矜持とやら……本当にお前は――」
少しだけ声のトーンを落とす無常。
そんな彼に反して、バラライカは己のペースを崩さない。
寧ろ今までよりも更に語気が強まっている。
怒りと言ったものではない。
楽しんでいるような、まるで先程までの無常が見せた様子のように。
バラライカはいとも容易く場の流れを自分の方に引きよせ、そして紡いでみせる。
非凡な人生を歩んだ者には到底出来ない微笑を見せながら――
言葉を吐き捨てる。
「私がお前のような男の顔色を窺って生きるような女に見えるか?」
思わず言葉が出ない。
以前の事を覚えてはいないのだろうか。
自分に向けて銃弾を撃った事が無駄に終わった事を。
しかし、その事をバラライカに指摘する事が無常に出来なかった。
理由は極めて単純であり明快。
バラライカの声が、表情が、ありありと感じさせる何かが――無常の本能に呼びかけてくる。
「私は私だ。
貴様が言ったように、貴様と手を結ぶのも一時的なものに過ぎん。
私に決定を下すのは他の誰でもない、既に信じるものはあの日消えさった。
だから私は居る。この戦場を制するために――私は此処に居る」
幾度も見た表情。
ロストグラウンド、荒れ果てた大地。
無常の理想実現のために必要な力――『向こう側の力』
その力に接触できると見なされた、カズマと劉鳳の二人のアルター使い。
研ぎ澄まされたナイフのような印象があるが、二人が自分に向けていた顔に通ずるものがそこにあった。
己の意思を曲げない、固い決意を匂わせる。
一種の宣戦布告と取られても可笑しくはない。
無常にはバラライカがそこまで頭が回らない人間だとは思えない。
恐らくそんな事は百も承知なのだろう。
自分が幾ら警戒されようが、自分はお前の思い通りにはならない――そう言っているのだ。
良い気がするわけはない。
力の差がある事を知っての上で舐められている。
ならば、自分も――
制してやろう。
「そうですか……それは結構な心がけですねぇ。
ええ、本当に、本当にねぇ…………」
殺す事は簡単だ。アルターを行使し、心臓を貫いてやれば良い。
だけどもそんな事は、武器を持ちさえすれば凡人にでも出来る。
しかし、自分は違う。
自分は何れ上に立つ人間だ。
本土も、ロストグラウンドも、あの世界も、全ての上に立つ筈なのに。
こんな女一人を抑えることが出来ずに、何が無常矜持か。
ならば、これは所謂一つのステップに違いない。
暴力でも知力でも手段は問わない。
只、決して殺す事はなく制してみせる。
無常のプライドが彼に一つの決断をさせた。
故に歩を進ませる。
ビルの出口に向かい、病院でバラライカの治療を行うために。
バラライカも異論はないのだろう。
無常の後をついてくる。
そこで無常はふと気付く。
「そういえばまだ貴方のお名前を聞いてませんでしたねぇ。
後々不便でしょうし、お願いできますでしょうか?」
自分の方は以前に名乗ったがバラライカの名前は未だ聞いていない。
無常の言葉を受け、バラライカは口を開き始める。
何故だか不思議な笑みを、先程までの笑みとは違う。
少しだけ意地の悪い笑みが、何故だか不気味にも見え――そして聴いた。
「――教えてはやらん」
思わず苦笑が漏れた。
自分が以前、バラライカに言ってやった言葉と似たものが返ってきたためだ。
意味深なセリフを残して立ち去った、あの時の事を根に持っていたのか。
ふとそんな事を思い、無常は同時に考える。
自分はなかなか厄介なご婦人を手元に置いてしまった――、と。
何故か然程嫌悪感は込み上げてはこなかった。
【E-3 森林 1日目 昼】
【チーム名:○同盟】
1:主催者の打倒。
2:二チームに分かれ、それぞれで『ノルマ』(仲間集め、殺し合いに乗った者の討伐を、計三人以上行う)を達成する。
3:出会い、信用した相手に印のこと(腕に○の印を描き、その上に包帯等を巻く)を教える。
4:次の放送時に劇場へ集合。
5:サングラスにスーツの男(無常)、クロコダイル、
サカキ、アーチャー、
ミュウツーを警戒。クレアという女性を信用(グラハム以外)
6:ラッドについては微妙(グラハムの兄貴分という情報はあります)。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康 私服 右腕に○印 僅かに罪悪感
[装備]: 包帯 二重牙@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式(一食分、水1/10消費)、ドライヤー
[思考・状況]
1:とりあえずはグラハム・チョッパーと行動し、『ノルマ』を達成する。
2:部活メンバーと合流したい(ただし、積極的に探すかは保留)
3:森と都市部の境目~ホテルのルートを使い、次の放送までに劇場へ向かう。
4:何とかして首輪を外したい
5:イスカンダルの勧誘は保留。
※チョッパーから軽く自己紹介を受けました。またルフィたちやクロコダイルの情報もまだ知りました。
※幻聴はとりあえず消えましたがまた出てくる可能性があります。
※屋敷から見える街道に誰かが通るかもしれないと意識をしています。
※屋敷の洋服ダンスのなかからグラハム用のかぁいい服を見つけてきました。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※バラライカ、無常の存在にきづいていません
【トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
[状態]:健康 腕に○印 悲しみ
[装備]:なし 包帯
[道具]:支給品一式(一食分、水1/10消費) タケコプター@
ドラえもん、 タオル、救急箱
[思考・状況]
1:グラハム・レナと行動し、『ノルマ』を達成する 。
2:仲間と会いたい
3:グラハムの様子を見る。
4:森と都市部の境目~ホテルのルートを使い、次の放送までに劇場へ向かう。
5:ギラーミンを倒し、脱出する。
6:イスカンダルの臣下になるかはとりあえず拒否。
※レナからはあまり情報を受けていません。圭一たちについての情報は知りません。
※参戦時期は不明。少なくともCP9編以降。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※バラライカ、無常の存在にきづいていません
【グラハム・スペクター@BACCANO!】
[状態]:健康? ちょっと凹み 青いツナギ姿 腕に○印
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero 包帯 小型レンチ
[道具]:支給品一式、(一食分、水1/10消費。うち磁石は破損)、スペアポケット@ドラえもん、かぁいい服
海楼石の網@ONEPIECE
[思考・状況]
1:レナ・チョッパーを助ける。
2:
ウソップを殺した者を壊す。
3:イスカンダルに敵意。
4:殺し合い自体壊す
5:ラッドの兄貴と合流、兄貴がギラーミンを決定的に壊す!
6:イスカンダルの勧誘は断固拒否。
※後遺症等があるかどうかはわかりません。
※4人の会話を途中から聞いたので、レッドたちがクレアを信用していることを知りません。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※バラライカ、無常の存在にきづいていません
【E-4 劇場近くのビル内 1日目 昼】
【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に中程度のダメージ、右腕切断(簡易止血済み。治癒不可)、肋骨骨折、身体全体に火傷(小)、頬に二つの傷、疲労(大)
[装備]:ヴァッシュの衣装@トライガンマキシマム(右腕の袖なし)、デザートイーグルの予備弾×16
AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)、 シェンホアのグルカナイフ@BLACK LAGOON
[道具]:デイパック(支給品一式×3)、デイパック2(支給品一式×1/食料一食分消費)、下着類、AMTオートマグ(0/7)、
不死の酒(空瓶)、探知機、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚、通り抜けフープ、
ロベルタのスーツケース@BLACK LAGOON(ロケットランチャー残弾7、マシンガン残弾80%、徹甲弾残弾10)、手榴弾×3、
ロベルタのメイド服@BLACK LAGOON、ガムテープ、ビニール紐(少し消費)、月天弓@終わりのクロニクル
[思考・状況]
0:無常と病院へ向かう。
1:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
2:ウルフウッド(名前は知りません)を警戒。
3:アルターとやらを知る。
※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、ドラえもんについてなどを聞き出しました。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ by
ストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
※デイパックを二つ持っています。
※D-4中央部一帯にあるビルの構造を熟知しています。
※元の服は下着を除いてビルに捨てました。
※チョッパーを医者だと推測。
※○印と包帯の情報を知りました。
※ギルガメッシュを不死者の類かもしれないと思いました。
※バラライカの右腕がマンション敷地内に落ちています
【無常矜待@スクライド(アニメ版)】
【装備】:ハンドガン@現実 予備段数×24
【所持品】:基本支給品一式×2、不明支給品0~2個(確認済み)フシギダネ(モンスターボール)@ポケットモンスターSPECIAL 、
黒電伝虫と受話器なしの電伝虫のセット@ONE PIECE
【状態】:健康
【思考・行動】
1:殺し合いで優勝する
2:○印の情報を利用する。
3:カズマ、クーガー、あすかの始末
4:レッドや同行者たちとはまた会いたい
5:バラライカを殺さずに、生きたまま自分の手駒として制す。
【備考】
※○印と包帯の情報を知りました。
※レナ・チョッパー・グラハム・ライダー(イスカンダルのみ)の名前は知りましたが顔は知りません。
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最終更新:2012年12月03日 02:05