罪と罰(後編)◆tt2ShxkcFQ






「では、最後にもう一度確認しよう。
 伊波嬢……もうなんとも無いのかね?」
「う……うん」

それは部屋の部屋の隅と隅、遠巻きに行われる言葉のキャッチボールだ。
少し怯えながら、伊波は佐山へと返事を返す。
対する佐山は訝しみながら、伊波を見つめていた。
その右腕は三角巾で吊り下げられていて、左腕は肘から先が無い。

「佐山君、心配しすぎだよ。
 伊波さんは大丈夫だって言ってるんだし」

新庄はゾロへと治療符を貼り付けながら、そう言った。
伊波を救い出した各々は、今は居館一階、応接間に避難をしている。
取り外したジャバウォックの腕はあれからピクリとも動かない。
派手に戦闘を行っていた為、他の参加者が来るかもしれない……が、この場所には未だ気になる場所もある。
離れる事も考えたが、幸いにもこの古城跡は相当な広さを持っている上、建築物も複数存在している。
いざとなれば、気付かれずに脱出する事も容易と判断し、この場に留まった。
ヴァッシュは窓から外を見張り、他の参加者の有無を確認している。

「私にとっての不安要素はそれだけではないよ新庄君。
 君にも分かるだろう?水銀燈……だったかな?」
「……何が言いたい訳?」

佐山は視線を動かし、壁に寄りかかっている水銀燈を見つめる。
水銀燈は佐山を睨みつけ、棘のある言葉を返した。

「佐山君、心配しすぎだよ。
 大丈夫だって、もう殺さないって俺と約束してくれたんだから」

小鳥遊は気持ちが悪い笑みを貼り付けながら、そう言った。

「サヤマ……僕からもお願いだ。
 彼女を許してやってくれないか」

ヴァッシュが視線を佐山に移し、口を開く。

「許すも何も、私は直接被害をうけてはいないよ。
 許しを請うのなら、伊波嬢に言うべきだね」

そして全員の視線が、水銀燈と伊波へと向けられる。

「……何よ、謝れって言うの?冗談じゃないわ。
 私はルールに沿って行動をしただけ、避難されるいわれは無いわね」

「何だよそれっ!」

新庄の怒気が含まれた声が部屋に響いた。






「うるせえなぁ……」





部屋に低い声が響く。
その声に、全員の視線が集中する。

「ん、何処だここは。
 そうだ……佐山てめぇ!」

ゾロは目を見開き、辺りを見回した。
そして佐山を見つけると、青筋を立てながら睨みつける。

「やぁ、いい目覚めだねゾロ君。
 ご機嫌はいかがかな?」
「良い訳ねぇ……うぉ!何だこりゃ!」

起き上がろうとしたゾロは、自分の体に気づく事になる。
ロープで締め上げられ、体中に包帯が巻かれ、胸には札のようなものが張られていた。
固く結ばれているのか、力を入れてもロープをちぎる事は出来ない。
立ち上がることが出来ず、寝そべったまま佐山を睨みつける。

「私のプロデュースの元、新庄君に縛ってもらったものだよ。
 羨ましいね?」
「んな訳あるか!!早く解けテメェ!」
「それは出来ない相談だね。
 縄を解くとしよう、すると君は傷の事など気にせずに、また行動し始めるのでは無いかね?」
「俺がどう動こうと、そんなのは俺の勝手だ」
「協調性の無い人間は嫌われるよ、ゾロ君」

「お前が言うな」

ゾロの声に怒気が入る。
すぐ側に居る新庄が、分からないほどに小さく頷いた。

「ともかく、君は自分の体の事が分かっていないようだ」
「俺の事は俺が一番分かっている」
「そういう者こそ分かっていないと、相場は決まっているのだが」



両者が睨み会う、そして辺りを張り詰めた空気が漂う。



「……イナミはどうなった」
「問題は無い、救うことが出来たよ」
「そうか、そりゃ何よりだが……あいつ本人は何処にいる」
「何を言っているのかね、そこに……」

伊波が居たはずの方向へと目を向けた佐山は、自らの目を疑った。
そこには誰の姿を見ることが出来ない……いや、それだけではなかった。

「新庄君……伊波嬢と小鳥遊君、水銀燈はどこかね」
「え……?あれ、何処に行ったんだろう」
「マヒル達なら、サヤマとゾロが言い合ってる間に出て行ったよ」

窓の外を見つめながら、ヴァッシュは口を開く。
それを聞いた佐山の顔は、険しいものになっていく。

「何故止めなかったのかね」
「え……タカナシが小声で、マヒルのデイバックを取りに行ってくるって」
「小鳥遊君が……?」

「佐山君?」

新庄が不安そうな顔で、そう呟いた。

「おい、この縄を解け。俺も探す」
「だ、駄目だよっ、酷いケガだし……方向音痴じゃないかっ!」

新庄はゾロを押さえつけながらそう言った。

「新庄君、ゾロ君を頼む」
「えっ……それはいいけど」
「サヤマ、どうしたって言うのさ」

ヴァッシュは佐山の顔を見つめて言う。

「……嫌な予感がするだけだよ。


 それが予感なら、いいのだがね」







    ◇    ◇    ◇




「伊波さん、やっぱり佐山君に断ってから出て来たほうが良かったんじゃないですか?」
「うん……そうかもしれないけど、取り込み中だったし。
 ほら、私はやっぱり男の人は怖いから、あのマジックハンドは急いで取りに行かないと」
「あぁ、伊波さんの生命線ですもんね」

小鳥遊はジト目で伊波の事を見つめながら、そう言った。
伊波と小鳥遊が並んで歩き、少し遅れて水銀燈が後へと続く。
居館を出て、3人が向かっているのは南。
中央を横切って主塔へ向かうのは目立ちすぎる、という伊波の意見に従ったルートだ。
礼拝堂を通過して主塔を目指す。
辺りに覆い茂った草を掻き分けながら、2人と1体は歩みをすすめている。


「……水銀燈、少しここで待ってて」


伊波は突然振り返ると、水銀燈にそう言った。

「はぁ……?貴女ふざけてるの?」
「ふ、ふざけてなんか無いよ。ちゃんと約束は守るから」

水銀燈は伊波を睨みつけた。
伊波は弁解するかのように、水銀燈へ首を振りながら答える。
そして舌打ちをつくと、水銀燈は歩みを止めた。

「約束?」
「ううん、何でもないの。小鳥遊君は一緒に来て」

そうして水銀燈を置いたまま、伊波と小鳥遊は歩みを進める。
小鳥遊は水銀燈の事を気にするように、何度も後ろへと振り返りながら歩いた。
そして礼拝堂に差し掛かり、その姿が見えなくなった頃だろうか、突然伊波は小鳥遊へと向き直る。

「あ……あのね、小鳥遊君」
「何ですか……突然。
 水銀燈をあんな所に放置しておくのも心配だし、早くバックを取って帰りましょうよ」

「私の話、聞いてよ!」

震える声でそう言った伊波に、小鳥遊はすこし驚きながら伊波を見つめる。

「す、すみません」
「私ね、ここに来て、一番最初にあった男の人に、命を助けてもらったの。
 怖くて怯えてた私に、その人は希望をくれた」
「……そうだったんですか」
「よく聞いてね、小鳥遊君。

 人の足を停めるのは〝絶望〟ではなく〝諦観(あきらめ)〟
 人の足を進めるのは〝希望〟ではなく〝意志〟」

その言葉を聞いた小鳥遊は思い出す。
佐山と共に見た『過去』の光景を。
あの首輪が無い、干からびた男の死体を。

「いい言葉ですね」
「ねぇ小鳥遊君、私たち帰れるのかな。元の世界に」
「えっ……?」
「私は、戻りたいよ……。
 またお母さんと会いたい、種島さんとお話したい、佐藤さんの応援だってしたいし……
 なずなちゃんにも、小鳥遊君の家族にも会いたい」

涙を湛えながらそう言った伊波に、小鳥遊は少し不安そうな顔をして答える。

「きっと戻れますよ、伊波さん。
 さっき言ってたじゃないですか、人の足を進めるのは意思だって。
 自分の意思で、前に進んでいけば、きっと」
「……うん、そうだよね。あはは、駄目だね……私のほうが年上なのに」
「全く……しっかりしてくださいよ」

小鳥遊は口元を緩ませた。

「小鳥遊君……
 小鳥遊君は、絶対に意志を捨てないでね。
 帰りたいって、その意志を」
「えっ……?」
「約束して、私と」
「伊波さん?」
「約束して」
「……はい」

有無を言わせないような伊波のその瞳に、小鳥遊は顔を顰めながら首を縦に振る。

「良かった……
 あとね、お願いがあるの」
「何ですか?」
「私は水銀燈と話があるから、小鳥遊君は荷物を取ってきてくれない?」
「……あぁ、そんな事ですか。分かりました。
 しっかり仲直りしてくださいよ」

微笑みながら言った小鳥遊に、伊波は力なく微笑んだ。

「それじゃあ、行って来ます。あの高い塔の二階ですよね」
「うん」

そして小鳥遊は伊波に背を向けて歩き出す。
辺りを警戒しているのだろうか、キョロキョロしながら進んでいくその背中姿を、伊波は見送りながら呟いた。


━━さようなら。と



      ◇     ◇     ◇



「お待たせ、水銀燈」
「……私を待たせるなんて、いい度胸してるじゃない」

水銀燈が待っていた場所へ、伊波が歩み寄る。

伊波が水銀燈へとした約束……。
それは、『応接間の外で話がしたい。話をしてくれれば、佐山達との間を伊波が取り持つ』というもの。
ゼロを倒し、このバトルロワイアルを抜け出すには仲間を持つ事が絶対条件だ。
もはや自分ひとりで脱出するのは不可能だという事は分かっている。
しかし、伊波に謝るつもりなどさらさら無い水銀燈にとって、佐山や新庄等の自分を警戒している人間は厄介だった。

だからこそ、伊波の話に乗る事にした。
伊波が許せば、誰も文句は言えなくなるだろう。

「まぁいいわ、さっさと話の内容を言いなさい」
「……うん」

そういって頷いた伊波が懐から取り出しのは、一丁の拳銃。

S&W M29

背徳の町、ロワナプラ。
その町の荒事も請け負う運び屋ラグーン商会のボス、ダッチの愛銃。
口径のでかいリボルバーの拳銃。
そして先程までは、新庄が持っていた筈の銃だ。

「なっ……貴女」

水銀燈は一歩身を引いて、伊波を睨みつける。
そして左の羽を広げて臨戦態勢をとった。

「最初からこのつもり━━」

しかし、その銃が火を吹く事は無かった。
水銀燈の声を遮るかのように、伊波は銃を放り投げる。
放物線を描いて、銃は水銀燈の右手へと落ちた。


「……何だって言うの?」


訳が分からない。
警戒を残したまま、水銀燈は伊波へ問いかけた。
次の瞬間、伊波は苦しむように胸を押さえ、蹲ってしまった。
体をガタガタと震わせながら、伊波は呟いた。

「っ……その銃で、私を……撃って欲しいの」

「はぁ?」

突然の言葉に、水銀燈は自分の耳を疑う。


「冗談じゃないわ、どうして私がそんな事」
「……あなたのせいだから」
「何ですって?」



「もう我慢出来ないの……まだ、消えてないの」



そう伊波が言った瞬間、辺りの空気が変わるのを感じる。



「駄目なの……まだ消えてない、消えてくれないの。
 声が……声が聞こえるんだよ」



搾り出すように伊波はそう言った。
水銀燈はチリチリとした緊張感が空気を漂い、自分を刺すのを感じる。



「ジャバウォックは、まだ私の中に残ってる……
 憎い……憎いって叫んでるの……」


伊波は頭を振りながら、そう呟いた。


「憎い……憎い、憎い!憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いって!!!」



そして突如人が変わったように、伊波は叫び声を上げる。
その目は水銀燈を睨みつけ、殺意さえ感じる。
水銀燈は思わず後ずさった、その顔には驚きと、若干の恐怖がうつっている。



「私ハ……きっとまた私じゃなくなル……。
 また佐山君を、セツ君を、ヴァッシュさんヲ、ゾロさんを。
 ……そシて小鳥遊君を襲う事になっテしまう」


「ふ、ふざけるんじゃないわよ!貴女さっきはもう大丈夫だって……!」

「そんナノ嫌ダ……もう、あんなノは、嫌ダ……!」

そう言って伊波は、右腕の付け根を押さえながら体をガタガタと振るわせた。

「な……何よそれ」

水銀燈は目を見開く。
そこには、先程の異形の右腕……。
ジャバウォックの右腕が、再生しかけていた。

「早ク……その銃で、私ヲ撃って!!」
「嫌よ!死ぬつもりならさっさと自分で命を絶ちなさい!
 こんな所で私が撃ったら、まるで私が……」

そこまで言って、水銀燈は目を見開いた。

「まさか……最初からそのつもりで!!」
「そうダよ、だって許せないじゃなイ……。
 私は、私ジャ無くなって、もう小鳥遊君ノ側に居る事もできないのに」

伊波は顔を上げて水銀燈を睨みつける、その瞳からは、涙が流れていた。

「あなたハ……私ニ謝る事も無く。
 皆ト一緒に、ここから助かろウとしている」
「くっ……!ふざけるなっ!」

水銀燈は動きを止めるべく、羽を広げて飛ばした。
束縛するかのように、伊波の体へと羽が纏わり付く。

「もシ私を撃ってくれないト言うのなら……」

何事も無いかのように立ち上がり、伊波は水銀燈の方へと足を向ける。




「来るな……来るんじゃないわよ!!」



叫びながら、水銀燈はまた一歩後ろへと下がる。
瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
感じるのは……純粋な恐怖という感情。



「我ハ……オ前ヲ殺ス!!!」




そう叫んで、伊波は地を蹴った。
……それは、幻だったのかもしれない。
だがしかし、水銀燈の瞳には確かに写ったのだ。
2メートルを超える身長、髪の毛は逆立ち、目からは特徴的な放射状の線が顔に伸び、
口は禍々しく開き、中はサメのような歯がずらりと並んでいる……。
そう……一言で表すのならば、それは『鬼』。

魔獣ジャバウォックの姿を。




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声と共に、1つの銃声が辺りへと響いた。







     ◇    ◇    ◇


必死に駆けて、伊波達を探していたヴァッシュの耳に、叫び声が届く。
聞くものが戦慄を覚えるほどの恐怖が乗ったその声を頼りに、ヴァッシュは居館の影から飛び出した。
それとほぼ同時、乾いた音が耳に入り、ヴァッシュは目を見開いた。

水銀燈は後ろへと吹き飛び、尻餅をつく。
そして伊波は、糸が切れた人形のように空を泳ぎ、地面へと叩きつけられた。

「マ……マヒルっ!?」

ヴァッシュは全力で駆け、伊波の下へと駆け寄った。
伊波は全身をガクガクと痙攣させながら、口から血を吹いた。
胸には大きな穴があき、そこから血が吹き出るかのように流れ出ている。
ヴァッシュは必死にその穴を手で塞ぐが、指の間から血液が逃げるように流れ出ていく。

「かはっ……あっ……」
「マヒル、しっかりするんだ!」

伊波は口から血を大量に吐き、ヴァッシュは必死に叫んだ。

「あ……あぁ……」

そしてヴァッシュの耳に、怯えを含んだ声が届く。

「水銀燈……どうして━━」

水銀燈をみたヴァッシュは言葉を失った。
目を見開き、その二つの瞳からは涙が止め処なく溢れている。
全身は震え、顔は恐怖で歪み、口から漏れる声も心もとない。

「わた……ちがっ……ごめ……めぐっ……」

言葉にならない、ぶつ切りな声……。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

再び叫び声を上げると、水銀燈は叫びながら南へ……森へと駆けていく。

「水銀燈!待ってくれ!」

ヴァッシュから逃げるように走り去る水銀燈へ、声を上げるのとほぼ同時。
佐山が居館側から、小鳥遊は礼拝堂方面から駆け寄ってくる。
小鳥遊は手ぶら……荷物へとたどり着く前に、悲鳴と銃声を聞いたのだろう。

「今の音は……?」
「伊波さんっ!今の音は一体……」

目の前の光景に、二人は言葉を失った。

「……伊波さん?……伊波さん!」

小鳥遊は駆け寄ってきて、伊波を抱き上げる。
それと同時に伊波は苦痛に顔を歪め、再び血を吐き出した。
小鳥遊の服が、血に濡れる。

「あぅ……ぐぁ……」
「そんな……嘘だ、嘘だ!誰がこんな事をっ……」

「水銀燈は……どこかね」

小鳥遊の問いに答えるように、佐山はそう呟いた。

「えっ?」
「南に、走っていったよ」

ヴァッシュは伊波の側から立ち上がり、そう答える。

「でも、きっと何か事情がっ!」
「どんな事情があれ、伊波嬢を撃ったのは水銀燈という事だね」

ヴァッシュ言葉を遮るように佐山は問いかける。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ヴァッシュは首を縦に振った。

「そ……そんな」

小鳥遊は、伊波を抱いたままその目を見開いた。

「僕は、彼女を追いかけるよ」
「……それは本気で言っているのかね?」

ヴァッシュを睨みつけながら、佐山は言った。

「水銀燈は泣いていた……怯えていたんだ。
 きっと何か……」
「ヴァッシュ君、真実が必ずしも正しいとは言い切れないよ」

佐山近くに落ちている銃を、三角巾から外した右腕で拾い上げる。

「その真実が、残ったものたちを深く傷つけるかもしれない……。
 それでも、君はいくかね?」

佐山の言葉に、ヴァッシュは頷いて答える。

「そうか……ならばこれを持っていくといい」

佐山が差し出したのは、一切れのメモ用紙。

「先程の三回目の放送、その内容が書かれている」
「えっ……でも」
「私たちの事なら心配する事は無い。
 全て内容は、私の頭に入っているよ」
「……ありがとう」
「10時まで、それまではここに留まろう。
 それを過ぎれば、私たちは君たちを諦める」

ヴァッシュはそれを聞くと、踵を返して南へと駆ける。
水銀燈の姿はもう見えない、しかしまだ遠くには行っていない筈だ。
空は暗い、まもなく太陽の光は完全に絶たれ、世界は月の支配下へと下るだろう。


「水銀燈……君はっ……」


     ◇    ◇    ◇



「伊波さん、死んじゃ駄目だ!
 さっき言ったじゃないですか、一緒に帰ろうって」


伊波傷を左手で抑えながら、小鳥遊は必死に叫ぶ。
しかし、溢れ出す血の勢いは止まらない。
血は小鳥遊が思っているよりもずっと熱く、
それが伊波の命そのものだと思うと、無性に怖かった。

傷口には放射状の線が走り、蠢いている。
ARMSのナノマシンが、宿主の命を繋ごうと必死に動いているのだ。
だたしかし、小鳥遊はそれに気づく事はない。

「佐山君っ!お願いだ、伊波さんを助けてよっ!」

小鳥遊の叫びに、佐山は険しい表情をしたまま首を横に振った。

「そんな……水銀燈……どうしてっ!どうしてだよ!」
「ち……がっ……」

伊波が血を吐きながら、そう呟いた。
両目からはポロポロと涙が溢れ出している。
そして僅かに、首を横に振った。

「伊波さん?」
「ち…………うぅ……」
「血が……?」

伊波の言葉を復唱しようとした瞬間、小鳥遊は異変に気が付いた。
伊波の足先が、指先が、そして体が、灰色になって皹が入ったのだ。

「何だよ、これ」

小鳥遊は目を見開いてそれを見る。
近くの佐山も言葉を失っているようだ。
そして伊波は、砂のように崩れ去っていく。

「伊波さん!駄目だ!
 ほら……殴ってくださいよ、こんなにも近くに居るじゃないですか。
 ……伊波さん、伊波さん!」

伊波は何かを訴えようと口を数度ひくつかせる。
そしてそれを最後に、全身の力が抜けるのを感じた。
手が、足が、体が……そして頭が。
砂になり、風にとび、その形を失っていく。

「あ……あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

頭を乗せていた右手を、暖かい砂が零れ落ちていく。
小鳥遊はそれを止めようと、必死に伊波を抱き寄せた。
しかし、体が崩れていく伊波を留めるすべは、もう残されていない。
その手に残されたのは、1つのヘアピンだけだった……。



夜の古城に小鳥遊の絶叫が響く。
砂にまみれた青年の近くには、二つの物が落ちていた。
月夜を反射し、青鈍色に輝くその形状は、共に○。
1つは伊波まひるの首輪。
そしてもう1つは……



【伊波まひる@WORKING!!  死亡確認】
【残り21人】


    ◇    ◇    ◇

ARMS


人間の能力をより高みへと昇らせる為に生み出されたとされる、
炭素生命体と珪素生命体のハイブリッド生命体。
ナノマシンの集合体であり、ナノマシンを統括する力を持ったコアを、人間に移植する事で誕生する。
コアは頭部か心臓付近に移植され、その移植者の身体能力及び再生能力を向上させる。
……伊波の場合、コアが移植されたのは胸部。
コアを破壊されない限り、宿主の生命が終わらない限り……
腕を切ろうが、足をもぎ取ろうが、そのプログラムが終わる事は無い。


それは勿論、小鳥遊や佐山が知る由も無い事だ。
彼らが伊波を救えなかったことを、誰が責められるというのだろう。
……だがしかし、無知を罪だと人はいう。
もしも、これが罪だというのならば、誰が罰を受け、誰に償えというのだろうか。
それは誰にも分からない、今はまだ……



【B-2 森/1日目 夜】

【水銀燈@ローゼンメイデン】
【状態】:全身に切り傷、左腕欠損(包帯を巻かれている)、右の翼使用不能、全身にダメージ(中) 、恐慌状態
【装備】:強力うちわ「風神」@ドラえもん
【道具】:基本支給品一式
【思考・状況】
基本方針:元の世界へと戻る、手段は選ばない。
0:???

【備考】
※ナナリーの存在は知りません
※会場がループしていると確認。半ば確信しています
※古城内の大広間に『○』型のくぼみがあります。このくぼみに何が当てはまるかは不明です。
※魅音(詩音)、ロベルタの情報をサカキから、鼻の長い男の(ウソップ)の情報を土御門から聞きました。
※気絶していましたがヴァッシュの声は無意識に届いています。



ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]黒髪化、左肩に刺突による傷(再生中) 、脇腹の痛み、全身に打撲
[装備]ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃 6/6 @トライガン・マキシマム
[道具]支給品一式、拡声器@現実、予備弾丸28発分、佐山のメモ(三回目の放送内容について)
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める、今度こそ絶対に。
 1:水銀燈……
 2:10時までに古城へと戻り、佐山達と合流する。
 3:ウルフウッド、リヴィオとの合流。
 4:ウルフウッドがいるかもしれない……?
 ※原作13巻終了後から参加
※サカキ、ロベルタの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。詩音は死んだと思っています。
※口径などから、学校の死体を殺すのに使われたのはロベルタの持っていた銃ではないかと考えています。
※義手の隠し銃には弾が込められていません。弾丸を補給すれば使用可能です。
※伊波、新庄と情報交換をしました。佐山、ブレンヒルト、小鳥遊、高槻、メカポッポ、片目の男(カズマ)の情報を得ました。
※水銀燈の左腕が欠損していることに気づきました。


【A-2 古城跡・庭園/1日目 夜】


小鳥遊宗太@WORKING!!】
[状態]:腹部に痛み、頬に痛み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(一食分の食事を消費)、地下の地図
[思考・状況]
1:???
2:優先順位に従い行動する(注1)
3:佐山と行動する。
4:ゲームに乗るつもりはない。
5:全てが終わった後、蒼星石吉良吉影を弔ってあげたい。
※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。
※過去で新庄の顔を知りました。
※獏の制限により、過去を見る時間は3分と長くなっています。このことに気づきかけています。
※地下鉄を利用するのは危険だと考えています。



佐山・御言@終わりのクロニクル】
[状態]:全身打撲、左腕欠損(リヴィオの左腕)、右腕の骨に皹、全て回復中
[装備]:つけかえ手ぶくろ@ドラえもん(残り使用回数2回)、獏@終わりのクロニクル、治療符@終わりのクロニクル
[道具]:基本支給品一式×5(一食分の食事を消費)、S&W M29 6インチ 5/6@BLACK LAGOON、予備弾丸26/32
     空気クレヨン@ドラえもん 、防災用ヘルメット、 ロープ、防火服、 カッターナイフ、黒色火薬入りの袋、
     ミュウツー細胞の注射器@ポケットモンスターSPECIAL、双眼鏡、医薬品多数、ライター、 起源弾@Fate/Zero(残り28発)、
     クチバの伝説の進化の石(炎、雷、水)@ポケットモンスターSPECIAL、 空気ピストル@ドラえもん、
     メリルのハイスタンダード・デリンジャー(2/2)@トライガン・マキシマム 、排撃貝@ONE PIECE、デリンジャーの残弾20、
     鉄パイプ爆弾×4、治癒符3枚@終わりのクロニクル
[思考・状況]
1:小鳥遊君……
2:優先順位に従い行動する(注1)
3:放送内容を周知する。
4:本気を出す。
5:○の窪みについて検討。
※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。
※小鳥遊が女装させられていた過去を知りました。
※会場内に迷宮がある、という推測を立てています。
※地下空間に隠し部屋がある、と推測を立てています。
※リヴィオの腕を結合したことによって体のバランスが崩れています。
 戦闘時の素早い動きに対して不安があるようです。
※地下鉄を利用するのは危険だと考えています。
※過去で伊波、水銀燈、ゼロの顔を知りました。
※○の窪みに関しては、首輪は1つでいいという仮説を立てています。
ハクオロのデイパックの中身はまだ確認していません。
※第三回目の放送内容は全て暗記済みです。


注1:これからの行動の優先順位(1から高い順)
1、まずは強力な武器を見つけ、ラズロの様な参加者にも対抗可能な状況を作る。
  (戦闘力を持つものとの合流なども含む)
2、ストレイト・クーガーの仲間と合流をする
3、地下鉄内を探索する



※小鳥遊のすぐ近くに
 伊波まひるの首輪、ジャバウォックのコア@ARMSが落ちています。





【A-2 居館一階 応接間/1日目 夜】


新庄・運切@終りのクロニクル】
[状態]:健康、顔に腫れもの、精神的な疲労、全身にダメージ(小)
[装備]:尊秋多学園の制服、運命のスプーン@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:支給品一式(食料一食消費、水1/5消費)、コンテンダー・カスタム@Fate/Zero
     コンテンダーの弾薬箱(スプリングフィールド弾26/30)
[思考・状況 ]
1:伊波達の帰りを待つ。
2:メカポッポを待ってみる。(なかば諦め)
3:佐山と小鳥遊のことを聞いてひとまず安心しつつも変態的な意味での不安が……
4:佐山とここから脱出する
5:ブレンヒルトについてはまだ判断できない。
6:人殺しはしない。
7:概念、どうしてここに
※小鳥遊宗太については、彼の性癖とかは聞いています。家庭環境は聞いていません
※新庄の肉体は5:30〜6:00の間にランダムのタイミングで変化します。
 変化はほぼ一瞬、霧のような物に包まれ、変化を終えます。
 午前では女性から男性へ、午後は男性から女性へ変化します。
※参戦時期は三巻以降です
※カズマを危険人物だと認識しています
※まひるに秘密を話しました。次の変化のときに近くの人に話す必要は…
※ヴァッシュと情報交換をしました。ウルフウッド、リヴィオ、広瀬康一、メイドの女性(ロベルタ)、園崎魅音(詩音)、黒服の男(サカキ)についての情報を得ました。
ベナウィの事は聞かされていません。
※ゾロの声に聞き覚え?
※ゾロと情報を交換しました、どちらかが幾つか間違った情報を持っていることも気づいています
※伊波に銃を持っていかれた事に気が付いていません。


ロロノア・ゾロ@ワンピース】
[状態]疲労(中)、全身にダメージ(大)(止血、消毒、包帯済み)、左腿に銃創(治療済み)、右肩に掠り傷、腹部に裂傷、全て回復中
    ロープにて束縛中
[装備]八千代の刀@WORKING!!、秋水@ワンピース、雪走@ワンピース、治療符@終わりのクロニクル
[道具]支給品一式×2(食料と水一人分消費)、麦わら海賊団の手配書リスト@ワンピース、迷宮探索ボール@ドラえもん、
    不明支給品(1〜3)、一方通行の首輪(血がこびりついている)
[思考・状況]
 0:早く縄を解け!
 1:傷を治す為病院に向かう。
 2:ウソップとルフィの仇打ち
 3:ゲームにはのらないが、襲ってきたら斬る(強い剣士がいるなら戦ってみたい)
 4:ルフィ(死体でも)、チョッパーを探す。橘あすかにも会ってみたい。リーゼントの男、ヴァッシュにも興味
 5:首輪の秘密が気になる。
 6:金ぴか鎧(アーチャー)は次に会ったらただではすまさない。
 7:あの声は何だったんだ?
 8:概念?何だそりゃ?
 ※参戦時期は少なくともエニエスロビー編終了(45巻)以降、スリラーバーグ編(46巻)より前です。
 ※吉良吉影のことを海賊だと思っています
 ※黎明途中までの死亡者と殺害者をポケベルから知りました。
 ※入れ墨の男(ラズロ)が死亡したと考えています
 ※圭一に関しては信用、アーチャーに関しては嫌悪しています。
 ※雪走が健在であったことに疑問を抱いています。
 ※大阪(春日歩)から、危険人物としてクーガー、カズマ、ヴァッシュの情報を教えられました。
 ※新庄・伊波の二人と情報を交換しました、どちらかが幾つか間違った情報を持っていることも
  気づいています。
 ※1回目、2回目の放送の内容を新庄、伊波の二人から聞きました。



※A-2古城跡・主塔2階Dr.くれはの医務室に伊波のデイパック(支給品一式(食料一食消費、水1/5消費)、マジックハンド×2 @WORKING!! )が放置されています。
※A-2古城跡・居館2階客室にカルラの大剣@うたわれるものが放置されています。
※A-2古城跡・庭園に大型レンチ@BACCANOが放置されています。
※A-2古城跡・居館応接間にジャバウォックの右腕があります。
 つけかえ手袋使用時の右腕の性能については、後続の書き手さんにお任せします。



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罪と罰(中編) 水銀燈 ブラック・エンジェルズ
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最終更新:2012年12月05日 02:52